ギリシア神話 しんわ (ギリシアしんわ、ギリシア語 ご : ελληνική μυθολογία )は、古代 こだい ギリシア より語 かた り伝 つた えられる伝承 でんしょう 文化 ぶんか で、多 おお くの神 かみ 々が登場 とうじょう し、人間 にんげん のように愛憎 あいぞう 劇 げき を繰 く り広 ひろ げる物語 ものがたり である。ギリシャ神話 しんわ とも言 い う。
古代 こだい ギリシア市民 しみん の教養 きょうよう であり、さらに古代 こだい 地中海 ちちゅうかい 世界 せかい の共通 きょうつう 知識 ちしき でもあったが、現代 げんだい では、世界 せかい 的 てき に広 ひろ く知 し られており、ギリシャ の小学校 しょうがっこう では、ギリシャ人 じん にとって欠 か かせない教養 きょうよう として、歴史 れきし 教科 きょうか の1つになっている。
ギリシア神話 しんわ は、ローマ神話 しんわ の体系 たいけい 化 か と発展 はってん を促進 そくしん した。プラトーン 、古代 こだい ギリシアの哲学 てつがく や思想 しそう 、ヘレニズム 時代 じだい の宗教 しゅうきょう や世界 せかい 観 かん 、キリスト教 きりすときょう 神学 しんがく の成立 せいりつ など、多方面 たほうめん に影響 えいきょう を与 あた え、西欧 せいおう の精神 せいしん 的 てき な脊柱 せきちゅう の一 ひと つとなった。中世 ちゅうせい においても神話 しんわ は伝承 でんしょう され続 つづ け、その後 ご のルネサンス 期 き 、近世 きんせい 、近代 きんだい の思想 しそう や芸術 げいじゅつ にとって、ギリシア神話 しんわ は霊感 れいかん の源泉 げんせん であった[1] 。
アテーナイ ・アクロポリスの丘 おか とパルテノン神殿 しんでん
今日 きょう ギリシア神話 しんわ として知 し られる神 かみ 々と英雄 えいゆう たちの物語 ものがたり の始 はじ まりは、およそ紀元前 きげんぜん 15世紀 せいき 頃 ころ に遡 さかのぼ ると考 かんが えられている。物語 ものがたり は、その草創 そうそう 期 き においては、口承 こうしょう 形式 けいしき でうたわれ伝 つた えられてきた。紀元前 きげんぜん 9世紀 せいき または8世紀 せいき 頃 ごろ に属 ぞく すると考 かんが えられるホメーロス の二 に 大 だい 叙事詩 じょじし 『イーリアス 』と『オデュッセイア 』は、この口承 こうしょう 形式 けいしき の神話 しんわ の頂点 ちょうてん に位置 いち する傑作 けっさく とされる。当時 とうじ のヘレーネス(古代 こだい ギリシア人 じん による彼 かれ ら自身 じしん の呼称 こしょう )の世界 せかい には、神話 しんわ としての基本 きほん 的 てき 骨格 こっかく を備 そな えた物語 ものがたり の原型 げんけい が存在 そんざい していた[注釈 ちゅうしゃく 1] [注釈 ちゅうしゃく 2] [注釈 ちゅうしゃく 3] 。
しかし当時 とうじ の人々 ひとびと のなかで、特 とく に、どのような神 かみ が天 てん に、そして大地 だいち や森 もり に存在 そんざい するかを語 かた り広 ひろ めたのは吟遊詩人 ぎんゆうしじん たちであり、詩人 しじん は姿 すがた の見 み えない神 かみ 々に関 かん する真実 しんじつ の知識 ちしき を人間 にんげん に解 と き明 あ かす存在 そんざい であった。神 かみ の霊 れい が詩人 しじん の心 しん に宿 やど り、不死 ふし なる神 かみ 々の世界 せかい の真実 しんじつ を伝 つた えてくれるのであった。そのため、ホメーロス等 とう の作品 さくひん においては、ムーサ 女神 めがみ への祈 いの りの言葉 ことば が、朗誦 ろうしょう の最初 さいしょ に置 お かれた。
口承 こうしょう から文字 もじ 記録 きろく へ[ 編集 へんしゅう ]
オリュンポス十 じゅう 二 に 神 かみ
口承 こうしょう でのみ伝 つた わっていた神話 しんわ を、文字 もじ の形 かたち で記録 きろく に留 と め、神 かみ 々や英雄 えいゆう たちの関係 かんけい や秩序 ちつじょ を、体系 たいけい 的 てき にまとめたのは、ホメーロス より少 すこ し時代 じだい をくだる紀元前 きげんぜん 8世紀 せいき の詩人 しじん ヘーシオドス である[注釈 ちゅうしゃく 4] 。彼 かれ が歌 うた った『神 かみ 統 みつる 記 き 』においても、その冒頭 ぼうとう には、ヘリコーン山 やま に宮 みや 敷 し き居 い ます詩 し 神 しん (ムーサ )への祈 いの りが入 はい っており、ヘーシオドス は現存 げんそん する文献 ぶんけん のなかでは初 はじ めて系統的 けいとうてき に神 かみ 々の系譜 けいふ と、英雄 えいゆう たちの物語 ものがたり を伝 つた えた。このようにして、彼 かれ らの時代 じだい 、すなわち紀元前 きげんぜん 9世紀 せいき から8世紀 せいき 頃 ごろ に、「体系 たいけい 的 てき なギリシア神話 しんわ 」がギリシア世界 せかい において成立 せいりつ したと考 かんが えられる。
それらの神話 しんわ 体系 たいけい は地域 ちいき ごとに食 く い違 ちが いや差異 さい があり、伝承 でんしょう の系譜 けいふ ごとに様々 さまざま なものが未 いま だ渾然 こんぜん として混 ま ざり合 あ っていた状態 じょうたい であるが、オリュンポス を支配 しはい する神 かみ 々が誰 だれ であるのか、代表 だいひょう 的 てき な神 かみ 々の相互 そうご 関係 かんけい はどのようなものであるのか、また世界 せかい や人間 にんげん の始 はじめ 源 げん に関 かん し、どのような物語 ものがたり が語 かた られていたのか、などといったことは、ギリシア世界 せかい においてほぼ共通 きょうつう した了解 りょうかい のある、ひとつのシステムとなって確立 かくりつ したのである。
しかし、個々 ここ の神 かみ や英雄 えいゆう が具体 ぐたい 的 てき にどのようなことを為 な し、古代 こだい ギリシア の国々 くにぐに にどのような事件 じけん が起 お こり、それはどういう神 かみ 々や人々 ひとびと ・英雄 えいゆう と関連 かんれん して、どのように展開 てんかい し、どのような結果 けっか となったのか。これらの詳細 しょうさい や細部 さいぶ の説明 せつめい ・描写 びょうしゃ などは、後世 こうせい の詩人 しじん や物語 ものがたり 作者 さくしゃ などの想像 そうぞう 力 りょく が、ギリシア神話 しんわ の壮麗 そうれい な物語 ものがたり の殿堂 でんどう を飾 かざ ると共 とも に、複雑 ふくざつ で精妙 せいみょう な形 かたち 姿 すがた を構成 こうせい したのだと言 い える。
次 つ いで、ギリシア悲劇 ひげき の詩人 しじん たちが、ギリシア神話 しんわ に奥行 おくゆ きを与 あた えると共 とも に、人間 にんげん 的 てき な深 ふか みをもたらし、神話 しんわ をより体系 たいけい 的 てき に、かつ強固 きょうこ な輪郭 りんかく を持 も つ世界 せかい としてき上 ずきあ げて行 い った。ヘレニズム 期 き においては、アレクサンドリア図書館 としょかん の司書 ししょ で詩人 しじん でもあったカルリマコス [注釈 ちゅうしゃく 5] が膨大 ぼうだい な記録 きろく を編集 へんしゅう して神話 しんわ を肉付 にくづ けし、また同 おな じく同 どう 図書館 としょかん の司書 ししょ であったロドスのアポローニオス などが新 あたら しい構想 こうそう で神話 しんわ 物語 ものがたり を描 えが いた。ローマ帝政 ていせい 期 き に入 はい ってからも、ギリシア神話 しんわ に対 たい する創造 そうぞう 的 てき 創作 そうさく は継続 けいぞく していき、紀元 きげん 後 ご 1世紀 せいき の詩人 しじん オウィディウス・ナーソ の『変身 へんしん 物語 ものがたり 』が新 あたら しい物語 ものがたり を生 う み出 だ し、あるいは再 さい 構成 こうせい し、パウサニアース の歴史 れきし 的 てき 地理 ちり 的 てき 記録 きろく やアープーレイウス の作品 さくひん などがギリシア神話 しんわ に更 さら に詳細 しょうさい を加 くわ えていった。
体系 たいけい 的 てき 記述 きじゅつ [ 編集 へんしゅう ]
紀元前 きげんぜん 8世紀 せいき のヘーシオドス の『神 かみ 統 みつる 記 き 』は、ギリシア神話 しんわ を体系 たいけい 的 てき に記述 きじゅつ する試 こころ みのさきがけである。ホメーロス の叙事詩 じょじし などにおいて、聴衆 ちょうしゅう にとっては既知 きち のものとして、詳細 しょうさい が説明 せつめい されることなく言及 げんきゅう されていた神 かみ 々や、古代 こだい の逸話 いつわ などを、ヘーシオドス は系統的 けいとうてき に記述 きじゅつ した。『神 かみ 統 みつる 記 き 』において神 かみ 々の系譜 けいふ を述 の べ、『仕事 しごと と日々 ひび 』において人間 にんげん の起源 きげん を記 しる し、そして現在 げんざい は断片 だんぺん でしか残 のこ っていない『名 な 婦 ふ 列伝 れつでん 』において英雄 えいゆう たちの誕生 たんじょう を語 かた った。
このような試 こころ みは、紀元前 きげんぜん 6世紀 せいき から5世紀 せいき 頃 ころ のアルゴスのアクーシラーオス やレーロスのペレキューデース などの記述 きじゅつ にも存在 そんざい し、現在 げんざい は僅 わず かな断片 だんぺん しか残 のこ っていない彼 かれ らの「系統 けいとう 誌 し 」は、古代 こだい ギリシア の詩人 しじん や劇 げき 作家 さっか 、あるいはローマ時代 じだい の物語 ものがたり 作家 さっか などに大 おお きな影響 えいきょう を与 あた えた[12] 。
古代 こだい におけるもっとも体系 たいけい 的 てき なギリシア神話 しんわ の記述 きじゅつ は、紀元 きげん 後 ご 1世紀 せいき 頃 ころ と考 かんが えられるアポロドーロス の『ギリシャ神話 しんわ 』(3巻 かん 16章 しょう +摘要 てきよう 7章 しょう )である。この体系 たいけい 的 てき 系統 けいとう 本 ほん は、紀元前 きげんぜん 5世紀 せいき 以前 いぜん の古典 こてん ギリシアの筆者 ひっしゃ の文献 ぶんけん 等 とう を元 もと にギリシア神話 しんわ が纏 まと められており、オウィディウス などに見 み られる、ヘレニズム 化 か した甘美 かんび な趣 おもむき もある神話 しんわ とはまったく異質 いしつ で、荒々 あらあら しく古雅 こが な神話 しんわ 系譜 けいふ を記述 きじゅつ していることが特徴 とくちょう である。
文献 ぶんけん 資料 しりょう と著者 ちょしゃ [ 編集 へんしゅう ]
ホメーロス 以前 いぜん の古代 こだい ギリシア には文字 もじ がなかった訳 わけ ではなく、ミュケーナイ時代 じだい にすでに線 せん 文字 もじ B が存在 そんざい していたが、暗黒 あんこく 時代 じだい においてこの文字 もじ の記憶 きおく は失 うしな われた。しかし紀元前 きげんぜん 8世紀 せいき 頃 ころ より、フェニキア文字 もじ を元 もと に古代 こだい ギリシア文字 もじ が生 う まれる。ギリシア神話 しんわ は基本 きほん 的 てき にはこの文字 もじ で記録 きろく された。また後 のち にはローマの詩人 しじん ・文学 ぶんがく 者 しゃ がラテン語 らてんご によってギリシア神話 しんわ を記述 きじゅつ した。
ホメーロス
考古学 こうこがく 的 てき 資料 しりょう [ 編集 へんしゅう ]
ギリシア神話 しんわ のありようを知 し るには、近代 きんだい になって発達 はったつ した考古学 こうこがく が大 おお きな威力 いりょく を発揮 はっき した。考古学 こうこがく では古代 こだい の遺跡 いせき が発掘 はっくつ され研究 けんきゅう された。
これらの遺跡 いせき において、装飾 そうしょく 彫刻 ちょうこく や彫像 ちょうぞう 、神 かみ 々や人物 じんぶつ が描 えが かれ彩色 さいしき された古 こ 壺 つぼ や皿 さら などが見 み つかった。考古 こうこ 学者 がくしゃ や神話 しんわ 学者 がくしゃ は、彫刻 ちょうこく の姿 すがた や様式 ようしき 、古 こ 壺 つぼ や皿 さら に描 えが かれた豊富 ほうふ な絵 え を分析 ぶんせき して、これらがギリシア神話 しんわ で語 かた られる物語 ものがたり の場面 ばめん や出来事 できごと 、神 かみ や英雄 えいゆう の姿 すがた を描 えが いたものと判断 はんだん した。それらの絵図 えず は意味 いみ を含 ふく んでおり、(学者 がくしゃ によって解釈 かいしゃく が分 わ かれるとしても)ここから神話 しんわ の物語 ものがたり を読 よ み取 と ることが可能 かのう であった。
他方 たほう 、発掘 はっくつ により判明 はんめい した考古学 こうこがく 的 てき 知見 ちけん は、文献 ぶんけん に記 しる されていた事象 じしょう が実際 じっさい に存在 そんざい したのか、記述 きじゅつ が妥当 だとう であったのかを吟味 ぎんみ する史料 しりょう としても重要 じゅうよう であった。更 さら に、文献 ぶんけん の存在 そんざい しない時代 じだい についての知識 ちしき を提供 ていきょう した。19世紀 せいき 末 まつ にドイツ のハインリヒ・シュリーマン は、アナトリア半島 はんとう 西端 せいたん のヒッサルリクの丘 おか を発掘 はっくつ し、そこに幾 いく 層 そう もの都市 とし 遺跡 いせき と火災 かさい で滅 ほろ びたと考 かんが えられる遺構 いこう を発見 はっけん してこれをトロイア遺跡 いせき と断定 だんてい した。彼 かれ はまたギリシア本土 ほんど でも素人 しろうと 考古 こうこ 学者 がくしゃ として発掘 はっくつ を行 おこな い、ミュケーナイ文化 ぶんか の遺構 いこう を見 み いだした。
20世紀 せいき に入 はい って以降 いこう 、アーサー・エヴァンズ はより厳密 げんみつ な発掘 はっくつ 調査 ちょうさ をトロイア遺跡 いせき に対 たい し行 い った。またクレーテー島 とう で見 み いだされていたクノーソスなど、文明 ぶんめい の遺跡 いせき の発掘 はっくつ も行 おこな われ、ここで彼 かれ は三 さん 種類 しゅるい の文字 もじ (絵文字 えもじ 、線 せん 文字 もじ A と線 せん 文字 もじ B )を発見 はっけん した。線 せん 文字 もじ B は間 あいだ もなく、ギリシア本土 ほんど のピュロス やティーリュンス でも使用 しよう されていたことが見 み いだされた。20世紀 せいき 半 なか ばになって、マイケル・ヴェントリス がジョン・チャドウィック の協力 きょうりょく のもと、この文字 もじ を解読 かいどく し、記 しる されているのがミケーネ語 ご であることを確認 かくにん すると共 とも に、内容 ないよう も明 あき らかにした。それらはホメーロス がうたったトロイア戦争 せんそう の歴史 れきし 的 てき な像 ぞう を復元 ふくげん する意味 いみ を持 も った。また数々 かずかず の英雄 えいゆう たちの物語 ものがたり のなかには、紀元前 きげんぜん 15世紀 せいき に遡 さかのぼ るミュケーナイ文化 ぶんか に起源 きげん を持 も つものがあることも、各地 かくち の遺跡 いせき の発掘 はっくつ 研究 けんきゅう を通 つう じて確認 かくにん された[注釈 ちゅうしゃく 7] 。
ギリシア神話 しんわ は、以下 いか の三種 さんしゅ の物語 ものがたり 群 ぐん に大別 たいべつ できる。
第 だい 一 いち の「世界 せかい の起源 きげん 」を物語 ものがた る神話 しんわ 群 ぐん は、分量 ぶんりょう 的 てき には短 みじか く、主 おも に三 みっ つの系統 けいとう が存在 そんざい する(ヘーシオドスが『神 かみ 統 みつる 記 き 』で記 しる したのは、主 しゅ として、この「世界 せかい の起源 きげん 」に関 かん する物語 ものがたり である)。
第 だい 二 に の「神 かみ 々の物語 ものがたり 」は、世界 せかい の起源 きげん の神話 しんわ と、その前半 ぜんはん において密接 みっせつ な関連 かんれん を持 も ち、後半 こうはん では、英雄 えいゆう たちの物語 ものがたり と絡 から み合 あ っている。英雄 えいゆう たちの物語 ものがたり において、人間 にんげん の運命 うんめい の背後 はいご には神 かみ 々の様々 さまざま な思惑 おもわく があり、活動 かつどう が行 おこな われ、それが英雄 えいゆう たちの物語 ものがたり にギリシア的 てき な奥行 おくゆ きと躍動 やくどう を与 あた えている。
第 だい 三 さん の「英雄 えいゆう たちの物語 ものがたり 」は、分量 ぶんりょう 的 てき にはもっとも大 おお きく、いわゆるギリシア神話 しんわ として知 し られる物語 ものがたり や逸話 いつわ は、大 だい 部分 ぶぶん がこのカテゴリーに入 はい る。この第 だい 三 さん のカテゴリーが膨大 ぼうだい な分量 ぶんりょう を持 も ち、夥 おびただ しい登場 とうじょう 人物 じんぶつ から成 な るのは、日本 にっぽん における神話 しんわ の系統 けいとう 的 てき 記述 きじゅつ とも言 い える『古事記 こじき 』や、それに並行 へいこう しつつ歴史 れきし 時代 じだい にまで記録 きろく が続 つづ く『日本書紀 にほんしょき 』がそうであるように、古代 こだい ギリシアの歴史 れきし 時代 じだい における王族 おうぞく や豪族 ごうぞく 、名家 めいか と呼 よ ばれる人々 ひとびと が、自分 じぶん たちの家系 かけい に権威 けんい を与 あた えるため、神 かみ 々や、その子 こ である「半 はん 神 かみ 」としての英雄 えいゆう や、古代 こだい の伝説 でんせつ 的 てき 英雄 えいゆう を祖先 そせん として系図 けいず 作成 さくせい を試 こころ みたからだとも言 い える。
神話 しんわ 的 てき 英雄 えいゆう や伝説 でんせつ 的 てき な王 おう などは、膨大 ぼうだい な数 かず の子孫 しそん を持 も っていることがあり、樹木 じゅもく の枝 えだ 状 じょう に子孫 しそん の数 かず が増 ふ えて行 い く例 れい は珍 めずら しいことではない。末端 まったん の子孫 しそん となると、ほとんど具体 ぐたい 的 てき エピソードがなく、単 たん なる名前 なまえ の羅列 られつ になっていることも少 すく なくない。
しかし、このように由来 ゆらい 不明 ふめい な多数 たすう の名前 なまえ と人物 じんぶつ の羅列 られつ があるので、歴史 れきし 時代 じだい のギリシアにおける多少 たしょう とも名前 なまえ のある家柄 いえがら の市民 しみん は、自分 じぶん は神話 しんわ に記載 きさい されている誰 だれ それの子孫 しそん であると主張 しゅちょう できたとも言 い える。ウェルギリウス の『アエネーイス 』が、ローマ人 じん の先祖 せんぞ をトロイエー戦争 せんそう にまで遡 さかのぼ らせているのは明 あき らかに神話 しんわ 的 てき 系譜 けいふ の捏造 ねつぞう であるが、これもまた、広義 こうぎ にはギリシア神話 しんわ だとも言 い える(正確 せいかく には、ギリシア神話 しんわ に接続 せつぞく させ、分岐 ぶんき させた「ローマ神話 しんわ 」である)。ウェルギリウスは、ギリシア人 じん 自身 じしん が、古代 こだい より行 おこ なって来 き たことを、紀元前 きげんぜん 1世紀 せいき 後半 こうはん に、ラテン語 らてんご で行 おこ なったのである。
神話 しんわ 1:世界 せかい の始 はじ まり[ 編集 へんしゅう ]
古代 こだい ギリシア人 ひと は他 た の民族 みんぞく と同様 どうよう に、世界 せかい は原初 げんしょ の時代 じだい より存在 そんざい したものであるとの素朴 そぼく な思考 しこう を持 も っていた。しかし、ゼウス を主神 しゅしん とするコスモス (秩序 ちつじょ 宇宙 うちゅう )の観念 かんねん が成立 せいりつ するにつれ、おのずと哲学 てつがく 的 てき な構想 こうそう を持 も つ世界 せかい の始原 しげん 神話 しんわ が語 かた られるようになった。それらは代表 だいひょう 的 てき に四 よん 種類 しゅるい のものが知 し られる(ただし、2と3は、同 おな じ起源 きげん を持 も つことが想定 そうてい される)。
神 かみ 々の系譜 けいふ や人間 にんげん の起源 きげん などを系統的 けいとうてき な神話 しんわ に纏 まと めあげたヘーシオドス は『神 かみ 統 みつる 記 き 』にて、二 ふた つの主要 しゅよう な起源 きげん 説 せつ を伝 つた えている。
