(Translated by https://www.hiragana.jp/)
主要組織適合遺伝子複合体 - Wikipedia コンテンツにスキップ

主要しゅよう組織そしき適合てきごう遺伝子いでんしふく合体がったい

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

主要しゅよう組織そしき適合てきごう遺伝子いでんしふく合体がったい(しゅようそしきてきごういでんしふくごうたい、major histocompatibility complex; MHC)は、免疫めんえき反応はんのう必要ひつようおおくのタンパク遺伝子いでんし情報じょうほうふく[1][2]細胞さいぼうまく表面ひょうめんにあるとうタンパク質たんぱくしつである。研究けんきゅう当初とうしょ、MHCは遺伝子いでんしとして同定どうていされてきたが、のちにとうタンパク質たんぱくしつとして意味いみわってった[3]

とうタンパクか遺伝子いでんしかの)区別くべつのためにとうタンパク質たんぱくしつであることを明記めいき強調きょうちょうしたい場合ばあいには、日本にっぽんでは「MHC抗原こうげん」、「MHC分子ぶんし」、「MHCタンパク質たんぱくしつ[4][5]」などと表現ひょうげんするのが一般いっぱんてきである。

いっぽう、遺伝子いでんし領域りょういきにおいてMHCをコードする遺伝子いでんしのこととして明記めいきしたい場合ばあいには、「MHC領域りょういき[6]、「MHC遺伝子いでんし[7]などと表現ひょうげんする場合ばあいもある。

概要がいよう

[編集へんしゅう]

MHC分子ぶんしは、ほとんどの脊椎動物せきついどうぶつ細胞さいぼうち、ヒトのMHCはヒト白血球はっけっきゅうがた抗原こうげん (HLA)、マウスのMHCはH-2 (histocompatibility-2)、ニワトリではB遺伝子いでんし (B locus) とばれる。

MHCは免疫めんえきかかわるが、MHC分子ぶんしそのものの存在そんざい箇所かしょ免疫めんえき細胞さいぼうだけではなく、ほぼすべてのゆうかく細胞さいぼうにもMHC分子ぶんし存在そんざいする。また、MHC分子ぶんしとうタンパク質たんぱくしつである。

正確せいかくには、MHC分子ぶんしにはおもに2種類しゅるいあり、クラスIとクラスIIという2種類しゅるい主要しゅようで、このうちMHCクラスIが、かくのあるすべての細胞さいぼう存在そんざい発現はつげんしている。(なお、じつはMHC遺伝子いでんしには、たいけいをコードする遺伝子いでんし領域りょういきとしてMHCクラスIIIがある[8]。) MHCクラスIIは、B細胞さいぼうじょう細胞さいぼう・マクロファージに存在そんざい発現はつげんしている[9]

このMHC分子ぶんし抗原こうげん提示ていじおこなうことで細菌さいきんウイルスなどの感染かんせん病原びょうげんたい排除はいじょや、がん細胞さいぼう拒絶きょぜつ臓器ぞうき移植いしょくさい拒絶きょぜつ反応はんのうなどに関与かんよし、免疫めんえきにとって非常ひじょう重要じゅうようはたらきをする。その、ペプチドの輸送ゆそう関与かんよするTAP (transporter associated with antigen processing) やプロテアソーム関与かんよするLMP (low-molecular-weight protein) といった、免疫めんえきかんするさまざまなタンパクぐんもこのMHCにコードされている。

なお、あまり正確せいかくないいかたではないかしれないが、T細胞さいぼうがわの、MHCと結合けつごうする受容じゅようたいのことを「T細胞さいぼう受容じゅようたい」(TCR)という。つまり、T細胞さいぼうがわの、MHCにとってのリガンド(ある受容じゅようたいにとっての結合けつごう相手あいてがわべつ受容じゅようたいのこと)のことを「T細胞さいぼう受容じゅようたい」という。ややこしいことに、T細胞さいぼうには、MHCと結合けつごうする受容じゅようたいのほかにもおおくの受容じゅようたいがあり、それぞれリガンドもことなるのだが、しかし、「T細胞さいぼう受容じゅようたい」というかた慣習かんしゅうになっている。

MHC分子ぶんし

[編集へんしゅう]

MHC分子ぶんし細胞さいぼう表面ひょうめん存在そんざいする細胞さいぼうまく貫通かんつうがたとうタンパク分子ぶんしであり、細胞さいぼうないのさまざまなタンパク質たんぱくしつ断片だんぺんペプチド)を細胞さいぼう表面ひょうめん提示ていじするはたらきをもつ。

