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ギリシア神話しんわ

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ギリシャ神話しんわから転送てんそう

ギリシア神話しんわ(ギリシアしんわ、ギリシア: ελληνική μυθολογία)は、古代こだいギリシアよりかたつたえられる伝承でんしょう文化ぶんかで、おおくのかみ々が登場とうじょうし、人間にんげんのように愛憎あいぞうげきひろげる物語ものがたりである。ギリシャ神話しんわともう。

古代こだいギリシア市民しみん教養きょうようであり、さらに古代こだい地中海ちちゅうかい世界せかい共通きょうつう知識ちしきでもあったが、現代げんだいでは、世界せかいてきひろられており、ギリシャ小学校しょうがっこうでは、ギリシャじんにとってかせない教養きょうようとして、歴史れきし教科きょうかの1つになっている。

ギリシア神話しんわは、ローマ神話しんわ体系たいけい発展はってん促進そくしんした。プラトーン古代こだいギリシアの哲学てつがく思想しそうヘレニズム時代じだい宗教しゅうきょう世界せかいかんキリスト教きりすときょう神学しんがく成立せいりつなど、多方面たほうめん影響えいきょうあたえ、西欧せいおう精神せいしんてき脊柱せきちゅうひとつとなった。中世ちゅうせいにおいても神話しんわ伝承でんしょうされつづけ、そのルネサンス近世きんせい近代きんだい思想しそう芸術げいじゅつにとって、ギリシア神話しんわ霊感れいかん源泉げんせんであった[1][2]

概説がいせつ[編集へんしゅう]

口承こうしょう[編集へんしゅう]

アテーナイアクロポリスのおかパルテノン神殿しんでん

今日きょうギリシア神話しんわとしてられるかみ々と英雄えいゆうたちの物語ものがたりはじまりは、およそ紀元前きげんぜん15世紀せいきころさかのぼるとかんがえられている。物語ものがたりは、その草創そうそうにおいては、口承こうしょう形式けいしきでうたわれつたえられてきた。紀元前きげんぜん9世紀せいきまたは8世紀せいきごろぞくするとかんがえられるホメーロスだい叙事詩じょじしイーリアス』と『オデュッセイア』は、この口承こうしょう形式けいしき神話しんわ頂点ちょうてん位置いちする傑作けっさくとされる。当時とうじのヘレーネス(古代こだいギリシアじんによるかれ自身じしん呼称こしょう)の世界せかいには、神話しんわとしての基本きほんてき骨格こっかくそなえた物語ものがたり原型げんけい存在そんざいしていた[3][注釈ちゅうしゃく 1][4][注釈ちゅうしゃく 2][注釈ちゅうしゃく 3]

しかし当時とうじ人々ひとびとのなかで、とくに、どのようなかみてんに、そして大地だいちもり存在そんざいするかをかたひろめたのは吟遊詩人ぎんゆうしじんたちであり、詩人しじん姿すがたえないかみ々にかんする真実しんじつ知識ちしき人間にんげんかす存在そんざいであった。かみれい詩人しじんしん宿やどり、不死ふしなるかみ々の世界せかい真実しんじつつたえてくれるのであった[6]。そのため、ホメーロスとう作品さくひんにおいては、ムーサ女神めがみへのいのりの言葉ことばが、朗誦ろうしょう最初さいしょかれた[7]

口承こうしょうから文字もじ記録きろく[編集へんしゅう]

オリュンポスじゅうかみ

口承こうしょうでのみつたわっていた神話しんわを、文字もじかたち記録きろくめ、かみ々や英雄えいゆうたちの関係かんけい秩序ちつじょを、体系たいけいてきにまとめたのは、ホメーロスよりすこ時代じだいをくだる紀元前きげんぜん8世紀せいき詩人しじんヘーシオドスである[注釈ちゅうしゃく 4]かれうたった『かみみつる』においても、その冒頭ぼうとうには、ヘリコーンやまみやますしんムーサ)へのいのりがはいっており、ヘーシオドス現存げんそんする文献ぶんけんのなかでははじめて系統的けいとうてきかみ々の系譜けいふと、英雄えいゆうたちの物語ものがたりつたえた。このようにして、かれらの時代じだい、すなわち紀元前きげんぜん9世紀せいきから8世紀せいきごろに、「体系たいけいてきなギリシア神話しんわ」がギリシア世界せかいにおいて成立せいりつしたとかんがえられる[9]

それらの神話しんわ体系たいけい地域ちいきごとにちがいや差異さいがあり、伝承でんしょう系譜けいふごとに様々さまざまなものがいま渾然こんぜんとしてざりっていた状態じょうたいであるが、オリュンポス支配しはいするかみ々がだれであるのか、代表だいひょうてきかみ々の相互そうご関係かんけいはどのようなものであるのか、また世界せかい人間にんげんはじめげんかんし、どのような物語ものがたりかたられていたのか、などといったことは、ギリシア世界せかいにおいてほぼ共通きょうつうした了解りょうかいのある、ひとつのシステムとなって確立かくりつしたのである。

しかし、個々ここかみ英雄えいゆう具体ぐたいてきにどのようなことをし、古代こだいギリシア国々くにぐににどのような事件じけんこり、それはどういうかみ々や人々ひとびと英雄えいゆう関連かんれんして、どのように展開てんかいし、どのような結果けっかとなったのか。これらの詳細しょうさい細部さいぶ説明せつめい描写びょうしゃなどは、後世こうせい詩人しじん物語ものがたり作者さくしゃなどの想像そうぞうりょくが、ギリシア神話しんわ壮麗そうれい物語ものがたり殿堂でんどうかざるとともに、複雑ふくざつ精妙せいみょうかたち姿すがた構成こうせいしたのだとえる[10]

いで、ギリシア悲劇ひげき詩人しじんたちが、ギリシア神話しんわ奥行おくゆきをあたえるとともに、人間にんげんてきふかみをもたらし、神話しんわをより体系たいけいてきに、かつ強固きょうこ輪郭りんかく世界せかいとしてきずきあげてった。ヘレニズムにおいては、アレクサンドリア図書館としょかん司書ししょ詩人しじんでもあったカルリマコス[11][注釈ちゅうしゃく 5]膨大ぼうだい記録きろく編集へんしゅうして神話しんわ肉付にくづけし、またおなじくどう図書館としょかん司書ししょであったロドスのアポローニオスなどがあたらしい構想こうそう神話しんわ物語ものがたりえがいた。ローマ帝政ていせいはいってからも、ギリシア神話しんわたいする創造そうぞうてき創作そうさく継続けいぞくしていき、紀元きげん1世紀せいき詩人しじんオウィディウス・ナーソの『変身へんしん物語ものがたり』があたらしい物語ものがたりし、あるいはさい構成こうせいし、パウサニアース歴史れきしてき地理ちりてき記録きろくアープーレイウス作品さくひんなどがギリシア神話しんわさら詳細しょうさいくわえていった。

体系たいけいてき記述きじゅつ[編集へんしゅう]

紀元前きげんぜん8世紀せいきヘーシオドスの『かみみつる』は、ギリシア神話しんわ体系たいけいてき記述きじゅつするこころみのさきがけである。ホメーロス叙事詩じょじしなどにおいて、聴衆ちょうしゅうにとっては既知きちのものとして、詳細しょうさい説明せつめいされることなく言及げんきゅうされていたかみ々や、古代こだい逸話いつわなどを、ヘーシオドス系統的けいとうてき記述きじゅつした。『かみみつる』においてかみ々の系譜けいふべ、『仕事しごと日々ひび』において人間にんげん起源きげんしるし、そして現在げんざい断片だんぺんでしかのこっていない『列伝れつでん』において英雄えいゆうたちの誕生たんじょうかたった。

このようなこころみは、紀元前きげんぜん6世紀せいきから5世紀せいきころアルゴスのアクーシラーオスレーロスのペレキューデースなどの記述きじゅつにも存在そんざいし、現在げんざいわずかな断片だんぺんしかのこっていないかれらの「系統けいとう」は、古代こだいギリシア詩人しじんげき作家さっか、あるいはローマ時代じだい物語ものがたり作家さっかなどにおおきな影響えいきょうあたえた[12]

古代こだいにおけるもっとも体系たいけいてきなギリシア神話しんわ記述きじゅつは、紀元きげん1世紀せいきころかんがえられるアポロドーロスの『ギリシャ神話しんわ』(3かん16しょう摘要てきよう7しょう)である。この体系たいけいてき系統けいとうほんは、紀元前きげんぜん5世紀せいき以前いぜん古典こてんギリシアの筆者ひっしゃ文献ぶんけんとうもとにギリシア神話しんわまとめられており、オウィディウスなどにられる、ヘレニズムした甘美かんびおもむきもある神話しんわとはまったく異質いしつで、荒々あらあらしく古雅こが神話しんわ系譜けいふ記述きじゅつしていることが特徴とくちょうである[13]

資料しりょう[編集へんしゅう]

文献ぶんけん資料しりょう著者ちょしゃ[編集へんしゅう]

ホメーロス以前いぜん古代こだいギリシアには文字もじがなかったわけではなく、ミュケーナイ時代じだいにすでにせん文字もじB存在そんざいしていたが、暗黒あんこく時代じだいにおいてこの文字もじ記憶きおくうしなわれた。しかし紀元前きげんぜん8世紀せいきころより、フェニキア文字もじもと古代こだいギリシア文字もじまれる[14][15]。ギリシア神話しんわ基本きほんてきにはこの文字もじ記録きろくされた。またのちにはローマの詩人しじん文学ぶんがくしゃラテン語らてんごによってギリシア神話しんわ記述きじゅつした。

ホメーロス

考古学こうこがくてき資料しりょう[編集へんしゅう]

ギリシア神話しんわのありようをるには、近代きんだいになって発達はったつした考古学こうこがくおおきな威力いりょく発揮はっきした。考古学こうこがくでは古代こだい遺跡いせき発掘はっくつされ研究けんきゅうされた。

これらの遺跡いせきにおいて、装飾そうしょく彫刻ちょうこく彫像ちょうぞうかみ々や人物じんぶつえがかれ彩色さいしきされたつぼさらなどがつかった。考古こうこ学者がくしゃ神話しんわ学者がくしゃは、彫刻ちょうこく姿すがた様式ようしきつぼさらえがかれた豊富ほうふ分析ぶんせきして、これらがギリシア神話しんわかたられる物語ものがたり場面ばめん出来事できごとかみ英雄えいゆう姿すがたえがいたものと判断はんだんした。それらの絵図えず意味いみふくんでおり、(学者がくしゃによって解釈かいしゃくかれるとしても)ここから神話しんわ物語ものがたりることが可能かのうであった。

他方たほう発掘はっくつにより判明はんめいした考古学こうこがくてき知見ちけんは、文献ぶんけんしるされていた事象じしょう実際じっさい存在そんざいしたのか、記述きじゅつ妥当だとうであったのかを吟味ぎんみする史料しりょうとしても重要じゅうようであった。さらに、文献ぶんけん存在そんざいしない時代じだいについての知識ちしき提供ていきょうした。19世紀せいきまつドイツハインリヒ・シュリーマンは、アナトリア半島はんとう西端せいたんのヒッサルリクのおか発掘はっくつし、そこにいくそうもの都市とし遺跡いせき火災かさいほろびたとかんがえられる遺構いこう発見はっけんしてこれをトロイア遺跡いせき断定だんていした。かれはまたギリシア本土ほんどでも素人しろうと考古こうこ学者がくしゃとして発掘はっくつおこない、ミュケーナイ文化ぶんか遺構いこういだした[17]

20世紀せいきはいって以降いこうアーサー・エヴァンズはより厳密げんみつ発掘はっくつ調査ちょうさをトロイア遺跡いせきたいった。またクレーテーとういだされていたクノーソスなど、文明ぶんめい遺跡いせき発掘はっくつおこなわれ、ここでかれさん種類しゅるい文字もじ絵文字えもじせん文字もじAせん文字もじB)を発見はっけんした。せん文字もじBあいだもなく、ギリシア本土ほんどピュロスティーリュンスでも使用しようされていたことがいだされた。20世紀せいきなかばになって、マイケル・ヴェントリスジョン・チャドウィック協力きょうりょくのもと、この文字もじ解読かいどくし、しるされているのがミケーネであることを確認かくにんするとともに、内容ないようあきらかにした。それらはホメーロスがうたったトロイア戦争せんそう歴史れきしてきぞう復元ふくげんする意味いみった[18]。また数々かずかず英雄えいゆうたちの物語ものがたりのなかには、紀元前きげんぜん15世紀せいきさかのぼるミュケーナイ文化ぶんか起源きげんつものがあることも、各地かくち遺跡いせき発掘はっくつ研究けんきゅうつうじて確認かくにんされた[19][注釈ちゅうしゃく 7]

構成こうせい[編集へんしゅう]

ギリシア神話しんわは、以下いか三種さんしゅ物語ものがたりぐん大別たいべつできる。

だいいちの「世界せかい起源きげん」を物語ものがた神話しんわぐんは、分量ぶんりょうてきにはみじかく、おもみっつの系統けいとう存在そんざいする(ヘーシオドスが『かみみつる』でしるしたのは、しゅとして、この「世界せかい起源きげん」にかんする物語ものがたりである)。

だいの「かみ々の物語ものがたり」は、世界せかい起源きげん神話しんわと、その前半ぜんはんにおいて密接みっせつ関連かんれんち、後半こうはんでは、英雄えいゆうたちの物語ものがたりからっている。英雄えいゆうたちの物語ものがたりにおいて、人間にんげん運命うんめい背後はいごにはかみ々の様々さまざま思惑おもわくがあり、活動かつどうおこなわれ、それが英雄えいゆうたちの物語ものがたりにギリシアてき奥行おくゆきと躍動やくどうあたえている。

だいさんの「英雄えいゆうたちの物語ものがたり」は、分量ぶんりょうてきにはもっともおおきく、いわゆるギリシア神話しんわとしてられる物語ものがたり逸話いつわは、だい部分ぶぶんがこのカテゴリーにはいる。このだいさんのカテゴリーが膨大ぼうだい分量ぶんりょうち、おびただしい登場とうじょう人物じんぶつからるのは、日本にっぽんにおける神話しんわ系統けいとうてき記述きじゅつともえる『古事記こじき』や、それに並行へいこうしつつ歴史れきし時代じだいにまで記録きろくつづく『日本書紀にほんしょき』がそうであるように、古代こだいギリシアの歴史れきし時代じだいにおける王族おうぞく豪族ごうぞく名家めいかばれる人々ひとびとが、自分じぶんたちの家系かけい権威けんいあたえるため、かみ々や、そのである「はんかみ」としての英雄えいゆうや、古代こだい伝説でんせつてき英雄えいゆう祖先そせんとして系図けいず作成さくせいこころみたからだともえる[21]

神話しんわてき英雄えいゆう伝説でんせつてきおうなどは、膨大ぼうだいかず子孫しそんっていることがあり、樹木じゅもくえだじょう子孫しそんかずえてれいめずらしいことではない。末端まったん子孫しそんとなると、ほとんど具体ぐたいてきエピソードがなく、たんなる名前なまえ羅列られつになっていることもすくなくない[21]

しかし、このように由来ゆらい不明ふめい多数たすう名前なまえ人物じんぶつ羅列られつがあるので、歴史れきし時代じだいのギリシアにおける多少たしょうとも名前なまえのある家柄いえがら市民しみんは、自分じぶん神話しんわ記載きさいされているだれそれの子孫しそんであると主張しゅちょうできたともえる。ウェルギリウスの『アエネーイス』が、ローマじん先祖せんぞトロイエー戦争せんそうにまでさかのぼらせているのはあきらかに神話しんわてき系譜けいふ捏造ねつぞうであるが、これもまた、広義こうぎにはギリシア神話しんわだともえる(正確せいかくには、ギリシア神話しんわ接続せつぞくさせ、分岐ぶんきさせた「ローマ神話しんわ」である)。ウェルギリウスは、ギリシアじん自身じしんが、古代こだいよりおこなってたことを、紀元前きげんぜん1世紀せいき後半こうはんに、ラテン語らてんごおこなったのである。

神話しんわ1:世界せかいはじまり[編集へんしゅう]

古代こだいギリシアひと民族みんぞく同様どうように、世界せかい原初げんしょ時代じだいより存在そんざいしたものであるとの素朴そぼく思考しこうっていた。しかし、ゼウス主神しゅしんとするコスモス秩序ちつじょ宇宙うちゅう)の観念かんねん成立せいりつするにつれ、おのずと哲学てつがくてき構想こうそう世界せかい始原しげん神話しんわかたられるようになった。それらは代表だいひょうてきよん種類しゅるいのものがられる(ただし、2と3は、おな起源きげんつことが想定そうていされる)。

かみ々の系譜けいふ人間にんげん起源きげんなどを系統的けいとうてき神話しんわまとめあげたヘーシオドスは『かみみつる』にて、ふたつの主要しゅよう起源きげんせつつたえている。