ヘーシオドスは古代 こだい オリエント などの神話 しんわ の影響 えいきょう を受 う けたと考 かんが えられ、後 のち に「混沌 こんとん 」と解釈 かいしゃく されるカオス が最初 さいしょ に存在 そんざい したとしている。ただし、彼 かれ はカオスを混沌 こんとん の意味 いみ では使 つか っていない。それは空隙 くうげき であり、カズムとも呼 よ ばれる[22] 。その後 ご 、大地 だいち (ガイア )が万物 ばんぶつ の初 はつ 源 みなもと としてカオスのなかに存在 そんざい を現 あらわ し、天 てん (ウーラノス )との交 まじ わりによって様々 さまざま な神 かみ 々を生 う み出 だ したとされる。ウーラノス、クロノス 、そしてゼウス にわたる三 さん 代 だい の王権 おうけん の遷移 せんい がここで語 かた られることになる[22] [注釈 ちゅうしゃく 8] 。
他方 たほう 、ヘーシオドスは、上記 じょうき とは起源 きげん が異 こと なると考 かんが えられる、自然 しぜん 哲学 てつがく 的 てき 構想 こうそう を備 そな えた世界 せかい の始 はじめ 源 げん 神話 しんわ を同 おな じ『神 かみ 統 みつる 記 き 』においてうたっている[24] 。胸 むね 広 ひろ きガイアが存在 そんざい し、それと共 とも に、地下 ちか の幽冥 ゆうめい タルタロス と何 なに よりも美 うつく しいエロース (愛 あい )が生 う まれたとする。原初 げんしょ にエロースが生 う まれたとするのは、オルペウス教 きょう の始原 しげん 神話 しんわ に通 つう じている。エロースは生殖 せいしょく にあって大 おお きな役割 やくわり を果 は たし、それ故 こ 、愛 あい が最初 さいしょ に存在 そんざい したとする。
第 だい 三 さん の宇宙 うちゅう 観 かん は哲学 てつがく 的 てき ・宗教 しゅうきょう 的 てき に体系 たいけい 化 か されていたと考 かんが えられ、オルペウス教 きょう が基盤 きばん を置 お いた、あるいはこの宗教 しゅうきょう が提唱 ていしょう した世界 せかい の初 はつ 源 みなもと 神話 しんわ である。オルペウス教 きょう は多様 たよう な神話 しんわ を持 も っており、断片 だんぺん 的 てき な複数 ふくすう の文書 ぶんしょ が伝 つた える内容 ないよう には異同 いどう がある[注釈 ちゅうしゃく 9] 。その特徴 とくちょう としては、原初 げんしょ に水 みず や泥 どろ があり、大地 だいち (ガイア)も存在 そんざい し、クロノス =時 とき Chronos(ウーラノスの子 こ のクロノス Kronos とは異 こと なる)やエロースが原初 げんしょ にあった。そして「原初 げんしょ の卵 たまご 」が語 かた られ、他 た のギリシア神話 しんわ では語 かた られない、パネース (Φανης )あるいはプロートゴノス (Πρωτογονος )が存在 そんざい したとする。
以上 いじょう に挙 あ げた世界 せかい の始原 しげん 神話 しんわ 以外 いがい に、第 だい 四 よん のものとして、ホメーロスが『イーリアス 』でうたっている、より古 ふる く単純 たんじゅん とも言 い える始原 しげん についての神話 しんわ がある。それは万物 ばんぶつ のはじめにオーケアノス (海洋 かいよう ・外洋 がいよう の流 なが れ)が存在 そんざい したという神話 しんわ で、彼 かれ と共 とも に妻 つま テーテュース が存在 そんざい したとされる。この両 りょう 神 かみ の交 まじ わりより、多数 たすう の神 かみ や世界 せかい の要素 ようそ が生 う み出 だ されて来 き たとする。これは素朴 そぼく な神話 しんわ で、海岸 かいがん 部 ぶ の住民 じゅうみん が信 しん じていた始原 しげん 神話 しんわ と考 かんが えられる[注釈 ちゅうしゃく 10] 。
自然 しぜん 哲学 てつがく 的 てき な始原 しげん の神 かみ 々[ 編集 へんしゅう ]
金 かね のエロース
ヘーシオドスがうたう第 だい 二 に の自然 しぜん 哲学 てつがく 的 てき な世界 せかい 創造 そうぞう と諸々 もろもろ の神 かみ の誕生 たんじょう は、自然 しぜん 現象 げんしょう や人間 にんげん における定 さだ めや矛盾 むじゅん ・困難 こんなん を擬人 ぎじん 的 てき に表現 ひょうげん したものとも言 い える。このような形 かたち の神 かみ 々の誕生 たんじょう の系譜 けいふ は、例 たと えば日本 にっぽん 神話 しんわ (『古事記 こじき 』)にも見 み られ、世界 せかい の文化 ぶんか で広 ひろ く認 みと められる始原 しげん 伝承 でんしょう である。『神 かみ 統 みつる 記 き 』に従 したが うと、次 つぎ のような始原 しげん の神 かみ 々が誕生 たんじょう したことになる。
まず既 すで に述 の べた通 とお り、カオス (空隙 くうげき )と、そのうちに存在 そんざい する胸 むね 広 ひろ きガイア (大地 だいち )、そして暗 くら 冥 めい のタルタロス と最 もっと も美 うつく しい神 かみ エロース である。ガイアより更 さら に、幽冥 ゆうめい のエレボス (暗黒 あんこく )と暗 くら きニュクス (夜 よる )が生 しょう じた。ガイアはまた海 うみ の神 かみ ポントス を生 う み、ポントスから海 うみ の老人 ろうじん ネーレウス が生 う まれた。またポントスの息子 むすこ タウマース より、イーリス (虹 にじ )、ハルピュイアイ 、そしてゴルゴーン 三 さん 姉妹 しまい 等 とう が生 う まれた。
一方 いっぽう 、ニュクスよりはアイテール (高天 こうてん の気 き )とヘーメラー (昼 ひる )が生 しょう じた。またニュクスはタナトス (死 し )、ヒュプノス (睡眠 すいみん )、オネイロス (夢 ゆめ )、そして西方 せいほう の黄金 おうごん の林檎 りんご で著名 ちょめい なヘスペリデス (ヘスペリス =夕刻 ゆうこく ・黄昏 たそがれ の複数 ふくすう 形 がた )を生 う み出 だ した。更 さら に、モイライ (運命 うんめい )、ネメシス (応報 おうほう )、エリス (闘争 とうそう ・不和 ふわ )なども生 う みだし、この最後 さいご のエリスからは、アーテー (破滅 はめつ )を含 ふく む様々 さまざま な忌 い まわしい神 かみ 々が生 う まれたとされる[22] 。
神話 しんわ 2:オリュンポス以前 いぜん [ 編集 へんしゅう ]
ゼウス の王権 おうけん が確立 かくりつ し、やがてオリュンポス十 じゅう 二 に 神 かみ を中心 ちゅうしん としたコスモス (秩序 ちつじょ )が世界 せかい に成立 せいりつ する。しかし、このゼウスの王権 おうけん 確立 かくりつ は紆余曲折 うよきょくせつ しており、ゼウスは神 かみ 々の王朝 おうちょう の第 だい 三 さん 代 だい の王 おう である。
最初 さいしょ に星 ほし 鏤 ちりば めるウーラノス (天 てん )がガイア (大地 だいち )の夫 おっと であり、原初 げんしょ の神 かみ 々の父 ちち であり、神 かみ 々の王 おう であった。しかしガイアは、生 う まれてくる子 こ らの醜 みにく さを嫌 きら ってタルタロス に幽閉 ゆうへい した夫 おっと 、ウーラノスに恨 うら みを持 も った。ウーラノスの末 すえ 息子 むすこ であるクロノス がガイアにそそのかされて、巨大 きょだい な鎌 かま を振 ふ るって父親 ちちおや の男根 だんこん を切 き り落 お とし、その王権 おうけん を簒奪 さんだつ したとされる。このことはヘーシオドスがすでに記述 きじゅつ していることであり、先代 せんだい の王者 おうじゃ の去勢 きょせい による王権 おうけん の簒奪 さんだつ は神話 しんわ としては珍 めずら しい。これはヒッタイト のフルリ人 じん の神話 しんわ に類例 るいれい が見 み いだされ、この神話 しんわ の影響 えいきょう があるとも考 かんが えられる[注釈 ちゅうしゃく 11] 。
クロノスとティーターン神 しん [ 編集 へんしゅう ]
天使 てんし 像 ぞう のクロノス
ウーラノス より世界 せかい の支配 しはい 権 けん を奪 うば ったクロノス は、第 だい 二 に 代 だい の王権 おうけん を持 も つことになる。クロノスはウーラノスとガイア が生 う んだ子供 こども たちのなかの末弟 ばってい であり、彼 かれ の兄 あに と姉 あね に当 あ たる神 かみ 々は、クロノスの王権 おうけん の下 もと で、世界 せかい を支配 しはい ・管掌 かんしょう する神 かみ 々となる。とはいえ、この時代 じだい にはまだ、神 かみ 々の役割 やくわり 分担 ぶんたん は明確 めいかく でなかった。クロノスの兄弟 きょうだい 姉妹 しまい たちはティーターン の神 かみ 々と呼 よ ばれ、オリュンポス十 じゅう 二 に 神 かみ に似 に て、主要 しゅよう な神 かみ 々は「ティーターンの十 じゅう 二 に の神 かみ 」と呼 よ ばれる。
これらのティーターンの十 じゅう 二 に の神 かみ としては、通常 つうじょう 、次 つぎ の神 かみ 々が挙 あ げられる。まず1)主神 しゅしん たるクロノス 、2)その妻 つま である女神 めがみ レアー 、3)長子 ちょうし オーケアノス 、4)コイオス 、5)ヒュペリーオーン 、6)クレイオス 、7)イーアペトス 、8)女神 めがみ テーテュース 、9)女神 めがみ テミス (法 ほう )、10)女神 めがみ ムネーモシュネー (記憶 きおく )、11)女神 めがみ ポイベー 、12)女神 めがみ テイアー である。アポロドーロス は女神 めがみ ディオーネー をクロノスの姉妹 しまい に挙 あ げているが、この名 な はゼウス の女性 じょせい 形 がた であり、女神 めがみ の性格 せいかく には諸説 しょせつ がある。
ティーターンにはこれ以外 いがい にも、子孫 しそん が多数 たすう 存在 そんざい した。後 のち にティーターンはオリュンポス神 かみ 族 ぞく に敗 やぶ れ、タルタロス に落 お とされるが、全員 ぜんいん が罰 ばっ を受 う けた訳 わけ ではない。広義 こうぎ のティーターンの一族 いちぞく には、イーアペトスの子 こ であるアトラース 、プロメーテウス 、エピメーテウス や、ヒュペリーオーン の子 こ であるエーオース (暁 あかつき )、セレーネー (月 つき )、ヘーリオス (太陽 たいよう )などがいた[33] 。
神 かみ 々の王 おう クロノスはしかし、母 はは ガイアと父 ちち ウーラノスから呪 のろ いの予言 よげん を受 う ける。クロノス自身 じしん も、やがて王権 おうけん をその息子 むすこ に簒奪 さんだつ されるだろうというもので、クロノスはこれを怖 こわ れて、レアーとのあいだに生 う まれてくる子供 こども をすべて飲 の み込 こ む。レアーはこれに怒 いか り、密 ひそ かに末子 まっし ゼウスを身 み 籠 こ もり出産 しゅっさん 、石 いし を産着 うぶぎ にくるんで赤子 あかご と偽 いつわ りクロノスに渡 わた した。
オリュンポス神 しん の台頭 たいとう と勝利 しょうり [ 編集 へんしゅう ]
ゼウスが成年 せいねん に達 たっ すると、彼 かれ は父親 ちちおや クロノスに叛旗 はんき を翻 ひるがえ し、まずクロノスに薬 くすり を飲 の ませて彼 かれ が飲 の み込 こ んでいたゼウスの姉 ねえ や兄 けい たちを吐 は き出 だ させた。クロノスは、ヘスティアー 、デーメーテール 、ヘーラー の三 さん 女神 めがみ 、そして次 つぎ にハーデース とポセイドーン 、そしてゼウスの身代 みが わりの石 いし を飲 の み込 こ んでいたので、順序 じゅんじょ を逆 ぎゃく にしてこれらの石 いし と神 かみ 々を吐 は き出 だ した。
オリュンポス神 しん とティーターノマキアー
ゼウスたち兄弟 きょうだい 姉妹 しまい は力 ちから を合 あ わせてクロノスとその兄弟 きょうだい 姉妹 しまい たち、すなわちティーターン の一族 いちぞく と戦争 せんそう を行 おこな った。これをティーターノマキアー (ティーターンの戦争 せんそう )と呼 よ ぶ。ゼウス、ハーデース、ポセイドーンの三 さん 神 かみ はティーターノマキアーにおいて重要 じゅうよう な役割 やくわり を果 は たし、特 とく にゼウスは雷霆 らいてい を投 な げつけて地球 ちきゅう や全 ぜん 宇宙 うちゅう 、そしてその根源 こんげん であるカオス までも焼 や き払 はら い、ティーターンたちに大 だい 打撃 だげき を与 あた え、勝利 しょうり した[22] 。その後 ご ティーターン族 ぞく をタルタロス に幽閉 ゆうへい し、百 ひゃく 腕 うで 巨 きょ 人 じん (ヘカトンケイレス )を番人 ばんにん とした。こうして勝利 しょうり したゼウスたちは互 たが いにくじを引 ひ き、その結果 けっか 、ゼウスは天空 てんくう を、ポセイドーンは海洋 かいよう を、ハーデースは冥府 めいふ をその支配 しはい 領域 りょういき として得 え た。
しかしガイア はティーターンをゼウスたちが幽閉 ゆうへい したことに怒 いか り、ギガース (巨人 きょじん )たちをゼウスたちと戦 たたか う様 よう に仕向 しむ けた。ギガースたち(ギガンテス )は巨大 きょだい な体 からだ と獰猛 どうもう な気性 きしょう を備 そな え、彼 かれ らは大挙 たいきょ してゼウスたちの一族 いちぞく に戦 たたか いを挑 いど んだ。ゼウスたちは苦戦 くせん するが、シケリア島 とう をギガースの上 うえ に投 な げおろすなど、激 はげ しい争 あらそ いの末 すえ にこれを打破 だは した。これらの戦 たたか いをギガントマキアー (巨人 きょじん の戦争 せんそう )と呼称 こしょう する。
しかし、ガイアはなお諦 あきら めず、更 さら に怒 おこ ってタルタロス と交 まじ わり、怪物 かいぶつ テューポーン を生 う み出 だ した。テューポーンは灼熱 しゃくねつ の噴流 ふんりゅう で地球 ちきゅう を焼 や き尽 つ くし、天 てん に突進 とっしん して全 ぜん 宇宙 うちゅう を大 だい 混乱 こんらん の渦 うず に叩 たた き込 こ むなど、圧倒的 あっとうてき な強 つよ さを誇 ほこ ったが、オリュンポス神 かみ 族 ぞく の連携 れんけい によって遂 つい に敗北 はいぼく し滅 ほろ ぼされた。
かくして、ゼウスの王権 おうけん は確立 かくりつ した。
神話 しんわ 3:オリュンポスの世界 せかい [ 編集 へんしゅう ]
オリュンポス山 さん
神 かみ 々は、ホメーロス によれば、オリュンポス の高山 こうざん に宮 みや 敷居 しきい まし、山頂 さんちょう の宮殿 きゅうでん にあって、絶 た えることのない饗宴 きょうえん で日々 ひび を過 す ごしているとされる。神 かみ 々は不死 ふし であり、神 かみ 食 しょく (アムブロシアー )を食 た べ、神酒 みき (ネクタール )を飲 の んでいるとされる[37] 。
ゼウス の王権 おうけん の下 した 、世界 せかい の秩序 ちつじょ の一部 いちぶ をそれぞれ管掌 かんしょう するこれらの神 かみ 々は、オリュンポス の神 かみ 々とも呼 よ ばれ、その主要 しゅよう な神 かみ は古 ふる くから「十二 じゅうに の神 かみ 」(オリュンポス十 じゅう 二 に 神 かみ )として人々 ひとびと に把握 はあく されていた。十二 じゅうに の神 かみ は二 ふた つの世代 せだい に分 わ かれ、クロノス とレアー の息子 むすこ ・娘 むすめ (ゼウスの兄弟 きょうだい 姉妹 しまい )に当 あ たる第 だい 一 いち 世代 せだい の神 かみ 々と、ゼウスの息子 むすこ ・娘 むすめ に当 あ たる第 だい 二 に 世代 せだい の神 かみ 々がいる。
時代 じだい と地方 ちほう 、伝承 でんしょう によって、幾分 いくぶん かの違 ちが いがあるが、主要 しゅよう な十 じゅう 二 に の神 かみ は、第 だい 一 いち 世代 せだい の神 かみ 、1)秩序 ちつじょ (コスモス)の象徴 しょうちょう でもある神 かみ 々の父 ちち ゼウス 、2)ヘーラー 女神 めがみ 、3)ポセイドーン 、4)デーメーテール 女神 めがみ 、5)ヘスティアー 女神 めがみ の5柱 はしら に、第 だい 二 に 世代 せだい の神 かみ として、6)アポローン 、7)アレース 、8)ヘルメース 、9)ヘーパイストス 、10)アテーナー 女神 めがみ 、11)アプロディーテー 女神 めがみ 、12)アルテミス 女神 めがみ の7柱 はしら である。また、ヘスティアーの代 か わりに、ディオニューソス を十 じゅう 二 に 神 かみ とする場合 ばあい がある。ハーデース とその后 きさき ペルセポネー は、地下 ちか (クトニオス)の神 かみ とされ、オリュンポスの神 かみ ではないが、主要 しゅよう な神 かみ として、十二神 じゅうにしん のなかに数 かぞ える場合 ばあい がある[注釈 ちゅうしゃく 12] 。
それぞれの神 かみ は、崇拝 すうはい の根拠地 こんきょち を持 も つのが普通 ふつう で、また神 かみ 々の習合 しゅうごう が起 お こっているとき、広範囲 こうはんい にわたる地方 ちほう の神 かみ 々を取 と り込 こ んだ神 かみ は、多 おお くの崇拝 すうはい の根拠地 こんきょち を持 も つことにもなる。アテーナイ のパルテノン神殿 しんでん 小 しょう 壁 かべ には、十二 じゅうに の神 かみ の彫像 ちょうぞう が刻 きざ まれているが、この十 じゅう 二 に 神 かみ は、上記 じょうき の一覧 いちらん と一致 いっち している(ディオニューソスが十 じゅう 二 に 神 かみ に入 はい っている)。
オリュンポスの神 かみ 々 1 [ 編集 へんしゅう ]
オリュンポスを代表 だいひょう する十二 じゅうに の神 かみ と地下 ちか の神 かみ ハーデース 等 ひとし 以外 いがい にも、オリュンポスの世界 せかい には様々 さまざま な神 かみ 々が存在 そんざい する。彼 かれ らはオリュンポスの十 じゅう 二 に 神 かみ や他 た の有力 ゆうりょく な神 かみ が、エロース の力 ちから によって互 たが いに交 まじ わることによって生 う まれた神 かみ である。また、広義 こうぎ のティーターン の一族 いちぞく に属 ぞく する者 もの にも、オリュンポスの一員 いちいん として神 かみ 々の席 せき の一端 いったん を占 し め、重要 じゅうよう な役割 やくわり を担 にな っている者 もの がある。
神 かみ 々のあいだの婚姻 こんいん あるいは交 まじ わりによって生 う まれた神 かみ には次 つぎ のような者 もの がいる。
ゼウスの息子 むすこ と娘 むすめ [ 編集 へんしゅう ]
神 かみ 々の父 ちち ゼウス とテティス
神 かみ 々の父 ちち ゼウス は、真偽 しんぎ を知 し る知恵 ちえ の女神 めがみ メーティス を最初 さいしょ の妻 つま とした。ゼウスはメーティスが妊娠 にんしん したのを知 し るや、これを飲 の み込 こ んだ。メーティスの智慧 ちえ はこうしてゼウスのものとなり、メーティスよりゼウスの第 だい 一 いち の娘 むすめ アテーナー が生 う まれる。ゼウスの正妻 せいさい は神 かみ 々の女王 じょおう ヘーラー である。ヘーラーとのあいだには、アレース 、ヘーパイストス 、青春 せいしゅん の女神 めがみ ヘーベー 、出産 しゅっさん の女神 めがみ エイレイテュイア が生 う まれる。また、大地 だいち の豊穣 ほうじょう の女神 めがみ デーメーテール とのあいだには、冥府 めいふ の女王 じょおう ペルセポネー をもうけた。
ゼウスはまた、ティーターン神 しん 族 ぞく のディオーネー とのあいだにアプロディーテー をもうける。アプロディーテーは、クロノス が切断 せつだん した父 ちち ウーラノス の男根 だんこん を海 うみ に投 な げ入 い れた際 さい 、そのまわりに生 しょう じた泡 あわ より生 う まれたとの説 せつ もあるが、オリュンポスの系譜 けいふ 上 じょう はゼウスの娘 むすめ である[注釈 ちゅうしゃく 13] 。ゼウスは、ティーターン の一族 いちぞく コイオス の娘 むすめ レートー とのあいだにアルテミス 女神 めがみ とアポローン の姉 あね 弟 おとうと の神 かみ をもうけた。更 さら にティーターンであるアトラース の娘 むすめ マイア とのあいだにヘルメース をもうけた。最後 さいご に、人間 にんげん の娘 むすめ セメレー と交 まじ わってディオニューソス をもうけた。
アテーナーはメーティスの娘 むすめ であるが、その誕生 たんじょう はゼウスの頭部 とうぶ から武装 ぶそう して出現 しゅつげん したとされる。また、これに対抗 たいこう して妃 ひ ヘーラーは、独力 どくりょく で息子 むすこ ヘーパイストスを生 う んだともされる。
