ブラックメタル

ブラックメタル; Black Metal
様式ようしき的てき起源きげん	スラッシュメタル; デスメタル; ハードコアパンク; ゴシック・ロック
文化ぶんか的てき起源きげん	1980年代ねんだいから1990年代ねんだい前半ぜんはん; 北きたヨーロッパ
使用しよう楽器がっき	ボーカル; ギター; ベース; ドラム; キーボード
派生はせいジャンル	デスメタル; ヴァイキングメタル; ペイガンメタル
サブジャンル
	アトモスフェリックブラックメタル; アンブラックメタル; シンフォニックブラックメタル; デプレッシブブラックメタル; ナショナル・ソーシャリスト・ブラックメタル; ブラックゲイズ; メロディックブラックメタル
融合ゆうごうジャンル
	ポストメタル; ネオクラスト
地域ちいき的てきなスタイル
	ノルウェイジャン・ブラックメタル; スウェディッシュ・ブラックメタル
ローカルシーン
	ノルウェー; スウェーデン; フィンランド; ドイツ; イギリス; フランス; ウクライナ; ポーランド; チェコ; アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく; 日本にっぽん
関連かんれん項目こうもく
	メロディックデスメタル; フォークメタル; ゴシックメタル; トレモロ; コープス・ペイント
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ブラックメタル（Black Metal）とは、ヘヴィメタルのサブジャンルの一ひとつ。

概要がいよう

「デスメタルを否定ひていし、そのルーツであるスラッシュメタルへの回帰かいき」という形かたちで生うまれたとされる^[1]。地獄じごくの業火ごうかのような激はげしく速はやいテンポ、または引ひきずり込こまれるような遅おそめのテンポのドラムに、金切かなきり声ごえのようなボーカル、音おとを強つよめに歪いがませたギターでのトレモロのピッキング、宗教しゅうきょう的てきで荘厳そうごんなアレンジなどを特徴とくちょうとする。歌詞かしの内容ないようには、サタニズム及および黒くろ魔術まじゅつへの傾倒けいとうといった、反はんキリストを強つよく打うち出だしたバンドが多おおくあり、ジャンルを決定けってい付つける要素ようそとしても重要じゅうよう視しされている。ブラックメタルバンドの中なかには、ペイガニズム^[5]などを掲かかげるものも多おおい。

特徴とくちょう

楽曲がっきょく

ボロボロの衣服いふくをまとい、血ちを浴あびながら歌うたうヴァーテインのヴォーカリストErik Danielsson

一口ひとくちにブラックメタルと呼よんでも、楽曲がっきょく演出えんしゅつはバンドによりさまざま^[6]。

例れい：スラッシュメタルに近ちかい楽曲がっきょくのバンド、野獣やじゅう性せいの強つよいバンド、キーボードを使つかい荘厳そうごんな雰囲気ふんいきを重視じゅうしするバンド、デスメタルに近ちかい楽曲がっきょくのバンド、限かぎりなく悪わるい音質おんしつとノイズや不協和音ふきょうわおんを多用たようするバンド、ゴシックメタルの作風さくふうを取とり入いれたバンド、流麗りゅうれいなメロディを重視じゅうしするバンド、攻撃こうげき的てきでハイスピードな楽曲がっきょくのバンド、反復はんぷくするフレーズと鬱々うつうつとした世界せかい観かんを重視じゅうしするバンド、悲痛ひつうな雰囲気ふんいきを強調きょうちょうしたバンド、重苦おもくるしくひきずるような遅おそさを持もつ楽曲がっきょくを重視じゅうしするバンド、破滅はめつ的てきかつ混沌こんとん・錯乱さくらんしたような演出えんしゅつのバンドなど。

ただし、ブラックメタルに括くくられる音楽おんがくにはいくつかの特徴とくちょうを見出みいだすことが出来できる。もちろん、ここに挙あげる全すべての特徴とくちょうが当あてはまるバンドは少すくないが、ほとんどのバンドは以下いかの特徴とくちょうのいくつかを持もっている。

トレモロリフ^[7]^[8]
高こう音域おんいきを強調きょうちょうしたノイジーなギターサウンド
三さん全音ぜんおんやフラットフィフスの多用たよう。
宗教しゅうきょう的てきで荘厳そうごんな雰囲気ふんいき
クラシック的てきなフレーズの多用たよう。又またはメロディやリフ、フレーズがクラシックと似にている。
比較的ひかくてきシンプルなドラムビート。ブラストビートが頻繁ひんぱんに使つかわれる。
キーボードを使用しようすることで寒々さむざむしく憂鬱ゆううつな雰囲気ふんいきを作つくりだす。
うなり声ごえ、金切声かなきりごえによるヴォーカル^{[† 1]}
ローファイなサウンド^{[† 2]}