ペプチドについて、(病原びょうげんたいなどの)細胞さいぼう感染かんせんしたウイルスがん抗原こうげん、あるいはじょう細胞さいぼうなどの抗原こうげん提示ていじ細胞さいぼう貪食どんしょく処理しょりされた結果けっか生成せいせいするペプチドのことを「抗原こうげんペプチド」[10]または「ペプチド抗原こうげん[11]一般いっぱんにいう。(なお、「抗菌こうきんペプチド」とはことなる。抗菌こうきんペプチドとはディフェンシンなどのこと。)

抗原こうげんペプチドがMHC分子ぶんし結合けつごうして細胞さいぼう表面ひょうめん提示ていじされると、それがリンパだまのうちT細胞さいぼう抗原こうげんとして認識にんしきされ、つづ免疫めんえき反応はんのう惹起じゃっきされてウイルスやがんなどを攻撃こうげき排除はいじょする方向ほうこうはたらく。

いっぽう、抗原こうげん状態じょうたいでのMHC自身じしん生成せいせいにもMHCに自己じこ由来ゆらいのペプチド(いわゆる「自己じこペプチド」)が結合けつごうして安定あんていしているとかんがえられており、抗原こうげん侵入しんにゅう発生はっせいには抗原こうげん由来ゆらいのペプチドにわる仕組しくみである[12]と、かんがえられている。

また、用語ようごとして、MHC分子ぶんし上述じょうじゅつのペプチドがついた状態じょうたいであることを明記めいきしたい場合ばあい、そのような(MHC分子ぶんし上述じょうじゅつのペプチドがついた状態じょうたいの)MHC分子ぶんしのことを「MHC分子ぶんし-ペプチドふく合体がったい[13]」または「ペプチド-MHCふく合体がったい[14]」などとぶことがある。

生物せいぶつ個体こたいそれぞれは、たような構造こうぞうのMHC分子ぶんし遺伝子いでんし情報じょうほうなん種類しゅるいち、こうして数種類すうしゅるいのMHCを同時どうじ発現はつげんさせている。さらに数種類すうしゅるいのMHCすべてを、父親ちちおや由来ゆらいのMHC1くみ母親ははおや由来ゆらいMHC1くみけい2くみずつもっている。またMHCは個体こたいによって非常ひじょう多様たようせいみ(かたせい polymorphic )、このため2くみのMHCはほとんどの場合ばあいことなった種類しゅるいわせとなる(ヘテロ接合せつごうたい)。このようにしてそれぞれの個体こたいは、なに種類しゅるいものMHC分子ぶんし遺伝子いでんし情報じょうほうをもっており(遺伝子いでんしせい polygenic )、このためMHCはさまざまな抗原こうげん対応たいおうできる。またかたせいのため、MHC分子ぶんしはT細胞さいぼう自己じこ他者たしゃ区別くべつをする目印めじるしにもなる。つまり、T細胞さいぼう自己じこのMHC分子ぶんし発現はつげんする細胞さいぼうから抗原こうげん提示ていじけるが、自己じこことなるMHC分子ぶんし異物いぶつなし、攻撃こうげき排除はいじょしようとする。しかし、個体こたいによってつMHCがことなるということは、MHCによって結合けつごうできる抗原こうげんことなるため、MHCのちがいにより病気びょうきのなりやすさがことなることがある。たとえばMHCのちがいによってAIDS進行しんこうちがってくる[15]ぎゃくにいうとこの多様たようせいによって、病原びょうげんたいたいしてたね絶滅ぜつめつふせぐことができるようになっている。

MHC分子ぶんしにはおおきくけてクラスIとクラスIIの2つの種類しゅるいがある。MHCクラスI分子ぶんし細胞さいぼうない内因ないいんせい抗原こうげん結合けつごうし、MHCクラスII分子ぶんしエンドサイトーシス細胞さいぼうないまれて処理しょりされた外来がいらいせい抗原こうげん結合けつごうして提示ていじする[16]。つまり、ウイルスのように感染かんせんした細胞さいぼうない増殖ぞうしょくする病原びょうげんたいたいして、あるいはがん細胞さいぼうないさんされるがん抗原こうげんたいしては、MHCクラスIをかいした抗原こうげん提示ていじにより免疫めんえき反応はんのうをおこし、いっぽう、細菌さいきんなど細胞さいぼうがい増殖ぞうしょくする病原びょうげんたい毒素どくそたいして、あるいは結核けっかくきんのようにマクロファージひとし抗原こうげん提示ていじ細胞さいぼう感染かんせんする病原びょうげんたいたいしては、抗原こうげん提示ていじ細胞さいぼうのMHCクラスIIをかいした抗原こうげん提示ていじにより免疫めんえき反応はんのうをおこす。ただしこの2つ経路けいろ絶対ぜったいてきなものではなく、外来がいらい抗原こうげんもMHCクラスIによる抗原こうげん提示ていじ経路けいろにもはいりうる(クロスプライミング cross-priming またはクロスプレゼンテーション cross-presentation )。

