ら行ぎょう

ら行ぎょう（らぎょう）とは、日本語にほんごの五十音ごじゅうおん図ずにおける9番目ばんめの行くだりである^[1]。仮名かめい「ら」「り」「る」「れ」「ろ」が含ふくまれる。どの仮名かめいも子音しいんと母音ぼいんから成なる音節おんせつまたはモーラを表あらわす。

発音はつおん

ら行ぎょう・りゃ行くだりの音おとの頭あたま子音しいんはいずれも有声音ゆうせいおんであり、清音せいおん・濁音だくおんの区別くべつは存在そんざいしない。ら行ぎょう音おんの頭あたま子音しいんの音素おんそ（通常つうじょう /r/ と書かかれる）は、聴覚ちょうかく印象いんしょうにより流ながれ音おんに分類ぶんるいされることがある。頭あたま子音しいんの音声おんせい学がく上じょうの実際じっさいの発音はつおんは、「り」を除のぞく「ら」行ぎょう音おんの場合ばあいは一般いっぱん的てきに、語頭ごとうや撥音はつおん（ん）の後のちでは歯茎はぐき側面そくめんはじき音おん [ɺ] 、そり舌した側面そくめん接近せっきん音おん [ɭ] または有ゆう声ごえそり舌した破裂はれつ音おん [ɖ] に発音はつおんされ、撥音はつおん（ん）の後のちを除のぞく語かたり中ちゅう・語尾ごびでは歯茎はぐきはじき音おん [ɾ] またはそり舌したはじき音おん [ɽ] に発音はつおんされる。

「り」の場合ばあいは、他たの「ら」行ぎょう音おんに比較ひかくして頭あたま子音しいんが硬かた口蓋こうがい化かするため、語頭ごとうや撥音はつおん（ん）の後のちでは歯茎はぐき硬かた口蓋こうがい側面そくめんはじき音おん [ɺ̻̠ʲ] 、硬かた口蓋こうがい側面そくめん接近せっきん音おん [ʎ] または有ゆう声こえ硬かた口蓋こうがい破裂はれつ音おん [ɟ] に発音はつおんされ、撥音はつおん（ん）の後のちを除のぞく語かたり中ちゅう・語尾ごびでは歯茎はぐき硬かた口蓋こうがいはじき音おん [ɾ̻̠ʲ] または硬かた口蓋こうがいはじき音おん [ɟ̆] に発音はつおんされる。

ら行ぎょうのロろーマ字まじ表記ひょうきは日本にっぽん式しき・ヘボン式しきともに ra ri ru re roである。

拗音ようおん

「り」を第だい1字じとする開ひらき拗音ようおんは「りゃ」「りゅ」「りょ」である。りゃ行くだりの頭あたま子音しいんの音素おんそは「り」と同おなじであり、語頭ごとうや撥音はつおん（ん）の後のちでは歯茎はぐき硬かた口蓋こうがい側面そくめんはじき音おん [ɺ̻̠ʲ] 、硬かた口蓋こうがい側面そくめん接近せっきん音おん [ʎ] または有ゆう声こえ硬かた口蓋こうがい破裂はれつ音おん [ɟ] で発音はつおんされ、それ以外いがいでは歯茎はぐき硬かた口蓋こうがいはじき音おん [ɾ̻̠ʲ] または硬かた口蓋こうがいはじき音おん [ɟ̆] となる。

りゃ行くだりのロろーマ字まじ表記ひょうきは日本にっぽん式しき・ヘボン式しきともに rya ryu ryo である。

ら行ぎょう始はじまり

もともと日本語にほんごには「ら行ぎょう」で始はじまる単語たんごがほとんど無なかったと考かんがえられ、時代じだいを経へるに連つれアイヌ語ごや「/r/音おと」始はじまりが比較的ひかくてき多おおい漢語かんご（中国ちゅうごく語ご）を始はじめとする外国がいこく語ごから「ら行ぎょう」に繋つながる音素おんそをもつ語かたりが流入りゅうにゅうし続つづけることで「ら行ぎょう」の語かたりが増ふえていったとみられるが、それでも未いまだに少すくない。

日本語にほんごにおいて「ら行ぎょう」音おとで始はじまる単語たんごは、ほぼ全すべてが以下いかのいずれかに該当がいとうする。

「られる」「らしい」などの付属ふぞく語ご。
「りーん^{[要よう出典しゅってん]}」や、気分きぶんが浮うき立たっている時ときの鼻歌はなうたを表あらわす「るんるん^{[注ちゅう 1]}」など、少数しょうすうの擬音ぎおん語ご。
アイヌ語ごと漢語かんごを始はじめとする外国がいこく語ごに由来ゆらいする語かたり。
るつぼ