ギターリフはスラッシュメタルやデスメタルのほか、ハードコアやクラシックに影響えいきょうを受うけている場合ばあいもあるが、かなりのバンドに該当がいとうするジャンル特有とくゆうの特徴とくちょうとしてトレモロリフの多用たようが挙あげられる。パワーコードもしくはマイナー系けいのコードストロークのバッキングに、単音たんおんトレモロでリードをとるパターンが最もっとも多おおい（Dark Funeralなど）。その一方いっぽうで、ギターソロはあまり重要じゅうよう視しされない。

一般いっぱん的てきにベースギターは音圧おんあつ稼かせぎに使つかわれ目立めだたないことが多おおいが、一方いっぽうで強つよくベースの音おとを押おし出だしているバンドもいるなど、細こまかい分野ぶんやによって用法ようほうは全まったく異ことなる。

音おと作づくりとしては、デスメタルのように過剰かじょうにダウンチューニングしないという特長とくちょうがある。例たとえばEmperor、Dissection、Darkthrone、Burzum、Marduk、初期しょきSatyriconなどの大半たいはんのバンドがレギュラーチューニングを用もちいており、Mayhem、Satyricon、Deathspell Omegaでさえ半音はんおん下さげである。それ以上いじょうに下さげているバンドは、特とくに90年代ねんだいから存在そんざいするバンドではかなり少すくない^{[† 3]}。

キーボードアレンジに関かんしては、シンフォニックブラックメタルにカテゴライズされるバンド群ぐんでは特とくに、クラシック風ふうのフレーズが使つかわれることがある。その他たのジャンルの影響えいきょうとしては、中期ちゅうき SatyriconやMyrkskogのようにインダストリアルメタルから影響えいきょうを受うけたもの、後期こうきEmperorやBorknagarのようにプログレッシブ・ロックから影響えいきょうを受うけたもの、Absurdのように Oiパンクから影響えいきょうを受うけているものなどがある。また、メンバーがサイドプロジェクトとしてアンビエントやインダストリアルノイズをやっている場合ばあいもある。

通常つうじょうの曲きょく構成こうせいをとることはあまりなく、特とくに明確めいかくなヴァース‐コーラス形式けいしきはないことが多おおい。大半たいはんの楽曲がっきょくは楽器がっき演奏えんそう部ぶの繰くり返かえしが多おおく行おこなわれる。ただ、ロッティング・クライストらが確立かくりつしたギリシャ風ふうのスタイルは例外れいがいで^[9]、ノルウェーのそれよりも正統せいとう派はヘヴィメタルのスタイルに近ちかい構成こうせいをとっている^[10]^[11]。

ファッション/パフォーマンス

ファッション面めんの特徴とくちょうとして、顔かお全体ぜんたいを白しろく、目めの周まわりを黒くろく塗ぬったコープス・ペイントをする者ものが多おおい。これは土葬どそう文化ぶんかの下したで死者ししゃの姿すがたを扮装ふんそうしたものとされる。他たには全身ぜんしん黒くろ服ふく、鋲びょうが多おおく打うたれたガントレット、ガンベルト、バンドTてぃーシャツ、センター・パートのロング・ヘア、革かわジャケット、ロング・ブーツ、生々なまなましい血ちのり等とう^{[† 4]}。死神しにがみや吸血鬼きゅうけつきをイメージしたオールバックの髪型かみがたも見みられる。また、中ちゅう後期こうきEmperorのように、コープス・ペイントやロングヘアーが見みられないバンドも存在そんざいする。ブラジルのバンドサルコファーゴの1stアルバムでのファッションが計はかり知しれぬ影響えいきょうを与あたえたとされる。

アートワークはモノクロのものが多おおい。これは1990年代ねんだいに入はいってデスメタルバンドのアートワークがどんどん鮮あざやかなものになったことに対たいするアンチテーゼである。自然しぜんや神話しんわの風景ふうけいが題材だいざいとして選えらばれることが多おおい。

また、ライブを一切いっさい行おこなわないことを信条しんじょうにしているバンドも存在そんざいする^[12]^[13]。一方いっぽうで、メイヘムやゴルゴロスなどのように動物どうぶつの頭部とうぶや血液けつえきを使用しようしたパフォーマンスで論争ろんそうを呼よぶバンドも存在そんざいする^[14]。

歴史れきし

第だい一いち世代せだい

「ブラックメタル」の用語ようごについては、スラッシュメタルバンド・ホーリー・モーゼスがデビュー前まえの1980年代ねんだい初頭しょとうに制作せいさくしたファースト・デモ『Black Metal Masters』が最初さいしょではないかと、同どうメンバーのサビーナ・クラッセンは主張しゅちょうしている^[15]。

