文覚もんがく

文覚もんがく
	文覚もんがく上人しょうにん画像がぞう　神護かんご寺てら蔵ぞう東京とうきょう国立こくりつ博物館はくぶつかん寄託きたく
宗派しゅうは	真言宗しんごんしゅう
寺院じいん	神護かんご寺てら
弟子でし	上覚じょうかく
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文覚もんがく（もんがく、生なま没年ぼつねん不ふ詳しょう^[1]^{[注釈ちゅうしゃく 1]}）は、平安へいあん時代じだい末期まっきから鎌倉かまくら時代ときよ初期しょきにかけての武士ぶし・真言宗しんごんしゅうの僧そう。父ちちは左近さこん将監しょうげん茂しげる遠とお（もちとお）。俗名ぞくみょうは遠藤えんどう盛遠もりとお（えんどうもりとお）^[1]。文学ぶんがく、あるいは文覚もんがく上人しょうにん、文覚もんがく聖人せいじん、高雄たかおの聖ひじりとも呼よばれる。弟子でしに上覚じょうかく、孫弟子まごでしに明恵あきえらがいる。

生涯しょうがい[編集へんしゅう]

摂津せっつ源氏げんじ傘下さんかの武士ぶし団だんである渡辺わたなべ党とう・遠藤えんどう氏しの出身しゅっしんであり、北面ほくめん武士ぶしとして鳥羽天皇とばてんのうの皇女おうじょ統子もとこ内親王ないしんのう（上西かみにし門もん院いん）に仕つかえていたが、19歳さいで出家しゅっけした。

京都きょうと高雄山たかおやま神護かんご寺てらの再興さいこうを後白河天皇ごしらかわてんのうに強訴ごうそしたため、渡辺わたなべ党とうの棟梁とうりょう・源頼政みなもとのよりまさの知行ちぎょう国こくであった伊豆いず国こくに配流はいるされる（当時とうじは頼政よりまさの子こ源みなもと仲なか綱つなが伊豆いず守まもるであった）。文覚もんがくは近藤こんどう四郎しろう国こく高だかに預あづけられて奈古なご屋や寺てらに住すみ、そこで同おなじく伊豆いず国こく蛭ひるヶ島とうに配流はいるの身みだった源みなもと頼朝よりともと知遇ちぐうを得える。のちに頼朝よりともが平たいら氏しや奥州おうしゅう藤原ふじわら氏しを討滅し、権力けんりょくを掌握しょうあくしていく過程かていで、頼朝よりともや後こう白河しらかわ法皇ほうおうの庇護ひごを受うけて神護かんご寺てら、東寺とうじ^{[注釈ちゅうしゃく 2]}、高野山こうのやま大塔おおとう、東大寺とうだいじ^{[注釈ちゅうしゃく 3]}、江えの島しま弁財天べざいてん^{[注釈ちゅうしゃく 4]}など、各地かくちの寺院じいんを勧請かんじょうし、所領しょりょうを回復かいふくしたり建物たてものを修復しゅうふくした。また頼朝よりとものもとへ弟子でしを遣つかわして、平維盛たいらのこれもりの遺児いじ六ろく代だいの助命じょめいを嘆願たんがんし、六ろく代だいを神護かんご寺てらに保護ほごする^{[注釈ちゅうしゃく 5]}。

頼朝よりともが征夷大将軍せいいたいしょうぐんとして存命ぞんめい中ちゅうは幕府ばくふ側がわの要人ようじんとして、また神護かんご寺てらの中興ちゅうこうの祖そとして大おおきな影響えいきょう力りょくを持もっていたが、頼朝よりともが死去しきょすると将軍家しょうぐんけや天皇てんのう家かの相続そうぞく争あらそいなどのさまざまな政争せいそうに巻まき込こまれるようになり、三さん左衛門さえもん事件じけんに連座れんざして源みなもと通とおる親おやに佐渡さど国こくへ配流はいるされる^{[注釈ちゅうしゃく 6]}。通つう親おやの死後しご、建たて仁ひとし2年ねん（1202年ねん）に許ゆるされて京きょうに戻もどるが、翌よく建けん仁じん3年ねん（1203年ねん）^{[注釈ちゅうしゃく 7]}に、後鳥羽上皇ごとばじょうこうに謀反むほんの疑うたがいをかけられ、対馬つしま国こくへ流罪るざいとなる途中とちゅう、鎮西ちんぜいで客死かくしした。墓所はかしょは遺言ゆいごんにより神護かんご寺てらの裏山うらやま山頂さんちょうの眺望ちょうぼうの良よい場所ばしょにある。ただし、文覚もんがくは伝説でんせつの多おおい人物じんぶつであり、隠岐おきや信州しんしゅう高遠こうえんなど、死没しぼつ地ちとされる場所ばしょが各所かくしょにあり、それぞれの多おおくにも墓所はかしょとされる場所ばしょがある。