ゼウスは更 さら に、ティーターン の女神 めがみ 達 たち と交 まじ わり、運命 うんめい や美 よし や季 き 節 ぶし 、芸術 げいじゅつ の神 かみ 々をもうける。法律 ほうりつ ・掟 おきて の女神 めがみ テミス とのあいだに、ホーライ の三 さん 女神 めがみ とモイライ の三 さん 女神 めがみ を、オーケアノス とテーテュース の娘 むすめ エウリュノメー とのあいだにカリテス (優雅 ゆうが =カリス )の三 さん 女神 めがみ を、そして記憶 きおく の女神 めがみ ムネーモシュネー とのあいだに九 きゅう 柱 はしら の芸術 げいじゅつ の女神 めがみ ムーサイ (ムーサ )をもうけた。
十二神 じゅうにしん の息子 むすこ と娘 むすめ [ 編集 へんしゅう ]
有 ゆう 翼 つばさ のエロス
オリュンポスの十二 じゅうに の神 かみ 々は、ゼウスを例外 れいがい として、子 こ をもうけないか、もうけたとしても少 すく ない場合 ばあい がほとんどである。ポセイドーン は比較的 ひかくてき 息子 むすこ に恵 めぐ まれているが、アンピトリーテー とのあいだに生 う まれた、むしろ海 うみ の一族 いちぞく とも言 い えるトリートーン 、ベンテシキューメー 、ヘーリオスの妻 つま ロデー を除 のぞ くと、怪物 かいぶつ や馬 うま や乱暴 らんぼう な人間 にんげん が多 おお い。
美 び の女神 めがみ アプロディーテー は人気 にんき の高 たか い女神 めがみ であったからか数 すう 多 おお くの神話 しんわ に登場 とうじょう し、多 おお くの子 こ どもを生 う んだが、その父親 ちちおや は子 こ どもの数 かず と同 おな じくらい多 おお かった。彼女 かのじょ の夫 おっと は鍛冶 たんや の神 かみ ヘーパイストス とされるが、愛人 あいじん のアレース とのあいだに、デイモス (恐慌 きょうこう )とポボス (敗走 はいそう )の兄弟 きょうだい がある。またヘーシオドスが、原初 げんしょ の神 かみ として最初 さいしょ に生 う まれたとしている愛 あい 神 しん エロース はアプロディーテーとアレースの息子 むすこ であるとされることもある。この説 せつ はシモーニデース が最初 さいしょ に述 の べたとされる[44] 。しかしエロースをめぐっては誰 だれ の息子 むすこ であるのかについて諸説 しょせつ あり、エイレイテュイア の子 こ であるとも、西風 せいふう ゼピュロス とエーオース の子 こ であるとも、ヘルメース の子 こ 、あるいはゼウスの子 こ であるともされる[注釈 ちゅうしゃく 14] [注釈 ちゅうしゃく 15] 。エロースと対 たい になる愛 あい 神 しん アンテロース もアレースとアプロディーテーの子 こ だとされる。
他 た のオリュンポスの有力 ゆうりょく な神 かみ 々、ハーデース 、ヘルメース、ヘーパイストス、ディオニューソス には目立 めだ った子 こ がいない。アポローン は知性 ちせい に充 み ちる美 び 青年 せいねん の像 ぞう で考 かんが えられていたので、恋愛 れんあい 譚 たん が多数 たすう あり、恋人 こいびと の数 かず も多 おお いが、神 かみ となった子 こ はいない。ただし、彼 かれ の子 こ ともされるオルペウス [注釈 ちゅうしゃく 16] やアスクレーピオス が、例外 れいがい 的 てき に死後 しご に神 かみ となった。
オリュンポスの神 かみ 々 2 [ 編集 へんしゅう ]
エーオース とアポローン
広義 こうぎ のティーターン の子孫 しそん も、オリュンポスの神 かみ 々に数 かぞ えられる。ティーターンたちはティーターノマキアー での敗北 はいぼく の後 のち 、タルタロス に落 お とされたが、後 のち にゼウスは彼 かれ らを赦 ゆる したという話 はなし があり、ピンダロス は『ピューティア第 だい 四 よん 祝勝 しゅくしょう 歌 か 』のなかで、ティーターンの解放 かいほう に言及 げんきゅう している[46] [注釈 ちゅうしゃく 17] 。戦 たたか いに敗 やぶ れたティーターンはその後 ご 、神話 しんわ に姿 すがた を現 あらわ さないが、その子供 こども たちや、ウーラノス の子孫 しそん たちは、オリュンポスの秩序 ちつじょ のなかで一定 いってい の役割 やくわり を受 う けて活動 かつどう している。
イーアペトス の子 こ アトラース は、天空 てんくう を背 せ に支 ささ え続 つづ けるという苦役 くえき に耐 た えている。兄弟 きょうだい のプロメーテウス は戦争 せんそう には加 くわ わらなかったが、ゼウスを欺した罪 つみ でカウカーソス の山頂 さんちょう で生 い きたまま鷲 わし に毎日 まいにち 肝臓 かんぞう を食 く われるという罰 ばっ を受 う けていたところ、ヘーラクレース が鷲 わし を殺 ころ して解放 かいほう した。ヒュペリーオーン とテイアー の子 こ エーオース 、セレーネー 、ヘーリオス は、オリュンポスの神 かみ 々のなかでも良 よ く知 し られた存在 そんざい である。エーオースは星 ほし 神 しん アストライオス とのあいだに、西風 せいふう ゼピュロス 、南風 みなみかぜ ノトス 、北風 きたかぜ ボレアース などの風 かぜ の神 かみ と多数 たすう の星 ほし の神 かみ を生 う んだ。またアテーナーの傍 かたわ らにあるニーケー (勝利 しょうり )もティーターンの娘 むすめ であるが、ゼウスに味方 みかた した。
原初 げんしょ の神 かみ でもあったポントス とその息子 むすこ の海 うみ の老人 ろうじん ネーレウス は、ポセイドーンに役職 やくしょく を奪 うば われたように見 み えるが、彼 かれ らの末裔 まつえい は、数 かず 知 し れぬネーレイデス (海 うみ の娘 むすめ たち)となり、ニュンペー として、あるいは女神 めがみ として活躍 かつやく する[注釈 ちゅうしゃく 18] 。ポントスの一族 いちぞく である虹 にじ の女神 めがみ イーリス は神 かみ 々の使者 ししゃ として活躍 かつやく している。また、広義 こうぎ のティーターン一族 いちぞく に属 ぞく するアトラースは、オーケアノスの娘 むすめ プレーイオネー とのあいだにプレイアデス の七 なな 柱 はしら の女神 めがみ をもうけた。彼女 かのじょ たちは、星 ほし 鏤 ちりば める天 てん にあって星座 せいざ として耀 かがや いている。
ニュンペーと精霊 せいれい たち [ 編集 へんしゅう ]
ニュンペー
ティーターノマキアー の勝利 しょうり の後 のち 、ゼウス、ハーデース、ポセイドーンの兄弟 きょうだい はくじを引 ひ いてそれぞれの支配 しはい 領域 りょういき を決 き めたが、地上 ちじょう 世界 せかい は共同 きょうどう で管掌 かんしょう することとした。地上 ちじょう はガイア の世界 せかい であり、ガイアそのものとも言 い えた。地上 ちじょう には陸地 りくち と海洋 かいよう があり、河川 かせん 、湖沼 こしょう 、また緑 みどり 豊 ゆた かな樹木 じゅもく の繁 しげ る森林 しんりん や、草 くさ 花 はな の咲 さ き薫 かお る野原 のはら 、清 きよ らかな泉 いずみ などがあった。
地上 ちじょう は人間 にんげん の暮 く らす場所 ばしょ であり、また数 すう 多 おお くの動物 どうぶつ たちや植物 しょくぶつ が棲息 せいそく し繁茂 はんも する場所 ばしょ でもある。そして太古 たいこ よりそこには、様々 さまざま な精霊 せいれい が存在 そんざい していた。精霊 せいれい の多 おお くは女性 じょせい であり、彼女 かのじょ たちはニュンペー (ニンフ)と呼 よ ばれた。nymphe(ν にゅー υ うぷしろん μ みゅー φ ふぁい η いーた )とはギリシア語 ご で「花嫁 はなよめ 」を意味 いみ する言葉 ことば でもあり、彼女 かのじょ たちは若 わか く美 うつく しい娘 むすめ の姿 すがた であった[注釈 ちゅうしゃく 19] 。
ニュンペーは、例 たと えばある特定 とくてい の樹 き の精霊 せいれい であった場合 ばあい 、その樹 き の枯死 こし と共 とも に消 き え去 さ ってしまうこともあったが、多 おお くの場合 ばあい 、人間 にんげん の寿命 じゅみょう を遙 はる かに超 こ える長 なが い寿命 じゅみょう を持 も っており、神 かみ 々同様 どうよう に不死 ふし のニュンペーも存在 そんざい した[注釈 ちゅうしゃく 20] 。
森林 しんりん や山野 さんや の処女 しょじょ のニュンペーはアルテミス 女神 めがみ に付 つ き従 したが うのが普通 ふつう であり、また、パーン やヘルメース なども、ニュンペーに親 した しい神 かみ であった。古代 こだい のギリシアには、ニュンペーに対 たい する崇拝 すうはい ・祭儀 さいぎ が存在 そんざい したことがホメーロスによって言及 げんきゅう されており、これは考古学 こうこがく 的 てき にも確認 かくにん されている。ニュンペーは恋 こい する乙女 おとめ であり、神 かみ 々や精霊 せいれい 、人間 にんげん と交 まじ わって子 こ を生 う むと、母 はは となり妻 つま ともなった。多 おお くの英雄 えいゆう がニュンペー を母 はは として誕生 たんじょう している。
ニュンペーはその住処 すみか によって呼 よ び名 な が異 こと なる。
ネーレーイデス
陸地 りくち のニュンペーとしては次 つぎ のようなものがある。1)メリアデス(単数 たんすう :メリアス )はもっとも古 ふる くからいるニュンペーで、ウーラノス の子孫 しそん ともされる。トネリコ の樹 き の精霊 せいれい である。2)オレイアデス (単数 たんすう :オレイアス )は山 やま のニュンペーである。3)アルセイデス (単数 たんすう :アルセイス )は森 もり や林 はやし のニュンペーである。4)ドリュアデス (単数 たんすう :ドリュアス )は樹木 じゅもく に宿 やど るニュンペーである。5)ナパイアイ (単数 たんすう :ナパイアー )は山間 さんかん の谷間 たにま に住 す むニュンペーである。6)ナーイアデス (単数 たんすう :ナーイアス )は淡水 たんすい の泉 いずみ や河 かわ のニュンペーである。
これらのニュンペーは陸地 りくち に住処 すみか を持 も つ者 もの たちである。一方 いっぽう 、海洋 かいよう にはオーケアノスの娘 むすめ たちやネーレウスの娘 むすめ たちが多数 たすう おり、彼女 かのじょ らは美 うつく しい娘 むすめ で、ときに女神 めがみ に近 ちか い存在 そんざい であることがある。
海洋 かいよう のニュンペーはむしろ女神 めがみ に近 ちか い。1)オーケアニデス (単数 たんすう :オーケアニス )は、オーケアノスがその姉妹 しまい テーテュースのあいだにもうけた娘 むすめ たちで、3000人 にん 、つまり無数 むすう にいるとされる。この二 に 柱 はしら の神 かみ からはまた、すべての河川 かせん の神 かみ が息子 むすこ として生 う まれており、河川 かせん の神 かみ とオーケアニスたちは姉 あね 弟 おとうと ・兄妹 きょうだい の関係 かんけい にあることになる。冥府 めいふ の河 かわ であるステュクス や、ケイローン の母 はは となったピリュラー 、アトラース 、プロメーテウス 兄弟 きょうだい の母 はは であるクリュメネー などが知 し られる。2)ネーレーイデス (単数 たんすう :ネーレーイス )は、ネーレウス とオーケアノス の娘 むすめ ドーリス のあいだの娘 むすめ で、50人 にん いるとも、100人 にん いるともされる。アンピトリーテー 、テティス 、ガラテイア 、カリュプソー などが知 し られる。
山野 さんや の精霊 せいれい と河 かわ 神 しん [ 編集 へんしゅう ]
ケイローン と少年 しょうねん
ニュンペーは自然 しぜん 界 かい にいる女性 じょせい の精霊 せいれい で、なかには神 かみ 々と等 ひと しい者 もの もいた。他方 たほう 、地上 ちじょう の世界 せかい にはニュンペーと対 たい になっているとも言 い える男性 だんせい の精霊 せいれい が存在 そんざい した。彼 かれ らはその姿 すがた が、人間 にんげん とはいささか異 こと なる場合 ばあい があった。彼 かれ らは山野 さんや の精霊 せいれい で、具体 ぐたい 的 てき には1)パーン (別名 べつめい アイギパーン、「山羊 やぎ の姿 すがた のパーン」の意 い )、2)ケンタウロス 、3)シーレーノス 、4)サテュロス などが挙 あ げられる。彼 かれ らの姿 すがた は、上半身 じょうはんしん は人間 にんげん に近 ちか いが、下半身 かはんしん が馬 うま や山羊 やぎ であったり、額 がく に角 かく があったりする。
上記 じょうき の中 なか でパーンは別格 べっかく とも言 い え、ヘルメース とドリュオプス の娘 むすめ ドリュオペー のあいだの子 こ で、オリュンポス の神 かみ の一員 いちいん でもある。ただしパーンが誰 だれ の子 こ かということについては諸説 しょせつ ある。シューリンクス という笛 ふえ を好 この み、好色 こうしょく でもあった。ケンタウロスは半 はん 人 にん 半 はん 馬 ば の姿 すがた で、乱暴 らんぼう かつ粗野 そや であるが、ケイローン だけは異 こと なり、医術 いじゅつ に長 た け、また不死 ふし であった。シーレーノスとサテュロスについては、前者 ぜんしゃ は馬 うま に似 に て年長 ねんちょう であり、後者 こうしゃ は山羊 やぎ に似 に ていた。粗野 そや で好色 こうしょく で、ニュンペー たちと戯 じゃ れ暴 あば れ回 まわ ることが多々 たた あった[49] 。
彼 かれ らが山野 さんや の精霊 せいれい であるのに対 たい し、地上 ちじょう の多数 たすう の河川 かせん には、オーケアノス とテーテュース の息子 むすこ である河川 かせん の精霊 せいれい あるいは神 かみ がいた(『イーリアス』21章 しょう 。『神 かみ 統 みつる 記 き 』)。彼 かれ らは普通 ふつう 「河 かわ 神 しん (river-gods)」と呼 よ ばれるので、精霊 せいれい よりは格 かく が高 たか いと言 い える。3000人 にん いるとされるオーケアニデス の兄弟 きょうだい に当 あ たる。河 かわ 神 しん に対 たい する崇拝 すうはい もあり、彼 かれ らのための儀礼 ぎれい と社殿 しゃでん などもあった。スカマンドロス 河 かわ 神 しん とアケローオス 河 かわ 神 しん がよく知 し られる[50] 。
異形 いぎょう の神 かみ ・怪物 かいぶつ [ 編集 へんしゅう ]
ゴルゴーン
始原 しげん の神 かみ や、または神 かみ やその子孫 しそん のなかには、異形 いぎょう の姿 すがた を持 も ち、オリュンポス の神 かみ 々や人間 にんげん に畏怖 いふ を与 あた えたため、「怪物 かいぶつ 」と形容 けいよう される存在 そんざい がいる。例 たと えばゴルゴーン 三 さん 姉妹 しまい などは、海 うみ の神 かみ ポントス の子孫 しそん で、その姿 すがた の異様 いよう さから怪物 かいぶつ として受 う け取 と られている。
ゴルゴーン 三 さん 姉妹 しまい はポルキュース とケートー の娘 むすめ で、末 すえ 娘 むすめ のメドゥーサ を除 のぞ くと不死 ふし であったが、頭部 とうぶ の髪 かみ が蛇 へび であった。また、その姉妹 しまい である三 さん 人 にん のグライアイ は生 う まれながらに老婆 ろうば の姿 すがた であったが不死 ふし であった。ハルピュイアイ はタウマース の娘 むすめ たちで、女 おんな の頭部 とうぶ に鳥 とり の体 からだ を持 も っていた。ガイア (大地 だいち )が原初 げんしょ に生 う んだ息子 むすこ や娘 むすめ のなかにはキュクロープス (一眼 いちがん 巨人 きょじん )や、ヘカトンケイル (百 ひゃく 腕 うで 巨人 きょじん )のような異形 いぎょう の者 もの たちが混 ま じっていた。またガイアは様々 さまざま な「怪物 かいぶつ 」の父 ちち とされる、天 てん を摩 ま する巨大 きょだい なテューポーン を生 う み出 だ した。
栄誉 えいよ とペーガソス
エキドナ は、上半身 じょうはんしん が女 おんな 、下半身 かはんしん が蛇 へび の怪物 かいぶつ で、ゴルゴーンたちの姉妹 しまい とされるが出生 しゅっしょう には諸説 しょせつ がある。このエキドナとテューポーンのあいだには多数 たすう の子供 こども が生 う まれる。獅子 しし の頭部 とうぶ に山羊 やぎ の胴 どう 、蛇 へび の尾 お を持 も つキマイラ 、ヘーラクレース に退治 たいじ されたヒュドラー (水 みず 蛇 へび )、冥府 めいふ の番犬 ばんけん 、多 た 頭 あたま で犬 いぬ 形 がた のケルベロス などである。またエジプト起源 きげん のスピンクス はギリシアでは女性 じょせい の怪物 かいぶつ となっているが、これもエキドナの子 こ とされる。
それらの多 おお くは、神 かみ 、あるいは神 かみ に準 じゅん ずる存在 そんざい である。ポセイドーン とデーメーテール が馬 うま の姿 すがた となって交 まじ わってもうけたのが、名馬 めいば アレイオーン である。他方 たほう 、ポセイドーンはメドゥーサとのあいだに有 ゆう 翼 つばさ の天馬 てんば ペーガソス や、クリューサーオール (「黄金 おうごん の剣 けん を持 も つ者 もの 」の意 い )をもうけた。
セイレーン は『オデュッセイア 』に登場 とうじょう する海 うみ の精霊 せいれい ・怪物 かいぶつ であるが、人 ひと を魅惑 みわく する歌 うた で滅 ほろ びをもたらす。ムーサ の娘 むすめ であるともされるが、諸説 しょせつ あり、元々 もともと ペルセポネー に従 したが う精霊 せいれい だったともされる。『オデュッセアイア』に登場 とうじょう する怪物 かいぶつ としては、六 むっ つの頭部 とうぶ を持 も つ女 おんな 怪 かい スキュラ と渦巻 うずま き の擬人 ぎじん 化 か とされるカリュブディス などがいる[49] 。
神話 しんわ 4:人間 にんげん の起源 きげん [ 編集 へんしゅう ]
プロメーテウス と火 ひ
古代 こだい ギリシア人 じん は、神 かみ 々が存在 そんざい した往古 おうこ より人間 にんげん の祖先 そせん は存在 そんざい していたとする考 かんが えを持 も っていたことが知 し られている。例 たと えばヘーシオドス の『仕事 しごと と日々 ひび 』にもそのような説明 せつめい がなされている。他方 たほう 、『仕事 しごと と日々 ひび 』は構成 こうせい 的 てき には雑多 ざった な詩作 しさく 品 ひん を蒐集 しゅうしゅう したという趣 おもむき があり、『神 かみ 統 みつる 記 き 』や『名 な 婦 ふ 列伝 れつでん 』が備 そな えている整然 せいぜん とした、伝承 でんしょう の整理 せいり 付 づ けはなく、当時 とうじ の庶民 しょみん (とりわけ農耕 のうこう 民 みん )の抱 だ いていた世界 せかい 観 かん や人生 じんせい 観 かん が印象 いんしょう 的 てき な喩 たと え話 ばなし のなかで語 かた られている。
古来 こらい 、ギリシア人 じん は「人 ひと は土 ど より生 う まれた」との考 かんが えを持 も っていた。超越 ちょうえつ 的 てき な神 かみ が人間 にんげん の族 ぞく を創造 そうぞう したのではなく、自然 しぜん 発生 はっせい 的 てき に人間 にんげん は往古 おうこ より大地 だいち に生 い きていたとの考 かんが えである。しかしこの事実 じじつ は、人間 にんげん が生 う まれにおいて神 かみ 々に劣 おと るという意味 いみ ではなく、オリュンポスの神 かみ 々も、それ以前 いぜん の支配 しはい 者 しゃ であったティーターン も、元々 もともと はすべて「大地 だいち (ガイア )の子 こ 」である。人間 にんげん はガイアを母 はは とする、神 かみ 々の兄弟 きょうだい でもあるのだ。異 こと なる点 てん は、神 かみ 々は不死 ふし にして人間 にんげん に比 くら べ卓越 たくえつ した力 ちから を持 も つということである。その意味 いみ で、神 かみ 々は貴族 きぞく であり、人間 にんげん は庶民 しょみん だと言 い える。
プロメーテウスと最初 さいしょ の女 おんな [ 編集 へんしゅう ]
パンドーラー
しかしヘーシオドスは、土 ど より生 う まれた人 ひと という素朴 そぼく な信念 しんねん とは異 こと なる、人間 にんげん と神 かみ 々のあいだの関係 かんけい とそれぞれの分 ぶん (モイラ)の物語 ものがたり を語 かた る。太古 たいこ にあって人間 にんげん は未開 みかい で無知 むち で、飢 う えに苦 くる しみ、寒 さむ さに悩 なや まされていた。プロメーテウス が人間 にんげん の状態 じょうたい を改善 かいぜん するために、ゼウスが与 あた えるのを禁 きん じた火 ひ を人間 にんげん に教 おし えた。また、この神 かみ は、ゼウス や神 かみ 々に犠牲 ぎせい を捧 ささ げるとき、何 なに を神 かみ 々に献 けんじ げるかをゼウスみずからに選択 せんたく させ、その巧妙 こうみょう な偽装 ぎそう でゼウスを欺 あざむ いた[22] 。
