合ごう食しょく禁きん

合ごう食しょく禁きん（がっしょくきん）、または食しょく合あい禁きん（しょくごうきん）は、食しょくに関かんする伝承でんしょうの一ひとつ。一緒いっしょに食たべるときに食材しょくざいの取とり合あわせが悪わるいとされるい伝いつたえであり、一般いっぱんに消化しょうかに害がいを来きたすとされている。平易へいいな日本語にほんごでは食たべ合あわせ（たべあわせ）、食くい合あわせ（くいあわせ）と呼よばれることが多おおい。

概要がいよう

日本にっぽんで伝つたえられている合ごう食しょく禁きんは、元もとは中国ちゅうごくから伝つたえられた本草学ほんぞうがくにおける薬物やくぶつ相互そうご間作かんさく用ようの研究けんきゅうに加くわえて陰陽いんよう五ご行ぎょう思想しそうを食材しょくざいにあてはめたものとされる。このため、科学かがく的てき根拠こんきょの無ないものもあるが、中なかには医学いがく的てきに正ただしいとされるものも存在そんざいしている。

中国ちゅうごく大陸たいりくでは食しょく経けいと呼よばれる書物しょもつでたびたび採とり上あげられ、例たとえば、元もとの忽ゆるがせ思おもえ慧としによる『飲いん膳ぜん正せい要よう』という本ほんには「食物しょくもつ相反あいはん」の章しょうが立たてられて「牛肉ぎゅうにくと栗子りつこ」などの例れいが挙あげられている。日本にっぽんでは、養老ようろう律令りつりょうの職制しょくせい律りつに、天皇てんのうに出だす食事しょくじに合ごう食しょく禁きんを犯おかした場合ばあいには内膳ないぜん司しの責任せきにん者しゃ（次官じかん）である典てん膳ぜんは徒と3年ねんの刑けいに処しょされるとある。また、南北なんぼく朝あさ時代じだいに洞ほら院いん公おおやけ賢けんが著あらわしたとされる『拾ひろえ芥あくた抄しょう』や江戸えど時代じだい初期しょきに貝原かいばら益軒えきけんが著あらわした『養生ようじょう訓くん』には多おおくの食しょく禁きんが記しるされている。ただし、これらの書籍しょせきには鰻うなぎ（うなぎ）と梅干うめぼし、天麩羅てんぷらと西瓜すいか、蕎麦そばと田螺たにしなどのような今日きょう知しられる代表だいひょう的てきな例れいは記しるされていない。これは鰻うなぎの蒲焼かばやき、蕎麦切そばきり、天麩羅てんぷらが江戸えど時代じだいになってから食しょくされるようになった食物しょくもつであることによる（『養生ようじょう訓くん』には蕎麦そばに関かんする例れいは一部いちぶ挙あげられているが、ごくわずかである）。栄養えいよう面めんでの合ごう食しょく禁きんも伝つたえられている。