音楽おんがくスタイルについては、ヘヴィメタルバンド・ヴェノムが1982年ねんに出だしたアルバム『BLACK METAL』がその起源きげんだとされている。反はんキリストをテーマにした歌詞かしやヴォーカルスタイル、ステージネームを使つかった演出えんしゅつ技法ぎほうは後続こうぞくのバンドに影響えいきょうを与あたえた。

デンマークのマーシフル・フェイトも重要じゅうようなバンドである。フロントマンであるキング・ダイアモンドのメイクはコープスペイントの素地そじを作つくったともいわれる。

さらにその後ご出でてきたヘルハマーやバソリーにより、今日きょうのブラックメタルの基本きほんとなるサウンドが作つくり出だされた^[16]。いわゆる"第だい一いち世代せだい"と呼よばれる時期じきである^[2]。1980年代ねんだいには、これらのサタニックなスラッシュメタルバンドが「ブラックメタル」と呼よばれることもあった^{[† 5]}。第だい一いち世代せだいと呼よばれるバンドには他たにクリーター、デストラクション、ソドムなどのドイツのバンドや^[17]、ブルドーザー、デス・SS（英語えいご版ばん）^[6]^[18]などがいる。

しかし、1987年ねんになると事態じたいは一時いちじ沈静ちんせい化かする。Slayerマガジンの著者ちょしゃMetalionは「昨今さっこんのサタニックバンドブームはどうやら終おわりを迎むかえたようだ」と記述きじゅつしている^[19]。その一方いっぽうで、Incubus、モービッド・エンジェル、サバト(UK)、トーメンター、サルコファーゴ、グロテスク^[20]^[21]、Treblinka^[22]^{[† 6]}など一部いちぶのバンドがサタニックなテーマを掲かかげて活動かつどうを続つづけていた。

他たに、初期しょきのブラックメタルシーンのバンドとしては日本にっぽんのサバト^[24]、コロンビアのParabellum^[25]、イスラエルのサレム、イタリアのMortuary Drapeなどがいる^[26]。1990年ねんに結成けっせいされた日本にっぽんのSighはノルウェーのシーンのメンバーと定期ていき的てきに連絡れんらくを取とっていた。彼かれらの1stアルバムは "ブラックメタル界かいにおけるカルト・クラシック"になったともいわれる^[27]。

ノルウェーのシーンが勃興ぼっこうする前まえの年としにはRoot、Master's Hammer、Von、ロッティング・クライスト、サマエル、ブラスフェミーらが重要じゅうような作品さくひんをリリースしている。特とくにMaster's Hammerのデビュー作さくRitualはダークスローンのFenrizをして「このアルバムこそが最初さいしょのノルウェイジャン・ブラックメタルだ。もっとも、彼かれらの出身しゅっしんはチェコなんだけどね^[28]。」と言いわしめた。ブラスフェミーのデビュー作さくFallen Angel of Doomは後のちにウォー・ブラックメタルと呼よばれるスタイルへとつながることになる。

1990年ねん、1991年ねんには北欧ほくおうのバンドが上記じょうきのバンドに影響えいきょうを受うけ活動かつどうを始はじめる。スウェーデンではマーダック、ディセクション、Nifelheim、アブラプタムが、フィンランドではデスメタルやグラインドコアの要素ようそを取とり入いれたベヘリット、アーチゴート、インペイルド・ナザリーン^[29]といったバンドが現あらわれた。特とくにフィンランドシーンの音楽おんがく性せいは後ごのウォー・ブラックメタルに大おおきな影響えいきょうを与あたえた^[30]^[31]。

デスメタル全盛ぜんせいのアメリカではDemoncy、Profanatica、アブスーが誕生たんじょうしている。1990年ねんにライプツィヒで行おこなわれたメイヘムのライブは東ひがしドイツのシーンに絶大ぜつだいな影響えいきょうを与あたえたと言いわれ^[32] 、一部いちぶではジャーマンブラックメタルの幕開まくあけだとまで評ひょうされている^[33]。

