皇帝 こうてい マルクス・アウレリウス が、勝利 しょうり し征服 せいふく した敵 てき 族 ぞく に対 たい して寛恕 かんじょ を示 しめ している(ローマのカピトリーノ美術館 びじゅつかん )
ゆるし とは、願 ねが いをき入 きい れること、許可 きょか すること(許 ゆる し・聴し )、または、罪 つみ ・過失 かしつ ・無礼 ぶれい などをとがめないこと(赦 ゆる し )を意味 いみ する[ 1] 。
心理 しんり 学 がく において許 ゆる し(en:forgiveness )は、当初 とうしょ は不当 ふとう に扱 あつか われたと感 かん じた者 もの が、受 う けた侵害 しんがい についての気持 きも ちと態度 たいど の変化 へんか を経験 けいけん し、憤 いきどお り や復讐 ふくしゅう などの否定 ひてい 的 てき な感情 かんじょう を(それが正当 せいとう 化 か されうるとしても)乗 の り越 こ える、一連 いちれん の意図 いと 的 てき かつ自発 じはつ 的 てき な過程 かてい を意味 いみ する[ 2] [ 3] [ 4] 。ただし、許 ゆる しが否定 ひてい 的 てき 感情 かんじょう から肯定 こうてい 的 てき 態度 たいど への切 き り替 か わり(つまり侵害 しんがい 者 しゃ が良好 りょうこう でいるのを望 のぞ む力 ちから をつけること)をどれだけ含意 がんい するかについては、理論 りろん 家 か の意見 いけん が異 こと なっている[ 5] [ 6] [ 7] 。
許 ゆる しは、大目 おおめ に見 み ること(許 ゆる しが必要 ひつよう な過 よぎ った行為 こうい を見逃 みのが すこと)や、免責 めんせき (侵害 しんがい 者 しゃ に行為 こうい の答 こたえ 責 せめ を着 き せないこと)、忘却 ぼうきゃく (その侵害 しんがい について意識 いしき から取 と り除 のぞ くこと)、恩赦 おんしゃ (裁判官 さいばんかん など社会 しゃかい の代表 だいひょう 者 しゃ により認知 にんち された侵害 しんがい について与 あた えられる)、和解 わかい (関係 かんけい の修復 しゅうふく )、とは異 こと なる[ 5] 。
心理 しんり 学 がく の概念 がいねん そして美徳 びとく としての許 ゆる しの効用 こうよう は、宗教 しゅうきょう 思想 しそう や・社会 しゃかい 科学 かがく ・医学 いがく において探求 たんきゅう されてきた。許 ゆる しは単 たん に、自 みずか らを許 ゆる すことも含 ふく めた許 ゆる す人 ひと の観点 かんてん [ 8] と、許 ゆる される人 ひと の観点 かんてん から、または許 ゆる す人 ひと と許 ゆる される人 ひと との関係 かんけい 性 せい において、考慮 こうりょ されることもある。許 ゆる しは殆んどの場合 ばあい 、修復 しゅうふく 的 てき 司法 しほう の見込 みこ みがなくとも、侵害 しんがい 者 しゃ の側 がわ に応答 おうとう がなくとも与 あた えられる(例 たと えば、連絡 れんらく がつかない人 ひと や死 し んだ人 ひと を許 ゆる すことはできる)。実際 じっさい には不当 ふとう に扱 あつか った人 ひと から許 ゆる されるために、侵害 しんがい 者 しゃ は何 なん らかの自認 じにん や・謝罪 しゃざい を申 もう し出 で たり、正 まさ に許 ゆる しを求 もと めたりすることが必要 ひつよう な場合 ばあい もある[ 5] 。
許 ゆる しの語 かたり は相手 あいて が入 い れ替 か わって用 もち いられうる、そして人 ひと や文化 ぶんか により様々 さまざま に解釈 かいしゃく される。これが人間 にんげん 関係 かんけい のコミュニケーションにおいてとりわけ重要 じゅうよう なのは、許 ゆる しがコミュニケーションの鍵 かぎ となる要素 ようそ であり、個人 こじん ・カップル・グループ全体 ぜんたい としての進歩 しんぽ になるからである。全 すべ ての当事 とうじ 者 しゃ が共 とも に許 ゆる し合 あ うつもりでいれば、関係 かんけい は維持 いじ されうる。 「許 ゆる しの先例 せんれい を把握 はあく し、許 ゆる しの生理 せいり を探究 たんきゅう し、より許 ゆる せるように人々 ひとびと を教育 きょういく することは皆 みな 、我々 われわれ がこの語 かたり について共通 きょうつう の意義 いぎ を持 も つことを示唆 しさ するのである。」[ 9] 。
多 おお くの宗教 しゅうきょう には許 ゆる しに関 かん する教 おし えが含 ふく まれており、これらの教 おし えの多 おお くが許 ゆる しについての多様 たよう な今日 きょう への伝承 でんしょう と実践 じっせん の元 もと になる基礎 きそ を与 あた えている。宗教 しゅうきょう の教義 きょうぎ や哲学 てつがく の学派 がくは には、人 ひと が自 みずか らの欠点 けってん に代 か わるある種 しゅ の神 かみ の許 ゆる しを見出 みいだ す必要 ひつよう 性 せい を重視 じゅうし しているものもあれば、人 ひと が互 たが いの許 ゆる しを実践 じっせん する必要 ひつよう 性 せい を重視 じゅうし しているものもある、またしかし人 ひと 及 およ び神 かみ の許 ゆる しを殆んどあるいは全 まった く区別 くべつ していないものもある。