プロメーテウスに欺されたゼウスは報復 ほうふく の機会 きかい を狙 ねら った。ゼウスはオリュンポスの神 かみ 々と相談 そうだん し、一人 ひとり の美貌 びぼう の女性 じょせい を作 つく り出 だ し、様々 さまざま な贈 おく り物 もの で女性 じょせい を飾 かざ り、パンドーラー (すべての贈 おく り物 もの の女 おんな )と名付 なづ けたこの女 おんな を、プロメーテウスの思慮 しりょ に欠 か けた弟 おとうと 、エピメーテウスに送 おく った。ゼウスからの贈 おく り物 もの には注意 ちゅうい せよとかねてから忠告 ちゅうこく されていたエピメーテウスであるが、彼 かれ はパンドーラーの美 うつく しさに兄 あに の忠告 ちゅうこく を忘 わす れ、妻 つま として迎 むか える。ここで男性 だんせい の種族 しゅぞく は土 ど から生 う まれた者 もの として往古 おうこ から存在 そんざい したが、女性 じょせい の種族 しゅぞく は神 かみ 々、ゼウスの策略 さくりゃく で人間 にんげん を誑 たぶら かし、不幸 ふこう にするために創造 そうぞう されたとする神話 しんわ が語 かた られていることになる。
五 いつ つの時代 じだい と人間 にんげん の生 い き方 かた [ 編集 へんしゅう ]
パンドーラーは結果 けっか 的 てき にエピメーテウスに、そして人間 にんげん の種族 しゅぞく に災 わざわ いを齎 もたら し不幸 ふこう を招来 しょうらい した。ヘーシオドスは更 さら に、金 きむ の種族 しゅぞく 、銀 ぎん の種族 しゅぞく 、青銅 せいどう の種族 しゅぞく についてうたう。これらの種族 しゅぞく は神 かみ 々が創造 そうぞう した人間 にんげん の族 ぞく であった。金 かね の種族 しゅぞく はクロノス が王権 おうけん を掌握 しょうあく していた時代 じだい に生 う まれたものである[注釈 ちゅうしゃく 21] 。この最初 さいしょ の種族 しゅぞく は神 かみ 々にも似 に て無上 むじょう の幸福 こうふく があり、平和 へいわ があり、長 なが い寿命 じゅみょう があった。しかし銀 ぎん の種族 しゅぞく 、銅 どう の種族 しゅぞく と次々 つぎつぎ に神 かみ 々が新 あたら しい種族 しゅぞく を造 つく ると、先 さき にあった者 もの に比 くら べ、後 ご から造 つく られた者 もの はすべて劣 おと っており、銅 どう (青銅 せいどう )の時代 じだい の人間 にんげん の種族 しゅぞく には争 あらそ いが絶 た えず、このためゼウス はこの種族 しゅぞく を再度 さいど 滅 ほろ ぼした。
金 かね の時代 じだい と銀 ぎん の時代 じだい は、おそらく空想 くうそう の産物 さんぶつ であるが、次 つぎ に訪 おとず れる青銅 せいどう の時代 じだい 、そしてこれに続 つづ く英雄 えいゆう (半 はん 神 かみ )の時代 じだい と鉄 てつ の時代 じだい は、人間 にんげん の技術 ぎじゅつ 的 てき な進歩 しんぽ の過程 かてい を跡 あと づける分類 ぶんるい である。これは空想 くうそう ではなく、歴史 れきし 的 てき な経験 けいけん 知識 ちしき に基 もと づく時代 じだい 画 が 期 き と考 かんが えられる。第 だい 4の「英雄 えいゆう ・半 はん 神 かみ 」の時代 じだい は、ヘーシオドスが『名 な 婦 ふ 列伝 れつでん (カタロゴイ)』で描 えが き出 だ した、神 かみ 々に愛 あい され英雄 えいゆう を生 う んだ女性 じょせい たちが生 い きた時代 じだい と言 い える。英雄 えいゆう たちは、華々 はなばな しい勲 くん にあって生 い き、その死後 しご はヘーラクレース がそうであるように神 かみ となって天上 てんじょう に昇 のぼ ったり、楽園 らくえん (エーリュシオン の野 の )に行 い き、憂 うれ いのない浄福 じょうふく の生活 せいかつ を送 おく ったとされる(他方 たほう 、オデュッセウス が冥府 めいふ にあるアキレウス に逢 あ ったとき、亡霊 ぼうれい としてあるアキレウスは、武勲 ぶくん も所詮 しょせん 空 むな しい、貧 まず しく名 な もなくとも生 い きてあることが幸福 こうふく だ、とも述懐 じゅっかい している[53] )。
『仕事 しごと と日々 ひび 』
英雄 えいゆう の時代 じだい が去 さ っていまや「青銅 せいどう の時代 じだい 」となり、人 ひと の寿命 じゅみょう は短 みじか く、労働 ろうどう は厳 きび しく、地 ち は農夫 のうふ に恵 めぐ みを与 あた えること少 すく なく、若者 わかもの は老人 ろうじん を敬 うやま わず、智慧 ちえ を尊重 そんちょう しない……これが、我々 われわれ がいま生 い きている時代 じだい ・世界 せかい である、とヘーシオドスはうたう。このような人生 じんせい や世界 せかい の見方 みかた は、詩人 しじん として名声 めいせい を得 え ながらも、あくまで一介 いっかい の地方 ちほう の農民 のうみん として暮 く らしを立 た てて行 い かねばならなかったヘーシオドスの人生 じんせい の経験 けいけん が反映 はんえい しているとされる。世 よ には、半 はん 神 かみ たる英雄 えいゆう を祖先 そせん に持 も つと称 しょう する名家 めいか があり、貴族 きぞく がおり、富者 ふしゃ がおり、世 よ の中 なか には矛盾 むじゅん がある。しかし、神 かみ はあくまで善 ぜん なる者 もの で、人 ひと は勤勉 きんべん に労働 ろうどう し、神 かみ 々を敬 うやま い、人間 にんげん に与 あた えられた分 ぶん を誠実 せいじつ に生 い きるのが最善 さいぜん である。
一方 いっぽう で、武勲 ぶくん を称賛 しょうさん し、王侯 おうこう 貴族 きぞく の豪勢 ごうせい な生活 せいかつ や栄誉 えいよ 、詩 し や音楽 おんがく や彫刻 ちょうこく などの芸術 げいじゅつ の高 たか みに、恵 めぐ まれた人 ひと は立 た ち得 え る。しかし庶民 しょみん の生活 せいかつ は厳 きび しいものであり、そこで人間 にんげん としていかに生 い きるか、ヘーシオドスは神話 しんわ に託 たく して、人間 にんげん のありようの諸相 しょそう をうたっていると言 い える。
神話 しんわ 5:英雄 えいゆう の誕生 たんじょう [ 編集 へんしゅう ]
ギリシア神話 しんわ においては、ヘーシオドスが語 かた る五 いつ つの時代 じだい の最後 さいご の時代 じだい 、すなわち現在 げんざい である「鉄 てつ の時代 じだい 」の前 まえ に、「英雄 えいゆう の時代 じだい 」があったとされる。英雄 えいゆう とは、古代 こだい ギリシア語 ご でヘーロース(hērōs, ήρως )と呼 よ ぶが、この言葉 ことば の原義 げんぎ は「守護 しゅご 者 しゃ ・防衛 ぼうえい 者 しゃ 」である。しかしホメーロス では、君公 くんこう 、あるいは殿 しんがり の意味 いみ で、支配 しはい 者 しゃ ・貴族 きぞく ・主人 しゅじん について一般 いっぱん 的 てき に使用 しよう されていた[54] [注釈 ちゅうしゃく 22] 。
英雄 えいゆう 崇拝 すうはい の歴史 れきし [ 編集 へんしゅう ]
神話 しんわ 学者 がくしゃ キャンベル は、英雄 えいゆう 神話 しんわ を神話 しんわ の基幹 きかん に置 お いたが、彼 かれ の描 えが く英雄 えいゆう とは、危険 きけん を犯 おか して超 ちょう 自然 しぜん 的 てき 領域 りょういき に分 わ け入 い り勝利 しょうり し、人々 ひとびと に恩恵 おんけい を授 さづ ける力 ちから (force)を獲得 かくとく した者 もの である。古代 こだい ギリシア の英雄 えいゆう は、守護 しゅご 者 しゃ の原義 げんぎ を持 も つことからも分 わ かる通 とお り、超 ちょう 自然 しぜん の世界 せかい に分 わ け入 はい って「力 ちから 」を獲得 かくとく する者 もの ではない。文献 ぶんけん や考古学 こうこがく によれば、ミュケーナイ時代 じだい には存在 そんざい しなかった「英雄 えいゆう 信仰 しんこう 」が、ギリシアの暗黒 あんこく 時代 じだい [56] を通 つう じて、ホメーロスの頃 ころ に出現 しゅつげん する。
ここで崇拝 すうはい される英雄 えいゆう は「力 ちから に満 み ちた死者 ししゃ 」であり、その儀礼 ぎれい は、親族 しんぞく の死者 ししゃ への儀礼 ぎれい と、神 かみ 々への儀礼 ぎれい の中 なか 間 あいだ 程度 ていど に位置 いち していた[注釈 ちゅうしゃく 23] 。祀 まつ られる英雄 えいゆう ごとで様々 さまざま な解釈 かいしゃく があったが、祭儀 さいぎ におけるヘーロースは、都市 とし 共同 きょうどう 体 たい や個人 こじん を病 やまい や危機 きき から救済 きゅうさい し恩恵 おんけい をもたらした者 もの として理解 りかい された。このような崇拝 すうはい の対象 たいしょう が叙事詩 じょじし に登場 とうじょう する英雄 えいゆう に比定 ひてい された。時 じ が経 た つにつれ、ヘーロースの範 はん 型 がた に該当 がいとう すると判断 はんだん された人物 じんぶつ 、すなわち神 かみ への祭祀 さいし を創始 そうし した者 もの や、都市 とし の創立 そうりつ 者 しゃ などには、神託 しんたく に基 もと づいて英雄 えいゆう たる栄誉 えいよ が授与 じゅよ され、彼 かれ らは「英雄 えいゆう 」と見 み なされた[58] 。
ギリシアの英雄 えいゆう は半 はん 神 かみ とも称 しょう されるが、多 おお くが神 かみ と人間 にんげん のあいだに生 う まれた息子 むすこ で、半分 はんぶん は死 し すべき人間 にんげん 、半分 はんぶん は不死 ふし なる神 かみ の血 ち を引 ひ く。このような英雄 えいゆう は、「力 ちから ある死者 ししゃ 」のなかでも神 かみ に近 ちか い崇拝 すうはい を受 う けていた者 もの たちで、ヘーラクレース の場合 ばあい は、英雄 えいゆう の域 いき を超 こ えて神 かみ として崇拝 すうはい された。英雄 えいゆう は、都市 とし の創立 そうりつ 者 しゃ として子孫 しそん を守護 しゅご し、またときに、敵対 てきたい する者 もの の子孫 しそん に末代 まつだい まで続 つづ く呪 のろ いをかけた[注釈 ちゅうしゃく 24] 。死 し して勲 くん を残 のこ す英雄 えいゆう は、守護 しゅご と呪 のろ いの形 かたち で、その死後 しご に強 つよ い力 ちから を発揮 はっき した者 もの でもある[注釈 ちゅうしゃく 25] 。
英雄 えいゆう は古代 こだい ギリシアの名家 めいか の始祖 しそ であり、祭儀 さいぎ や都市 とし の創立 そうりつ 者 しゃ であり名 めい 祖 そ であるが、その多 おお くはゼウスの息子 むすこ である。ゼウスはニュンペー や人間 にんげん の娘 むすめ と交 まじ わり、数 すう 多 おお くの英雄 えいゆう の父 ちち となった。数々 かずかず の王家 おうけ が神 かみ の血 ち を欲 ほっ した。
ダナエーと金 かね の雨 あめ
数々 かずかず の冒険 ぼうけん と武 たけ 勇 いさむ 譚 たん で知 し られ、数 かず 知 し れぬ子孫 しそん を残 のこ したとされるヘーラクレース はゼウスと人間 にんげん エーレクトリュオーン の娘 むすめ アルクメーネー のあいだに生 う まれた。ゼウスは彼女 かのじょ の夫 おっと アンピトリュオーン に化 ば け、更 さら にヘーリオス に命 めい じて太陽 たいよう を三 さん 日間 にちかん 昇 のぼ らせず彼女 かのじょ と交 まじ わって英雄 えいゆう をもうける。また白鳥 はくちょう の姿 すがた になってレーダー と交 まじ わり、ヘレネー 及 およ びディオスクーロイ の兄弟 きょうだい をもうけた。アルゴス王 おう アクリシオス の娘 むすめ ダナエー の元 もと へは黄金 おうごん の雨 あめ に変身 へんしん して近寄 ちかよ りペルセウス をもうけた。テュロス王 おう アゲーノール の娘 むすめ エウローペー の許 もと へは、白 しろ い牡 おす 牛 うし となって近寄 ちかよ り、彼女 かのじょ を背 せ に乗 の せるとクレーテー島 とう まで泳 およ ぎわたった。そこで彼女 かのじょ と交 まじ わってミーノース やラダマンテュス 等 ひとし をもうける。
カリストー を誘惑 ゆうわく するゼウス
ゼウスはまた、アルテミス に従 したが っていたニュンペー のカリストー に、アルテミスに化 ば けて近寄 ちかよ り交 まじ わった。こうしてアルカディア王家 おうけ の祖 そ アルカス が生 う まれた。プレイアデス の一人 ひとり エーレクトラー との間 あいだ には、トロイア王家 おうけ の祖 そ ダルダノス と、後 のち にデーメーテール 女神 めがみ の恋人 こいびと となったイーアシオーン をもうける。イーオー はアルゴスのヘーラーの女神 めがみ 官 かん であったが、ゼウスが恋 こい して子 こ をもうけた。ヘーラー の怒 いか りを恐 おそ れたゼウスはイーオーを牝 めす 牛 うし に変 か えたが、ヘーラーは彼女 かのじょ を苦 くる しめ、イーオーは世界中 せかいじゅう を彷徨 ほうこう ってエジプト(アイギュプトス)の地 ち に辿 たど り着 つ き、そこで人 ひと の姿 すがた に戻 もど り、エジプト王 おう となるエパポス を生 う んだ。エウローペーはイーオーの子孫 しそん に当 あ たる。
アトラース の娘 むすめ プルートー との間 あいだ には、神 かみ 々に寵愛 ちょうあい されたが冥府 めいふ で劫 こう 罰 ばつ を受 う ける定 さだ めとなったタンタロス をもうける。またゼウスはニュンペーのアイギーナ を攫 さら った。父親 ちちおや であるアーソーポス 河 かわ 神 しん は娘 むすめ の行方 ゆくえ を捜 さが していたが、コリントス王 おう シーシュポス が二 に 人 にん の行 い き先 さき を教 おし えた。寝所 ねどこ に踏 ふ み込 こ んだ河 かわ 神 しん は雷 かみなり に打 う たれて死 し に、またシーシュポスはこの故 ゆえ に冥府 めいふ で劫 こう 罰 ばつ を受 う けることとなった。アイギーナからはアイアコス が生 う まれる。同 おな じくアーソーポス河 かわ 神 しん の娘 むすめ とされる(別 べつ の説 せつ ではスパルトイ の子孫 しそん )アンティオペー は、サテュロス に化 ば けたゼウスと交 まじ わりアンピーオーン とゼートス を生 う んだ。アンピーオーンはテーバイ王 おう となり、またヘルメース より竪琴 たてごと を授 さず かりその名手 めいしゅ としても知 し られた。プレイアデス の一人 ひとり ターユゲテー とも交 まじ わり、ラケダイモーン をもうけた。彼 かれ は、ラケダイモーン(スパルテー)の名 めい 祖 そ となった。エウリュメドゥーサよりはミュルミドーン人 じん の名 めい 祖 そ であるミュルミドーン をもうけた。
他 た の神 かみ 々の息子 むすこ [ 編集 へんしゅう ]
ウーラニアー
アポローン は数々 かずかず の恋愛 れんあい 譚 たん で知 し られるが、彼 かれ の子 こ とされる英雄 えいゆう は、まずムーサ の一 いち 柱 はしら ウーラニアー との間 あいだ にもうけた名高 なだか いオルペウス がある(別 べつ 説 せつ では、ムーサ・カリオペー とオイアグロス の子 こ )。ラピテース族 ぞく の王 おう の娘 むすめ コローニス より、死者 ししゃ をも生 い き返 かえ らせた名医 めいい にして医 い 神 しん アスクレーピオス をもうけた。予言 よげん 者 しゃ テイレシアース の娘 むすめ マントー からは、これも予言 よげん 者 しゃ モプソス をもうける。ミーノース の娘 むすめ アカカリス はアポローンとヘルメース 両 りょう 神 かみ の恋人 こいびと であったが、アポローンとの間 あいだ にナクソス島 とう の名 めい 祖 そ ナクソス 、都市 とし の名 めい 祖 そ ミーレートス 等 ひとし を生 う んだ。彼女 かのじょ はヘルメースとの間 あいだ にも、クレーテー島 とう のキュドーニス の創建 そうけん 者 しゃ キュドーン をもうけた。
他方 たほう 、ポセイドーン は、アテーナイ王 おう アイゲウス の妃 ひ アイトラー との間 あいだ にテーセウス をもうけたとされる。またエウリュアレー との間 あいだ にはオーリーオーン を(別 べつ 説 せつ では、彼 かれ はガイア の息子 むすこ ともされる)、テューロー との間 あいだ には双 そう 生 せい の兄弟 きょうだい ネーレウス とペリアース をもうけた。エパポス の娘 むすめ でニュンペー のリビュエー (リビュアー )と交 まじ わり、テュロス王 おう アゲーノール とエジプト王 おう ペーロス の双子 ふたご をもうける。ラーリッサ を通 つう じて、ペラスゴス (ペラスゴイ人 じん の祖 そ とは別人 べつじん )、アカイオス 、プティーオス をもうけた。アカイオスはアカイア人 じん の祖 そ とされ、プティーオスはプティーア の名 めい 祖 そ とされる。オルコメノス のミニュアース人 じん の名 めい 祖 そ とされるミニュアース もポセイドーンの子 こ とされるが、孫 まご との説 せつ もある。
鍛冶 たんや の神 かみ ヘーパイストス は、アテーナイの神話 しんわ 的 てき な王 おう エリクトニオス の父 ちち とされる。彼 かれ はアテーナー に欲情 よくじょう し女神 めがみ を追 お って交 まじ わらんとしたが、女神 めがみ が拒絶 きょぜつ し、彼 かれ の精液 せいえき はアテーナーの脚 あし にまかれた。女神 めがみ はこれを羊毛 ようもう で拭 ふ き大地 だいち に捨 す てたところ、そこよりエリクトニオスが生 う まれたとされる[注釈 ちゅうしゃく 26] 。
リュカーオーン は、アルカデイア王 おう ペラスゴス とオーケアノス の娘 むすめ メリボイア 、またはニュンペーのキューレーネー の子 こ とされる。彼 かれ は多 おお くの息子 むすこ に恵 めぐ まれたが、息子 むすこ たちは傲慢 ごうまん な者 もの が多 おお く神罰 しんばつ を受 う けたともされる。アルカディアの多 おお くの都市 とし が、リュカーオーンの息子 むすこ たちを、都市 とし の名 めい 祖 そ として求 もと めた形跡 けいせき がある。また、アプロディーテー は、トロイア王家 おうけ の一員 いちいん アンキーセース とのあいだにアイネイアース を生 う んだ。アイネイアースは後 のち にローマの神話 しんわ 的 てき 祖先 そせん ともされた。アイア の金 きむ 羊毛 ようもう 皮 かわ をめぐる冒険 ぼうけん 譚 たん 「アルゴー号 ごう の航海 こうかい 譚 たん 」に登場 とうじょう するコルキス 王 おう アイエーテース は、ヘーリオス とオーケアノスの娘 むすめ ペルセーイス の子 こ である。
トロイア戦争 せんそう の英雄 えいゆう であり、平穏 へいおん な長寿 ちょうじゅ よりも、早世 そうせい であっても、戦士 せんし としての勲 くん の栄光 えいこう を選 えら んだアキレウス は、ペーレウス と海 うみ の女神 めがみ テティス のあいだの息子 むすこ である。
英雄 えいゆう 崇拝 すうはい とその栄光 えいこう [ 編集 へんしゅう ]
ヘーラクレース 神殿 しんでん 跡 あと
ピエール・グリマル によれば、ヘーラクレース とその数々 かずかず の武勇 ぶゆう 譚 たん はミュケーナイ時代 じだい に原形 げんけい 的 てき な起源 きげん を持 も つもので、考古学 こうこがく 的 てき にも裏付 うらづ けがあり、またその活動 かつどう は全 ぜん ギリシア中 ちゅう に足跡 あしあと を残 のこ しているとされる。ヘーラクレースは神 かみ と同 おな じ扱 あつか いを受 う け、彼 かれ を祭祀 さいし する神殿 しんでん あるいは祭礼 さいれい はギリシア中 ちゅう に存在 そんざい した。古代 こだい ギリシア の名家 めいか は、競 きそ ってその祖先 そせん をヘーラクレースに求 もと め、彼 かれ らはみずから「ヘーラクレイダイ (ヘーラクレースの後裔 こうえい )」と僭称 せんしょう した。
