ホスバッハ覚書おぼえがき

会議かいぎが行おこなわれた総統そうとう官邸かんてい

ホスバッハ覚書おぼえがき（ホスバッハおぼえがき、ホスバッハ・メモランダム、英語えいご: Hossbach Memorandum、ドイツ語ご: Hoßbach-Niederschrift）は、1937年ねん11月5日にちにナチス・ドイツの総統そうとう官邸かんていにおいて開催かいさいされた、ドイツ国防こくぼう軍ぐん首脳しゅのうおよび外相がいしょうコンスタンティン・フォン・ノイラート、そして総統そうとうアドルフ・ヒトラーによる秘密ひみつ会議かいぎの概要がいようを記しるした覚書おぼえがき。この日ひの会議かいぎでヒトラーは初はじめて対外たいがい侵略しんりゃくの構想こうそうを明あかし、戦後せんごのニュルンベルク裁判さいばんにおいてはドイツの侵略しんりゃく準備じゅんびの証拠しょうことして採用さいようされた。ホスバッハとは、会議かいぎの出席しゅっせき者しゃの一人ひとりで、この覚書おぼえがきの作成さくせい者しゃである陸軍りくぐん参謀さんぼう本部ほんぶ中央ちゅうおう課長かちょう兼けん総統そうとう付づけ高級こうきゅう副官ふっかんフリードリヒ・ホスバッハ大佐たいさを指さす。

会議かいぎ開催かいさいまでの経緯けいい

ドイツ経済けいざいの隘路あいろ

「ナチス・ドイツの経済けいざい」も参照さんしょう

ナチ党とうの権力けんりょく掌握しょうあく以降いこう、ヒトラー政権せいけん下かでは軍備ぐんびの拡張かくちょう政策せいさくが次々つぎつぎに推おし進すすめられていた。しかしあまりに急速きゅうそくな軍需ぐんじゅ産業さんぎょうの拡大かくだいは、他たの経済けいざい分野ぶんやや陸海空りくかいくう軍ぐん間あいだでの軋轢あつれきを生うみ出だした。当時とうじドイツでは、一いち経済けいざい圏内けんないで経済けいざいを完結かんけつさせるアウタルキー政策せいさく（閉鎖へいさ経済けいざい）の傾向けいこうが強つよまっていた。さらに軍需ぐんじゅ方面ほうめんへの生産せいさん拡大かくだいは、必然ひつぜん的てきに輸出ゆしゅつ産業さんぎょうとなる分野ぶんやへの労働ろうどう力りょくや資源しげんの割わり当あてを減少げんしょうさせることとなり、外貨がいか不足ふそくが一層いっそう悪化あっかしつつあった。また1935年ねんと1936年ねんの不作ふさくによる食料しょくりょう品ひん輸入ゆにゅうの増大ぞうだいがこれに拍車はくしゃをかけた。

1937年ねん4月がつ2日にち、経済けいざい相しょうヒャルマル・シャハトは軍備ぐんび拡張かくちょう政策せいさくが輸出ゆしゅつの停滞ていたいを招まねき、その結果けっかの外貨がいか不足ふそくが農産物のうさんぶつなどの輸入ゆにゅうをも困難こんなんにすると警告けいこくしている。こうした経済けいざい危機ききを打開だかいする方策ほうさくとして、軍備ぐんび拡張かくちょう政策せいさくを緩和かんわし、国民こくみん生活せいかつを切きり詰つめて輸出ゆしゅつ産業さんぎょうを拡張かくちょうし、貿易ぼうえきを円滑えんかつ化かするために対外たいがい協調きょうちょう政策せいさくを推進すいしんする案あんと、戦争せんそうを起おこして敗者はいしゃから収奪しゅうだつする案あんという2つの選択肢せんたくしが存在そんざいしていた。

