サイボーグ

サイボーグ（cyborg）は、サイバネティック・オーガニズム（Cybernetic Organism）の略りゃくで、広義こうぎの意味いみでは生命せいめい体たい（organ）と自動じどう制御せいぎょ系けいの技術ぎじゅつ（cybernetic。サイバネティックス）を融合ゆうごうさせたものを指さす。具体ぐたい例れいとして、人工じんこう臓器ぞうきなどの人工じんこう物ぶつを身体しんたいに埋うめ込こむなど、身体しんたいの機能きのうを電子でんし機器ききをはじめとした人工じんこう物ぶつに代替だいたいさせたものがある。日本にっぽんでは石ノ森いしのもり章太郎しょうたろうの漫画まんが『サイボーグ009』の出版しゅっぱん以降いこう、一般いっぱんに知しられるようになったため、人間にんげんや動物どうぶつが身体しんたい機能きのうを補助ほじょ、強化きょうかされた場合ばあいを言いうことが多おおい。

概要がいよう[編集へんしゅう]

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくの医学いがく者しゃ、マンフレッド・クラインズ（英語えいご版ばん）とネイザン・S・クライン（英語えいご版ばん）らが1960年ねんに提唱ていしょうした概念がいねん^[1]。当初とうしょは人類じんるいの宇宙うちゅう進出しんしゅつと結むすび付つけて考案こうあんされたものである。また、この提唱ていしょうよりも前まえにSF小説しょうせつでこのアイディアは使用しようされていた。

小説しょうせつや映画えいがでは、人間にんげんの姿すがた形がたによく似にせた「ヒト型かたロボット」であるヒューマノイド（男性だんせい形がた：アンドロイド、女性じょせい形がた：ガイノイド）との区別くべつが曖昧あいまいであったり、混同こんどうされている場合ばあいが多おおい。例れいとして映画えいが『ロボコップ』の主人公しゅじんこう「ロボコップ」は人間にんげんをベースに改造かいぞうしたため、アンドロイドではなくサイボーグである。逆ぎゃくに、映画えいが『ターミネーター』に登場とうじょうする「ターミネーター」は、生体せいたい部品ぶひんとして人間にんげんの皮膚ひふ組織そしきを持もつ機種きしゅもあるが、元もととなるのは強化きょうか金属きんぞく製せいのロボットであり、またそのロボットの骨組ほねぐみの上うえに人間にんげんの皮膚ひふ等とうの生体せいたい組織そしきを移植いしょくしたものであるため、サイボーグではなくアンドロイドに分類ぶんるいされる。

現実げんじつのサイボーグ[編集へんしゅう]

「人間にんげん強化きょうか」も参照さんしょう

現在げんざい、サイボーグ技術ぎじゅつと呼よぶことができて、程度ていどの差さこそあれ実用じつよう化かに達たっしているものには、人工じんこう皮膚ひふ、ペースメーカー、人工じんこう心臓しんぞう、筋すじ電でん義手ぎしゅ・筋すじ電でん義足ぎそく（義肢ぎし装具そうぐ士し・義肢ぎし・装具そうぐ製作せいさく技能ぎのう士し）、義歯ぎし（歯科しか技工ぎこう士し）、発声はっせい補助ほじょ器具きぐ・電気でんき式しき人工じんこう咽頭いんとう、補聴器ほちょうき（認定にんてい補聴器ほちょうき技能ぎのう者しゃ）、人工じんこう内耳ないじ、人工じんこう鼻はな、眼鏡めがね（眼鏡めがね作製さくせい技能ぎのう士し）、人工じんこう眼め（眼球がんきゅう・網膜もうまく・視神経ししんけいなどの代替だいたい）などが挙あげられる。

近年きんねん、この分野ぶんやはめざましい発展はってんを遂とげており、従来じゅうらいSFの中なかでしか語かたられて来こなかった各種かくしゅのサイボーグ技術ぎじゅつが現実げんじつの物ものとなりつつある。筋すじ電でんの信号しんごうを読よみ取とることで義手ぎしゅを使用しよう者しゃの意いのままに動うごかしたり、義手ぎしゅに取とり付つけた圧力あつりょくセンサの情報じょうほうを逆ぎゃくに神経しんけいへ送おくり返かえして感覚かんかくを取とり戻もどしたりする筋すじ電でん義手ぎしゅは、すでに実用じつよう段階だんかいに入はいっている^[2]^[3]。