MHCクラスIに結合けつごうするペプチドのながさと、MHCクラスIIに結合けつごうするペプチドのながさはちがっていることがかっており、MHCクラスIIに結合けつごうするペプチドのほうがながい。MHCクラスIに結合けつごうするペプチドのアミノ酸あみのさんながさは、およそ8〜10塩基えんきである。いっぽう、MHCクラスIIに結合けつごうするペプチドのアミノ酸あみのさんながさはおよそ10〜30塩基えんきである[17]

MHCクラスI分子ぶんし

[編集へんしゅう]
MHCクラスI分子ぶんしαあるふぁ1αあるふぁ3の3つの細胞さいぼうがい領域りょういき細胞さいぼうまく貫通かんつう領域りょういき細胞さいぼうない領域りょういきからなるじゅうくさりと、βべーた2-ミクログロブリンからなる。

MHCクラスI分子ぶんしはほとんどすべてのゆうかく細胞さいぼう血小板けっしょうばん細胞さいぼう表面ひょうめん存在そんざいするとうタンパクであり、内因ないいんせい抗原こうげん抗原こうげん提示ていじするはたらきをもつ。MHCクラスI分子ぶんしはさらに古典こてんてきクラスI分子ぶんし(クラスIa)と古典こてんてきクラスI分子ぶんし(クラスIb)にけられる。古典こてんてきクラスI分子ぶんしには、ヒトではHLA-A、HLA-B、HLA-Cの3種類しゅるいが、マウスではH-2K、H-2D、H-2Lの3種類しゅるいがある。古典こてんてきクラスI分子ぶんしにはヒトではHLA-EHLA-FHLA-Gが、マウスではH-2Qa、H-2Tlaがある[18]

構造こうぞう

[編集へんしゅう]

MHCクラスI分子ぶんしは、とうくさり付加ふかした分子ぶんしりょう45 kDaじゅうくさりαあるふぁくさり)と、分子ぶんしりょう12 kDaのβべーた2-ミクログロブリンけいくさりの2つが共有きょうゆう結合けつごうしたりょうたいであり、これにペプチド抗原こうげん結合けつごうしてさんりょうたいとして細胞さいぼう表面ひょうめん発現はつげんする。古典こてんてきクラスI分子ぶんしなかには、発現はつげんβべーた2-ミクログロブリンを必要ひつようとしないものもある。クラスIじゅうくさりαあるふぁ1αあるふぁ3の3つの細胞さいぼうがい領域りょういきと、細胞さいぼうまく貫通かんつう領域りょういき細胞さいぼうない領域りょういきからなる。αあるふぁ1領域りょういきαあるふぁ2領域りょういきあいだおおきなみぞじょう構造こうぞう(「ペプチド収容しゅうようみぞ[19])があり、MHCはこのペプチド収容しゅうようみぞ抗原こうげん結合けつごうしT細胞さいぼう提示ていじする。

局在きょくざい

[編集へんしゅう]

MHCクラスI分子ぶんしはほとんどすべてのゆうかく細胞さいぼうおよび血小板けっしょうばん細胞さいぼう表面ひょうめん発現はつげんするが、発現はつげん程度ていどには差異さいがある[20]甲状腺こうじょうせんふく甲状腺こうじょうせん下垂かすいたい内分泌ないぶんぴつ細胞さいぼう膵臓すいぞうランゲルハンスとう粘膜ねんまく心筋しんきん骨格こっかくすじかん細胞さいぼうでは発現はつげんよわく、中枢ちゅうすう神経しんけい末梢まっしょう神経しんけいには発現はつげんがない[20][21]。また、精子せいし細胞さいぼう精巣せいそうにあるあいだはMHCクラスI分子ぶんし発現はつげんしているが、精巣せいそう上体じょうたいふく睾丸こうがん)に移動いどうすると発現はつげんがなくなる[20]

悪性あくせい腫瘍しゅようにおいても、さまざまな悪性あくせい腫瘍しゅようで16〜50%程度ていどにMHCクラスI分子ぶんし発現はつげん低下ていかかけしつがみられる[22]。さらに、原発げんぱつよりも転移てんいにおいて発現はつげん低下ていかかけしつ頻度ひんどたかく、MHCクラスI発現はつげん腫瘍しゅよう免疫めんえき治療ちりょう効果こうか[23]ひとし関連かんれんすることから,MHCクラスI分子ぶんし発現はつげん低下ていかかけしつにより腫瘍しゅよう細胞さいぼう免疫めんえき監視かんし機構きこうから逃避とうひしているとかんがえられている[24]

発現はつげん経路けいろ

[編集へんしゅう]