四よんカ年かねん計画けいかく

「四よんカ年かねん計画けいかく」も参照さんしょう

1936年ねん9月がつ9日にち、ナチ党とう党とう大会たいかいにおいて四よんカ年かねん計画けいかくの開始かいしが宣言せんげんされた。ヒトラーは計画けいかくのための覚書おぼえがきを作成さくせいしたが、その中なかでは現状げんじょうの打開だかいは「生存せいぞん圏けんの拡大かくだい、詳くわしく言いえば、つまり原料げんりょう基盤きばんと食糧しょくりょう基盤きばんの拡大かくだい」しかないとしており、「ドイツ経済けいざいとドイツ軍ぐんは4年ねん以内いないに戦争せんそうできる体制たいせいにならなければならない」とした。ヒトラーが選択せんたくしたのは戦争せんそうであり、いわゆる東方とうほう生存せいぞん圏けんの獲得かくとくによる解決かいけつ策さくであった。四よんカ年かねん計画けいかく全権ぜんけんには航空こうくう大臣だいじん兼けん空軍くうぐん総そう司令しれい官かんでもあるヘルマン・ゲーリングが任にんじられた。

しかし、四よんカ年かねん計画けいかく庁ちょうによって行おこなわれた鉄てつ・鉄鉱てっこう石せきなどの資源しげん割わり当あては、全ぜん産業さんぎょう分野ぶんやにおける深刻しんこくな原料げんりょう不足ふそくをもたらし、状況じょうきょうは一向いっこうに改善かいぜんされないどころか悪化あっかの一途いっとをたどることになった。軍需ぐんじゅ産業さんぎょうも十分じゅうぶんな生産せいさんを行おこなうことができず、軍備ぐんび拡大かくだいのペースが明あきらかに停滞ていたいし始はじめた。

会議かいぎの開催かいさい

会議かいぎ開催かいさいの要請ようせい

原料げんりょう不足ふそくは軍部ぐんぶ内ないにも陸海空りくかいくう軍ぐん間あいだにおける資源しげん収奪しゅうだつ競争きょうそうをもたらし、自みずからの権力けんりょくとヒトラーへの距離きょりによって空軍くうぐんに有利ゆうりな裁定さいていを行おこなうゲーリングへの不満ふまんが高たかまりつつあった。軍部ぐんぶ内ないで最もっとも不利ふりな立場たちばにあったのが、規模きぼが小ちいさく政治せいじ的てきな影響えいきょう力りょくの小ちいさい海軍かいぐんであった。海軍かいぐん総そう司令しれい官かんエーリヒ・レーダー提督ていとくは現状げんじょうの2倍ばいの鉄鋼てっこう割わり当あてが必要ひつようであると考かんがえた。レーダーは英えい独どく海軍かいぐん協定きょうていによる対たい英えい35％の海軍かいぐん力りょく、ヒトラーの命めいじた強力きょうりょくな戦艦せんかん製造せいぞう、対たい英えい戦せんに耐たえうる海軍かいぐん力りょくの増強ぞうきょうを考慮こうりょしていた。

1937年ねん10月がつ15日にち、レーダーは国防こくぼう大臣だいじんヴェルナー・フォン・ブロンベルク元帥げんすいに対たいし、建けん艦かんと設備せつび拡大かくだいを断念だんねんするか、もしくは海軍かいぐんへの鉄鋼てっこう割わり当あてを2倍ばいにするかという最後さいご通牒つうちょうを行おこなった。ブロンベルクもかねてからゲーリングに不信ふしん感かんを持もっており、さらに陸海りくかい軍ぐんのバランスを取とるためにもレーダーと協調きょうちょうする必要ひつよう性せいを感かんじていた。ナチ党とうの有力ゆうりょく者しゃであり、さらにブロンベルクと同格どうかくの大臣だいじんでもあったゲーリングを押おさえられるのはヒトラーしかおらず、「総統そうとうの決断けつだんを仰あおぐ」必要ひつようがあった。こうしてブロンベルクは原料げんりょう割当わりあて問題もんだいの最終さいしゅう的てき解決かいけつのために、会議かいぎの開催かいさいを要請ようせいした。ブロンベルクは陸海空りくかいくう軍ぐんに原料げんりょう問題もんだいに関かんする専門せんもん将校しょうこうを準備じゅんびしておくよう命令めいれいし、総統そうとう官邸かんていの次つぎの間まに控ひかえさせておいた。