  1. ヘーシオドスは古代こだいオリエントなどの神話しんわ影響えいきょうけたとかんがえられ、のちに「混沌こんとん」と解釈かいしゃくされるカオス最初さいしょ存在そんざいしたとしている。ただし、かれはカオスを混沌こんとん意味いみでは使つかっていない。それは空隙くうげきであり、カズムともばれる[22]。その大地だいちガイア)が万物ばんぶつはつみなもととしてカオスのなかに存在そんざいあらわし、てんウーラノス)とのまじわりによって様々さまざまかみ々をしたとされる。ウーラノス、クロノス、そしてゼウスにわたるさんだい王権おうけん遷移せんいがここでかたられることになる[22][23][注釈ちゅうしゃく 8]
  2. 他方たほう、ヘーシオドスは、上記じょうきとは起源きげんことなるとかんがえられる、自然しぜん哲学てつがくてき構想こうそうそなえた世界せかいはじめげん神話しんわおなじ『かみみつる』においてうたっている[24]むねひろきガイアが存在そんざいし、それとともに、地下ちか幽冥ゆうめいタルタロスなによりもうつくしいエロースあい)がまれたとする。原初げんしょにエロースがまれたとするのは、オルペウスきょう始原しげん神話しんわつうじている。エロースは生殖せいしょくにあっておおきな役割やくわりたし、それあい最初さいしょ存在そんざいしたとする[25]
  3. だいさん宇宙うちゅうかん哲学てつがくてき宗教しゅうきょうてき体系たいけいされていたとかんがえられ、オルペウスきょう基盤きばんいた、あるいはこの宗教しゅうきょう提唱ていしょうした世界せかいはつみなもと神話しんわである。オルペウスきょう多様たよう神話しんわっており、断片だんぺんてき複数ふくすう文書ぶんしょつたえる内容ないようには異同いどうがある[注釈ちゅうしゃく 9]。その特徴とくちょうとしては、原初げんしょみずどろがあり、大地だいち(ガイア)も存在そんざいし、クロノスとき Chronos(ウーラノスのクロノス Kronos とはことなる)やエロースが原初げんしょにあった。そして「原初げんしょたまご」がかたられ、のギリシア神話しんわではかたられない、パネースΦανης)あるいはプロートゴノスΠρωτογονος)が存在そんざいしたとする[27]
  4. 以上いじょうげた世界せかい始原しげん神話しんわ以外いがいに、だいよんのものとして、ホメーロスが『イーリアス』でうたっている、よりふる単純たんじゅんともえる始原しげんについての神話しんわがある。それは万物ばんぶつのはじめにオーケアノス海洋かいよう外洋がいようながれ)が存在そんざいしたという神話しんわで、かれともつまテーテュース存在そんざいしたとされる。このりょうかみまじわりより、多数たすうかみ世界せかい要素ようそされてたとする。これは素朴そぼく神話しんわで、海岸かいがん住民じゅうみんしんじていた始原しげん神話しんわかんがえられる[28][注釈ちゅうしゃく 10]

自然しぜん哲学てつがくてき始原しげんかみ[編集へんしゅう]

かねエロース

ヘーシオドスがうたうだい自然しぜん哲学てつがくてき世界せかい創造そうぞう諸々もろもろかみ誕生たんじょうは、自然しぜん現象げんしょう人間にんげんにおけるさだめや矛盾むじゅん困難こんなん擬人ぎじんてき表現ひょうげんしたものともえる。このようなかたちかみ々の誕生たんじょう系譜けいふは、たとえば日本にっぽん神話しんわ(『古事記こじき』)にもられ、世界せかい文化ぶんかひろみとめられる始原しげん伝承でんしょうである。『かみみつる』にしたがうと、つぎのような始原しげんかみ々が誕生たんじょうしたことになる。

まずすでべたとおり、カオス空隙くうげき)と、そのうちに存在そんざいするむねひろガイア大地だいち)、そしてくらめいタルタロスもっとうつくしいかみエロースである。ガイアよりさらに、幽冥ゆうめいエレボス暗黒あんこく)とくらニュクスよる)がしょうじた。ガイアはまたうみかみポントスみ、ポントスからうみ老人ろうじんネーレウスまれた。またポントスの息子むすこタウマースより、イーリスにじ)、ハルピュイアイ、そしてゴルゴーンさん姉妹しまいとうまれた。

一方いっぽう、ニュクスよりはアイテール高天こうてん)とヘーメラーひる)がしょうじた。またニュクスはタナトス)、ヒュプノス睡眠すいみん)、オネイロスゆめ)、そして西方せいほう黄金おうごん林檎りんご著名ちょめいヘスペリデスヘスペリス夕刻ゆうこく黄昏たそがれ複数ふくすうがた)をした。さらに、モイライ運命うんめい)、ネメシス応報おうほう)、エリス闘争とうそう不和ふわ)などもみだし、この最後さいごのエリスからは、アーテー破滅はめつ)をふく様々さまざままわしいかみ々がまれたとされる[22]

神話しんわ2:オリュンポス以前いぜん[編集へんしゅう]

ゼウス王権おうけん確立かくりつし、やがてオリュンポスじゅうかみ中心ちゅうしんとしたコスモス秩序ちつじょ)が世界せかい成立せいりつする。しかし、このゼウスの王権おうけん確立かくりつ紆余曲折うよきょくせつしており、ゼウスはかみ々の王朝おうちょうだいさんだいおうである。

最初さいしょほしちりばめるウーラノスてん)がガイア大地だいち)のおっとであり、原初げんしょかみ々のちちであり、かみ々のおうであった。しかしガイアは、まれてくるらのみにくさをきらってタルタロス幽閉ゆうへいしたおっと、ウーラノスにうらみをった。ウーラノスのすえ息子むすこであるクロノスがガイアにそそのかされて、巨大きょだいかまるって父親ちちおや男根だんこんとし、その王権おうけん簒奪さんだつしたとされる。このことはヘーシオドスがすでに記述きじゅつしていることであり、先代せんだい王者おうじゃ去勢きょせいによる王権おうけん簒奪さんだつ神話しんわとしてはめずらしい。これはヒッタイトフルリじん神話しんわ類例るいれいいだされ、この神話しんわ影響えいきょうがあるともかんがえられる[30][注釈ちゅうしゃく 11]

クロノスとティーターンしん[編集へんしゅう]

天使てんしぞうのクロノス

ウーラノスより世界せかい支配しはいけんうばったクロノスは、だいだい王権おうけんつことになる。クロノスはウーラノスとガイアんだ子供こどもたちのなかの末弟ばっていであり、かれあにあねたるかみ々は、クロノスの王権おうけんもとで、世界せかい支配しはい管掌かんしょうするかみ々となる。とはいえ、この時代じだいにはまだ、かみ々の役割やくわり分担ぶんたん明確めいかくでなかった[31]。クロノスの兄弟きょうだい姉妹しまいたちはティーターンかみ々とばれ、オリュンポスじゅうかみて、主要しゅようかみ々は「ティーターンのじゅうかみ」とばれる。

これらのティーターンのじゅうかみとしては、通常つうじょうつぎかみ々がげられる。まず1)主神しゅしんたるクロノス、2)そのつまである女神めがみレアー、3)長子ちょうしオーケアノス、4)コイオス、5)ヒュペリーオーン、6)クレイオス、7)イーアペトス、8)女神めがみテーテュース、9)女神めがみテミスほう)、10)女神めがみムネーモシュネー記憶きおく)、11)女神めがみポイベー、12)女神めがみテイアーである[32]アポロドーロス女神めがみディオーネーをクロノスの姉妹しまいげているが、このゼウス女性じょせいがたであり、女神めがみ性格せいかくには諸説しょせつがある。

ティーターンにはこれ以外いがいにも、子孫しそん多数たすう存在そんざいした。のちにティーターンはオリュンポスかみぞくやぶれ、タルタロスとされるが、全員ぜんいんばっけたわけではない。広義こうぎのティーターンの一族いちぞくには、イーアペトスのであるアトラースプロメーテウスエピメーテウスや、ヒュペリーオーンであるエーオースあかつき)、セレーネーつき)、ヘーリオス太陽たいよう)などがいた[33]

かみ々のおうクロノスはしかし、ははガイアとちちウーラノスからのろいの予言よげんける。クロノス自身じしんも、やがて王権おうけんをその息子むすこ簒奪さんだつされるだろうというもので、クロノスはこれをこわれて、レアーとのあいだにまれてくる子供こどもをすべてむ。レアーはこれにいかり、ひそかに末子まっしゼウスをもり出産しゅっさんいし産着うぶぎにくるんで赤子あかごいつわりクロノスにわたした[34]

オリュンポスしん台頭たいとう勝利しょうり[編集へんしゅう]

ゼウスが成年せいねんたっすると、かれ父親ちちおやクロノスに叛旗はんきひるがえし、まずクロノスにくすりませてかれんでいたゼウスのねえけいたちをさせた。クロノスは、ヘスティアーデーメーテールヘーラーさん女神めがみ、そしてつぎハーデースポセイドーン、そしてゼウスの身代みがわりのいしんでいたので、順序じゅんじょぎゃくにしてこれらのいしかみ々をした。

オリュンポスしんティーターノマキアー

ゼウスたち兄弟きょうだい姉妹しまいちからわせてクロノスとその兄弟きょうだい姉妹しまいたち、すなわちティーターン一族いちぞく戦争せんそうおこなった。これをティーターノマキアー(ティーターンの戦争せんそう)とぶ。ゼウス、ハーデース、ポセイドーンのさんかみはティーターノマキアーにおいて重要じゅうよう役割やくわりたし、とくにゼウスは雷霆らいていげつけて地球ちきゅうぜん宇宙うちゅう、そしてその根源こんげんであるカオスまでもはらい、ティーターンたちにだい打撃だげきあたえ、勝利しょうりした[22]。そのティーターンぞくタルタロス幽閉ゆうへいし、ひゃくうできょじんヘカトンケイレス)を番人ばんにんとした。こうして勝利しょうりしたゼウスたちはたがいにくじをき、その結果けっか、ゼウスは天空てんくうを、ポセイドーンは海洋かいようを、ハーデースは冥府めいふをその支配しはい領域りょういきとして[35]

しかしガイアはティーターンをゼウスたちが幽閉ゆうへいしたことにいかり、ギガース巨人きょじん)たちをゼウスたちとたたかよう仕向しむけた。ギガースたち(ギガンテス)は巨大きょだいからだ獰猛どうもう気性きしょうそなえ、かれらは大挙たいきょしてゼウスたちの一族いちぞくたたかいをいどんだ。ゼウスたちは苦戦くせんするが、シケリアとうをギガースのうえげおろすなど、はげしいあらそいのすえにこれを打破だはした。これらのたたかいをギガントマキアー巨人きょじん戦争せんそう)と呼称こしょうする。

しかし、ガイアはなおあきらめず、さらおこってタルタロスまじわり、怪物かいぶつテューポーンした。テューポーンは灼熱しゃくねつ噴流ふんりゅう地球ちきゅうくし、てん突進とっしんしてぜん宇宙うちゅうだい混乱こんらんうずたたむなど、圧倒的あっとうてきつよさをほこったが、オリュンポスかみぞく連携れんけいによってつい敗北はいぼくほろぼされた[36]

かくして、ゼウスの王権おうけん確立かくりつした。

神話しんわ3:オリュンポスの世界せかい[編集へんしゅう]

オリュンポスさん

かみ々は、ホメーロスによれば、オリュンポス高山こうざんみや敷居しきいまし、山頂さんちょう宮殿きゅうでんにあって、えることのない饗宴きょうえん日々ひびごしているとされる。かみ々は不死ふしであり、かみしょくアムブロシアー)をべ、神酒みきネクタール)をんでいるとされる[37]

十二じゅうにかみ[編集へんしゅう]

ゼウス王権おうけんした世界せかい秩序ちつじょ一部いちぶをそれぞれ管掌かんしょうするこれらのかみ々は、オリュンポスかみ々ともばれ、その主要しゅようかみふるくから「十二じゅうにかみ」(オリュンポスじゅうかみ)として人々ひとびと把握はあくされていた。十二じゅうにかみふたつの世代せだいかれ、クロノスレアー息子むすこむすめ(ゼウスの兄弟きょうだい姉妹しまい)にたるだいいち世代せだいかみ々と、ゼウスの息子むすこむすめたるだい世代せだいかみ々がいる。

時代じだい地方ちほう伝承でんしょうによって、幾分いくぶんかのちがいがあるが、主要しゅようじゅうかみは、だいいち世代せだいかみ、1)秩序ちつじょ(コスモス)の象徴しょうちょうでもあるかみ々のちちゼウス、2)ヘーラー女神めがみ、3)ポセイドーン、4)デーメーテール女神めがみ、5)ヘスティアー女神めがみの5はしらに、だい世代せだいかみとして、6)アポローン、7)アレース、8)ヘルメース、9)ヘーパイストス、10)アテーナー女神めがみ、11)アプロディーテー女神めがみ、12)アルテミス女神めがみの7はしらである。また、ヘスティアーのわりに、ディオニューソスじゅうかみとする場合ばあいがある。ハーデースとそのきさきペルセポネーは、地下ちか(クトニオス)のかみとされ、オリュンポスのかみではないが、主要しゅようかみとして、十二神じゅうにしんのなかにかぞえる場合ばあいがある[38][注釈ちゅうしゃく 12]

それぞれのかみは、崇拝すうはい根拠地こんきょちつのが普通ふつうで、またかみ々の習合しゅうごうこっているとき、広範囲こうはんいにわたる地方ちほうかみ々をんだかみは、おおくの崇拝すうはい根拠地こんきょちつことにもなる。アテーナイパルテノン神殿しんでんしょうかべには、十二じゅうにかみ彫像ちょうぞうきざまれているが、このじゅうかみは、上記じょうき一覧いちらん一致いっちしている(ディオニューソスがじゅうかみはいっている)。

オリュンポスのかみ々 1[編集へんしゅう]

オリュンポスを代表だいひょうする十二じゅうにかみ地下ちかかみハーデースひとし以外いがいにも、オリュンポスの世界せかいには様々さまざまかみ々が存在そんざいする。かれらはオリュンポスのじゅうかみ有力ゆうりょくかみが、エロースちからによってたがいにまじわることによってまれたかみである。また、広義こうぎティーターン一族いちぞくぞくするものにも、オリュンポスの一員いちいんとしてかみ々のせき一端いったんめ、重要じゅうよう役割やくわりになっているものがある。

かみ々のあいだの婚姻こんいんあるいはまじわりによってまれたかみにはつぎのようなものがいる。

ゼウスの息子むすこむすめ[編集へんしゅう]

かみ々のちちゼウステティス

かみ々のちちゼウスは、真偽しんぎ知恵ちえ女神めがみメーティス最初さいしょつまとした。ゼウスはメーティスが妊娠にんしんしたのをるや、これをんだ。メーティスの智慧ちえはこうしてゼウスのものとなり、メーティスよりゼウスのだいいちむすめアテーナーまれる。ゼウスの正妻せいさいかみ々の女王じょおうヘーラーである。ヘーラーとのあいだには、アレースヘーパイストス青春せいしゅん女神めがみヘーベー出産しゅっさん女神めがみエイレイテュイアまれる。また、大地だいち豊穣ほうじょう女神めがみデーメーテールとのあいだには、冥府めいふ女王じょおうペルセポネーをもうけた。

ゼウスはまた、ティーターンしんぞくディオーネーとのあいだにアプロディーテーをもうける。アプロディーテーは、クロノス切断せつだんしたちちウーラノス男根だんこんうみれたさい、そのまわりにしょうじたあわよりまれたとのせつもあるが[40]、オリュンポスの系譜けいふじょうはゼウスのむすめである[注釈ちゅうしゃく 13]。ゼウスは、ティーターン一族いちぞくコイオスむすめレートーとのあいだにアルテミス女神めがみアポローンあねおとうとかみをもうけた。さらにティーターンであるアトラースむすめマイアとのあいだにヘルメースをもうけた。最後さいごに、人間にんげんむすめセメレーまじわってディオニューソスをもうけた。

アテーナーはメーティスのむすめであるが、その誕生たんじょうはゼウスの頭部とうぶから武装ぶそうして出現しゅつげんしたとされる。また、これに対抗たいこうしてヘーラーは、独力どくりょく息子むすこヘーパイストスをんだともされる。

ゼウスはさらに、ティーターン女神めがみたちまじわり、運命うんめいよしぶし芸術げいじゅつかみ々をもうける。法律ほうりつおきて女神めがみテミスとのあいだに、ホーライさん女神めがみモイライさん女神めがみを、オーケアノステーテュースむすめエウリュノメーとのあいだにカリテス優雅ゆうがカリス)のさん女神めがみを、そして記憶きおく女神めがみムネーモシュネーとのあいだにきゅうはしら芸術げいじゅつ女神めがみムーサイムーサ)をもうけた。

十二神じゅうにしん息子むすこむすめ[編集へんしゅう]