アキレウスもまた、アガメムノーン などと同様 どうよう に、いまは忘却 ぼうきゃく の彼方 かなた に沈 しず んだその原 はら 像 ぞう がミュケーナイ時代 じだい に存在 そんざい したと考 かんが えられるが、彼 かれ は「神 かみ 々の愛 あい した者 もの は若 わか くして死 し ぬ」とのエピグラム の通 とお り、神 かみ 々に愛 あい された半 はん 神 かみ として、栄誉 えいよ のなか、人間 にんげん としてのモイラ(定 じょう 業 ぎょう )にあって、英雄 えいゆう としての生涯 しょうがい を終 お えた。彼 かれ の勲 くん と栄光 えいこう はその死後 しご にあって光彩 こうさい を放 はな ち人 じん の心 しん を打 う つのである。
神話 しんわ 6:英雄 えいゆう の神話 しんわ [ 編集 へんしゅう ]
ギリシア神話 しんわ に登場 とうじょう する多 おお くの人間 にんげん は、ヘーシオドス がうたった第 だい 4の時代 じだい 、つまり「英雄 えいゆう ・半 はん 神 かみ 」の時代 じだい に属 ぞく している。それらは、すでにホメーロス が遠 とお い昔 むかし の伝承 でんしょう 、栄 さか えある祖先 そせん たちの勲 くん の物語 ものがたり としてうたっていたものである。
彼 かれ らの時代 じだい がいつ頃 ごろ のことなのかという根拠 こんきょ については、神話 しんわ 上 じょう での時代 じだい の相関 そうかん が一 ひと つに挙 あ げられる。他方 たほう 、考古学 こうこがく 資料 しりょう によるギリシア神話 しんわ の英雄 えいゆう 譚 たん が源流 げんりゅう であると考 かんが えられる古代 こだい の都市 とし 遺跡 いせき や文化 ぶんか 、戦争 せんそう の痕跡 こんせき などから推定 すいてい される時代 じだい がある。英雄 えいゆう たちの時代 じだい の始 はじ まりとしては、プロメーテウス の神話 しんわ の延長 えんちょう 上 じょう にあるとも言 い える「大 だい 洪水 こうずい 」伝説 でんせつ を起点 きてん に取 と ることが一 ひと つに考 かんが えられる。
大 だい 洪水 こうずい とデウカリオーン[ 編集 へんしゅう ]
プロメーテウス の息子 むすこ デウカリオーン は、エピメーテウス とパンドーラー のあいだの娘 むすめ ピュラー を妻 つま にするが、大 だい 洪水 こうずい は、このときに起 お こったとされる。洪水 こうずい を生 い き延 の びたデウカリオーンは、多 おお くの息子 むすこ ・娘 むすめ の父親 ちちおや となる。ピュラーとのあいだに息子 むすこ ヘレーン が生 う まれたが、彼 かれ は自分 じぶん の名 な を取 と って、古代 こだい ギリシア人 じん をヘレーン(複数 ふくすう 形 がた :ヘレーネス)と呼 よ んだ。デウカリオーンの息子 むすこ ・孫 まご には、ドーロス 、アイオロス 、アカイオス 、イオーン がいたとされ、それぞれが、ドーリス人 じん 、アイオリス人 じん 、アカイア人 じん 、イオーニア人 じん の名 めい 祖 そ となったとされるが、これには歴史 れきし 的 てき な根拠 こんきょ はないと思 おも われる。
エンデュミオーン
しかし、アイオロス の子孫 しそん には、ギリシア神話 しんわ で活躍 かつやく する有名 ゆうめい な人物 じんぶつ がいる。子孫 しそん はテッサリア で活躍 かつやく し、イオールコス に王 おう 都 と を建造 けんぞう した。ハルモス の家系 かけい にはミニュアース と、その裔でありアルゴナウタイ として著名 ちょめい なイアーソーン 、また医 い 神 しん として後 のち に知 し られるアスクレーピオス がいる。また孫娘 まごむすめ のテューロー からは、子孫 しそん としてネーレウス (ポントス の子 こ のネーレウス 神 かみ とは別 べつ )、その子 こ でトロイア戦争 せんそう の智将 ちしょう として知 し られるピュロス王 おう ネストール がおり、ペリアース 、アドメートス 、メラムプース 、またアルゴス王 おう で「テーバイ攻 ぜ めの七 なな 将 しょう 」の総帥 そうすい であるアドラストス などがいる。ネーレウスはピュロス の王 おう 都 と を建造 けんぞう した。
アイオロスの娘 むすめ 婿 むこ アエトリオス の子孫 しそん の人物 じんぶつ としては、月 つき の女神 めがみ セレーネー との恋 こい で知 し られるエンデュミオーン 、カリュドーン王 おう オイネウス 、その子 こ のメレアグロス 、テューデウス 兄弟 きょうだい がいる。メレアグロスはホメーロス でも言及 げんきゅう されていたが(『イーリアス 』)、猪 いの 退治 たいじ の話 はなし は後世 こうせい になって潤色 じゅんしょく され、「カリュドーンの猪 いのしし 狩 か り 」として、女 おんな 勇者 ゆうしゃ アタランテー も含 ふく めて多数 たすう の英雄 えいゆう が参加 さんか した出来事 できごと となった。またメレアグロスの姉妹 しまい デーイアネイラ の夫 おっと はヘーラクレース であり、二人 ふたり のあいだに生 う まれたヒュロス はスパルテー(ラケダイモーン)王朝 おうちょう の祖 そ である[68] 。
タンタロス は冥府 めいふ のタルタロス で永劫 えいごう の罰 ばち を受 う けて苦 くる しんでいるが、その家系 かけい にも有名 ゆうめい な人物 じんぶつ がいる。彼 かれ の息子 むすこ のペロプス は富貴 ふうき に驕 おご ったタンタロスによって切 き り刻 きざ まれ、オリュンポスの神 かみ 々への料理 りょうり として差 さ し出 だ された。この行 おこな い故 ゆえ にタンタロスは劫 こう 罰 ばつ を受 う けたともされるが、以下 いか の別 べつ 説 せつ もある。神 かみ 々はペロプスを生 い き返 かえ らせ、その後 ご 、彼 かれ は世 よ に稀 まれ な美少年 びしょうねん となり、ポセイドーン が彼 かれ を愛 あい して天界 てんかい に連 つ れて行 い ったともされる。
ペロプスは神 かみ 々の寵愛 ちょうあい を受 う けてペロポネーソスを征服 せいふく した。彼 かれ の子孫 しそん にミュケーナイ 王 おう アトレウス があり、アガメムノーン とその弟 おとうと のスパルタ王 おう メネラーオス はアトレウスの子孫 しそん (子 こ )に当 あ たる(この故 ゆえ 、ホメーロスは、「アトレイデース=アトレウスの息子 むすこ 」と二人 ふたり を呼 よ ぶ)。アガメムノーンはトロイア戦争 せんそう のアカイア勢 ぜい 総帥 そうすい でありクリュタイムネーストラー の夫 おっと で、メネラーオスは戦争 せんそう の発端 ほったん ともなった美女 びじょ ヘレネー の夫 おっと である。また、アガメムノーンの息子 むすこ と娘 むすめ が、ギリシア悲劇 ひげき で名 な を知 し られるオレステース 、エーレクトラー 、イーピゲネイア となる。
ミュケーナイ王家 おうけ の悲劇 ひげき に密接 みっせつ に関連 かんれん するアイギストス もペロプスの子孫 しそん で、オレステースと血 ち が繋 つな がっている。他方 たほう 、アトレウスの兄弟 きょうだい とされるアルカトオス の娘 むすめ ペリボイア は、アイアコス の息子 むすこ であるサラミス王 おう テラモーン の妻 つま であり、二人 ふたり のあいだの息子 むすこ がアイアース である。また、テラモーンの兄弟 きょうだい でアイアコスのいま一 いち 人 にん の息子 むすこ がペーレウス で、「ペーレウスの息子 むすこ 」(ペーレイデース)が、トロイア戦争 せんそう の英雄 えいゆう アキレウス となる[68] 。
テーバイ王家 おうけ とクレーテー王家 おうけ [ 編集 へんしゅう ]
竜 りゅう と戦 たたか うカドモス
リビュエー は雌牛 めうし となったイーオー の孫娘 まごむすめ に当 あ たる。リビュアーと海神 わたつみ ポセイドーン の間 あいだ に生 う まれたのがフェニキア 王 おう アゲーノール で、テーバイ 王家 おうけ の祖 そ であるカドモス と、クレーテー 王家 おうけ の祖 そ とも言 い える娘 むすめ エウローペー は彼 かれ の子 こ である。
カドモスは竜 りゅう の歯 は から生 う まれた戦士 せんし としてよく知 し られる。カドモスの娘 むすめ にはセメレー があり、彼女 かのじょ はゼウス の愛 あい を受 う けてディオニューソスを生 う んだ。テーバイ王 おう ペンテウス はカドモスの孫 まご にあたり、彼 かれ はディオニューソス 信仰 しんこう を否定 ひてい したため、狂乱 きょうらん する女 おんな たちに引 ひ き裂 さ かれて死 し んだ。その女 おんな たちの中 なか には、彼 かれ の母 はは アガウエー や伯母 おば イーノー も含 ふく まれていた。ペンテウスとディオニューソスは従兄弟 いとこ 同士 どうし となる。カドモスの別 べつ 系統 けいとう の孫 まご にはラブダコス があり、彼 かれ はラーイオス の父 ちち で、ラーイオスの息子 むすこ がオイディプース である。オイディプースには妻 つま イオカステー のあいだに娘 むすめ アンティゴネー 等 とう 四 よん 人 にん の子供 こども がいる。
他方 たほう 、カドモスの姉妹 しまい にエウローペー があり、彼女 かのじょ はクレーテー王 おう アステリオス の妻 つま であるが、ゼウスが彼女 かのじょ を愛 あい しミーノース が生 う まれる。ミーノースの幾 いく 人 にん かの息子 むすこ と娘 むすめ のなかで、カトレウス は娘 むすめ を通 つう じてアガメムノーン の祖父 そふ に当 あ たり、同様 どうよう に、彼 かれ はパラメーデース の祖父 そふ である。カトレウスの孫 まご には他 た にイードメネウス がいる。ミーノースの娘 むすめ アリアドネー は、本来 ほんらい 人間 にんげん ではなく女神 めがみ とも考 かんが えられるが、ディオニューソスの妻 つま となってオイノピオーン 等 ひとし の子 こ をもうけた。クレーテーの迷宮 めいきゅう へと入 はい って行 い ったテーセウス は、アテーナイ 王 おう アイゲウス の息子 むすこ とも、ポセイドーン の息子 むすこ ともされるが、ミーノースの娘 むすめ パイドラー を妻 つま とした。
ヘクトール とパリス
アガメムノーン を総帥 そうすい とするアカイア勢 ぜい (古代 こだい ギリシア人 じん )に侵攻 しんこう され、十 じゅう 年 ねん の戦争 せんそう の後 のち に陥落 かんらく したトロイア は、トロイア戦争 せんそう の舞台 ぶたい として名高 なだか い。小 しょう アジア西端 せいたん に位置 いち するこの都城 みやこのじょう の支配 しはい 者 しゃ は、ゼウス を祖 そ とするダルダノス の子孫 しそん である。彼 かれ はトロイア市 し を創建 そうけん し、キュベレー 崇拝 すうはい をプリュギア に導 みちび いたとされる。ダルダノスの孫 まご がトロース で、彼 かれ がトロイアの名 めい 祖 そ である。トロースには三 さん 人 にん の息子 むすこ があり、イーロス、アッサラコス、ガニュメーデース である。ガニュメーデースは美少年 びしょうねん 中 ちゅう の美少年 びしょうねん と言 い われ、ゼウス が彼 かれ を攫 さら ってオリュンポスの酒盃 しゅはい 捧持 ほうじ 者 しゃ とした。
イーロス はラーオメドーン の父 ちち で、後 ご の老 ろう トロイア王 おう プリアモス の祖父 そふ である。英雄 えいゆう ヘクトール とパリス (アレクサンドロス)はプリアモスの息子 むすこ 、予言 よげん で名高 なだか いカッサンドラー は娘 むすめ である。またヘクトールの妻 つま アンドロマケー は、トロイア陥落 かんらく 後 ご 、アキレウス の息子 むすこ ネオプトレモス の奴隷 どれい とされ、彼 かれ の子 こ を生 う む。
他方 たほう 、トロースの三 さん 人 にん の息子 むすこ の最後 さいご の一人 ひとり アッサラコス はアンキーセース の祖父 そふ で、アンキーセースとアプロディーテー 女神 めがみ のあいだに生 う まれたのがアイネイアース である。トロイア陥落 かんらく 後 ご 、彼 かれ は諸方 しょほう を放浪 ほうろう してローマ に辿 たど り着 つ く。ウェルギリウス は彼 かれ を主人公 しゅじんこう としてラテン語 らてんご 叙事詩 じょじし 『アエネーイス 』を著 あらわ した。アイネイアースの息子 むすこ アスカニオス (イウールス )はローマの名家 めいか ユーリア氏族 しぞく (gens Iulia)の祖 そ とされる。
英雄 えいゆう たちの結集 けっしゅう [ 編集 へんしゅう ]
ギリシア神話 しんわ には、断片 だんぺん 的 てき なエピソード以外 いがい に、一人 ひとり の人物 じんぶつ あるいは一 ひと つの事件 じけん が、複雑 ふくざつ に展開 てんかい し、数 すう 多 おお くの英雄 えいゆう たちがその物語 ものがたり に関係 かんけい してくる「複 ふく 合 あい 物語 ものがたり 」とも呼 よ べる神話 しんわ 譚 たん がある。
アテーナイ の王子 おうじ であった「テーセウス 」の生涯 しょうがい は、劇的 げきてき な展開 てんかい を見 み せ、クレーテー島 とう の迷宮 めいきゅう での冒険 ぼうけん を経 へ た後 のち になっても、コルキス の王女 おうじょ メーデイア が義母 ぎぼ であったり、その魔術 まじゅつ と戦 たたか うなど、ミーノース 王 おう やアリアドネー を含 ふく め、広 ひろ い範囲 はんい の多数 たすう の人物 じんぶつ と関 かか わりを持 も っている。
弓 ゆみ を引 ひ くヘーラクレース
テーセウス の生涯 しょうがい 以上 いじょう に華麗 かれい で、夥 おびただ しい人物 じんぶつ が関係 かんけい し、また様々 さまざま な重要 じゅうよう 事件 じけん に参加 さんか するヘーラクレース の物語 ものがたり もまた英雄 えいゆう の結集 けっしゅう する神話 しんわ とも言 い える。彼 かれ に課 か された十 じゅう 二 に の難題 なんだい の物語 ものがたり だけでも十分 じゅうぶん に複雑 ふくざつ であるが、ヘーラクレースは「アルゴナウタイ 」の一員 いちいん でもある。更 さら に、アポロドーロス によると、彼 かれ はゼウス の王権 おうけん が確立 かくりつ した後 のち に起 お こったとされるギガース (巨人 きょじん )たちとの戦 たたか いにも参加 さんか している。また、オルペウス教 きょう の断片 だんぺん 的 てき な資料 しりょう では、原初 げんしょ にクロノス Khronos(時 じ )、別名 べつめい ヘーラクレースが出現 しゅつげん したという記述 きじゅつ がある。これが英雄 えいゆう ヘーラクレースかどうか定 さだ かではないが、無関係 むかんけい とも言 い いきれない。
ギリシア中 ちゅう から英雄 えいゆう が集結 しゅうけつ して冒険 ぼうけん に出発 しゅっぱつ するという話 はなし としては、イアーソーン を船長 せんちょう とするコルキスの金 かね 羊毛 ようもう 皮 がわ をめぐる「アルゴナウタイ 」の物語 ものがたり が挙 あ げられ、ここではヘーラクレースやオルペウス なども参加 さんか している。
また、アドラストス を総帥 そうすい とする「テーバイ攻 ぜ めの七 なな 将 しょう 」の神話 しんわ やその後 ご 日 にち 談 だん でもある、七 なな 将 しょう の息子 むすこ たちの活躍 かつやく も、英雄 えいゆう たちが結集 けっしゅう した物語 ものがたり である。メレアグロス の猪 いのしし 退治 たいじ の伝承 でんしょう が潤色 じゅんしょく され、拡大 かくだい した規模 きぼ で語 かた られるようになった「カリュドーンの猪 いのしし 狩 か り 」の神話 しんわ もまた、メレアグロスを中心 ちゅうしん に、カストール とポリュデウケース の兄弟 きょうだい 、テーセウス 、イアーソーン 、ペーレウス とテラモーン 、そしてアタランテー なども参加 さんか した英雄 えいゆう の結集 けっしゅう 物語 ものがたり である。
ギリシア神話 しんわ 上 じょう で、もっとも古 ふる く、もっとも重層 じゅうそう 的 てき に伝承 でんしょう や神話 しんわ や物語 ものがたり が蓄積 ちくせき されているのは、「トロイア戦争 せんそう 」をめぐる神話 しんわ である。古典 こてん ギリシアの文学 ぶんがく 史 し にあって、紀元前 きげんぜん 9世紀 せいき ないし8世紀 せいき に、突如 とつじょ として完成 かんせい された形 かたち で、ホメーロス の二 に 大 だい 叙事詩 じょじし 、すなわち『イーリアス 』と『オデュッセイア 』が出現 しゅつげん する。詳細 しょうさい な研究 けんきゅう の結果 けっか 、これらの物語 ものがたり は突如 とつじょ 出現 しゅつげん したのではなく、その前史 ぜんし ともいうべき過程 かてい が存在 そんざい したことが分 わ かっている。
トロイア戦争 せんそう をめぐっては、その前提 ぜんてい となったパリスの審判 しんぱん の物語 ものがたり や、ギリシアとトロイアのあいだの交渉 こうしょう 、アカイア軍 ぐん の出陣 しゅつじん 、そして長期 ちょうき に渡 わた る戦争 せんそう の経過 けいか などが知 し られている。『イーリアス』は十 じゅう 年 ねん に及 およ ぶ戦争 せんそう のなかのある時点 じてん を切 き り出 だ し、アキレウス の怒 いか りから始 はじ まり、代理 だいり で出陣 しゅつじん したパトロクロス の戦死 せんし 、ヘクトール との闘 たたか い、そして彼 かれ の死 し と、その葬送 そうそう のための厳粛 げんしゅく な静 しず けさで物語 ものがたり が閉 と じる。他方 たほう 、『オデュッセイア』では、トロイア戦争 せんそう の終結 しゅうけつ 後 ご 、故郷 こきょう のイタケー島 とう へ帰国 きこく しようとしたオデュッセウス が嵐 あらし に出会 であ い、様々 さまざま な苦難 くなん を経 へ て故郷 こきょう へと帰 かえ る物語 ものがたり が記 しる されている。
トロイア戦争 せんそう の経過 けいか の全貌 ぜんぼう はどのようなものであったのか、トロイア陥落 かんらく のための「木馬 もくば の計略 けいりゃく 」の話 はなし などは、断片 だんぺん 的 てき な物語 ものがたり としては伝 つた わっていたが、完全 かんぜん な形 かたち のものは今日 きょう 伝 つて 存 そん していない。しかし、この神話 しんわ あるいは歴史 れきし 的 てき な伝承 でんしょう が、大 おお きな物語 ものがたり 圏 けん を築 きず いていたことは今日 きょう 知 し られている。
宗教 しゅうきょう との関係 かんけい [ 編集 へんしゅう ]
神話 しんわ は多 おお くの場合 ばあい 、かつて生 い きていた宗教 しゅうきょう や信仰 しんこう の内実 ないじつ 、すなわち世界 せかい の「真実 しんじつ 」を神聖 しんせい な物語 ものがたり (文学 ぶんがく 的 てき 表現 ひょうげん )または象徴 しょうちょう の形 かたち で記録 きろく したものだと言 い える。このことは、現在 げんざい なお信仰 しんこう され続 つづ けている宗教 しゅうきょう 等 とう にも該当 がいとう する。神話 しんわ はまた多 おお くの場合 ばあい 、儀礼 ぎれい と密接 みっせつ な関係 かんけい を持 も つ。エリアーデ は神話 しんわ は世界 せかい を含 ふく む「創造 そうぞう を根拠 こんきょ 付 つ ける」ものとした。このことは人間 にんげん の起源 きげん の説明 せつめい が宗教 しゅうきょう 的 てき 世界 せかい 観 かん の一部 いちぶ として大 おお きな意味 いみ を持 も つことからも肯定 こうてい される[74] 。
ギリシア人 じん と神 かみ 々への信仰 しんこう [ 編集 へんしゅう ]
ポリヒュムニア
古代 こだい ギリシア人 じん は人間 にんげん と非常 ひじょう に似 に た神 かみ 々が登場 とうじょう するユニークな神話 しんわ を持 も っていたが、彼 かれ らはこれらの神 かみ 々を宗教 しゅうきょう 的 てき 信仰 しんこう ・崇拝 すうはい の対象 たいしょう として考 かんが えていたのかについては諸説 しょせつ ある。実際 じっさい 、西欧 せいおう の中世 ちゅうせい ・近世 きんせい を通 つう じて、人々 ひとびと はギリシア神話 しんわ を架空 かくう の造 つく り話 ばなし か寓話 ぐうわ の類 るい とも見 み なしていた。現代 げんだい においても、ポール・ヴェーヌは、「ギリシア人 じん がその神話 しんわ 」を本当 ほんとう に信仰 しんこう していたのかをめぐり疑問 ぎもん を提示 ていじ する。彼 かれ は古代 こだい ギリシア人 じん がソフィスト たちの懐疑 かいぎ 主義 しゅぎ を経 へ てもロゴス とミュートス の区別 くべつ が曖昧 あいまい であったことを批判 ひはん する。しかしヴェーヌの結論 けつろん は、古代 こだい ギリシア人 じん はやはり彼 かれ らの神話 しんわ を信 しん じていたのだ、ということになる。
