棚橋たなはし小しょう虎とら

日本にっぽんの政治せいじ家か 棚橋たなはし 小しょう虎とら たなはし ことら
棚橋たなはし小しょう虎とらの肖像しょうぞう写真しゃしん
生年月日せいねんがっぴ	(1889-01-14) 1889年ねん1月がつ14日にち
出生しゅっしょう地ち	長野ながの県けん東筑摩ひがしちくま郡ぐん松本まつもと町まち
没ぼつ年月日ねんがっぴ	(1973-02-20) 1973年ねん2月がつ20日はつか（84歳さい没ぼつ）
死没しぼつ地ち	長野ながの県けん松本まつもと市し
出身しゅっしん校こう	東京とうきょう帝国ていこく大学だいがく法科ほうか大学だいがく 卒業そつぎょう 第だい三さん高等こうとう学校がっこう 卒業そつぎょう 松本まつもと中学校ちゅうがっこう 卒業そつぎょう
所属しょぞく政党せいとう	（労働ろうどう農民のうみん党とう→） （日本にっぽん労農ろうのう党とう→） （日本にっぽん大衆たいしゅう党とう→） （全国ぜんこく大衆たいしゅう党とう→） （全国ぜんこく労農ろうのう大衆たいしゅう党とう→） （社会しゃかい大衆たいしゅう党とう→） （無所属むしょぞく→） （日本にっぽん社会党しゃかいとう→） （社会党しゃかいとう右派うは→） （日本にっぽん社会党しゃかいとう→） 民主みんしゅ社会党しゃかいとう
配偶はいぐう者しゃ	棚橋たなはし 孝子たかこ
親族しんぞく	長男ちょうなん・棚橋たなはし 泰やすし助すけ（東京とうきょう都議会とぎかい議員ぎいん）
サイン
参議院さんぎいん議員ぎいん
選挙せんきょ区く	長野ながの選挙せんきょ区く
当選とうせん回数かいすう	2回かい
在任ざいにん期間きかん	1950年ねん6月4日にち - 1962年ねん5月7日にち
衆議院しゅうぎいん議員ぎいん
選挙せんきょ区く	長野ながの全県ぜんけん区く
当選とうせん回数かいすう	1回かい
在任ざいにん期間きかん	1946年ねん4月がつ10日とおか - 1947年ねん4月がつ6日にち

棚橋たなはし 小しょう虎とら（たなはし ことら、1889年ねん1月がつ14日にち - 1973年ねん2月がつ20日はつか）は日本にっぽんの労働ろうどう運動うんどう家か、政治せいじ家か。新人しんじん会かいなどの学生がくせい運動うんどう、友愛会ゆうあいかい、労働ろうどう総そう同盟どうめいなどの労働ろうどう運動うんどうにかかわり、日本にっぽん労農ろうのう党とうや社会党しゃかいとうなどの結成けっせいに関与かんよした。

来歴らいれき・人物じんぶつ

第だい三さん高等こうとう学校がっこう卒業そつぎょう後ご、東京とうきょう帝国ていこく大学だいがく法科ほうか大学だいがくに進すすみ、在学ざいがく中ちゅうに新人しんじん会かいに参加さんかした。また、麻生あそう久ひさ、山名やまな義よし鶴づると社会しゃかい問題もんだい研究けんきゅう会かいである木曜もくよう会かいを結成けっせいした。この木曜もくよう会かいには後のちに岡上おかがみ守道もち、佐野さの学まなぶ、野坂のさか参さん三さんが参加さんかした。

東京とうきょう帝国ていこく大学だいがく在学ざいがく中ちゅうから麻生あそうらと共ともに吉野よしの作造さくぞうや安部あべ磯雄いそおの影響えいきょうを受うけて、友愛会ゆうあいかい入会にゅうかいを期きしたが会長かいちょうの鈴木すずき文治ぶんじに断ことわられ、1917年ねん卒業そつぎょうと共ともに司法官しほうかん試補しほとなった。翌よく1918年ねん、司法官しほうかん試補しほを辞じして友愛ゆうあい会かい入会にゅうかいを果はたし、1919年ねんには関東かんとう出張所しゅっちょうしょ主事しゅじとなって日立ひたち鉱山こうざん争議そうぎなどを支援しえんした。1920年ねん8月がつに東京とうきょう連合れんごう会かい主事しゅじ、10月には日本にっぽん労働ろうどう総そう同盟どうめい友愛ゆうあい会かい中央ちゅうおう委員いいんに就任しゅうにんした。1921年ねんにアナキストに対抗たいこうして、「労働ろうどう組合くみあいへ帰かえれ」という論文ろんぶんを書かき、知識ちしき階級かいきゅう排斥はいせきの標的ひょうてきとされ、東京とうきょう連合れんごう会かい主事しゅじを辞任じにん、翌よく1922年ねんにヨーロッパ外遊がいゆうに出でた。

ヨーロッパ外遊がいゆうでは、まずドイツを経へてジュネーヴに赴おもむき、森戸もりと辰男たつお、浅利あさり順じゅん四よん郎ろうなどの助力じょりょくを得えて第だい4回かいILO会議かいぎで日本にっぽん政府せいふの憲章けんしょう違反いはんを暴露ばくろした。更さらに1923年ねん7月がつにソ連それんに入はいり、ホー・チ・ミンや片山かたやま潜せんらと交流こうりゅうした。しかし、同年どうねん11月がつ体調たいちょうを崩くずして帰国きこくした。

1924年ねん、淡路島あわじしま洲本すもと町まちに移うつり、1926年ねんに日本にっぽん労働ろうどう組合くみあい同盟どうめい会長かいちょう、日本にっぽん労農ろうのう党とう中央ちゅうおう執行しっこう委員いいんに就任しゅうにん。1928年ねんに洲本すもと町まち会議かいぎ員いんとなり、1930年ねんの第だい17回かい衆議院しゅうぎいん議員ぎいん総そう選挙せんきょに兵庫ひょうご第だい2区くから出馬しゅつばしたが、落選らくせんした。

1936年ねん、郷里きょうりの長野ながの県けん松本まつもと市しに転居てんきょし、翌よく1937年ねん4月がつに執行しっこうされた第だい20回かい衆議院しゅうぎいん議員ぎいん総そう選挙せんきょに長野ながの第だい4区くから出馬しゅつばしたが、次点じてんで落選らくせんした。1942年ねん、第だい21回かい衆議院しゅうぎいん議員ぎいん総そう選挙せんきょへの出馬しゅつばを企図きとしたが、出馬しゅつばを辞退じたい。同年どうねん5月がつの松本まつもと市し会議かいぎ員いん選挙せんきょで松本まつもと市し会議かいぎ員いんに当選とうせんした。

1946年ねん、日本にっぽん社会党しゃかいとうから第だい22回かい衆議院しゅうぎいん議員ぎいん総そう選挙せんきょに立候補りっこうほし初はつ当選とうせんを果はたしたが、東亜とうあ連盟れんめいへの関与かんよから公職こうしょく追放ついほうを受うけた。公職こうしょく追放ついほう解除かいじょ後ごの1949年ねん執行しっこうの第だい24回かい衆議院しゅうぎいん議員ぎいん総そう選挙せんきょは落選らくせん、翌よく1950年ねんの第だい2回かい参議院さんぎいん議員ぎいん通常つうじょう選挙せんきょには当選とうせんした。1960年ねん日本にっぽん社会党しゃかいとうを離党りとうし、民主みんしゅ社会党しゃかいとう結成けっせいに参画さんかくしたが、1962年ねんに政界せいかいを引退いんたいした。

1973年ねん2月がつ20日はつかに心筋梗塞しんきんこうそくのため、自宅じたくで死去しきょした。

生涯しょうがい

少年しょうねん時代じだいから代用だいよう教員きょういん時代じだいまで

1889年ねん1月がつ14日にち、長野ながの県けん東筑摩ひがしちくま郡ぐん松本まつもと町まち（現げん・松本まつもと市し）に、旧きゅう松本まつもと藩はん士しで小学校しょうがっこう教員きょういんの父ちち・棚橋たなはし宣せん章しょうと母はは・さゑ（旧きゅう松本まつもと藩士はんし・関口せきぐち友とも忠ちゅうの娘むすめ）の四よん男おとことして生うまれた。名付なづけ親おやは『信濃しなのの国くに』の作詞さくし者しゃで、同おなじく旧きゅう松本まつもと藩士はんしの浅井あさい洌きよしで、「風かぜを切きって千里せんりを走はしる大だい虎とらも生なまるる時ときは小しょう虎とらなりけり」という歌うたを添そえて命名めいめいした。

1899年ねん3月がつに東筑摩ひがしちくま郡ぐん本城ほんじょう村むら（現げん・筑北村むら）尋常じんじょう小学校しょうがっこうを卒業そつぎょうした後のち、4月がつに坂北さかきた村むら（同どう）と本城ほんじょう村むらとの組合くみあい立りつ高等こうとう小学校しょうがっこうに入学にゅうがくしたが、一家いっかの松本まつもと移住いじゅうに伴ともなって7月がつに松本まつもと町立ちょうりつ松本まつもと尋常じんじょう高等こうとう小学校しょうがっこう男子だんし部ぶ（開智かいち学校がっこう）高等こうとう科か1年ねんに入学にゅうがくした。1901年ねん、母方ははかたの従兄じゅうけいの薦すすめにより松本まつもと中学校ちゅうがっこう（現げん・長野県松本深志高等学校ながのけんまつもとふかしこうとうがっこう）の入学にゅうがく試験しけんを受験じゅけんし、合格ごうかく者しゃ中ちゅう第だい4位いの成績せいせきで及第きゅうだいした。松本まつもと中学校ちゅうがっこう在学ざいがく中ちゅうに学生がくせい団体だんたいであった披雲会かいと自治じち団体だんたいであった尚志ひさし社しゃに入はいり、活動かつどうした。1904年ねん、棚橋たなはしは松本まつもと中学校ちゅうがっこう4年ねんに進級しんきゅうしたが、2月がつから続つづいていた日にち露ろ戦争せんそうに刺激しげきされて、海軍兵学校かいぐんへいがっこうへの入学にゅうがくを決意けついした。この決意けついの背景はいけいには、父ちちである宣せん章しょうがつくった借金しゃっきんにより学費がくひ納入のうにゅうが滞とどこおることが多々たたあったことから、学費がくひのかからない海軍兵学校かいぐんへいがっこうを選択せんたくしたということがあった。

松本まつもと中学校ちゅうがっこう時代じだいにおける棚橋たなはし小しょう虎とら。中ちゅう列れつ左ひだりから2人ふたり目めが棚橋たなはし。

しかし、10月に入はいって左足ひだりあしに激痛げきつうを感かんじ、診断しんだんの結果けっか左ひだり脚あし骨髄こつづい炎えんを発病はつびょうしていた。当初とうしょ、進級しんきゅう単位たんいの問題もんだいと地元じもとの医師いしからリウマチと診断しんだんされていたこともあってしばらくはそのままでいたが、病状びょうじょうへの不安ふあんから1905年ねん4月がつに松本まつもと中学校ちゅうがっこうを一時いちじ退学たいがくをして、5月から9月がつにかけて東京大学とうきょうだいがく医学部いがくぶ附属ふぞく病院びょういんで3度どに亘わたり手術しゅじゅつを受うけた。12月に帰郷ききょう、翌よく1906年ねん1月がつから復学ふくがくして、3月に松本まつもと中学校ちゅうがっこうを卒業そつぎょうした。この卒業そつぎょうに際さいしては通常つうじょう、一いち年ねんの三さん分ぶんの一いち以上いじょう欠席けっせきであった生徒せいとは卒業そつぎょうできないこととなっていたが、棚橋たなはしは校長こうちょうの小林こばやし有ゆう也に直談判じかだんぱんを行おこない、小林こばやしが棚橋たなはしを卒業そつぎょうさせる気きであることを直感ちょっかん的てきに受うけ取とった。

松本まつもと中学校ちゅうがっこう卒業そつぎょう後ご、一旦いったん銀行ぎんこうに就職しゅうしょくしたが2ヶ月かげつで退職たいしょくし、9月に左ひだり脚あし骨髄こつづい炎えんの治癒ちゆのために再度さいど上京じょうきょうしたが、東大とうだい病院びょういんの医師いしに内臓ないぞうの不調ふちょうの可能かのう性せいを言いわれ、内科ないかで診療しんりょうを受うけたところ左ひだり肺尖はいせんカタルと診断しんだんされた。こうした健康けんこう不安ふあんもあって急きゅうに宗教しゅうきょうに関心かんしんを持もち、松本まつもとメソジスト教会きょうかいに通かようようになった。1907年ねん洗礼せんれいを受うけたが、深ふかく感銘かんめいを受うけていた牧師ぼくしの橋本はしもと睦あつし之これと伝道でんどう師しの平林ひらばやし広人ひろとが松本まつもとメソジスト教会きょうかいを離任りにんすることとなったことから、以後いご距離きょりをおくようになった。2月に入はいると東筑摩ひがしちくま郡ぐん和田わだ尋常じんじょう高等こうとう小学校しょうがっこうの校長こうちょうであった岡村おかむら千馬ちば太ふとしから和田わだ小学校しょうがっこうで代用だいよう教員きょういんの誘さそいがきた。当初とうしょ、棚橋たなはしは健康けんこう不安ふあんに加くわえて、中等ちゅうとう教員きょういん検定けんてい試験しけんの受験じゅけんを企図きとしていたことからその誘さそいを留保りゅうほしていたものの、検定けんてい試験しけん及第きゅうだいまでの生活せいかつ費ひや書籍しょせき代だいへの不安ふあんから、9月に和田わだ村むらへ赴おもむき代用だいよう教員きょういんとなった。尚なお、この代用だいよう教員きょういん時代じだいの教おしえ子ごたちによって、後年こうねん「保ほ進しん会かい」という同窓会どうそうかいが組織そしきされている。