ゆうつばさエロス

オリュンポスの十二じゅうにかみ々は、ゼウスを例外れいがいとして、をもうけないか、もうけたとしてもすくない場合ばあいがほとんどである。ポセイドーン比較的ひかくてき息子むすこめぐまれているが、アンピトリーテーとのあいだにまれた、むしろうみ一族いちぞくともえるトリートーンベンテシキューメー、ヘーリオスのつまロデーのぞくと、怪物かいぶつうま乱暴らんぼう人間にんげんおお[42]

女神めがみアプロディーテー人気にんきたか女神めがみであったからかすうおおくの神話しんわ登場とうじょうし、おおくのどもをんだが、その父親ちちおやどものかずおなじくらいおおかった。彼女かのじょおっと鍛冶たんやかみヘーパイストスとされるが、愛人あいじんアレースとのあいだに、デイモス恐慌きょうこう)とポボス敗走はいそう)の兄弟きょうだいがある。またヘーシオドスが、原初げんしょかみとして最初さいしょまれたとしているあいしんエロースはアプロディーテーとアレースの息子むすこであるとされることもある[43]。このせつシモーニデース最初さいしょべたとされる[44]。しかしエロースをめぐってはだれ息子むすこであるのかについて諸説しょせつあり、エイレイテュイアであるとも、西風せいふうゼピュロスエーオースであるとも、ヘルメース、あるいはゼウスのであるともされる[注釈ちゅうしゃく 14][注釈ちゅうしゃく 15][45]。エロースとたいになるあいしんアンテロースもアレースとアプロディーテーのだとされる。

のオリュンポスの有力ゆうりょくかみ々、ハーデース、ヘルメース、ヘーパイストス、ディオニューソスには目立めだったがいない。アポローン知性ちせいちる青年せいねんぞうかんがえられていたので、恋愛れんあいたん多数たすうあり、恋人こいびとかずおおいが、かみとなったはいない。ただし、かれともされるオルペウス[注釈ちゅうしゃく 16]アスクレーピオスが、例外れいがいてき死後しごかみとなった。

オリュンポスのかみ々 2[編集へんしゅう]

エーオースアポローン

広義こうぎティーターン子孫しそんも、オリュンポスのかみ々にかぞえられる。ティーターンたちはティーターノマキアーでの敗北はいぼくのちタルタロスとされたが、のちにゼウスはかれらをゆるしたというはなしがあり、ピンダロスは『ピューティアだいよん祝勝しゅくしょう』のなかで、ティーターンの解放かいほう言及げんきゅうしている[46][注釈ちゅうしゃく 17]たたかいにやぶれたティーターンはその神話しんわ姿すがたあらわさないが、その子供こどもたちや、ウーラノス子孫しそんたちは、オリュンポスの秩序ちつじょのなかで一定いってい役割やくわりけて活動かつどうしている。

イーアペトスアトラースは、天空てんくうささつづけるという苦役くえきえている。兄弟きょうだいプロメーテウス戦争せんそうにはくわわらなかったが、ゼウスを欺したつみカウカーソス山頂さんちょうきたままわし毎日まいにち肝臓かんぞうわれるというばっけていたところ、ヘーラクレースわしころして解放かいほうした。ヒュペリーオーンテイアーエーオースセレーネーヘーリオスは、オリュンポスのかみ々のなかでもられた存在そんざいである。エーオースはほししんアストライオスとのあいだに、西風せいふうゼピュロス南風みなみかぜノトス北風きたかぜボレアースなどのかぜかみ多数たすうほしかみんだ。またアテーナーのかたわらにあるニーケー勝利しょうり)もティーターンのむすめであるが、ゼウスに味方みかたした。

原初げんしょかみでもあったポントスとその息子むすこうみ老人ろうじんネーレウスは、ポセイドーンに役職やくしょくうばわれたようにえるが、かれらの末裔まつえいは、かずれぬネーレイデスうみむすめたち)となり、ニュンペーとして、あるいは女神めがみとして活躍かつやくする[注釈ちゅうしゃく 18]。ポントスの一族いちぞくであるにじ女神めがみイーリスかみ々の使者ししゃとして活躍かつやくしている。また、広義こうぎのティーターン一族いちぞくぞくするアトラースは、オーケアノスのむすめプレーイオネーとのあいだにプレイアデスななはしら女神めがみをもうけた。彼女かのじょたちは、ほしちりばめるてんにあって星座せいざとして耀かがやいている。

ニュンペーと精霊せいれいたち[編集へんしゅう]

ニュンペー

ティーターノマキアー勝利しょうりのち、ゼウス、ハーデース、ポセイドーンの兄弟きょうだいはくじをいてそれぞれの支配しはい領域りょういきめたが、地上ちじょう世界せかい共同きょうどう管掌かんしょうすることとした。地上ちじょうガイア世界せかいであり、ガイアそのものともえた。地上ちじょうには陸地りくち海洋かいようがあり、河川かせん湖沼こしょう、またみどりゆたかな樹木じゅもくしげ森林しんりんや、くさはなかお野原のはらきよらかないずみなどがあった。

地上ちじょう人間にんげんらす場所ばしょであり、またすうおおくの動物どうぶつたちや植物しょくぶつ棲息せいそく繁茂はんもする場所ばしょでもある。そして太古たいこよりそこには、様々さまざま精霊せいれい存在そんざいしていた。精霊せいれいおおくは女性じょせいであり、彼女かのじょたちはニュンペー(ニンフ)とばれた。nymphe(νにゅーυうぷしろんμみゅーφふぁいηいーた)とはギリシアで「花嫁はなよめ」を意味いみする言葉ことばでもあり[47]彼女かのじょたちはわかうつくしいむすめ姿すがたであった[注釈ちゅうしゃく 19]

ニュンペーは、たとえばある特定とくてい精霊せいれいであった場合ばあい、その枯死こしともってしまうこともあったが、おおくの場合ばあい人間にんげん寿命じゅみょうはるかにえるなが寿命じゅみょうっており、かみ同様どうよう不死ふしのニュンペーも存在そんざいした[注釈ちゅうしゃく 20]

森林しんりん山野さんや処女しょじょのニュンペーはアルテミス女神めがみしたがうのが普通ふつうであり、また、パーンヘルメースなども、ニュンペーにしたしいかみであった。古代こだいのギリシアには、ニュンペーにたいする崇拝すうはい祭儀さいぎ存在そんざいしたことがホメーロスによって言及げんきゅうされており、これは考古学こうこがくてきにも確認かくにんされている[47]。ニュンペーはこいする乙女おとめであり、かみ々や精霊せいれい人間にんげんまじわってむと、ははとなりつまともなった。おおくの英雄えいゆうニュンペーははとして誕生たんじょうしている。

ニュンペーの種類しゅるい[編集へんしゅう]

ニュンペーはその住処すみかによってことなる[48][47]

ネーレーイデス

陸地りくちのニュンペーとしてはつぎのようなものがある。1)メリアデス(単数たんすうメリアス)はもっともふるくからいるニュンペーで、ウーラノス子孫しそんともされる。トネリコ精霊せいれいである。2)オレイアデス単数たんすうオレイアス)はやまのニュンペーである。3)アルセイデス単数たんすうアルセイス)はもりはやしのニュンペーである。4)ドリュアデス単数たんすうドリュアス)は樹木じゅもく宿やどるニュンペーである。5)ナパイアイ単数たんすうナパイアー)は山間さんかん谷間たにまむニュンペーである。6)ナーイアデス単数たんすうナーイアス)は淡水たんすいいずみかわのニュンペーである。

これらのニュンペーは陸地りくち住処すみかものたちである。一方いっぽう海洋かいようにはオーケアノスのむすめたちやネーレウスのむすめたちが多数たすうおり、彼女かのじょらはうつくしいむすめで、ときに女神めがみちか存在そんざいであることがある。

海洋かいようのニュンペーはむしろ女神めがみちかい。1)オーケアニデス単数たんすうオーケアニス)は、オーケアノスがその姉妹しまいテーテュースのあいだにもうけたむすめたちで、3000にん、つまり無数むすうにいるとされる。このはしらかみからはまた、すべての河川かせんかみ息子むすことしてまれており、河川かせんかみとオーケアニスたちはあねおとうと兄妹きょうだい関係かんけいにあることになる。冥府めいふかわであるステュクスや、ケイローンははとなったピリュラーアトラースプロメーテウス兄弟きょうだいははであるクリュメネーなどがられる。2)ネーレーイデス単数たんすうネーレーイス)は、ネーレウスオーケアノスむすめドーリスのあいだのむすめで、50にんいるとも、100にんいるともされる。アンピトリーテーテティスガラテイアカリュプソーなどがられる。

山野さんや精霊せいれいかわしん[編集へんしゅう]

ケイローン少年しょうねん

ニュンペーは自然しぜんかいにいる女性じょせい精霊せいれいで、なかにはかみ々とひとしいものもいた。他方たほう地上ちじょう世界せかいにはニュンペーとたいになっているともえる男性だんせい精霊せいれい存在そんざいした。かれらはその姿すがたが、人間にんげんとはいささかことなる場合ばあいがあった。かれらは山野さんや精霊せいれいで、具体ぐたいてきには1)パーン別名べつめいアイギパーン、「山羊やぎ姿すがたのパーン」の)、2)ケンタウロス、3)シーレーノス、4)サテュロスなどがげられる。かれらの姿すがたは、上半身じょうはんしん人間にんげんちかいが、下半身かはんしんうま山羊やぎであったり、がくかくがあったりする。

上記じょうきなかでパーンは別格べっかくともえ、ヘルメースドリュオプスむすめドリュオペーのあいだので、オリュンポスかみ一員いちいんでもある。ただしパーンがだれかということについては諸説しょせつある。シューリンクスというふえこのみ、好色こうしょくでもあった。ケンタウロスははんにんはん姿すがたで、乱暴らんぼうかつ粗野そやであるが、ケイローンだけはことなり、医術いじゅつけ、また不死ふしであった。シーレーノスとサテュロスについては、前者ぜんしゃうま年長ねんちょうであり、後者こうしゃ山羊やぎていた。粗野そや好色こうしょくで、ニュンペーたちとじゃあばまわることが多々たたあった[49]

かれらが山野さんや精霊せいれいであるのにたいし、地上ちじょう多数たすう河川かせんには、オーケアノステーテュース息子むすこである河川かせん精霊せいれいあるいはかみがいた(『イーリアス』21しょう。『かみみつる』)。かれらは普通ふつうかわしん(river-gods)」とばれるので、精霊せいれいよりはかくたかいとえる。3000にんいるとされるオーケアニデス兄弟きょうだいたる。かわしんたいする崇拝すうはいもあり、かれらのための儀礼ぎれい社殿しゃでんなどもあった。スカマンドロスかわしんアケローオスかわしんがよくられる[50]

異形いぎょうかみ怪物かいぶつ[編集へんしゅう]

ゴルゴーン

始原しげんかみや、またはかみやその子孫しそんのなかには、異形いぎょう姿すがたち、オリュンポスかみ々や人間にんげん畏怖いふあたえたため、「怪物かいぶつ」と形容けいようされる存在そんざいがいる。たとえばゴルゴーンさん姉妹しまいなどは、うみかみポントス子孫しそんで、その姿すがた異様いようさから怪物かいぶつとしてられている。

ゴルゴーンさん姉妹しまいポルキュースケートーむすめで、すえむすめメドゥーサのぞくと不死ふしであったが、頭部とうぶかみへびであった。また、その姉妹しまいであるさんにんグライアイまれながらに老婆ろうば姿すがたであったが不死ふしであった。ハルピュイアイタウマースむすめたちで、おんな頭部とうぶとりからだっていた。ガイア大地だいち)が原初げんしょんだ息子むすこむすめのなかにはキュクロープス一眼いちがん巨人きょじん)や、ヘカトンケイルひゃくうで巨人きょじん)のような異形いぎょうものたちがじっていた。またガイアは様々さまざまな「怪物かいぶつ」のちちとされる、てんする巨大きょだいテューポーンした。

栄誉えいよペーガソス

エキドナは、上半身じょうはんしんおんな下半身かはんしんへび怪物かいぶつで、ゴルゴーンたちの姉妹しまいとされるが出生しゅっしょうには諸説しょせつがある。このエキドナとテューポーンのあいだには多数たすう子供こどもまれる。獅子しし頭部とうぶ山羊やぎどうへびキマイラヘーラクレース退治たいじされたヒュドラーみずへび)、冥府めいふ番犬ばんけんあたまいぬがたケルベロスなどである。またエジプト起源きげんスピンクスはギリシアでは女性じょせい怪物かいぶつとなっているが、これもエキドナのとされる。

それらのおおくは、かみ、あるいはかみじゅんずる存在そんざいである。ポセイドーンデーメーテールうま姿すがたとなってまじわってもうけたのが、名馬めいばアレイオーンである。他方たほう、ポセイドーンはメドゥーサとのあいだにゆうつばさ天馬てんばペーガソスや、クリューサーオール(「黄金おうごんけんもの」の)をもうけた。

セイレーンは『オデュッセイア』に登場とうじょうするうみ精霊せいれい怪物かいぶつであるが、ひと魅惑みわくするうたほろびをもたらす。ムーサむすめであるともされるが、諸説しょせつあり、元々もともとペルセポネーしたが精霊せいれいだったともされる。『オデュッセアイア』に登場とうじょうする怪物かいぶつとしては、むっつの頭部とうぶおんなかいスキュラ渦巻うずま擬人ぎじんとされるカリュブディスなどがいる[49]

神話しんわ4:人間にんげん起源きげん[編集へんしゅう]

プロメーテウス

古代こだいギリシアじんは、かみ々が存在そんざいした往古おうこより人間にんげん祖先そせん存在そんざいしていたとするかんがえをっていたことがられている。たとえばヘーシオドスの『仕事しごと日々ひび』にもそのような説明せつめいがなされている。他方たほう、『仕事しごと日々ひび』は構成こうせいてきには雑多ざった詩作しさくひん蒐集しゅうしゅうしたというおもむきがあり、『かみみつる』や『列伝れつでん』がそなえている整然せいぜんとした、伝承でんしょう整理せいりけはなく、当時とうじ庶民しょみん(とりわけ農耕のうこうみん)のいていた世界せかいかん人生じんせいかん印象いんしょうてきたとばなしのなかでかたられている。

古来こらい、ギリシアじんは「ひとよりまれた」とのかんがえをっていた。超越ちょうえつてきかみ人間にんげんぞく創造そうぞうしたのではなく、自然しぜん発生はっせいてき人間にんげん往古おうこより大地だいちきていたとのかんがえである。しかしこの事実じじつは、人間にんげんまれにおいてかみ々におとるという意味いみではなく、オリュンポスのかみ々も、それ以前いぜん支配しはいしゃであったティーターンも、元々もともとはすべて「大地だいちガイア)の」である。人間にんげんはガイアをははとする、かみ々の兄弟きょうだいでもあるのだ。ことなるてんは、かみ々は不死ふしにして人間にんげんくら卓越たくえつしたちからつということである。その意味いみで、かみ々は貴族きぞくであり、人間にんげん庶民しょみんだとえる[51]

プロメーテウスと最初さいしょおんな[編集へんしゅう]

パンドーラー

しかしヘーシオドスは、よりまれたひとという素朴そぼく信念しんねんとはことなる、人間にんげんかみ々のあいだの関係かんけいとそれぞれのぶん(モイラ)の物語ものがたりかたる。太古たいこにあって人間にんげん未開みかい無知むちで、えにくるしみ、さむさになやまされていた。プロメーテウス人間にんげん状態じょうたい改善かいぜんするために、ゼウスがあたえるのをきんじた人間にんげんおしえた。また、このかみは、ゼウスかみ々に犠牲ぎせいささげるとき、なにかみ々にけんじげるかをゼウスみずからに選択せんたくさせ、その巧妙こうみょう偽装ぎそうでゼウスをあざむいた[22]

プロメーテウスに欺されたゼウスは報復ほうふく機会きかいねらった。ゼウスはオリュンポスのかみ々と相談そうだんし、一人ひとり美貌びぼう女性じょせいつくし、様々さまざまおくもの女性じょせいかざり、パンドーラー(すべてのおくものおんな)と名付なづけたこのおんなを、プロメーテウスの思慮しりょけたおとうと、エピメーテウスにおくった。ゼウスからのおくものには注意ちゅういせよとかねてから忠告ちゅうこくされていたエピメーテウスであるが、かれはパンドーラーのうつくしさにあに忠告ちゅうこくわすれ、つまとしてむかえる。ここで男性だんせい種族しゅぞくからまれたものとして往古おうこから存在そんざいしたが、女性じょせい種族しゅぞくかみ々、ゼウスの策略さくりゃく人間にんげんたぶらかし、不幸ふこうにするために創造そうぞうされたとする神話しんわかたられていることになる。

いつつの時代じだい人間にんげんかた[編集へんしゅう]