ウイルスのように感染かんせんした細胞さいぼうない増殖ぞうしょくする病原びょうげんたいや、あるいはがん細胞さいぼうないさんされるタンパクなど、細胞さいぼうしつないのタンパクはユビキチンされたのちプロテアソームによって5〜15アミノ酸あみのさん程度ていどのペプチドにまで分解ぶんかいされる。分解ぶんかいされたペプチドは、しょう胞体 (ER) まくじょうにあるTAP (transporter associated with antigen processing) というATP駆動くどうがたトランスポーターによってしょう胞体 (ER) 内部ないぶ輸送ゆそうされる。なおTAPの構造こうぞうは、まく貫通かんつうがたであり、TAP1とTAP2からなるヘテロりょうたいである。なお一般いっぱんにABC輸送ゆそうたいばれるATP駆動くどうがたトランスポーターはまく貫通かんつうがたである。TAPを、ABC輸送ゆそうたい一種いっしゅとして分類ぶんるいすることもある。

MHCクラスIαあるふぁくさりβべーた2ミクログロブリンはしょう胞体(ER)ない合成ごうせいされ、しょう胞体(ER)ないでMHCクラスIαあるふぁくさりβべーた2ミクログロブリン、そしてペプチドの3つが結合けつごうしてMHC-ペプチドふく合体がったいつく[25]。その、MHC-ペプチドふく合体がったいは、よりちいさなしょう胞体の内部ないぶかれて、しょう輸送ゆそうによって細胞さいぼうまく目指めざしてはこばれる途中とちゅうゴルジたいとおり、とうくさり修飾しゅうしょくけたのち細胞さいぼうまくじょう到達とうたつして発現はつげんする。

機能きのう

[編集へんしゅう]

T細胞さいぼうには、おもキラーT細胞さいぼうやヘルパーT細胞さいぼうという2種類しゅるいがあるが、MHCクラスI分子ぶんし抗原こうげん反応はんのうするのはキラーT細胞さいぼうのほうである。

詳細しょうさいにいうと、CD8陽性ようせいT細胞さいぼう(キラーT細胞さいぼう)は、細胞さいぼうまくじょう発現はつげんしたMHCクラスI分子ぶんし抗原こうげん認識にんしきし、活性かっせいする。そしてその抗原こうげん発現はつげんしている細胞さいぼうたとえばウイルス感染かんせん細胞さいぼうやがん細胞さいぼう傷害しょうがいするようになる(細胞さいぼう傷害しょうがいせいT細胞さいぼう)。ただしCD8陽性ようせいT細胞さいぼうは、自己じこおなじMHCクラスI分子ぶんし結合けつごうした抗原こうげんのみ認識にんしきし、自己じこことなるMHC分子ぶんし異物いぶつなし攻撃こうげきする。

MHCクラスI分子ぶんしは、NK細胞さいぼう細胞さいぼう傷害しょうがい活性かっせい抑制よくせいするはたらきももつ。NK細胞さいぼう細胞さいぼう表面ひょうめんにKIR(キラー細胞さいぼう免疫めんえきグロブリンさま受容じゅようたい killer cell immunoglobulin-like receptor )とよばれる受容じゅようたいっており、このKIRが古典こてんてきMHCクラスI分子ぶんし、あるいはヒト古典こてんてきMHCクラスI分子ぶんしのうちHLA-Gを認識にんしきすると、NK細胞さいぼうはその細胞さいぼう傷害しょうがいしなくなる。またヒト古典こてんてきMHCクラスI分子ぶんしであるHLA-Eは、NK細胞さいぼうがもつ受容じゅようたいのひとつであるNKG2A (natural killer group 2A) をかいしてNK細胞さいぼう傷害しょうがい活性かっせい抑制よくせいする。ぎゃくにNK細胞さいぼうはMHCクラスI分子ぶんしたない細胞さいぼう攻撃こうげきする(Missing Selfせつ[26])。たとえばヒトでは胎児たいじ由来ゆらい胎盤たいばん細胞さいぼうはHLAクラスI分子ぶんし発現はつげんがないが、HLA-Gを発現はつげんして母親ははおや由来ゆらいのNK細胞さいぼうから胎児たいじまもっている[27]

つまり、MHCクラスI分子ぶんし自己じこ他者たしゃ区別くべつする標識ひょうしきであり、自己じこのCD8陽性ようせいT細胞さいぼう抗原こうげん提示ていじして病原びょうげんたいがんなどを排除はいじょしつつ、NK細胞さいぼう攻撃こうげきからまもはたらきをしている。

MHCクラスII分子ぶんし

[編集へんしゅう]
MHCクラスII分子ぶんしαあるふぁくさりβべーたくさりからなり、それぞれ2つの細胞さいぼうがい領域りょういきおよびまく貫通かんつう領域りょういき細胞さいぼうない領域りょういきからなる。