第だい二に世代せだい：殺人さつじん事件じけん

続つづいて1990年代ねんだいには、Emperor、Mayhem、Darkthrone、Burzumといったノルウェー出身しゅっしんのバンドが活躍かつやくし始はじめ、ブラックメタルという音楽おんがくをよりはっきりさせた。Mayhemのヴォーカリストであるデッドが自殺じさつし^[34] 、Darkthroneが2ndアルバム"A Blaze in the Northern Sky"をリリースした直後ちょくご^[35]^[36]^[37]にユーロニモスがつくりあげたブラックメタルシーンを俗ぞくに"第だい二に世代せだい"と呼よぶ^{[† 7]}。長ながらく人ひとの知しるところではなかったブラックメタルが俄にわかに注目ちゅうもくを浴あび、その名なが広ひろまるに至いたったのは、これらのバンドのメンバーを中心ちゅうしんに起おこった「自殺じさつ、教会きょうかいへの放火ほうか、殺人さつじん」など数々かずかずの事件じけんや犯罪はんざい行為こうい、およびそれらをセンセーショナルに取とり上あげたメディアによる影響えいきょうが大おおきい。

アンダーグラウンド主義しゅぎの元もと、メジャー音楽おんがくに攻撃こうげきをしかけ、ツアー中ちゅうのアーティストの家いえを放火ほうか・ツアーバスを転倒てんとうさせる、等ひとしの行動こうどうも起おこしていた彼かれらおよびそのファン達たちは、ブラックメタルマフィアとも呼よばれた。また、シーンの中核ちゅうかくには反はんキリスト教きりすときょう集団しゅうだん「ブラックメタル・インナーサークル」(Black Metal Inner Circle)が存在そんざいするとされ、その集団しゅうだん内ないでの格付かくづけは行おこなった犯罪はんざいの大おおきさで決きまったとさえも言いわれた。(詳細しょうさいは→ブラックメタル・インナーサークル)

しかし、1993年ねん8月がつ、バーズムの中心ちゅうしん人物じんぶつ、「Count Grishnackh（カウント・グリシュナック）」ことヴァルグ・ヴィーケネスが、ブラックメタル・インナーサークル及およびMayhemのリーダーであった「ユーロニモスことオイスタイン・アーセスを殺害さつがいする事件じけん」を起おこす。この事件じけんでヴァルグがついに逮捕たいほされ、懲役ちょうえき21年ねんという判決はんけつを受うけた事ことをきっかけに、バンドのメンバーらの犯罪はんざいが次々つぎつぎと発覚はっかくして逮捕たいほ者しゃが続出ぞくしゅつし、初期しょきのブラックメタルシーンは崩壊ほうかいしてしまう。

また、同どう時期じきに他国たこくでも様々さまざまなシーンが誕生たんじょうしていた。ポーランドではグレイヴランドとベヒーモスによってシーンが築きずかれている。アメリカではBlack Funeral、Grand Belial's Key、Judas Iscariotらが活躍かつやくしている。

フランスではアンダーグラウンドシーンのミュージシャンが集あつまり、Les Légions Noiresというグループが結成けっせいされるに至いたった。著名ちょめいなバンドではMütiilation、Vlad Tepes、Belketre、Torgeistがいる。同時どうじにナショナル・ソーシャリスト・ブラックメタル(NSBM)シーンも勃興ぼっこうしている。AntaeusのMkMはあるインタビューで「(この時期じきのフランスのシーンは)とても簡単かんたんに整理せいりできる。NSBMを選えらんで、ファンジンと聴衆ちょうしゅうからのサポートを受うけるか、the Black Legions^{[† 8]}の一員いちいんになってあの'カルト'なアウラを身みに纏まとうか…。Antaeusはパリ出身しゅっしんで、NSBMもやらないし、クリシェに満みちた'スカンジナビアン・ブラックメタル'でもないから、どこにも属ぞくさないってことになるかな。とはいえ、シーンに迎合げいごうしようって気きもさらさらないけど。」と語かたっている^[40] 。Deathspell Omegaのように前衛ぜんえい的てきな手法しゅほうをとっているバンドも多おおく存在そんざいする。不協和音ふきょうわおんを取とり入いれていることが特徴とくちょうで、他たにはAntaeus、Aosothなどが著名ちょめいである。

ドイツのシーンではアブサードの行おこないが論争ろんそうを呼よんだ。1993年ねん、アブサードのメンバーが同おなじ学校がっこうに在籍ざいせきする「ザンドロ・ベイヤーという少年しょうねんを殺害さつがい」したのである^[41]。ベイヤーの墓碑ぼひの写真しゃしんはリリースされたデモの一ひとつThuringian Pagan Madnessのアートワークにナチズムを賛美さんびする言葉ことばとともに掲載けいさいされている^[42]。このデモは獄中ごくちゅうで録音ろくおんされ、ポーランドでグレイヴランドのドラマーによってリリースされている^[43]。 Nagelfarの中心ちゅうしん人物じんぶつであるAlexander von Meilenwaldはこのドイツシーンの最さい重要じゅうよう作品さくひんとしてUngod、Tha-Norr、Lunar Aurora、KatharsisのデビューアルバムとDesasterのデモLost in the Agesを挙あげ^[44]^[32]、「必かならずしもドイツ史上しじょう最高さいこうの作品さくひんだとは言いえないかもしれないが、全部ぜんぶすばらしい出来できだ」と述のべている^[32]。

