昆陽こや井い

昆陽こや井い（こやゆ）
宝塚たからづか市し弥生やよい町まちにある昆陽こや井い取水しゅすい口こうと取水しゅすい用よう堰せき(井堰いせき)
延長えんちょう	約やく3km
灌漑かんがい面積めんせき	108.5ha
取水しゅすい元もと	武庫川むこがわ
流域りゅういき	兵庫ひょうご県けん伊丹いたみ市し西部せいぶ

昆陽こや井い（こやゆ）は、兵庫ひょうご県けん南東なんとう部ぶを流ながれる武庫川むこがわから取水しゅすいし、伊丹いたみ市し西部せいぶを流ながれる用水ようすい。昆陽こや井川いかわとも呼よばれる。宝塚たからづか市し南部なんぶで武庫川むこがわの水みずを取とり入いれ、伊丹いたみ市し西部せいぶを南下なんかし、いくつもの用水ようすいに分流ぶんりゅうして伊丹いたみ市しの西部せいぶや南部なんぶを灌漑かんがいする。

概要がいよう

四よんツ洽ひろし(よつごう)伊丹いたみ市し寺本てらもと東ひがし1丁目ちょうめ昆陽こや井いの終点しゅうてんで、4つの用水ようすいに分水ぶんすいする箇所かしょ

伊丹いたみ市内しないの西野にしの、昆陽こんよう、寺本てらもと、池尻いけじり地区ちくおよび、山田やまだ、野間のま、堀池ほりいけ、南野みなみの、御願塚ごがづか地区ちくの、伊丹いたみ市域しいき西部せいぶ・南部なんぶの農地のうちに給水きゅうすいする農業のうぎょう用水ようすいとして利用りようされている。昆陽こや井い水利すいり組合くみあいの管理かんり区域くいきとしては、伊丹いたみ市し西野にしのの取水しゅすい口こうから伊丹いたみ市し寺本てらもとの四よっつ洽あまねの分水ぶんすい地ちまでをさす。市街地しがいちを流ながれているが、暗渠あんきょ部分ぶぶんは少すくなく流ながれ路ろの追跡ついせき・観察かんさつが容易よういである。

歴史れきし

• 昆陽こや井い開削かいさくについて、史実しじつとしては明あきらかではない。文献ぶんけんに出でてくるのは、慶長けいちょう13年ねん（1608年ねん）に昆陽こや村むら、池尻いけじり村むらより昆陽こや下池しもいけ埋設まいせつ、田地たじ開墾かいこんの陳情ちんじょうがなされた際さいの記述きじゅつである。この時とき、下池しもいけの水みずに依存いぞんする山田やまだ・野間のま・友行ともゆき・時とき友ともの4ヵ村かそんから反対はんたいする訴うったえが出でたため、武庫川むこがわから取水しゅすいして流ながれる昆陽こや井いの下したをくぐる形かたちで下池しもいけからの用水ようすいを通とおす樋とい『大だいゆりの樋とい』について、これまでは上下じょうげの水路すいろの間あいだに蓋ぶたがされていたものを隙間すきまのある横よこ板ばんに替かえて、上うえの昆陽こや井いから下したの樋といに水みずがすいて落おちるようにして下流かりゅうの山田やまだ村むら以下いか4ヵ村かそんに水みずを供給きょうきゅうするよう条件じょうけんをつけた記述きじゅつがあり、この陳情ちんじょうより以前いぜんから、武庫川むこがわから取水しゅすいする用水路ようすいろが存在そんざいしていたことが推測すいそくされる。
• その後ご、寛ひろし保ほ3年ねん（1743年ねん）に大だいゆりの樋といの地点ちてんで、昆陽こや村むら、新田にった中野なかの村むら、池尻いけじり村むらと下した流域りゅういきの山田やまだ村むら以下いか4村むらでの争そう論ろんが発生はっせいした際さい、寺本てらもと村むら正覚しょうがく院いん前まえと一乗院いちじょういん前まえの2箇所かしょに溝口みぞぐちを設もうけ、山田やまだ村むらへ取水しゅすいすることが決きまる。現在げんざい、昆陽こや寺山てらやま門前もんぜん、国道こくどう171号線ごうせんを超こえて南下なんかする水路すいろは暗渠あんきょとなっているが、暗渠あんきょの少すこし手前てまえでは　山田やまだ地区ちくへ流ながれ込こむ深部しんぶ構造こうぞうの水路すいろに水みずが落おちる箇所かしょを見みる事ことができる。
• 大正たいしょう時代じだいまで昆陽こや井いの取水しゅすい口こうは伊丹いたみ市しの西野にしの（現在げんざい　武庫川むこがわの支流しりゅうの大堀おおほり川がわが武庫川むこがわに合流ごうりゅうする場所ばしょ）にあった。大正たいしょう末期まっきから始はじまった武庫川むこがわ下流かりゅうの改修かいしゅう工事こうじに伴ともない川床かわどこが低下ていかし取水しゅすいが不能ふのうとなったため、上流じょうりゅう側がわの宝塚たからづか市し弥生やよい町まちに堰せきを設もうけて取水しゅすいするようになった。