T細胞さいぼうには、おもにキラーT細胞さいぼうヘルパーT細胞さいぼうという2種類しゅるいがあるが、MHCクラスII分子ぶんし抗原こうげん反応はんのうするのはヘルパーT細胞さいぼうのほうである。

MHCクラスII分子ぶんしは、マクロファージじょう細胞さいぼう活性かっせいT細胞さいぼうB細胞さいぼうなどの抗原こうげん提示ていじ細胞さいぼうふくめ、かぎられた細胞さいぼうにのみ発現はつげんしている。クラスII分子ぶんしαあるふぁくさりβべーたくさりの2つのじゅう合体がったいであり、それぞれ2つの細胞さいぼうがい領域りょういきおよびまく貫通かんつう領域りょういき細胞さいぼうない領域りょういきからなる。MHCクラスII分子ぶんしはヒトではHLA-DR、HLA-DQ、HLA-DPの3種類しゅるいがあるが、DRのβべーたくさりは2種類しゅるいあることがおおく、これがDRαあるふぁくさり結合けつごうするためDR分子ぶんしは2種類しゅるいあることになる。つまり、ヒトでは4種類しゅるいのMHCクラスII分子ぶんしをもつことがおおい。マウスMHCクラスII分子ぶんしにはH-2A、H-2Eの2種類しゅるいがある。

エンドサイトーシスにより抗原こうげん提示ていじ細胞さいぼうまれた外来がいらい抗原こうげんは、抗原こうげん提示ていじ細胞さいぼうないエンドソームでタンパク分解ぶんかい酵素こうそにより消化しょうかされ、ペプチド断片だんぺん分解ぶんかいされる。MHCクラスII分子ぶんし結合けつごうするペプチドはクラスI分子ぶんし結合けつごうするペプチドよりもながく、15〜24アミノ酸あみのさん程度ていどである。ペプチド断片だんぺんはそのCPL (compartment for peptide loading) とばれるしょう胞に移動いどうする。しょう胞体 (ER) で合成ごうせいされたMHCクラスIIαあるふぁくさりβべーたくさりゴルジたいとおってCPLない移動いどうし、このCPLないでペプチドとMHCクラスIIふく合体がったい生成せいせいされる。そして細胞さいぼう表面ひょうめん発現はつげんし、CD4陽性ようせいT細胞さいぼう(ヘルパーT細胞さいぼう)に抗原こうげん提示ていじして活性かっせいさせる。活性かっせいしたCD4陽性ようせい細胞さいぼう細胞さいぼう傷害しょうがいせいT細胞さいぼうやB細胞さいぼう、その免疫めんえき細胞さいぼう活性かっせいして異物いぶつ攻撃こうげきする。

遺伝子いでんし

[編集へんしゅう]

ヒトMHC (HLA) 遺伝子いでんしは6ばん染色せんしょくたいたんうでじょうに、マウスMHC (H-2) は17ばん染色せんしょくたいじょう存在そんざいし、ヒトでは224もの遺伝子いでんし(128の機能きのうてき遺伝子いでんしと96のにせ遺伝子いでんし)をふくむ360まん塩基えんきたいにもおよ巨大きょだいふくあいてき遺伝子いでんし領域りょういきである[28]。1999ねんにヒトMHC遺伝子いでんしぜん塩基えんき配列はいれつ遺伝子いでんし地図ちず解読かいどくされた[28]

ヒトMHC遺伝子いでんし分類ぶんるいは、3つの領域りょういきけられ、クラスI領域りょういき、クラスII領域りょういき、クラスIII領域りょういきけられている。染色せんしょくたいテロメアがわ末端まったんがわ)からセントロメアがわ中心ちゅうしんがわ)にかって、クラスI領域りょういき、クラスIII領域りょういき、クラスII領域りょういき存在そんざいする。クラスIII領域りょういきのうち、腫瘍しゅよう壊死えし因子いんし (TNF) スーパーファミリーなど炎症えんしょうかかわる遺伝子いでんしぐん領域りょういきはクラスIV領域りょういき分類ぶんるいされることもある[29]。マウスMHCはてんがおこっているためクラスI領域りょういきが2つに分断ぶんだんされており、テロメアがわからクラスI領域りょういき、クラスIII領域りょういき、クラスII領域りょういきちいさなクラスI領域りょういきとなっている。