人物じんぶつ[編集へんしゅう]

『玉たま葉は』によれば、頼朝よりともが文覚もんがくを木曾きそ義仲よしなかのもとへ遣つかわし、平たいら氏し追討ついとうの懈怠けたいや京きょう中ちゅうでの乱暴らんぼうなどを糾問きゅうもんさせたという^{[注釈ちゅうしゃく 8]}。

『愚ぐ管かん抄しょう』には、乱暴らんぼうで、行動こうどう力りょくはあるが学識がくしきはなく、人ひとの悪口わるぐちを言いい、天狗てんぐを祭まつるなどと書かかれ^{[注釈ちゅうしゃく 9]}、また、文覚もんがくと頼朝よりともは四よん年間ねんかん朝夕あさゆう慣なれ親したしんだ仲なかであるとする^{[注釈ちゅうしゃく 10]}。

『井い蛙かえる抄しょう』によれば、同どう時代じだいの僧侶そうりょ西行さいぎょうを憎にくんでいたとの噂うわさがあったと言いう^{[注釈ちゅうしゃく 11]}。

『平家ひらか物語ものがたり』では巻まき第だい五ごの「文覚もんがく荒行あらぎょう」、「勧進かんじん帳ちょう」、「文覚もんがく被ひ流りゅう」、「福原ふくはら院宣いんぜん」にまとまった記述きじゅつがあり、海うみの嵐あらしをも鎮しずめる法力ほうりきを持もつ修験しゅげん者しゃとして描えがかれている。頼朝よりともに亡父ぼうふ源義朝みなもとのよしともの髑髏しゃれこうべを示しめして蹶起けっきをうながしたり、配流はいる地ちの伊豆いずから福原ふくはら京きょうの藤原ふじわら光ひかり能のうのもとへ赴おもむいて後こう白河しらかわ法皇ほうおうに平たいら氏し追討ついとうの院宣いんぜんを出ださせるように迫せまり、頼朝よりともにわずか8日にちで院宣いんぜんをもたらした。巻まき十じゅう二にの「泊とまり瀬せ六ろく代だい」では頼朝よりともに直接ちょくせつ六ろく代だい助命じょめいの許ゆるし文ぶんを受うけ取とりにいく。また後鳥羽上皇ごとばじょうこうの政せいを批判ひはんしたため隠岐おき国こくに流ながされるが、後のちに上皇じょうこう自身じしんも承久じょうきゅうの乱らんで隠岐おき国こくに流ながされる結果けっかになったとする。いずれも史実しじつとの食くい違ちがいが多おおく、『平家ひらか物語ものがたり』特有とくゆうのドラマチックな脚色きゃくしょくがなされていると言いえる。

『源平げんぺい盛衰せいすい記き』は、出家しゅっけの原因げんいんは、従兄弟いとこで同僚どうりょうの渡辺わたなべ渡わたる（わたなべわたる）の妻つま、袈裟けさ御前ごぜん（wikidata）に横恋慕よこれんぼし、誤あやまって殺ころしてしまったことにあるとする^{[注釈ちゅうしゃく 12]}。稀代きたいの扇動せんどう者しゃ、文覚もんがくの前日ぜんじつ譚たんが文覚もんがく発心ほっしんである。事件じけんは創作そうさくとされるが、登場とうじょうする袈裟けさ御前ごぜんは絶世ぜっせいの美女びじょ、孝道たかみちと貞節ていせつの狭間はざまで死しを選えらんだ貞女ていじょとされてきた。