社会 しゃかい 的 てき ・政治 せいじ 的 てき な規模 きぼ での許 ゆる しには、全 まった く私的 してき かつ宗教 しゅうきょう 的 てき な領域 りょういき での「赦 ゆる し 」が含 ふく まれている。「赦 ゆる し」の概念 がいねん は、政治 せいじ の分野 ぶんや においては例外 れいがい 的 てき だと一般 いっぱん に考 かんが えられている。しかしハンナ・アーレント は、「許 ゆる す力 ちから 」が公的 こうてき な問題 もんだい において意義 いぎ を持 も つと考 かんが えている。哲学 てつがく 者 しゃ の彼女 かのじょ は、人 ひと が取 と り返 かえ しのつかぬ事 こと に直面 ちょくめん しても、許 ゆる しによって個人 こじん 的 てき そして集団 しゅうだん 的 てき な対処 たいしょ 能力 のうりょく が発揮 はっき されると信 しん じている[ 10] 。
社会 しゃかい 学者 がくしゃ の Benoît Guillou は、1994年 ねん の民族 みんぞく 虐殺 ぎゃくさつ 後 ご のルワンダでなされた許 ゆる しの対話 たいわ とその実践 じっせん についての調査 ちょうさ で、「ゆるし」の語 かたり が極 きわ めて多義 たぎ 的 てき であり、またこの概念 がいねん が著 いちじる しく政治 せいじ 的 てき な性格 せいかく を持 も つことを例示 れいじ した。その著作 ちょさく の結論 けつろん として彼 かれ は、一方 いっぽう では曖昧 あいまい に語 かたり が用 もち いられるのを、他方 たほう では許 ゆる しを介 かい して社会 しゃかい 的 てき な絆 きずな が修復 しゅうふく される条件 じょうけん を、より良 よ く理解 りかい するために、許 ゆる しの4つの類型 るいけい を提示 ていじ している[ 11] 。
哲学 てつがく 者 しゃ ウラジミール・ジャンケレヴィッチ は、ホロコースト などのナチス・ドイツ によるユダヤ人 じん への犯罪 はんざい について、人間 にんげん の限界 げんかい を超 こ えた場合 ばあい は赦 ゆる しの対象 たいしょう とならず、犯罪 はんざい としての時効 じこう もないと主張 しゅちょう した[ 12] 。
哲学 てつがく 者 しゃ ジャック・デリダ は、赦 ゆる せるものを赦 ゆる すことは人々 ひとびと ができることであるとジャンケレヴィッチに異議 いぎ を唱 とな えた[ 13] 。ただし、これは本当 ほんとう の赦 ゆる しではなく、本当 ほんとう の赦 ゆる しとは、無条件 むじょうけん の赦 ゆる しであり、これは不可能 ふかのう であるが、赦 ゆる しが求 もと めるのはまさに不可能 ふかのう なことを行 おこな うことであると主張 しゅちょう した[ 13] 。またデリダは、北京 ぺきん 大学 だいがく での講演 こうえん の際 さい 、日本 にっぽん と中国 ちゅうごく の歴史 れきし 認識 にんしき 問題 もんだい は、死 し んだ犠牲 ぎせい 者 しゃ にしか赦 ゆる せるかどうかを決 き める権利 けんり はないので、赦 ゆる しの問題 もんだい ではないと語 かた った[ 14] 。日本 にっぽん が謝罪 しゃざい した後 のち は和解 わかい すべきかという質問 しつもん に対 たい しては、それは外交 がいこう と政治 せいじ の問題 もんだい であり、条件 じょうけん つきの赦 ゆる しの問題 もんだい であり、純粋 じゅんすい な赦 ゆる しの問題 もんだい ではなく、日本 にっぽん と中国 ちゅうごく の国民 こくみん と政府 せいふ が決 き めることであると語 かた った[ 14] 。
犯罪 はんざい における加害 かがい 者 しゃ と被害 ひがい 者 しゃ が、犯罪 はんざい による害 がい から修復 しゅうふく していく方法 ほうほう を、修復 しゅうふく 的 てき 司法 しほう と呼 よ ぶ。加害 かがい 者 しゃ と被害 ひがい 者 しゃ がともに正義 まさよし を実感 じっかん できるか、被害 ひがい 者 しゃ ・加害 かがい 者 しゃ 間 あいだ の関係 かんけい を念頭 ねんとう に置 お いているか、将来 しょうらい に向 む けた取 と り組 く みが行 おこな われていることなどが鍵 かぎ となる[ 15]
また、特定 とくてい の文脈 ぶんみゃく において forgiveness は、債務 さいむ ・ローン ・義務 ぎむ によるあらゆる請求 せいきゅう やその他 た の請求 せいきゅう を免除 めんじょ または放棄 ほうき するための、法律 ほうりつ 用語 ようご となる[ 16] [ 17] 。
^ [1] goo辞書 じしょ :デジタル大辞泉 だいじせん (小学館 しょうがくかん )
^ Doka, Kenneth (2017). Grief is a journey . Atria Books. pp. 14–16. ISBN 978-1476771519
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