それからもブラックメタルは脈々みゃくみゃくと受うけ継つがれ、現在げんざいではノルウェーを中心ちゅうしんとした本場ほんばスカンディナヴィア地方ちほう以外いがいにも、フランスやドイツ、ウクライナをはじめとするヨーロッパ、南米なんべい、北米ほくべい、東ひがしアジア、東南とうなんアジア、オーストラリアなど世界せかい各地かくちでシーンが築きずかれると同時どうじに、ディム・ボルギルらのようにメジャーレーベルでの商業しょうぎょう的てき成功せいこうを収おさめるバンドも現あらわれている^[45]。

歌詞かし・思想しそう・哲学てつがく

音楽おんがく性せいが多岐たきに及およびつつもブラックメタルというジャンルが成立せいりつしているのは、思想しそうなどといった側面そくめんが非常ひじょうに強つよく、歌詞かしや世界せかい観かんなどによる演出えんしゅつにも重点じゅうてんが置おかれているということを念頭ねんとうに置おかなければならない。

ブラックメタルのシーンには、音楽おんがく活動かつどうを通とおして思想しそうを伝播でんぱすることを重要じゅうようだと考かんがえているバンドが数多かずおおくいる。一般いっぱん的てきなブラックメタルの思想しそうは、サタニズム（悪魔あくま主義しゅぎ）という言葉ことばに集約しゅうやくされている。この点てんで、第だい一いち世代せだいに属ぞくしていたバンドの多おおくは実際じっさいにサタニストであったわけではないが、'サタニック'なイメージや歌詞かしを用もちいていた^[46]。一方いっぽうで、ノルウェーのいわゆる第だい二に世代せだいのバンドにとって、サタニズムはイデオロギーの側面そくめんからブラックメタルを定義ていぎづけるものであった^[47]^[48]。ブラックメタル・インナーサークルがスカンディナビアからキリスト教きょうを撤廃てっぱいし、古代こだいの宗教しゅうきょうを復活ふっかつさせるという目標もくひょうを掲かかげたこともあり、シーンではキリスト教きりすときょう以外いがいのヨーロッパの宗教しゅうきょう（ペイガニズム）を讃たたえるバンドも存在そんざいした^[49] 。とはいえ、初期しょきのペイガンバンドが自みずから'ブラックメタル'を自称じしょうすることはあまりなかった^[50]^[51]^[52]。このように、ブラックメタルを自称じしょうするバンドはふつう反はんキリスト、または他たの世界せかい宗教しゅうきょうへの反抗はんこう心しんをテーマにしている^[16]。おそらく、これこそがブラックメタルが唯一ゆいいつ共有きょうゆうする考かんがえといっていいだろう。

したがって、歌詞かしではキリスト教徒きりすときょうとの虐殺ぎゃくさつ、キリスト教きょうの滅亡めつぼうなどキリスト教きりすときょうを攻撃こうげきするもの、悪魔あくまを称となえたり、天使てんしや神かみ、天国てんごくを罵ののしるなど冒涜ぼうとく的てきなもの、人間にんげん愛あい、平和へいわ、自由じゆうなどを否定ひていする反はん道徳どうとく的てきなもの、自殺じさつ、孤独こどく、人間にんげんへの嫌悪けんおを歌うたった厭世えんせい的てきなもの^[53]などが多おおい。これらのテーマは全まったく別べつのものというわけではなく、それぞれがつながっている。それゆえ、無む神かみ論ろん、ペイガニズム、サタニズムのような考かんがえが支持しじされることが多おおい^[53]。

また、ファンタジーに出でてくる悪あくの象徴しょうちょう、ギリシャ神話しんわや北欧ほくおう神話しんわ（ゲルマン神話しんわ）の死しの象徴しょうちょう（ハーデースなど）が、悪魔あくまのかわりにテーマとされることがあり、映画えいがや西洋せいよう魔術まじゅつもブラックメタルバンドにインスピレーションを与あたえている^{[† 9]}。