昆陽こや下池しもいけ

行基ぎょうきの業績ぎょうせきを記録きろくした行基ぎょうき年譜ねんぷによれば、天平てんぺい3年ねん（731年ねん）に昆陽こや上池かみいけと昆陽こや下池しもいけの造成ぞうせいに着手ちゃくしゅしたとある。昆陽こや上池かみいけは現在げんざいの昆陽池こやいけに相当そうとうし、昆陽こや下池しもいけは現在げんざいの昆陽池こやいけの西方せいほうから武庫川むこがわまでの地域ちいきまでの地ちにあったと推測すいそくされる。慶長けいちょう13年ねん(1608年ねん)の田地でんち開墾かいこんの陳情ちんじょう以降いこう、下池しもいけのあった場所ばしょの新田にった開発かいはつが進すすみ、寛永かんえい12年ねん（1635年ねん）の検地けんちにより新田にった中野なかの村むらが誕生たんじょうする。

昆陽こや井いの灌漑かんがい面積めんせきの推移すいい

昭和しょうわ初期しょきから1990年ねんまでの武庫川むこがわ下か流域りゅういきの用水路ようすいろの灌漑かんがい面積めんせき推移すいいを下表かひょうに示しめす。昆陽こや井いのほか　比較ひかくのため同おなじ武庫川むこがわから取水しゅすいしている川面かわも井い(宝塚たからづか市し)、伊孑志いそし井い(宝塚たからづか市し)、百ひゃく間あいだ樋とい井い(西宮にしのみや市し)、六ろく樋とい井い(伊丹いたみ市しの野間のま井いと尼崎あまがさき市しを灌漑かんがいする五いつつの井いを大正たいしょう時代じだいに統合とうごうしたもの)の灌漑かんがい面積めんせきも示しめした。表ひょう中ちゅうの面積めんせきの単位たんいは昭和しょうわ35年ねんまでが町歩ちょうぶで1990年ねんがヘクタールであるが、1町歩ちょうぶと１haはほとんど同おなじ値ちなので直接ちょくせつ比較ひかくが可能かのう。いずれの用水ようすいも阪神はんしん間あいだに位置いちするため、昭和しょうわ35年ねん以後いごは灌漑かんがいする田畑たはたの面積めんせきが大幅おおはばに減へっている。

武庫川むこがわ下流かりゅうの井堰いせきとかんがい面積めんせき

年代ねんだい	昭和しょうわ初期しょき	昭和しょうわ8年ねん(1933年ねん)	昭和しょうわ35年ねん(1960年ねん)	平成へいせい2年ねん(1990年ねん)
川面かわづら井い(宝塚たからづか市し)	38	38	35	6.3
伊孑志いそし井い(宝塚たからづか市し)	162	178	65	17.3
昆陽こや井い(伊丹いたみ市し)	400	486	400	108.5
百ひゃく間あいだ樋とい井い(西宮にしのみや市し)	1,658	685	300	130.0
六ろく樋とい井い(尼崎あまがさき市しと伊丹いたみ市し)	1,200	1,200	602	131.1

流ながれ路ろ

• 武庫川むこがわからの取水しゅすい口こうの昆陽こや井堰いせきは宝塚たからづか土木どぼく事務所じむしょ管轄かんかつ内ないにあり、伊丹いたみ市し水道すいどうが0.2890m3/s(豊水ほうすい時じ)を出水しゅっすいしている。なお昆陽こや井堰いせきで取水しゅすいされた水みずの一部いちぶは、地下ちかの配管はいかんを通とおって伊丹いたみ市しの昆陽こや貯水池ちょすいちに送おくられ上水じょうすいとして使つかわれている。
• 取水しゅすい口こうから取とり入いれた水みずは、宝塚たからづか市内しないは大堀おおほり川がわの流りゅう路ろを南下なんかし、伊丹いたみ市し西野にしので元もとからあった昆陽こや井いの水路すいろに流ながれ込こむ。
• 池尻いけじり4丁目ちょうめ大樋おおひ橋きょうで天王寺てんのうじ川がわと川かわ同士どうしが交差こうさする。かつては橋はしの名なの通とおり昆陽こや井いは「木樋きとい」で天王寺てんのうじ川がわの上うえを超こえていたが、現在げんざいは昆陽こや井いがサイホンで天王寺てんのうじ川がわの下したをくぐる立体りったい交差こうさとなっている。
• さらに南下なんかし、池尻いけじり6丁目ちょうめ伊丹いたみ市し共同きょうどう利り施設しせつ池尻いけじり文化ぶんかセンター前まえで池尻いけじり地区ちくを流ながれる用水ようすいと分水ぶんすい。東南とうなんに向むきを変かえ、池尻いけじり2丁目ちょうめの兵庫ひょうご県けん道どう42号ごう尼崎あまがさき宝塚たからづか線せん（通称つうしょう尼あま宝たから線せん）の下したを暗渠あんきょでくぐる。伊丹いたみ市立しりつ花里はなさと小学校しょうがっこう西側にしがわでは、用水ようすい沿ぞいが遊歩道ゆうほどうとして整備せいびされ、寺本てらもと1丁目ちょうめで東進とうしんし、昆陽こや寺てら山門さんもん前まえまで続つづく。
• その後ご、国道こくどう171号線ごうせんを潜くぐるように暗渠あんきょとなって南側みなみがわに水路すいろがつながり、寺本てらもと東ひがし1丁目ちょうめ、四よんツ洽あまねで、昆陽こや用水ようすい、御願塚ごがづか用水ようすい、南野みなみの用水ようすい、寺本てらもと用水ようすいに分わかれる。
• 昆陽こや井いから分わかれた各かく用水ようすいの水みずは金岡かなおか川がわ(金岡かなおか排水はいすい路ろとも呼よばれる)に集あつめられ、尼崎あまがさき市しで他たの河川かせんと合流ごうりゅうして庄しょう下川しもかわとなって海うみにそそぐ。

