ダニエル

ダニエル（ヘブライ語ご: דָּנִיּאֵל 現代げんだいヘブライ語ご: Daniyyel, アラビア語ご: Dāniyāl, دانيال）は旧約きゅうやく聖書せいしょの『ダニエル書しょ』に登場とうじょうするユダヤ人じん男性だんせい。ユダヤ名めいがダニエルで、ベルテシャツァルはバビロンの宮廷きゅうていでつけられた名前なまえである。ダニエルとは、ヘブライ語ごで「神かみは私わたしの裁判官さいばんかんである」という意味いみがある。キリスト教きりすときょうにおいては預言よげん者しゃだが、ユダヤ教きょうでは預言よげん者しゃとはみなされない。ダニエル書しょの伝つたえるダニエルの物語ものがたりは以下いかのようなものである。 正教会せいきょうかいでダニイルと呼よばれ聖人せいじんとされる。

経歴けいれき

紀元前きげんぜん6世紀せいき、エルサレムを陥落かんらくさせたバビロンのネブカドネツァル王おうは、自分じぶんの占領せんりょう行政ぎょうせいの官吏かんりを養成ようせいするため、ユダヤ人じんの「王族おうぞくと貴族きぞくの中なかから、体からだに難点なんてんがなく、容姿ようしが美うつくしく、何事なにごとにも才能さいのうと知恵ちえがあり、知識ちしきと理解りかい力りょくにとみ、宮廷きゅうていに仕つかえる能力のうりょくのある」（ダニエル1:4）少年しょうねんたちを選えらび出だして連つれてこさせ、カルデア語ごを学まなばせた。

ベルテシャツァルと呼よばれることになったダニエルはその一人ひとりであった。ダニエルをリーダーとするシャドラク、メシャク、アベド・ネゴの四よん人組にんぐみは、異邦いほう人じんの地ちにあっても唯一ゆいいつの神かみへの信仰しんこうを守まもりぬき、「異邦いほう人じんの肉類にくるいと酒さけで自分じぶんを汚けがすまい」（ダニエル1:8）と誓ちかっていた。ダニエルらはぬきんでて優秀ゆうしゅうであったため、王おうに仕つかえて重用じゅうようされた。

