ハンチントンびょう

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ハンチントン舞踏ぶとうびょうから転送てんそう
Huntington's disease (HD)
別称べっしょう Huntington's chorea
概要がいよう
診療しんりょう 神経しんけいがく
分類ぶんるいおよび外部がいぶ参照さんしょう情報じょうほう
ICD-10 G10, F02.2
ICD-9-CM 333.4, 294.1
OMIM 143100
DiseasesDB 6060
MedlinePlus 000770
eMedicine article/1150165 article/792600 article/289706
Patient UK Huntington's disease (HD)
MeSH D006816
GeneReviews
Orphanet 399

ハンチントンびょう(ハンチントンびょう、えい: Huntington's disease)は、大脳だいのう中心ちゅうしんにある線条せんじょうたいじょうかく神経しんけい細胞さいぼう変性へんせい脱落だつらくすることにより進行しんこうせい随意ずいい運動うんどう舞踏ぶとうさま運動うんどう、chorea(ギリシャおどりの))、認知にんちりょく低下ていか情動じょうどう障害しょうがいとう症状しょうじょうあらわれるつね染色せんしょくたい優性ゆうせい遺伝いでんやまい[1]日本にっぽんでは特定とくてい疾患しっかん認定にんていされた指定してい難病なんびょうである。

ジョージ・ハンチントン

1872ねん米国べいこくロングアイランドの医師いしジョージ・ハンチントンGeorge Huntington)によって報告ほうこくされ、かつて「ハンチントン舞踏ぶとうびょう」(Huntington's Chorea)とばれていたが、1980年代ねんだいから欧米おうべいでは「ハンチントンびょう」(Huntington's Disease)とばれるようになった[1]日本にっぽんでも2001ねんから「ハンチントンびょう」の名称めいしょうもちいている。

治療ちりょうほうはなく、末期まっきステージには終日しゅうじつ介護かいご必要ひつようとなる[1]薬物やくぶつ療法りょうほう薬物やくぶつ療法りょうほうはいくつかの症状しょうじょう緩和かんわさせることができるが、そのQOL向上こうじょうかぎられている[1]西にしヨーロッパけいじんおおく、アジア、アフリカけいではすくない。ゆうびょうりつ男女だんじょはない。

臨床りんしょうぞう[編集へんしゅう]

ハンチントンびょう報告ほうこくされた行動こうどう症状しょうじょう[2]
えき刺激しげきせい 38–73%
アパシー 34–76%
不安ふあん 34–61%
そもそもうつ 33–69%
強迫きょうはくせい 10–52%
サイコシス 3–11%

35-44さいにおいて発病はつびょうすることがもっとおおいが、しかし幼年ようねんから老年ろうねんまですべての年代ねんだい発病はつびょう[3][4]

報告ほうこくされている神経しんけいてき症状しょうじょうは、認知にんちしょう[5][6]不安ふあんそもそもうつ情動じょうどう鈍麻どんま自己じこ中心ちゅうしんせい攻撃こうげきせい強迫きょうはくせい症状しょうじょう後期こうきには依存いぞんしょう発生はっせい悪化あっか(アルコール依存いぞん、ギャンブル依存いぞん性欲せいよく亢進こうしんなど)などがある[2]

原因げんいん[編集へんしゅう]

ハンチントンびょう優性ゆうせい遺伝いでんとされる

原因げんいん遺伝子いでんしとして、つね染色せんしょくたいだい4染色せんしょくたいたんうでじょうにあるhuntingtin遺伝子いでんし同定どうていされている[7]。huntingtin遺伝子いでんしだい1エクソンには、CAG(グルタミンをコードするシトシン・アデニン・グアニン)のかえ配列はいれつ存在そんざいする。これは病原びょうげんせい場合ばあいでは11〜34コピーの反復はんぷくであるが、病原びょうげんせい遺伝子いでんしでは37〜876コピーにもなる。かえ配列はいれつけいだいするさい伸長しんちょうし、とく父方ちちかた患者かんじゃからぐときには原因げんいん不明ふめい機構きこうによりおおきく増加ぞうかする。ポリグルタミンびょうである。

病態びょうたい[編集へんしゅう]

huntingtin遺伝子いでんしは3145アミノ酸あみのさんざんもとハンチンチン(Huntingtin)タンパク質たんぱくしつをコードする。このタンパク質たんぱくしつ様々さまざま組織そしき発現はつげん全長ぜんちょうタンパク質たんぱくしつおも細胞さいぼうしつ存在そんざいする。タンパク質たんぱくしつとはとくに明確めいかくアミノ酸あみのさん配列はいれつ類似るいじせいいが、あるしゅ神経しんけい栄養えいよう因子いんし発現はつげんりょう上昇じょうしょうに、転写てんしゃ抑制よくせい因子いんし抑制よくせいとおして機能きのうしているという報告ほうこくがなされている[8][9]。このことから神経しんけい栄養えいよう因子いんしりょう増加ぞうかさせるなんらかの手法しゅほう治療ちりょうほうになる可能かのうせいもあるかもしれないが、単純たんじゅん機能きのう喪失そうしつ変異へんいではなく優性ゆうせい作用さようすることからそうではない可能かのうせいたかい。