パンドーラーは結果けっかてきにエピメーテウスに、そして人間にんげん種族しゅぞくわざわいをもたら不幸ふこう招来しょうらいした。ヘーシオドスはさらに、きむ種族しゅぞくぎん種族しゅぞく青銅せいどう種族しゅぞくについてうたう。これらの種族しゅぞくかみ々が創造そうぞうした人間にんげんぞくであった。かね種族しゅぞくクロノス王権おうけん掌握しょうあくしていた時代じだいまれたものである[52][注釈ちゅうしゃく 21]。この最初さいしょ種族しゅぞくかみ々にも無上むじょう幸福こうふくがあり、平和へいわがあり、なが寿命じゅみょうがあった。しかしぎん種族しゅぞくどう種族しゅぞく次々つぎつぎかみ々があたらしい種族しゅぞくつくると、さきにあったものくらべ、からつくられたものはすべておとっており、どう青銅せいどう)の時代じだい人間にんげん種族しゅぞくにはあらそいがえず、このためゼウスはこの種族しゅぞく再度さいどほろぼした。

かね時代じだいぎん時代じだいは、おそらく空想くうそう産物さんぶつであるが、つぎおとずれる青銅せいどう時代じだい、そしてこれにつづ英雄えいゆうはんかみ)の時代じだいてつ時代じだいは、人間にんげん技術ぎじゅつてき進歩しんぽ過程かていあとづける分類ぶんるいである。これは空想くうそうではなく、歴史れきしてき経験けいけん知識ちしきもとづく時代じだいかんがえられる。だい4の「英雄えいゆうはんかみ」の時代じだいは、ヘーシオドスが『列伝れつでん(カタロゴイ)』でえがした、かみ々にあいされ英雄えいゆうんだ女性じょせいたちがきた時代じだいえる。英雄えいゆうたちは、華々はなばなしいくんにあってき、その死後しごヘーラクレースがそうであるようにかみとなって天上てんじょうのぼったり、楽園らくえんエーリュシオン)にき、うれいのない浄福じょうふく生活せいかつおくったとされる(他方たほうオデュッセウス冥府めいふにあるアキレウスったとき、亡霊ぼうれいとしてあるアキレウスは、武勲ぶくん所詮しょせんむなしい、まずしくもなくともきてあることが幸福こうふくだ、とも述懐じゅっかいしている[53])。

仕事しごと日々ひび

英雄えいゆう時代じだいっていまや「青銅せいどう時代じだい」となり、ひと寿命じゅみょうみじかく、労働ろうどうきびしく、農夫のうふめぐみをあたえることすくなく、若者わかもの老人ろうじんうやまわず、智慧ちえ尊重そんちょうしない……これが、我々われわれがいまきている時代じだい世界せかいである、とヘーシオドスはうたう。このような人生じんせい世界せかい見方みかたは、詩人しじんとして名声めいせいながらも、あくまで一介いっかい地方ちほう農民のうみんとしてらしをててかねばならなかったヘーシオドスの人生じんせい経験けいけん反映はんえいしているとされる。には、はんかみたる英雄えいゆう祖先そせんつとしょうする名家めいかがあり、貴族きぞくがおり、富者ふしゃがおり、なかには矛盾むじゅんがある。しかし、かみはあくまでぜんなるもので、ひと勤勉きんべん労働ろうどうし、かみ々をうやまい、人間にんげんあたえられたぶん誠実せいじつきるのが最善さいぜんである。

一方いっぽうで、武勲ぶくん称賛しょうさんし、王侯おうこう貴族きぞく豪勢ごうせい生活せいかつ栄誉えいよ音楽おんがく彫刻ちょうこくなどの芸術げいじゅつたかみに、めぐまれたひとる。しかし庶民しょみん生活せいかつきびしいものであり、そこで人間にんげんとしていかにきるか、ヘーシオドスは神話しんわたくして、人間にんげんのありようの諸相しょそうをうたっているとえる。

神話しんわ5:英雄えいゆう誕生たんじょう[編集へんしゅう]

ギリシア神話しんわにおいては、ヘーシオドスがかたいつつの時代じだい最後さいご時代じだい、すなわち現在げんざいである「てつ時代じだい」のまえに、「英雄えいゆう時代じだい」があったとされる。英雄えいゆうとは、古代こだいギリシアでヘーロース(hērōs, ήρως)とぶが、この言葉ことば原義げんぎは「守護しゅごしゃ防衛ぼうえいしゃ」である。しかしホメーロスでは、君公くんこう、あるいは殿しんがり意味いみで、支配しはいしゃ貴族きぞく主人しゅじんについて一般いっぱんてき使用しようされていた[54][注釈ちゅうしゃく 22]

英雄えいゆう崇拝すうはい歴史れきし[編集へんしゅう]

神話しんわ学者がくしゃキャンベルは、英雄えいゆう神話しんわ神話しんわ基幹きかんいたが、かれえが英雄えいゆうとは、危険きけんおかしてちょう自然しぜんてき領域りょういき勝利しょうりし、人々ひとびと恩恵おんけいさづけるちから(force)を獲得かくとくしたものである[55]古代こだいギリシア英雄えいゆうは、守護しゅごしゃ原義げんぎつことからもかるとおり、ちょう自然しぜん世界せかいはいって「ちから」を獲得かくとくするものではない。文献ぶんけん考古学こうこがくによれば、ミュケーナイ時代じだいには存在そんざいしなかった「英雄えいゆう信仰しんこう」が、ギリシアの暗黒あんこく時代じだい[56]つうじて、ホメーロスのころ出現しゅつげんする。

ここで崇拝すうはいされる英雄えいゆうは「ちからちた死者ししゃ」であり、その儀礼ぎれいは、親族しんぞく死者ししゃへの儀礼ぎれいと、かみ々への儀礼ぎれいなかあいだ程度ていど位置いちしていた[注釈ちゅうしゃく 23]まつられる英雄えいゆうごとで様々さまざま解釈かいしゃくがあったが、祭儀さいぎにおけるヘーロースは、都市とし共同きょうどうたい個人こじんやまい危機ききから救済きゅうさい恩恵おんけいをもたらしたものとして理解りかいされた。このような崇拝すうはい対象たいしょう叙事詩じょじし登場とうじょうする英雄えいゆう比定ひていされた。つにつれ、ヘーロースのはんがた該当がいとうすると判断はんだんされた人物じんぶつ、すなわちかみへの祭祀さいし創始そうししたものや、都市とし創立そうりつしゃなどには、神託しんたくもとづいて英雄えいゆうたる栄誉えいよ授与じゅよされ、かれらは「英雄えいゆう」となされた[58]

ギリシアの英雄えいゆうはんかみともしょうされるが、おおくがかみ人間にんげんのあいだにまれた息子むすこで、半分はんぶんすべき人間にんげん半分はんぶん不死ふしなるかみく。このような英雄えいゆうは、「ちからある死者ししゃ」のなかでもかみちか崇拝すうはいけていたものたちで、ヘーラクレース場合ばあいは、英雄えいゆういきえてかみとして崇拝すうはいされた。英雄えいゆうは、都市とし創立そうりつしゃとして子孫しそん守護しゅごし、またときに、敵対てきたいするもの子孫しそん末代まつだいまでつづのろいをかけた[59][注釈ちゅうしゃく 24]してくんのこ英雄えいゆうは、守護しゅごのろいのかたちで、その死後しごつよちから発揮はっきしたものでもある[注釈ちゅうしゃく 25]

ゼウスの息子むすこ[編集へんしゅう]

英雄えいゆう古代こだいギリシアの名家めいか始祖しそであり、祭儀さいぎ都市とし創立そうりつしゃでありめいであるが、そのおおくはゼウスの息子むすこである。ゼウスはニュンペー人間にんげんむすめまじわり、すうおおくの英雄えいゆうちちとなった。数々かずかず王家おうけかみほっした。

ダナエーとかねあめ

数々かずかず冒険ぼうけんたけいさむたんられ、かずれぬ子孫しそんのこしたとされるヘーラクレースはゼウスと人間にんげんエーレクトリュオーンむすめアルクメーネーのあいだにまれた。ゼウスは彼女かのじょおっとアンピトリュオーンけ、さらヘーリオスめいじて太陽たいようさん日間にちかんのぼらせず彼女かのじょまじわって英雄えいゆうをもうける。また白鳥はくちょう姿すがたになってレーダーまじわり、ヘレネーおよディオスクーロイ兄弟きょうだいをもうけた。アルゴスおうアクリシオスむすめダナエーもとへは黄金おうごんあめ変身へんしんして近寄ちかよペルセウスをもうけた。テュロスおうアゲーノールむすめエウローペーもとへは、しろおすうしとなって近寄ちかより、彼女かのじょせるとクレーテーとうまでおよぎわたった。そこで彼女かのじょまじわってミーノースラダマンテュスひとしをもうける。

カリストー誘惑ゆうわくするゼウス

ゼウスはまた、アルテミスしたがっていたニュンペーカリストーに、アルテミスにけて近寄ちかよまじわった。こうしてアルカディア王家おうけアルカスまれた。プレイアデス一人ひとりエーレクトラーとのあいだには、トロイア王家おうけダルダノスと、のちデーメーテール女神めがみ恋人こいびととなったイーアシオーンをもうける。イーオーはアルゴスのヘーラーの女神めがみかんであったが、ゼウスがこいしてをもうけた。ヘーラーいかりをおそれたゼウスはイーオーをめすうしえたが、ヘーラーは彼女かのじょくるしめ、イーオーは世界中せかいじゅう彷徨ほうこうってエジプト(アイギュプトス)の辿たどき、そこでひと姿すがたもどり、エジプトおうとなるエパポスんだ。エウローペーはイーオーの子孫しそんたる。

アトラースむすめプルートーとのあいだには、かみ々に寵愛ちょうあいされたが冥府めいふこうばつけるさだめとなったタンタロスをもうける。またゼウスはニュンペーのアイギーナさらった。父親ちちおやであるアーソーポスかわしんむすめ行方ゆくえさがしていたが、コリントスおうシーシュポスにんさきおしえた。寝所ねどこんだかわしんかみなりたれてに、またシーシュポスはこのゆえ冥府めいふこうばつけることとなった。アイギーナからはアイアコスまれる。おなじくアーソーポスかわしんむすめとされる(べつせつではスパルトイ子孫しそんアンティオペーは、サテュロスけたゼウスとまじわりアンピーオーンゼートスんだ。アンピーオーンはテーバイおうとなり、またヘルメースより竪琴たてごとさずかりその名手めいしゅとしてもられた。プレイアデス一人ひとりターユゲテーともまじわり、ラケダイモーンをもうけた。かれは、ラケダイモーン(スパルテー)のめいとなった。エウリュメドゥーサよりはミュルミドーンじんめいであるミュルミドーンをもうけた。

かみ々の息子むすこ[編集へんしゅう]

ウーラニアー

アポローン数々かずかず恋愛れんあいたんられるが、かれとされる英雄えいゆうは、まずムーサいちはしらウーラニアーとのあいだにもうけた名高なだかオルペウスがある(べつせつでは、ムーサ・カリオペーオイアグロス)。ラピテースぞくおうむすめコローニスより、死者ししゃをもかえらせた名医めいいにしてしんアスクレーピオスをもうけた。予言よげんしゃテイレシアースむすめマントーからは、これも予言よげんしゃモプソスをもうける。ミーノースむすめアカカリスはアポローンとヘルメースりょうかみ恋人こいびとであったが、アポローンとのあいだナクソスとうめいナクソス都市としめいミーレートスひとしんだ。彼女かのじょはヘルメースとのあいだにも、クレーテーとうキュドーニス創建そうけんしゃキュドーンをもうけた。

他方たほうポセイドーンは、アテーナイおうアイゲウスアイトラーとのあいだテーセウスをもうけたとされる。またエウリュアレーとのあいだにはオーリーオーンを(べつせつでは、かれガイア息子むすこともされる)、テューローとのあいだにはそうせい兄弟きょうだいネーレウスペリアースをもうけた。エパポスむすめニュンペーリビュエーリビュアー)とまじわり、テュロスおうアゲーノールとエジプトおうペーロス双子ふたごをもうける。ラーリッサつうじて、ペラスゴスペラスゴイじんとは別人べつじん)、アカイオスプティーオスをもうけた。アカイオスはアカイアじんとされ、プティーオスはプティーアめいとされる。オルコメノスミニュアースじんめいとされるミニュアースもポセイドーンのとされるが、まごとのせつもある。

鍛冶たんやかみヘーパイストスは、アテーナイの神話しんわてきおうエリクトニオスちちとされる。かれアテーナー欲情よくじょう女神めがみってまじわらんとしたが、女神めがみ拒絶きょぜつし、かれ精液せいえきはアテーナーのあしにまかれた。女神めがみはこれを羊毛ようもう大地だいちてたところ、そこよりエリクトニオスがまれたとされる[62][注釈ちゅうしゃく 26]

リュカーオーンは、アルカデイアおうペラスゴスオーケアノスむすめメリボイア、またはニュンペーのキューレーネーとされる。かれおおくの息子むすこめぐまれたが、息子むすこたちは傲慢ごうまんものおお神罰しんばつけたともされる。アルカディアのおおくの都市としが、リュカーオーンの息子むすこたちを、都市としめいとしてもとめた形跡けいせきがある。また、アプロディーテーは、トロイア王家おうけ一員いちいんアンキーセースとのあいだにアイネイアースんだ。アイネイアースはのちにローマの神話しんわてき祖先そせんともされた。アイアきむ羊毛ようもうかわをめぐる冒険ぼうけんたんアルゴーごう航海こうかいたん」に登場とうじょうするコルキスおうアイエーテースは、ヘーリオスとオーケアノスのむすめペルセーイスである。

トロイア戦争せんそう英雄えいゆうであり、平穏へいおん長寿ちょうじゅよりも、早世そうせいであっても、戦士せんしとしてのくん栄光えいこうえらんだアキレウスは、ペーレウスうみ女神めがみテティスのあいだの息子むすこである。

英雄えいゆう崇拝すうはいとその栄光えいこう[編集へんしゅう]

ヘーラクレース神殿しんでんあと

ピエール・グリマルによれば、ヘーラクレースとその数々かずかず武勇ぶゆうたんミュケーナイ時代じだい原形げんけいてき起源きげんつもので、考古学こうこがくてきにも裏付うらづけがあり、またその活動かつどうぜんギリシアちゅう足跡あしあとのこしているとされる[19]。ヘーラクレースはかみおなあつかいをけ、かれ祭祀さいしする神殿しんでんあるいは祭礼さいれいはギリシアちゅう存在そんざいした。古代こだいギリシア名家めいかは、きそってその祖先そせんをヘーラクレースにもとめ、かれらはみずから「ヘーラクレイダイ(ヘーラクレースの後裔こうえい)」と僭称せんしょうした[63]

アキレウスもまた、アガメムノーンなどと同様どうように、いまは忘却ぼうきゃく彼方かなたしずんだそのはらぞうがミュケーナイ時代じだい存在そんざいしたとかんがえられるが、かれは「かみ々のあいしたものわかくしてぬ」とのエピグラムとおり、かみ々にあいされたはんかみとして、栄誉えいよのなか、人間にんげんとしてのモイラ(じょうぎょう)にあって、英雄えいゆうとしての生涯しょうがいえた。かれくん栄光えいこうはその死後しごにあって光彩こうさいはなじんしんつのである。

神話しんわ6:英雄えいゆう神話しんわ[編集へんしゅう]

ギリシア神話しんわ登場とうじょうするおおくの人間にんげんは、ヘーシオドスがうたっただい4の時代じだい、つまり「英雄えいゆうはんかみ」の時代じだいぞくしている。それらは、すでにホメーロスとおむかし伝承でんしょうさかえある祖先そせんたちのくん物語ものがたりとしてうたっていたものである。

かれらの時代じだいがいつごろのことなのかという根拠こんきょについては、神話しんわじょうでの時代じだい相関そうかんひとつにげられる。他方たほう考古学こうこがく資料しりょうによるギリシア神話しんわ英雄えいゆうたん源流げんりゅうであるとかんがえられる古代こだい都市とし遺跡いせき文化ぶんか戦争せんそう痕跡こんせきなどから推定すいていされる時代じだいがある。英雄えいゆうたちの時代じだいはじまりとしては、プロメーテウス神話しんわ延長えんちょうじょうにあるともえる「だい洪水こうずい伝説でんせつ起点きてんることがひとつにかんがえられる。

だい洪水こうずいとデウカリオーン[編集へんしゅう]

プロメーテウス息子むすこデウカリオーンは、エピメーテウスパンドーラーのあいだのむすめピュラーつまにするが、だい洪水こうずいは、このときにこったとされる[64]洪水こうずいびたデウカリオーンは、おおくの息子むすこむすめ父親ちちおやとなる。ピュラーとのあいだに息子むすこヘレーンまれたが、かれ自分じぶんって、古代こだいギリシアじんをヘレーン(複数ふくすうがた:ヘレーネス)とんだ[65]。デウカリオーンの息子むすこまごには、ドーロスアイオロスアカイオスイオーンがいたとされ、それぞれが、ドーリスじんアイオリスじんアカイアじんイオーニアじんめいとなったとされるが[66]、これには歴史れきしてき根拠こんきょはないとおもわれる[67]