『ライオンの穴あなの中なかのダニエル』1615年ねん頃ごろ ルーベンス

ダニエルはネブカドネツァル王おうの見みた人ひとの形かたちをした、巨大きょだいな力ちからある像ぞうで、まぶしく光ひかり輝かがやき、ぞっとするほど恐おそろしい姿すがたの像ぞう、頭あたまは純金じゅんきん、胸むねと両りょう腕うでは銀ぎん、腹はらとももは青銅せいどう、すねは鉄てつ、足あしは一部いちぶが鉄てつ、一部いちぶが粘土ねんどでできていて、見みているうちに、一ひとつの岩いわが、超ちょう自然しぜん的てきな方法ほうほうで山腹さんぷくから切きり出だされ、その岩いわは像ぞうに向むかって突進とっしんし、鉄てつと粘土ねんどの足あしを粉々こなごなに砕くだき、像ぞう全体ぜんたいは倒たおれ、鉄てつ、粘土ねんど、青銅せいどう、銀ぎん、金かねも砕くだけて破片はへんの山やまと化かし風ふうに吹ふき飛とばされた悪夢あくむを当あて、以下いかのように解といた。「王おうよあなたは、あの金かねの頭あたまです。しかし、王国おうこくの命運めいうんが尽つきると、別べつの強国きょうこく（メド・ペルシヤ）が代かわって起おこります。その国くには、王おうの王国おうこくに比くらべると劣おとります。この第だい二にの国くにが倒たおれると、巨きょ像ぞうの青銅せいどうの腹はらが表あらわす第だい三さんの強国きょうこく（ギリシヤ）が起おこり、世界せかいを支配しはいするようになります。 続つづいて、鉄てつのように強つよい第だい四よんの国くに（ローマ）が起おこり、その国くには、鉄てつが打うちくように他たの国々くにぐにを粉砕ふんさいし、征服せいふくしていくのです。一部いちぶが鉄てつで、一部いちぶが粘土ねんどでできている足あしは、のちに第だい四よんの国くにが分裂ぶんれつすることを示しめしています。分裂ぶんれつした国くにの一部いちぶは鉄てつのように強つよく、一部いちぶは粘土ねんどのようにもろいのです。この鉄てつと粘土ねんどの混合こんごうは、分裂ぶんれつした王国おうこく同士どうしが支配しはい者しゃ相互そうごの政略せいりゃく結婚けっこんによって同盟どうめいを結むすび、勢力せいりょくを強化きょうかしようとすることも示しめしています。しかし、それは成功せいこうしません。鉄てつと粘土ねんどとは混まじり合あわないからです。この王おうたちの時代じだいに、天てんの神かみは、決けっして滅ほろぼされることのない一ひとつの国くにを起おこします。だれもこの国くにを征服せいふくできません。その国くには、すべての国々くにぐにを打うち砕くだいて滅ほろぼします。まさに永遠えいえん不滅ふめつの国くになのです。これが、人手ひとでによらずに山腹さんぷくから切きり出だされた岩いわ、鉄てつも青銅せいどうも粘土ねんども銀ぎんも金かねもすべて粉々こなごなにしてしまったあの岩いわの意味いみするものです。偉大いだいな神かみが、このように将来しょうらい起おこることを示しめしたのです。」と。夢ゆめの謎なぞを解とき明あかしたことでダニエルはバビロン全ぜん州しゅうの長官ちょうかんに任命にんめいされた。また、ネブカドネツァルの子こベルシャツァル王おうが宴会えんかい中ちゅうに壁かべに字じを書かく指ゆびの幻まぼろしを見みたときも、その文字もじ『メネ』『メネ』『テケル』『パルシン』を読よみ、以下いかのように解読かいどくした。『メネ』は、数かぞえられたという意味いみで、神かみが王おうの治世ちせいの日数にっすうを数かぞえて、その日ひがもう尽つきた意味いみ、『テケル』は、はかりで量はかられたという意味いみで、王おうが神かみのはかりで量はかられ、審査しんさに落おちたということです。『パルシン』は、分割ぶんかつされたという意味いみで、王おうの国くにが分割ぶんかつされて、メディヤとペルシヤに与あたえられる、と解とき明あかしている。ペルシアがバビロンを征服せいふくしたのち、メディア人ひとダレイオスもダニエルを重用じゅうようしたが、他たの家臣かしんの陰謀いんぼうでダニエルはライオンの洞窟どうくつに投なげ込こまれることになった。しかし、ダニエルは神かみの力ちからによってライオンに襲おそわれることなく、逆ぎゃくにダニエルを陥おとしいれようとした者ものたちがライオンの餌えさとなった。

ダニエルが主あるじに祈いのっていると天使てんしガブリエルが現あらわれ、メシアに関かんする定さだめられた時ときについてのお告つげを受うけた事こともある。「大おおいに愛あいせられている者もの」と呼よばれている事ことから、主おものお気きに入いりだったとうかがえる。

旧約きゅうやく外典げてんのダニエル書しょ補遺ほいには、ダニエルがキュロス2世せい王おう治下ちかでベル神かみの祭司さいしと争あらそう物語ものがたり、および二人ふたりの男おとこに誣告ぶこくされた女おんなスザンナを巧妙こうみょうな裁判さいばん（スザンナが庭にわの樹木じゅもくの陰かげで逢あい引びきしていたならば、その樹木じゅもくの種類しゅるいは何なにかと個々ここに尋たずねると、二人ふたりはしどろもどろになって異ことなる樹木じゅもく名めいを答こたえたので、事実無根じじつむこんと判明はんめいする）で救すくう物語ものがたりが収録しゅうろくされている。後者こうしゃからダニエルは裁判さいばんの守護しゅご聖人せいじんとされた。シェイクスピアの『ヴェニスの商人しょうにん』では、ポーシャが肉にくを切きり取とっても良よいという判決はんけつを下くだしたので、シャイロックが名めい裁判官さいばんかんの例れいとしてダニエルが引ひき合あいに出だすが、それはこの旧約きゅうやく外典げてんの物語ものがたりにちなんでいる。