健康けんこう不安ふあんは続つづいていたものの、1909年ねんに入はいると左ひだり脚あし骨髄こつづい炎えんの病やまい源げんの大だい部分ぶぶんであるとされた足あしの骨ほね片へんを除去じょきょすることができた関係かんけいで、やや回復かいふくに向むかい、それにつれて官吏かんりを志こころざし、帝みかど大法たいほう科かへの進学しんがくを考かんがえるようになった。帝みかど大だいへの進学しんがくに向むけ、まず翌年よくねん7月がつに行おこなわれる高等こうとう学校がっこう入学にゅうがく試験しけんを受験じゅけんすることとした。当初とうしょ、第一高等学校だいちこうとうがっこうへの進学しんがくを考かんがえていたが、合格ごうかくに不安ふあんがあったことに加くわえ、関西かんさいの生活せいかつに好奇心こうきしんを抱だいていたこと、尚志ひさし社しゃの後輩こうはいである細田ほそだ忠四郎ちゅうしろうが京都きょうと府立ふりつ医学いがく専門せんもん学校がっこうに在学ざいがく中ちゅうの関係かんけいがあり好都合こうつごうであったことから第だい三さん高等こうとう学校がっこうを選択せんたくすることとした。受験じゅけん準備じゅんびの間あいだ、父ちち・宣せん章しょうの死しに直面ちょくめんしたが、1910年ねん7月がつに第だい三さん高等こうとう学校がっこうを受験じゅけんし、合格ごうかくを果はたした。棚橋たなはしは、合格ごうかくの報しらせに接せっするまでの間あいだ、左ひだり脚あし骨髄こつづい炎えんが再発さいはつして東大とうだい病院びょういんで再度さいど手術しゅじゅつを受うけることとなった。一旦いったん退院たいいんできたものの、9月入浴にゅうよく時じに傷口きずぐちから丹毒たんどくに感染かんせんし再さい入院にゅういんすることとなった。しかし、すぐに退院たいいんして10月がつに松本まつもとを離はなれ、京都きょうとへと向むかうこととなった。

三高さんこうから帝みかど大だいへ

1910年ねん10月から第だい三さん高等こうとう学校がっこうへ登校とうこうを始はじめた棚橋たなはしは、11月に入はいると京都きょうとに尚志ひさし社しゃの支ささえ舎しゃを設もうけることを企図きとして、細田ほそだ忠四郎ちゅうしろうや三沢みさわ満寿夫ますおなどの松本まつもと中学校ちゅうがっこう出身しゅっしんで京都きょうとに住すんでいた4名めいと黒谷くろたにに「由之よしゆき舎しゃ」（京都きょうと尚志ひさし社しゃ）と名付なづけた家いえで共同きょうどう生活せいかつを始はじめた。この京都きょうと尚志ひさし社しゃには後のちに山名やまな義よし鶴づるや塩川しおかわ国こく助すけなどが参加さんかするようになる。 1911年ねん早春そうしゅんに山名やまな義よし鶴づるに出会であい、山名やまなの誘さそいで演説えんぜつ稽古けいこのグループ「縦横じゅうおう会かい」を結成けっせいした。参加さんか者しゃは棚橋たなはしのほか、岸井きしい寿郎としお（のち労働ろうどう運動うんどう家か、岸井きしい成しげる格かくの父ちち）・岸田きしだ幸雄ゆきお（のち参議院さんぎいん議員ぎいん、兵庫ひょうご県知事けんちじ）・末川すえかわ博はく（のち立命館大学りつめいかんだいがく総長そうちょう）・麻生あそう久ひさ（のち労働ろうどう運動うんどう家か、社会しゃかい大衆たいしゅう党とう書記しょき長ちょう）・岡おか林次郎りんじろう（のち福岡ふくおか高等こうとう裁判所さいばんしょ判事はんじ）・吉田よしだ三雄みつお・行ぎょう宗そう貞さだ隆たかし・大西おおにし文一ぶんいち・村田むらた利之としゆき助すけ・細ほそ渓けい勇三ゆうぞう・神明しんめい萬まん里り・平島ひらしま等ひとしであった。この「縦横じゅうおう会かい」参加さんか者しゃとのつながりは、後のちに棚橋たなはしが労働ろうどう運動うんどう家かや政治せいじ家かとして活動かつどうするなかでも続つづくことになっていく。こうした「縦横じゅうおう会かい」の活動かつどうの一方いっぽうで、棚橋たなはしと山名やまなは三高さんこう運動うんどう部ぶの秘密ひみつ結社けっしゃであった「バンド」に参加さんかした。9月にこの「バンド」による軟派なんぱ学生がくせい暴力ぼうりょく制裁せいさい事件じけんが起おこり、麻生あそうを中心ちゅうしんとした「縦横じゅうおう会かい」は「バンド」排斥はいせき運動うんどうを展開てんかいした。この折おりに、棚橋たなはしと山名やまなは縦横じゅうおう会かいメンバーに面罵めんばされ、この影響えいきょうで一時いちじ他たの縦横じゅうおう会員かいいんとの意思いし疎通そつうを欠かくことになった。1913年ねん1月がつ、折田おりた彦市ひこいちの後任こうにんとして三さん高校こうこう長ちょうとなった酒井さかい佐保さほの排斥はいせき運動うんどうが発生はっせいした。この排斥はいせき運動うんどうは、第だい一いち次じ護憲ごけん運動うんどうに三さん高だかの学生がくせいが呼応こおうして京都きょうとにおける暴動ぼうどうに参加さんかした嫌疑けんぎで川端かわばた警察けいさつ署しょの刑事けいじが寄宿舎きしゅくしゃで捜査そうさを行おこない、被疑ひぎ者しゃを連行れんこうした事件じけんを発端ほったんとしており、この刑事けいじの寄宿舎きしゅくしゃへの侵入しんにゅうは学校がっこう側がわが刑事けいじとなれ合あって刑事けいじのほしいままにさせたとして、元々もともと生徒せいと側がわにあった酒井さかい校長こうちょう不信ふしんへの考かんがえもあって酒井さかい校長こうちょうへの排斥はいせき運動うんどうへと至いたったものであった。この排斥はいせき運動うんどうの中なかで、「縦横じゅうおう会かい」を中心ちゅうしんとして校長こうちょう問責もんせき生徒せいと大会たいかいを開催かいさいして、酒井さかい校長こうちょうもこれに出席しゅっせきした。酒井さかい校長こうちょうはこの大会たいかいにおいて率直そっちょくに学校がっこう側がわの過失かしつを認みとめ誠意せいいを披瀝ひれきしたこともあって排斥はいせき運動うんどうは沈静ちんせい化かへと向むかった。この校長こうちょう問責もんせき生徒せいと大会たいかいの中心ちゅうしんには棚橋たなはしも動うごいており、こうした大正たいしょう政変せいへんの影響えいきょうを受うけた様々さまざまな活動かつどうを通つうじて徐々じょじょに自由じゆう主義しゅぎ・個人こじん主義しゅぎへと転向てんこうしていくようになる。

7月がつに入はいり、棚橋たなはしは上京じょうきょうして東京帝大とうきょうていだい法科ほうかを受験じゅけんし、合格ごうかくした。法科ほうかには棚橋たなはしのほかに「縦横じゅうおう会かい」の同志どうしである山名やまな義よし鶴づると麻生あそう久ひさも進すすむことになった。1914年ねん、棚橋たなはしは下層かそう階級かいきゅうの解放かいほうについて吉野よしの作造さくぞうや安部あべ磯雄いそおを訪問ほうもんして意見いけんを問とうたり、学友がくゆうとの議論ぎろんをしたり、先輩せんぱいを訪たずねて意見いけんを聴きいたりした。これは、棚橋たなはしが三高さんこう卒業そつぎょう時じまでに抱だいた下層かそう階級かいきゅうの解放かいほうを目的もくてきとする政治せいじ団体だんたいの樹立じゅりつと、大学だいがく改革かいかくという2つの目標もくひょうを具現ぐげん化かさせるためであった。しかし、当初とうしょは希望きぼうに燃もえ張はり切きっていたものの次第しだいに希望きぼうを失うしない、「ただ習慣しゅうかん的てきに大学だいがくに通かよっているというだけ」になっていった。こうした中なかで、7月がつに棚橋たなはしは初はじめて落第らくだいを経験けいけんすることになる。この衝撃しょうげきから一いち時じ郷里きょうりの松本まつもとに帰かえり、過去かこの自分じぶんとの訣別けつべつのために自由じゆう奔放ほんぽうな「野性やせい的てき生活せいかつ」を翌月よくげつまで送おくり、体力たいりょくと気力きりょくの回復かいふくに努つとめた。 1916年ねん2月がつ、吉野よしの作造さくぞうを訪問ほうもんした棚橋たなはし・麻生あそう・山名やまなは、吉野よしのから友愛会ゆうあいかいの話はなしを聞きいた。棚橋たなはしはそれまで将来しょうらいの志望しぼうについて決きめかねていたが、友愛ゆうあい会かいの話はなしに深ふかい感銘かんめいを覚おぼえ、朧気おぼろげながらも友愛ゆうあい会かい入いりを志こころざすようになる。5月には政治せいじ家かを志こころざすことを決きめ、当時とうじの棚橋たなはしの日記にっきで次つぎのように記述きじゅつした。

　俺おれは世間せけん一般いっぱんの学生がくせいのように、生活せいかつのために職業しょくぎょうを得えることが唯一ゆいいつ最大さいだいの目的もくてきであるということを、不動ふどうの前提ぜんていとして、疑念ぎねんなしに受うけ入いれることはできない。俺おれは地位ちい職業しょくぎょうの得えることは、自己じこの生存せいぞんの意義いぎを全まっとうし人生じんせいの目的もくてきを達たっするための手段しゅだんにすぎないと考かんがえる。だから我々われわれは生活せいかつの手段しゅだんとしての職業しょくぎょうを得える前まえに、人生じんせいの目的もくてき、生存せいぞんの意義いぎを考かんがえこれを知しることが前提ぜんていであると確信かくしんする。宇宙うちゅうの一いち分子ぶんしとして生せいをうけた俺おれは、むつかしい理屈りくつなしに、宇宙うちゅうの大だい活動かつどう・大だい運営うんえいに合体がったい合流ごうりゅうすべきであると考かんがえる。宇宙うちゅうは久遠くおんの昔むかしから、無窮むきゅうの未来みらいにわたって休やすむことなく活動かつどうしている。宇宙うちゅうは産うむ。殖ふやす。活動かつどうする。生々せいせい繁茂はんもする。進化しんかする。発展はってんする。人類じんるいそのものも進化しんかする。社会しゃかいも前進ぜんしんする。これが宇宙うちゅうの大だい運営うんえいの実態じったいである。
　しからば宇宙うちゅうの一いち分子ぶんしとして生せいをうけた俺おれは、文句もんくなしにこの宇宙うちゅうの大だい運営うんえいに参加さんかすべきである。宇宙うちゅう、自然しぜんと歩調ほちょうを合あわせて活動かつどうすべきである。田たを作つくるもよし。書物しょもつを書かくもよし。あらゆる生産せいさんに参加さんかすべきである。宇宙うちゅう、人類じんるい、生物せいぶつの利益りえき繁栄はんえいを図はかるべく害がいを除のぞくべきである。人類じんるいを幸福こうふくにし不幸ふこうを除のぞき、人類じんるいの精神せいしんを美びにし純じゅんにし、彼かれらをして平和へいわを楽たのしましむべきである。これがわが生存せいぞんの目的もくてきではないか。
　宇宙うちゅうの運営うんえいに参加さんかするというが、いかなる部分ぶぶんに参加さんかするのか。そこで職業しょくぎょうの問題もんだいが起おこってくる。俺おれはこの点てんについては、漠然ばくぜんながら社会しゃかい・国家こっか・民衆みんしゅうのために働はたらこうと前まえから考かんがえていた。
　国家こっかの隆盛りゅうせいと、社会しゃかいの進歩しんぽ発達はったつと、人類じんるいの幸福こうふくとは、原則げんそくとして一致いっちする。人類じんるいは宇宙うちゅう自然しぜんの中なかで最もっとも霊妙れいみょうなものであり、国家こっかと社会しゃかいとはその人類じんるいの構成こうせい組織そしきとしているものの中なかで、もっとも秀ひいでたものである。国家こっか社会しゃかいの隆盛りゅうせい進歩しんぽは人類じんるいの幸福こうふくと一致いっちしてこそ意味いみがある。もし国家こっか・社会しゃかいの活動かつどう力りょくが、社会しゃかい・人類じんるいの不幸ふこうを惹起じゃっきすることになったら、これこそ大だい矛盾むじゅんである。故ゆえに国家こっかの活動かつどう力りょくを常つねに社会しゃかい・人類じんるいの発展はってんを促うながし幸福こうふくをもたらすように行使こうしすることは、最もっとも必要ひつようなことである。これこそ政治せいじの原則げんそくでなければならない。
　俺おれが政治せいじ家かを志こころざす根本こんぽんの動機どうきは、国家こっかの活動かつどう力りょくを、社会しゃかい人類じんるいの幸福こうふくと発展はってんのために奉仕ほうしせしめ、行使こうしせしめるということである。大学だいがく卒業そつぎょうを一いち年ねん後ごに控ひかえて、具体ぐたい的てきにどうすべきか。まだ漠然ばくぜんとしている。 — 前掲ぜんけい棚橋たなはし書しょ、p.73-75

