IT-1

IT-1駆逐くちく戦車せんしゃ
	IT-1
性能せいのう諸しょ元もと
全長ぜんちょう	6.63 m
全幅ぜんぷく	3.33 m
全ぜん高こう	2.20 m
重量じゅうりょう	35 t
懸架けんか方式ほうしき	トーションバー式しき
速度そくど	50 km/h
行動こうどう距離きょり	550 km
主砲しゅほう	3M7ドラコーン対戦たいせん車しゃミサイル
副ふく武装ぶそう	PKT 7.62 mm 機関きかん銃じゅう
装甲そうこう	砲塔ほうとう前面ぜんめん最さい厚あつ部ぶ206 mm; 車体しゃたい前面ぜんめん100 mm
エンジン	V-55; V型がた12気筒きとう水冷すいれいディーゼル; 580 馬力ばりき (463 kW)
乗員じょういん	3 名めい
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IT-1（ロシア語ご: ИТ-1 イーテー・アヂーン）は、ソビエト連邦れんぽう軍ぐんの対戦たいせん車しゃミサイルを主おも武装ぶそうとする駆逐くちく戦車せんしゃである。

ロシア語ごでは誘導ゆうどう式しきのミサイルでも「ロケット」と呼よぶため、「ロケット戦車せんしゃ (ラケータヌイタンク)」とも呼よばれる。

概要がいよう[編集へんしゅう]

1960年代ねんだい、誘導ゆうどう式しきのロケット兵器へいき（ミサイル）の発達はったつに従したがい、西側にしがわ諸国しょこくでは対戦たいせん車しゃミサイルを搭載とうさいした戦車せんしゃ駆逐くちく車しゃや、戦車せんしゃの主砲しゅほうからミサイルを発射はっしゃできるガンランチャーシステムが開発かいはつされたが、ソビエト連邦れんぽうでも同様どうようの兵器へいきの開発かいはつが行おこなわれていた。

ガンランチャーシステムを用もちいた主砲しゅほうを装備そうびする砲塔ほうとうを持もつ車両しゃりょうが開発かいはつされる一方いっぽう、T-54/55などの戦車せんしゃを用もちいた実験じっけんでは、砲塔ほうとう後部こうぶにラックを設もうけてロケット（ミサイル）ランチャーを外部がいぶ装備そうびする試験しけんが行おこなわれていたが、より本格ほんかく的てきなロケット搭載とうさい戦車せんしゃであるIT-1は、専用せんように開発かいはつされた3M7ドラコーン対戦たいせん車しゃロケットを主おも兵へい装そうとし、専用せんようの砲塔ほうとうに隠匿いんとく式しきに搭載とうさいした本格ほんかく的てきな駆逐くちく戦車せんしゃである。

開発かいはつ・配備はいび[編集へんしゅう]

IT-1を誕生たんじょうさせた「既存きそんの主力しゅりょく戦車せんしゃの発展はってん型がたとして、誘導ゆうどう装置そうち付つきロケットの発射はっしゃ装置そうちを搭載とうさいした本格ほんかく的てきな戦闘せんとう車両しゃりょうを開発かいはつする」計画けいかくは1957年ねんより始はじまっており、当初とうしょは第だい183工場こうじょうによりT-54/55戦車せんしゃの車体しゃたいを用もちいたものとして進すすめられたが、同年どうねんにはT-55の発展はってん型がたである後継こうけい車輌しゃりょうの試作しさく車しゃ（オブイェークト165）が完成かんせいし、実用じつよう化かの目処めどが立たったため、翌よく1958年ねんにはオブイェークト165（後ごのT-62）と同様どうようの車体しゃたいを用もちいるものとして修正しゅうせいされた。