また、脳のうへ直接ちょくせつ電極でんきょくを差さし込こみ、聴覚ちょうかく・視覚しかくの情報じょうほうを直接ちょくせつ脳のうへ送おくり込こんだり^[4]、脳のうへ部分ぶぶん的てきに電気でんき刺激しげきを送おくりパーキンソン病びょう等ひとしの症状しょうじょうを和やわらげたり^[5]、うつ病びょうを治療ちりょうしたり^[6]する技術ぎじゅつ（脳のう深部しんぶ刺激しげき療法りょうほう）も発達はったつしつつある。

目的もくてきによる分類ぶんるい[編集へんしゅう]

医療いりょう目的もくてき[編集へんしゅう]

主おもに、失うしなわれた四肢ししや臓器ぞうき・感覚かんかく器きの機能きのうを代替だいたい・回復かいふくさせるために用もちいられる。代表だいひょう的てきなものには、義肢ぎしや人工じんこう関節かんせつのほか、人工じんこう臓器ぞうきである人工じんこう内耳ないじ、人工じんこう網膜もうまく、人工じんこう腎臓じんぞう、人工じんこう心臓しんぞうなどが挙あげられる。手足てあしの震ふるえを和やわらげたり、うつ病びょうの治療ちりょうに用もちいられる脳のう深部しんぶ刺激しげき療法りょうほうもこれに含ふくまれる。人工じんこう臓器ぞうきのうち、古ふるくからあるものには義歯ぎしや眼鏡めがねのような単純たんじゅんな器具きぐもあるが、サイボーグの場合ばあいは何なんらかの機構きこうを持もつ部品ぶひんを人体じんたいに取とり付つけるという意味合いみあいから、単たんなる器物きぶつ（単体たんたいでは機能きのうしない）である義歯ぎし・眼鏡めがねなどはサイボーグの範疇はんちゅうからは外はずされる。

機能きのう強化きょうか目的もくてき[編集へんしゅう]

健常けんじょう者しゃに用もちい、人間にんげん本来ほんらいの機能きのうを強化きょうかするために用もちいられる。代表だいひょう的てきな物ものには、パワードスーツ（人工じんこう外がい骨格こっかく）、追加ついか四肢しし（3本ほん目め、4本ほん目めの手足てあし）、追加ついか感覚かんかく器き（より鋭敏えいびんな感覚かんかくが得えられたり、後方こうほうや遠隔えんかく地ちの情報じょうほうが得えられる目鼻めはな）など。

機能きのう追加ついかを目的もくてきとする埋うめ込こみ型がたの機器ききに関かんしては、RFIDに代表だいひょうされるID機能きのう（カルテ・クレジットカードなど）の無線むせん通信つうしん機能きのうを持もったカプセル状じょう機器ききの埋うめ込こみが実際じっさいに行おこなわれているが、さらにブレイン・マシン・インタフェースのような、現在げんざいは道具どうぐを手てなどで操作そうさしているものを直接的ちょくせつてきに身体しんたいの一部いちぶのように扱あつかえるようにするなどの利便りべん性せいを高たかめるものまでもが想定そうていされ、一部いちぶには以下いかに述のべる非ひ侵おかせ襲かさね型がたのインターフェイスを備そなえた装置そうちも開発かいはつ・利用りようされている。

遠隔えんかく制御せいぎょ[編集へんしゅう]

人間にんげん以外いがいの動物どうぶつの脳のうや触覚しょっかくを刺激しげきすることで遠隔えんかく制御せいぎょする技術ぎじゅつの研究けんきゅうが行おこなわれている^[7]。特とくに昆虫こんちゅうは同どうサイズのロボットよりも省しょうエネルギー（低ひく消費しょうひ電力でんりょく）となるなどコスト面めんでも優すぐれている^[8] ^[9]。

形態けいたいによる分類ぶんるい[編集へんしゅう]

非ひ侵おかせ襲かさね型がた[編集へんしゅう]

人体じんたいの外部がいぶに取とり付つけて動作どうさするタイプ。取とり外はずし可能かのうな義手ぎしゅや義足ぎそく、パワードスーツなど。侵おかせ襲かさね型がたのような危険きけん性せいがないため、比較的ひかくてき実用じつよう化かしやすく、倫理りんり面めんでの問題もんだいもクリアしやすい。

侵おかせ襲かさね型がた[編集へんしゅう]

人体じんたいの内部ないぶに埋うめ込こまれて動作どうさするタイプ。人工じんこう心臓しんぞうやペースメーカー、人工じんこう眼球がんきゅう、人工じんこう内耳ないじ、脳のう深部しんぶ刺激しげき療法りょうほうなど。これらのタイプは、故障こしょうや誤動作ごどうさの際さいに使用しよう者しゃに危険きけんが及およばないように、十分じゅうぶんな対策たいさくを取とる必要ひつようがある。このタイプのものをインプラントと呼よぶことがある^[10]。装置そうちの接続せつぞくのために人為じんい的てきに人体じんたいを傷きずつける（侵おかせ襲かさね）ため、感染かんせんや拒絶きょぜつ反応はんのうを起おこす危険きけんがあり、技術ぎじゅつ的てき課題かだいや倫理りんり的てき問題もんだいが多おおい。