アイオロスの裔[編集へんしゅう]

エンデュミオーン

しかし、アイオロス子孫しそんには、ギリシア神話しんわ活躍かつやくする有名ゆうめい人物じんぶつがいる。子孫しそんテッサリア活躍かつやくし、イオールコスおう建造けんぞうした。ハルモス家系かけいにはミニュアースと、その裔でありアルゴナウタイとして著名ちょめいイアーソーン、またしんとしてのちられるアスクレーピオスがいる。また孫娘まごむすめテューローからは、子孫しそんとしてネーレウスポントスネーレウスかみとはべつ)、そのトロイア戦争せんそう智将ちしょうとしてられるピュロスおうネストールがおり、ペリアースアドメートスメラムプース、またアルゴスおうで「テーバイめのななしょう」の総帥そうすいであるアドラストスなどがいる。ネーレウスはピュロスおう建造けんぞうした。

アイオロスのむすめ婿むこアエトリオス子孫しそん人物じんぶつとしては、つき女神めがみセレーネーとのこいられるエンデュミオーン、カリュドーンおうオイネウス、そのメレアグロステューデウス兄弟きょうだいがいる。メレアグロスはホメーロスでも言及げんきゅうされていたが(『イーリアス』)、いの退治たいじはなし後世こうせいになって潤色じゅんしょくされ、「カリュドーンのいのしし」として、おんな勇者ゆうしゃアタランテーふくめて多数たすう英雄えいゆう参加さんかした出来事できごととなった。またメレアグロスの姉妹しまいデーイアネイラおっとヘーラクレースであり、二人ふたりのあいだにまれたヒュロスはスパルテー(ラケダイモーン)王朝おうちょうである[68]

ペロプスの裔[編集へんしゅう]

タンタロス冥府めいふタルタロス永劫えいごうばちけてくるしんでいるが、その家系かけいにも有名ゆうめい人物じんぶつがいる。かれ息子むすこペロプス富貴ふうきおごったタンタロスによってきざまれ、オリュンポスのかみ々への料理りょうりとしてされた。このおこなゆえにタンタロスはこうばつけたともされるが、以下いかべつせつもある。かみ々はペロプスをかえらせ、そのかれまれ美少年びしょうねんとなり、ポセイドーンかれあいして天界てんかいれてったともされる。

ペロプスはかみ々の寵愛ちょうあいけてペロポネーソスを征服せいふくした。かれ子孫しそんミュケーナイおうアトレウスがあり、アガメムノーンとそのおとうとのスパルタおうメネラーオスはアトレウスの子孫しそん)にたる(このゆえ、ホメーロスは、「アトレイデース=アトレウスの息子むすこ」と二人ふたりぶ)。アガメムノーンはトロイア戦争せんそうのアカイアぜい総帥そうすいでありクリュタイムネーストラーおっとで、メネラーオスは戦争せんそう発端ほったんともなった美女びじょヘレネーおっとである。また、アガメムノーンの息子むすこむすめが、ギリシア悲劇ひげきられるオレステースエーレクトラーイーピゲネイアとなる。

ミュケーナイ王家おうけ悲劇ひげき密接みっせつ関連かんれんするアイギストスもペロプスの子孫しそんで、オレステースとつながっている。他方たほう、アトレウスの兄弟きょうだいとされるアルカトオスむすめペリボイアは、アイアコス息子むすこであるサラミスおうテラモーンつまであり、二人ふたりのあいだの息子むすこアイアースである。また、テラモーンの兄弟きょうだいでアイアコスのいまいちにん息子むすこペーレウスで、「ペーレウスの息子むすこ」(ペーレイデース)が、トロイア戦争せんそう英雄えいゆうアキレウスとなる[68]

テーバイ王家おうけとクレーテー王家おうけ[編集へんしゅう]

りゅうたたかカドモス

リビュエー雌牛めうしとなったイーオー孫娘まごむすめたる。リビュアーと海神わたつみポセイドーンあいだまれたのがフェニキアおうアゲーノールで、テーバイ王家おうけであるカドモスと、クレーテー王家おうけともえるむすめエウローペーかれである。

カドモスはりゅうからまれた戦士せんしとしてよくられる。カドモスのむすめにはセメレーがあり、彼女かのじょゼウスあいけてディオニューソスをんだ。テーバイおうペンテウスはカドモスのまごにあたり、かれディオニューソス信仰しんこう否定ひていしたため、狂乱きょうらんするおんなたちにかれてんだ。そのおんなたちのなかには、かれははアガウエー伯母おばイーノーふくまれていた。ペンテウスとディオニューソスは従兄弟いとこ同士どうしとなる。カドモスのべつ系統けいとうまごにはラブダコスがあり、かれラーイオスちちで、ラーイオスの息子むすこオイディプースである。オイディプースにはつまイオカステーのあいだにむすめアンティゴネーとうよんにん子供こどもがいる。

他方たほう、カドモスの姉妹しまいエウローペーがあり、彼女かのじょはクレーテーおうアステリオスつまであるが、ゼウスが彼女かのじょあいミーノースまれる。ミーノースのいくにんかの息子むすこむすめのなかで、カトレウスむすめつうじてアガメムノーン祖父そふたり、同様どうように、かれパラメーデース祖父そふである。カトレウスのまごにはイードメネウスがいる。ミーノースのむすめアリアドネーは、本来ほんらい人間にんげんではなく女神めがみともかんがえられるが、ディオニューソスのつまとなってオイノピオーンひとしをもうけた。クレーテーの迷宮めいきゅうへとはいってったテーセウスは、アテーナイおうアイゲウス息子むすことも、ポセイドーン息子むすこともされるが、ミーノースのむすめパイドラーつまとした。

トロイア王家おうけ[編集へんしゅう]

ヘクトールパリス

アガメムノーン総帥そうすいとするアカイアぜい古代こだいギリシアじん)に侵攻しんこうされ、じゅうねん戦争せんそうのち陥落かんらくしたトロイアは、トロイア戦争せんそう舞台ぶたいとして名高なだかい。しょうアジア西端せいたん位置いちするこの都城みやこのじょう支配しはいしゃは、ゼウスとするダルダノス子孫しそんである。かれはトロイア創建そうけんし、キュベレー崇拝すうはいプリュギアみちびいたとされる。ダルダノスのまごトロースで、かれがトロイアのめいである。トロースにはさんにん息子むすこがあり、イーロス、アッサラコス、ガニュメーデースである。ガニュメーデースは美少年びしょうねんちゅう美少年びしょうねんわれ、ゼウスかれさらってオリュンポスの酒盃しゅはい捧持ほうじしゃとした。

イーロスラーオメドーンちちで、ろうトロイアおうプリアモス祖父そふである。英雄えいゆうヘクトールパリス(アレクサンドロス)はプリアモスの息子むすこ予言よげん名高なだかカッサンドラーむすめである。またヘクトールのつまアンドロマケーは、トロイア陥落かんらくアキレウス息子むすこネオプトレモス奴隷どれいとされ、かれむ。

他方たほう、トロースのさんにん息子むすこ最後さいご一人ひとりアッサラコスアンキーセース祖父そふで、アンキーセースとアプロディーテー女神めがみのあいだにまれたのがアイネイアースである。トロイア陥落かんらくかれ諸方しょほう放浪ほうろうしてローマ辿たどく。ウェルギリウスかれ主人公しゅじんこうとしてラテン語らてんご叙事詩じょじしアエネーイス』をあらわした。アイネイアースの息子むすこアスカニオスイウールス)はローマの名家めいかユーリア氏族しぞく(gens Iulia)のとされる。

英雄えいゆうたちの結集けっしゅう[編集へんしゅう]

ギリシア神話しんわには、断片だんぺんてきなエピソード以外いがいに、一人ひとり人物じんぶつあるいはひとつの事件じけんが、複雑ふくざつ展開てんかいし、すうおおくの英雄えいゆうたちがその物語ものがたり関係かんけいしてくる「ふくあい物語ものがたり」ともべる神話しんわたんがある。

アテーナイ王子おうじであった「テーセウス」の生涯しょうがいは、劇的げきてき展開てんかいせ、クレーテーとう迷宮めいきゅうでの冒険ぼうけんのちになっても、コルキス王女おうじょメーデイア義母ぎぼであったり、その魔術まじゅつたたかうなど、ミーノースおうアリアドネーふくめ、ひろ範囲はんい多数たすう人物じんぶつかかわりをっている。

ゆみヘーラクレース

テーセウス生涯しょうがい以上いじょう華麗かれいで、おびただしい人物じんぶつ関係かんけいし、また様々さまざま重要じゅうよう事件じけん参加さんかするヘーラクレース物語ものがたりもまた英雄えいゆう結集けっしゅうする神話しんわともえる。かれされたじゅう難題なんだい物語ものがたりだけでも十分じゅうぶん複雑ふくざつであるが、ヘーラクレースは「アルゴナウタイ」の一員いちいんでもある。さらに、アポロドーロスによると、かれゼウス王権おうけん確立かくりつしたのちこったとされるギガース巨人きょじん)たちとのたたかいにも参加さんかしている[69]。また、オルペウスきょう断片だんぺんてき資料しりょうでは、原初げんしょにクロノス Khronos()、別名べつめいヘーラクレースが出現しゅつげんしたという記述きじゅつがある[70]。これが英雄えいゆうヘーラクレースかどうかさだかではないが、無関係むかんけいともいきれない。

ギリシアちゅうから英雄えいゆう集結しゅうけつして冒険ぼうけん出発しゅっぱつするというはなしとしては、イアーソーン船長せんちょうとするコルキスのかね羊毛ようもうがわをめぐる「アルゴナウタイ」の物語ものがたりげられ、ここではヘーラクレースやオルペウスなども参加さんかしている。

また、アドラストス総帥そうすいとする「テーバイめのななしょう」の神話しんわやそのにちだんでもある、ななしょう息子むすこたちの活躍かつやくも、英雄えいゆうたちが結集けっしゅうした物語ものがたりである。メレアグロスいのしし退治たいじ伝承でんしょう潤色じゅんしょくされ、拡大かくだいした規模きぼかたられるようになった「カリュドーンのいのしし」の神話しんわもまた、メレアグロスを中心ちゅうしんに、カストールポリュデウケース兄弟きょうだいテーセウスイアーソーンペーレウステラモーン、そしてアタランテーなども参加さんかした英雄えいゆう結集けっしゅう物語ものがたりである。

トロイア戦争せんそう[編集へんしゅう]

ギリシア神話しんわじょうで、もっともふるく、もっとも重層じゅうそうてき伝承でんしょう神話しんわ物語ものがたり蓄積ちくせきされているのは、「トロイア戦争せんそう」をめぐる神話しんわである。古典こてんギリシアの文学ぶんがくにあって、紀元前きげんぜん9世紀せいきないし8世紀せいきに、突如とつじょとして完成かんせいされたかたちで、ホメーロスだい叙事詩じょじし、すなわち『イーリアス』と『オデュッセイア』が出現しゅつげんする。詳細しょうさい研究けんきゅう結果けっか、これらの物語ものがたり突如とつじょ出現しゅつげんしたのではなく、その前史ぜんしともいうべき過程かてい存在そんざいしたことがかっている[71]

トロイア戦争せんそうをめぐっては、その前提ぜんていとなったパリスの審判しんぱん物語ものがたりや、ギリシアとトロイアのあいだの交渉こうしょう、アカイアぐん出陣しゅつじん、そして長期ちょうきわた戦争せんそう経過けいかなどがられている。『イーリアス』はじゅうねんおよ戦争せんそうのなかのある時点じてんし、アキレウスいかりからはじまり、代理だいり出陣しゅつじんしたパトロクロス戦死せんしヘクトールとのたたかい、そしてかれと、その葬送そうそうのための厳粛げんしゅくしずけさで物語ものがたりじる。他方たほう、『オデュッセイア』では、トロイア戦争せんそう終結しゅうけつ故郷こきょうイタケーとう帰国きこくしようとしたオデュッセウスあらし出会であい、様々さまざま苦難くなん故郷こきょうへとかえ物語ものがたりしるされている。

トロイア戦争せんそう経過けいか全貌ぜんぼうはどのようなものであったのか、トロイア陥落かんらくのための「木馬もくば計略けいりゃく」のはなしなどは、断片だんぺんてき物語ものがたりとしてはつたわっていたが、完全かんぜんかたちのものは今日きょうつてそんしていない。しかし、この神話しんわあるいは歴史れきしてき伝承でんしょうが、おおきな物語ものがたりけんきずいていたことは今日きょうられている。

宗教しゅうきょうとの関係かんけい[編集へんしゅう]

神話しんわおおくの場合ばあい、かつてきていた宗教しゅうきょう信仰しんこう内実ないじつ、すなわち世界せかいの「真実しんじつ」を神聖しんせい物語ものがたり文学ぶんがくてき表現ひょうげん)または象徴しょうちょうかたち記録きろくしたものだとえる。このことは、現在げんざいなお信仰しんこうされつづけている宗教しゅうきょうとうにも該当がいとうする。神話しんわはまたおおくの場合ばあい儀礼ぎれい密接みっせつ関係かんけい[72][73]エリアーデ神話しんわ世界せかいふくむ「創造そうぞう根拠こんきょける」ものとした。このことは人間にんげん起源きげん説明せつめい宗教しゅうきょうてき世界せかいかん一部いちぶとしておおきな意味いみつことからも肯定こうていされる[74]

ギリシアじんかみ々への信仰しんこう[編集へんしゅう]

ポリヒュムニア

古代こだいギリシアじん人間にんげん非常ひじょうかみ々が登場とうじょうするユニークな神話しんわっていたが、かれらはこれらのかみ々を宗教しゅうきょうてき信仰しんこう崇拝すうはい対象たいしょうとしてかんがえていたのかについては諸説しょせつある。実際じっさい西欧せいおう中世ちゅうせい近世きんせいつうじて、人々ひとびとはギリシア神話しんわ架空かくうつくばなし寓話ぐうわるいともなしていた。現代げんだいにおいても、ポール・ヴェーヌは、「ギリシアじんがその神話しんわ」を本当ほんとう信仰しんこうしていたのかをめぐり疑問ぎもん提示ていじする。かれ古代こだいギリシアじんソフィストたちの懐疑かいぎ主義しゅぎてもロゴスミュートス区別くべつ曖昧あいまいであったことを批判ひはんする。しかしヴェーヌの結論けつろんは、古代こだいギリシアじんはやはりかれらの神話しんわしんじていたのだ、ということになる[75]

また、古代こだいのギリシアじん自身じしんのなかでも疑問ぎもんこっていたのであり、紀元前きげんぜん6世紀せいき詩人しじん哲学てつがくしゃクセノパネースは、ホメーロスヘーシオドスえがかれたかみ々の姿すがたについて、ぬすみや姦通かんつうだまごういをおこな下劣げれつ存在そんざいではないかと批判ひはんしている[76]

ホメーロスやヘーシオドスは、自分じぶんたちのうたった神話しんわが「真実しんじつ」であることに確信かくしんっていた。この場合ばあいなに真実しんじつで、なににせなのかという規準きじゅん必要ひつようである[注釈ちゅうしゃく 27]。しかしかれらがうたったのは、かみ々や人間にんげんかんする真実しんじつであって、みやつこばなし虚構きょこう現代げんだいじんかんがえるのは、真実しんじつ具象ぐしょうするための「表現ひょうげん」であり「技法ぎほう」にぎなかった[77][注釈ちゅうしゃく 28]

神話しんわ重要じゅうよう与件よけんひとつとして作者さくしゃ無名むめいせいかんがえられていた。だれつくったのでもなく太古たいこむかしより存在そんざいするのが神話しんわであった[79]紀元前きげんぜん7世紀せいき中葉ちゅうよう以降いこう叙事詩じょじしてき伝統でんとうわって、個人こじん感情かんじょうおもいをうたう抒情詩じょじょうし誕生たんじょうする。抒情詩じょじょうしじん超越ちょうえつてきかみ々の存在そんざいについてむし関心かんしんであった。しかし、これにつづいて出現しゅつげんしたギリシア悲劇ひげきにおいては、ムーサ女神めがみへのいのりもなく、あきらかにかれらが創作そうさくしたとかんがえられる物語ものがたり劇場げきじょう公開こうかいするようになる。これによってギリシア神話しんわ人間にんげんてき奥行おくゆきを深化しんかしたが、かれらは神話しんわしんじていたのだろうか。悲劇ひげき詩人しじんたちはニーチェ洞察どうさつしたように、コロス導入どうにゅうによって、そしてこんひとつに「英雄えいゆう」の概念がいねん変遷へんせんにより、共同きょうどうたい真実しんじつをその創作そうさく具現ぐげんしていた。かれらはなおかみ信仰しんこうしていたのであるが、神話しんわについてはそうでもなかった[80]

ソピステースとプラトーン[編集へんしゅう]