ヒトラーの会議かいぎ構想こうそう

ところがヒトラーは原料げんりょう問題もんだいにおける調停ちょうていを行おこなうつもりはなかった。この問題もんだいにおいてはすべての関係かんけい者しゃが満足まんぞくする解決かいけつ策さくはあり得えず、さらに軍備ぐんび拡張かくちょう政策せいさく自体じたいが一種いっしゅの賭かけであることを表明ひょうめいしなければならない事態じたいに追おい込こまれることを怖こわれていた。ヒトラーは会議かいぎの方向ほうこう性せいを外交がいこう問題もんだいにすりかえることを望のぞみ、会議かいぎの直前ちょくぜんになって参加さんか者しゃとして外相がいしょうのコンスタンティン・フォン・ノイラートを加くわえさせた。

ニュルンベルク裁判さいばんにおいてゲーリングは、陸軍りくぐんの軍備ぐんび拡大かくだいのペースが遅おそいことからブロンベルクに不満ふまんを持もっていたヒトラーが、緊迫きんぱくした外交がいこう情勢じょうせいを説明せつめいすることで軍備ぐんび拡大かくだいの必要ひつよう性せいを示しめし、「はっぱをかける」ために会議かいぎを行おこなったと証言しょうげんしている。

会議かいぎ

11月5日にちの午後ごご4時じ15分ふん、総統そうとう官邸かんていの会議かいぎ室しつにおいて会議かいぎが開催かいさいされた。出席しゅっせきした軍ぐん首脳しゅのうたちは原料げんりょう問題もんだいには関係かんけいの無ないはずのノイラート外相がいしょうが出席しゅっせきしていることに驚おどろいた。会議かいぎの冒頭ぼうとう、ヒトラーはこれから述のべることは、テーマが重要じゅうようであるため閣議かくぎで議論ぎろんすることは差さし控ひかえるとした上うえで「自分じぶんが死しんだ場合ばあいに備そなえて遺言ゆいごんとして残のこしたものと見みなしていただきたい」と前置まえおきし、ドイツの政治せいじ目標もくひょうについて語かたり始はじめた。その後ごには外交がいこう政策せいさくについて語かたりはじめ、1945年ねんまでの段階だんかいで武力ぶりょくによる拡張かくちょうを目指めざすべきであると説といた。他たの参加さんか者しゃは後のちに意見いけんを述のべたものの、会議かいぎの第だい一部いちぶはほとんどヒトラーによる独演どくえん会かいであった。第だい二に部ぶには軍備ぐんび問題もんだいが話はなし合あわれた。会議かいぎが終了しゅうりょうしたのは午後ごご8時じ30分ふんであった。

出席しゅっせき者しゃ

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  アドルフ・ヒトラー（総統そうとう）
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  ヴェルナー・フォン・ブロンベルク（国防こくぼう大臣だいじん）
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  ヴェルナー・フォン・フリッチュ（陸軍りくぐん総そう司令しれい官かん）
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  エーリヒ・レーダー（海軍かいぐん総そう司令しれい官かん）
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  ヘルマン・ゲーリング（空軍くうぐん総そう司令しれい官かん・航空こうくう大臣だいじん）
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  コンスタンティン・フォン・ノイラート（外務がいむ大臣だいじん）
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  フリードリヒ・ホスバッハ（総統そうとう付づけ個人こじん副官ふっかん）