合ごう食しょく禁きんの実例じつれい

日本にっぽんに古ふるくから伝つたえられる合ごう食しょく禁きん

天てんぷらと西瓜すいか

• 鰻うなぎと梅干うめぼし: 鰻うなぎの脂あぶらっこさと梅干うめぼしの強つよい酸味さんみが刺激しげきし合あい、消化しょうか不良ふりょうを起おこすとされた。ただし実際じっさいはむしろ酸味さんみが脂あぶらの消化しょうかを助たすけるため、味覚みかくの面めんも含ふくめて相性あいしょうの良よい食材しょくざいである。『養生ようじょう訓くん』には「銀杏いちょうに鰻うなぎ」と記しるされており、これが転てんじたとするほか、高級こうきゅう食材しょくざいである鰻うなぎの食たべすぎを避さけるため、酸すっぱいものと一緒いっしょに食たべると腐くさっているのがわかりづらいからなど諸説しょせつがあるが、医学いがく的てきな根拠こんきょが見みつかっていないため定説ていせつは存在そんざいしない。
• 天てんぷらと氷水こおりみず、天てんぷらとスイカ: 水みずと油あぶらで消化しょうかに悪わるいとされた。実際じっさい、胃いの負担ふたんが増加ぞうかし、消化しょうかに支障ししょうをきたすことが確認かくにんされている。なお、「胃酸いさんが薄うすまるから」という説せつもあるがそれほどの量りょうのスイカを食たべることは普通ふつうはない。
• ヤギと冷つめたい飲のみ物もの: 主おもに沖縄おきなわ県けん。ヤギの脂肪しぼうが胃いの中なかで冷ひやされ、凝固ぎょうこして気分きぶんが悪わるくなるといわれる。これも「水みずと油あぶら」の例れいと思おもわれる。
• 蟹かにと柿かき: 本草ほんぞう綱目こうもくに記載きさい。体からだを冷ひやすとされた。実際じっさいに、蟹かにや柿かきに体温たいおんを下さげる効果こうかがあり、さらには蟹かにタンパク質たんぱくしつと柿かきのタンニンが結合けつごうして体調たいちょう不良ふりょうを起おこす可能かのう性せいも指摘してきされる。この食たべ合あわせは李り氏し朝鮮ちょうせんの国王こくおう景けい宗むねの死因しいんとされる。ただし、「海うみのものと山やまのものを同時どうじに手てに入いれようとすると流通りゅうつうの問題もんだいでどちらも劣化れっかしてしまうから」という説せつもある。
• 鮎あゆと牛蒡ごぼう、浅蜊あさりと松茸まつたけ: 旬しゅんが大幅おおはばにずれている例れい。冷蔵れいぞう技術ぎじゅつが未み発達はったつだった当時とうじ、時期じき外はずれの食品しょくひんは傷いたんで食中毒しょくちゅうどくの原因げんいんになったためと思おもわれる。
• 蕎麦そばと田螺たにし: ほとんど噛かまずに食たべる蕎麦そばと、硬かたく消化しょうかに悪わるいタニシの組くみ合あわせで、さらに消化しょうかを悪わるくするとされる。「食たべ過すぎないように」とする見解けんかいもある。
• 蕎麦そばと茄子なすびの漬つけ物もの:体からだを冷ひやすとされた。 両方りょうほうとも体からだを冷ひやす作用さようがあることが確認かくにんされている。
• おこわと河豚ふぐ、タケノコと黒砂糖くろざとう: 高級こうきゅう食材しょくざいの食たべ過すぎを防ふせぐために作つくられた話はなしと言いわれ、現在げんざいでも贅沢ぜいたくの極きわみとして避さけられることが多おおい。
• 胡瓜きゅうりとトマト: 胡瓜きゅうりに含ふくまれる酵素こうそがトマトのビタミンCを還元かんげん型がたに変かえるため（還元かんげん型がたは効用こうようが低ひくい）。しかし、体内たいないでは酸化さんか型がたビタミンCを還元かんげん型がたに変かえる酵素こうそが作つくられているため実際じっさいのところは問題もんだいない。
• 蛸だこと蕨わらび: 蕨わらび（わらび）の過剰かじょう摂取せっしゅにより、ワラビ中毒ちゅうどく（蕨わらび特有とくゆうの主成分しゅせいぶんに依よるもの）を引ひき起おこす危険きけん性せいがある。
• 蛸だこと梅うめ: ここでいう梅うめとは青梅おうめ（あおうめ）のこと。上記じょうきと同様どうように青梅あおうめの過剰かじょう摂取せっしゅで青酸せいさん配はい糖とう体からだによる中毒ちゅうどくを引ひき起おこすため。
• 胡桃くるみと酒さけ: のぼせやすくなるとされた。胡桃くるみの実みには血圧けつあつを上あげる効果こうかがあるため。
• 鮫さめと梅干うめぼし、数かずの子こと熊くまの胆い、小豆しょうず飯めしと蟹かに肉にく、西瓜すいかと干鱈ひだら: 命いのちに関かかわる組くみ合あわせで、死亡しぼう例れいも報告ほうこくされている。
• タコとアワビ、蟹かにと椎茸しいたけ、フグと青菜あおな、鯖さばと芋いもがら、海老えびと茸たけ、タコと浅漬あさづけ、鯉こいと生なま葱ねぎ: 消化しょうか器き系けいに異常いじょうをきたす組くみ合あわせ。

