微生物びせいぶつがく

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微生物びせいぶつ学者がくしゃから転送てんそう

微生物びせいぶつがく(びせいぶつがく、英語えいご: microbiology)は、微生物びせいぶつ対象たいしょうとする生物せいぶつがくいち分野ぶんや

微生物びせいぶつとは(真正しんせい細菌さいきん細菌さいきん原生げんせい生物せいぶつきんるいなど、顕微鏡けんびきょうてきおおきさ以下いか生物せいぶつす。しゅとして原核げんかく生物せいぶつ細菌さいきん細菌さいきん)を対象たいしょうとし、ウイルス対象たいしょうふくめる場合ばあいもある。

歴史れきし[編集へんしゅう]

  • 17-18世紀せいき - アントニ・ファン・レーウェンフック顕微鏡けんびきょう観察かんさつにより、微生物びせいぶつ概念がいねんまれる。こののち微生物びせいぶつがくはそのあゆみをいったんめることとなる。
  • 1837ねん - カニャール・ド・ラツール、シュワンキュッツィンクによりアルコール発酵はっこうおこな生物せいぶつである酵母こうぼ微生物びせいぶつであり、この反応はんのう酵母こうぼ生理せいり機能きのうもとづくものであると発表はっぴょうした。
  • 1840ねんごろ - 手術しゅじゅつによる外科げかてき敗血症はいけつしょうふせぐために消毒しょうどくざいなどの導入どうにゅうすすめられた。
  • 1857ねん - ルイ・パスツールが「すべての発酵はっこう過程かてい微生物びせいぶつ活動かつどうもとづくものである」ということを発表はっぴょうした。こののち、20年間ねんかんにわたってパスツールはおおくの発酵はっこう反応はんのう研究けんきゅうつづけた。
  • 1860ねん - ルイ・パスツールが白鳥はくちょうくびフラスコをもちいて、自然しぜん発生はっせいせつ否定ひていする。またチンダルも滅菌めっきんという概念がいねんって自然しぜん発生はっせいせつ否定ひていする実験じっけんおこなっている。
  • 1870ねん - ド・バリーブレフェルドによって純粋じゅんすい培養ばいようとは「ただ一種いっしゅ微生物びせいぶつふく培養ばいようである」と定義ていぎされた。
  • 1876ねん - ロベルト・コッホによって炭疽たんそ原因げんいんとなる細菌さいきん炭疽たんそきん、Bacillus anthracis)が分離ぶんりされ、その病原びょうげんせい証明しょうめいされた。
  • 1892ねん - イワノフスキー実験じっけんにより、細胞さいぼう透過とうかするウイルスの存在そんざい示唆しさされた。
  • 20世紀せいき以降いこう - 微生物びせいぶつがくつうじて生化学せいかがく理解りかいふかまる。また突然変異とつぜんへんいなどの誘導ゆうどうもちいた遺伝いでんがく実験じっけん微生物びせいぶつにおいて進行しんこうし、1945ねん以降いこう遺伝いでんがく生化学せいかがく微生物びせいぶつがく融合ゆうごうはじめた。

手法しゅほう[編集へんしゅう]

純粋じゅんすい培養ばいよう[編集へんしゅう]

微生物びせいぶつがくもっと基本きほんてき実験じっけんないし手法しゅほうとしては、微生物びせいぶつ純粋じゅんすい培養ばいよう技術ぎじゅつ分離ぶんり)がある。環境かんきょうでは様々さまざま種類しゅるい微生物びせいぶつ同士どうしたねあいだ相互そうご作用さようおこなっており、これらの相互そうご作用さようのぞいて個々ここ種類しゅるい性質せいしつさぐるには、微生物びせいぶつ純粋じゅんすい培養ばいようする技術ぎじゅつもっと基本きほんてきなところとなる。なお、純粋じゅんすい培養ばいようには器具きぐ滅菌めっきん、ならびに培地ばいち組成そせいなど微生物びせいぶつのみならず、細胞さいぼうあつか学問がくもん基礎きそとなる技術ぎじゅつともなう。

培地ばいち組成そせい温度おんど培養ばいよう時間じかんなどによって分離ぶんりできるきんことなる。

からの分離ぶんり
典型てんけいてき手法しゅほう希釈きしゃく平板へいばんほう)では環境かんきょうから取得しゅとくした滅菌めっきんすいなどにかかにごし、しずかおけ上澄うわずみを適当てきとう希釈きしゃく寒天かんてん培地ばいち塗布とふする。適温てきおん保管ほかんきん生育せいいくつ。生育せいいくしてきたコロニーをさらに白金はっきんみみなどで寒天かんてん培地ばいち塗布とふしシングルコロニー(単一たんいつきんたい由来ゆらいのコロニー)を取得しゅとくする。
限外げんがい希釈きしゃくほう
寒天かんてん培地ばいち生育せいいくさせられない場合ばあいおこなわれる。きんかかにごした培地ばいちなんばいにも希釈きしゃく培養ばいようすることで単一たんいつきんたい由来ゆらい培養ばいようえきる。厳密げんみつにはきんがからみあっていたり、ゴミに複数ふくすうきん付着ふちゃくしていたりする場合ばあいもあるので留意りゅういする。

なん培養ばいようせい微生物びせいぶつ[編集へんしゅう]

純粋じゅんすい培養ばいようもとづく研究けんきゅう微生物びせいぶつがく王道おうどうとなってきたが、未知みち因子いんし要求ようきゅうするものなど、純粋じゅんすい培養ばいよう不可能ふかのうもしくはきわめて困難こんなん微生物びせいぶつおおく、これらはなん培養ばいようせい微生物びせいぶつばれる。土壌どじょうなど、自然しぜんかい存在そんざいする微生物びせいぶつ大半たいはんは、このようななん培養ばいようせい微生物びせいぶつであるといわれており、PCRDNAマイクロアレイメタゲノム解析かいせきなどの技術ぎじゅつもちいた、純粋じゅんすい培養ばいようによらない研究けんきゅう手法しゅほう模索もさくされている。