ヘブライ語ごでシュシャンと呼よばれるスーサには、ダニエルの墓はかとされるもの（シューシュ・ダニエル）がある（画像がぞう）。

旧約きゅうやく聖書せいしょにおけるダニエルの謎なぞ解とき

ネブカドネザル2世せいは夢ゆめの中なかで頭あたまが純金じゅんきん，胸むねと腕うでが銀ぎん，腹はらと腿ももが青銅せいどう、すねが鉄てつ、足あしは一部いちぶが鉄てつで一部いちぶが陶土とうどできた像ぞうの夢ゆめを見みた。そこに一いち個この石いしが投なげつけられ陶製とうせいの足あしを砕くだき、像ぞうは粉々こなごなになり、跡形あとかたも無なくなるが、石いしは山やまのようになって全ぜん地ちに拡ひろがるという夢ゆめであった。ダニエルは、金かねの頭あたまはネブカドネザル2世せいに代表だいひょうされる新しんバビロニア帝国ていこくであり、銀ぎん・青銅せいどう・鉄てつと陶土とうどはその後ごに興おこるより劣おとった帝国ていこく（すなわちメド・ペルシヤ連合れんごう帝国ていこく・アレクサンドロス大王だいおうのギリシヤ帝国ていこく・ロろーマ帝国まていこく）を表あらわし、最終さいしゅう的てきにこれらは永遠えいえんに続つづく神かみの王国おうこくによって滅ほろぼされるだろうと解といた。

次つぎにネブカドネザル2世せいが別べつな不吉ふきつな夢ゆめを見みた。それは天てんに達たっする一本いっぽんの高たかい木きに、豊ゆたかな実みが実みのり、鳥とりが巣すを作つくり、動物どうぶつは木陰こかげに宿やどっていたが、聖せいなる天使てんしが下くだって来きてその木きを切きり倒たおし、切きり株かぶだけを地中ちちゅうに残のこしたというものであった。ダニエルは、木きは栄光えいこうと権力けんりょくを握にぎる王おう自身じしんを表あらわし、主あるじがすべてを支配しはいする事ことを知しらせるために、王おうは動物どうぶつの境涯きょうがいに落おとされるであろうと解とき、ネブカドネザル2世せいに間まに合あううちにやり方かたを変かえるように説といた。1年ねん後ご、王おうが動物どうぶつのようになるといった予言よげんは実現じつげんされた。 次つぎの話はなしは、ベルシャザルが王宮おうきゅうで大だい宴会えんかいをしていたとき、一本いっぽんの手てが現あらわれ宴えん会場かいじょうの壁かべに「メネ、メネ、テケル、パルシン」と描えがいた。ダニエルは、メネは数かぞえるという事ことであり、神かみがあなたの治世ちせいを数かぞえてそれを終おわらせられたと解といた。テケルは量りょうを計はかることで、あなたは天秤てんびんにかけられ不足ふそくと見みられたと解といた。パルシンは分わけるという事ことで、あなたの王国おうこくはメディアとペルシャに与あたえられると解といた。

関連かんれん項目こうもく

• 聖書せいしょの登場とうじょう人物じんぶつの一覧いちらん
• ダニエル書しょ
• ダニエル書しょ補遺ほい
• 旧約きゅうやく聖書せいしょ続編ぞくへん