政治せいじ家かを志こころざした棚橋たなはしは、暑中しょちゅう休暇きゅうかを利用りようして松本まつもとへ帰郷ききょうした。そこで披雲会かいの後輩こうはいである青山あおやま善吉ぜんきちの相談そうだんを受うけて、当時とうじの松本まつもと中学ちゅうがく校長こうちょうであった本荘ほんじょう太一郎たいちろうの排斥はいせき運動うんどうを展開てんかいすることになった。これは小林こばやし有ゆう也の後任こうにんで校長こうちょうに就任しゅうにんした本荘ほんじょう太一郎たいちろうの教育きょういく方針ほうしんについての反駁はんばくから起おこった運動うんどうで、一時いちじ生徒せいと側がわがストライキに及およぶ可能かのう性せいまで進すすんだが、本荘ほんじょうが年度ねんどいっぱいで校長こうちょう職しょくを辞任じにんすることで決着けっちゃくをみた。

1917年ねん2月がつ、棚橋たなはしは吉野よしの作造さくぞうを訪問ほうもんして自身じしんの友愛ゆうあい会かい入いりを相談そうだんした。棚橋たなはしは吉野よしのが友愛ゆうあい会かい入いりに賛成さんせいするものと考かんがえていたが、吉野よしのは友愛ゆうあい会かい入いりに反対はんたいして労働ろうどう者しゃの法律ほうりつ顧問こもんとなるよう勧すすめた。しかし、棚橋たなはしは「自みずから労働ろうどう者しゃとなり、自分じぶんの周囲しゅういに同志どうしを集あつめ、それを拡大かくだいして団結だんけつを作つくる道みちを選えらびたい。」として、4月がつに鈴木すずき文治ぶんじと面会めんかいして友愛ゆうあい会員かいいんになった。6月に入はいると安部あべ磯雄いそお、吉野よしの作造さくぞう、油谷あぶらや治郎じろうをそれぞれ訪問ほうもんし、棚橋たなはしの友愛ゆうあい会かい入いりに賛成さんせいの意見いけんを受うけた。安部あべ磯雄いそおから鈴木すずき文治ぶんじ宛あての紹介しょうかい状じょうをもらい、7月がつに鈴木すずき文治ぶんじを訪たずねたが「財政ざいせい上人しょうにんを入いれる余地よちなし」として断ことわられた。ただ、棚橋たなはしも「このまま友愛ゆうあい会かいに入はいることができても、法律ほうりつの実際じっさいに通つうじないから、充分じゅうぶんな活動かつどうは不可能ふかのうだろう。むしろ一いち、二に年ねん弁護士べんごしでもやって法律ほうりつの事務じむに通つうじてから友愛ゆうあい会かいに入はいる方ほうがいいのではないか。」と考かんがえ、吉野よしの作造さくぞうに相談そうだんしたところ司法官しほうかん試補しほになることを勧すすめられた。そこで棚橋たなはしは早速さっそく司法官しほうかん試補しほの出願しゅつがん手続てつづきを進すすめて内定ないていを受うけると共ともに、鈴木すずき文治ぶんじには将来しょうらいの友愛ゆうあい会かい入いりを約束やくそくした。こうして棚橋たなはしは、一旦いったん司法官しほうかん試補しほとして歩あゆみを進すすめることになった。

司法官しほうかん試補しほを辞やめ友愛ゆうあい会かいへ

司法官しほうかん試補しほになった棚橋たなはしであったが、1918年ねん4月がつに麻生あそうに友愛ゆうあい会かい入いりを強つよく奨すすめられたこともあって、徐々じょじょに司法官しほうかん試補しほを辞やめ友愛ゆうあい会かい入いりをすることを考かんがえるようになった。その中なかで友愛ゆうあい会かいの野坂のさか参さん三さん、麻生あそう久ひさ、久留くる弘ひろし三さんらと友愛会ゆうあいかい改革かいかく案あんを検討けんとうするようになっていく。これは友愛ゆうあい会かいを労働ろうどう団体だんたいとして改組かいそするためのもので、次つぎのような成案せいあんを会長かいちょうの鈴木すずき文治ぶんじに提出ていしゅつし、改革かいかく案あんは了承りょうしょうされた。この了承りょうしょうと共ともに棚橋たなはしの友愛ゆうあい会かい勤務きんむも承諾しょうだくされ、労働ろうどう運動うんどう家かとして活動かつどうしていくこととなる。

（一いち）　友愛ゆうあい会かいを関東かんとう、関西かんさい、横浜よこはまの三さん部ぶに分わかち各かく主任しゅにん者しゃ一いち名めいを置おき全権ぜんけんを委任いにんして経営けいえいにあたらしむ。三さん部ぶは各かく独立どくりつとす。
（二に）　会長かいちょうは以上いじょう三さん部ぶを統括とうかつす。会長かいちょうの俸給ほうきゅうは三さん部ぶの分担ぶんたんとす。
（三さん）　『労働ろうどう及産業さんぎょう』は本部ほんぶの直営ちょくえいとす。各部かくぶは一部いちぶ七なな銭ぜにの割合わりあいにて代金だいきんを本部ほんぶに支払しはらう。
（四よん）　関東かんとう部ぶは棚橋たなはし、関西かんさい部ぶは久留くる、横浜よこはま部ぶは板倉いたくら、『労働ろうどう及産業さんぎょう』には野坂のさかを各かく主任しゅにんとし、油谷あぶらや・平沢ひらさわ・菊地きくちは解雇かいことすること。
（五ご）　『社会しゃかい改良かいりょう』は知識ちしき階級かいきゅうに対たいする自由じゆう思想しそう宣伝せんでん用ようとして我われらに一任いちにんさせてもらうこと。麻生あそうが主しゅとしてこれにあたる。 — 前掲ぜんけい棚橋たなはし書しょ、p.103

友愛ゆうあい会かい入いりを決きめた棚橋たなはしは9月に入はいると麻生あそう宅たくをクラブとして毎週まいしゅう会合かいごうをすることを麻生あそう、山名やまならと申もうし合あわせた。これは社会しゃかい情勢じょうせいの研究けんきゅう団体だんたいで、後のちに木曜もくよう会かいとして発展はってんし、佐野さの学まなぶなども参加さんかするようになる。10月27日にち、棚橋たなはしは司法官しほうかん試補しほの辞表じひょうを提出ていしゅつし、翌日よくじつに友愛ゆうあい会かいに入はいった。友愛ゆうあい会かい入いりを果はたした後のち、棚橋たなはしは吉野よしの作造さくぞうから内務省ないむしょう保健ほけん調査ちょうさ会かいが労働ろうどう者しゃの生計せいけい状態じょうたいを調査ちょうさするため東京とうきょう市内しないの労働ろうどう者しゃ街がいに定住ていじゅうしてその調査ちょうさに当あたる人物じんぶつを探さがしており、棚橋たなはしがその任にんに当あたったらどうかとの誘さそいを受うけ、調査ちょうさ会かいを主催しゅさいする高野たかの岩三郎いわさぶろうに面会めんかいした。高野たかのから話はなしを聞きいた棚橋たなはしは、友愛ゆうあい会かいの松岡まつおか・野坂のさかに相談そうだんし反対はんたいを受うけたものの、調査ちょうさの仕事しごとを放棄ほうきする気きになれず受諾じゅだくすることとなった。棚橋たなはしは早速さっそく、労働ろうどう者しゃ街がいを調査ちょうさして保健ほけん調査ちょうさ所しょの設置せっち場所ばしょとして島しま全体ぜんたいが労働ろうどう者しゃの町まちであった月島つきしまを、調査ちょうさ責任せきにん者しゃを山名やまな義よし鶴づるとし棚橋たなはしは側面そくめんからこれに協力きょうりょくすることを高野たかのに進言しんげんした。当初とうしょ、高野たかのは月島つきしまを調査ちょうさ所しょの設置せっち場所ばしょとして認みとめずに本所ほんじょ区く柳島やなぎしま横川よこがわ町まちを考かんがえていたが、視察しさつの結果けっか月島つきしまを調査ちょうさ所しょの設置せっち場所ばしょとすることにした。この月島つきしまの労働ろうどう保健ほけん調査ちょうさ所しょは関東かんとう方面ほうめんの最もっとも開明かいめい的てきな労働ろうどう運動うんどうの基地きちとなっていく。

1919年ねん、鈴木すずき文治ぶんじ渡わたし欧おう中ちゅうにおける友愛会ゆうあいかい本部ほんぶ。前列ぜんれつ左ひだりから久留くる弘ひろし三さん・野坂のさか参さん三さん・北沢きたざわ新次郎しんじろう・松岡まつおか駒吉こまきち、後列こうれつ左ひだりから一いち人にんおいて麻生あそう久ひさ・山口やまぐち政利まさとし・棚橋たなはし小しょう虎とら・可児かに義雄よしお。

12月に入はいると会長かいちょうの鈴木すずき文治ぶんじが渡わたり欧おうしたこともあって、棚橋たなはしは関東かんとう出張所しゅっちょうしょ主任しゅにんとして忙いそがしい日々ひびを送おくるようになっていった。棚橋たなはしは東京帝大とうきょうていだい時代じだいから住すんでいた本郷ほんごうから月島つきしまの餅田もちだ守もり一いちの2階かいにその住居じゅうきょを移うつし、公私こうしともに労働ろうどう運動うんどうに関かかわるようになった。1918年ねん末まつ当時とうじで関東かんとう出張所しゅっちょうしょ管内かんないの友愛ゆうあい会員かいいんは約やく5,000人にんで、管内かんないで起おこる争議そうぎに忙殺ぼうさつされていった。そんな中なか、1919年ねん1月がつに岸井きしい寿郎としおの姪めいにあたる孝子こうしと婚約こんやくした。孝子こうしは岸井きしい寿郎としおの異母いぼ兄けいにあたる岸井きしい品ひん八はちの二女じじょで、岸井きしい寿郎としおの誘さそいで見合みあいをしたことがあった。孝子こうしとの間あいだには後のちに三男さんなん二女じじょをもうけることになる。

春はるごろに起おこった三田みた支部しぶ（日本電気にほんでんき株式会社かぶしきがいしゃに設置せっちされた労働ろうどう団体だんたい）における賃金ちんぎん値上ねあげストライキでは、当時とうじとしては珍めずらしい12日間にちかんにわたるストライキとなり、棚橋たなはしはこの争議そうぎを指導しどうすると共ともに会社かいしゃ側がわとの交渉こうしょうも担当たんとうして、要求ようきゅうの大だい部分ぶぶんの貫徹かんてつと犠牲ぎせい者しゃを出ださないという結果けっかを導みちびき出だし、「大会たいかい社しゃを向むかうにまわし支部しぶの全力ぜんりょくをあげて対決たいけつした初はじめての争議そうぎであって大変たいへん印象深いんしょうぶかかった。」と回想かいそうしている。更さらに治安ちあん警察けいさつ法ほう第だい十じゅう七なな条じょう撤廃てっぱい運動うんどうを鈴木すずき文治ぶんじの代理だいりで友愛ゆうあい会かいの会長かいちょうになっていた北沢きたざわ新次郎しんじろうに提案ていあんし、賛成さんせいを得えてこの運動うんどうを展開てんかいした。こうした活動かつどうの中なかで棚橋たなはしは、更さらなる「労使ろうしの対立たいりつを前提ぜんていとする戦闘せんとう的てき労働ろうどう組合くみあい主義しゅぎへの転換てんかん」を考かんがえ、麻生あそう久ひさの友愛ゆうあい会かい入いりを企図きとするようになる。4月、棚橋たなはしは麻生あそうの友愛ゆうあい会かい入いりを実現じつげんに向むけた動うごきとして、麻生あそうが友愛ゆうあい会かい入いりを決意けついさせること、友愛会ゆうあいかい本部ほんぶの人ひと不足ふそくを他たの本部ほんぶ員いんに認識にんしきさせることのためにサボタージュを行おこない、友愛ゆうあい会かいを長期ちょうき欠勤けっきんして松本まつもとに帰郷ききょうしてしまう。これを受うけて5月がつ、麻生あそうは友愛ゆうあい会かい入いりを決意けついし、友愛会ゆうあいかい本部ほんぶ側がわでも受うけ入いれを承諾しょうだくした。麻生あそうは早速さっそく棚橋たなはしに上京じょうきょうを求もとめる手紙てがみを送おくり、棚橋たなはしはこれに応こたえて友愛ゆうあい会かいに復帰ふっきすることになった。上京じょうきょう後ご、棚橋たなはしは会長かいちょう代理だいりの北沢きたざわと主事しゅじの松岡まつおか駒吉こまきちと協議きょうぎして、本部ほんぶの陣容じんよう一いち新案しんあんを実行じっこうに移うつす第だい一いち着手ちゃくしゅとして友愛会ゆうあいかい出版しゅっぱん部長ぶちょうであった平沢ひらさわ計七けいしちを退職たいしょくさせ、麻生あそうを部長ぶちょうに据すえた。こうした結果けっか、友愛会ゆうあいかいは労働ろうどう団体だんたいとしての陣容じんようを整ととのえ、8月がつ末まつに開催かいさいされた友愛ゆうあい会かい第だい七なな周年しゅうねん大会たいかいにおいて「大だい日本にっぽん労働ろうどう総そう同盟どうめい友愛ゆうあい会かい」に改称かいしょうを決定けっていした。この大会たいかいにおいて「明白めいはくな社会しゃかい主義しゅぎに立たってはいないが、労働ろうどう者しゃの人間にんげん性せいを強調きょうちょうし、資本しほん主義しゅぎの発達はったつと機械きかい文明ぶんめいの進歩しんぽが必然ひつぜん的てきに労働ろうどう者しゃの人格じんかくを蒸むししてこれを単たんなる生産せいさんの機械きかい視しすることに抗議こうぎし、労働ろうどう者しゃは国際こくさい連盟れんめいと労働ろうどう規約きやくの精神せいしんに生いき、自力じりきをもって労働ろうどう者しゃの生存せいぞんする権利けんりと自由じゆうとを獲得かくとくすべきことを主張しゅちょう」して、更さらに組織そしき体制たいせいも「会長かいちょう独裁どくさい制せい」から「職業しょくぎょう別べつ地域ちいき別べつの地盤じばんより選出せんしゅつされた25名めいの理事りじの会議かいぎ制せい」への変更へんこう、地域ちいき支部しぶを職業しょくぎょう別べつもしくは産業さんぎょう別べつ全国ぜんこく組合くみあいに改組かいそする組織そしき方針ほうしんの打うち出だしを行おこなった。棚橋たなはしはこの大会たいかい後ごに開ひらかれた理事りじ会かいにおいて、新あらたに設置せっちされた鉱山こうざん部ぶの主任しゅにんを兼任けんにんすることになり、以降いこう鉱山こうざんにおける争議そうぎを担当たんとうすることになった。