代謝たいしゃ[編集へんしゅう]

細胞さいぼう基礎きそ代謝たいしゃについては、かく生物せいぶつもちいたものよりも、個々ここ細胞さいぼうクローンがられる微生物びせいぶつからおおくの知見ちけんられた。異化いか同化どうかをはじめ、タンパク質たんぱくしつ脂質ししつ核酸かくさんなま合成ごうせいなどのおおくは、微生物びせいぶつがくから研究けんきゅうすすめられた。

増殖ぞうしょく[編集へんしゅう]

微生物びせいぶつ増殖ぞうしょくかんする実験じっけんからは、細胞さいぼう栄養えいよう要求ようきゅうせいや、遺伝子いでんし発現はつげん調節ちょうせつなどといった事柄ことがら理解りかいされている。また、栄養えいよう要求ようきゅうせいのみならず、環境かんきょう因子いんし要求ようきゅう温度おんどpH酸素さんそなど)についてもその知見ちけんられている。

顕微鏡けんびきょう観察かんさつ[編集へんしゅう]

アントニー・ファン・レーウェンフック発明はつめいした顕微鏡けんびきょう微生物びせいぶつ概念がいねんをもたらしたが、顕微鏡けんびきょうもちいた細胞さいぼう観察かんさつ現在げんざいでも必要ひつようくべからざるものである。現在げんざいは、電子でんし顕微鏡けんびきょうをはじめおおくの高性能こうせいのう顕微鏡けんびきょう開発かいはつされているが、その結果けっか微生物びせいぶつ表面ひょうめん存在そんざいするむち運動うんどうタンパク質たんぱくしつ挙動きょどうなどがあきらかになってきている。

微生物びせいぶつ遺伝いでんがく[編集へんしゅう]

微生物びせいぶつ培養ばいようからもとかぶ完全かんぜんなクローンが通常つうじょうられるが、一定いっていかくりつ性状せいじょうのややことなるかぶられる。突然変異とつぜんへんい概念がいねんをもたらしたのは微生物びせいぶつがく成果せいかひとつでもあり、突然変異とつぜんへんい誘導ゆうどうをはじめ、あいどう形質けいしつ転換てんかん接合せつごう、F因子いんし伝達でんたつ形質けいしつ導入どうにゅうといった、現在げんざい分子生物学ぶんしせいぶつがくにきわめて重要じゅうようおおくの方法ほうほう提供ていきょうしてきた。

分類ぶんるい[編集へんしゅう]

微生物びせいぶつかたちちいさいために形態けいたい単純たんじゅんであり、細胞さいぼう生物せいぶつのようにその表現ひょうげんがたから分類ぶんるいおこなうことはむずかしい。が、上記じょうき微生物びせいぶつがくてき知見ちけん駆使くしして分類ぶんるいおこなうことは不可能ふかのうではない。また、表現ひょうげんがた評価ひょうかむずかしいことから16S rRNA系統けいとう解析かいせきのような遺伝子いでんしもちいて分類ぶんるいおこなうことがかんがされている。

藻類そうるい原生動物げんせいどうぶつにおいては、形態けいたい重要じゅうようされるが、電子でんし顕微鏡けんびきょうレベルでの構造こうぞうあきらかになるにれ、外形がいけいよりもむち装置そうちなどの微細びさい構造こうぞう重視じゅうしされるようになった。菌類きんるいでは、生理せいり作用さようによる判別はんべつ形態けいたいとも重視じゅうしされ、原核げんかく生物せいぶつでは、外見がいけんてき形態けいたいでの分類ぶんるいはほとんどのぞめないため、生理せいり作用さよう、たとえば様々さまざま物質ぶっしつ分解能ぶんかいのうなどが重視じゅうしされたが、これらも次第しだい分子ぶんし遺伝いでんがくてき形質けいしつとう重点じゅうてんうつしつつある。

物質ぶっしつ循環じゅんかん微生物びせいぶつ[編集へんしゅう]

炭素たんそ窒素ちっそをはじめおおくの物質ぶっしつ生態せいたいけいなか循環じゅんかんしているが、なかには微生物びせいぶつにユニークな反応はんのう存在そんざいし、物質ぶっしつ循環じゅんかんたす微生物びせいぶつ役割やくわり想像そうぞう以上いじょうおおきいことが示唆しさされている。この学問がくもんとく微生物びせいぶつ生態せいたいがくといわれている。また、微生物びせいぶつあいだたねあいだ相互そうご作用さよう研究けんきゅうすすんでいる。

病原びょうげんせい[編集へんしゅう]

炭疽たんそきんをはじめおおくの微生物びせいぶつ人間にんげんたいして病原びょうげんせいっており、疾病しっぺいめんからもおおくの微生物びせいぶつ研究けんきゅうされてきた。人工じんこうてき免疫めんえきほう衛生えいせいがくてき手法しゅほうといった現在げんざい医学いがくにおいてもかせないおおくのテクニックが微生物びせいぶつがくからまれている。また、ウイルスについても、病原びょうげんせい(タバコモザイク病もざいくびょう)から発展はってんした概念がいねんおよび学問がくもんひとつである。なお、日本にっぽんでは病原びょうげんせい微生物びせいぶつあつか学問がくもんとして細菌さいきんがくという固有こゆう分野ぶんやもうけている。

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]