Объект 150（オブイェークト150）の名称めいしょうが与あたえられた車両しゃりょうの開発かいはつは順調じゅんちょうに進すすみ、1964年ねん 4月がつには2種類しゅるいの試作しさく車しゃが完成かんせいして各種かくしゅテストが開始かいしされた。1964年ねんの末すえまでに94回かいの3M7の試射ししゃが行おこなわれている。テストの経過けいかは軍ぐんを大おおいに満足まんぞくさせるもので、1965年ねん、ИТ-1（IT-1）の制式せいしき名称めいしょうが与あたえられて生産せいさんが開始かいしされた。

実戦じっせん部隊ぶたいとしては「ロケット戦車せんしゃ大隊だいたい」としてベラルーシ（白はくロシア）に二に個こ大隊だいたいが編成へんせいされたが、部隊ぶたい配備はいびされて実際じっさいに運用うんようが開始かいしされると、3M7ドラコーンは大おおきく重おもすぎる点てんで不評ふひょうであり、小型こがた、軽量けいりょうで手軽てがるな9M14マリュートカ（AT-3サガー）が大量たいりょうに配備はいびされたこともあって戦車せんしゃを流用りゅうようした専用せんようの車両しゃりょうを装備そうびすることの存在そんざい意義いぎが失うしなわれ、生産せいさん数すうは1968年ねんから1970年ねんまでの間あいだに約やく60輌りょうに留とまり、それ以上いじょうの生産せいさんは行おこなわれなかった。エンジンをGTD-1000ガスタービンエンジン（出力しゅつりょく 1,100馬力ばりき）に換かわ装そうしたIT-1Tも開発かいはつされたが、試作しさくのみに終おわっている。配備はいびされた車両しゃりょうも生産せいさん完了かんりょう後ご程ほどなく部隊ぶたいから引ひき揚あげられ、編成へんせいされた二に個このロケット戦車せんしゃ大隊だいたいも解散かいさんした。

引ひき揚あげられたIT-1は武装ぶそうを撤去てっきょされ多おおくが装甲そうこう回収かいしゅう車しゃIT-1-T（IT-T）に改造かいぞうされたが、これは回収かいしゅう車両しゃりょうとしては能力のうりょく不足ふそくで、砲塔ほうとうも完全かんぜんに撤去てっきょした仕様しようのBTS-4V回収かいしゅう車しゃに再さい改修かいしゅうされ、T-62を装備そうびする戦車せんしゃ部隊ぶたいなどで使用しようされた。

装甲そうこう回収かいしゅう車しゃに改造かいぞうされなかった1輌りょうのIT-1が、クビンカ戦車せんしゃ博物館はくぶつかんに現存げんそんしている。

特徴とくちょう[編集へんしゅう]

IT-1の最大さいだいの特徴とくちょうは、密閉みっぺい式しきの旋回せんかい砲塔ほうとうに収納しゅうのう式しきのミサイルランチャーを搭載とうさいした点てんである。そのため、外見がいけんは原型げんけいとなったT-62から主砲しゅほうだけを撤去てっきょしたような特異とくいなものとなり、ミサイルを射撃しゃげき姿勢しせいに展開てんかいしなければ何なにの為ための車両しゃりょうなのか判別はんべつし辛つらい、独特どくとくのスタイルとなった。

砲塔ほうとうは通常つうじょうの戦車せんしゃと同おなじく電動でんどう、または手動しゅどうでの旋回せんかいが可能かのうである。搭載とうさいする対戦たいせん車しゃロケット（ミサイル）は自動じどう装填そうてん式しきで、砲塔ほうとう内ないで装填そうてん後ごに砲塔ほうとう上じょうのハッチから発射はっしゃアームがせり出だして跳はね上あがるように展開てんかいし、射撃しゃげき体勢たいせいに入はいる。ミサイルの予備よび弾だんは15発はつが搭載とうさいされている。照準しょうじゅん装置そうちには安定あんてい装置そうちが装備そうびされ、赤外線せきがいせん暗視装置あんしそうちにより夜間やかん戦闘せんとうも可能かのうであった。