危険きけん性せいや倫理りんり上じょうの問題もんだい[編集へんしゅう]

組織そしき生体せいたい工学こうがくの発達はったつにより、生体せいたいの失うしなった、あるいは弱体じゃくたい化かした機能きのうを補完ほかんするために、身体しんたいに機械きかいを組くみ込こんだ人間にんげんは今後こんごとも増ふえるとみられるが、これはさまざまな危険きけん性せいを抱かかえている。生体せいたい内ないの異物いぶつは感染かんせんのリスクが高たかく、一度いちど感染かんせんすると重症じゅうしょう化かしやすく治癒ちゆしにくい。さらに、機械きかいには自己じこ修復しゅうふく性せいがなく、故障こしょう時じは致命ちめい的てき事態じたいになりかねないなどの問題もんだいがあるからである。

また、脳のう刺激しげき療法りょうほうでは患者かんじゃの本来ほんらいの性格せいかくを変かえてしまいかねないという倫理りんり的てき問題もんだいもある。素材そざいそのものに対たいする危険きけん性せいも否定ひていできない。現げん段階だんかいでは体内たいないインプラントRFIDチップに発はつガンの危険きけん性せいが指摘してきされている^[11]。

これらの技術ぎじゅつは人間にんげんの尊厳そんげんを犯おかす可能かのう性せいが指摘してきされており、研究けんきゅう者しゃ達たちは倫理りんり的てきな面めんでも議論ぎろんを進すすめている^[10]。

軍事ぐんじ利用りようの可能かのう性せい[編集へんしゅう]

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくでは、サイボーグ技術ぎじゅつの軍事ぐんじ利用りようへの研究けんきゅうもDARPAを中心ちゅうしんにして活発かっぱつに行おこなわれている^[10]。兵士へいしの身体しんたい能力のうりょくを大おおきく強化きょうかする、戦闘せんとうにおいて手足てあしを失うしなった兵士へいしに義手ぎしゅ義足ぎそくを適用てきようすることで素早すばやい戦場せんじょう復帰ふっきを可能かのうとする、ブレイン・マシン・インタフェースの導入どうにゅうにより戦闘せんとう機きパイロットの脳のうと戦闘せんとう機きのコントロール機能きのうを接続せつぞくすることで、反応はんのう速度そくどの向上こうじょうを図はかる、などが考かんがえられている。

小しょう動物どうぶつの脳のうを制御せいぎょし、遠隔えんかく操作そうさで偵察ていさつ・自爆じばくを行おこなわせたりする動物どうぶつ兵器へいきへの応用おうようや、ブレイン・マシン・インタフェースによる無人むじん航空機こうくうき・無人むじん戦車せんしゃなどの無人むじん兵器へいき（軍事ぐんじロボット）を遠隔えんかく制御せいぎょする、などの研究けんきゅうも進すすめられている^[10]。

フィクションとサイボーグ[編集へんしゅう]

日本にっぽんでの受容じゅよう[編集へんしゅう]

フィクション作品さくひん（サイエンス・フィクション）ではしばしば好このまれて用もちいられる概念がいねんのひとつであるが、日本にっぽんでは1970年代ねんだいに入はいるまで、その概念がいねんは広ひろく浸透しんとうしていなかった。

SF作家さっかの平井ひらい和正かずまさと豊田とよだ有恒ありつねが『エイトマン』(1963年ねん)のシナリオを巡めぐり、作中さくちゅうにサイボーグを登場とうじょうさせるか否ひかでつかみ合あいの喧嘩けんかになりかけた時とき、側がわでおろおろしているスタッフのメモ書がきに「細胞さいぼう具ぐ」と書かかれたのを目めにして脱力だつりょくし、喧嘩けんかが収おさまったとのエピソードがある^[12]。

日本にっぽんで初はじめてこの単語たんご『サイボーグ』を公おおやけに使用しようしたのは、『サイボーグ009』等とうで著名ちょめいな石ノ森いしのもり章太郎しょうたろうである。

『サイボーグ009』が東映動画とうえいどうがでアニメ化かされた際さいには、東映とうえい本社ほんしゃから「ロボットとか、もっと分わかりやすいタイトルにしろ」という声こえがあったが^[13]、その後ご『サイボーグ009』や『仮面かめんライダー』シリーズ（特とくに1970年代ねんだいから1980年代ねんだいにかけての作品さくひん群ぐん）などで、ようやくサイボーグの概念がいねんが世間せけん一般いっぱんに広ひろく浸透しんとうしたといえる。