CAG のかえしが増加ぞうかした遺伝子いでんしからはアミノ末端まったんグルタミン連続れんぞくながくなったタンパク質たんぱくしつつくられ、このような Huntingtinタンパク質たんぱくしつはより凝集ぎょうしゅうこしやすくなっている。またながポリグルタミンタンパク質たんぱくしつとの相互そうご作用さよう影響えいきょうすること、Huntingtinタンパク質たんぱくしつ自身じしん切断せつだん促進そくしんすることなどが報告ほうこくされた。切断せつだんされたタンパク質たんぱくしつかくおお存在そんざいし、このことが細胞さいぼうたいする毒性どくせい発揮はっきするさいに必要ひつようかんがえられている。神経しんけい変性へんせいこす詳細しょうさい機構きこうはいまだはっきりとはしないが、患者かんじゃのうでのミトコンドリア呼吸こきゅうくさり異常いじょうミトコンドリアDNAかけしつりつ上昇じょうしょうアポトーシス機構きこう関連かんれん転写てんしゃ制御せいぎょとの関連かんれんなどが指摘してきされている。 平均へいきんてき女児じょじおおい。

GABA含有がんゆうニューロンが脱落だつらくしている場合ばあいおお[10][6]

アフリカーナーとハンチントンびょう[編集へんしゅう]

みなみアフリカの「アフリカーナー」とばれる250まんにんほど集団しゅうだんのうち、100まんにんは20種類しゅるいせいかぎられており、これらは20家族かぞく子孫しそんかんがえられる。この20家族かぞくのうちにハンチントンびょう患者かんじゃたために、アフリカーナーの集団しゅうだんにそれがこうはっすることは、遺伝いでん専門せんもんあいだでは有名ゆうめいである。本来ほんらいならば10まんにん1人ひとりつかるレベルの病気びょうきであるが、たか頻度ひんどつかる。

治療ちりょう[編集へんしゅう]

遺伝いでんせい疾患しっかんために、根本こんぽんてき治療ちりょうほう進行しんこう防止ぼうしする治療ちりょうほう現在げんざいのところ確立かくりつされていない[1]

ハンチントンびょうはHuntingtinとばれる特定とくていタンパク質たんぱくしつ変異へんいによってこるやまいであるが、その病変びょうへん部位ぶい染色せんしょくするために使つかわれる色素しきそコンゴーレッド変異へんいしたタンパク質たんぱくしつ凝集ぎょうしゅうおくらせる効果こうかがあることが報告ほうこくされ、神経しんけい障害しょうがい軽減けいげん病状びょうじょう進行しんこうおくらせることが出来でき可能かのうせい示唆しさされている[11]

胆汁たんじゅうから抽出ちゅうしゅつした物質ぶっしつ神経しんけい機能きのう防護ぼうご作用さよう利用りよう[12][13]胎児たいじのう細胞さいぼう移植いしょくする治療ちりょうほう[14][15]提案ていあんされている。

かえ配列はいれつ異常いじょう伸長しんちょう短縮たんしゅくする核酸かくさん標的ひょうてきてい分子ぶんし発見はっけんされ、根治こんじ可能かのうになるかもれないと期待きたいされている。[16]

核酸かくさん標的ひょうてきてい分子ぶんしはCAGがつくすDNAの一般いっぱんてきじゅうらせん構造こうぞうとはことなるslipped strand構造こうぞう特異とくいてき結合けつごうすることでこれをのぞく。

おなじく塩基えんきかえ配列はいれつ異常いじょう伸長しんちょう原因げんいんとなる病気びょうき脊髄せきずい小脳しょうのう失調しっちょうしょうすじ強直きょうちょくせいジストロフィーがあり、これらの治療ちりょうほうにも役立やくだ可能かのうせいる。

対処たいしょ療法りょうほうとしては、舞踏ぶとう運動うんどう改善かいぜんのためのテトラベナジン英語えいごばん開発かいはつされており、日本にっぽんでは2013ねん2がつ22にちアルフレッサファームから「コレアジンじょう12.5mg」として薬価やっか収載しゅうさいされた[17]。さらに、テトラベナジンの水素すいそ重水素じゅうすいそ置換ちかんして体内たいないでの分解ぶんかいおくらせたデューテトラベナジン英語えいごばん開発かいはつされ、アメリカで認可にんかされている。

疫学えきがく[編集へんしゅう]

ゆうびょうりつは、人種じんしゅによりことなるが白人はくじんでの発生はっせいりつは5-10/100,000[1]であり、アジアじん、アフリカじんでは白人はくじんの100ぶんの1である。