ヒトラーによる現状げんじょう認識にんしき

ヒトラーはドイツの政治せいじ目標もくひょうを「民族みんぞく共同きょうどう体たい8500万まん人にんの安全あんぜんと維持いじおよびその拡大かくだいにある」とした。ドイツ民族みんぞく共同きょうどう体たいを維持いじするためには、他たの人種じんしゅよりも広大こうだいな生活せいかつ空間くうかんが必要ひつようであり、それを一いち世代せだいか三さん世代せだいかの間あいだに見みつけ出だす必要ひつようがあると述のべた。またアウタルキー構築こうちくや世界せかい市場いちばへの参加さんかによってこの状況じょうきょうが改善かいぜんさせるかどうかを提示ていじしたが、アウタルキー政策せいさくは食糧しょくりょうや石炭せきたんの自給じきゅうが不可能ふかのうであるため実現じつげんできず、世界せかい市場いちばへの参加さんかはすでに植民しょくみん地ち化かされていない土地とちは存在そんざいせず、イギリスによって海うみが押おさえられている以上いじょう不可能ふかのうであるというものであった。そしてドイツは経済けいざいにとって必要ひつような原料げんりょう供給きょうきゅう地ちをドイツと地続じつづきであるヨーロッパに求もとめなければならないという結論けつろんが導みちびき出だされた。

しかしヨーロッパにおける領土りょうど拡大かくだいは、フランスおよびイギリスという「憎にくむべき敵てき」の反発はんぱつを招まねく可能かのう性せいがあるとした。イギリスとフランスはドイツを目めの上うえのこぶとして考かんがえており、これ以上いじょうドイツの拡大かくだいを望のぞんでいないため、旧きゅう植民しょくみん地ち（ドイツ植民しょくみん地ち帝国ていこく）を返還へんかんすることは、ドイツが軍事ぐんじ的てきにイギリスより強大きょうだいであるという状況じょうきょうしかないとした。しかし各かく自治領じちりょうの権利けんり拡大かくだいによって、やがてイギリス帝国ていこくは崩壊ほうかいするとみていた。フランスはイギリスより有利ゆうりであるが、内政ないせい的てきに問題もんだいを抱かかえているとしている。

ヒトラーによる戦争せんそう計画けいかく

ヒトラーはドイツが抱かかえている問題もんだいを解決かいけつするためには武力ぶりょくによるものしか存在そんざいせず、それをいつ、どのようにして行おこなうかが問題もんだいであるかとした。さらにヒトラーは戦争せんそうを行おこなうべきタイミングとして次つぎのパターンを挙あげた。

戦争せんそうを起おこすべきタイミング

ドイツ軍ぐんの拡張かくちょうと軍備ぐんびの状況じょうきょうは進展しんてんし、他国たこくに比くらべて近代きんだい化かしている。しかし1943年ねんから1945年ねんを過すぎると他国たこくに対たいするアドバンテージを失うしなうため、どんどん不利ふりになっていくとしている。また外貨がいか不足ふそくによって食糧しょくりょう危機ききを毎年まいとし招まねく可能かのう性せいも指摘してきしている。さらにナチ党とう指導しどう者しゃの高齢こうれい化かや産児さんじ制限せいげんによる青少年せいしょうねんの減少げんしょうや、国防こくぼう軍ぐんの維持いじの観点かんてんからも、この時期じき、もしくはそれ以前いぜんに行動こうどうを起おこさないという選択肢せんたくしはあり得えないとした。

また、この時期じき以前いぜんに戦争せんそうを起おこすべきタイミングとしては、フランスが内政ないせい上じょう、もしくは他国たこくの戦争せんそうに巻まき込こまれている時期じきであるとした。

