釧路くしろ湿原しつげん

釧路くしろ湿原しつげん

釧路くしろ湿原しつげん（くしろしつげん）は、北海道ほっかいどう釧路くしろ平野へいやに位置いちする日本にっぽん最大さいだいの湿原しつげん^[1]・湿地しっち。面積めんせきは約やく2万まん6000haで、このうち中心ちゅうしん部ぶの7863haがラムサール条約じょうやく登録とうろく湿地しっちである^[1]^[2]。釧路くしろ湿原しつげん国立こくりつ公園こうえんとしての区域くいきは2万まん8788ha^[3]。

地理ちり[編集へんしゅう]

釧路くしろ市しの北部ほくぶから4市町しちょうに広ひろがる。大半たいはんは川上かわかみ郡ぐん標茶しべちゃ町まちと阿寒あかん郡ぐん鶴居つるい村むら、釧路くしろ郡ぐん釧路くしろ町まちに属ぞくする。

湿原しつげんの中なかを釧路くしろ川がわが大おおきく蛇行だこうしながら流ながれている。湖みずうみの東側ひがしがわには塘路湖とうろこ、シラルトロ沼しらるとろぬま、達古武たつこぶ湖こ、エオルト沼ぬま、ポン沼ぽんとう、サルルン沼ぬまが並ならぶ^[3]。湿原しつげんの中なかにも小ちいさな湖沼こしょうが点在てんざいするほか、泥炭でいたん層そうの小ちいさな穴あなに水みずがたまって底そこなし沼ぬま状じょうになった「やちまなこ」（谷地やち眼め）が各所かくしょにある。

第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ごの食糧しょくりょう増産ぞうさん政策せいさくとともに湿地しっち帯たいの一部いちぶは開拓かいたくされ、釧路くしろ川がわの直線ちょくせん化かも実施じっしされたが、川かわの流速りゅうそくが速はやくなったことが生態せいたい系けいに影響えいきょうを与あたえた一因いちいんと考かんがえられており再さい蛇行だこう化かする計画けいかくがある^[4]。

自然しぜんとその保護ほご・再生さいせい[編集へんしゅう]

動植物どうしょくぶつ[編集へんしゅう]

ヨシ-スゲ湿原しつげんが大だい部分ぶぶんを占しめる。スゲ属ぞくが大おおきな塊かたまりとなったものは谷地やち坊主ぼうず（やちぼうず）を呼よばれ、釧路くしろ湿原しつげんの名物めいぶつの一ひとつとなっている。このほかハンノキの林はやし、ミズゴケ湿原しつげんもあり、食虫植物しょくちゅうしょくぶつのモウセンゴケやコタヌキモが生育せいいくする。湖沼こしょうや河川かせんにはヒシ、ネムロコウホネなど水草みずくさが見みられる。湿原しつげん内ないと周辺しゅうへんで確認かくにんされている植物しょくぶつは約やく700種しゅ^[1]。

動物どうぶつは鳥類ちょうるいが200種しゅ程度ていど^[1]、哺乳類ほにゅうるい39種しゅ、爬虫類はちゅうるい5種しゅ、両生類りょうせいるい4種しゅ、魚類ぎょるい38種しゅ、昆虫こんちゅう類るいが約やく1100種しゅ確認かくにんされている。日本にっぽん最大さいだいの淡水魚たんすいぎょであるイトウ（サケ科か）やキタサンショウウオなどの希少きしょうな動物どうぶつも多おおい。人ひとの活動かつどうが少すくなく餌えさが豊富ほうふなため、タンチョウやエゾセンニュウ、ベニマシコなどの多おおくの鳥類ちょうるいの繁殖はんしょく地ち・休息きゅうそく地ちとなっている。タンチョウは夏季かき、釧路くしろ湿原しつげんを含ふくむ道東どうとう各地かくちで繁殖はんしょくし、冬ふゆには釧路くしろ湿原しつげんへ戻もどってきて越冬えっとうする^[5]。また、釧路くしろ湿原しつげんは一部いちぶの爬虫類はちゅうるい、トンボ、イトトンボおよび植物しょくぶつの日本にっぽんでの唯一ゆいいつの生息せいそく場所ばしょである^[2]。

自然しぜんの保護ほごと再生さいせい[編集へんしゅう]

かつては不毛ふもうな土地とちと看做みなされ、開発かいはつが試こころみられた。太平洋戦争たいへいようせんそう後ご、一部いちぶが農地のうち、牧草ぼくそう地ちや住宅じゅうたく地ちに転用てんようされ、湿原しつげんの面積めんせきは1947年ねんには2.5万まんhaだったものが、1996年ねんには1.9万まんhaとなり約やく2割わり少すくなくなっている^[4]。1951年ねんには当時とうじの北海道開発庁ほっかいどうかいはつちょうが『釧路くしろ泥炭でいたん地ち開発かいはつ計画けいかく』を策定さくていした^[6]。牧草ぼくそう地ちを広ひろげることなどを目的もくてきとした河川かせんの直線ちょくせん化かによる土地とちの乾燥かんそう化か（湿地しっちの消失しょうしつ）は、1980年ねんのラムサール条約じょうやく登録とうろく後ごもしばらく続つづいた^[1]。