9月に起おきたILO代表だいひょう権けん問題もんだいにおいて棚橋たなはしはその運動うんどうの中心ちゅうしんとなり、10月には足尾あしお鉱山こうざん争議そうぎを指導しどうすることになった。この時とき、棚橋たなはしは友愛会ゆうあいかい足尾あしお支部しぶ演説えんぜつ会かいに出席しゅっせきし演説えんぜつをしたが、警官けいかんによって演説えんぜつ会かいは中止ちゅうしとされこれをきっかけとして足尾あしお鉱山こうざんにおける友愛ゆうあい会員かいいんの膨張ぼうちょうを生うむこととなった。10月26日にちには遂ついにストライキに発展はってんしたが、一部いちぶが暴動ぼうどう化かしたため28日にちに会社かいしゃ側がわの要請ようせいによって警官けいかん隊たいが一斉いっせい検挙けんきょを行おこなって、足尾あしおストライキは鎮静ちんせい化かに向むかうことになる。11月末まつには日立ひたち争議そうぎが発生はっせいし、棚橋たなはしや麻生あそうなどが派遣はけんされた。この争議そうぎでの演説えんぜつ会かいにおいて棚橋たなはしは治安ちあん警察けいさつ法ほう第だい8条じょうによる解散かいさん命令めいれいに従したがわなかったとして麻生あそう他た8名めいと共ともに逮捕たいほされ、水戸みと監獄かんごくへ未決みけつ収監しゅうかんとなった。この争議そうぎ以降いこう、関東かんとうにおける鉱山こうざんの労働ろうどう運動うんどうは相次あいつぐこととなり、関東かんとう出張所しゅっちょうしょと兼任けんにんでは手てが回まわらなくなったこともあり、麻生あそうが鉱山こうざん部ぶ主任しゅにんとなり、棚橋たなはしは関東かんとう出張所しゅっちょうしょ専任せんにんとなってその後ごの労働ろうどう運動うんどうを指導しどうしていくことになった。

「労働ろうどう組合くみあいへ帰かえれ」

1920年ねん5月2日にち、友愛ゆうあい会かいほか15組くみの労働ろうどう組合くみあいは新人しんじん会かいなどの思想しそう団体だんたいも加くわえて上野公園うえのこうえんにおいて第だい1回かいメーデーを開催かいさいした。このメーデー開催かいさい後ご、メーデー参加さんか団体だんたいは協議きょうぎ会かいを開ひらき、今後こんごの運動うんどうについて継続けいぞく的てきな連絡れんらく機関きかんを設もうけることとして「労働ろうどう組合くみあい同盟どうめい会かい」を創設そうせつした。この同盟どうめい会かいに対たいして友愛会ゆうあいかいは大おおきな影響えいきょう力りょくを持もち、労働ろうどう運動うんどうの展開てんかいにさらに大おおきな役割やくわりを担になうことになったが、また一方いっぽうで隆盛りゅうせいしつつあった社会しゃかい主義しゅぎやアナーキズムによって友愛会ゆうあいかい内部ないぶの統制とうせいは難むずかしい状況じょうきょうであり、会かいの統制とうせいを諮はかるために一応いちおう麻生あそうを「日本にっぽん社会しゃかい主義しゅぎ同盟どうめい」との連絡れんらく役やくにする程度ていどで留とめていた。6月に入はいると、棚橋たなはしは富士紡績ふじぼうせき押上おしあげ工場こうじょうの争議そうぎを指導しどうすることになったが、この争議そうぎは失敗しっぱいという結果けっかであった。8月、関東かんとう出張所しゅっちょうしょの管轄かんかつであった各かく支部しぶは自主じしゅ的てきに労働ろうどう運動うんどうを展開てんかいできるようになったとして、各かく支部しぶの自主じしゅ性せいを広範囲こうはんいに認みとめて関東かんとう出張所しゅっちょうしょを解消かいしょうして、「大だい日本にっぽん労働ろうどう総そう同盟どうめい友愛ゆうあい会かい　東京とうきょう連合れんごう会かい」へと発展はってんさせた。この東京とうきょう連合れんごう会かいにおいて棚橋たなはしは主事しゅじとなり、9月には連合れんごう会かい書記しょきに松本まつもと中学校ちゅうがっこう時代じだいから棚橋たなはしと親交しんこうがあった上条かみじょう愛あい一いちを招まねいた。10月に開催かいさいされた友愛ゆうあい会かい8周年しゅうねん大会たいかいにおいて友愛会ゆうあいかいは「日本にっぽん労働ろうどう総そう同盟どうめい友愛ゆうあい会かい」と改称かいしょうすると共ともに、出張所しゅっちょうしょ制度せいどを廃はいし連合れんごう会かいとすること、理事りじ制せいを廃はいし中央ちゅうおう委員いいん制せいとすること、各かく支部しぶを産業さんぎょう別べつ、職業しょくぎょう別べつに再さい編成へんせいすること、支部しぶに職業しょくぎょう紹介しょうかい所しょを設もうけること、毎年まいとしメーデーを行おこなうことが議決ぎけつされた。この議決ぎけつと共ともに役員やくいん選挙せんきょが行おこなわれ、棚橋たなはしは関東かんとう選出せんしゅつの中央ちゅうおう委員いいんに就任しゅうにんした。更さらに麻生あそうを中心ちゅうしんとして産業さんぎょう別べつの支部しぶ結成けっせいに向むけて動うごいていたが、これに棚橋たなはしも協力きょうりょくして10月がつ20日はつか全日本ぜんにほん鉱夫こうふ総そう連合れんごう会かいを結成けっせいし、棚橋たなはしは相談役そうだんやくとして名なを連つらねた。その後ご、三越みつこし争議そうぎの指導しどうや足立あだち製作所せいさくしょ事件じけんの後処理あとしょりなどの活動かつどうを展開てんかいし、棚橋たなはしは東京とうきょう連合れんごう会かいの要ようとして活躍かつやくをしていった。

1921年ねん1月がつ、棚橋たなはしは友愛ゆうあい会かいの機関きかん誌し『労働ろうどう』新年しんねん号ごうに「労働ろうどう組合くみあいへ帰かえれ」という論文ろんぶんを発表はっぴょうした。

「労働ろうどう組合くみあいをつくってその力ちからで労働ろうどう者しゃの地位ちいを改善かいぜんしようなどということはまだるい。われわれは手取てっとり早ばやく社会しゃかい主義しゅぎ者しゃとなって直接ちょくせつ行動こうどうをした方ほうが早はやい。」
　これはこのごろ労働ろうどう者しゃ自身じしんの口くちからよく聞きく言葉ことばである。けれどもそれは間違まちがっている。直接ちょくせつ行動こうどうとはいったいどういうことを意味いみするのか。直接ちょくせつ行動こうどうとは、警官けいかんと小しょうぜり合ごういをして、ひと晩ばん警察けいさつに止とめられたり、禁止きんしの革命かくめい歌かを高唱こうしょうして大道だいどうを歩あるくことではあるまい。こんな直接ちょくせつ行動こうどうでは社会しゃかいの大だい革命かくめいはおろか、資本しほん家かの自動車じどうしゃ一ひとつ転覆てんぷくすることもできないだろう。こんな貧弱ひんじゃくな直接ちょくせつ行動こうどうを手て頼たよりにして、労働ろうどう者しゃに取とって大切たいせつな大切たいせつな労働ろうどう組合くみあい－労働ろうどう者しゃの団結だんけつ－を捨すて去さろうとするのは狂気きょうきの沙汰さたではないか。
　直接ちょくせつ行動こうどうの最上さいじょうの手本てほんは、波なみ蘭らんの対たい露ろ戦争せんそうを援助えんじょしようとした英国えいこく政府せいふに対たいし、英国えいこく労働ろうどう階級かいきゅうが行動こうどう委員いいん会かいを作つくり、もし英国えいこく政府せいふにして波なみ蘭らんを援助えんじょするならば、全ぜん英国えいこくの労働ろうどう者しゃは一いち令れいのもとに総そう同盟罷業どうめいひぎょうをすると言いって威嚇いかくした態度たいどである。英国えいこく政府せいふはこの威嚇いかくに震ふるえ上あがって波なみ蘭らん援助えんじょを思おもい止とどまった。
　日本にっぽんの労働ろうどう者しゃよ。直接ちょくせつ行動こうどうとはこういうことをいうのだ。直接ちょくせつ行動こうどうという言葉ことばを玩具おもちゃのごとくに玩弄がんろうして、直接ちょくせつ行動こうどうの飯事ままごとをやって嬉うれしがっている連中れんちゅうは、少すこし眼界がんかいを高たかく大おおきくする必要ひつようがあろう。
　なるほど飯事ままごとや玩具おもちゃの直接ちょくせつ行動こうどうをやるには、別段べつだん強つよい労働ろうどう者しゃの団結だんけつや労働ろうどう組合くみあいは要いらぬだろう。そんな事ことなら単独たんどくでもできる。しかしこんな玩具おもちゃや飯事ままごとで、われわれ労働ろうどう者しゃの地位ちいの改善かいぜんができると思おもったら大だい間違まちがいだ。
　真実しんじつに労働ろうどう者しゃの地位ちいを向上こうじょうさせることのできる直接ちょくせつ行動こうどうは、労働ろうどう者しゃの大々的だいだいてき団結だんけつを必要ひつようとする。強大きょうだい勇猛ゆうもうな労働ろうどう組合くみあいが必要ひつようだ。諸君しょくん！急いそがば廻まわれだ。労働ろうどう者しゃが最後さいごの決定的けっていてき勝利しょうりを占しめようとするには、まずそのまだるっこうい運動うんどうすなわち労働ろうどう組合くみあい運動うんどうをすることが肝心かんじんだ。警察官けいさつかんと格闘かくとうする一人ひとりの勇士ゆうしよりも、穏おだやかな百ひゃく人にんの人ひとが団結だんけつした一ひとつの労働ろうどう組合くみあいがどれ丈たけけ資本しほん家かにとって、権力けんりょく者しゃにとって恐おそろしいか分わからないのだ。
「労働ろうどう組合くみあいを作つくって其力で労働ろうどう者しゃの地位ちいを改善かいぜんしようなどということはまだるっこい。われわれは手取てっとり早ばやく社会しゃかい主義しゅぎ者しゃとなって直接ちょくせつ行動こうどうをしたほうが早はやい。」と労働ろうどう者しゃがいっているのを聞きいて、警察けいさつのお役人やくにんは薄気味悪うすきみわるい笑顔えがおをしているではないか。資本しほん家かは耳みみに口くちを寄よせて「占しめ占じめ」といっているではないか。労働ろうどう者しゃよ。考かんがえ直なおせ。だまされるなよ。
　労働ろうどう組合くみあいへ帰かえれ。それが労働ろうどう者しゃの王国おうこくである。 — 前掲ぜんけい棚橋たなはし書しょ、p.207-208