戦争せんそうの目標もくひょう

戦争せんそうの目標もくひょうとしては第だい一いちにオーストリアとチェコスロバキアを同時どうじに打うち負まかすことであるとした。これは西方せいほうとの紛争ふんそうの際さいに、側面そくめんからの攻撃こうげきを回避かいひするためであるとし、さらに両国りょうこくから300万まん人にんの住民じゅうみんを追放ついほうして500万まん～600万まん人にん分ぶんの食糧しょくりょう供給きょうきゅう増加ぞうかがみこまれるとしていた。ヒトラーはフランスとイギリスがチェコスロバキアを内心ないしんで見捨みすてているとし、ドイツによって解決かいけつされることを容認ようにんしていると見みていた。またイタリア王国おうこくもチェコスロバキア処分しょぶんに異議いぎを持もち出ださないとみていたが、オーストリア問題もんだいについては不透明ふとうめいであり、すべてはベニート・ムッソリーニの存命ぞんめい次第しだいであるとした。さらに攻撃こうげきが迅速じんそくに行おこなわれれば、背後はいごにソビエトを抱かかえるポーランドも軍事ぐんじ介入かいにゅうを行おこなえないであろうと見みていた。

ヒトラーは当時とうじ進行しんこう中ちゅうであったスペイン内戦ないせんがまだ3年ねんほどは続つづくと考かんがえていた。しかし、フランシスコ・フランコの100％の勝利しょうりは望のぞましくなく、完全かんぜん勝利しょうり後ごにはスペインがバレアレス諸島しょとうに駐留ちゅうりゅうするイタリアの撤退てったいを求もとめるであろうと考かんがえていた。ドイツにとって望のぞましいのは地中海ちちゅうかいにおける緊張きんちょうの継続けいぞくであり、要地ようちであるバレアレス諸島しょとうへのイタリア駐留ちゅうりゅうの継続けいぞくはやがてフランスとイタリアの紛争ふんそうを招まねく可能かのう性せいがあるとした。ヒトラーはその時期じきを対たいオーストリア・チェコスロバキア戦争せんそうのタイミングであると指摘してきし、「電撃でんげき的てきに早はやく」奇襲きしゅう攻撃こうげきを行おこなわなければならないとした。

他たの参加さんか者しゃによる意見いけん

左ひだりからブロンベルク、フリッチュ、レーダー。1936年ねん9月がつ

ブロンベルクとヴェルナー・フォン・フリッチュ陸軍りくぐん総そう司令しれい官かんはヒトラーのフランス認識にんしきについて反論はんろんした。フリッチュはフランスがイタリア戦争せんそうを抱かかえていても、西部せいぶ戦線せんせんにおいてドイツ軍ぐんより大おおきな兵力へいりょくを動員どういん可能かのうであるとした。また、ブロンベルクはチェコスロバキア国境こっきょう要塞ようさいがマジノ線せん並なみに強固きょうこであり、電撃でんげき的てきな勝利しょうりは困難こんなんであると指摘してきした。ブロンベルクはこれらの作戦さくせんの研究けんきゅうの必要ひつよう性せいがあるとしたが、ヒトラーは事態じたいはそこまで差さし迫せまっていないと述のべた。ノイラートはフランスとイタリアの紛争ふんそうが起おきる可能かのう性せいは低ひくいと指摘してきしたが、ヒトラーは1938年ねん夏なつには発生はっせいする可能かのう性せいがあるとした。ゲーリングはスペイン内戦ないせんに対たいするドイツの介入かいにゅうを中止ちゅうしすることを考慮こうりょする必要ひつようがあると判断はんだんしたが、ヒトラーはその決定けっていを必要ひつような時期じきまで留保りゅうほしておくように述のべた。

覚書おぼえがきの作成さくせい

この会議かいぎの公式こうしきな議事ぎじ録ろくは作成さくせいされていない。しかし、会議かいぎの出席しゅっせき者しゃであり、総統そうとう個人こじん副官ふっかんのフリードリヒ・ホスバッハ大佐たいさは、会議かいぎの状況じょうきょうを私的してきなメモとして記録きろくし、11月10日にちに国防こくぼう省内しょうないでメモと記憶きおくを元もととして覚書おぼえがきを作成さくせいした。

