黒川くろかわ堰せき

黒川くろかわ堰せき（くろかわせぎ）は、長野ながの県けん松本まつもと市し波田なみたを通とおり、東筑摩ひがしちくま郡ぐん山形やまがた村むら方面ほうめんまで流ながれる、灌漑かんがい用ようの人工じんこう河川かせんである。開削かいさくから1971年ねんまでは、鉢盛山はちもりやまから北きた北東ほくとうの谷たにに流ながれる黒川くろかわから取水しゅすいしていた。現在げんざいは梓川あずさがわ（稲核いねこきダム）から取水しゅすいしている。波田なみた上のぼる波田はだまでは隧道すいどうを、波田なみた上のぼる波田はだでは集落しゅうらくの上うえを、波田なみた中ちゅう波田はだでは盛泉もりいずみ寺てら境内けいだいを横切よこぎって流ながれる。

概要がいよう

松本まつもと市し波田はだには、他たに和田わだ堰せき・波田なみた堰せきの2つがある。長野ながの県けん道どう25号ごう塩尻しおじり鍋なべ割わり穂高ほたか線せん（サラダ街道かいどう）と交差こうさする辺あたりでは、和田わだ堰せきは最さい下段げだんの河岸かわぎし段丘だんきゅうの下もとで、梓川あずさがわと同おなじ高たかさにある。また波田なみた堰せきは下したから3つめの河岸かわぎし段丘だんきゅうを掘ほり通とおす高たかさに造つくられている。これに対たいして黒川くろかわ堰せきは、当初とうしょは山やまの中なかを通とおり、上うえ波田なみた寺山てらやまにおいて山麓さんろくに出でてほぼ等高線とうこうせんに沿そって下おりながら山麓さんろくを掘ほり通とおすように造つくられ、波田なみた中ちゅう波田はだでは集落しゅうらくの中なかを通とおる。

黒川くろかわ堰せきの水みずとともに隧道すいどうで上うえ波田なみた寺山てらやま地籍ちせき上部じょうぶまで送おくられた水みずは、一部いちぶが黒川くろかわ堰せきに流ながれるが、より多おおくの水量すいりょうがやはり隧道すいどうで「右岸うがん上段じょうだん幹線かんせん」として山形やまがた村むら、朝日あさひ村むら、塩尻しおじり市し洗馬せば、さらに奈良井川ならいがわを越こえて塩尻しおじり市し宗賀そうが（桔梗ヶ原ききょうがはら）まで主しゅとして畑地はたち灌漑かんがいのために送おくられている。

黒川くろかわ堰せき以前いぜん

「波多はた村むら」（のち波田はだ村むら）は、1874年ねん（明治めいじ7年ねん）に上うえ波多はた村むら、下した波多はた村むら、三溝さみぞ村むらが合併がっぺいして成立せいりつしている。このうち上うえ波多はた村むら主要しゅよう部ぶ（本郷ほんごう）は、高燥こうそうの畑地はたちが多おおく、水田すいでんが少すくなかった。上うえ波多はた村むら本郷ほんごうは、集落しゅうらくを縦断じゅうだんする道路どうろ沿ぞいに用水路ようすいろを通とおし、男女だんじょ沢さわから流ながれ下くだる水みずをまわして生活せいかつ用水ようすい・灌漑かんがい用水ようすいに使つかっていた。西部せいぶの寺山てらやま地区ちくでは、光明こうみょう沢さわのわずかな水みずを利用りようしていた。しかし、多おおくの耕地こうちは畑地はたちで雑穀ざっこくを栽培さいばいしていた。1875年ねん（明治めいじ8年ねん）には、上うえ波多はた村むらの水田すいでんは耕地こうち面積めんせきの26％だったが、これは河岸かわぎし段丘だんきゅうの下もとである淵ふち東ひがしには水沢すいたくが、土地とちの狭隘きょうあいな赤松あかまつには栗谷くりや俣沢が流ながれて水田すいでんがあり、ここに出で作さくし、これらの水田すいでんを加算かさんしたものだった。

用水ようすいを引ひき開田かいだすることへの願ねがいがあったが、上うえ波多はた村むら本郷ほんごうの標高ひょうこうが高たかいという地形ちけい上じょうの問題もんだいから、梓川あずさがわ本流ほんりゅうからの取水しゅすいは不可能ふかのうであった。そのため、水源すいげんは南側みなみがわの谷たにから流ながれる沢さわの水みずを引ひくことになる。しかし、一番いちばん近ちかい水沢すいたくはすでに淵ふち東ひがしが使つかっており、栗谷くりや俣沢は赤松あかまつが使つかっていたので、遠とおく黒川くろかわに求もとめる以外いがいになかった。黒川くろかわは谷たにを流ながれ下くだるとすぐに、島々しまじま宿やどよりも奥おくで梓川あずさがわに合流ごうりゅうしている。黒川くろかわから取水しゅすいするためには、竜島りゅうしま・赤松あかまつ集落しゅうらくの上部じょうぶの山やまの急きゅう傾斜地けいしゃちを横切よこぎり、鷺沢さぎさわ・栗谷くりや俣沢・水沢すいたくなどの多おおくの谷たにを越こえる堰せき（用水路ようすいろ）を造つくらなくてはならなかった。さらに、梓川あずさがわの水みずを利用りようする水利すいり権けんをあらかじめ持もっている諸しょ堰せきの承諾しょうだくを取とりつけなければならないという大おおきな難題なんだいがあった。