棚橋たなはしは「多忙たぼうで静思せいしする時間じかんもないので、日ひごろ頭あたまを悩なやましている最近さいきんの労働ろうどう運動うんどうの動向どうこうについての感想かんそうを、東京とうきょう連合れんごう会かいの机つくえで頭あたまに浮うかぶままに書かき流ながし、ほとんど読よみ返かえしもせず本部ほんぶに送おくった」が、この論文ろんぶんは一部いちぶ急進きゅうしん的てき労働ろうどう組合くみあいから強つよい批判ひはんを浴あびることになった。4月、3月に起おこった足尾あしお銅山どうざん争議そうぎを解決かいけつに麻生あそうと共ともに導みちびいたが、サンジカリスト・社会しゃかい主義しゅぎ者しゃ・急進きゅうしん的てき労働ろうどう者しゃはこれを「麻生あそうらが直接ちょくせつ行動こうどうをもって最後さいごまで資本しほん家かと抗争こうそうすることを恐おそれ中途ちゅうと資本しほん家かに争議そうぎを売うりつけたもの」と批判ひはんして「知識ちしき階級かいきゅう指導しどう者しゃの屈辱くつじょく的てき妥協だきょう精神せいしん」にその罪つみが帰きするとした。その後ご、5月に行おこなわれた第だい2回かいメーデーにおいてこの両者りょうしゃの相違そういは明確めいかく化かし、7月がつに開催かいさいされた東京とうきょう連合れんごう会かい大会たいかいにおいて棚橋たなはしにもその批判ひはんが集中しゅうちゅうすることになった。この大会たいかいにおいて棚橋たなはしは大会たいかい議長ぎちょうを務つとめたが、サンジカリスト・社会しゃかい主義しゅぎ者しゃ・急進きゅうしん的てき労働ろうどう者しゃなどからの「知識ちしき分子ぶんし排撃はいげき」に会あって議事ぎじ進行しんこうを行おこなえなくなり、議長ぎちょう辞職じしょくを余儀よぎなくされた。更さらに棚橋たなはしはこうした東京とうきょう連合れんごう会かいの状況じょうきょうを受うけて東京とうきょう連合れんごう主事しゅじについても辞職じしょくすることになった。この主事しゅじ辞職じしょくについては友愛会ゆうあいかい幹部かんぶ総会そうかいにおいて慰留いりゅうされ顧問こもん就任しゅうにんの提案ていあんもあったが、棚橋たなはし自身じしんに思おもうところがあって受諾じゅだくせず、最終さいしゅう的てきに主事しゅじ辞職じしょくに決定けっていした。これは棚橋たなはしが「社会しゃかい主義しゅぎや共産きょうさん主義しゅぎ・無む政府せいふ主義しゅぎと労働ろうどう組合くみあい運動うんどうの関係かんけいについてもっと研究けんきゅうして確乎かっこたる信念しんねんをもちたいと考かんがえ」て、ヨーロッパやソ連それんへの外遊がいゆうを企図きとしていたためで、辞職じしょく後ごに妻つま・孝子こうしを連つれて大分おおいた県けん国東くにさき町まちに移住いじゅうして早速さっそく外遊がいゆうに向むけて準備じゅんびを進すすめることになった。

ヨーロッパ外遊がいゆう

1922年ねん、棚橋たなはしの渡わたり欧おうを友愛会ゆうあいかい本部ほんぶで撮影さつえいされた写真しゃしん。前列ぜんれつ左ひだりから松岡まつおか駒吉こまきち・鈴木すずき文治ぶんじ・棚橋たなはし小しょう虎とら・麻生あそう久ひさ・野坂のさか参さん三さん・加藤かとう勘かん十じゅう・山本やまもと懸かか蔵ぞう、後列こうれつ左ひだりから3人にん目め赤松あかまつ克麿かつまろ・2人ふたりおいて上条かみじょう愛あい一いち。

1921年ねん末すえに麻生あそうの提案ていあんで棚橋たなはしの外遊がいゆう資金しきん調達ちょうたつのために、渡わたし欧おう記念きねん論集ろんしゅうとして『新しん社会しゃかい的てき秩序ちつじょへ』の出版しゅっぱんを行おこなった。この論集ろんしゅうは、棚橋たなはし小しょう虎とらを知しっている学者がくしゃや評論ひょうろん家か、社会しゃかい主義しゅぎ者しゃらに寄稿きこうしてもらい、印税いんぜいを棚橋たなはしの外遊がいゆう資金しきんに充あてることとしていた。尚なお、論集ろんしゅうには、山川やまかわ均ひとし・高野たかの岩三郎いわさぶろう・北沢きたざわ新次郎しんじろう・荒畑あらはた勝二しょうじ・赤松あかまつ克麿かつまろ・堺さかい利彦としひこ・上田うえだ貞次郎ていじろう・長谷川はせがわ万次郎まんじろう・米田よねだ庄太郎しょうたろう・大山おおやま郁夫いくお・片上かたがみ伸しん・安部あべ磯雄いそお・佐野さの学まなぶ・新居にい格かく・石本いしもと恵めぐみ吉きち・末すえ弘ひろ巌いわお太郎たろうに加くわえて麻生あそうが寄稿きこうしている。この記念きねん論集ろんしゅうの印税いんぜいのほか、棚橋たなはしは三高さんこう時代じだいの先輩せんぱいの中俣なかまた正男まさおや、孝子こうしの父ちちである岸井きしい品ひん八はちなどから支援しえんを受うけて洋行ようこう費用ひようを工面くめんした。こうして棚橋たなはしは渡わたり欧おうの目途もくとが立たつこととなり、1922年ねん7月がつ13日にちに門司もじを出港しゅっこうして上海しゃんはい、8月がつ24日にちにマルセイユを経へて、9月がつ10日とおかにベルリンに到着とうちゃくした。

棚橋たなはしはベルリン到着とうちゃく後ご、高野たかの岩三郎いわさぶろうに紹介しょうかいを受うけていた森戸もりと辰雄たつおらの出迎でむかえを受うけると共ともに、大内おおうち兵衛ひょうえ・石浜いしはま知行ともゆき、山崎やまざき一雄かずおなどに会あっている。このベルリンでは、ソ連それんでも通用つうようするというドイツ語ごの練習れんしゅうのためにドイツ語ご学校がっこうに通かよっている。11月にジュネーヴに赴おもむき、その頃ころ開催かいさいされていた第だい4回かいILO会議かいぎに日本にっぽん労働ろうどう総そう同盟どうめい理事りじの信任しんにん状じょうを持参じさんした上うえで、森戸もりと及および浅利あさり順じゅん四よん郎ろうの手てを借かりて各国かっこく代表だいひょうを歴訪れきほうし、日本にっぽん政府せいふの憲章けんしょう違反いはんを暴露ばくろした。これは日本にっぽんの労働ろうどう代表だいひょうとして赴おもむいていた田澤たざわ義よし鋪しきの資格しかくについて抗議こうぎしたものであった。12月に魚さかな中毒ちゅうどくで腸ちょう出血しゅっけつになり、伊藤いとう清きよしが看病かんびょうにあたった。1923年ねん4月がつ、棚橋たなはしはベルリン大学だいがく哲学てつがく科かの入試にゅうしを受うけて合格ごうかくしたが、同どう時期じきにソ連それんからの入国にゅうこく許可きょかも得えた。これは、赤色あかいろ労働ろうどう組合くみあいインターナショナルの中央ちゅうおう執行しっこう委員いいんで、当時とうじ日本にっぽんに戻もどっていた山本やまもと懸かか蔵ぞうの代理だいりをすることが目的もくてきであり、この関係かんけいで少すこし前まえの2月がつに片山かたやま潜せんに会あっていた。棚橋たなはしは入国にゅうこく許可きょかを受うけて、7月がつにリガを経へてモスクワに入はいり、国際こくさい農民のうみん大会たいかいに日本にっぽん農民のうみん組合くみあい代表だいひょうであった大西おおにし俊夫としおの通訳つうやくの資格しかくで出席しゅっせきした。この時期じきにホー・チ・ミンと交まじわり、以降いこう友好ゆうこう関係かんけいを築きずくこととなった。9月に入はいると関東大震災かんとうだいしんさいの報しらせが棚橋たなはしに伝つたわり、更さらに10月がつには発熱はつねつに苦くるしんだこともあって、帰国きこくを決意けついするようになった。11月、棚橋たなはしはモスクワを出発しゅっぱつし、シベリア鉄道てつどうでシベリア横断おうだんをすることになった。中途ちゅうと、越境えっきょうの際さいの面倒めんどうに備そなえて車窓しゃそうから日記にっきも含ふくめた一切いっさいの書類しょるいを処分しょぶんした。棚橋たなはしは日記にっきに「ソ連それんを発たって日本にっぽんへ帰かえると決きめた時とき、日本にっぽん改造かいぞうについては一応いちおうの構想こうそうを纏まとめていた。日本にっぽんの改造かいぞうはボルシェビズム（共産きょうさん主義しゅぎ革命かくめい）に依よるべきではない。これは日本にっぽんの国情こくじょうに合あわない。民主みんしゅ主義しゅぎによって社会しゃかい主義しゅぎの実現じつげんを目指めざすべきである。」と記しるしている。棚橋たなはしは「満州まんしゅう」の日本にっぽん領事館りょうじかんで入国にゅうこく許可きょかを待まつことになったが、日本にっぽん総領事そうりょうじを務つとめていたのがたまたま松本まつもと中学校ちゅうがっこう時代じだいの先輩せんぱいであった田中たなか文一ぶんいち郎ろうであり、この縁えんもあって入国にゅうこく許可きょかは速すみやかに行おこなわれた。

帰国きこく後ご、棚橋たなはしは1924年ねん1月がつに京都きょうとに赴おもむき、京都大学きょうとだいがく医学部いがくぶで診察しんさつを受うけた結果けっか、肺尖はいせん部ぶに病巣びょうそうが見みつかり、療養りょうようの必要ひつようを宣告せんこくされた。棚橋たなはしは兵庫ひょうご県けん津名つな郡ぐん洲本すもと町まちの岡おか林次郎りんじろうを訪たずね、洲本すもとを療養りょうようの地ちと定さだめて移住いじゅうを行おこなった。以降いこう約やく一いち年間ねんかん療養りょうようを行おこない、健康けんこうを回復かいふくさせて同所どうしょで弁護士べんごしを開業かいぎょうして活動かつどうを再開さいかいさせた。

洲本すもと時代じだい

日本にっぽん労農ろうのう党とう・日本にっぽん労働ろうどう組合くみあい同盟どうめいの結成けっせい

1927年ねん、普通ふつう選挙せんきょによる神奈川かながわ県けん会議かいぎ員いん選挙せんきょにおいて日本にっぽん労働ろうどう組合くみあい同盟どうめい会長かいちょうとして応援おうえん演説えんぜつをする棚たな橋きょう。

1925年ねん、活動かつどうを再開さいかいした棚橋たなはしは淡路あわじを中心ちゅうしんに関西かんさい方面ほうめんで労働ろうどう運動うんどう家かとして活動かつどうを展開てんかいした。地元じもとでは貝かい釦ぼたん労働ろうどう組合くみあい向上こうじょう会かいを結成けっせいしてストライキを決行けっこうしたり、日にち農のうの小作こさく運動うんどうや農民のうみん運動うんどう・労働ろうどう組合くみあい運動うんどうなど様々さまざまな活動かつどうを行おこなった。また、無産むさん政党せいとうの結成けっせいにも関かかわり、7月がつ18日にちに関西かんさい民政みんせい党とうを結成けっせい、12月には農民のうみん労働党ろうどうとうを結成けっせいした（農民のうみん労働党ろうどうとうについては3時じ間あいだで結社けっしゃ禁止きんしとなった。）。1926年ねんに入はいると、こうした無産むさん政党せいとう結成けっせいの動うごきは更さらに活発かっぱつ化かし、3月に労働ろうどう農民のうみん党とうが結成けっせいされると棚橋たなはしは淡路あわじ支部しぶの準備じゅんび委員いいんに推おされた。8月に淡路あわじ支部しぶは創立そうりつ大会たいかいを挙行きょこうし、次期じきを同おなじくして結成けっせいされた日本にっぽん労働ろうどう総そう同盟どうめい兵庫ひょうご県けん連合れんごう会かいに棚橋たなはしは会長かいちょうとして入はいることになった。単一たんいつ無産むさん政党せいとうとして誕生たんじょうした労働ろうどう農民のうみん党とうであったが、右派うはと左派さはとの対立たいりつが激化げきかして右派うはは総そう同盟どうめいと共ともに社会しゃかい民衆みんしゅう党とうを結成けっせいし、労働ろうどう農民のうみん党とうは左傾さけい化かを強つよめた。棚橋たなはしはこれを受うけて、労働ろうどう農民のうみん党とう淡路あわじ支部しぶを離はなれて社会しゃかい民衆みんしゅう党とうに合流ごうりゅうしようとしたが、11月23日にちに麻生あそう久ひさらが日本にっぽん労農ろうのう党とう創立そうりつ趣意しゅい書しょを発表はっぴょうし、その趣意しゅい書しょに棚橋たなはしに無断むだんで創立そうりつ発起人ほっきにんに加くわえたことから、棚橋たなはしは日本にっぽん労農ろうのう党とうへの参加さんかを余儀よぎなくされた。また、この出来事できごとを受うけて、総そう同盟どうめいは棚橋たなはしを麻生あそうらと共ともに除名じょめいし、加くわえて尼あまヶ崎さき連合れんごう会かいからも除名じょめいされた。棚橋たなはしらの離反りはんに憤慨ふんがいした総そう同盟どうめい尼あまヶ崎さき連合れんごう会員かいいん50名めいあまりは棚橋たなはしの事務所じむしょを襲撃しゅうげきし、棚橋たなはしは頭部とうぶに裂傷れっしょうを負おった。この少すこし前まえの12月4日にち、総そう同盟どうめいと決裂けつれつして結成けっせいされた日本にっぽん労働ろうどう組合くみあい同盟どうめいの会長かいちょうに棚橋たなはしは推おされ就任しゅうにんした。更さらに12月9日にち、日本にっぽん労農ろうのう党とう結成けっせい大会たいかいが挙行きょこうされ、この大会たいかいにおいて棚橋たなはしは中央ちゅうおう委員いいんに就任しゅうにんした。

