大学で豆乳の凝固(ゲル化)過程の研究をしてる人もいるのだ.一度あって話を聞いてみたいものだ.しかし未だになぜ豆乳が凝固するのか,まともな説明を聞いたことがない.もしかしたら誰もほんとうのことは知らないのかもしれない.
凝固剤に塩化マグネシウムを使うと,大豆60kgから420丁の豆腐しか作れないが,硫酸カルシウムだと1500丁,グルコノデルタラクトンだと3000丁作れるという定量的(笑)なデータが提供されている.なんで大豆が60kgなのか. 60kgというのが卸売の単位にでもなっているのだろうか.まあそりゃそうと, 1丁とは何gなのだろうか.まあそれもどうでもよい.
さて,塩化マグネシウム(ニガリ),硫酸カルシウム(石膏),グルコノデルタラクトンの三つは,日本の豆腐の代表的な凝固剤である.こんど豆腐を買ったときには,添加物の表示に注意してみてもらいたい.この凝固剤の固まり易さの比が,420:1500:3000=1:3.6:7.1 だというのである.
固まり易いほど,同じ分量の大豆に対して余計に水分を含ませて固めることができるから,凝固剤に固まりにくい塩化マグネシウムを使った方が,大豆の割合が大きいので,結局おいしい豆腐になるという論法だ.
しかしそれはおかしな話で,水分が多いのはそもそも凝固剤が悪いのではなく,水分を余計に混ぜる製造元が悪い.グルコノデルタラクトンを使っても,大豆成分が多い豆腐は作れるのである.
他説によれば,ニガリは豆乳に混ぜるとただちに凝固を始め,均等に固めるのが難しいので,大量生産には向いてないという.それもまたおかしな話で,スーパーにはニガリ100%の豆腐はたくさんならんでいる.スーパーに置いてあるような豆腐で大量生産でないわけがない.まあそれにしても,ゆっくり均等に固まる方が大量生産には向いているだろう.
それから,中国の内陸部,麻婆豆腐が名物の四川とか,では,塩化マグネシウム(ニガリ)よりも硫酸カルシウム(石膏)を凝固剤に使うことが多いと思われるし,そのように書いた本を読んだことがある.ニガリを使うのは日本人だけかもしれない.
問題は水分の含量や凝固剤の固まり易さとかではない.水分と大豆の比率を一定にするなど,諸条件を同じにしたとき,いったいどの凝固剤を使うと一番豆腐がおいしいか,ということに尽きる.
私の感じでは,石膏とグルコノデルタラクトンはほとんど無味であるから,大豆や豆乳の風味をいかしたいのなら,こういう凝固剤を使うべきだろう.一方,ニガリは微量でも極めて苦いもので,しかも固まりにくいから大量に用いなくてはならない.それを薄めたり,後から抜いたりしても,最終的にはほんのわずかのニガリの風味が残る.ところがこれは苦みというよりも,独特の旨味として知覚されるらしい.現在,上記の三種類の凝固剤を配合して使っている場合は,ニガリを単に味付けに使っているんじゃないかと私は思う.
で,ニガリが効いてて,堅い豆腐の方がうまい,と世間では考えがちなのであるが,私はニガリがまったく効いてなくてふにゃふにゃな豆腐にも,それなりにうまい豆腐はあると思っている.豆腐の堅さと大豆成分の比率についても私は疑問を持っている.大豆成分が多くても絹漉だと柔らかいままじゃないかという気がする.堅ければ堅いほど大豆成分が多くてうまいというのはおかしい.そもそも充填絹漉だからまずいというのもおかしい.充填絹漉でもちゃんと大豆成分を増やせばおいしい豆腐になると思う.水にさらしたいわゆる木綿豆腐よりも,充填絹漉の方が大豆の旨味が封じ込められていてうまいのじゃなかろうか.私はあまり木綿豆腐はうまいと思わない.私が一番うまいと思うのはある種の「ざる豆腐」である.
グルコノデルタラクトンはハムなどにも添加される.ハムの色調を整えるためにはpH調節が必要で,そのためにグルコノデルタラクトンを加えるとのこと.ということは,グルコノデルタラクトンは加水分解してグルコン酸を生じるから, pHを下げるために使われるのかな.すると,グルコノデルタラクトンは多少すっぱいのかもしれん.