一方いっぽうで、自然しぜん保護ほごの取とり組くみも戦前せんぜんに始はじまっており、1935年ねん（昭和しょうわ10年ねん）8月がつ27日にちに「釧路くしろ丹頂鶴たんちょうづる繁殖はんしょく地ち」として2700haが国くにの天然記念物てんねんきねんぶつに指定していされた^[6]。戦後せんごの1952年ねん（昭和しょうわ27年ねん）3月29日にちに「釧路くしろのタンチョウ及およびその繁殖はんしょく地ち」として特別とくべつ天然記念物てんねんきねんぶつに指定してい変更へんこうされ、面積めんせきも2749haに拡大かくだいされた。さらに1967年ねん（昭和しょうわ42年ねん）6月22日にちに「タンチョウ」を地域ちいきを定さだめない種たね指定していの特別とくべつ天然記念物てんねんきねんぶつに指定してい変更へんこうするとともに、同年どうねん7月がつ6日にちに新あらたに「釧路くしろ湿原しつげん」を天然記念物てんねんきねんぶつの天然てんねん保護ほご区域くいきに指定していし、その範囲はんいを5011.4haとした。

また、1958年ねん（昭和しょうわ33年ねん）11月1日にちには、国くに指定してい釧路くしろ湿原しつげん鳥獣ちょうじゅう保護ほご区く（希少きしょう鳥獣ちょうじゅう生息せいそく地ち）に指定していされている（面積めんせき1万まん1523ha、うち特別とくべつ保護ほご地区ちく6962ha）。ただし哺乳類ほにゅうるいのうちエゾシカについては希少きしょう植物しょくぶつを食害しょくがいしたり、踏ふみ荒あらしたりしている面めんもあるため、環境省かんきょうしょうが頭数とうすう調査ちょうさと試験しけん捕獲ほかくを行おこなっている。1980年ねんにはラムサール条約じょうやく登録とうろく地ちに、1987年ねんに湿原しつげん周辺しゅうへんを含ふくむ約やく2万まん6861haが国立こくりつ公園こうえん（釧路くしろ湿原しつげん国立こくりつ公園こうえん）に指定していされている。現在げんざいの釧路くしろ湿原しつげん一帯いったいは釧路くしろ湿原しつげん国立こくりつ公園こうえんの特別とくべつ地域ちいきに指定していされており、開発かいはつは厳きびしく規制きせいされている。

植生しょくせい保護ほごや谷地やち眼めへの転落てんらく事故じこ防止ぼうしのため、湿原しつげん内ないに入はいる自動車じどうしゃが通行つうこうできる道みちはない、観光かんこう客きゃくは遊歩道ゆうほどうを通とおるよう求もとめられる。ゴミのポイ捨ぽいすて、釣つり糸いと・釣つり針ばりの遺棄いきとそれによる鳥類ちょうるいへの被害ひがいも起おきており、有志ゆうしによる「釧路くしろ湿原しつげん騎馬きば隊たい」が乗馬じょうばによる自然しぜん保護ほごパトロールやゴミ拾ひろいなどを行おこなっている^[7]。

かつては湿原しつげんを農地のうち化かする試こころみも行おこなわれていたが、自然しぜん保護ほご機運きうんに加くわえて観光かんこう資源しげんとしての重要じゅうよう性せいが高たかまり、湿原しつげんの開発かいはつよりも保全ほぜんに目めが向むけられるようになってきた^[1]。環境庁かんきょうちょう（後ごの環境省かんきょうしょう）は国立こくりつ公園こうえん指定していに先立さきだつ1983年ねんに「釧路くしろ湿原しつげん保全ほぜん対策たいさく検討けんとう会かい」を設置せっち^[6]。現在げんざい、湿原しつげん内ないでは国土こくど交通省こうつうしょうや環境省かんきょうしょう等とうにより「釧路くしろ湿原しつげん自然しぜん再生さいせいプロジェクト」による自然しぜん再生さいせい事業じぎょうが行おこなわれている^[8]。

主おもな事業じぎょうとして、湿原しつげん上流じょうりゅう部ぶに当あたる茅沼かやぬま地区ちくにおいて直線ちょくせん化かされた釧路くしろ川がわ流りゅう路ろを再さい蛇行だこう化かさせ自然しぜん環境かんきょうの復元ふくげんを図はかる事業じぎょう^[9]や、達古武たつこぶ地域ちいきにおいて森林しんりん、湿原しつげん、河川かせん、湖沼こしょうと連続れんぞく的てきにつながる生態せいたい系けいの復元ふくげんを図はかる事業じぎょうは現在げんざいも行おこなわれている