一方いっぽう、江戸えど時代じだいには高遠こうえん藩はんを経へて天領てんりょうに属ぞくしていた山形やまがた村むらは、1874年ねん（明治めいじ7年ねん）10月がつに大池おおいけ村むら、小坂こさか村むら、竹田たけだ村むらが合併がっぺいして成立せいりつしたものだった。山形やまがた村むらも水利すいりに恵めぐまれず、畑地はたちが多おおかった。波田はだ村むらに南隣みなみどなりする竹田たけだ村むらも、はずれに唐沢からさわ川がわがあったけれども水利すいりがなく、開田かいだは夢ゆめの夢ゆめであった。

なお、波田はだ村むらの旧きゅう3村むらのうち、下した波多はた村むらも水田すいでんに恵めぐまれなかった。しかし、明治めいじ初はじめに波田なみた堰せきが完成かんせいしたことにより開田かいだが進すすんだ。また三さん溝みぞ村むらでは、937年ねん（平安へいあん前半ぜんはん期き）以前いぜんに和田わだ堰せきが完成かんせいしており、この水利すいりに依拠いきょして早はやくから集落しゅうらくが成立せいりつしたと考かんがえられる。

歴史れきし

• 1792年ねん（寛政かんせい4年ねん） - 梓川あずさがわの水みずを上うえ赤松あかまつ岩がんより引水ひきのみずしたいという願ねがいを、上うえ・下波したば多村たむら村民そんみんが連れん印しるして松本まつもと藩はんに提出ていしゅつ。下流かりゅうの和田わだ堰せき関係かんけい15か村そんの反対はんたいに遭あい断念だんねん
• 1804年ねん（文化ぶんか元年がんねん） - 上うえ波多はた本郷ほんごうの3人にんが、栗谷くりや俣沢の水みずを本郷ほんごうの用水ようすいに引ひき取とりたいと申もうし出でたが、この沢さわ水すいを利用りようしていた赤松あかまつの住民じゅうみんはこれに反対はんたいして、藩はんを巻まき込こんでの争あらそいになった。渇水かっすい時じには取水しゅすいをやめて水みずを赤松あかまつに落おとすことなどの条件じょうけん付つきで取水しゅすいが認みとめられた。しかし、堰せきの漏水ろうすいが多おおく、完成かんせい翌年よくねんには山崩やまくずれで堰せきが埋うまってしまった
• 1859年ねん（安政あんせい6年ねん）11月 - 上うえ波多はた本郷ほんごうの17人にんが、梓川あずさがわの氾濫はんらんで耕作こうさくできなくなっている水田すいでんの水利すいり権けんと引ひき換かえに梓川あずさがわの水みずを揚あげて水沢すいたく田でん・車坂くるまざか耕地こうちへかけ、その代かわりに栗谷くりや俣沢・水沢すいたくの水みずを引ひき取とりたいと願ねがい出でた。4年ねんかかって、厳きびしい条件じょうけんの下したに新しん堰せきの開削かいさくが認みとめられた
• 1863年ねん（文久ぶんきゅう3年ねん）8月がつ - 新しん堰せき開削かいさくの工事こうじに着手ちゃくしゅしたが、翌年よくねんになると思おもいのほか難なん工事こうじで費用ひようの調達ちょうたつに苦くるしみ、堰せき用地ようち費ひの請求せいきゅうを受うけるなど、多難たなんであった
• 1869年ねん（明治めいじ2年ねん）10月がつ8日にち - 黒川くろかわから淡路あわじまでの全ぜん堰せき路ろが、工事こうじ着手ちゃくしゅ以来いらい7年ねんを費ついやして通つうじた。しかし、藩はんから通つう水すいの許可きょかが出でなかった
• 1871年ねん（明治めいじ4年ねん） - この年としに波田なみた堰せきが起工きこうされた。『波田なみた堰せき百ひゃく年ねん史し』は、明治めいじ元年がんねん文書ぶんしょに「四よん、五ご年ねん以来いらい上じょう波多はた村むらで工事こうじ中ちゅうの黒川くろかわ堰せき」という一節いっせつがあることを紹介しょうかいし、明治めいじ2年ねんの政府せいふ役人やくにんの視察しさつでは「折おりから工事こうじ中ちゅうの黒川くろかわ堰せきを見みせ」たと記述きじゅつしている。
• 1878年ねん（明治めいじ11年ねん）1月がつ - 工事こうじがむずかしい上うえに、なかなか通つう水すい・開田かいだができない。上うえ波多はたの発起人ほっきにんたちも、自己じこ資金しきんが尽つき、借入金かりいれきんや外部がいぶからの出資しゅっしを求もとめていたが、とうとう行いき詰づまってしまった。そこで、黒川くろかわ堰せき工事こうじは上うえ波多はたから山形やまがた村むら竹田たけだの8人にんに引ひき継つがれた。しかし、資金しきん・工事こうじ請負人うけおいにんの問題もんだいをめぐって数すう年ねんにわたり、工事こうじがストップするなどした