個人こじん主義しゅぎ

Chronicles of Chaosの記事きじでは「ほとんどすべてのブラックメタルバンドが持もつ最大さいだいの特徴とくちょうは過去かこへの憧憬どうけいである。」といわれている^[54]。これに関かんして、Wolves in the Throne Roomのアーロン・ウィーヴァーは「ブラックメタルは根本こんぽん的てきなレベルで現代げんだい精神せいしんを批判ひはんする芸術げいじゅつ活動かつどうなんだと思おもう。現代げんだいの世界せかい観かんは何なにかを見落みおとしているんだ、という具合ぐあいに。」と述のべている^[55]。故郷こきょうにキリスト教きりすときょうが伝播でんぱする以前いぜんの太古たいこの文化ぶんかに着目ちゃくもくするバンドもいる。Sam Dunnはノルウェーのシーンについて、「他たのヘヴィメタルシーンとは違ちがい、文化ぶんかや地理ちり的てき特徴とくちょうがブラックメタルの音楽おんがくやイメージに組くみ込こまれている」と言いっている^[16]。ノルウェーのドキュメンタリーでダークスローンのFenrizは「ブラックメタルというのは何なによりもまず、個人こじん主義しゅぎってことなんだよ。」^[56]と述のべている。実際じっさい、個人こじん主義しゅぎを信条しんじょうにしているアーティストは多おおい^[16]。イーサーンもブラックメタルとは「やりたいことは何なんでもやる」ことだといい、ある意味いみでは個人こじん主義しゅぎ的てきな側面そくめんを肯定こうていしている。あるインタビューでは「俺おれにとっては音楽おんがく的てきなインスピレーションがすべてだった。ブラックメタルというのは音楽おんがくのスタイルではなく、アティテュードなんだよ。初期しょきのノルウェーのブラックメタルのバンドたちは、皆みな違ちがう音おとを出だしていただろ。共通きょうつうの雰囲気ふんいき、表現ひょうげん方法ほうほうは持もっていたかもしれないけど。ルールなんか何なにもなくて(中略ちゅうりゃく)俺おれはやりたいことをやるだけで、誰だれにもこういう音楽おんがくをやれなんて指示しじはされないし。もしそんなことを受うけ入いれたら、それはもはやブラックメタルではないよ^[57]。」と述のべている。その一方いっぽうで、Euronymousの信奉しんぽう者しゃは個人こじん主義しゅぎに反対はんたいすることが多おおい^[47]。Benjamin Hedge Olsonが著あらわした修士しゅうし論文ろんぶんによれば、「ブラックメタルはラディカル・インディヴィジュアリズムと集団しゅうだん的てきアイデンティティの間あいだで起おきる抗こう争そうと、その両極りょうきょくをも同時どうじに受容じゅようしようとする企くわだてによって特徴とくちょうづけることが出来できる。」という^[58]。

Olsonはラルフ・ワルド・エマーソンのとなえた超越ちょうえつ主義しゅぎに似にた思想しそうを持もつアーティストもいると書かいている。彼かれらは肉体にくたいという牢獄ろうごくを捨すて、もしくは"超越ちょうえつ"し、超越ちょうえつ的てき存在そんざい(神かみ)から知識ちしきを授さずかろうとするのである^[59]。「霊的れいてき意義いぎ、文化ぶんか的てき意義いぎに欠かけているように感かんじられる世界せかい」に満足まんぞくしておらず^[60]、それを超こえて、「宗教しゅうきょう的てき熱狂ねっきょうに満みちた世俗せぞく主義しゅぎ」に挑戦ちょうせんしたいと考かんがえているからである^[61]。Olsonはこのようなバンドのライヴを「情景じょうけい的てき一体いったい感かんや神秘しんぴ的てき超越ちょうえつを得えるための音楽おんがくによる儀式ぎしき」と呼よび^[62]、「演者えんじゃが儀式ぎしき的てきなパフォーマンスを通とおして、自みずからの世俗せぞく的てき肉体にくたいを超越ちょうえつし、神かみと結むすびついた精神せいしん的てきなペルソナをその身みに帯おびる、という認識にんしき」を自分じぶんが参加さんかしたブラックメタルのライヴの典型てんけい例れいとして挙あげている^[63]。

シーン内ないで有名ゆうめいなミュージシャンの中なかには「ブラックメタルは必かならずしも何なんらかのイデオロギーを表明ひょうめいしていなければいけないというわけではない」と考かんがえるものもいる。たとえば、ヤン・アクセル・ブロンベルクはMetal Libraryとのインタビューで、「これは個人こじん的てきな考かんがえだけど、今日きょうのブラックメタルはただの音楽おんがくにすぎないと思おもう。」と語かたっている^[64]。同おなじように、サティアーも「ブラックメタルは必かならずしもサタニックなものでなければならないというわけではない。暗澹あんたんとしたものでありさえすればいい。」と語かたっている^[53]。Throne of MaledictionのEric Hornerは「多おおくのバンドがサタニズムやそれに類るいする信条しんじょうを持もっているけど、僕ぼくはそれだけが'ブラックメタル'でいる唯一ゆいいつの手段しゅだんとは思おもいませんね。僕ぼくにとってのブラックメタルは純粋じゅんすいな感情かんじょうであり、その感情かんじょうを伴ともなった個人こじん主義しゅぎなのです。」と答こたえている^[65]。