ニュルンベルク裁判さいばん中ちゅうにはこの史料しりょう自体じたいの真贋しんがんを巡めぐって論争ろんそうが行おこなわれたが、ホスバッハ自身じしんが「全体ぜんたいとして」彼かれ自身じしんの作成さくせいしたオリジナルを再現さいげんしたものであると認みとめている。また内容ないようの信憑しんぴょう性せいや、史料しりょうの真贋しんがんにまつわる論争ろんそうはすでに決着けっちゃくしている。

影響えいきょう

この会議かいぎにおいてヒトラーの意見いけんに否定ひてい的てきな見解けんかいを述のべたブロンベルクとフリッチュは1938年ねん2月がつ頃ごろに相次あいついでスキャンダルによってその地位ちいを追おわれることになる（ブロンベルク罷免ひめん事件じけん）。また、ノイラート外相がいしょうやシャハト経済けいざい相しょうらも閑職かんしょくに追おいやられ、かわってヴィルヘルム・カイテルやヴァルター・フォン・ブラウヒッチュ、ヨアヒム・フォン・リッベントロップといったヒトラーの方針ほうしんに忠実ちゅうじつな者もの達たちがその地位ちいに就ついた。さらにホスバッハもフリッチュを擁護ようごしたために解任かいにんされている。ヒトラーは1938年ねん中ちゅうにオーストリアとチェコスロバキアに対たいして恫喝どうかつを行おこない、その領土りょうどを支配しはい下かに置おいた（アンシュルス、チェコスロバキア併合へいごう）。

評価ひょうか

ニュルンベルク裁判さいばんで共同きょうどう謀議ぼうぎの証拠しょうこ（証拠しょうこ番号ばんごう：386-PS）として採用さいようされたように、この覚書おぼえがきはドイツの侵略しんりゃく政策せいさくの存在そんざいを示しめすものとされている。論者ろんしゃによってはこの会議かいぎの日ひを、ドイツが第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんへ歩あゆみだす「運命うんめいの日ひ」と位置いちづける者ものもいる。一方いっぽうでA・J・P・テイラーはこの会議かいぎは内政ないせい上じょうの工作こうさくにすぎず、非ひ現実げんじつ的てきな空想くうそうが並ならび立たてられただけであり、ヒトラーの戦争せんそう責任せきにんとは無関係むかんけいであるとしている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 堀内ほりうち直哉なおや「1937年ねん11月5日にちの「総統そうとう官邸かんてい」における秘密ひみつ会議かいぎ : ヒトラー政権せいけん下かの軍備ぐんび問題もんだいをめぐって」（PDF）『目白大学めじろだいがく人じん文学ぶんがく研究けんきゅう』第だい3号ごう、目白大学めじろだいがく、2006年ねん、pp.47-63、NAID 110007000946。 
• ハリー・ヒンズリー、佐藤さとう恭三きょうぞう（翻訳ほんやく）「翻訳ほんやく F.H.ヒンズリー『権力けんりょくと平和へいわの模索もさく--国際こくさい関係かんけい史しの理論りろんと現実げんじつ』1963年ねん(19)」（PDF）『専修せんしゅう法学ほうがく論集ろんしゅう』第だい110号ごう、専修大学せんしゅうだいがく法ほう学会がっかい、2010年ねん12月、pp.175-203、NAID 120004902557。 
• 長野ながの明あきら『第だい三さん帝国ていこく―奈落ならくへの13階段かいだん ナチス政権せいけん編へん年ねん記き』文芸ぶんげい社しゃ、2001年ねん。ISBN 978-4835513850。 

関連かんれん項目こうもく

• ナチス・ドイツの軍事ぐんじ
• ブロンベルク罷免ひめん事件じけん
• 生存せいぞん圏けん

外部がいぶリンク

• The full text of the Memorandum, in English