• 1893年ねん（明治めいじ26年ねん）6月がつ29日にち - 初はじめての通つう水すいができた。しかし、時期じきが遅おそく開田かいだ10haにとどまり、水みずが十分じゅうぶんでなかったことから収穫しゅうかくもわずかであった。
• 1899年ねん（明治めいじ32年ねん）6月がつ10日とおか - 外部がいぶの「黒川くろかわ新しん堰せき工業こうぎょう組合くみあい」が工事こうじをして通つう水すいし、波多はた村むらでの開田かいだ14ha、山形やまがた村むらでの開田かいだ13haができた。これ以後いご、問題もんだいはあったが開田かいだが進すすめられ、最大さいだいで波田なみた内ない65ha、山形やまがた内ない85haの開田かいだができた
• 1951年ねん（昭和しょうわ26年ねん） - 黒川くろかわ堰せきを管理かんりしていた普通ふつう水利すいり組合くみあいが「黒川くろかわ堰せき土地とち改良かいりょう区く」に業務ぎょうむを引ひき継ついだ
• 1971年ねん（昭和しょうわ46年ねん） - 梓川あずさがわの3ダムが完成かんせいし稲核いねこきダムから取水しゅすいするようになり、黒川くろかわからは取水しゅすいしなくなった。東京電力とうきょうでんりょく新しん竜島りゅうしま発電はつでん所しょで発電はつでん用ように使用しようする水みずとともに稲核いねこきダムから隧道すいどうで水みずを流ながし、発電はつでん所しょ上じょうで分水ぶんすいされている。堰せき路ろを当時とうじの波田はだ町まちが買かい取とり、黒川くろかわの水みずを上水道じょうすいどう用水ようすいおよび雑用ざつよう水すいとして使つかうようになった
• 1974年ねん（昭和しょうわ49年ねん）4月がつ1日にち - この年としまでは、利水りすい地域ちいきには「黒川くろかわ堰せき土地とち改良かいりょう区く」「竹田たけだ整せい田た会かい」「中ちゅう下か波田なみた整せい田た会かい」「上うえ波田なみた整せい田た会かい」の組織そしきがあった。前ぜん3者しゃが解散かいさんし業務ぎょうむを「黒川くろかわ堰せき土地とち改良かいりょう区く」に引ひき継ついだ
• 1992年ねん（平成へいせい4年ねん）10月がつ - 黒川くろかわ堰せき通どおり水すい100年ねんを記念きねんした碑いしぶみが立たてられ、除幕じょまくと記念きねん式典しきてんが開ひらかれた
• 2017年ねん（平成へいせい29年ねん）6月がつ3日にち - かつて黒川くろかわ堰せき上流じょうりゅう部ぶであり1971年ねん以降いこうは使つかわれていない追つい平ひら隧道すいどうの出口でぐちから下流かりゅう100ｍについて、黒川くろかわ堰せき土地とち改良かいりょう区くが初はじめて本格ほんかく的てきな整備せいびを行おこなった。また、文化財ぶんかざい指定していの可否かひを検討けんとうする下した調査ちょうさとして、市し教委きょうい文化財ぶんかざい課かが同行どうこうして調査ちょうさを行おこなった。

黒川くろかわ堰せきの写真しゃしん

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  黒川くろかわ堰せきの水流すいりゅうが隧道すいどうから地表ちひょうに姿すがたを現あらわす地点ちてん
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  旧きゅうルートを流ながれる小川おがわは、水沢川みずさわがわから取水しゅすいしている
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  左ひだりの穴あなは、黒川くろかわ堰せきの旧きゅうルートにあった急流きゅうりゅう部分ぶぶんの隧道すいどうチェック孔あな。右みぎが旧きゅうルートを流ながれる小川おがわ
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  黒川くろかわ堰せきの旧きゅうルートにあった空気くうき弁べん表示ひょうじ
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  東京電力とうきょうでんりょく新しん竜島りゅうしま発電はつでん所しょの上部じょうぶタンクと建物たてもの（左ひだり）。この上部じょうぶタンクの近ちかくで、稲核いねこきダムから送おくられてきた水みずがわけられ、黒川くろかわ堰せきと右岸うがん上段じょうだん幹線かんせんに送おくられる

出典しゅってん

• 『黒川くろかわ堰せき』黒川くろかわ堰せき土地とち改良かいりょう区く、1996年ねん4月がつ