MHCクラスI領域りょういきには3種類しゅるいのクラスI分子ぶんしαあるふぁくさり、つまりヒトではHLA-A、B、C、マウスではH-2K、D、Lの3種類しゅるいのクラスI分子ぶんしαあるふぁくさりがコードされている。βべーた2-ミクログロブリン遺伝子いでんしはMHCにはなく、ヒトでは15ばん染色せんしょくたい (15q21-q22.2) に[30]、マウスでは2ばん染色せんしょくたい (2 F1-F3; 2 69.0 cM) に[31]存在そんざいする。MHCクラスII領域りょういきにはクラスII分子ぶんしαあるふぁくさりβべーたくさり、つまりヒトではHLA-DQ、DR、DPのαあるふぁくさりβべーたくさりが、マウスではH-2AとEのαあるふぁくさりβべーたくさりがコードされている。その2つのTAP (TAP1、TAP2) 遺伝子いでんし、LMP (low-molecular-weight protein) 遺伝子いでんし、タパシン (tapasin) 遺伝子いでんしもクラスII領域りょういきにある[2]。ヒトMHCクラスIII領域りょういきにはC4、C2、B因子いんしなどのたいや、TNFなどのサイトカイン遺伝子いでんし存在そんざいする。

MHC遺伝子いでんしには、免疫めんえき関係かんけいのない遺伝子いでんし存在そんざいする。たとえば、クラスIB領域りょういきにあるHFe 遺伝子いでんし腸管ちょうかん細胞さいぼうてつ代謝たいしゃ関与かんよしており、クラスII領域りょういきの21-水酸化すいさんか酵素こうそステロイド合成ごうせい関与かんよしている。

MHC遺伝子いでんし進化しんか多様たようせい

[編集へんしゅう]

MHC遺伝子いでんしはほとんどの脊椎動物せきついどうぶつにみられる遺伝子いでんし領域りょういきであるが、遺伝子いでんし構成こうせい配置はいちしゅによってさまざまである。たとえばニワトリもっとちいさいMHC遺伝子いでんしをもつたねのひとつであり、ヒトMHC遺伝子いでんしやく20ぶんの1、全長ぜんちょう92,000塩基えんきで19の遺伝子いでんししかたない[32]が、一方いっぽうほとんどの乳類にゅうるいはヒトとよく構成こうせいのMHCをもつ。ニワトリMHC遺伝子いでんしの19すべての遺伝子いでんし相当そうとうする遺伝子いでんしがヒトにも存在そんざいし、これは必要ひつよう最低限さいていげんのMHCであるといえるかもしれない[32]。 MHC遺伝子いでんし多様たようせい遺伝子いでんし重複じゅうふくによるところがおおきい。ヒトMHCにはおおくのにせ遺伝子いでんしがちりばめられている。

研究けんきゅう当初とうしょ歴史れきしとノーベルしょうなど

[編集へんしゅう]

1930年代ねんだいPeter Alfred Gorerが、移植いしょくへん拒絶きょぜつ研究けんきゅう本格ほんかくてき開始かいしした。

そして1940年代ねんだいにアメリカのジョージ・スネルにより、同系どうけいを20だい以上いじょうかけあわせたマウスをつかった移植いしょく研究けんきゅうによって、1940年代ねんだいには原因げんいん物質ぶっしつとしてマウスのH-2抗原こうげん発見はっけんされた。

1950年代ねんだいには、フランスのジャン・ドーセにより、頻繁ひんぱん輸血ゆけつけたひと血液けつえきをもとにられた血清けっせいに、他人たにん白血球はっけっきゅう凝集ぎょうしゅうさせる抗原こうげんがあることが発見はっけんされ、HLAの発見はっけんとなった。

MHCの研究けんきゅう当初とうしょジョージ・スネルバルフ・ベナセラフジャン・ドーセ、ヒュー・マグデビットなどによって、遺伝子いでんし発見はっけんされた。ジョージとバルフとジャンの3にんは1980ねんにMHCの研究けんきゅう業績ぎょうせきによりノーベル生理学せいりがく医学いがくしょう受賞じゅしょうした。

その、1987ねんにはハーバード大学だいがく当時とうじ研究けんきゅういんだったPamela J. BjorkmanによってMHCクラスI抗原こうげんタンパク質たんぱくしつ結晶けっしょう成功せいこうし、Xせん結晶けっしょう構造こうぞう解析かいせきされた。

1993ねんには、ジャック・ストロミンジャーがMHC-ペプチドふく合体がったいみぞ仕組しくみを解明かいめいしたことなどの業績ぎょうせきで、アメリカの医学いがくしょうであるラスカーしょうDon WileyEmil R. Unanueとともに受賞じゅしょうし、1999ねんにはストロミンジャーとWileyが日本にっぽん国際こくさいしょう受賞じゅしょうした。また、1978ねんにスイスのロルフ・ツィンカーナーゲルが、T細胞さいぼうがウイルスを殺害さつがいするさい抗原こうげんだけでなくMHCも認識にんしきする必要ひつようがあることを発見はっけんし、これらの業績ぎょうせきにより1996ねんノーベル生理学せいりがく医学いがくしょう受賞じゅしょうした。

アクセサリー分子ぶんし

[編集へんしゅう]