原因げんいんとなる変異へんいをもつ場合ばあいには、たかかくりつで30〜40さいだい発症はっしょうし、10〜20ねんかけて進行しんこうする。発症はっしょうから10~15ねん程度ていどまでに死亡しぼうすることおお[5]世代せだいるごとにその発症はっしょう年齢ねんれいはやくなること、父親ちちおやから原因げんいん遺伝子いでんしいだときにそれが顕著けんちょになる現象げんしょうられている。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b c d e f Huntington's disease”. NHS. 2016ねん7がつ1にち閲覧えつらん
  2. ^ a b “Psychopathology in verified Huntington's disease gene carriers”. J Neuropsychiatry Clin Neurosci 19 (4): 441–8. (2007). doi:10.1176/appi.neuropsych.19.4.441. PMID 18070848. 
  3. ^ Walker FO (2007). “Huntington's disease”. Lancet 369 (9557): 218–28. doi:10.1016/S0140-6736(07)60111-1. PMID 17240289. 
  4. ^ Huntington Disease”. genereviews bookshelf. University of Washington (2007ねん7がつ19にち). 2009ねん3がつ12にち閲覧えつらん
  5. ^ a b 大地だいち陸男むつお生理学せいりがくテキスト』、文光ぶんこうどう、2017ねん8がつ9にち だい8はん だい2さつ 発行はっこう、114ページ
  6. ^ a b 北川きたがわ昌伸まさのぶ標準ひょうじゅん病理びょうりがく』、医学書院いがくしょいん、2015ねん3がつ25にち だい5はん、705ページ
  7. ^ The Huntington's Disease Collaborative Research Group. (1993). “A novel gene containing a trinucleotide repeat that is expanded and unstable on Huntington's disease chromosomes.”. Cell 72 (6): 971-983. PMID 8458085. 
  8. ^ Zuccato C, Ciammola A, Rigamonti D, Leavitt BR, Goffredo D, Conti L, MacDonald ME, Friedlander RM, Silani V, Hayden MR, Timmusk T, Sipione S, Cattaneo E. (2001). “Loss of huntingtin-mediated BDNF gene transcription in Huntington's disease.”. Science 293 (5529): 493-8. PMID 11408619. 
  9. ^ Zuccato C, Tartari M, Crotti A, Goffredo D, Valenza M, Conti L, Cataudella T, Leavitt BR, Hayden MR, Timmusk T, Rigamonti D, Cattaneo E. (2003). “Huntingtin interacts with REST/NRSF to modulate the transcription of NRSE-controlled neuronal genes.”. Nat. Genet. 35 (1): 76-83. PMID 12881722. 
  10. ^ 大地だいち陸男むつお生理学せいりがくテキスト』、文光ぶんこうどう、2017ねん8がつ9にち だい8はん だい2さつ 発行はっこう、115ページ
  11. ^ Frid P, Anisimov SV, Popovic N. (2007). “Congo red and protein aggregation in neurodegenerative diseases”. Brain Res Rev. 53 (1): 135-60. PMID 16959325. 
  12. ^ Keene CD, Rodrigues CM, Eich T, Linehan-Stieers C, Abt A, Kren BT, Steer CJ, Low WC. (2001). “A bile acid protects against motor and cognitive deficits and reduces striatal degeneration in the 3-nitropropionic acid model of Huntington's disease.”. Exp Neurol. 171 (2): 351-360. PMID 11573988. 
  13. ^ Keene CD, Rodrigues CM, Eich T, Chhabra MS, Steer CJ, Low WC. (2002). “Tauroursodeoxycholic acid, a bile acid, is neuroprotective in a transgenic animal model of Huntington's disease.”. Proc Natl Acad Sci U S A. 99 (16): 10671-10676. PMID 12149470. 
  14. ^ Bachoud-Lévi AC, Rémy P, Nguyen JP, Brugières P, Lefaucheur JP, Bourdet C, Baudic S, Gaura V, Maison P, Haddad B, Boissé MF, Grandmougin T, Jény R, Bartolomeo P, Dalla Barba G, Degos JD, Lisovoski F, Ergis AM, Pailhous E, Cesaro P, Hantraye P, Peschanski M. (2000). “Motor and cognitive improvements in patients with Huntington's disease after neural transplantation.”. Lancet 356 (9246): 1975-1979. PMID 11130527. 
  15. ^ Freeman TB, Cicchetti F, Hauser RA, Deacon TW, Li XJ, Hersch SM, Nauert GM, Sanberg PR, Kordower JH, Saporta S, Isacson O. (2000). “Transplanted fetal striatum in Huntington's disease: phenotypic development and lack of pathology.”. Proc Natl Acad Sci U S A. 97 (25): 13877-13882. PMID 11106399. 
  16. ^ ハンチントンびょう根本こんぽんてき治療ちりょうみちひらける”. リソウ. 2022ねん7がつ23にち閲覧えつらん
  17. ^ 新薬しんやく薬価やっか収載しゅうさい 日本にっぽんはつのハンチントンびょう治療ちりょうやく発売はつばい、ミクスonline、2013ねん2がつ25にち、2022ねん11月13にち閲覧えつらん

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 日本にっぽんハンチントンびょうネットワークへん「ハンチントンびょう理解りかいしていただくために」,2003.
  • 遺伝いでんQ&A』, 中込なかごめわたるおとこちょ, はなぼう, 2000.9, ISBN 4-7853-8723-8

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

ハンチントンびょう - のう科学かがく辞典じてん