アテーナイの学堂がくどう

しかしさんだい悲劇ひげき詩人しじん活動かつどう背後はいごで、奴隷どれいせい基礎きそくギリシアのしょポリスは、アテーナイを代表だいひょうとして困難こんなん直面ちょくめんすることにもなる[注釈ちゅうしゃく 29][82][注釈ちゅうしゃく 30]ペルシア戦争せんそうでの奇蹟きせきてき勝利しょうりのち、アテーナイの覇権はけん帝国ていこく主義しゅぎ勃興ぼっこうするが、ポリスは覇権はけんをめぐって相互そうごあらそうようになる。ペロポネソス戦争せんそう敗北はいぼくしたアテーナイにあって独自どくじ思想しそうかたったソークラテースはなお敬神けいしんなぞめいた人物じんぶつであったが、かれ先駆せんくするソピステースたちは、かみ々もまた修辞しゅうじ議論ぎろんため道具どうぐなし、プロータゴラースは「かみ々が存在そんざいするのかしないのか、我々われわれにはりようもない」と明言めいげんした[83]

ソークラテースの弟子でしであり偉大いだいなソピステースたちの論法ろんぽう知悉ちしつしていた紀元前きげんぜん4世紀せいきのプラトーンは、古代こだいギリシアの民主みんしゅ主義しゅぎ破綻はたん欠陥けっかんみとめず、かれ理想りそうとする国家こっかについての構想こうそうかたる。プラトーン以前いぜんには、ホメーロスの叙事詩じょじし青少年せいしょうねん教科書きょうかしょでもあり、戦士せんしとしての心構こころがまえ、共同きょうどうたい一員いちいんたる倫理りんりなどはかれだい作品さくひんつうじてまなばれていた。しかし、プラトーンは『国家こっか』において、異様いような「理想りそう社会しゃかい」のモデルを提唱ていしょうした。プラトーンはまずホメーロスと英雄えいゆう叙事詩じょじし批判ひはんし、これをポリスより追放ついほうすべきものとした[84][85]。また、かれ理想りそう国家こっかにあっては、「悲劇ひげき」は有害ゆうがいであるとしてこれも否定ひていした[86]

サッポーホメーロス

しかし、このような特異とくい思想しそうかたったプラトーンはまた、時期じきによっては、神話しんわ(ミュートス)を青少年せいしょうねん教育きょういく不適切ふてきせつであるとする一方いっぽうで、自分じぶん著作ちょさくに、ふんだんに寓意ぐういもちい、真実しんじつかたるために「神話しんわ」を援用えんようした[87]。ポリスの知識ちしきじん階級かいきゅうのあいだでは、古来こらいのギリシア神話しんわかみ々や英雄えいゆうは、崇拝すうはい対象たいしょうではなく、修辞しゅうじてき装飾そうしょくともした。こうしてアレクサンドロスアケメネスあさほろぼし、みずからがかみであると宣言せんげんしたとき、「かみ々への信仰しんこう」はポリス共同きょうどうたいからった、あるいはもはやポリスはこのような宗教しゅうきょうてき情熱じょうねつささえるにはあまりにも変質へんしつしてしまったのだとえる。神話しんわ(ミュートス)がそなえていたリアリティは消失しょうしつし、神話しんわ現実げんじつ分離ぶんりこった[88]

人々ひとびと敬神けいしん伝統でんとうはそれでもパウサーニアース紀元きげんになって証言しょうげんしているようにアテーナイにおいても、またギリシアの地方ちほう田舎いなかにあってなおつづいた。一方いっぽうで、アリストテレースは「うたうたいが法螺ほらをふいている」と著作ちょさくのなかで断言だんげんした[89]

展開てんかい変容へんよう[編集へんしゅう]

古典こてん学者がくしゃピエール・グリマルはそのしょうちょ『ギリシア神話しんわ』の冒頭ぼうとうで、「ギリシア神話しんわ」とはなに言葉ことばかを説明せつめいしている。グリマルは、紀元前きげんぜん9-8世紀せいきより紀元きげん3-4世紀せいきにあって、ギリシアはなしけんおこなわれていた各種かくしゅ不思議ふしぎ物語ものがたり伝説でんせつとう総称そうしょうして「ギリシア神話しんわ」とする[2]。この広範こうはん神話しんわけんは、紀元前きげんぜん4世紀せいきまつまたはぜん3世紀せいきはつにあって内容ないようてき形式けいしきてきおおきな変容へんよう経過けいかする。ひとつのは文献ぶんけんがく発達はったつと、書物しょもつ要約ようやく作成さくせいによってであり、いまひとつは、きたかみ々への敬神けいしん表現ひょうげんでもあった詩作しさくひんなどにわる、娯楽ごらく目的もくてきとした作品さくひん登場とうじょうによってである。

文献ぶんけんがく娯楽ごらく作品さくひん[編集へんしゅう]

プトレマイオス1

ギリシアのしょポリスは、アレクサンドロス統一とういつとオリエント征服せいふくによって事実じじつじょう消滅しょうめつした。アレクサンドロスはエジプトに自己じこけた新都しんと建設けんせつした。エジプトを継承けいしょうしたディアドコイ一人ひとりプトレマイオスはそこに世界せかい最大さいだいしょうされたアレクサンドレイア図書館としょかん建造けんぞうし、おびただしい蔵書ぞうしょ収集しゅうしゅう着手ちゃくしゅするとともに、ヘレニズムの世界せかい優秀ゆうしゅう学者がくしゃもとめた[90][注釈ちゅうしゃく 31]今日きょうでんそんするおおくの古代こだい文献ぶんけん文書ぶんしょはこの時代じだい編纂へんさんされ、あるいは筆写ひっしゃされ写本しゃほんとしてのこったものである。

図書館としょかんはアレクサンドレイア以外いがいにもペルガモンなどが著名ちょめいであった。図書館としょかんとざされていたとはいえ、たか評価ひょうかけた作品さくひんは、筆写ひっしゃされて、教養きょうようじん貴族きぞくなどにひろがっていった。図書館としょかん大量たいりょう書物しょもつについて、その内容ないよう要約ようやくしょをまた編集へんしゅうしていた。なが原著げんちょむよりも、学者がくしゃ整理せいりした原著げんちょ要約ようやくむことで、教養きょうようにわか成金なりきんなどは自己じこせかけの知識ちしき喧伝けんでんできた[92]。あるいは諸種しょしゅ伝説でんせつについて、主題しゅだいごとの見取みとあたえるために書籍しょせき編纂へんさんされた[93]。このような「集成しゅうせいほんのなかでも、もっとも野心やしんてきであったのが、紀元前きげんぜん2世紀せいきのアテーナイの文献ぶんけん学者がくしゃアポロドーロスのものとながかんがえられていた、アポロドーロスの『ビブリオテーケー』(ギリシア神話しんわ文庫ぶんこ)である[94]

一方いっぽう帝政ていせいローマ貴族きぞく富裕ふゆう階層かいそう人々ひとびとは、古代こだいギリシアのかみ々への崇拝すうはい敬神けいしんねんとは関係かんけいなく、純粋じゅんすい面白おもしろ色恋いろこい刺激しげきとなる物語ものがたりこのんだ。これらの嗜好しこう需要じゅようわせ、オウィディウスなどは、かみ々への敬神けいしんなどとは無縁むえんな、娯楽ごらく目的もくてきの『変身へんしん物語ものがたり』をあらわし、またおなじような意味いみアープーレイウスは『黄金おうごん驢馬ろば』をあらわした。オウィディウスの書籍しょせきはギリシア神話しんわ全体ぜんたいあつかうもので、体系たいけいてき著作ちょさくともえるが、しかし気楽きらくむことのできるみじかいエピソードの集成しゅうせいでもあった。

現代げんだい神話しんわ研究けんきゅう神話しんわがく[編集へんしゅう]

ギリシア神話しんわ宗教しゅうきょうとしての「真実しんじつ」の開示かいじ機能きのうは、このようにしてヘレニズム時代じだいにその終焉しゅうえんむかえたとえる。あたらしく勃興ぼっこうしたキリスト教きりすときょうは、まさに神話しんわ否定ひていしたプラトーンの思想しそう延長えんちょうじょうにあるともえたが、こののちせんねん以上いじょうにわたってつづ西欧せいおう精神せいしん歴史れきしのなかで、ギリシア神話しんわはもはや宗教しゅうきょうではなく、この神話しんわ登場とうじょうする逸話いつわかみ々を、自然しぜん現象げんしょう寓意ぐういとも、娯楽ごらくのためのみやつこばなしともなしていた。

19世紀せいきアメリカの文学ぶんがくしゃであるトマス・ブルフィンチはギリシア・ローマ神話しんわかんする一般いっぱんけの概説がいせつしょあらわしたが(Bulfinch's Mythology, 『ギリシア神話しんわ英雄えいゆう伝説でんせつ』)、「神話しんわ起源きげん」についてつぎのようなよっつのせつをまとめ紹介しょうかいしている。1)神話しんわは『聖書せいしょ』の物語ものがたり変形へんけいである。2)神話しんわはすべて歴史れきしてき事実じじつ反映はんえいであり、後世こうせい加筆かひつ粉飾ふんしょくもと姿すがた不明ふめいとなったものである。3)神話しんわ道徳どうとく哲学てつがく宗教しゅうきょう歴史れきし真理しんりなどを寓意ぐういてき表現ひょうげんしたものである。4)神話しんわ多様たよう自然しぜん現象げんしょう擬人ぎじんである。この最後さいご解釈かいしゃくは、19世紀せいき初頭しょとうワーズワース詩作しさくひんきわめて明瞭めいりょう表出ひょうしゅつされているとする[95]

19世紀せいき比較ひかく神話しんわがく[編集へんしゅう]

マックス・ミュラー

神話しんわ解釈かいしゃく研究けんきゅうにおいておおきな刺激しげきとなったのは、19世紀せいきにあっては、印欧語いんおうご比較ひかく研究けんきゅうよりまれた比較ひかく言語げんごがくである。ドイツまれで、後半こうはんせいをイギリスに研究けんきゅうおこなったマックス・ミュラー比較ひかく神話しんわがくというかたち神話しんわ解釈かいしゃく理論りろん提唱ていしょうした。比較ひかく言語げんごがく背景はいけいにある思想しそう当時とうじ西欧せいおう席巻せっけんしていた進化しんかろん進歩しんぽ主義しゅぎてき歴史れきしかんである。ミュラーは、ギリシア神話しんわインド神話しんわなどと比較ひかくしたうえで、これらの神話しんわ意味いみは、最終さいしゅうてきには太陽たいようをめぐる自然しぜん現象げんしょう擬人ぎじんであるとする神話しんわろん主張しゅちょうした[96]

金枝きんしへんターナー

ジェームズ・フレイザーはミュラーとおなじく自然しぜん神話しんわがくとなえたが、かれ浩瀚こうかんな『金枝きんしへん』においておう再生さいせい神話しんわ研究けんきゅうし、神話しんわ天上てんじょう自然しぜん現象げんしょう解釈かいしゃくではなく、地上ちじょう現象げんしょう社会しゃかい制度せいどのありようの反映はんえいであるとした。また神話しんわ呪術じゅじゅつてき儀礼ぎれい説明せつめいするためにされたとも主張しゅちょうした。ミュラーの解釈かいしゃくでは、ゼウス太陽たいよう象徴しょうちょうかみ々の物語ものがたりも、太陽たいよう中心ちゅうしんとする自然しぜん現象げんしょう擬人ぎじんてき解釈かいしゃくであるということになる。他方たほう、フレイザーでは、「してよみがえかみ」の意味いみ解明かいめい中心ちゅうしん主題しゅだいとなる。エレウシースのがこのような神話しんわであり、ディオニューソスもまたしてザグレウスとして復活ふっかつする。

構造こうぞう普遍ふへんてき神話しんわがく[編集へんしゅう]

デーメーテール

ソシュールの構造こうぞう概念がいねん継承けいしょうして神話しんわ研究けんきゅう適用てきようしたのは人類じんるい学者がくしゃクロード・レヴィ=ストロースであり、かれは『構造こうぞう神話しんわがく』において、オイディプース悲劇ひげきを、神話しんわもと英語えいごばんのあいだの差異さい構造こうぞう矛盾むじゅん体系たいけいとして分析ぶんせきし、「神話しんわてき思考しこう」の存在そんざい提唱ていしょうした。オイディプース神話しんわ目的もくてきひとつは、現実げんじつ矛盾むじゅん説明せつめい解明かいめいするための構造こうぞうてき論理ろんりモデルの提供ていきょうにあるとした。この神話しんわ背後はいごには様々さまざま矛盾むじゅん対立たいりつこうがあり、たとえば、ひと男女だんじょ結婚けっこんによってしょうじるという認識にんしき一方いっぽうで、ひとからまれたという古代こだいギリシア伝承でんしょう真理しんりについて、この矛盾むじゅん解決かいけつするための構造こうぞう把握はあくがオイディプース神話しんわであるとした。

フロイトの無意識むいしき発見はっけんから淵源えんげんしたともえる深層しんそう心理しんりがく理論りろんは、歴史れきしてきあらわれる現象げんしょうとはべつに、時間じかんえて普遍ふへんてき存在そんざいする構造こうぞう存在そんざいおしえる。ユングは、このような普遍ふへんてき時間じかんてき構造こうぞう作用さようとしてもとかた概念がいねん提唱ていしょうした。ケレーニイとの共著きょうちょ神話しんわがく入門にゅうもん』においては、童子どうじしん深層しんそう心理しんりがくてき分析ぶんせきおこなわれるが、コレー永遠えいえん少年しょうねんとしてのエロースふとしははははしん)としてのデーメーテールなどとの関係かんけい出現しゅつげんするもとかたであり、「再生さいせい神話しんわ」とばれるものが、無意識むいしき構造こうぞうより起源きげんする自我じが成立せいりつ基盤きばんであり、自我じが完全かんぜんせいへの志向しこう補完ほかんする普遍ふへんてき動的どうてき機構きこうであるとした[97]

影響えいきょう[編集へんしゅう]

マ帝国まていこく分裂ぶんれつ写本しゃほん[編集へんしゅう]

共和きょうわせいローマ

紀元きげん3世紀せいきないし4世紀せいきにはいまだ、ヘレニズム時代じだいとローマ帝政ていせいつくられ、つてそんしていた莫大ばくだいりょう書籍しょせきがあったとされる[98]たとえば、古典こてんさんだい悲劇ひげき詩人しじん作品さくひんは、現在げんざいつてそんしているものは、つたわっているもののなかのじゅうぶんいちしかないが、この当時とうじにはいまだほぼ全巻ぜんかんそろっていたとかんがえられる[99]。これらの莫大ばくだい書籍しょせき写本しゃほんは、ヘレニズム時代じだいり、帝政ていせいローマが終焉しゅうえんむかえたのちでは、激減げきげんしてほとんどの書籍しょせき散逸さんいつしたとされる。

それは東西とうざい分裂ぶんれつしたマ帝国まていこく西にし帝国ていこく領域りょういきいちじるしかった。西にしローマもなく滅亡めつぼうし、ゲルマンのくにであるフランク王国おうこく成立せいりつするが、一旦いったんうしなわれた書籍しょせきふたた回復かいふくしなかった。他方たほうひがし帝国ていこくすなわちビザンティン帝国ていこく領域りょういきでは、多数たすう書籍しょせきとその写本しゃほんがなお豊富ほうふのこっており、これを利用りようして、12世紀せいきヨハンネス・ツェツェースなどの文献ぶんけん学者がくしゃは、なおギリシア神話しんわかんする膨大ぼうだい注釈ちゅうしゃくほんなどをしるしていた[100][注釈ちゅうしゃく 32]

じゅう世紀せいきルネサンス[編集へんしゅう]

西欧せいおうにおいては、すべての写本しゃほん古代こだい遺産いさんうしなわれたわけではなく、14世紀せいきから15世紀せいきにかけてのルネッサンスにおいて、丹念たんねん修道院しゅうどういん文書ぶんしょなどを調しらべることで、ギリシア原典げんてん写本しゃほんなどがなお発見はっけんされつづけた。他方たほう西欧せいおううしなわれたおおくの書籍しょせきは、8世紀せいきにおけるイスラーム帝国ていこく勃興ぼっこうともに、ビザンティン帝国ていこくかいしてイスラームにわたった。しかしアラトスなどごく一部いちぶ例外れいがいのぞき、神話しんわについての書籍しょせき伝承でんしょうされなかった。中世ちゅうせいからルネサンスにかけては、マクロビウスフルゲンティウス英語えいごばんマルティアヌス・カペッラセルウィウスらのラテン語らてんご著作ちょさく古代こだい神話しんわ出典しゅってんとして参照さんしょうされた。さらに盛期せいきには『バチカン・ミトグラフス』など中世ちゅうせい独自どくじ古代こだい神話しんわ集成しゅうせいあらわされた。

ルネサンスとギリシア神話しんわ[編集へんしゅう]