1927年ねん3月、山名やまな義よし鶴づると共ともに上京じょうきょうした棚橋たなはしは麻生あそうから神戸こうべより立候補りっこうほすることを勧すすめられた。しかし、実行じっこうはせず兵庫ひょうご県けん第だい2区くからの出馬しゅつばを模索もさくすることになった。棚橋たなはしは組織そしき固がためのために5月に日本にっぽん労働ろうどう組合くみあい同盟どうめい兵庫ひょうご県けん連合れんごう会かいを結成けっせいし、労働ろうどう組合くみあい方面ほうめんの組織そしきを固かためると共ともに、6月がつには淡路あわじにおける全日本ぜんにほん農民のうみん組合くみあい連合れんごう会かいの担当たんとう者しゃとして長尾ながお正ただし作さくを任命にんめいし、7月がつには全日ぜんじつ農のう淡路あわじ支部しぶを結成けっせいして農民のうみん運動うんどう方面ほうめんの組織そしきも固かためた。9月4日にち日本にっぽん労働党ろうどうとう淡路あわじ支部しぶを結成けっせいし、衆議院しゅうぎいん総そう選挙せんきょの前哨ぜんしょう戦せんとして位置いちづけられていた兵庫ひょうご県けん会議かいぎ員いん選挙せんきょに備そなえた。9月25日にちの県議けんぎ選せんの結果けっか、日本にっぽん労働党ろうどうとうからは阪本さかもと勝まさる・永江ながえ一夫かずお・行政ぎょうせい長蔵ちょうぞうが当選とうせんしたが、棚橋たなはしが応援おうえんして淡路あわじから立候補りっこうほさせていた木村きむら初吉はつきちは落選らくせんした。1928年ねん2月がつ、第だい1回かい普通ふつう選挙せんきょが行おこなわれることになり、棚橋たなはしは立候補りっこうほに向むけて動うごき出だしたが準備じゅんび不足ふそくから立候補りっこうほを断念だんねんした。しかし、日本にっぽん労働党ろうどうとう淡路あわじ支部しぶの党員とういんはこれを受うけて洲本すもと町まち会議かいぎ員いん選挙せんきょの立候補りっこうほを棚橋たなはしに要請ようせいし、3月がつ棚橋たなはしはこれに立候補りっこうほして当選とうせんした。5月21日にち、それまで分裂ぶんれつしていた日ひ農のうと全日ぜんじつ農のうの合同ごうどうが成立せいりつし、5月27日にちには合同ごうどう大会たいかいが開催かいさいされた。これを受うけて、無産むさん政党せいとうも合同ごうどうに向むけた動うごきを強つよめ、10月17日にちに日本にっぽん労農ろうのう党とう・日本にっぽん農民のうみん党とう・無産むさん大衆たいしゅう党とう・九州きゅうしゅう民みん憲けん党とう・中部ちゅうぶ民衆みんしゅう党とう・信州しんしゅう大衆たいしゅう党とう・島根しまね自由じゆう民衆みんしゅう党とうの合同ごうどうに向むけた話はなし合あいを行おこなうために、河上かわかみ丈たけ太郎たろう・阪本さかもと・山名やまな・麻生あそう・棚橋たなはしが神戸こうべに参集さんしゅうして五ご者しゃ会談かいだんを行おこなった。この会談かいだんにおいて棚橋たなはしは合同ごうどうに反対はんたいしたが、結局けっきょく11月がつに合同ごうどうは決定けっていし、12月20日にちに日本にっぽん大衆たいしゅう党とうが結成けっせいされた。この結成けっせいに際さいして、棚橋たなはしは高野たかの岩三郎いわさぶろうを新党しんとうの委員いいん長ちょうに据すえようとしたが、本人ほんにんが承諾しょうだくせず失敗しっぱいした。このため、委員いいん長ちょうは空位くういとなり、書記しょき長ちょうに平野ひらの力三りきぞう、常任じょうにん執行しっこう委員いいんに棚橋たなはしや麻生あそうら24名めいが就任しゅうにんした。

第だい17回かい総そう選挙せんきょへの出馬しゅつば

1933年ねんにおける棚橋たなはし一家かずや。後列こうれつ右みぎから棚橋たなはし・二女じじょの鞠子まりこを妊娠にんしん中ちゅうの孝子こうし、前列ぜんれつ右みぎから長男ちょうなんの泰たい助すけ（のちに東京とうきょう都議会とぎかい議員ぎいん）・次男じなんの雄三ゆうぞう・三男さんなんの五郎ごろう・長女ちょうじょの郁子むべ。

1929年ねん2月がつ4日にち、前年ぜんねんに成立せいりつした無産むさん政党せいとう合同ごうどうに伴ともなって各かく政党せいとうの支持しじ団体だんたいとなっていた労働ろうどう団体だんたいの合同ごうどうが決定けっていしていた関係かんけいで、合同ごうどう後ごの組織そしきで優位ゆういを得えるために、日本にっぽん労働ろうどう組合くみあい同盟どうめい中央ちゅうおう執行しっこう委員いいん会かいの席上せきじょう、淡路あわじから東京とうきょうへの移転いてんを公約こうやくさせられた。これには同盟どうめいに参加さんかしていた山名やまな義よし鶴づるや上条かみじょう愛あい一いちらが動うごいており、棚橋たなはしを次つぎの総そう選挙せんきょで東京とうきょう第だい4区くから出馬しゅつばさせる目的もくてきがあった。3月6日にちから東京とうきょう府ふ会議かいぎ員いん選挙せんきょと神奈川かながわ県けん会議かいぎ員いん選挙せんきょの応援おうえんに赴おもむいたが、淡路あわじに戻もどった後のちに連日れんじつの高熱こうねつに浮うかされた。診断しんだんの結果けっか、腸ちょうチフスと診断しんだんされ、5月29日にちには治癒ちゆしたが体重たいじゅうは10貫かん9,000匁もんめ（約やく45kg）にまで減少げんしょうしていた。7月がつ23日にち、棚橋たなはしは洲本すもとで第だい1回かい大衆たいしゅう講座こうざを開催かいさいした。講師こうしには河上かわかみ丈たけ太郎たろうを迎むかえ、洲本すもとにおける労働ろうどう教育きょういくの場ばの創設そうせつとなった。この大衆たいしゅう講座こうざは8月がつ14日にちに第だい2回かいを開催かいさいし、講師こうしには松沢まつざわ兼人かねと（のち日本にっぽん社会党しゃかいとう衆議院しゅうぎいん議員ぎいん・参議院さんぎいん議員ぎいん）と杉山すぎやま元治郎もとじろうを迎むかえた。この間あいだ、8月がつ8日にちに神戸こうべで兵庫ひょうご県けん第だい2区くから総そう選挙せんきょに立候補りっこうほする意思いしを表明ひょうめいした。これは6月がつの段階だんかいで田中たなか義一ぎいち内閣ないかくの総そう辞職じしょくを受うけて成立せいりつした濱口はまぐち雄幸ゆうこう内閣ないかくが衆議院しゅうぎいん解散かいさんをすることを予想よそうして動うごいたものであった。しかし、棚橋たなはしは2月がつに既すでに東京とうきょう移住いじゅうを公約こうやくしている関係かんけいで、山名やまなはこれに反対はんたいした。しかし、棚橋たなはしは「もし立候補りっこうほとなれば、落選らくせんの場合ばあいを想定そうていすれば、次回じかいの総そう選挙せんきょにこの選挙せんきょ区くで立候補りっこうほする以外いがいに道みちはない。しからば当分とうぶん、東京とうきょう移住いじゅうは不可能ふかのうだし、その結果けっか同盟どうめい会長かいちょうを辞任じにんするほかはない」として、兵庫ひょうご県けん第だい2区くからの立候補りっこうほを決きめ、山名やまなはこれを止とめないこととなった。1930年ねん1月がつ4日にち、棚橋たなはしは阪本さかもと勝まさる方かたで兵庫ひょうご県けん第だい2区くからの立候補りっこうほを正式せいしきに表明ひょうめいし、2月がつ20日はつかの衆議院しゅうぎいん解散かいさんを受うけて選挙せんきょ戦せんを開始かいしした。選挙せんきょ事務じむ長ちょうは阪本さかもと勝まさるとして、選挙せんきょ地盤じばんの尼崎あまがさき市し・西宮にしのみや市し・武庫むこ郡ぐん・川辺かわべ郡ぐん・有馬ありま郡ぐんは藤岡ふじおか文六ぶんろくが、津名つな郡ぐん・三原みはら郡ぐんは労働ろうどう同盟どうめい書記しょきの岩いわ井伊いい久太きゅうたが担当たんとうすることとした。しかし、選挙せんきょ資金しきん不足ふそくは著いちじるしい状態じょうたいであり開票かいひょうの結果けっか、得票とくひょうは4,148票ひょうで下位かいから2位いの惨敗ざんぱいであった。この選挙せんきょ戦せんの間あいだも労働ろうどう組合くみあいの合同ごうどう問題もんだいの話はなしは進すすんでおり、選挙せんきょ後ごの5月8日にちに上条かみじょうと話はなした際さいに合同ごうどう成立せいりつ前まえに状況じょうきょう移転いてんがない場合ばあいは合同ごうどう成立せいりつ後ごの推薦すいせんは難むずかしい旨むねが伝つたえられた。これを受うけ棚橋たなはしは、5月14日にちに上京じょうきょうして麻生あそう・山名やまな・上条かみじょうと会談かいだんして合同ごうどう後ごの組織そしきの会長かいちょうは断念だんねんすることを伝つたえた。5月31日にち、日本にっぽん労働ろうどう組合くみあい同盟どうめいと労働ろうどう組合くみあい全国ぜんこく同盟どうめいは合同ごうどう委員いいん会かいを開催かいさいして棚橋たなはしは議長ぎちょうを務つとめたが、翌日よくじつ開催かいさいされた合同ごうどう大会たいかいにおいて会長かいちょうには大矢おおや省三しょうぞう（のち衆議院しゅうぎいん議員ぎいん）が就任しゅうにんした。総そう選挙せんきょにおける惨敗ざんぱいと組合くみあい同盟どうめい会長かいちょう辞職じしょくののち、棚橋たなはしは中央ちゅうおうから徐々じょじょに後退こうたいし、また交友こうゆう上じょうにおいても麻生あそう・山名やまな・岸井きしい・上条かみじょう・阪本さかもとなどとの関係かんけいが気きまずい関係かんけいになっていった。

1936年ねん3月2日にち、棚橋たなはしは洲本すもと町まち会議かいぎ員いんに三さん選せんを果はたす。しかし、三さん選せんを果はたしたものの棚橋たなはしはこの以前いぜんから「自分じぶんとしても選挙せんきょ区くを持もたねばならない」という考かんがえから松本まつもとへの帰郷ききょうを考かんがえるようになった。10月に棚橋たなはしは遂ついに松本まつもとへの帰郷ききょうを決意けついしてまず、長男ちょうなん・泰たい助すけを松本まつもと中学校ちゅうがっこうへ転校てんこうさせた後のち、11月22日にちに淡路あわじを発たって松本まつもとへ移転いてんした。11月26日にちには弁護士べんごし事務所じむしょの看板かんばんを出だし、松本まつもとにおける生活せいかつを開始かいしした。

松本まつもと時代ときよ（1937年ねんから終戦しゅうせんまで）

第だい20回かい総そう選挙せんきょへの出馬しゅつば

1937年ねんの総そう選挙せんきょ時どきの選挙せんきょ事務所じむしょ風景ふうけい。左ひだりから一いち人にんおいて妻つまの孝子こうし・百瀬ももせ嘉郎よしろう・棚橋たなはし・林はやし虎雄とらお・山本やまもと初吉はつきち。

1937年ねんの社会しゃかい大衆たいしゅう党とう皇軍こうぐん慰問いもん。左ひだりから佐竹さたけ新市しんいち・二に人にんおいて棚橋たなはし・河野こうの密ひそか・寺内てらうち寿一ひさいち・河上かわかみ丈たけ太郎たろう・田た万まん清きよし臣しん・西尾にしお末広すえひろ