アイヌ語ご由来ゆらいについては、北海道ほっかいどうの地名ちめいに少すくなからず見出みいだすことができ、北海道庁ほっかいどうちょうのアイヌ政策せいさく推進すいしん局きょくアイヌ政策せいさく課か (OAMP) がリストを公表こうひょうしている^[2]。このリストに挙あがっている地名ちめいは、「ラ」音おとが「ラウス（羅臼らうす）」「ラッコ（楽らく古いにしえ。※動物どうぶつ名めい rakko に由来ゆらいする同根どうこん語ご^[3]）」「ランコシ（蘭越らんこし）」など10例れい^[3]、「リ」音おとは「リクベツ（陸別りくべつ）」「リシリ（利尻りしり）」など8例れい^[3]、「ル」音おとは「ルスツ（留寿都るすつ）」「ルベシベ（留辺蘂るべしべ）」「ルモイ（留萌るもい）」など8例れい^[4]、「レ」音おとは「レブン（礼文れぶん）」など6例れい^[4]、「ロ」音おとは「ロクシナイ（六ろく志こころざし内ない）」など3例れい^[4]で、合計ごうけい35例れいである。なお、東北とうほく地方ちほうを主しゅとして本州ほんしゅうにもアイヌ語ご由来ゆらいの地名ちめいが多おおく見みられるものの、「ら行ぎょう」始はじまりを確認かくにんすることは難むずかしい^{[注ちゅう 2]}。地名ちめいのほかにも、"rakko" 由来ゆらいの「ラッコ」^[3]がアイヌ語ご由来ゆらいであることは広ひろく知しられている。「ルイベ」にはロシア語ご起源きげん説せつと定説ていせつとも言いえるアイヌ語ご起源きげん説せつがあるが、後者こうしゃはアイヌ語ご "ru-ipe（ルイペ/ルイベ）"［ ain: ru-ipe（融とける魚さかな）＜ ru（融とける）+ ipe（魚さかな）］に語源ごげんを求もとめている^[5]。
以上いじょう、各種かくしゅ資料しりょうで見みる限かぎり、ここで挙あげた地名ちめいのほかには「ラッコ」だけが確定かくてい的てきなアイヌ語ご由来ゆらい語ごであり、ほかには、可能かのう性せいの非常ひじょうに高たかいものとして「ルイベ」があるのみということである。

即すなわち付属ふぞく語ご・擬音ぎおん語ご以外いがいの和語わごで「ら行ぎょう」音おとで始はじまるものは、殆ほとんど存在そんざいしない。これは、確認かくにんし得える最もっとも古ふるい日本語にほんご（上古じょうこ日本語にほんご）の時代じだいからの極きわめて古ふるい特徴とくちょうである。また、朝鮮ちょうせん語ごやアルタイ諸語しょご（トルコ語ご・モンゴル語ご・満州まんしゅう語ごなど）に共通きょうつうする特徴とくちょうでもあり、これを一種いっしゅの地域ちいき特徴とくちょうとして捉とらえたり、言語げんごの系統けいとう論ろんに関連かんれんづけようとする試こころみもある。

「ら行ぎょう」で始はじまる和語わごの数少かずすくない例外れいがいかも知しれないものに、サメ（鮫さめ）の一種いっしゅの名称めいしょう「ラブカ（羅ら鱶ふか）」があるが、この語かたりは明治めいじ時代じだい以前いぜんには見みられない語かたりであり^{[要よう出典しゅってん]}、和語わごと外国がいこく語ごのいずれに由来ゆらいがあったとしても経歴けいれき的てきに異色いしょくである。皮膚ひふが滑なめらかで肌触はだざわりが毛織物けおりもののラシャに似にていることからそのように呼よばれ始はじめたとする説せつ^[6]が有力ゆうりょくではあるが、「鰓えら（えら）の目立めだつ、フカ（鱶ふか。大型おおがたサメ類るいの俗称ぞくしょう）」を意いする「エラブカ」から語頭ごとう音おんが落おちたものとする異説いせつもある^{[要よう出典しゅってん]}。
ラシャブカ説せつの語かたり構成こうせい［ ja: ラブカ（羅ら鱶ふか。生物せいぶつの和名わみょうの一ひとつ）＜ラシャブカ（含意がんい：羅紗らしゃのような肌触はだざわりの鱶ふか）＜ラシャ（羅紗らしゃ。ポルトガル産さんの毛織物けおりもの^[7]。＜ pt: raxa｛ラサの、ラサ産さんの｝）+ フカ（鱶ふか｛大型おおがたサメ類るいの俗称ぞくしょう^[8] ｝）］^[6]

エラブカ説せつ^{[要よう出典しゅってん]}の語かたり構成こうせい［ ja: 羅ら鱶ふか（当あて字じ）＜ラブカ（生物せいぶつの和名わみょうの一ひとつ）＜エラブカ（含意がんい：鰓えらの目立めだつ鱶ふか）＜エラ（鰓えら）+ フカ（鱶ふか）］