ボッティチェリ-はる

西欧せいおうでは、古代こだいギリシアかたりによる文芸ぶんげいはほとんどわすれられていたが、14世紀せいき初頭しょとう代表だいひょうてき中世ちゅうせい詩人しじんであるダンテ・アリギエリは、『かみきょく地獄じごくへんのなかでリンボーという領域りょういきつくり、そこに古代こだい詩人しじん配置はいちした。5にん詩人しじんちゅう4にんラテン語らてんご詩人しじんで、のこりの一人ひとりがホメーロスであった。しかし、ダンテはホメーロスの作品さくひんらなかったし、西欧せいおうにこのだい詩人しじんられるのは、ややのち[101][102]になってからであった。

しかし西欧せいおうでは、古代こだいのローマ詩人しじんオウィディウスとその作品さくひんはよくられていた。イタリア・ルネサンスの絵画かいがでギリシア神話しんわ主題しゅだい明確めいかく表現ひょうげんしているものとして、サンドロ・ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生たんじょう』と『はる』が存在そんざいする。りょう絵画かいがども制作せいさくねん明確めいかくではないが、1482ねんごろであろうと想定そうていされている[103]高階たかしな秀爾ひでじはこのふたつの絵画かいが解釈かいしゃくして、『はる』はオウィディウスの『まつりれき』の描写びょうしゃ合致がっちする一方いっぽう、『ヴィーナスの誕生たんじょう』と『はる』がたい作品さくひんならば、これは「てんのアプロディーテー」と「大衆たいしゅうのアプロディーテー」のえがけの可能かのうせいがあると指摘してきしている[104][105][注釈ちゅうしゃく 33]

ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生たんじょう』は、イタリア・ルネサンスにおけるギリシア神話しんわ具象ぐしょうてき表現ひょうげん代表だいひょうてき作品さくひんともえる。この背後はいごにあると想定そうていされるマルシリオ・フィチーノなど(プラトン・アカデミー)のネオプラトニズム哲学てつがくや、魔術まじゅつてきルネサンス思想しそうは、秘教ひきょうてきなギリシア文化ぶんか西欧せいおう文化ぶんかのあいだでつうそこする美的びてき神話しんわてき原理げんりであるともえる。つぎに、西欧せいおう世界せかいにおいて、ルネサンス以前いぜんのギリシアのイメージはどのようなものだったのかをしるす。

ホメーロスと古代こだいギリシア[編集へんしゅう]

アキレウス

西欧せいおうにおける古代こだいギリシア、わけてもホメーロスのぞうは、いわゆる「トロイアの物語ものがたり」のイメージでとらえられていた。これは紀元きげん4世紀せいきないし5世紀せいきラテン語らてんご『トロイア戦争せんそう日誌にっし』と『トロイア滅亡めつぼう歴史れきし物語ものがたり』を素材そざいとして、12世紀せいきにブノワ・ド・サント=モールがフランス語ふらんすごいたロマンスふうの『トロイア物語ものがたり』からひろがってったものである。この作品さくひんさらラテン語らてんご翻案ほんあんされ、ぜんヨーロッパちゅうひろまったとされる[106]

叙事詩じょじしじんホメーロスが意図いとした古代こだいギリシアと、西欧せいおう中世ちゅうせいにあって「トロイア物語ものがたり」をつうじて流布るふしたギリシアのぞうでは、どのようなちがいがあったのか。ここでえるのは、両者りょうしゃともに「歴史れきしせい」をっていること、しかし前者ぜんしゃは「詩的してき」であろうとする世界せかいであり、後者こうしゃはあくまで「史的してき」であろうとする世界せかいである[107]。ホメーロス時代じだいのギリシアの世界せかいには「かみ々の顕現けんげん」がふくまれていたが、古代こだい末期まっきから近世きんせいにかけての西欧せいおうにおいておもえがかれていた「ギリシア世界せかい」では、「かみ々の不在ふざい」が顕著けんちょであり、だつ神話しんわおこなわれている。

だがイタリアの人文じんぶん主義しゅぎしゃたちは、ホメーロス『イーリアス原典げんてんを、15世紀せいきなかばにラテン語らてんごやくした。この翻訳ほんやくつうじ、ひろし西欧せいおうてきにホメーロスおよ古代こだいギリシアの把握はあくぞう変化へんかしょうじてきた。17世紀せいきには、ジョージ・チャップマンが『イーリアス』(1611ねん)と『オデュッセイア』(1614ねん)を英訳えいやくし、マダム・ダシエ(1654-1720)が『イーリアス』と『オデュッセイア』を、フランス語ふらんすごやくした[108]。このように進展しんてんしたことで、古典こてんギリシアのさい発見はっけんともべる事態じたい到来とうらいした。

ギリシア神話しんわ西欧せいおう[編集へんしゅう]

レオナルド・ダ・ヴィンチ

天文学てんもんがく[編集へんしゅう]

ギリシア神話しんわ影響えいきょう現在げんざいつよけている学問がくもんひとつが天文学てんもんがくである。現在げんざい恒星こうせいむすんでつく星座せいざは88をかぞえるが、そのうちトレミーの48星座せいざなどは、ギリシア神話しんわむすけられている。またローマ神話しんわ太陽たいようはアポローン、つきはアルテミスになぞらえたほかローマ神話しんわ経由けいゆして惑星わくせい名称めいしょう水星すいせいはヘルメース(ローマ神話しんわのメルクリウス)、金星かなぼしはアプロディーテー(どうウェヌス)、火星かせいはアレース(どうマールス)、木星もくせいはゼウス(どうユーピテル)、土星どせいはクロノス(どうサートゥルヌス)になぞらえられている。近代きんだいになってガリレオ・ガリレイが木星もくせいの4つの衛星えいせい発見はっけんしたときもガニメデ、エウロペ、カリスト、イオとゼウスにゆかりのあるもの命名めいめいされている。近代きんだい以降いこう発見はっけんされた天体てんたい天王星てんのうせい(ウーラノス)、海王星かいおうせい(ポセイドーン(ローマ神話しんわのネプトゥーヌス))、冥王星めいおうせい(ハーデース(ローマ神話しんわのプルートー))とギリシア神話しんわにゆかりのあるがつけられる慣行かんこうのこっている。20世紀せいきから21世紀せいきにおいても冥王星めいおうせい衛星えいせい発見はっけんされるとカロン、ニュクス、ヒュドラ、ケルベロスとハーデースにゆかりのある事物じぶつちなんで命名めいめいされている。天体てんたいしん発見はっけん相次あいつ命名めいめい使用しようするギリシア神話しんわ事物じぶつ枯渇こかつはじめると「神話しんわかみ々の使用しようする」という慣行かんこうによる命名めいめいおこなわれており、21世紀せいきになってもなお天文学てんもんがくにおいてギリシア神話しんわ影響えいきょうつよい。

医学いがく[編集へんしゅう]

医学いがくにおいても医療いりょう象徴しょうちょうにアスクレーピオスのへびつえ使用しようされるなど、ギリシア神話しんわにゆかりのあるもの多数たすうある。アキレス腱あきれすけんエディプスコンプレックスなどはギリシア神話しんわ由来ゆらいである。また心理しんりがく意味いみするサイコロジーの「サイコ」もしん女神めがみプシューケー由来ゆらいするほか、性愛せいあい意味いみする「エロス」はあいかみエロース由来ゆらいし、「恐怖きょうふ」「嫌悪けんお」を意味いみする「フォビア」は「フォボス」に由来ゆらいする。

絵画かいが[編集へんしゅう]

フランシスコ・デ・ゴヤの『わがらうサトゥルヌス』。

ギリシア神話しんわはイタリア人文じんぶん主義しゅぎ絵画かいが主題しゅだいだけではなく、様々さまざま絵画かいが視覚しかくてき芸術げいじゅつ主題しゅだいともなる。ボッティチェリがさらおおくの絵画かいがえがき、ルネサンスレオナルド・ダ・ヴィンチミケランジェロラファエロをはじめ、コレッジョティツィアーノカラヴァッジョルーベンスニコラ・プッサンドラクロアコロードミニク・アングルギュスターヴ・モローグスタフ・クリムトなどもギリシア神話しんわ題材だいざいったえがいている。美術館びじゅつかん博物館はくぶつかん意味いみする「ミュージアム」はムーサに由来ゆらいする。

文学ぶんがく[編集へんしゅう]

また、すうおおくの文学ぶんがくしゃ詩人しじんが、作品さくひん題材だいざい形容けいよう修飾しゅうしょくにギリシア神話しんわ逸話いつわ場面ばめん利用りようすることで、作品さくひん重層じゅうそうせいあたえている。ジョン・ミルトンは『しつ楽園らくえん』、『コウマス』において修飾しゅうしょく引用いんようおこなっている。スペンサーは『妖精ようせい女王じょおう』でギリシア神話しんわ言及げんきゅうする。ロマン詩人しじんたちは、しばしばギリシア神話しんわからインスピレーションをている。『チャイルド・ハロルド』におけるロード・バイロン、『エンデュミオーン』、『プシューケーにせるオード』におけるジョン・キーツなどである。ヘルダリーンは『ヒュペーリオン』、『エンペドクレス』をき、ライナー・マリア・リルケは『オルフォイスにけんじげるゾネット』連作れんさくつくった。オルペウスもまた詩人しじん霊感れいかんあたえ、ジャン・コクトー映画えいが制作せいさくしている。ジェイムズ・ジョイス作品さくひんとくに『ユリシーズ』もまたギリシア神話しんわ影響えいきょうけている。

音楽おんがく[編集へんしゅう]

音楽おんがく意味いみするミュージックはギリシア神話しんわのムーサに由来ゆらいする。18世紀せいき以降いこう音楽おんがく分野ぶんやでも、ギリシア神話しんわ題材だいざいやモチーフとしたものが多数たすう制作せいさくされた。グルックには、『パリーデとエレーナ英語えいごばん』、『オーリードのイフィジェニー』、『トーリードのイフィジェニー』があり、ベルリオーズは『トロイアの人々ひとびと』を作曲さっきょくしている。モーツァルトには、アイネイアース主題しゅだいとした 『アルバのアスカーニオ』があり、また『イドメネオ』がある。オペラ作品さくひんとして、グルックには、オウィディウス作品さくひん原作げんさくとした『エコーとナルシス英語えいごばん』があり、リヒャルト・シュトラウスには、『エレクトラ』、エウリーピデース悲劇ひげきもとにした『エジプトのヘレナ』、『ナクソスとうのアリアドネ』、『ダフネ』がある。カール・オルフは『アンティゴネー』を作曲さっきょくしている。オッフェンバックは神話しんわパロディの歌劇かげき得意とくいとし、『地獄じごくのオルフェ天国てんごく地獄じごく)』には、倦怠期けんたいきのオルフェオ夫婦ふうふかみ々の労組ろうそくユピテールなど皮肉ひにくたっぷりのキャラクターが登場とうじょうする。

映画えいが[編集へんしゅう]

ギリシア神話しんわ英雄えいゆうあるいは出来事できごと映画えいがした作品さくひん欧米おうべいにおいて非常ひじょう多数たすうのぼる。トロイア戦争せんそう主題しゅだいにした映画えいが作品さくひん数多かずおお制作せいさくされており、ヘーラクレース主人公しゅじんこうとする作品さくひんもまたおおくある。アルゴナウタイテーセウスおもクレーテー迷宮めいきゅう舞台ぶたいとして)の物語ものがたりテーバイめのななしょうなどのはなし映画えいがされている。ギリシア悲劇ひげき映画えいがとなっているものがおおい。

ビデオゲーム[編集へんしゅう]

近年きんねんでは、ビデオゲーム題材だいざいとしてギリシア神話しんわえらばれることがある。『ヘラクレスの栄光えいこう』はヘーラクレースを主人公しゅじんこうとし、神話しんわ世界せかいたびするロールプレイングゲームである(作品さくひんによってはヘーラクレースが主人公しゅじんこうでないものもある)。リアルタイムストラテジーである『エイジ オブ ミソロジー』においてはオリュンポスじゅうかみもしくはティーターンちからりつつギリシア文明ぶんめいやアトランティス文明ぶんめい発展はってんさせ、文明ぶんめいたおす。『ゴッド・オブ・ウォー』においてはギリシア神話しんわの(とくに)英雄えいゆうたんにおける荒々あらあらしさや残酷ざんこくさを前面ぜんめんした物語ものがたり展開てんかいされる。これはほんさく格闘かくとうせん主軸しゅじくとしたはげしいアクションゲームであるため、ゲームデザイン(遊具ゆうぐとしての設計せっけい)の観点かんてんからも暴力ぼうりょくてき物語ものがたりである必要ひつようせいがあったからである。

ギリシア神話しんわ日本にっぽん[編集へんしゅう]

白鳥はくちょうきん

アポロドーロスギリシア神話しんわ』の訳者やくしゃまえがきで高津たかつ春繁はるしげは、日本にっぽんにおいてギリシア神話しんわは、オウィディウス変身へんしん物語ものがたり』からられたはなしじく紹介しょうかいされて[109]べている。欧米おうべいでも日本にっぽんでも、子供こどもけ、あるいはわかひとけにギリシア神話しんわ物語ものがたりおろ出版しゅっぱんおおいが、それらはオウィディウスのほんのように、ヘレニズムてき甘美かんびさとやさしさに重点じゅうてんいた物語ものがたり大半たいはんである。ことなるのは、成人せいじんけのギリシア神話しんわであっても、さほど重要じゅうようでもない「変身へんしん物語ものがたり恋愛れんあいたんおおげられたところである。

関連かんれん文献ぶんけん[編集へんしゅう]

原典げんてん訳書やくしょ
神話しんわ体系たいけい記述きじゅつした著作ちょさく
概説がいせつしょ
文庫ぶんこばん漫画まんが・イラスト・入門にゅうもんしょ
  • 里中さとなか満智子まちこ 『マンガ ギリシア神話しんわ』(ぜん8かん)、中央公論ちゅうおうこうろんしんしゃ中公ちゅうこう文庫ぶんこ
  • 吉田よしだ敦彦あつひこ監修かんしゅう 『ズバリ図解ずかい ギリシア神話しんわぶんかしゃ文庫ぶんこ、2007ねん新装しんそうばんよういずみしゃ、2012ねん
  • さかもと未明みめい 『マンガ ギリシア神話しんわかみ々と人間にんげんたち』 講談社こうだんしゃαあるふぁ文庫ぶんこ、2001ねん
  • 遠藤えんどう寛子ひろこ若菜わかなひとし 『ギリシア神話しんわ講談社こうだんしゃあおとり文庫ぶんこ 1994ねん
  • おもねかたな田高たたか 『ギリシア神話しんわっていますか』、『ホメロスをたのしむために』 かく新潮社しんちょうしゃ新潮しんちょう文庫ぶんこ
  • 高津たかつ春繁はるしげ高津たかつ久美子くみこ共編きょうへん 『ギリシア神話しんわ偕成社かいせいしゃ文庫ぶんこ新版しんぱん講談社こうだんしゃ
専門せんもんしょ周辺しゅうへんしょ
辞典じてん事典じてん
  • バーナード・エヴスリン 『ギリシア神話しんわ物語ものがたり事典じてん小林こばやしみのるやくはら書房しょぼう、2005ねんISBN 978-4562-03959-3
  • 安達あだちただし編著へんちょ物語ものがたり古代こだいギリシア・ローマ人物じんぶつ地名ちめい事典じてんいろどりりゅうしゃ、2008ねんISBN 978-4-7791-1396-3
  • みずこう有一ゆういち編著へんちょ 『ギリシア・ローマ神話しんわしょう事典じてん 天地てんち創造そうぞうからローマ建国けんこくまで』 北星ほくせいどう書店しょてん、1994ねん
  • 図説ずせつ ギリシア・ローマ神話しんわ文化ぶんか事典じてん松村まつむら一男かずおわけはら書房しょぼう、1997ねんISBN 978-4562-02963-1
  • 松原まつばら國師こくし編著へんちょ西洋せいよう古典こてんがく事典じてん京都大学きょうとだいがく学術がくじゅつ出版しゅっぱんかい、2010ねんISBN 978-487698-925-6
  • ジャン=クロード・ベルフィオール『ラルース ギリシア・ローマ神話しんわだい事典じてん大修館書店たいしゅうかんしょてん、2020ねん
  • M. C. Howatson ed. The Oxford Companion to Classical Literature 2nd ed. Oxford UP. 1989, 1997, ISBN 0-19-860081-X
  • Liddell & Scott An Intermediate Greelk-English Lexicon Oxford UP.
  • Liddell & Scott A Greek-English Lexicon Oxford UP.
原典げんてん対照たいしょうほん
  • Homer Iliad (Loeb CL) Harvard Univ. Press
  • Homer The Odyssey (Loeb CL) Harvard Univ. Press
  • Hesiod et al. Hesiod, Homeric Hymns, etc. (Loeb CL) Harvard Univ. Press