1937年ねん3月31日にち、林はやし銑ずく十じゅう郎ろう内ない閣かくは衆議院しゅうぎいんを解散かいさんし（いわゆる「食くい逃にげ解散かいさん」）、これによって総そう選挙せんきょが行おこなわれることとなった。棚橋たなはしは長野ながの県けん第だい4区く から立候補りっこうほすることとし、選挙せんきょ事務じむ長ちょうの百瀬ももせ嘉郎よしろう（東筑摩ひがしちくま郡ぐん連合れんごう青年せいねん団だん長ちょう、のち長野ながの県けん翼賛よくさん壮年そうねん団だん本部ほんぶ長ちょう）を中心ちゅうしんとして、代用だいよう教員きょういん時代じだいの教おしえ子ごである和田わだ村長そんちょうの上条じょうじょう海かい次郎じろうや波田なみた産業さんぎょう組合くみあい専務せんむ理事りじの伊藤いとう茂しげる策さくなど、県けん連合れんごう青年せいねん団だんの幹部かんぶから上条かみじょう次郎じろう（神林かみはやし村むら助役じょやく、農のう革かわ同盟どうめい長野ながの県けん書記しょき長ちょう）や所ところ貞さだ門もん（のち東筑摩ひがしちくま郡ぐん翼賛よくさん壮年そうねん団長だんちょう）など、更さらに社会しゃかい大衆たいしゅう党とう から林はやし虎雄とらおや山本やまもと初吉はつきちなど、また東京とうきょうから新人しんじん会かいの喜入きいれ虎太郎とらたろうや作家さっかの葉山はやま嘉樹よしきなどで選挙せんきょ組織そしきを構成こうせいした。尚なお、棚橋たなはしは当時とうじまだ淡路あわじから移住いじゅうしたばかりであったこともあり、この選挙せんきょ組織そしきは主おもに林はやし虎雄とらおが担当たんとうしていた。棚橋たなはし陣営じんえいは、第だい19回かい総そう選挙せんきょ時ときにトップ当選とうせんを果はたし、1936年ねん12月に死去しきょした中立ちゅうりつ候補こうほの畔田あぜた明あきらの支持しじ者しゃを全ぜん選挙せんきょ区くにおいてほぼ棚橋たなはし支持しじにすることに成功せいこうし、更さらに東筑摩ひがしちくま郡ぐんにおいては社会しゃかい大衆たいしゅう党とう長野ながの県けん支部しぶ連合れんごうの青年せいねん団だん幹部かんぶや代用だいよう教員きょういん時代じだいの関係かんけい者しゃ、少年しょうねん時代じだいの生おい立たちの地ちの人々ひとびと、南安曇みなみあずみ郡ぐんにおいては農民のうみん・旧きゅう党とうの関係かんけい者しゃの支持しじがそれぞれ得えられたが、一方いっぽうで北安曇きたあずみ郡ぐんでの支持しじは伸のび悩なやんでいた。当時とうじの新聞しんぶんで棚橋たなはし・喜入きいれ・林はやしの三さん名めいを「三さん虎とら隊たい」とはやし立たて、人気にんきは良よかったと林はやし虎雄とらおは回想かいそうしている。しかし、棚橋たなはし陣営じんえいが配布はいふしていた立候補りっこうほ挨拶あいさつ状じょうに印刷いんさつされた写真しゃしんの中なかで棚橋たなはしが佐野さの学まなぶや幸徳こうとく秋水しゅうすいと写うつっている写真しゃしんがあり、棚橋たなはしの対抗たいこう馬ばであった立憲りっけん養やしなえ正せい会かいの田中たなか耕こうはこれを棚橋たなはしが共産きょうさん主義しゅぎ者しゃの証拠しょうこだとして逆ぎゃく宣伝せんでんした結果けっか、棚橋たなはしの支持しじ基盤きばんの一ひとつであった教育きょういく界かいの支持しじを失うしない、4月がつ30日にちの投票とうひょうの結果けっか9,669票ひょうの次点じてんでの落選らくせんであった。但ただし、松本まつもと市しで得票とくひょう第だい3位い、市域しいきの村むらである島立しまだち村むら・和田わだ村むらでは得票とくひょう第だい1位いという善戦ぜんせんぶりで注目ちゅうもくされ、この善戦ぜんせんに対たいして『信濃毎日新聞しなのまいにちしんぶん』5月2日にち付づけでは社会しゃかい大衆たいしゅう党とうの善戦ぜんせんについては将来しょうらいに期待きたいがもてる、と好感こうかんをもって迎むかえられた。選挙せんきょ落選らくせん後ご、棚橋たなはし陣営じんえいは買収ばいしゅう饗応きょうおうの嫌疑けんぎで5月がつ2日にち正午しょうごまでに15名めいが取調とりしらべを受うけたが、林はやし虎雄とらおが留置とめおき関係かんけい者しゃの釈放しゃくほうを求もとめるなどして取調とりしらべ終了しゅうりょう後ごに逐次ちくじ帰宅きたくが許ゆるされた。しかし、5月4日にちには幹部かんぶ2名めいが松本まつもと刑務所けいむしょに強制きょうせい収容しゅうようされ、更さらに諏訪すわ市しの林はやし宅たくに逃のがれていた棚橋たなはしと百瀬ももせも逮捕たいほされ、最終さいしゅう的てきに百瀬ももせほか6名めいが公判こうはんに付ふされてそれぞれ禁固刑きんこけいや懲金刑けいの判決はんけつが下くだされたが、文書ぶんしょ違反いはん程度ていどで解決かいけつをみて、百瀬ももせには後のちに執行しっこう猶予ゆうよとなった。

総そう選挙せんきょで次点じてんとなった棚橋たなはしは社会しゃかい大衆たいしゅう党とう松本まつもと支部しぶを結成けっせいして、自みずからの政治せいじ基盤きばんの拡大かくだいを図はかった。更さらに11月29日にちから社会しゃかい大衆たいしゅう党とう第だい6回かい全国ぜんこく大会たいかいで決定けっていとなった皇軍こうぐん慰問いもんに参加さんかした。この皇軍こうぐん慰問いもん団だんは満州まんしゅう班はん・上海しゃんはい班はん・北きた支ささえ班はんに分わけられており、棚橋たなはしは北きた支ささえ班はんに参加さんかした。1938年ねん12月11日にち、社会しゃかい大衆たいしゅう党とう県けん連合れんごう大会たいかいが開催かいさいされ、県けん連合れんごう委員いいん長ちょうに選出せんしゅつされた。党内とうないで着実ちゃくじつに中央ちゅうおうへの進出しんしゅつを進すすめていた棚橋たなはしであったが、1939年ねん2月がつに社会しゃかい大衆たいしゅう党とうと東方とうほう会かいの合同ごうどうに失敗しっぱいして以降いこう、新しん体制たいせい運動うんどうの中心ちゅうしんとなっていった社会しゃかい大衆たいしゅう党とうは1940年ねん7月がつ6日にちに解党かいとうし、更さらに党とうの中心ちゅうしんにいた麻生あそうも9月6日にちに死去しきょしたこともあって独自どくじで選挙せんきょ地盤じばんを固かためざるを得えなくなった。この間あいだ、1939年ねん6月18日にちに妻つまの孝子こうしが胃いガンのため死去しきょしている。

東亜とうあ連盟れんめい参加さんかから翼賛よくさん選挙せんきょ出馬しゅつば断念だんねんへ

1941年ねん3月16日にち、棚橋たなはしは東亜とうあ連盟れんめいの南みなみ信しん支部しぶ発足ほっそくに関与かんよしてその発会はっかい式しきでは座長ざちょうを務つとめた。この発会はっかい式しきにおいて南みなみ信しん支部しぶ長ちょうには林はやし虎雄とらおが選出せんしゅつされたが、のちに棚橋たなはしが支部しぶ長ちょうに就任しゅうにんした。棚橋たなはしの東亜とうあ連盟れんめい参加さんかは他たの旧きゅう社会しゃかい大衆たいしゅう党とう主流しゅりゅう派はの人物じんぶつたちと行動こうどうを共ともにしたもので、南みなみ信しん支部しぶから分わかれる形かたちで同年どうねん6月がつには北信ほくしん支部しぶが、11月に中ちゅう信しん支部しぶがそれぞれ発足ほっそくした。各かく支部しぶは1942年ねん12月当時とうじで北信ほくしん支部しぶが28人にん、中ちゅう信しん支部しぶが120人にん、南みなみ信しん支部しぶが143人にんの会員かいいんを擁ようし、独自どくじの選挙せんきょ地盤じばんとして形成けいせいされていった。棚橋たなはしは1942年ねんに入はいると、次期じき総そう選挙せんきょ出馬しゅつばに向むけた動うごきを活発かっぱつ化かさせていく。これは、衆議院しゅうぎいん議員ぎいんノ任期にんき延長えんちょうニ関せきスル法律ほうりつによって総そう選挙せんきょの実施じっし時期じきの特定とくていが可能かのうであったからであり、棚橋たなはしは上京じょうきょうして推薦すいせん制せいの見通みとおしを探さぐると共ともに、大政たいせい翼賛よくさん会かいへの「売うり込こみ」と旧きゅう社会しゃかい大衆たいしゅう党員とういんへの「顔かおつなぎ」を行おこなった。更さらに東亜とうあ連盟れんめい本部ほんぶに赴おもむき、木村きむら武雄たけおから「立候補りっこうほの場合ばあいは千せん円えん補助ほじょす」という約束やくそくの取とり付つけに成功せいこうし、また原はら玉たま重じゅう から「翼賛よくさん会かい事務じむ総長そうちょう横山よこやま助成じょせいの手てに推薦すいせんしてある」という連絡れんらくがあるなど東亜とうあ連盟れんめいを通とおしても「売うり込こみ」を展開てんかいしていた。棚橋たなはしは東亜とうあ連盟れんめいばかりでなく、右翼うよく政党せいとうである大だい日本にっぽん党とうや右翼うよく系けい政治せいじ家かとして知しられていた中原なかはら謹司が率ひきいる東亜とうあ建設けんせつ国民こくみん連盟れんめい長野ながの県けん支部しぶも通とおしながら総そう選挙せんきょに向むけた動うごきを本格ほんかく化かさせていったが、最終さいしゅう的てきに4月がつ1日にちに翼賛よくさん政治せいじ体制たいせい協議きょうぎ会かいの推薦すいせんが受うけられないことが決きまったことを受うけて第だい21回かい衆議院しゅうぎいん議員ぎいん総そう選挙せんきょへの出馬しゅつばを断念だんねんした。

総そう選挙せんきょへの出馬しゅつば断念だんねんを決きめた直後ちょくごの4月がつ10日とおか、棚橋たなはしは松本まつもと市し会議かいぎ員いん選挙せんきょへの出馬しゅつばを志こころざした。市会しかい選挙せんきょにおいても推薦すいせん制せいが採用さいようされたが、組織そしきされた松本まつもと市し会議かいぎ員いん翼賛よくさん選挙せんきょ協議きょうぎ会かいに棚橋たなはしと親したしい丸山まるやま恒人つねと（片倉かたくら製糸せいし松本まつもと工場こうじょう長ちょう）や、松本まつもと中学ちゅうがく同窓どうそうの多田ただ助一すけいち郎ろうなどが入はいったこともあり、5月9日にちに棚橋たなはしは推薦すいせん候補者こうほしゃになった。5月24日にち、前日ぜんじつまでに非ひ推薦すいせんの立候補者りっこうほしゃが出でなかったことから、棚橋たなはしは無む投票とうひょうで松本まつもと市し会議かいぎ員いんに当選とうせんし、以後いご松本まつもと市し会かいを中心ちゅうしんに政治せいじ活動かつどうを展開てんかいしていく。松本まつもと市し会議かいぎ員いんとして棚橋たなはしは、1944年ねんに大政たいせい翼賛よくさん会かい松本まつもと支部しぶ常務じょうむ委員いいん筆頭ひっとうとなり、さらに翌よく1945年ねんには5月に松本まつもと市し国民こくみん義勇ぎゆう隊たい参与さんよ、翌月よくげつには松本まつもと市し参事さんじ会かい員いんとなった。