和歌山わかやま県けんかつらぎ町まち笠田かさだ（かせだ）には文覚もんがくが開削かいさくしたとする伝承でんしょうが伝つたわる文覚もんがく井い（もんがくゆ）が所在しょざいしている。文覚もんがく井いは紀伊きい国こく桛田荘そう（かせだのしょう）を灌漑かんがいした中世ちゅうせいの用水路ようすいろ。

那智滝なちだきの下流かりゅうに文覚もんがくが修行しゅぎょうをしたという「文覚もんがくの滝たき」が存在そんざいし、滝たきに打うたれる文覚もんがくの元もとに不動明王ふどうみょうおうの使つかいがやってきて修行しゅぎょうを成就じょうじゅするシーンがよく描えがかれる。この滝たきは2011年ねん（平成へいせい23年ねん）の紀伊きい半島はんとう大だい水害すいがいで消滅しょうめつした。

伝記でんき[編集へんしゅう]

山田やまだ昭あきら全ぜん『文覚もんがく』吉川弘文館よしかわこうぶんかん〈人物じんぶつ叢書そうしょ〉、2010年ねん2月がつ

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

^ 『デジタル版ばん日本人にっぽんじん名めい大だい辞典じてん+Plus』では、生年せいねんを保ほ延のべ5年ねん（1139年ねん）、没年ぼつねんを建たて仁ひとし3年ねん7月がつ21日にち（1203年ねん 8月がつ29日にち）とする^[1]
^ 『愚ぐ管かん抄しょう』巻まき六ろく:高雄たかお寺てらヲモ東寺とうじヲモナノメナラズ興隆こうりゅうシケリ。
^ 『日本にっぽん外史がいし』巻まき之の三さん源氏げんじ正記まさき源氏げんじ下か: 頼朝よりとも、政子まさこ・頼よりゆき家かと南都なんとに赴おもむき、東大寺とうだいじを落おとす。…僧そう文覚もんがくをして役やくを司つかさどらしむ。
^ 『吾妻あづま鏡きょう』養和ようわ二に年ねん（1182年ねん）四よん月がつ小しょう五ご日にち乙おつ巳み: 武たけ衛まもる(頼朝よりとも)令れい出で腰越こしごえ辺べ江嶋えしま給きゅう。…是ぜ高雄たかお文学ぶんがく上人しょうにん。為ため祈いのり武たけ衛まもる御願ごがん。奉たてまつ勧請かんじょう大だい弁財天べざいてん於此嶋しま。
^ 『吾妻あづま鏡きょう』文治ぶんじ元年がんねん（1185年ねん）十二月じゅうにがつ十じゅう七なな日にち: 虜とりこ権けん亮あきら三位中将惟盛卿嫡男、字じ六ろく代だい、令れい乗じょう輿こし、被ひ向こう野地やち之の処しょ、神護かんご寺てら文学ぶんがく上人しょうにん、称たたえ有ゆう師弟してい眤、申請しんせい。
^ この事件じけんについて河内かわうち祥さち輔は一条いちじょう家か・持明院じみょういん家かによる守まもり貞さだ親王しんのう擁立ようりつ計画けいかくに文覚もんがくが巻まき込こまれたと推測すいそくしているが^[2]、曽我部そがべ愛あいはこの事件じけんにおける文覚もんがくの処罰しょばつが外戚がいせきである公家くげよりも重おもかったこと、対馬つしまへの流罪るざいもこの事件じけんを機きに後鳥羽上皇ごとばじょうこうに没収ぼっしゅうされた神護かんご寺領じりょうの返還へんかんを巡めぐるトラブルが原因げんいんとする『平家ひらか物語ものがたり』の記事きじが事実じじつならば2回かいの配流はいるは密接みっせつに関かかわっていること、承久じょうきゅうの乱らん後ごに守まもり貞さだ親王しんのう（後ご高倉たかくら院いん）によって後鳥羽上皇ごとばじょうこうが没取ぼっしゅした神護かんご寺領じりょうが直ただちに返還へんかんされていることを指摘してきして、守まもり貞さだ親王しんのう擁立ようりつ計画けいかくの首謀しゅぼう者しゃは文覚もんがくその人ひとであったとしている^[3]。
^ 神護かんご寺てらのホームページでは、元久もとひさ2年ねん（1205年ねん）^[4]。
^ 『玉たま葉は』巻まき三さん十じゅう八はち寿ことぶき永ひさし二に年ねん（1183年ねん）九きゅう月がつ二に十じゅう五ご日にち: 伝聞でんぶん、頼朝よりとも、文覚もんがく聖人せいじんを以もって、義仲よしなか等とうを勘かん発はっせしむ云々うんぬん。是ぜれ追討ついとう懈怠けたい、並ならびに京きょう中ちゅうを損そんじるの由よし云々うんぬん、即そく付づけ件けん聖人せいじん陳ひね遣や云々うんぬん。
^ 『愚ぐ管かん抄しょう』巻まき六ろく:文学ぶんがくハ行ぎょうハアレド学がくハナキ上人しょうにん也。アサマシク人じんヲノリ悪口わるぐちノ者しゃニテ人じんニイハレケリ。天狗てんぐヲ祭さいルナドノミ人じんニ云うんケリ。
^ 『愚ぐ管かん抄しょう』巻まき五ご: 又また光ひかり能のう卿きょう院いんノ御ご気色けしきヲミテ。文覚もんがくトテ余あまりリニ高雄たかおノ事ことススメスゴシテ伊豆いずニ流りゅうサレタル上人しょうにんアリキ。ソレシテ云うんヤリタル旨むねモ有ゆうケルトカヤ。但ただし是ぜハ僻事ひがごと也。…四よん年ねん同どうジ伊豆いず国こくニテ朝夕ちょうせきニ頼朝よりともニナレタリケル。其文覚もんがくサカシキ事ごと共どもヲ。仰おおせモナケレドモ…
^ 『井い蛙かえる抄しょう』巻まき第だい六ろく雑談ざつだん: 文学ぶんがく上人しょうにんは西行さいぎょうをにくまれけり。其その故ゆえは、遁世とんせいの身みとならば、一ひとすじに仏道ぶつどう修行しゅぎょうの外そと、他事たじあるべからず。数寄すきを立たてて、ここかしこにうそぶきありく条じょう、にくき法師ほうしなり。いづくにても、見みあひたらば、かしらを打うちわるべきよし、つねのあらましにて有ありけり…
^ 『源平げんぺい盛衰せいすい記き』巻まき第だい十じゅう九きゅう「文覚もんがく発心ほっしん附ふ東ひがし帰き節ぶし女おんな事ごと」: 盛遠もりとおは、人ひとの申さるに非ひず、袈裟けさ御前ごぜんを女房にょうぼうにせんと、内々うちうち申さる侍はべりしを聞給はず、渡わたりが許もとへ遣やたれば、此三さん箇年かねん人じんしれず恋こいに迷て、身みは蝉せみのぬけがらの如ごとくに成なりぬ、命いのちは草葉くさばの露ろの様ように消きえなんとす…