また、古代 こだい のギリシア人 じん 自身 じしん のなかでも疑問 ぎもん は起 お こっていたのであり、紀元前 きげんぜん 6世紀 せいき の詩人 しじん 哲学 てつがく 者 しゃ クセノパネース は、ホメーロス やヘーシオドス に描 えが かれた神 かみ 々の姿 すがた について、盗 ぬす みや姦通 かんつう や騙 だま し合 ごう いを行 おこな う下劣 げれつ な存在 そんざい ではないかと批判 ひはん している。
ホメーロスやヘーシオドスは、自分 じぶん たちのうたった神話 しんわ が「真実 しんじつ 」であることに確信 かくしん を持 も っていた。この場合 ばあい 、何 なに が真実 しんじつ で、何 なに が偽 にせ なのかという規準 きじゅん が必要 ひつよう である[注釈 ちゅうしゃく 27] 。しかし彼 かれ らがうたったのは、神 かみ 々や人間 にんげん に関 かん する真実 しんじつ であって、造 みやつこ 話 ばなし や虚構 きょこう と現代 げんだい 人 じん が考 かんが えるのは、真実 しんじつ を具象 ぐしょう 化 か するための「表現 ひょうげん 」であり「技法 ぎほう 」に過 す ぎなかった[注釈 ちゅうしゃく 28] 。
神話 しんわ の重要 じゅうよう な与件 よけん の一 ひと つとして作者 さくしゃ の無名 むめい 性 せい が考 かんが えられていた。誰 だれ が造 つく ったのでもなく太古 たいこ の昔 むかし より存在 そんざい するのが神話 しんわ であった。紀元前 きげんぜん 7世紀 せいき 中葉 ちゅうよう 以降 いこう 、叙事詩 じょじし 的 てき 伝統 でんとう に代 か わって、個人 こじん の感情 かんじょう や思 おも いをうたう抒情詩 じょじょうし が誕生 たんじょう する。抒情詩 じょじょうし 人 じん は超越 ちょうえつ 的 てき な神 かみ 々の存在 そんざい について寧 むし ろ無 む 関心 かんしん であった。しかし、これに続 つづ いて出現 しゅつげん したギリシア悲劇 ひげき においては、ムーサ 女神 めがみ への祈 いの りもなく、明 あき らかに彼 かれ らが創作 そうさく したと考 かんが えられる物語 ものがたり を劇場 げきじょう で公開 こうかい するようになる。これによってギリシア神話 しんわ は人間 にんげん 的 てき 奥行 おくゆ きを持 も ち深化 しんか したが、彼 かれ らは神話 しんわ を信 しん じていたのだろうか。悲劇 ひげき 詩人 しじん たちはニーチェ が洞察 どうさつ したように、コロス の導入 どうにゅう によって、そして今 こん 一 ひと つに「英雄 えいゆう 」の概念 がいねん の変遷 へんせん により、共同 きょうどう 体 たい の真実 しんじつ をその創作 そうさく に具現 ぐげん していた。彼 かれ らはなお神 かみ を信仰 しんこう していたのであるが、神話 しんわ についてはそうでもなかった。
アテーナイの学堂 がくどう
しかし三 さん 大 だい 悲劇 ひげき 詩人 しじん の活動 かつどう の背後 はいご で、奴隷 どれい 制 せい を基礎 きそ に置 お くギリシアの諸 しょ ポリスは、アテーナイを代表 だいひょう として困難 こんなん に直面 ちょくめん することにもなる[注釈 ちゅうしゃく 29] [注釈 ちゅうしゃく 30] 。ペルシア戦争 せんそう での奇蹟 きせき 的 てき な勝利 しょうり の後 のち 、アテーナイの覇権 はけん と帝国 ていこく 主義 しゅぎ が勃興 ぼっこう するが、ポリスは覇権 はけん をめぐって相互 そうご に争 あらそ うようになる。ペロポネソス戦争 せんそう で敗北 はいぼく したアテーナイにあって独自 どくじ な思想 しそう を語 かた ったソークラテース はなお敬神 けいしん の謎 なぞ めいた人物 じんぶつ であったが、彼 かれ に先駆 せんく するソピステース たちは、神 かみ 々もまた修辞 しゅうじ や議論 ぎろん の為 ため の道具 どうぐ と見 み なし、プロータゴラース は「神 かみ 々が存在 そんざい するのかしないのか、我々 われわれ には知 し りようもない」と明言 めいげん した。
ソークラテースの弟子 でし であり偉大 いだい なソピステースたちの論法 ろんぽう を知悉 ちしつ していた紀元前 きげんぜん 4世紀 せいき のプラトーンは、古代 こだい ギリシアの民主 みんしゅ 主義 しゅぎ の破綻 はたん と欠陥 けっかん を認 みと めず、彼 かれ が理想 りそう とする国家 こっか についての構想 こうそう を語 かた る。プラトーン以前 いぜん には、ホメーロスの叙事詩 じょじし が青少年 せいしょうねん の教科書 きょうかしょ でもあり、戦士 せんし としての心構 こころがま え、共同 きょうどう 体 たい の一員 いちいん たる倫理 りんり などは彼 かれ の二 に 大 だい 作品 さくひん を通 つう じて学 まな ばれていた。しかし、プラトーンは『国家 こっか 』において、異様 いよう な「理想 りそう 社会 しゃかい 」のモデルを提唱 ていしょう した。プラトーンはまずホメーロスと英雄 えいゆう 叙事詩 じょじし を批判 ひはん し、これをポリスより追放 ついほう すべきものとした[84] 。また、彼 かれ の理想 りそう の国家 こっか にあっては、「悲劇 ひげき 」は有害 ゆうがい であるとしてこれも否定 ひてい した[86] 。
サッポー とホメーロス
しかし、このような特異 とくい な思想 しそう を語 かた ったプラトーンはまた、時期 じき によっては、神話 しんわ (ミュートス)を青少年 せいしょうねん の教育 きょういく に不適切 ふてきせつ であるとする一方 いっぽう で、自分 じぶん の著作 ちょさく に、ふんだんに寓意 ぐうい を用 もち い、真実 しんじつ を語 かた るために「神話 しんわ 」を援用 えんよう した[87] 。ポリスの知識 ちしき 人 じん 階級 かいきゅう のあいだでは、古来 こらい のギリシア神話 しんわ の神 かみ 々や英雄 えいゆう は、崇拝 すうはい の対象 たいしょう ではなく、修辞 しゅうじ 的 てき な装飾 そうしょく とも化 か した。こうしてアレクサンドロス がアケメネス朝 あさ を滅 ほろ ぼし、みずからが神 かみ であると宣言 せんげん したとき、「神 かみ 々への信仰 しんこう 」はポリス共同 きょうどう 体 たい から消 き え去 さ った、あるいはもはやポリスはこのような宗教 しゅうきょう 的 てき 情熱 じょうねつ を支 ささ えるにはあまりにも変質 へんしつ してしまったのだと言 い える。神話 しんわ (ミュートス)が備 そな えていたリアリティは消失 しょうしつ し、神話 しんわ と現実 げんじつ の分離 ぶんり が起 お こった。
人々 ひとびと の敬神 けいしん の伝統 でんとう はそれでもパウサーニアース が紀元 きげん 後 ご になって証言 しょうげん しているようにアテーナイにおいても、またギリシアの地方 ちほう や田舎 いなか にあってなお続 つづ いた。一方 いっぽう で、アリストテレース は「歌 うた うたいが法螺 ほら をふいている」と著作 ちょさく のなかで断言 だんげん した[89] 。
展開 てんかい と変容 へんよう [ 編集 へんしゅう ]
古典 こてん 学者 がくしゃ ピエール・グリマルはその小 しょう 著 ちょ 『ギリシア神話 しんわ 』の冒頭 ぼうとう で、「ギリシア神話 しんわ 」とは何 なに を指 さ す言葉 ことば かを説明 せつめい している。グリマルは、紀元前 きげんぜん 9-8世紀 せいき より紀元 きげん 後 ご 3-4世紀 せいき にあって、ギリシア語 ご 話 はなし 圏 けん で行 おこな われていた各種 かくしゅ の不思議 ふしぎ な物語 ものがたり 、伝説 でんせつ 等 とう を総称 そうしょう して「ギリシア神話 しんわ 」とする。この広範 こうはん な神話 しんわ 圏 けん は、紀元前 きげんぜん 4世紀 せいき 末 まつ または前 ぜん 3世紀 せいき 初 はつ にあって内容 ないよう 的 てき ・形式 けいしき 的 てき に大 おお きな変容 へんよう を経過 けいか する。一 ひと つのは文献 ぶんけん 学 がく の発達 はったつ と、書物 しょもつ の要約 ようやく 作成 さくせい によってであり、いま一 ひと つは、生 い きた神 かみ 々への敬神 けいしん の表現 ひょうげん でもあった詩作 しさく 品 ひん などに代 か わる、娯楽 ごらく を目的 もくてき とした作品 さくひん の登場 とうじょう によってである。
文献 ぶんけん 学 がく と娯楽 ごらく 作品 さくひん [ 編集 へんしゅう ]
プトレマイオス1
ギリシアの諸 しょ ポリスは、アレクサンドロス の統一 とういつ とオリエント征服 せいふく によって事実 じじつ 上 じょう 消滅 しょうめつ した。アレクサンドロスはエジプトに自己 じこ の名 な を付 つ けた新都 しんと を建設 けんせつ した。エジプトを継承 けいしょう したディアドコイ の一人 ひとり プトレマイオス はそこに世界 せかい 最大 さいだい と称 しょう されたアレクサンドレイア図書館 としょかん を建造 けんぞう し、夥 おびただ しい蔵書 ぞうしょ の収集 しゅうしゅう に着手 ちゃくしゅ すると共 とも に、ヘレニズムの世界 せかい に優秀 ゆうしゅう な学者 がくしゃ を求 もと めた[注釈 ちゅうしゃく 31] 。今日 きょう 伝 でん 存 そん する多 おお くの古代 こだい の文献 ぶんけん ・文書 ぶんしょ はこの時代 じだい に編纂 へんさん され、あるいは筆写 ひっしゃ され写本 しゃほん として残 のこ ったものである。
図書館 としょかん はアレクサンドレイア以外 いがい にもペルガモンなどが著名 ちょめい であった。図書館 としょかん は鎖 とざ されていたとはいえ、高 たか い評価 ひょうか を受 う けた作品 さくひん は、筆写 ひっしゃ されて、教養 きょうよう 人 じん ・貴族 きぞく などに広 ひろ がっていった。図書館 としょかん は大量 たいりょう の書物 しょもつ について、その内容 ないよう 要約 ようやく 書 しょ をまた編集 へんしゅう していた。長 なが い原著 げんちょ を読 よ むよりも、学者 がくしゃ が整理 せいり した原著 げんちょ の要約 ようやく を読 よ むことで、無 む 教養 きょうよう な俄 にわか 成金 なりきん などは自己 じこ の見 み せかけの知識 ちしき を喧伝 けんでん できた。あるいは諸種 しょしゅ の伝説 でんせつ について、主題 しゅだい ごとの見取 みと り図 ず を与 あた えるために書籍 しょせき が編纂 へんさん された。このような「集成 しゅうせい 」本 ほん のなかでも、もっとも野心 やしん 的 てき であったのが、紀元前 きげんぜん 2世紀 せいき のアテーナイの文献 ぶんけん 学者 がくしゃ アポロドーロスのものと長 なが く考 かんが えられていた、アポロドーロス の『ビブリオテーケー 』(ギリシア神話 しんわ 文庫 ぶんこ )である。
一方 いっぽう 、帝政 ていせい ローマ期 き の貴族 きぞく や富裕 ふゆう な階層 かいそう の人々 ひとびと は、古代 こだい ギリシアの神 かみ 々への崇拝 すうはい や敬神 けいしん の念 ねん とは関係 かんけい なく、純粋 じゅんすい に面白 おもしろ く色恋 いろこい の刺激 しげき となる物語 ものがたり を好 この んだ。これらの嗜好 しこう の需要 じゅよう に合 あ わせ、オウィディウス などは、神 かみ 々への敬神 けいしん などとは無縁 むえん な、娯楽 ごらく 目的 もくてき の『変身 へんしん 物語 ものがたり 』を著 あらわ し、また同 おな じような意味 いみ でアープーレイウス は『黄金 おうごん の驢馬 ろば 』を著 あらわ した。オウィディウスの書籍 しょせき はギリシア神話 しんわ 全体 ぜんたい を扱 あつか うもので、体系 たいけい 的 てき な著作 ちょさく とも言 い えるが、しかし気楽 きらく に読 よ むことのできる短 みじか いエピソードの集成 しゅうせい でもあった。
現代 げんだい の神話 しんわ 研究 けんきゅう と神話 しんわ 学 がく [ 編集 へんしゅう ]
ギリシア神話 しんわ の宗教 しゅうきょう としての「真実 しんじつ 」の開示 かいじ の機能 きのう は、このようにしてヘレニズム の時代 じだい にその終焉 しゅうえん を迎 むか えたと言 い える。新 あたら しく勃興 ぼっこう したキリスト教 きりすときょう は、まさに神話 しんわ を否定 ひてい したプラトーンの思想 しそう の延長 えんちょう 上 じょう にあるとも言 い えたが、この後 のち 、千 せん 年 ねん 以上 いじょう にわたって続 つづ く西欧 せいおう の精神 せいしん の歴史 れきし のなかで、ギリシア神話 しんわ はもはや宗教 しゅうきょう ではなく、この神話 しんわ に登場 とうじょう する逸話 いつわ や神 かみ 々を、自然 しぜん 現象 げんしょう の寓意 ぐうい とも、娯楽 ごらく のための造 みやつこ 話 ばなし とも見 み なしていた。
19世紀 せいき アメリカの文学 ぶんがく 者 しゃ であるトマス・ブルフィンチ はギリシア・ローマ神話 しんわ に関 かん する一般 いっぱん 向 む けの概説 がいせつ 書 しょ を著 あらわ したが(Bulfinch's Mythology , 『ギリシア神話 しんわ と英雄 えいゆう 伝説 でんせつ 』)、「神話 しんわ の起源 きげん 」について次 つぎ のような四 よっ つの説 せつ をまとめ紹介 しょうかい している。1)神話 しんわ は『聖書 せいしょ 』の物語 ものがたり の変形 へんけい である。2)神話 しんわ はすべて歴史 れきし 的 てき 事実 じじつ の反映 はんえい であり、後世 こうせい の加筆 かひつ や粉飾 ふんしょく で元 もと の姿 すがた が不明 ふめい となったものである。3)神話 しんわ は道徳 どうとく ・哲学 てつがく ・宗教 しゅうきょう ・歴史 れきし の真理 しんり などを寓意 ぐうい 的 てき に表現 ひょうげん したものである。4)神話 しんわ は多様 たよう な自然 しぜん 現象 げんしょう の擬人 ぎじん 化 か である。この最後 さいご の解釈 かいしゃく は、19世紀 せいき 初頭 しょとう のワーズワース の詩作 しさく 品 ひん に極 きわ めて明瞭 めいりょう に表出 ひょうしゅつ されているとする[95] 。
19世紀 せいき と比較 ひかく 神話 しんわ 学 がく [ 編集 へんしゅう ]
マックス・ミュラー
神話 しんわ の解釈 かいしゃく や研究 けんきゅう において大 おお きな刺激 しげき となったのは、19世紀 せいき にあっては、印欧語 いんおうご の比較 ひかく 研究 けんきゅう より生 う まれた比較 ひかく 言語 げんご 学 がく である。ドイツ生 う まれで、後半 こうはん 生 せい をイギリスに生 い き研究 けんきゅう を行 おこな ったマックス・ミュラー は比較 ひかく 神話 しんわ 学 がく という形 かたち の神話 しんわ 解釈 かいしゃく 理論 りろん を提唱 ていしょう した。比較 ひかく 言語 げんご 学 がく の背景 はいけい にある思想 しそう は当時 とうじ 西欧 せいおう を席巻 せっけん していた進化 しんか 論 ろん と進歩 しんぽ 主義 しゅぎ 的 てき 歴史 れきし 観 かん である。ミュラーは、ギリシア神話 しんわ をインド神話 しんわ などと比較 ひかく した上 うえ で、これらの神話 しんわ の意味 いみ は、最終 さいしゅう 的 てき には太陽 たいよう をめぐる自然 しぜん 現象 げんしょう の擬人 ぎじん 化 か であるとする神話 しんわ 論 ろん を主張 しゅちょう した。
『金枝 きんし 篇 へん 』ターナー 画 が
ジェームズ・フレイザー はミュラーと同 おな じく自然 しぜん 神話 しんわ 学 がく を唱 とな えたが、彼 かれ は浩瀚 こうかん な『金枝 きんし 篇 へん 』において王 おう の死 し と再生 さいせい の神話 しんわ を研究 けんきゅう し、神話 しんわ は天上 てんじょう の自然 しぜん 現象 げんしょう の解釈 かいしゃく ではなく、地上 ちじょう の現象 げんしょう と社会 しゃかい 制度 せいど のありようの反映 はんえい であるとした。また神話 しんわ は呪術 じゅじゅつ 的 てき 儀礼 ぎれい を説明 せつめい するために生 う み出 だ されたとも主張 しゅちょう した。ミュラーの解釈 かいしゃく では、ゼウス は太陽 たいよう の象徴 しょうちょう で神 かみ 々の物語 ものがたり も、太陽 たいよう を中心 ちゅうしん とする自然 しぜん 現象 げんしょう の擬人 ぎじん 的 てき 解釈 かいしゃく であるということになる。他方 たほう 、フレイザーでは、「死 し して蘇 よみがえ る神 かみ 」の意味 いみ 解明 かいめい が中心 ちゅうしん 主題 しゅだい となる。エレウシースの秘 ひ 儀 ぎ がこのような神話 しんわ であり、ディオニューソス もまた死 し して後 ご 、ザグレウス として復活 ふっかつ する。
構造 こうぞう と普遍 ふへん 的 てき な神話 しんわ 学 がく [ 編集 へんしゅう ]
デーメーテール
ソシュールの構造 こうぞう の概念 がいねん を継承 けいしょう して神話 しんわ 研究 けんきゅう に適用 てきよう したのは人類 じんるい 学者 がくしゃ のクロード・レヴィ=ストロース であり、彼 かれ は『構造 こうぞう 神話 しんわ 学 がく 』において、オイディプース の悲劇 ひげき を、神話 しんわ 素 もと (英語 えいご 版 ばん ) のあいだの差異 さい の構造 こうぞう と矛盾 むじゅん の体系 たいけい として分析 ぶんせき し、「神話 しんわ 的 てき 思考 しこう 」の存在 そんざい を提唱 ていしょう した。オイディプース神話 しんわ の目的 もくてき の一 ひと つは、現実 げんじつ の矛盾 むじゅん を説明 せつめい し解明 かいめい するための構造 こうぞう 的 てき な論理 ろんり モデルの提供 ていきょう にあるとした。この神話 しんわ の背後 はいご には様々 さまざま な矛盾 むじゅん 対立 たいりつ 項 こう があり、例 たと えば、人 ひと は男女 だんじょ の結婚 けっこん によって生 しょう じるという認識 にんしき の一方 いっぽう で、人 ひと は土 ど から生 う まれたという古代 こだい ギリシア の伝承 でんしょう の真理 しんり について、この矛盾 むじゅん を解決 かいけつ するための構造 こうぞう 把握 はあく がオイディプース神話 しんわ であるとした。
フロイトの無意識 むいしき の発見 はっけん から淵源 えんげん したとも言 い える深層 しんそう 心理 しんり 学 がく の理論 りろん は、歴史 れきし 的 てき に現 あらわ れる現象 げんしょう とは別 べつ に、時間 じかん を超 こ えて普遍 ふへん 的 てき に存在 そんざい する構造 こうぞう の存在 そんざい を教 おし える。ユング は、このような普遍 ふへん 的 てき ・無 む 時間 じかん 的 てき な構造 こうぞう の作用 さよう として元 もと 型 かた の概念 がいねん を提唱 ていしょう した。ケレーニイとの共著 きょうちょ 『神話 しんわ 学 がく 入門 にゅうもん 』においては、童子 どうじ 神 しん の深層 しんそう 心理 しんり 学 がく 的 てき な分析 ぶんせき が行 おこな われるが、コレー や永遠 えいえん の少年 しょうねん としてのエロース は太 ふとし 母 はは (地 ち 母 はは 神 しん )としてのデーメーテール などとの関係 かんけい で出現 しゅつげん する元 もと 型 かた であり、「再生 さいせい の神話 しんわ 」と呼 よ ばれるものが、無意識 むいしき の構造 こうぞう より起源 きげん する自我 じが の成立 せいりつ 基盤 きばん であり、自我 じが の完全 かんぜん 性 せい への志向 しこう を補完 ほかん する普遍 ふへん 的 てき な動的 どうてき 機構 きこう であるとした[97] 。
ロ ろ ーマ帝国 まていこく の分裂 ぶんれつ と写本 しゃほん [ 編集 へんしゅう ]
共和 きょうわ 政 せい ローマ
紀元 きげん 3世紀 せいき ないし4世紀 せいき には未 いま だ、ヘレニズム 時代 じだい とローマ帝政 ていせい 期 き に造 つく られ、伝 つて 存 そん していた莫大 ばくだい な量 りょう の書籍 しょせき があったとされる。例 たと えば、古典 こてん 三 さん 大 だい 悲劇 ひげき 詩人 しじん の作品 さくひん は、現在 げんざい 伝 つて 存 そん しているものは、名 な が伝 つた わっているもののなかの十 じゅう 分 ぶん の一 いち しかないが、この当時 とうじ には未 いま だほぼ全巻 ぜんかん が揃 そろ っていたと考 かんが えられる。これらの莫大 ばくだい な書籍 しょせき ・写本 しゃほん は、ヘレニズム時代 じだい が過 す ぎ去 さ り、帝政 ていせい ローマが終焉 しゅうえん を迎 むか えた後 のち では、激減 げきげん してほとんどの書籍 しょせき が散逸 さんいつ したとされる。