MHCおよびそれと結合けつごうするTCRは、抗原こうげん提示ていじ反応はんのうにおいて中心ちゅうしんてき特別とくべつてき役割やくわりをしているとかんがえられている。しかし、MHC・TCR以外いがいにも抗原こうげん提示ていじかかわる分子ぶんし(ここでいう「分子ぶんし」とはなんらかの細胞さいぼう表面ひょうめんにある特別とくべつタンパク質たんぱくしつ意味いみ)は発見はっけんされており、CD40(抗原こうげん提示ていじ細胞さいぼう がわ)とそれに接着せっちゃくするCD154(T細胞さいぼう がわ)、CD58(抗原こうげん提示ていじ細胞さいぼう がわ)とそれに接着せっちゃくするCD2(T細胞さいぼう がわ)、などの接着せっちゃく分子ぶんし発見はっけんされている。

これら、MHCとTCR以外いがい接着せっちゃく分子ぶんしのことを「アクセサリー分子ぶんし[33]または「アクセサリーたんぱくしつ」などという。

脚注きゃくちゅう

[編集へんしゅう]
  1. ^ Belov K, Deakin JE, Papenfuss AT, et al. "Reconstructing an ancestral mammalian immune supercomplex from a marsupial major histocompatibility complex", PLoS Biology, Vol.4, No.3, 2006, p.p. 317-318 (e46). PMID 16435885
  2. ^ a b Janeway CA, Travers P, Walport M, Shlomchik M. "Imunobiology. The immune system in health and desease. 5th edition." Garland Publishing Inc., New York, 2001. Part 2. 5-9. Many proteins involved in antigen processing and presentation are encoded by genes within the major histocompatibility complex.
  3. ^ 宮坂みやさか昌之まさゆき ほか編集へんしゅう標準ひょうじゅん免疫めんえきがく』、医学書院いがくしょいん、2016ねん2がつ1にち だい3はん だい2さつ、128ページ、みぎだんの4~10ぎょう付近ふきん
  4. ^ J.M.Bergほかちょ『ストライヤー生化学せいかがく』、入村いりむら達郎たつおほかやくだい7はん、936ページ、2013ねん2がつ22にち発行はっこうだい1さつ
  5. ^ 東京書籍とうきょうしょせき生物せいぶつ』(高等こうとう学校がっこう理科りかよう検定けんてい教科書きょうかしょ)、平成へいせい24ねん3がつ15にち検定けんていみ、平成へいせい26ねん2がつ10日とおか発行はっこう、29ページ
  6. ^ 椎名しいなりく、「MHC領域りょういき比較ひかくゲノム解析かいせき日本にっぽん組織そしき適合てきごうせい学会がっかい 2006ねん 13かん 2ごう p.139-155, doi:10.12667/mhc.13.139
  7. ^ 笠原かさはらただしてん、「MHCはどのように進化しんかしてきたのか?」 日本にっぽん組織そしき適合てきごうせい学会がっかい 1994ねん 1かん 2ごう p.135-138, doi:10.12667/mhc.1.135
  8. ^ 小山こやま次郎じろうほかちょ、『免疫めんえきがく基礎きそ』、東京とうきょう化学かがく同人どうじん、2013ねん8がつ1にち発行はっこう だい4はん だい5さつ、166ページのだい2段落だんらく(ページ上側うわがわ
  9. ^ 梶川かじかわ瑞穂みずほほか『古典こてんてきMHCクラスI分子ぶんし構造こうぞう機能きのう』、生化学せいかがく雑誌ざっしめいだい81かん3ごう、2009ねん 2018ねん閲覧えつらん
  10. ^ くまごうあつしほか『免疫めんえきがくコア講義こうぎ』、南山みなみやまどう、2019ねん3がつ25にち 4はん 2さつ、28ページ
  11. ^ 河本かわもとひろし『もっとよくわかる! 免疫めんえきがく』、2018ねん5がつ30にち だい8さつ、31ページ
  12. ^ 宮坂みやさか昌之まさゆき ほか編集へんしゅう標準ひょうじゅん免疫めんえきがく』、医学書院いがくしょいん、2016ねん2がつ1にち だい3はん だい2さつ、116ページ、ひだりだんなか付近ふきん
  13. ^ 谷口たにぐちかつ ほかちょ、『標準ひょうじゅん免疫めんえきがく』、2016ねん2がつ1にち だい3はん、298ページ、
  14. ^ Lodish 原著げんちょ石浦いしうらしょういち 翻訳ほんやく分子ぶんし細胞さいぼう生物せいぶつがく』、東京とうきょう化学かがく同人どうじん、2016ねん4がつ20日はつか だい7はん、946ページ
  15. ^ Gao X, Nelson GW, Karacki P, et al. "Effect of a single amino acid change in MHC class I molecules on the rate of progression to AIDS." NEJM., Vol.344, No.22, 2001, p.p. 1668-1675. PMID 11386265
  16. ^ 本間ほんま研一けんいち ほか編集へんしゅう標準ひょうじゅん生理学せいりがく』、医学書院いがくしょいん、2015ねん8がつ1にち だい8はん だい2さつ、536ページ、ひだりだんなか付近ふきん
  17. ^ 宮坂みやさか昌之まさゆき ほか編集へんしゅう標準ひょうじゅん免疫めんえきがく』、医学書院いがくしょいん、2016ねん2がつ1にち だい3はん だい2さつ、129ページ、ひだりだんなか付近ふきん
  18. ^ Bjorkman PJ, Saper MA, Samraoui B, et al. "Structure of the human class I histocompatibility antigen, HLA-A2." Nature, Vol.329, No.6139, 1987, p.p. 506-512. PMID 3309677