現代げんだい日本にっぽんの合ごう食しょく禁きん

現代げんだいの栄養えいよう学がく的てき・医学いがく的てき知見ちけんに基もとづいて、避さけるべきとされている食物しょくもつの組くみ合あわせ。

• スイカとビール: 両方りょうほうともほとんど水分すいぶんであるが、利尿りにょう作用さようもある。ビールの摂取せっしゅが進すすみすぎ、急性きゅうせいアルコール中毒ちゅうどくを引ひき起おこす可能かのう性せいがある。また、水分すいぶんを摂とっているつもりでも気きづかないうちに脱水だっすい症状しょうじょうに陥おちいっていて、水泳すいえい前まえや入浴にゅうよく前まえでは水死すいしの危険きけん性せいもある。
• お茶ちゃと鉄分てつぶん（非ひヘム鉄てつ）を含ふくむ食品しょくひん: お茶ちゃによる食品しょくひん中ちゅうの鉄分てつぶん（非ひヘム鉄てつ）の吸収きゅうしゅう阻害そがいのこと。 食後しょくごに茶ちゃ（特とくに緑茶りょくちゃ）を摂取せっしゅすると、食品しょくひん中ちゅうに含ふくまれる非ひヘム鉄てつは吸収きゅうしゅうを受うけにくい形かたちに酸化さんかされてしまう。鉄てつ欠乏けつぼう性せい貧血ひんけつで悩なやむ人ひとやダイエットによって鉄分てつぶんの補給ほきゅうが十分じゅうぶんでない人ひとは、食後しょくごすぐに緑茶りょくちゃを飲のむのは避さけるべきである。
• 生なまの卵白らんぱくとビオチンを含ふくむ食品しょくひん（代表だいひょう例れい: 酵母こうぼ、レバー、豆類まめるい、卵黄らんおうなど）: アビジンがビオチンの腸管ちょうかんからの吸収きゅうしゅうを阻害そがいする。
• ラムネ系けい食品しょくひん（代表だいひょう例れい:メントス）と炭酸たんさん飲料いんりょう（代表だいひょう例れい: ダイエットコーラ）: 胃いの中なかで急激きゅうげきな発泡はっぽう（メントスガイザー）が発生はっせいする事ことで食道しょくどうから胃いにかけて損傷そんしょうするという説せつ。実際じっさいには起おこらないという検証けんしょうデータも示しめされており意見いけんが分わかれている。

宗教しゅうきょう的てき理由りゆうによる合ごう食しょく禁きん

食しょくのタブーによる「宗教しゅうきょう的てき理由りゆう」により、戒律かいりつで避さけなければならない事例じれいである。

• 食肉しょくにくと乳製品にゅうせいひん: ユダヤ教きょうでの禁忌きんき。子こを親おやの乳ちちで煮にて食たべる事ことは残酷ざんこくな事ことだ、という発想はっそうから転てんじて、親子おやこ関係かんけいの有無うむに関かかわらず、獣肉じゅうにくおよび家禽かきんの肉にくを乳製品にゅうせいひんと同時どうじに食たべることはもちろん、肉にく料理りょうりを食たべた後のち十分じゅうぶんな時間じかんを置おかずに乳製品にゅうせいひんの入はいったデザートを食たべることも、肉にくと乳ちちが胃いの中なかで混まざると考かんがえられ禁忌きんきとされる。正統せいとう派はのユダヤ教徒きょうとは、食器しょっきや調理ちょうり器具きぐはもとより、食器洗しょっきあらい機きも肉にく用ようと乳製品にゅうせいひん用ように分わける。レビ記きと613のミツワー第だい195および196、カシュルートを参照さんしょう。
• ドリアンとアルコール飲料いんりょう: 東南とうなんアジアでは古ふるくからい伝いつたえられているが医学いがく的てきな根拠こんきょは見みつかっていない。詳細しょうさいはドリアンの項こうを参照さんしょうのこと。

薬剤やくざいとの合ごう食しょく禁きん

一般いっぱん的てきには「食たべ合あわせ」という呼称こしょうよりも「飲のみ合あわせ」という呼称こしょうが用もちいられる。特定とくていの薬剤やくざいと食品しょくひん中ちゅうの成分せいぶんが体内たいないで薬物やくぶつ相互そうご作用さようを起おこし、薬効やっこうまたは副作用ふくさようが極端きょくたんに強つよまったり、減衰げんすいしたりする。薬剤やくざい同士どうしの飲のみ合あわせには処方しょほうする薬剤師やくざいしによって管理かんりされる。