流域りゅういきの名所めいしょ・旧跡きゅうせき

• 西野にしの地区ちく＝十じゅう六ろく名めい公園こうえん、素す戔嗚神社じんじゃ
• 池尻いけじり地区ちく＝市し杵きね嶋しま姫ひめ神社じんじゃ、池尻いけじり春日はるひ神社じんじゃ、庚申塚こうしんづか、横手よこて堤つつみ
• 寺本てらもと地区ちく＝昆陽こや寺てら、一乗院いちじょういん、正覚しょうがく院いん、四よんツ洽あまね、西国さいごく街道かいどう

昆陽こや井い周辺しゅうへんに残のこる伝説でんせつ

伊丹いたみ市し池尻いけじり3丁目ちょうめの住宅じゅうたく街がいにある「首くび塚づか」と呼よばれる墓碑ぼひ

昆陽こや井い流域りゅういきでは、昆陽こや井いにまつわるい伝いつたえがいくつか残のこっている。

首くび穴あな

池尻いけじり村むらは村むら内ないを昆陽こや井いが流ながれているが、昆陽こや井いから取水しゅすいする権利けんりは持もっていなかった。『ある年とし旱魃かんばつで稲いねが枯死こし寸前すんぜんになった時とき、ある人ひとが犠牲ぎせいになる覚悟かくごで首くびが入はいるほどの穴あなを掘ほり、井いから水みずを取とり入いれた。この人ひとは処刑しょけいされたが村むらは大おおいに助たすかった』処刑しょけいされた義侠ぎきょうの人ひとを祭まつる塚づかが昭和しょうわ45年ねんに建立こんりゅうされた。

昆陽池こやいけの行基ぎょうき鮒ぶな

昆陽池こやいけやその周辺しゅうへんの川かわでは昭和しょうわ30年代ねんだいまで「行基ぎょうき鮒ぶな」と呼よばれる異形いぎょうの魚さかなが存在そんざいした。その特徴とくちょうは腹部ふくぶを中心ちゅうしんに赤黒あかぐろく焦こげたような色いろをしていて、い伝いつたえによれば「食たべると腹痛はらいたを起おこす」とされ、食たべずに池いけや川かわに戻もどした。調査ちょうさの結果けっか　原因げんいんは鮒ふなに寄生きせいした繊毛せんもう虫むし類るいによる白雲しらくも病びょうで、鱗うろこが退色たいしょくし内蔵ないぞうの色いろが透すけて見みえたとされた。この鮒ふなの由来ゆらいについて昆陽池こやいけを作つくった行基ぎょうきにかかわる伝説でんせつがある。

• ある病人びょうにんが鮒ふなを焼やいて食たべようとしていたところに行基ぎょうきが通とおりかかった。行基ぎょうきは鮒ふなを不憫ふびんに思おもい病人びょうにんからもらい受うけ昆陽池こやいけに放はなすと、片面かためんを焼やかれた鮒ふなが生いき返かえって泳およいでいった。その鮒ふなの子孫しそんが行基ぎょうき鮒ぶなである。

ギャラリー

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  正面しょうめんの鉄柵てっさくが伊丹いたみ市し西野にしの6丁目ちょうめにある昆陽こや井い取とり入いれ口こう、大堀おおほり川がわは手前てまえから来きて右みぎに曲まがるが、渇水かっすい期きの水みずは取とり入いれ口こうの堰せきによってほとんど昆陽こや井いに流ながれ込こむ。
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  西野にしの5丁目ちょうめ付近ふきんでは、伊丹いたみ台地だいちの西にし裾すそを南下なんかする。
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  伊丹いたみ市し寺本てらもと3丁目ちょうめ付近ふきん。このあたりは市街地しがいちの中なかを流ながれるが、水路すいろの両側りょうがわはきれいに整備せいびされ散歩道さんぽみちとなっている。
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  昆陽こや寺てら山門さんもん前まえを東ひがし向むきに流ながれる昆陽こや井い。奥おくの国道こくどう171号線ごうせんは暗渠あんきょでくぐる。写真しゃしんの箇所かしょで南側みなみがわの山田やまだ用水ようすいに向むけて水みずを落おとす機構きこうが存在そんざいする

関連かんれん項目こうもく

• 武庫川むこがわ
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