出典しゅってん[編集へんしゅう]

^ ^a ^b ^c 『文覚もんがく』 - コトバンク
^ 河内かわうち祥さち輔「朝廷ちょうてい再建さいけん運動うんどうと朝廷ちょうてい・幕府ばくふ体制たいせいの成立せいりつ」所収しょしゅう:『日本にっぽん中世ちゅうせいの朝廷ちょうてい・幕府ばくふ体制たいせい』吉川弘文館よしかわこうぶんかん、2007年ねん。 ISBN 978-4-642-02863-9
^ 曽我部そがべ愛あい「嘉よしみ禄ろく～寛ひろし喜き年間ねんかんの神護かんご寺てら復興ふっこう事業じぎょうと後ご高倉たかくら王家おうけ」『年報ねんぽう中世ちゅうせい史し研究けんきゅう』第だい四よん〇号ごう、2015年ねん。所収しょしゅう:『中世ちゅうせい王家おうけの政治せいじと構造こうぞう』同どう成なり社しゃ、2021年ねん。 ISBN 978-4-88621-879-7 P99-135.
^ 文覚もんがく上人しょうにんと神護かんご寺てら - 神護かんご寺てら沿革えんかく
^ 青空あおぞら文庫ぶんこ袈裟けさと盛遠もりとお芥川あくたがわ龍之介りゅうのすけ

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

木下きのした順二じゅんじ『古典こてんを読よむ平家ひらか物語ものがたり第だい四よん章しょう「文覚もんがく」』新版しんぱん、岩波いわなみ現代げんだい文庫ぶんこ

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