湿原しつげんの歴史れきし[編集へんしゅう]

1万まん年ねん前まえまでの氷こおり期きには、地球ちきゅう上じょうの水みずが氷河ひょうがとして大量たいりょうに地上ちじょうに堆積たいせきしたため海水かいすい量りょうが減へって海水かいすい面めんが低下ていかし、釧路くしろ湿原しつげん一帯いったいも完全かんぜんに陸地りくち化かしていた。その後ご、気温きおんが上昇じょうしょうして海水かいすい面めんが上昇じょうしょうした。約やく6000年ねん前まえには気候きこうが現在げんざいより温暖おんだん化かし、海水かいすい面めんも今いまより2から3m高たかくなった（詳くわしくは縄文じょうもん海うみ進すすむを参照さんしょう）。当時とうじ、釧路くしろ湿原しつげん一帯いったいは大おおきな浅あさい湾わんを形成けいせいし、気温きおんも現在げんざいより平均へいきん2℃から3℃高たかく、現在げんざいの東北とうほく地方ちほうと似にた気候きこうであった。湿原しつげん周辺しゅうへんに存在そんざいする当時とうじの貝塚かいづかからはハマグリやシオフキなどの貝殻かいがらが見みつかっており、これらは現在げんざいは宮城みやぎ県けん以南いなんに生息せいそくしている種しゅである。

その後ご、気温きおんの低下ていかにしたがって海水かいすい面めんも低下ていかし、4000年ねん前まえには現在げんざいの海岸かいがん線せんが形作かたちづくられた。釧路くしろ湿原しつげんでは湾口わんこう部ぶに砂洲さすが発達はったつし、内陸ないりく部ぶは水みずはけの悪わるい沼沢しょうたく地ちになった。沼沢しょうたく地ちに生おい茂しげったヨシやスゲが冷涼れいりょう多湿たしつな気候きこう下かで泥炭でいたん化かして湿原しつげんが形成けいせいされ、約やく3000年ねん前まえに現在げんざいのような湿原しつげんになった。北海道ほっかいどうにあるサロベツ原野げんやや霧多布きりたっぷ湿原しつげんも、同おなじ経緯けいいで形成けいせいされた。

早はやい時期じきにおける和人わじんの来訪らいほうとしては幕末ばくまつの1858年ねん、松浦まつうら武四郎たけしろうが幕命ばくめいによる調査ちょうさで釧路くしろ川がわを下くだり、湿原しつげんを縦断じゅうだんしている^[6]。

眺望ちょうぼうと探勝たんしょう[編集へんしゅう]

一般いっぱんの観光かんこう客きゃくは、高台たかだいにある複数ふくすうの展望てんぼう台だいから眺ながめるか、遊歩道ゆうほどうの散策さんさくやカヌー等ひとしによる川かわ下くだりで湿原しつげんの景色けしき・自然しぜんを楽たのしめる。また、JR 釧網本線せんもうほんせんは一部いちぶの区間くかんが湿原しつげん内ないを通とおるため、列車れっしゃに乗車じょうしゃしたまま観察かんさつする方法ほうほうもある。

湿原しつげんの東ひがし端はしには、「細ほそ岡おか展望てんぼう台だい・ビジターズラウンジ」がある。蛇行だこうする釧路くしろ川がわを一望いちぼうでき、正面しょうめんに宮島岬みやじまみさきやキラコタン岬きらこたんみさきが望のぞめる^{[注釈ちゅうしゃく 1]}。展望てんぼう台だいの下したにはJR釧網本線せんもうほんせん釧路くしろ湿原しつげん駅えきが設もうけられており、臨時りんじの観光かんこう列車れっしゃである「くしろ湿原しつげんノロッコ号ごう」も停車ていしゃする。また、JR釧網本線せんもうほんせん塘路とうろ駅えき付近ふきんには「サルボ展望てんぼう台だい」、道道みちみち1060号ごう沿線えんせんには「コッタロ展望てんぼう台だい」があり、著名ちょめいではないが釧路くしろ川がわの流ながれと釧路くしろ湿原しつげん東側ひがしがわを眺ながめることが出来できる。

西端せいたんには「釧路くしろ市し湿原しつげん展望てんぼう台だい」と「温根内おんねないビジターセンター」がある。こちらからも湿原しつげんを一望いちぼうできるが、湿原しつげん内ないを蛇行だこうする釧路くしろ川がわは視界しかいに入はいらない。それぞれの施設しせつ付近ふきんに探勝たんしょう歩道ほどうが整備せいびされており、植物しょくぶつや鳥類ちょうるいなどを観察かんさつしながら湿原しつげんに触ふれることができる。また、両りょう施設しせつの間あいだ（約やく4km）を、旧きゅう鶴居つるい村営そんえい軌道きどうの廃はい線せん跡あとを転用てんようした探勝たんしょう歩道ほどうが結むすんでいる。