• グレープフルーツと多おおくの薬剤やくざい: カルシウム拮抗きっこう剤ざい、免疫めんえき抑制よくせい剤ざい、抗こう不安ふあん薬やく、高こう脂あぶら血ち症しょう薬やく、抗こうエイズ薬やくなど幅広はばひろい薬剤やくざいで、薬効やっこうが強つよまることがある。急激きゅうげきな血圧けつあつ降下こうかが見みられることもある。グレープフルーツ中ちゅうのフラボノイド類るいと、体内たいないの酵素こうそのCYP3A4が相互そうご作用さようを起おこしているという報告ほうこくがある。
  「グレープフルーツジュース#薬物やくぶつ相互そうご作用さよう」も参照さんしょう
• アルコール飲料いんりょうと一部いちぶの医薬品いやくひん: インスリンや経口けいこう血糖けっとう降下こうか薬やくといった糖尿とうにょう病びょうの治療ちりょう薬やくは、酒さけと合ごう食しょくすることで激はげしい副作用ふくさようが生しょうじたり、重じゅう篤あつしな低てい血糖けっとうを招まねくため禁忌きんきである。またバルビツール酸さん系けいの鎮静ちんせい剤ざい、睡眠薬すいみんやく・三さん環たまき系けい抗こううつ薬やく・抗こうヒスタミン薬やくとの合ごう食しょくは、薬効やっこうが強つよまり、中枢ちゅうすう神経しんけいの活動かつどうを過度かどに抑制よくせいし、意識いしき障害しょうがいや呼吸こきゅう困難こんなんに陥おちいり、最悪さいあくの場合ばあい死亡しぼうしてしまうため禁忌きんきである。
• 牛乳ぎゅうにゅうと一部いちぶの抗生こうせい物質ぶっしつ・抗菌こうきん薬やく: テトラサイクリン系けい抗生こうせい物質ぶっしつやニューキノリン系けい抗菌こうきん剤ざいは、金属きんぞくイオンとキレートを形成けいせいする部位ぶいを有ゆうする。このため牛乳ぎゅうにゅうと服用ふくようすると薬物やくぶつが不溶化ふようかし、吸収きゅうしゅう効率こうりつが下さがる。また一部いちぶのβべーた-ラクタム系けい抗生こうせい物質ぶっしつも、牛乳ぎゅうにゅうにより吸収きゅうしゅうが阻害そがいされる。
• カフェインと一部いちぶの医薬品いやくひん：カフェイン#薬物やくぶつ相互そうご作用さようも参照さんしょう。
• 多数たすうの食品しょくひんと抗菌こうきん薬やく: 抗菌こうきん薬やくのイソニアジドは、チーズ・ワイン等とうに含ふくまれるチラミンや、魚さかなの干物ひもの等とうに含ふくまれるヒスタミンの分解ぶんかいを阻害そがいするため、分解ぶんかいできなかったチラミン・ヒスタミンの毒性どくせいにより動悸どうき、腹痛はらいた等とうが起おきることがある。
• ニンニクと抗こう凝固ぎょうこ剤ざい: ニンニクが有ゆうする抗こう血小板けっしょうばん作用さようにより、抗こう凝固ぎょうこ剤ざいワルファリンの薬効やっこうが下さがることがある。
• ビタミンB6とL-DOPA: パーキンソン病びょうの治療ちりょうに用もちいられるL-DOPAは、ビタミンB6により分解ぶんかいしやすく薬効やっこうが下さがる。
• ビタミンCと卵胞らんぽうホルモン剤ざい: 卵胞らんぽうホルモン剤ざいのエチニルエストラジオールは大量たいりょうのビタミンCにより吸収きゅうしゅう効率こうりつが上あがり、出血しゅっけつを生しょうじることがある。
• ビタミンDと一部いちぶの強心きょうしん薬やく: 強心きょうしん薬やくのジゴキシンと大量たいりょうのビタミンDを摂取せっしゅすると、高こうカルシウム血ち症しょうにより副作用ふくさようが強つよまることがある。
• ハーブ・イチョウ葉はと各種かくしゅ薬剤やくざい: 健康けんこう食品しょくひん等とうに含ふくまれるハーブやイチョウの葉はは、種類しゅるいによっては各種かくしゅ薬剤やくざいの働はたらきを阻害そがいすることがある
• ビタミンKとワルファリン：血栓けっせん防止ぼうしの効果こうかがビタミンKによって弱よわまる。納豆なっとう、クロレラ、青あお汁じるにビタミンKが多おおい。

参考さんこう文献ぶんけん

• 大塚おおつか恭男やすお『国史こくし大だい辞典じてん』 第だい4巻かん、吉川弘文館よしかわこうぶんかん、1984年ねん2月がつ。ISBN 978-4-6420-0504-3。 
• 鈴木すずき晋一しんいち『日本にっぽん史し大だい事典じてん』 第だい2巻かん、平凡社へいぼんしゃ、1993年ねん2月がつ。ISBN 978-4-5821-3102-4。 

関連かんれん項目こうもく

• 食中毒しょくちゅうどく
• 食しょくのタブー