3M7ドラコーン対戦たいせん車しゃミサイルは無線むせんを用もちいたSACLOS（半はん自動じどう指令しれい照準しょうじゅん線せん一致いっち式しき）方式ほうしきの誘導ゆうどう装置そうちによって目標もくひょうに飛翔ひしょうする。最大さいだい射程しゃていは3,300メートルで、記録きろく映像えいぞうでは第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん中なかに捕獲ほかくしたドイツ軍ぐんのIII号ごう戦車せんしゃを標的ひょうてきに射撃しゃげき実験じっけんを行おこない、撃破げきはする様子ようすが観みられる。試験しけんでは実じつに96.7 %という高たかい命中めいちゅう率りつを記録きろくしたという。

主おも兵へい装そうであるミサイル発射はっしゃ装置そうちの他ほかに、砲塔ほうとう前面ぜんめん左側ひだりがわにはPKT 7.62 mm 機関きかん銃じゅうが副ふく武装ぶそうとして装備そうびされ、弾薬だんやく2,000発はつを搭載とうさいした。

IT-1は当時とうじの主力しゅりょく戦車せんしゃであったT-62から車体しゃたいを流用りゅうようしているため、同どう時期じきの西側にしがわミサイル搭載とうさい型がた戦車せんしゃ駆逐くちく車しゃやソ連それんの装そう輪わ式しきミサイル搭載とうさい装甲車そうこうしゃなどに比くらべて非常ひじょうに装甲そうこうが厚あつく、平ひらたい形状けいじょうの砲塔ほうとうは避弾経けい始はじめも良好りょうこうで防御ぼうぎょ力りょくが高たかかった。T-62と同様どうようシュノーケル装置そうちを用もちいた潜水せんすい渡渉としょう能力のうりょくも有ゆうしている。

ギャラリー[編集へんしゅう]

砲塔ほうとう上面うわつら　前方ぜんぽうより
砲塔ほうとう上面うわつら　後方こうほうより
機関きかん室しつ後ご面めん
中央ちゅうおうに見みえる筒つつは収納しゅうのう状態じょうたいのシュノーケル装置そうち
クビンカ戦車せんしゃ博物館はくぶつかんに保存ほぞん・展示てんじされているIT-1

その後ご[編集へんしゅう]

ソビエト軍ぐんではIT-1の他ほかに9M15 Taifun（タイフーン）対たい戦車せんしゃミサイルを装備そうびした「Объект 287（オブイェークト287）」、ガンランチャー式しきの主砲しゅほうを装備そうびする「Объект 757（オブイェークト757）」、「Объект 775（オブイェークト775）」といった各種かくしゅの“ロケット戦車せんしゃ”を開発かいはつ・試作しさくしたが、いずれも試作しさくの段階だんかいに留とどまっており、量産りょうさんされ実戦じっせん部隊ぶたいに配備はいびされた車両しゃりょうはIT-1のみである。

これは、歩兵ほへいが携行けいこうする、もしくは軽けい車両しゃりょうに搭載とうさいして運用うんようできる軽便けいべんな対戦たいせん車しゃミサイルが発達はったつすると、装甲そうこう防御ぼうぎょ力りょくで優まさっているとはいえ大型おおがた・大だい重量じゅうりょうの戦車せんしゃ車体しゃたいに構造こうぞうの複雑ふくざつな発射はっしゃ装置そうちを搭載とうさいした対戦たいせん車しゃ車両しゃりょうを運用うんようする利点りてんが低下ていかしたためで、T-64やT-80に搭載とうさいされる125 mm 滑すべり腔砲より発射はっしゃする9K112、9M119といったガンランチャー式しきの対戦たいせん車しゃミサイルに発展はってんした一方いっぽうで、IT-1の退役たいえき以後いごは“ロケット戦車せんしゃ”がソビエト／ロシア軍ぐんの戦闘せんとう兵器へいきとして用もちいられることはなかった。