それは東西 とうざい に分裂 ぶんれつ したロ ろ ーマ帝国 まていこく の西 にし の帝国 ていこく の領域 りょういき で著 いちじる しかった。西 にし ローマ は間 ま もなく滅亡 めつぼう し、ゲルマンの国 くに であるフランク王国 おうこく が成立 せいりつ するが、一旦 いったん 失 うしな われた書籍 しょせき は再 ふたた び回復 かいふく しなかった。他方 たほう 、東 ひがし の帝国 ていこく すなわちビザンティン帝国 ていこく の領域 りょういき では、多数 たすう の書籍 しょせき とその写本 しゃほん がなお豊富 ほうふ に残 のこ っており、これを利用 りよう して、12世紀 せいき のヨハンネス・ツェツェース などの文献 ぶんけん 学者 がくしゃ は、なおギリシア神話 しんわ に関 かん する膨大 ぼうだい な注釈 ちゅうしゃく 本 ほん などを記 しる していた[注釈 ちゅうしゃく 32] 。
十 じゅう 二 に 世紀 せいき ルネサンス[ 編集 へんしゅう ]
西欧 せいおう においては、すべての写本 しゃほん 、古代 こだい の遺産 いさん が失 うしな われたわけではなく、14世紀 せいき から15世紀 せいき にかけてのルネッサンスにおいて、丹念 たんねん に修道院 しゅうどういん の文書 ぶんしょ 庫 こ などを調 しら べることで、ギリシア語 ご 原典 げんてん の写本 しゃほん などがなお発見 はっけん されつづけた。他方 たほう 、西欧 せいおう で失 うしな われた多 おお くの書籍 しょせき は、8世紀 せいき におけるイスラーム帝国 ていこく の勃興 ぼっこう と共 とも に、ビザンティン帝国 ていこく を介 かい してイスラームに渡 わた った。しかしアラトスなど極 ごく 一部 いちぶ の例外 れいがい を除 のぞ き、神話 しんわ についての書籍 しょせき は伝承 でんしょう されなかった。中世 ちゅうせい からルネサンスにかけては、マクロビウス 、フルゲンティウス (英語 えいご 版 ばん ) 、マルティアヌス・カペッラ 、セルウィウス らのラテン語 らてんご 著作 ちょさく が古代 こだい 神話 しんわ の出典 しゅってん として参照 さんしょう された。さらに盛期 せいき には『バチカン・ミトグラフス』など中世 ちゅうせい 独自 どくじ の古代 こだい 神話 しんわ 集成 しゅうせい も著 あらわ された。
ルネサンスとギリシア神話 しんわ [ 編集 へんしゅう ]
ボッティチェリ -春 はる
西欧 せいおう では、古代 こだい ギリシア語 かたり による文芸 ぶんげい はほとんど忘 わす れられていたが、14世紀 せいき 初頭 しょとう の代表 だいひょう 的 てき な中世 ちゅうせい 詩人 しじん であるダンテ・アリギエリ は、『神 かみ 曲 きょく 』地獄 じごく 篇 へん のなかでリンボー という領域 りょういき を造 つく り、そこに古代 こだい の詩人 しじん を配置 はいち した。5人 にん の詩人 しじん 中 ちゅう 4人 にん はラテン語 らてんご 詩人 しじん で、残 のこ りの一人 ひとり がホメーロスであった。しかし、ダンテはホメーロスの作品 さくひん を知 し らなかったし、西欧 せいおう にこの大 だい 詩人 しじん が知 し られるのは、やや後 のち になってからであった。
しかし西欧 せいおう では、古代 こだい のローマ詩人 しじん オウィディウス の名 な とその作品 さくひん はよく知 し られていた。イタリア・ルネサンスの絵画 かいが でギリシア神話 しんわ の主題 しゅだい を明確 めいかく に表現 ひょうげん しているものとして、サンドロ・ボッティチェリ の『ヴィーナスの誕生 たんじょう 』と『春 はる 』が存在 そんざい する。両 りょう 絵画 かいが 共 ども に制作 せいさく 年 ねん は明確 めいかく ではないが、1482年 ねん 頃 ごろ であろうと想定 そうてい されている[103] 。高階 たかしな 秀爾 ひでじ はこの二 ふた つの絵画 かいが を解釈 かいしゃく して、『春 はる 』はオウィディウスの『祭 まつり 暦 れき 』の描写 びょうしゃ に合致 がっち する一方 いっぽう 、『ヴィーナスの誕生 たんじょう 』と『春 はる 』が対 たい を成 な す作品 さくひん ならば、これは「天 てん のアプロディーテー」と「大衆 たいしゅう のアプロディーテー」の描 えが き分 わ けの可能 かのう 性 せい があると指摘 してき している[注釈 ちゅうしゃく 33] 。
ボッティチェリ の『ヴィーナスの誕生 たんじょう 』は、イタリア・ルネサンスにおけるギリシア神話 しんわ の具象 ぐしょう 的 てき 表現 ひょうげん の代表 だいひょう 的 てき な作品 さくひん とも言 い える。この絵 え の背後 はいご にあると想定 そうてい されるマルシリオ・フィチーノ など(プラトン・アカデミー )のネオプラトニズム の哲学 てつがく や、魔術 まじゅつ 的 てき ルネサンス の思想 しそう は、秘教 ひきょう 的 てき なギリシア文化 ぶんか と西欧 せいおう 文化 ぶんか のあいだで通 つう 底 そこ する美的 びてき 神話 しんわ 的 てき 原理 げんり であるとも言 い える。次 つぎ に、西欧 せいおう 世界 せかい において、ルネサンス期 き 以前 いぜん のギリシアのイメージはどのようなものだったのかを記 しる す。
ホメーロスと古代 こだい ギリシア [ 編集 へんしゅう ]
アキレウス
西欧 せいおう における古代 こだい ギリシア、わけてもホメーロスの像 ぞう は、いわゆる「トロイアの物語 ものがたり 」のイメージで捉 とら えられていた。これは紀元 きげん 4世紀 せいき ないし5世紀 せいき のラテン語 らてんご の詩 し 『トロイア戦争 せんそう 日誌 にっし 』と『トロイア滅亡 めつぼう の歴史 れきし 物語 ものがたり 』を素材 そざい として、12世紀 せいき にブノワ・ド・サント=モールがフランス語 ふらんすご で書 か いたロマンス風 ふう の『トロイア物語 ものがたり 』から広 ひろ がって行 い ったものである。この作品 さくひん は更 さら にラテン語 らてんご で翻案 ほんあん され、全 ぜん ヨーロッパ中 ちゅう に広 ひろ まったとされる。
叙事詩 じょじし 人 じん ホメーロスが意図 いと した古代 こだい ギリシアと、西欧 せいおう 中世 ちゅうせい にあって「トロイア物語 ものがたり 」を通 つう じて流布 るふ したギリシアの像 ぞう では、どのような違 ちが いがあったのか。ここで言 い えるのは、両者 りょうしゃ が共 とも に「歴史 れきし 性 せい 」を負 お っていること、しかし前者 ぜんしゃ は「詩的 してき 」であろうとする世界 せかい であり、後者 こうしゃ はあくまで「史的 してき 」であろうとする世界 せかい である。ホメーロス時代 じだい のギリシアの世界 せかい には「神 かみ 々の顕現 けんげん 」が含 ふく まれていたが、古代 こだい 末期 まっき から近世 きんせい にかけての西欧 せいおう において思 おも い描 えが かれていた「ギリシア世界 せかい 」では、「神 かみ 々の不在 ふざい 」が顕著 けんちょ であり、脱 だつ 神話 しんわ 化 か が行 おこな われている。
だがイタリアの人文 じんぶん 主義 しゅぎ 者 しゃ たちは、ホメーロス『イーリアス 』原典 げんてん を、15世紀 せいき 半 なか ばにラテン語 らてんご 訳 やく した。この翻訳 ほんやく を通 つう じ、汎 ひろし 西欧 せいおう 的 てき にホメーロス及 およ び古代 こだい ギリシアの把握 はあく 像 ぞう に変化 へんか が生 しょう じてきた。17世紀 せいき には、ジョージ・チャップマンが『イーリアス』(1611年 ねん )と『オデュッセイア』(1614年 ねん )を英訳 えいやく し、マダム・ダシエ(1654-1720)が『イーリアス』と『オデュッセイア』を、フランス語 ふらんすご 訳 やく した。このように進展 しんてん した事 こと で、古典 こてん ギリシアの再 さい 発見 はっけん とも呼 よ べる事態 じたい が到来 とうらい した。
ギリシア神話 しんわ と西欧 せいおう [ 編集 へんしゅう ]
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レオナルド・ダ・ヴィンチ
ギリシア神話 しんわ の影響 えいきょう を現在 げんざい も強 つよ く受 う けている学問 がくもん の一 ひと つが天文学 てんもんがく である。現在 げんざい 、恒星 こうせい を結 むす んで作 つく る星座 せいざ は88を数 かぞ えるが、そのうちトレミーの48星座 せいざ などは、ギリシア神話 しんわ と結 むす び付 つ けられている。またローマ神話 しんわ は太陽 たいよう はアポローン、月 つき はアルテミスに擬 なぞら えたほかローマ神話 しんわ を経由 けいゆ して惑星 わくせい の名称 めいしょう も水星 すいせい はヘルメース(ローマ神話 しんわ のメルクリウス)、金星 かなぼし はアプロディーテー(同 どう ウェヌス)、火星 かせい はアレース(同 どう マールス)、木星 もくせい はゼウス(同 どう ユーピテル)、土星 どせい はクロノス(同 どう サートゥルヌス)に擬 なぞら えられている。近代 きんだい になってガリレオ・ガリレイが木星 もくせい の4つの衛星 えいせい を発見 はっけん したときもガニメデ、エウロペ、カリスト、イオとゼウスにゆかりのある物 もの が命名 めいめい されている。近代 きんだい 以降 いこう 発見 はっけん された天体 てんたい も天王星 てんのうせい (ウーラノス)、海王星 かいおうせい (ポセイドーン(ローマ神話 しんわ のネプトゥーヌス))、冥王星 めいおうせい (ハーデース(ローマ神話 しんわ のプルートー))とギリシア神話 しんわ にゆかりのある名 な がつけられる慣行 かんこう が残 のこ っている。20世紀 せいき から21世紀 せいき においても冥王星 めいおうせい に衛星 えいせい が発見 はっけん されるとカロン、ニュクス、ヒュドラ、ケルベロスとハーデースにゆかりのある事物 じぶつ に因 ちな んで命名 めいめい されている。天体 てんたい の新 しん 発見 はっけん が相次 あいつ ぎ命名 めいめい に使用 しよう するギリシア神話 しんわ の事物 じぶつ が枯渇 こかつ し始 はじ めると「神話 しんわ の神 かみ 々の名 な を使用 しよう する」という慣行 かんこう による命名 めいめい が行 おこな われており、21世紀 せいき になってもなお天文学 てんもんがく においてギリシア神話 しんわ の影響 えいきょう は強 つよ い。
医学 いがく においても医療 いりょう の象徴 しょうちょう にアスクレーピオスの蛇 へび の杖 つえ が使用 しよう されるなど、ギリシア神話 しんわ にゆかりのある物 もの が多数 たすう ある。アキレス腱 あきれすけん 、エディプスコンプレックス などはギリシア神話 しんわ 由来 ゆらい である。また心理 しんり 学 がく を意味 いみ するサイコロジーの「サイコ」も心 しん の女神 めがみ プシューケー に由来 ゆらい するほか、性愛 せいあい を意味 いみ する「エロス」は愛 あい の神 かみ エロース に由来 ゆらい し、「恐怖 きょうふ 」「嫌悪 けんお 」を意味 いみ する「フォビア」は「フォボス 」に由来 ゆらい する。
フランシスコ・デ・ゴヤの『わが子 こ を食 く らうサトゥルヌス』。
ギリシア神話 しんわ はイタリア人文 じんぶん 主義 しゅぎ の絵画 かいが の主題 しゅだい だけではなく、様々 さまざま な絵画 かいが ・視覚 しかく 的 てき 芸術 げいじゅつ の主題 しゅだい ともなる。ボッティチェリが更 さら に多 おお くの絵画 かいが を描 えが き、ルネサンス 期 き のレオナルド・ダ・ヴィンチ 、ミケランジェロ 、ラファエロ をはじめ、コレッジョ 、ティツィアーノ 、カラヴァッジョ 、ルーベンス 、ニコラ・プッサン 、ドラクロア 、コロー 、ドミニク・アングル 、ギュスターヴ・モロー 、グスタフ・クリムト などもギリシア神話 しんわ に題材 だいざい を取 と った絵 え を描 えが いている。美術館 びじゅつかん 、博物館 はくぶつかん を意味 いみ する「ミュージアム」はムーサに由来 ゆらい する。
また、数 すう 多 おお くの文学 ぶんがく 者 しゃ や詩人 しじん が、作品 さくひん の題材 だいざい や形容 けいよう ・修飾 しゅうしょく にギリシア神話 しんわ の逸話 いつわ や場面 ばめん を利用 りよう することで、作品 さくひん に重層 じゅうそう 性 せい を与 あた えている。ジョン・ミルトンは『失 しつ 楽園 らくえん 』、『コウマス』において修飾 しゅうしょく 引用 いんよう を行 おこな っている。スペンサーは『妖精 ようせい 女王 じょおう 』でギリシア神話 しんわ に言及 げんきゅう する。ロマン派 は の詩人 しじん たちは、しばしばギリシア神話 しんわ からインスピレーションを得 え ている。『チャイルド・ハロルド』におけるロード・バイロン 、『エンデュミオーン』、『プシューケーに寄 よ せるオード』におけるジョン・キーツ などである。ヘルダリーン は『ヒュペーリオン』、『エンペドクレス 』を書 か き、ライナー・マリア・リルケ は『オルフォイスに献 けんじ げるゾネット』連作 れんさく を造 つく った。オルペウス もまた詩人 しじん に霊感 れいかん を与 あた え、ジャン・コクトー は映画 えいが を制作 せいさく している。ジェイムズ・ジョイス の作品 さくひん 、特 とく に『ユリシーズ』もまたギリシア神話 しんわ の影響 えいきょう を受 う けている。
音楽 おんがく を意味 いみ するミュージックはギリシア神話 しんわ のムーサに由来 ゆらい する。18世紀 せいき 以降 いこう 、音楽 おんがく の分野 ぶんや でも、ギリシア神話 しんわ を題材 だいざい やモチーフとしたものが多数 たすう 制作 せいさく された。グルック には、『パリーデとエレーナ (英語 えいご 版 ばん ) 』、『オーリードのイフィジェニー 』、『トーリードのイフィジェニー 』があり、ベルリオーズ は『トロイアの人々 ひとびと 』を作曲 さっきょく している。モーツァルト には、アイネイアース の子 こ を主題 しゅだい とした 『アルバのアスカーニオ』があり、また『イドメネオ』がある。オペラ 作品 さくひん として、グルックには、オウィディウス の作品 さくひん を原作 げんさく とした『エコーとナルシス (英語 えいご 版 ばん ) 』があり、リヒャルト・シュトラウスには、『エレクトラ』、エウリーピデース の悲劇 ひげき を元 もと にした『エジプトのヘレナ』、『ナクソス島 とう のアリアドネ』、『ダフネ』がある。カール・オルフ は『アンティゴネー』を作曲 さっきょく している。オッフェンバックは神話 しんわ パロディの喜 き 歌劇 かげき を得意 とくい とし、『地獄 じごく のオルフェ (天国 てんごく と地獄 じごく )』には、倦怠期 けんたいき のオルフェオ夫婦 ふうふ 、神 かみ 々の労組 ろうそ に手 て を焼 や くユピテールなど皮肉 ひにく たっぷりのキャラクターが登場 とうじょう する。
ギリシア神話 しんわ の英雄 えいゆう あるいは出来事 できごと を映画 えいが 化 か した作品 さくひん は欧米 おうべい において非常 ひじょう に多数 たすう に昇 のぼ る。トロイア戦争 せんそう を主題 しゅだい にした映画 えいが 作品 さくひん は数多 かずおお く制作 せいさく されており、ヘーラクレース を主人公 しゅじんこう とする作品 さくひん もまた多 おお くある。アルゴナウタイ 、テーセウス (主 おも にクレーテー の迷宮 めいきゅう を舞台 ぶたい として)の物語 ものがたり 、テーバイ攻 ぜ めの七 なな 将 しょう などの話 はなし が映画 えいが 化 か されている。ギリシア悲劇 ひげき も映画 えいが となっているものが多 おお い。
近年 きんねん では、ビデオゲーム の題材 だいざい としてギリシア神話 しんわ が選 えら ばれる事 こと がある。『ヘラクレスの栄光 えいこう 』はヘーラクレースを主人公 しゅじんこう とし、神話 しんわ の世界 せかい を旅 たび するロールプレイングゲーム である(作品 さくひん によってはヘーラクレースが主人公 しゅじんこう でないものもある)。リアルタイムストラテジー である『エイジ オブ ミソロジー 』においてはオリュンポス十 じゅう 二 に 神 かみ もしくはティーターン の力 ちから を借 か りつつギリシア文明 ぶんめい やアトランティス文明 ぶんめい を発展 はってん させ、他 た の文明 ぶんめい を打 う ち倒 たお す。『ゴッド・オブ・ウォー 』においてはギリシア神話 しんわ の(特 とく に)英雄 えいゆう 譚 たん における荒々 あらあら しさや残酷 ざんこく さを前面 ぜんめん に押 お し出 だ した物語 ものがたり が展開 てんかい される。これは本 ほん 作 さく が格闘 かくとう 戦 せん を主軸 しゅじく とした激 はげ しいアクションゲーム であるため、ゲームデザイン(遊具 ゆうぐ としての設計 せっけい )の観点 かんてん からも暴力 ぼうりょく 的 てき な物語 ものがたり である必要 ひつよう 性 せい があったからである。
ギリシア神話 しんわ と日本 にっぽん [ 編集 へんしゅう ]
白鳥 はくちょう 座 ざ ・琴 きん 座 ざ
アポロドーロス 『ギリシア神話 しんわ 』の訳者 やくしゃ まえがきで高津 たかつ 春繁 はるしげ は、日本 にっぽん においてギリシア神話 しんわ は、オウィディウス 『変身 へんしん 物語 ものがたり 』から取 と られた話 はなし を軸 じく に紹介 しょうかい されて来 き たと述 の べている。欧米 おうべい でも日本 にっぽん でも、子供 こども 向 む け、あるいは若 わか い人 ひと 向 む けにギリシア神話 しんわ 物語 ものがたり の書 か き下 おろ し出版 しゅっぱん が多 おお いが、それらはオウィディウスの本 ほん のように、ヘレニズム的 てき な甘美 かんび さと優 やさ しさに重点 じゅうてん を置 お いた物語 ものがたり が大半 たいはん である。異 こと なるのは、成人 せいじん 向 む けのギリシア神話 しんわ であっても、さほど重要 じゅうよう でもない「変身 へんしん 」物語 ものがたり や恋愛 れんあい 譚 たん が多 おお く取 と り上 あ げられた所 ところ である。
原典 げんてん 訳書 やくしょ
神話 しんわ を体系 たいけい 記述 きじゅつ した著作 ちょさく
概説 がいせつ 書 しょ
文庫 ぶんこ 版 ばん の漫画 まんが ・イラスト・入門 にゅうもん 書 しょ
里中 さとなか 満智子 まちこ 『マンガ ギリシア神話 しんわ 』(全 ぜん 8巻 かん )、中央公論 ちゅうおうこうろん 新 しん 社 しゃ /中公 ちゅうこう 文庫 ぶんこ
吉田 よしだ 敦彦 あつひこ 監修 かんしゅう 『ズバリ図解 ずかい ギリシア神話 しんわ 』 ぶんか社 しゃ 文庫 ぶんこ 、2007年 ねん 。新装 しんそう 版 ばん ・洋 よう 泉 いずみ 社 しゃ 、2012年 ねん
さかもと未明 みめい 『マンガ ギリシア神話 しんわ 、神 かみ 々と人間 にんげん たち』 講談社 こうだんしゃ +α あるふぁ 文庫 ぶんこ 、2001年 ねん
遠藤 えんどう 寛子 ひろこ 、絵 え ・若菜 わかな 等 ひとし 『ギリシア神話 しんわ 』 講談社 こうだんしゃ 青 あお い鳥 とり 文庫 ぶんこ 1994年 ねん
阿 おもね 刀 かたな 田高 たたか 『ギリシア神話 しんわ を知 し っていますか』、『ホメロスを楽 たの しむために』 各 かく ・新潮社 しんちょうしゃ /新潮 しんちょう 文庫 ぶんこ
高津 たかつ 春繁 はるしげ ・高津 たかつ 久美子 くみこ 共編 きょうへん 『ギリシア神話 しんわ 』 偕成社 かいせいしゃ 文庫 ぶんこ /新版 しんぱん ・講談社 こうだんしゃ
専門 せんもん 書 しょ ・周辺 しゅうへん 書 しょ
辞典 じてん ・事典 じてん
原典 げんてん 対照 たいしょう 本 ほん
Homer Iliad (Loeb CL) Harvard Univ. Press
Homer The Odyssey (Loeb CL) Harvard Univ. Press
Hesiod et al. Hesiod, Homeric Hymns, etc. (Loeb CL) Harvard Univ. Press