だが、Metalionが発行はっこうするファンジンSlayerの記事きじでは「自分じぶんたちのコンセプト全体ぜんたいが依拠いきょしているような本質ほんしつよりも、音楽おんがく的てきなことに関かんしてばかり気きを払はらう」ミュージシャンが批判ひはんされ、「音楽おんがくそのもの自体じたいが一番いちばん優先ゆうせんされるということはない。」という主張しゅちょうが繰くり広ひろげられている^[66]。

サタニズム

もともと、ブラックメタルという語かたりはサタニックな歌詞かしやイメージを用もちいるエクストリームメタルバンドを指さす言葉ことばだった。しかし、第だい一いち世代せだいのほとんどのバンド^{[† 10]}はサタニストであったわけではなく、単たんに聴衆ちょうしゅうを煽あおるためにそのイメージを使つかっただけであった。その中なかで、Mercyful Fateのヴォーカリストであり、サタン教会きょうかいのメンバーであったKing Diamondは数少かずすくない例外れいがいである。Michael Moynihanは彼かれについて「80年代ねんだいのサタニックメタルバンドのメンバーで唯ただ一本気いっぽんぎだった人物じんぶつで、ショック・ヴァリューを狙ねらって悪魔あくまのイメージを使つかっていただけのポーザーとは違ちがう。」と言いっている^[46]。

1990年代ねんだい初頭しょとう、ノルウェーのシーンに属ぞくする多おおくのブラックメタルミュージシャンは厭人えんじん的てき悪魔あくま崇拝すうはい者しゃを自称じしょうしていた^[48]。彼かれらは憎にくしみ、悲かなしみ、そして邪悪じゃあくさを広ひろめようとしていたのである。メイヘムのユーロニモスはこの思想しそうの裏うらに居いた重要じゅうような人物じんぶつである^[47]。彼かれらはサタン教会きょうかいの「自由じゆうや人生じんせいを肯定こうていする」考かんがえ方かたを批判ひはんした^[68]。シーンのメンバーが支持しじしていた有神論ゆうしんろん的てきサタニズムはキリスト教きりすときょうの倫理りんりの逆ぎゃくを行いく事こと、すなわち自分じぶんの欲望よくぼうに忠実ちゅうじつに生いき、弱者じゃくしゃを強者きょうしゃの糧かてにするのをよしとする思想しそうであった。そのため、キリスト教きょうを弱者じゃくしゃのものとして否定ひていしたフリードリヒ・ニーチェの思想しそう（ニヒリズム）が好このまれる傾向けいこうにある。Benjamin Hedge Olsonは「(彼かれらは)ヴェノムの行おこなったサタニックなパフォーマンスを他たのメタルやサタニズムにはない文化ぶんか的てき表現ひょうげんのひとつへと変かえた」、そして「他たのメタルが持もつ平凡へいぼんなアイデンティティや大望たいぼうを捨すて去さり、宗教しゅうきょう的てき、イデオロギー的てきな熱狂ねっきょうを選えらんだ」と書かいている^[47]。ユーロニモスは全体ぜんたい主義しゅぎを支持しじし、個人こじん主義しゅぎ、同情どうじょう、平和へいわ、幸福こうふく、快楽かいらくなどの考かんがえを否定ひていした^[17]。何故なぜこのような思想しそうがシーンで支持しじされていたのかと聞きかれ、イーサーンは「(このような考かんがえ方かたは)人々ひとびとに恐怖きょうふを与あたえるには好都合こうつごうだった」と語かたっている^[69]。また、「(シーンは)社会しゃかいの対極たいきょくでありたがっていた」し、「本当ほんとうのサタニズムを実践じっせんするよりも、単たんに'邪悪じゃあく'であること」に力点りきてんを置おいていたという^[70]。ただし、Lords of Chaosによれば、マンハイム^[71] 、ヴィーケネス^[72]、ブラックソーン^[73]のようにユーロニモスを知しっていた者ものの多おおくは、彼かれの"過激かげきでサタニックなイメージ"は見みせかけだけのものだったという^[74]。その一方いっぽうで、Mortiisはユーロニモスが行おこなっていたことは見みせかけではないと語かたっている^[75]。ユーロニモスを1985年ねんから知しっており^[76]、彼かれの親友しんゆうでもある^[77]Metalionは「(ユーロニモス)はいつも自分じぶんの考かんがえを披露ひろうしていた。(中略ちゅうりゃく)死しを崇あがめ、過激かげきであろうとしていたんだ。」と証言しょうげんしている^[78]。Misanthropic Luciferian OrderのTenebris(噂うわさではジョン・ノトヴェイトであるとされる^[79])はノルウェーのシーンは主おもにイデオロギー的てきなサタニズムと関連かんれんしており、「93年ねんにユーロニモスが死しんだことで消滅しょうめつした」と書かいている^[80]。Sanna Fridhは、シーンのメンバーによる"自分じぶんたちは悪魔あくま崇拝すうはい者しゃである"という主張しゅちょうには何なんら根拠こんきょがなかったと述のべている^[81]。ユーロニモスが死亡しぼうした後のち、捜査そうさを主導しゅどうしたLeif A. Lierによれば、彼かれ自身じしんも部下ぶかもサタニストには一人ひとりも遭遇そうぐうしなかったという^[82]。ファウストは「サタニズムを超ちょうマジにとらえてるヤツもいたけど、ほとんどの人間にんげんにとってはハイプに過すぎなかったね」という^[83]。当時とうじ、有神論ゆうしんろん的てきサタニズムを支持しじしないバンドはユーロニモスやシーンのメンバー(ファウストとか)から'ブラックメタル'であると認みとめられなかった^[6]^[17]。そのため、ノルウェイジャンブラックメタルのようなサウンドで、サタニックな歌詞かしを用もちいてなかったバンドは他たの言葉ことばで自分じぶんたちのジャンルを表現ひょうげんした^[50]^[51]^[52]。今日きょうでもInfernus^[84]やアリオク^[85]、Nornagest、Erik Danielsson^[86]などのような著名ちょめいなミュージシャンのように、ブラックメタルは有神論ゆうしんろん的てきサタニズムを支持しじしていなければならないと考かんがえるものがいる。再さい結成けっせい後ごのDissection^[87]^[88]、Watain^[89]のようなバンドは、ブラックメタルバンドのメンバーはみなサタニストでなければならないという一方いっぽうで、Black FuneralのMichael W. Ford^[90]やAntaeusのMkM^[91]はブラックメタルはサタニックでなければならないが、メンバー全員ぜんいんが必かならずしもサタニストであることまでは必要ひつようでないと考かんがえている。サタニズムからペイガニズムに考かんがえを変かえたバンドもいる。