ら行ぎょうの元号げんごう

「ら行ぎょう」で始はじまる日本にっぽんの元号げんごうは「霊れい亀かめ」「暦こよみ仁ひとし」「暦こよみ応おう」「令れい和わ」の4例れいしかなく、非常ひじょうに珍めずらしいものとなっている。2019年ねん（平成へいせい31年ねん）5月1日にちに行おこなわれた改元かいげんでは新しん元号げんごうが「令れい和わ」になったが、これは「暦こよみ応おう」以来いらい680年ねんぶりの「ら行ぎょう」始はじまりの元号げんごうであった。

音声おんせい学がく的てき分類ぶんるい

発音はつおん表ひょう
母音ぼいん	/a/	/i/	/u/	/e/	/o/
ら行ぎょう	ラ /ɾa/	/ɾi/	ル /ɾu/	レ /ɾe/	ロ /ɾo/
りゃ行こう	リャ /ɾʲa/	リ /ɾʲi/	リュ /ɾʲu/	/ɾʲe/	リョ /ɾʲo/

語頭ごとうや撥音はつおんの後のちかそれ以外いがいかで、発音はつおんの表記ひょうきが大おおきく異ことなる。いずれも有声音ゆうせいおんであり、清音せいおん・濁音だくおんの区別くべつが存在そんざいしない。

脚注きゃくちゅう

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

注釈ちゅうしゃく

^ 字引じびき：“るんるん”. コトバンク. 2020年ねん4月がつ12日にち閲覧えつらん。
^ 青森あおもり県けん八戸はちのへ市しにある「ルイケ（類家るいけ）」（江戸えど時代じだいにおける陸奥みちのく国こく三戸さんのへ郡ぐん類家るいけ村むら、幕まく藩はん体制たいせい下したの奥州おうしゅう八戸はちのへ藩はん知行ちぎょう類家るいけ村むら）を挙あげる資料しりょうもあるが、典拠てんきょ不明ふめいである。

出典しゅってん

^ 小学館しょうがくかん『デジタル大辞泉だいじせん』、小学しょうがく館かん『精選せいせん版ばん日本にっぽん国語こくご大だい辞典じてん』. “ら行ぎょう”. コトバンク. 2020年ねん4月がつ12日にち閲覧えつらん。
^ 北海道庁ほっかいどうちょうアイヌ政策せいさく推進すいしん局きょくアイヌ政策せいさく課か (OAMP) (2018年ねん4月がつ4日にち更新こうしん). “アイヌ語ご地名ちめいリスト”. 公式こうしきウェブサイト. 北海道ほっかいどう. 2020年ねん4月がつ12日にち閲覧えつらん。
^ ^a ^b ^c ^d 北海道庁ほっかいどうちょうアイヌ政策せいさく推進すいしん局きょくアイヌ政策せいさく課か (OAMP) (2018年ねん4月がつ4日にち更新こうしん). “モク～リ - アイヌ語ご地名ちめいリスト” (PDF). 公式こうしきウェブサイト. 北海道ほっかいどう. 2020年ねん4月がつ12日にち閲覧えつらん。
^ ^a ^b ^c 北海道庁ほっかいどうちょうアイヌ政策せいさく推進すいしん局きょくアイヌ政策せいさく課か (OAMP) (2018年ねん4月がつ4日にち更新こうしん). “ル～ワ - アイヌ語ご地名ちめいリスト” (PDF). 公式こうしきウェブサイト. 北海道ほっかいどう. 2020年ねん4月がつ12日にち閲覧えつらん。
^ 更科さらしな源蔵げんぞう・更科さらしな光ひかり 1976, pp. 447–448.
^ ^a ^b 日立ひたちデジタル平凡社へいぼんしゃ『世界せかい大だい百科ひゃっか事典じてん』第だい2版はん. “羅ら鱶ふか”. コトバンク. 2020年ねん4月がつ12日にち閲覧えつらん。
^ 『ブリタニカ国際こくさい大だい百科ひゃっか事典じてん小しょう項目こうもく事典じてん』. “ラシャ”. コトバンク. 2020年ねん4月がつ12日にち閲覧えつらん。
^ “鱶ふか”. コトバンク. 2020年ねん4月がつ11日にち閲覧えつらん。

参考さんこう文献ぶんけん

更科さらしな源蔵げんぞう、更科さらしな光ひかり『コタン生物せいぶつ記き〈2〉野獣やじゅう・海獣かいじゅう・魚族ぎょぞく篇へん』法政大学ほうせいだいがく出版しゅっぱん局きょく、1976年ねん。ASIN B000J9WHHQ。
- 更科さらしな源蔵げんぞう、更科さらしな光ひかり『コタン生物せいぶつ記き〈2〉野獣やじゅう・海獣かいじゅう・魚族ぎょぞく篇へん』（新装しんそう版ばん）法政大学ほうせいだいがく出版しゅっぱん局きょく〈教養きょうよう選書せんしょ 78〉、1992年ねん7月がつ。 ISBN 4-588-05078-8、ISBN 978-4-588-05078-7。