松本まつもと時代ときよ（終戦しゅうせんから死去しきょまで）

国政こくせいへの進出しんしゅつ

1945年ねん8月がつ15日にちの敗戦はいせんを受うけて、棚橋たなはしは9月23日にちに旧きゅう社会しゃかい大衆たいしゅう党員とういん懇談こんだん会かいを開催かいさいして選挙せんきょ態勢たいせいの発足ほっそくを図はかった。11月2日にちに日本にっぽん社会党しゃかいとうが結党けっとうし、その結成けっせい大会たいかいにおいて棚橋たなはしは中央ちゅうおう執行しっこう委員いいんに選出せんしゅつされる。更さらに12月5日にちには、社会党しゃかいとう松本まつもと支部しぶを結成けっせいして支部しぶ長ちょうに、12月9日にちには社会党しゃかいとう長野ながの県けん連合れんごう会かい結成けっせい大会たいかいで執行しっこう委員いいん長ちょうにそれぞれ就任しゅうにんした。12月22日にちには長野ながの県けん第だい4区くの正式せいしき候補者こうほしゃに決定けっていしたが、1947年ねんに長野ながの県けんは特例とくれいで大だい選挙せんきょ区く連記れんき制せいが採とられることになった関係かんけいで、新あらたに清水しみず敬一けいいち郎ろうと菅かん沢津さわづ郷きょうが棚橋たなはしと共ともに選挙せんきょを戦たたかうことになった。3月11日にち、棚橋たなはしは総そう選挙せんきょへの立候補りっこうほ届出とどけでを行おこない、4月がつ10日とおかの投票とうひょうの結果けっか得票とくひょう第だい7位いの62,309票ひょうで衆議院しゅうぎいん議員ぎいんに初はつ当選とうせんを果はたした。しかし、翌よく1947年ねん3月31日にちに議会ぎかいは解散かいさんし（「新しん憲法けんぽう解散かいさん」）、更さらに4月がつ6日にちに東亜とうあ連盟れんめい関与かんよのために公職こうしょく追放ついほうが確実かくじつとなり、議員ぎいんを失職しっしょくした。この間あいだ、棚橋たなはしは初はつの民選みんせん知事ちじを選出せんしゅつする長野ながの県知事けんちじ選挙せんきょの候補者こうほしゃ銓衡せんこうに奔走ほんそうし、本ほん藤ふじ恒松つねまつ（社会党しゃかいとう衆議院しゅうぎいん議員ぎいん）ほか17名めいと「鷹たかの湯ゆ会議かいぎ」を行おこなって林はやし虎雄とらおを知事ちじ選せんの候補者こうほしゃに決定けっていした。林はやしは4月がつ7日にちの選挙せんきょで当選とうせんし、以後いご三さん選せんすることになった。1948年ねん5月22日にち、公職こうしょく追放ついほうが解除かいじょされて12月23日にちの「馴なれ合あい解散かいさん」が起おこると、早速さっそく立候補りっこうほした。しかし、1949年ねん1月がつ23日にちの投票とうひょうの結果けっか落選らくせんし、これを受うけて4月がつ14日にちには社会党しゃかいとう大会たいかい代議員だいぎいんを除のぞかれた。12月18日にち、棚橋たなはしは県けん連合れんごう大会たいかいで参議院さんぎいん候補こうほに推おされて1950年ねん5月3日にちに第だい2回かい参議院さんぎいん議員ぎいん通常つうじょう選挙せんきょへの立候補りっこうほ（長野ながの選挙せんきょ区く）を表明ひょうめいし、6月4日にちの投票とうひょうの結果けっか205,305票ひょうを獲得かくとくしてトップ当選とうせんを果はたした。7月がつ11日にち、棚橋たなはしは参議院さんぎいん社会党しゃかいとう議員ぎいん副ふく会長かいちょうに就任しゅうにんした。

1951年ねん10月に開催かいさいされた社会党しゃかいとう大会たいかいが開催かいさいされると、講和こうわ条約じょうやくをめぐって左右さゆうに分裂ぶんれつし、棚橋たなはしは社会党しゃかいとう右派うはに所属しょぞくした。1952年ねん4月がつ15日にち、社会党しゃかいとう右派うは県連けんれん結成けっせい大会たいかいが開催かいさいされ、翌よく1953年ねん2月がつ22日にちには県連けんれん委員いいん長ちょうに就任しゅうにんした。更さらに1954年ねん1月がつの党とう大会たいかいでは、再度さいど中央ちゅうおう執行しっこう委員いいんに就任しゅうにんして右派うはの重鎮じゅうちんとしてその姿すがたを示しめした。その後ご、左右さゆうは統一とういつされたが棚橋たなはしは県連けんれん大会たいかい委員いいん長ちょうを留任りゅうにんされ、1956年ねん7月がつ8日にちの第だい4回かい参議院さんぎいん議員ぎいん通常つうじょう選挙せんきょの結果けっか、340,871票ひょうで再度さいどトップ当選とうせんを果はたした。1959年ねん9月、社会党しゃかいとうが西尾にしお末広すえひろ問責もんせき問題もんだいで紛糾ふんきゅうすると、10月25日にちに衆議院しゅうぎいん議員ぎいん21名めい・棚橋たなはしほか参議院さんぎいん議員ぎいん11名めいと共ともに社会党しゃかいとうを脱党だっとうして「社会しゃかいクラブ」を、12月29日にちにこれを改称かいしょうして「民社みんしゃクラブ」、翌よく1960年ねん1月がつ24日にちに更さらに改称かいしょうして民主みんしゅ社会党しゃかいとうを結成けっせいした。しかし、1961年ねん5月に心臓しんぞうに異常いじょうを感かんじ始はじめたことから引退いんたいを考かんがえはじめ、民主みんしゅ社会党しゃかいとう県連けんれん選対せんたい委員いいん会かいから参院さんいん選せん再さい出馬しゅつばの要請ようせいがあったもののこれを辞退じたいした。1962年ねん5月7日にち、第だい40国会こっかい閉会へいかいに際さいして民主みんしゅ社会党しゃかいとう両院りょういん議員ぎいん総会そうかいで引退いんたいの演説えんぜつを行おこない、国政こくせいから退しりぞいた。

国政こくせい引退いんたい後ご

議員ぎいん引退いんたい後ごの1965年ねんに叙勲じょくんを辞退じたいし、翌よく1966年ねん8月がつから自伝じでんの執筆しっぴつに取とりかかった。1968年ねん8月がつ4日にちに『自伝じでん（一いち）』をタイプ印刷いんさつで刊行かんこうし、1969年ねん3月がつ10日とおかに尚志ひさし社しゃの記念きねん碑ひ「尚志ひさし社しゃの跡あと」のため揮毫きごうを行おこなった（4月がつ10日とおかに除幕じょまく式しきが行おこなわれた。）。10月1日にち、再度さいど叙勲じょくんを辞退じたいした後のちに翌よく1970年ねんに入はいると心臓しんぞう発作ほっさで入退院にゅうたいいんし、その後ご各地かくちを旅行りょこうした。1973年ねん2月がつ20日はつか、心筋梗塞しんきんこうそくのため自宅じたくで死去しきょした。

棚橋たなはし小しょう虎とら日記にっき

棚橋たなはし小しょう虎とらは松本まつもと中学校ちゅうがっこう在学ざいがく中ちゅうの1902年ねん1月がつ1日にちから日記にっきを書かき始はじめ、死去しきょの前日ぜんじつまで書かき進すすめられた。この日記にっきは、他たの棚橋たなはし小しょう虎とら関係かんけい文書ぶんしょと共ともに遺族いぞくによって法政大学ほうせいだいがく大原おおはら社会しゃかい問題もんだい研究所けんきゅうじょに寄贈きぞうされた。棚橋たなはし小しょう虎とら関係かんけい文書ぶんしょは日記にっき69冊さつをはじめとして、467通つうもの書簡しょかんや46葉ようもの写真しゃしん、『自伝じでん』の自筆じひつ原稿げんこうなどで構成こうせいされており、「戦中せんちゅうから戦後せんごにかけての庶民しょみんの記録きろくとしても、社会しゃかい運動うんどう家かの記録きろくとしても稀有けうであり、極きわめて興味深きょうみぶかい歴史れきし資料しりょう」とされている。伊藤いとう隆たかしは日記にっきを「社会しゃかい運動うんどう研究けんきゅうのこの上うえない貴重きちょうな記録きろく」として重要じゅうよう視しし、日記にっきの複写ふくしゃ物ぶつを所有しょゆうしていたが、2008年ねんに国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん憲政けんせい資料しりょう室しつに移管いかんされた。棚橋たなはし小しょう虎とら日記にっきの内容ないようは詳細しょうさいを極きわめており、几帳面きちょうめんに天候てんこうや祝祭日しゅくさいじつなどが書かかれ、更さらに人名じんめいもフルネームで表記ひょうきされていることが多おおい一方いっぽうで、自みずからの直截ちょくせつ的てきな心情しんじょうや女性じょせい関係かんけいも赤裸々せきららに記載きさいされている。また、政治せいじ活動かつどうとは関係かんけいのない生活せいかつや食事しょくじの様相ようそうなどの記述きじゅつも多おおく棚橋たなはし日記にっきの特徴とくちょうとされている。これら棚橋たなはし日記にっきは長井ながい純じゅん市しが担当たんとうする法政大学ほうせいだいがく日本にっぽん近代きんだい史し演習えんしゅうの受講じゅこう生せいによって翻刻ほんこく及および内容ないよう調査ちょうさが行おこなわれている。尚なお、翻刻ほんこくの成果せいかは、2009年ねんに『棚橋たなはし小しょう虎とら日記にっき（昭和しょうわ二に十じゅう年ねん）』として、2011年ねんに『棚橋たなはし小しょう虎とら日記にっき（昭和しょうわ十じゅう七なな年ねん）』として、2014年ねんに『棚橋たなはし小しょう虎とら日記にっき（昭和しょうわ十じゅう八はち年ねん）』としてそれぞれ法政大学ほうせいだいがく大原おおはら社会しゃかい問題もんだい研究所けんきゅうじょのワーキング・ペーパーとして刊行かんこうされ、翻刻ほんこく作業さぎょうは続つづいている。

参考さんこう文献ぶんけん

書籍しょせき

• 棚橋たなはし小しょう虎とら追悼ついとう集しゅう刊行かんこう会かい編へん『追想ついそう棚橋たなはし小しょう虎とら』棚橋たなはし小しょう虎とら追悼ついとう集しゅう刊行かんこう会かい、1974年ねん
• 坂本さかもと令太郎れいたろう『近代きんだいを築きずいたひとびと 5』信濃しなの路ろ、1978年ねん
• 深志ふかし人物じんぶつ誌し編集へんしゅう委員いいん会かい編へん『深志ふかし人物じんぶつ誌し』松本まつもと深志ふかし高等こうとう学校がっこう同窓会どうそうかい、1987年ねん
• 棚橋たなはし小しょう虎とら『小しょう虎とらが駆かける』毎日新聞社まいにちしんぶんしゃ、1999年ねん　ISBN 4-620-31414-5
• 長井ながい純じゅん市し・渡辺わたなべ穣みのる・2006・2007年度ねんど法政大学ほうせいだいがく日本にっぽん近代きんだい史し演習えんしゅう受講じゅこう生せい編へん『棚橋たなはし小しょう虎とら日記にっき（昭和しょうわ二に十じゅう年ねん）』法政大学ほうせいだいがく大原おおはら社会しゃかい問題もんだい研究所けんきゅうじょ、2009年ねん
• 長井ながい純じゅん市し・渡辺わたなべ穣みのる・2008・2009・2010年度ねんど法政大学ほうせいだいがく日本にっぽん近代きんだい史し演習えんしゅう受講じゅこう生せい編へん『棚橋たなはし小しょう虎とら日記にっき（昭和しょうわ十じゅう七なな年ねん）』法政大学ほうせいだいがく大原おおはら社会しゃかい問題もんだい研究所けんきゅうじょ、2011年ねん
• 長井ながい純じゅん市し・渡辺わたなべ穣みのる・田上たうえ慎一しんいち・2010・2011・2012・2013年度ねんど法政大学ほうせいだいがく日本にっぽん近代きんだい史し演習えんしゅう受講じゅこう生せい編へん『棚橋たなはし小しょう虎とら日記にっき（昭和しょうわ十じゅう八はち年ねん）』法政大学ほうせいだいがく大原おおはら社会しゃかい問題もんだい研究所けんきゅうじょ、2014年ねん

論文ろんぶん

• 中島なかじまさくら「一いち九きゅう三さん七なな年ねんにおける棚橋たなはし小しょう虎とらと社会しゃかい大衆たいしゅう党とう」法政大学ほうせいだいがく史学しがく会かい『法政ほうせい史学しがく』72号ごう、2009年ねん

関連かんれん人物じんぶつ

• 吉野よしの作造さくぞう - 帝みかど大時代おおじだいの恩師おんし。
• 麻生あそう久ひさ、山名やまな義よし鶴づる - 三高さんこう時代じだいからの活動かつどうを共ともにしてきた社会しゃかい運動うんどう家か。
• 岸井きしい成しげる格かく - 棚橋たなはし小しょう虎とらの妻つま・孝子こうしの叔父おじにあたる岸井きしい寿郎としおの三男さんなんである。
• 米谷こめたに達也たつや、米谷こめたに匡史ただし - 棚橋たなはし小しょう虎とらと縁戚えんせき関係かんけいにある米谷こめたに義隆よしたかの孫まご。
• 伊藤いとう隆たかし - 棚橋たなはし小しょう虎とら日記にっきの複写ふくしゃ物ぶつを2008年ねんまで保管ほかんしていた。
• 長井ながい純じゅん市し - 棚橋たなはし小しょう虎とら日記にっきの翻刻ほんこく作業さぎょうを指導しどうしている。

関連かんれん項目こうもく

• 日本にっぽん労農ろうのう党とう
• 日本にっぽん労働ろうどう組合くみあい同盟どうめい
• 社会しゃかい大衆たいしゅう党とう
• 民主みんしゅ社会党しゃかいとう

外部がいぶリンク

• 法政大学ほうせいだいがく大原おおはら社会しゃかい問題もんだい研究所けんきゅうじょHP

議会ぎかい
先代せんだい 大竹おおたけ平八郎へいはちろう	参議院さんぎいん大蔵おおくら委員いいん長ちょう 1962年ねん	次代じだい 永末ながすえ英一ひでかず
先代せんだい 江田えだ三郎さぶろう	参議院さんぎいん農林のうりん水産すいさん委員いいん長ちょう 1955年ねん - 1956年ねん	次代じだい 戸と叶かのう武たけし