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ 古代こだいギリシアじんは、ギリシア本土ほんど紀元前きげんぜん千年紀せんねんき南下なんかして、ミュケーナイを中心ちゅうしん紀元前きげんぜん16世紀せいきごろよりミュケーナイ文化ぶんかきずはじめ、紀元前きげんぜん13世紀せいきにはこの文化ぶんかひがし地中海ちちゅうかい席巻せっけんした。しかし紀元前きげんぜん12世紀せいきに、ドーリスじん代表だいひょうとするべつ系統けいとうのギリシアじん南下なんかはじめ、アテーナイとアルカディアをのこ領域りょういき征服せいふくした。先住せんじゅうのギリシアじんしょうアジアにのがれ、そこにアイオリスとイオーニア方言ほうげん領域りょういきつくった。ドーリスじん代表だいひょうとする西にしギリシア民族みんぞくのこの進出しんしゅつによりミュケーナイ文化ぶんか凋落ちょうらくし、ギリシアの「暗黒あんこく時代じだいおとずれる[3]
  2. ^ 他方たほう考古学こうこがくてき発掘はっくつでは、トロイア遺跡いせきおかだいななaそう都市とし紀元前きげんぜん13世紀せいきなかばに火災かさい壊滅かいめつしたことが確認かくにんされている。この年代ねんだい文献ぶんけんがく立場たちばからのトロイア戦争せんそう時期じき一致いっちする。『イーリアス』と『オデュッセイア』以外いがいにもふる叙事詩じょじし存在そんざいしたことがられており、ミュケーナイ時代じだい出来事できごととお反響はんきょうともえる。英雄えいゆう叙事詩じょじし暗黒あんこく時代じだいつうじて口承こうしょうつたえられ洗練せんれんされ、紀元前きげんぜん9世紀せいきまたは8世紀せいきホメーロスだい作品さくひんとしてられることになる。
  3. ^ とはいえ、ミューケナイ王朝おうちょうはワカナとばれる帝王ていおう頂点ちょうてんとして、オリエントふう官僚かんりょう組織そしきそなえた一種いっしゅ専制せんせい国家こっかであったことがせん文字もじBの解読かいどくつうじてられている。とおいミュケーナイ時代じだい事件じけんつたわったが、物語ものがたり枠組わくぐみとしては、暗黒あんこく時代じだいつうじて育成いくせいされてあたらしいポリスてき国家こっか自由じゆうちた気風きふうがホメーロスの叙事詩じょじしでは表現ひょうげんされている。帝王ていおうアガメムノーン反抗はんこうするわか戦士せんしアキレウス人間像にんげんぞうは、ミュケーナイ時代じだいのものではありえないとかんがえられている[5]
  4. ^ ヘーシオドスは文字もじっており、かれ作品さくひん朗唱ろうしょうされただけではなく文字もじ記録きろくかたち最初さいしょからっていたとするせつがある[8]。ただしこのせつ真偽しんぎ不確ふたしかである。しかし、かれ作品さくひんはホメーロスの叙事詩じょじしとはことなり吟唱ぎんしょう詩人しじんうたつたえたものではない。そのような記録きろくのこっていない。ヘーシオドス自身じしん文字もじしたのではなくとも、かれ早期そうき文字もじされていたとかんがえられる。
  5. ^ カリマコス、カッリマコスともく。かれまずしくまれたが苦学くがくし、プトレマイオス2せいみとめられ、アレクサンドレイア図書館としょかん司書ししょとなった。「司書ししょ」というのがどのような役割やくわり判然はんぜんとしないが、公職こうしょくかそれにじゅんじるものとかんがえられる。
  6. ^ ペレキューデースのかみ々の系譜けいふ記録きろくしゃにんいた。紀元前きげんぜん7世紀せいき-6世紀せいき哲学てつがくしゃシューロスのペレキューデース紀元前きげんぜん5世紀せいきアテーナイのペレキューデースである。茂一もいちレーロスのペレキューデースをあげている[12]高津たかつ春繁はるしげシューロス哲学てつがくしゃげている(『ギリシア文学ぶんがく』p.92)。系譜けいふ学者がくしゃは「レーロスとアテーナイのペレキューデース」という記述きじゅつもあり、シューロスの哲学てつがくしゃとしばしば混同こんどうされるともされる(Companion to Classical Literature p.430)。
  7. ^ グリマルは、このようにふる起源きげんち、かつぜんギリシアちゅう伝承でんしょう存在そんざいする英雄えいゆう伝説でんせつ物語ものがたりけんとして、代表だいひょうてきろくげている。1)アルゴナウタイ遠征えんせいたん、2)テーバイ伝説でんせつけん、3)アトレウス家伝かでんせつけん、4)ヘーラクレース伝説でんせつけん、5)テーセウス伝説でんせつけん、そして6)オデュッセウス物語ものがたりである。[20]
  8. ^ ヘーシオドスがうたうさんだい王権おうけん推移すいいは、紀元前きげんぜん千年紀せんねんきのオリエントにおいて、アッカドの『エヌマ・エリシュ』やヒッタイトの『クマルビ神話しんわ』などでかたられている[23]
  9. ^ オルペウスきょう教義きょうぎについてれた文書ぶんしょとしては、1)アリストパネースの『とり』にふくまれるパロディ。2)「デルヴェニ・パピュルス」。3)アテナゴラスつたえるせつ。4)ヒエロニュモスとヘラニコスによる宇宙うちゅう誕生たんじょうたん。5)『よん叙事詩じょじしからなるせいなる言説げんせつ』。6)ロドスのアポローニオスアルゴナウティカ所収しょしゅうのオルペウスせつひとしがある[26]
  10. ^ 当時とうじのギリシアじん世界せかい円盤えんばんかたちをした平面へいめんであり、このもっとも外側そとがわを、海流かいりゅうえんたまきをなしててしなくながつづけているというぞうっていた。この最果さいはての海流かいりゅうがオーケアノスである。ははなるテーテュースは女性じょせいだということがかるだけで詳細しょうさい不明ふめいである[29]
  11. ^ ヒッタイトに保存ほぞんされていた「ウッリクンミのうた」においては、クマルビがアヌの性器せいき切断せつだんする説話せつわがあり、クロノスによるウーラノスの去勢きょせいはこのはなし影響えいきょうけている可能かのうせいがある。
  12. ^ オリュンポスのじゅうかみは、典型てんけいてきなギリシアじん固有こゆうかみかんがえられやすいが、半数はんすうヘレーネス起源きげんかみである。ゼウスきさきヘーラーは、先住民せんじゅうみん女神めがみであり、古代こだいギリシアじん先住民せんじゅうみん征服せいふくしたさい両者りょうしゃのあいだの融和ゆうわ目的もくてきとして主神しゅしんゼウスのきさきにヘーラーをえたとかんがえられる。ゼウスのだいいちむすめで、最高さいこう女神めがみともえるアテーナーもまたヘレーネス固有こゆうかみではない。アポローンアルテミスりょうかみは、その名前なまえ印欧語いんおうご起源きげんではなく、前者ぜんしゃはオリエントのかみ可能かのうせいがあり、後者こうしゃ先住民せんじゅうみんかみかんがえられる。ヘルメース先住民せんじゅうみんかみで、アプロディーテーはオリエント起源きげん女神めがみである。ペルセポネーもその先住民せんじゅうみんかみのものとかんがえられる[39]
  13. ^ ゼウスとディオーネーのむすめとするのはホメーロスである。あわよりまれたとするのはヘーシオドスで、後者こうしゃを、アプロディーテー・ウーラニアー(天上てんじょうのアプロディーテー、Aphrodite Ourania)、前者ぜんしゃのゼウスのむすめとする場合ばあい、アプロディーテー・パンデーモス(大衆たいしゅうのアプロディーテー、Aphrodite Pandemos)として区別くべつした。本来ほんらい「ウーラニアー」という場合ばあいは、「東洋とうようかみ」を示唆しさし、他方たほう「パンデーモス」という場合ばあいは、「市民しみんかみ」、したがってヘレーネスのかみ含意がんいがあった。プラトーンですでに議論ぎろんとなっているが、のちにルネッサンスで「てんあい」と「通俗つうぞくあい」という対立たいりつ再度さいど議論ぎろんされる[41]
  14. ^ 茂一もいち『ギリシア神話しんわ』 エイレイテュイアのだとするのは伝説でんせつ詩人しじんオレーンで、ゼピュロスのだとするのは、詩人しじんアルカイオスである。エウリーピデースは『ヒッポリュトス』のなかでエロースをゼウスのんでいる。またプラトーン寓意ぐういであるが、エロースは充足じゅうそくかみポロスと貧困ひんこん女神めがみペニアーのであるとべている(プラトーン『饗宴きょうえん』)
  15. ^ エロースはアプロディーテーとヘーパイストスのであるとのせつもある。
  16. ^ オルペウスはギリシア神話しんわ一般いっぱんではかみではないが、オルペウスきょうではかれかみである。アスクレーピオスは、ホメーロスにおいては人間にんげんであったが、のちしんとされ崇拝すうはいされた。
  17. ^ ピンダロスとほぼどう時代じだい悲劇ひげき作家さっかアイスキュロス作品さくひんである『プロメーテウスさんさく』においては、ゼウスとプロメーテウス和解わかいかたられ、ティーターンたちは解放かいほうされ、エーリュシオン浄福じょうふく生活せいかついとなむことになっている。
  18. ^ アンピトリーテーアキレウスははテティス女神めがみとしてあつかわれる。
  19. ^ 彼女かのじょたちは洞窟どうくつやそのまいでうたをうたったりいとつむいだりしてときをごし、オリュンポスのかみ々や男性だんせい精霊せいれいたちは、彼女かのじょらの魅力みりょくきつけられこいをした。ニュンペーのなかにはつつましやかで処女しょじょまもることをねがものもいたが、また好色こうしょくサテュロスなどとれることをこのものもいた。ニュンペーは善意ぜんいある存在そんざいであったが、ときヒュラースれいのように人間にんげん美少年びしょうねんさらうこともあった[47]
  20. ^ ニュンペーには種類しゅるいがあるとともに、身分みぶんちか精霊せいれいとしての「かく」があり、下位かいのニュンペーは上位じょうい精霊せいれいつかえることがあった(キルケーカリュプソーは、女神めがみでもあり、ニュンペーたちは彼女かのじょらにつかえた)[47]
  21. ^ クロノスは暴君ぼうくんとされているが、本来ほんらい豊穣ほうじょう収穫しゅうかくかみであり、民間みんかん信仰しんこうでは後世こうせいいたっても信仰しんこうされていた。
  22. ^ オリュンポスの女王じょおうヘーラーはヘーロースの女性じょせいがた解釈かいしゃくするのが妥当だとうで、「オリュンポスのおんな主人しゅじん」の意味いみとなる[54]
  23. ^ かれらにたいする儀礼ぎれいきょうてんかみたいする犠牲ぎせいいたけむりではなく、地下ちか(クトニオス)のかみたいすると同様どうように、犠牲ぎせい地下ちかけんじげることでもあった。のち悲劇ひげき発達はったつしたとき、悲劇ひげきえんじられる劇場げきじょうコロス舞台ぶたい中央ちゅうおうには地下ちかけてつうじるあなられていた[57]
  24. ^ グリマルによると、ディオーネー女神めがみ息子むすこであるエーリスおうペロプスかれ息子むすこへの不埒ふらちいをもって、当時とうじかれもと亡命ぼうめいしていたラーイオスのろいをかけた。ラーイオスは帰国きこくしてテーバイおうとなるが、ペロプスののろいはそのオイディプース孫娘まごむすめアンティゴネーなどの悲劇ひげきした。ペロプスはオリュンピア競技きょうぎさい創始そうししゃともされ、英雄えいゆう条件じょうけん十分じゅうぶんぎるほどにたしている。なおべつせつでは、ラーイオスにのろいをかけたのは、ペロプスの息子むすこクリューシッポスとされる。
  25. ^ 松村まつむら一男かずおは、『世界せかい神話しんわ辞典じてん』の「英雄えいゆう」のしょうにおいて、英雄えいゆう崇拝すうはい顕著けんちょなのは「個人こじんとしての名誉めいよ武勇ぶゆうがなお意味いみ」ち、「英雄えいゆう栄光えいこう」の賛美さんび有意ゆういあじであった「古代こだい社会しゃかい」であるとし、また英雄えいゆうは「高貴こうき悲劇ひげきてき神話しんわ存在そんざい」であるとべている[60]。このような把握はあくしたがい、松村まつむらはギリシア神話しんわ英雄えいゆうについて記述きじゅつして、アキレウスこそ英雄えいゆうであり、智将ちしょうオデュッセウス今日きょうからればしん英雄えいゆうであるが、ギリシア神話しんわでは、悲劇ひげきせいいているため英雄えいゆう崇拝すうはいにはいていないむねべている[61]。しかし、これらの松村まつむら言説げんせつは、一般いっぱん概念がいねんとしての英雄えいゆうあるいは英雄えいゆう崇拝すうはい念頭ねんとうしており、古代こだいギリシアにおける「ヘーロース」概念がいねんや「ヘーロース崇拝すうはい」の実質じっしつ内容ないようんだはなしではない。
  26. ^ エリクトニオスのは、erion(羊毛ようもう)+khton(大地だいち)の合成ごうせいのようにもおもえるので通俗つうぞく語源ごげん解釈かいしゃくともかんがえられる[62]
  27. ^ この規準きじゅんは、現代げんだい科学かがく設定せっていしている規準きじゅんとはあきらかにことなっている。しかしホメーロスもヘーシオドスも、ともかれらのうたう作品さくひん作為さくいてきみやつこばなしあるいは様式ようしきてき虚構きょこうはいっていることは自覚じかくしていた。
  28. ^ ヘーシオドスは、ヘリコーンやまムーサイたちより、「真実しんじつらしきもの」ではなく「真実しんじつ」を開示かいじされたと作品さくひんのなかで宣言せんげんしている[78]
  29. ^ 紀元前きげんぜん4世紀せいきまつ人口じんこう調査ちょうさでは、アッティカの自由じゆう市民しみんは2まん1せんにんであるのにたいし、奴隷どれいは40まんにんいたとされる[81]
  30. ^ ヘーシオドスは労働ろうどう称賛しょうさんしたが、この時代じだいプラトーンやアリストテレースもふくめ、労働ろうどう蔑視べっし市民しみん常識じょうしきとなった。自由じゆう市民しみんはポリス共同きょうどうたい一員いちいんとして祖国そこく危機ききにあっては兵士へいしとしてたたかったが、奴隷どれい増大ぞうだいは、ポリス市民しみん道徳どうとく倫理りんりいちじるしく低下ていかさせた。
  31. ^ アテーナイにはしかし、アカデーメイア、リュケイオン、そしてエピクーロスのえんとゼーノーンによるストアのこった[91]
  32. ^ グリマル & 高津たかつ やく (1992, p. 20, 訳注やくちゅう(2))によれば、ツェツェースらは膨大ぼうだい注釈ちゅうしゃくしる考証こうしょうおこなったが、それらは不正ふせいかく無意味むいみなものであった。ただ、膨大ぼうだい注釈ちゅうしゃく文学ぶんがく記録きろくかれらが引用いんようした古代こだい著作ちょさく断片だんぺん貴重きちょう史料しりょうである。時代じだいじゅう世紀せいきほどもどるが、ヒュギーヌスの『ギリシア神話しんわしゅう』の訳者やくしゃは、アポロドーロス以上いじょう支離滅裂しりめつれつ場当ばあたりてきはなし集成しゅうせいについて疑問ぎもんていしている。
  33. ^ てんのアプロディーテー(Aphrodite Ourania)」と「大衆たいしゅうのアプロディーテー(Aphrodite Pandemos)」の対比たいひはすでにプラトーンのころから議論ぎろんされていたが、本来ほんらい、「オリエントたいヘレーネス」の対比たいひであったものが、キリスト教きりすときょう文化ぶんかじりい、「ひじりあいぞくあい」のような対比たいひにも発展はってんする余地よちがあった。それは古代こだいギリシア起源きげんするというより、西欧せいおうルネサンスのつ「ひかりかげ」にむしろ対応たいおうする。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

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参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

概説がいせつしょ
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  • 高津たかつ春繁はるしげ古典こてんギリシア』講談社こうだんしゃ講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ〉、2006ねんISBN 4061597973 もとはん筑摩書房ちくましょぼう筑摩ちくま叢書そうしょ〉、1964ねん復刊ふっかん1985ねん
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  • 吉田よしだ敦彦あつひこ『ギリシア神話しんわ入門にゅうもん角川書店かどかわしょてん角川かどかわ選書せんしょ〉、2006ねんISBN 4047033936 
原典げんてん訳書やくしょ
神話しんわ体系たいけい記述きじゅつした著作ちょさく
専門せんもんしょ周辺しゅうへんしょ
辞典じてん事典じてん
  • 高津たかつ春繁はるしげ『ギリシア・ローマ神話しんわ辞典じてん岩波書店いわなみしょてん、1990ねんISBN 4000800132 初版しょはん1960ねん改訂かいていばん2007ねん
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  • Encyclopaedia Britanica 2005 CD version

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]