石ノ森いしのもりとその影響えいきょうを受うけた作品さくひんでは、人間にんげんとしてのアイデンティティを持もった改造かいぞう人間にんげんが殆ほとんどである（欧米おうべいでは、『ターミネーター』など生体せいたいの一部いちぶを単純たんじゅんな部品ぶひんとして使用しようしたアンドロイドというようなキャラクターもサイボーグとして存在そんざいしている）。

こういったフィクション作品さくひんでは、単たんに「超人ちょうじん」を登場とうじょうさせるための理由りゆう付づけである場合ばあいも多おおいが、「人間にんげん性せいの喪失そうしつ」のほか「最新さいしん技術ぎじゅつと人間にんげんの調和ちょうわ」という現代げんだい的てきな文学ぶんがく的てき・社会しゃかい的てきテーマを「人間にんげんなのか、機械きかいなのか」という極端きょくたんな形かたちで提示ていじできることから、物語ものがたりの主要しゅようテーマに関かかわる形かたちで取とり扱あつかわれることもまた多おおい。

ただ前述ぜんじゅつのロボコップも作中さくちゅうでは「死亡しぼうした人間にんげんの臓器ぞうきの一部いちぶを流用りゅうようしたロボット（人権じんけんを持もたない装置そうち）」として、またターミネーターも『ターミネーター2』で学習がくしゅうにより人間にんげんらしさを獲得かくとくしていく途上とじょうが描えがかれるなど、この境界きょうかいが持もつ曖昧あいまい性せいを作中さくちゅうのエッセンスとして強調きょうちょうする作品さくひんも見みられる。

フィクションとブレインマシンインターフェイス[編集へんしゅう]

ことさら航空機こうくうきなどの乗のり物ものは、腕うでや脚あしのある動物どうぶつや人間にんげん型がたの機械きかいよりも構造こうぞうが単純たんじゅんなため、乗のり物ものなどの機械きかい装置そうちを直接ちょくせつ脳のうからの信号しんごうで操作そうさしようという構想こうそうは、しばしば小説しょうせつや映画えいがなどに見みられる。

映画えいが『ファイヤーフォックス』では上記じょうきのブレイン・マシン・インタフェース技術ぎじゅつによりパイロットと機体きたいを接続せつぞくし、手足てあしを使つかうことなくパイロットの思考しこうで操縦そうじゅうや機器ききの操作そうさができる新型しんがた戦闘せんとう機きが登場とうじょうする。また、劇場げきじょうアニメ『超ちょう時空じくう要塞ようさいマクロス愛あい・おぼえていますか』ではパイロットの神経しんけい系けいを接続せつぞくするバトルスーツが登場とうじょうする。TRPG『メタルヘッド』ではパイロットとメカニックを直結ちょっけつし、機体きたいの思考しこう操縦そうじゅうを行おこなうサイバーリンクシステムなども存在そんざいする。これらはパイロットの肉体にくたいを機械きかい化かしたり侵おかせ襲かさね機器ききを着つけているわけではないが、その技術ぎじゅつはサイボーグの基礎きそ的てきなものとなっている。

また、タイトーのゲーム『レイフォース』シリーズでは「サイバネティック・リンク・システム（略称りゃくしょうC.L.S)」と呼よばれる技術ぎじゅつが登場とうじょうする。これはサイボーグの究極きゅうきょく形がたともいうべきもので、脳のうだけを攻撃こうげき機きに組くみ込こみ、反応はんのう速度そくどや加速かそく、旋回せんかいの際さいの慣性かんせい力りょくの問題もんだいを解決かいけつしている。ただ、作品さくひん中ちゅうにおいても、上述じょうじゅつのように倫理りんり面めんの問題もんだいが指摘してきされている。同様どうようの技術ぎじゅつが映画えいが『ロボコップ2』にも登場とうじょうしている。また、テレビアニメ『UFOロボグレンダイザー』では敵てきであるベガ星ほし人じんは、捕縛ほばくした他ほかの惑星わくせい人じんを同様どうようの技術ぎじゅつを使つかって惑星わくせい侵略しんりゃくの尖兵せんぺいとしている（桜さくら多た吾われ作さく版はんでは地球ちきゅう侵略しんりゃく用ようの「円盤えんばん獣じゅう」には主人公しゅじんこうの同胞どうほうのフリード星ほし人じんの脳のうが組くみ込こまれている）。