  19. ^ くまごうあつしほか『免疫めんえきがくコア講義こうぎ』、南山みなみやまどう、2019ねん3がつ25にち 4はん 2さつ、29ページ
  20. ^ a b c Daar AS, Fuggle SV, Fablre JW, et al. "The detailed distribution of HLA-A, B, C antigens in normal human organs." Transplantation, Vol.38, No.3, 1984, p.p. 287-292. PMID 6591601
  21. ^ Fernandez JE, Concha A, Aranega A, et al. "HLA class I and II expression in rhabdomyosarcomas." Immunobiology, Vol.182, No.5, 1991, p.p. 440-448. PMID 1916885
  22. ^ Hicklin DJ, Marincola FM, Ferrone S. "HLA class I antigen downregulation in human cancers: T-cell immunotherapy revives an old story." Molecular Medicine Today, Vol.5, No.4, 1999, p.p. 178-186. PMID 10203751
  23. ^ Kitamura H, Torigoe T, Honma I, et al. "Effect of human leukocyte antigen class I expression of tumor cells on outcome of intracesical instillation of bacillus calmette-guerin immunotherapy for bladder cancer." Clinical Cancer Research, Vol.12, No.15, 2006, p.p. 4641-4644. PMID 16899613
  24. ^ Khong HT, Restifo NP. "Natural selection of tumor variants in the generation of "tumor escape" phenotypes." Nature Immunology, Vol.3, No.11, 2002, p.p. 999-1005. PMID 12407407
  25. ^ 標準ひょうじゅん免疫めんえきがくだい3はん、123ページのうえ
  26. ^ Karre K, Ljunggren HG, Piontek G, Kiessling R. "Selective rejection of H-2-deficient lymphoma variants suggests alternative immune defence strategy." Nature, Vol.319, No.6055, 1986, p.p. 675-678. PMID 3951539
  27. ^ Janeway CA, Travers P, Walport M, Shlomchik M. "Imunobiology. The immune system in health and desease. 5th edition." Garland Publishing Inc., New York, 2001. Part 2. 5-11. Specialized MHC class I molecules act as ligands for activation and inhibition of NK cells.
  28. ^ a b The MHC sequencing consortium. "Complete sequence and gene map of a human major histocompatibility complex", Nature, Vol.401, No.6756, 1999, p.p. 921-923. PMID 10553908
  29. ^ Gruen JR, Weissman SM. "Evolving views of the major histocompatibility complex." Blood, Vol.90, No.11, 1997, p.p. 4252-4265. PMID 9373235
  30. ^ Entrez Gene: B2M beta-2-microglobulin (Homo sapiens )
  31. ^ Entrez Gene: B2m beta-2-microglobulin (Mus musculus )
  32. ^ a b Kaufman J, Milne S, Gobel TW, et al. "The chicken B locus is a minimal essential major histocompatibility complex." Nature, Vol.401, No.6756, 1999, p.p. 923-925. PMID 10553909
  33. ^ JEFFREY K.ACTOT原著げんちょ大沢おおさわ利昭としあき今井いまい康之やすゆき やく『インテグレーテッドシリーズ免疫めんえきがく微生物びせいぶつがく』、東京とうきょう化学かがく同人どうじん、2010ねん3がつ15にちだい1はん だい1さつ

参考さんこう文献ぶんけん

[編集へんしゅう]
  • 宮坂みやさか昌之まさゆき ほか編集へんしゅう標準ひょうじゅん免疫めんえきがく』、医学書院いがくしょいん、2016ねん2がつ1にち だい3はん だい2さつ
  • Lodish ほか原著げんちょ石浦いしうらしょういち 翻訳ほんやく分子ぶんし細胞さいぼう生物せいぶつがく』、東京とうきょう化学かがく同人どうじん、2016ねん4がつ20日はつか だい7はん
  • J.M.Bergほかちょ『ストライヤー生化学せいかがく』、入村いりむら達郎たつおほかやく、936ページ、2013ねん2がつ22にち発行はっこう だい7はん だい1さつ