また、サタニズムはナチズムと共通きょうつうする点てんも見みられる。だが、ヴァルグ・ヴィーケネスのようなネオナチ活動かつどう家かや、ヒットラーやナチスを崇拝すうはいするNSBMと呼よばれているのような極右きょくう・ネオナチバンドは、シーンのごく一部いちぶである^{[† 11]}。多おおくのブラックメタル・バンドは音楽おんがくに専念せんねんしており、シーンで人種じんしゅ差別さべつが肯定こうてい的てきに捉とらえられることは少すくない^[45]^[92]^[93]。

このように、一般いっぱんにブラックメタルの中なかでキリスト教きりすときょうが肯定こうてい的てきに扱あつかわれることはほとんどないといっていい。一方いっぽうで、ブラックメタル特有とくゆうのサウンドを有ゆうしていながら歌詞かしやイメージでキリスト教きりすときょうを賛美さんびする、アンブラックメタルという一見いっけん矛盾むじゅんしたジャンルも存在そんざいしている。

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参考さんこう文献ぶんけん

マイケル・モイニハン、ディードリック・ソーデリンド『ブラック・メタルの血塗ちぬられた歴史れきし』島田しまだ陽子ようこ訳やく、メディア総合そうごう研究所けんきゅうじょ〈Garageland Jam Books〉、2008年ねん。ISBN 9784944124329
Moynihan, Michael; Søderlind, Didrik (2003) [1998]. Lords of Chaos: The Bloody Rise of the Satanic Metal Underground (revised and enlarged ed.). Los Angeles, CA: Feral House. ISBN 0-922915-94-6. OCLC 63047807
Moynihan, Michael; Søderlind, Didrik (1998). Lords of Chaos: The Bloody Rise of the Satanic Metal Underground (first ed.). Venice, CA: Feral House. ISBN 0-922915-48-2. OCLC 39151590
Olson, Benjamin Hedge (May 2008). I Am the Black Wizards: Multiplicity, Mysticism and Identity in Black Metal Music and Culture. Bowling Green State University
Kristiansen, Jon (2011). Metalion: The Slayer Mag Diaries. New York: Bazillion Points Books. ISBN 978-0-9796163-4-1
Kahn-Harris, Keith (2007). Extreme Metal: Music and Culture on the Edge. Oxford; New York: Berg. ISBN 978-1-84520-399-3. OCLC 701719393