^ 古代 こだい ギリシア人 じん は、ギリシア本土 ほんど に紀元前 きげんぜん 二 に 千年紀 せんねんき に南下 なんか して後 ご 、ミュケーナイを中心 ちゅうしん に紀元前 きげんぜん 16世紀 せいき 頃 ごろ よりミュケーナイ文化 ぶんか を築 きず き始 はじ め、紀元前 きげんぜん 13世紀 せいき にはこの文化 ぶんか は東 ひがし 地中海 ちちゅうかい を席巻 せっけん した。しかし紀元前 きげんぜん 12世紀 せいき に、ドーリス人 じん を代表 だいひょう とする別 べつ 系統 けいとう のギリシア人 じん が南下 なんか を始 はじ め、アテーナイとアルカディアを残 のこ す領域 りょういき を征服 せいふく した。先住 せんじゅう のギリシア人 じん は小 しょう アジアに逃 のが れ、そこにアイオリスとイオーニア方言 ほうげん の領域 りょういき を造 つく った。ドーリス人 じん を代表 だいひょう とする西 にし ギリシア民族 みんぞく のこの進出 しんしゅつ によりミュケーナイ文化 ぶんか は凋落 ちょうらく し、ギリシアの「暗黒 あんこく 」時代 じだい が訪 おとず れる。
^ 他方 たほう 、考古学 こうこがく 的 てき 発掘 はっくつ では、トロイア遺跡 いせき 丘 おか 第 だい 七 なな a層 そう の都市 とし が紀元前 きげんぜん 13世紀 せいき 半 なか ばに火災 かさい で壊滅 かいめつ したことが確認 かくにん されている。この年代 ねんだい は文献 ぶんけん 学 がく の立場 たちば からのトロイア戦争 せんそう の時期 じき と一致 いっち する。『イーリアス』と『オデュッセイア』以外 いがい にも古 ふる く叙事詩 じょじし が存在 そんざい したことが知 し られており、ミュケーナイ時代 じだい の出来事 できごと の遠 とお い反響 はんきょう とも言 い える。英雄 えいゆう 叙事詩 じょじし は暗黒 あんこく 時代 じだい を通 つう じて口承 こうしょう で伝 つた えられ洗練 せんれん され、紀元前 きげんぜん 9世紀 せいき または8世紀 せいき のホメーロス の二 に 大 だい 作品 さくひん として世 よ に知 し られることになる。
^ とはいえ、ミューケナイ王朝 おうちょう はワカナと呼 よ ばれる帝王 ていおう を頂点 ちょうてん として、オリエント風 ふう の官僚 かんりょう 組織 そしき を備 そな えた一種 いっしゅ の専制 せんせい 国家 こっか であったことが線 せん 文字 もじ Bの解読 かいどく を通 つう じて知 し られている。遠 とお いミュケーナイ時代 じだい の事件 じけん は伝 つた わったが、物語 ものがたり の枠組 わくぐ みとしては、暗黒 あんこく 時代 じだい を通 つう じて育成 いくせい されて来 き た新 あたら しいポリス的 てき 国家 こっか の自由 じゆう に充 み ちた気風 きふう がホメーロスの叙事詩 じょじし では表現 ひょうげん されている。帝王 ていおう アガメムノーン に反抗 はんこう する若 わか き戦士 せんし アキレウス の人間像 にんげんぞう は、ミュケーナイ時代 じだい のものではありえないと考 かんが えられている。
^ ヘーシオドスは文字 もじ を知 し っており、彼 かれ の作品 さくひん は朗唱 ろうしょう されただけではなく文字 もじ 記録 きろく の形 かたち を最初 さいしょ から持 も っていたとする説 せつ がある。ただしこの説 せつ の真偽 しんぎ は不確 ふたし かである。しかし、彼 かれ の作品 さくひん はホメーロスの叙事詩 じょじし とは異 こと なり吟唱 ぎんしょう 詩人 しじん が詠 うた い伝 つた えたものではない。そのような記録 きろく が残 のこ っていない。ヘーシオドス 自身 じしん が文字 もじ 化 か したのではなくとも、彼 かれ の詩 し は早期 そうき に文字 もじ 化 か されていたと考 かんが えられる。
^ カリマコス、カッリマコスとも書 か く。彼 かれ は貧 まず しく生 う まれたが苦学 くがく し、プトレマイオス2世 せい に認 みと められ、アレクサンドレイア図書館 としょかん の司書 ししょ となった。「司書 ししょ 」というのがどのような役割 やくわり か判然 はんぜん としないが、公職 こうしょく かそれに準 じゅん じるものと考 かんが えられる。
^ ペレキューデースの名 な を持 も つ神 かみ 々の系譜 けいふ 記録 きろく 者 しゃ は二 に 人 にん いた。紀元前 きげんぜん 7世紀 せいき -6世紀 せいき の哲学 てつがく 者 しゃ シューロスのペレキューデース と紀元前 きげんぜん 5世紀 せいき のアテーナイのペレキューデース である。呉 ご 茂一 もいち はレーロスのペレキューデース の名 な をあげている[12] 。高津 たかつ 春繁 はるしげ はシューロス の哲学 てつがく 者 しゃ を挙 あ げている(『ギリシア文学 ぶんがく 史 し 』p.92)。系譜 けいふ 学者 がくしゃ は「レーロスとアテーナイのペレキューデース」という記述 きじゅつ もあり、シューロスの哲学 てつがく 者 しゃ としばしば混同 こんどう されるともされる(Companion to Classical Literature p.430)。
^ グリマルは、このように古 ふる い起源 きげん を持 も ち、かつ全 ぜん ギリシア中 ちゅう に伝承 でんしょう が存在 そんざい する英雄 えいゆう 伝説 でんせつ ・物語 ものがたり 圏 けん として、代表 だいひょう 的 てき に六 ろく 個 こ を挙 あ げている。1)アルゴナウタイ 遠征 えんせい 譚 たん 、2)テーバイ 伝説 でんせつ 圏 けん 、3)アトレウス 家伝 かでん 説 せつ 圏 けん 、4)ヘーラクレース 伝説 でんせつ 圏 けん 、5)テーセウス 伝説 でんせつ 圏 けん 、そして6)オデュッセウス の物語 ものがたり である。
^ ヘーシオドスがうたう三 さん 代 だい の王権 おうけん の推移 すいい は、紀元前 きげんぜん 二 に 千年紀 せんねんき のオリエントにおいて、アッカド の『エヌマ・エリシュ 』やヒッタイト の『クマルビ神話 しんわ 』などで語 かた られている。
^ オルペウス教 きょう の教義 きょうぎ について触 ふ れた文書 ぶんしょ としては、1)アリストパネース の『鳥 とり 』に含 ふく まれるパロディ。2)「デルヴェニ・パピュルス 」。3)アテナゴラス の伝 つた える説 せつ 。4)ヒエロニュモスとヘラニコスによる宇宙 うちゅう 誕生 たんじょう 譚 たん 。5)『二 に 四 よん の叙事詩 じょじし からなる聖 せい なる言説 げんせつ 』。6)ロドスのアポローニオス 『アルゴナウティカ 』所収 しょしゅう のオルペウス説 せつ 、等 ひとし がある。
^ 当時 とうじ のギリシア人 じん は世界 せかい は円盤 えんばん の形 かたち をした平面 へいめん であり、このもっとも外側 そとがわ を、海流 かいりゅう が円 えん 環 たまき をなして果 は てしなく流 なが れ続 つづ けているという像 ぞう を持 も っていた。この最果 さいは ての海流 かいりゅう がオーケアノスである。母 はは なるテーテュースは女性 じょせい だということが分 わ かるだけで詳細 しょうさい は不明 ふめい である。
^ ヒッタイトに保存 ほぞん されていた「ウッリクンミの歌 うた 」においては、クマルビがアヌの性器 せいき を切断 せつだん する説話 せつわ があり、クロノスによるウーラノスの去勢 きょせい はこの話 はなし の影響 えいきょう を受 う けている可能 かのう 性 せい がある。
^ オリュンポスの十 じゅう 二 に の神 かみ は、典型 てんけい 的 てき なギリシア人 じん に固有 こゆう の神 かみ と考 かんが えられやすいが、半数 はんすう が非 ひ ヘレーネス起源 きげん の神 かみ である。ゼウス の后 きさき ヘーラー は、先住民 せんじゅうみん の女神 めがみ であり、古代 こだい ギリシア人 じん が先住民 せんじゅうみん を征服 せいふく した際 さい 、両者 りょうしゃ のあいだの融和 ゆうわ を目的 もくてき として主神 しゅしん ゼウスの后 きさき にヘーラーを据 す えたと考 かんが えられる。ゼウスの第 だい 一 いち の娘 むすめ で、最高 さいこう の女神 めがみ とも言 い えるアテーナー もまたヘレーネス固有 こゆう の神 かみ ではない。アポローン とアルテミス の両 りょう 神 かみ は、その名前 なまえ が印欧語 いんおうご 起源 きげん ではなく、前者 ぜんしゃ はオリエントの神 かみ の可能 かのう 性 せい があり、後者 こうしゃ は先住民 せんじゅうみん の神 かみ と考 かんが えられる。ヘルメース も先住民 せんじゅうみん の神 かみ で、アプロディーテー はオリエント起源 きげん の女神 めがみ である。ペルセポネー もその名 な は先住民 せんじゅうみん の神 かみ のものと考 かんが えられる。
^ ゼウスとディオーネーの娘 むすめ とするのはホメーロス である。泡 あわ より生 う まれたとするのはヘーシオドス で、後者 こうしゃ を、アプロディーテー・ウーラニアー(天上 てんじょう のアプロディーテー、Aphrodite Ourania )、前者 ぜんしゃ のゼウスの娘 むすめ とする場合 ばあい 、アプロディーテー・パンデーモス(大衆 たいしゅう のアプロディーテー、Aphrodite Pandemos )として区別 くべつ した。本来 ほんらい 「ウーラニアー」という場合 ばあい は、「東洋 とうよう の神 かみ 」を示唆 しさ し、他方 たほう 「パンデーモス」という場合 ばあい は、「市民 しみん の神 かみ 」、従 したが ってヘレーネスの神 かみ の含意 がんい があった。プラトーンですでに議論 ぎろん となっているが、後 のち にルネッサンスで「天 てん の愛 あい 」と「通俗 つうぞく の愛 あい 」という対立 たいりつ で再度 さいど 議論 ぎろん される。
^ 呉 ご 茂一 もいち 『ギリシア神話 しんわ 』 エイレイテュイアの子 こ だとするのは伝説 でんせつ の詩人 しじん オレーンで、ゼピュロスの子 こ だとするのは、詩人 しじん アルカイオス である。エウリーピデース は『ヒッポリュトス 』のなかでエロースをゼウスの子 こ と呼 よ んでいる。またプラトーン は寓意 ぐうい であるが、エロースは充足 じゅうそく の神 かみ ポロスと貧困 ひんこん の女神 めがみ ペニアーの子 こ であると述 の べている(プラトーン『饗宴 きょうえん 』)
^ エロースはアプロディーテーとヘーパイストスの子 こ であるとの説 せつ もある。
^ オルペウスはギリシア神話 しんわ 一般 いっぱん では神 かみ ではないが、オルペウス教 きょう では彼 かれ は神 かみ である。アスクレーピオスは、ホメーロスにおいては人間 にんげん であったが、後 のち に医 い 神 しん とされ崇拝 すうはい された。
^ ピンダロス とほぼ同 どう 時代 じだい の悲劇 ひげき 作家 さっか アイスキュロス の作品 さくひん である『プロメーテウス三 さん 部 ぶ 作 さく 』においては、ゼウスとプロメーテウス の和解 わかい が語 かた られ、ティーターン たちは解放 かいほう され、エーリュシオン で浄福 じょうふく の生活 せいかつ を営 いとな むことになっている。
^ アンピトリーテー やアキレウス の母 はは テティス は女神 めがみ として扱 あつか われる。
^ 彼女 かのじょ たちは洞窟 どうくつ やその住 す まいで歌 うた をうたったり糸 いと を紡 つむ いだりしてときを過 す ごし、オリュンポスの神 かみ 々や男性 だんせい の精霊 せいれい たちは、彼女 かのじょ らの魅力 みりょく に引 ひ きつけられ恋 こい をした。ニュンペーのなかには慎 つつ ましやかで処女 しょじょ を守 まも ることを願 ねが う者 もの もいたが、また好色 こうしょく でサテュロス などと戯 ざ れることを好 この む者 もの もいた。ニュンペーは善意 ぜんい ある存在 そんざい であったが、時 とき にヒュラース の例 れい のように人間 にんげん の美少年 びしょうねん を攫 さら うこともあった。
^ ニュンペーには種類 しゅるい があると共 とも に、身分 みぶん に近 ちか い精霊 せいれい としての「格 かく 」があり、下位 かい のニュンペーは上位 じょうい の精霊 せいれい に仕 つか えることがあった(キルケー やカリュプソー は、女神 めがみ でもあり、ニュンペーたちは彼女 かのじょ らに仕 つか えた)。
^ クロノスは暴君 ぼうくん とされているが、本来 ほんらい 、豊穣 ほうじょう ・収穫 しゅうかく の神 かみ であり、民間 みんかん 信仰 しんこう では後世 こうせい に至 いた っても信仰 しんこう されていた。
^ オリュンポスの女王 じょおう ヘーラー はヘーロースの女性 じょせい 形 がた と解釈 かいしゃく するのが妥当 だとう で、「オリュンポスの女 おんな 主人 しゅじん 」の意味 いみ となる[54] 。
^ 彼 かれ らに対 たい する儀礼 ぎれい ・供 きょう 儀 ぎ は天 てん の神 かみ に対 たい する犠牲 ぎせい を焼 や いた煙 けむり ではなく、地下 ちか (クトニオス)の神 かみ に対 たい すると同様 どうよう に、犠牲 ぎせい の血 ち を地下 ちか に献 けんじ げることでもあった。後 のち に悲劇 ひげき が発達 はったつ したとき、悲劇 ひげき が演 えん じられる劇場 げきじょう のコロス の舞台 ぶたい 中央 ちゅうおう には地下 ちか に向 む けて通 つう じる坑 あな が掘 ほ られていた。
^ グリマルによると、ディオーネー 女神 めがみ の息子 むすこ であるエーリス王 おう ペロプス は彼 かれ の息子 むすこ への不埒 ふらち な振 ふ る舞 ま いをもって、当時 とうじ 彼 かれ の元 もと に亡命 ぼうめい していたラーイオス に呪 のろ いをかけた。ラーイオスは帰国 きこく してテーバイ王 おう となるが、ペロプスの呪 のろ いはその子 こ オイディプース や孫娘 まごむすめ アンティゴネー などの悲劇 ひげき を生 う み出 だ した。ペロプスはオリュンピア競技 きょうぎ 祭 さい の創始 そうし 者 しゃ ともされ、英雄 えいゆう の条件 じょうけん を十分 じゅうぶん 過 す ぎるほどに満 み たしている。なお別 べつ の説 せつ では、ラーイオスに呪 のろ いをかけたのは、ペロプスの息子 むすこ クリューシッポス とされる。
^ 松村 まつむら 一男 かずお は、『世界 せかい 神話 しんわ 辞典 じてん 』の「英雄 えいゆう 」の章 しょう において、英雄 えいゆう 崇拝 すうはい が顕著 けんちょ なのは「個人 こじん としての名誉 めいよ や武勇 ぶゆう がなお意味 いみ を持 じ 」ち、「英雄 えいゆう の栄光 えいこう 」の賛美 さんび が有意 ゆうい 味 あじ であった「古代 こだい 社会 しゃかい 」であるとし、また英雄 えいゆう は「高貴 こうき で悲劇 ひげき 的 てき な神話 しんわ 存在 そんざい 」であると述 の べている。このような把握 はあく に従 したが い、松村 まつむら はギリシア神話 しんわ の英雄 えいゆう について記述 きじゅつ して、アキレウス こそ英雄 えいゆう であり、智将 ちしょう オデュッセウス は今日 きょう から見 み れば真 しん の英雄 えいゆう であるが、ギリシア神話 しんわ では、悲劇 ひげき 性 せい を欠 か いているため英雄 えいゆう 崇拝 すうはい には向 む いていない旨 むね 述 の べている。しかし、これらの松村 まつむら の言説 げんせつ は、一般 いっぱん 概念 がいねん としての英雄 えいゆう あるいは英雄 えいゆう 崇拝 すうはい を念頭 ねんとう しており、古代 こだい ギリシアにおける「ヘーロース」概念 がいねん や「ヘーロース崇拝 すうはい 」の実質 じっしつ 内容 ないよう に踏 ふ み込 こ んだ話 はなし ではない。
^ エリクトニオスの名 な は、erion(羊毛 ようもう )+khton(大地 だいち )の合成 ごうせい のようにも思 おも えるので通俗 つうぞく 語源 ごげん 解釈 かいしゃく とも考 かんが えられる。
^ この規準 きじゅん は、現代 げんだい の科学 かがく が設定 せってい している規準 きじゅん とは明 あき らかに異 こと なっている。しかしホメーロスもヘーシオドスも、共 とも に彼 かれ らのうたう作品 さくひん に作為 さくい 的 てき な造 みやつこ 話 ばなし あるいは様式 ようしき 的 てき な虚構 きょこう が入 はい っていることは自覚 じかく していた。
^ ヘーシオドスは、ヘリコーン山 やま のムーサイ たちより、「真実 しんじつ らしきもの」ではなく「真実 しんじつ 」を開示 かいじ されたと作品 さくひん のなかで宣言 せんげん している。
^ 紀元前 きげんぜん 4世紀 せいき 末 まつ の人口 じんこう 調査 ちょうさ では、アッティカの自由 じゆう 市民 しみん は2万 まん 1千 せん 人 にん であるのに対 たい し、奴隷 どれい は40万 まん 人 にん いたとされる[81] 。
^ ヘーシオドスは労働 ろうどう を称賛 しょうさん したが、この時代 じだい 、プラトーン やアリストテレースも含 ふく め、労働 ろうどう の蔑視 べっし が市民 しみん の常識 じょうしき となった。自由 じゆう 市民 しみん はポリス共同 きょうどう 体 たい の一員 いちいん として祖国 そこく の危機 きき にあっては兵士 へいし として戦 たたか ったが、奴隷 どれい の増大 ぞうだい は、ポリス市民 しみん の道徳 どうとく ・倫理 りんり を著 いちじる しく低下 ていか させた。
^ アテーナイにはしかし、アカデーメイア、リュケイオン、そしてエピクーロスの園 えん とゼーノーンによるストア派 は は残 のこ った。
^ グリマル & 高津 たかつ 訳 やく (1992 , p. 20, 訳注 やくちゅう (2))によれば、ツェツェースらは膨大 ぼうだい な注釈 ちゅうしゃく を記 しる し考証 こうしょう を行 おこな ったが、それらは不正 ふせい 確 かく で無意味 むいみ なものであった。ただ、膨大 ぼうだい な注釈 ちゅうしゃく や文学 ぶんがく 史 し の記録 きろく に彼 かれ らが引用 いんよう した古代 こだい の著作 ちょさく の断片 だんぺん は貴重 きちょう な史料 しりょう である。時代 じだい が十 じゅう 世紀 せいき ほど戻 もど るが、ヒュギーヌスの『ギリシア神話 しんわ 集 しゅう 』の訳者 やくしゃ は、アポロドーロス以上 いじょう に支離滅裂 しりめつれつ で場当 ばあ たり的 てき な話 はなし の集成 しゅうせい について疑問 ぎもん を呈 てい している。
^ 「天 てん のアプロディーテー(Aphrodite Ourania )」と「大衆 たいしゅう のアプロディーテー(Aphrodite Pandemos )」の対比 たいひ はすでにプラトーンの頃 ころ から議論 ぎろん されていたが、本来 ほんらい 、「オリエント対 たい ヘレーネス」の対比 たいひ であったものが、キリスト教 きりすときょう 文化 ぶんか と混 ま じり合 あ い、「聖 ひじり 愛 あい と俗 ぞく 愛 あい 」のような対比 たいひ にも発展 はってん する余地 よち があった。それは古代 こだい ギリシア に起源 きげん するというより、西欧 せいおう ルネサンスの持 も つ「光 ひかり と影 かげ 」にむしろ対応 たいおう する。
概説 がいせつ 書 しょ
原典 げんてん 訳書 やくしょ
神話 しんわ を体系 たいけい 記述 きじゅつ した著作 ちょさく
専門 せんもん 書 しょ ・周辺 しゅうへん 書 しょ
辞典 じてん ・事典 じてん
高津 たかつ 春繁 はるしげ 『ギリシア・ローマ神話 しんわ 辞典 じてん 』岩波書店 いわなみしょてん 、1990年 ねん 。ISBN 4000800132 。 ※初版 しょはん 1960年 ねん 、改訂 かいてい 版 ばん 2007年 ねん
マイケル・グラント、ジョン・ヘイゼル『ギリシア・ローマ神話 しんわ 事典 じてん 』西田 にしだ 実 みのる ほか共 とも 訳 やく 、大修館書店 たいしゅうかんしょてん 、1988年 ねん 。ISBN 4469012211 。
ジョン・R・ヒネルズ 編 へん 『世界 せかい 宗教 しゅうきょう 事典 じてん 』青土 おうづち 社 しゃ 、1999年 ねん 。ISBN 479-1757068 。
大林 おおばやし 太良 たら ほか 編 へん 『世界 せかい 神話 しんわ 事典 じてん 』角川書店 かどかわしょてん 、1994年 ねん 。ISBN 404-0316002 。
Simon Hornblower, Antony Spawforth, ed (2003). The Oxford Classical Dictionary (3rd ed. rev ed.). Oxford University Press. ISBN 978-0-19-860641-3
Pierre Grimal A.R. Maxwell-Hyslop訳 やく (1986). The Dictionary of Classical Mythology . Blackwell Publishing. ISBN 978-0-631-20102-1
Encyclopaedia Britanica 2005 CD version