料理りょうり本ほん

イザベラ・ビートン『ビートン夫人ふじんの家政かせい読本とくほん』

料理りょうり本ほん（りょうりぼん、英えい: cookbook）とは、調理ちょうり法ほう、レシピについて記述きじゅつした書籍しょせきである。料理りょうり書しょとも呼よばれる。

歴史れきし

『アピキウス』

「レシピ#歴史れきし」も参照さんしょう

紀元前きげんぜん1750年ねん頃ごろ、メソポタミアでアッカド語ごによって書かかれた3枚まいの粘土ねんど板ばんに25種しゅのシチューを作つくる素材そざい表ひょうが記載きさいされている。現存げんそんする料理りょうり粘土ねんど板ばんは4枚まいで、最もっとも新あたらしいものは紀元前きげんぜん1000年ねんごろのものである。料理りょうり粘土ねんど板ばんのうち3枚まいはイエール大学だいがくのバビロニア・コレクションに含ふくまれており、アッシリア学がくの第一人者だいいちにんしゃジャン・ボテロによって発見はっけん・翻訳ほんやくされ、日本語にほんご訳やくも刊行かんこうされている。

料理りょうり法ほうまで記載きさいした物ものは、紀元前きげんぜん500年ねんごろサンスクリット語ごで書かかれたインド料理りょうり本ほん『Vasavarajeyam』である。サンスクリット語ごでは、このような料理りょうり本ほんを「パーカシャーストラ」（Pākaśāstra、料理りょうり論ろん典てん）という。

古代こだい地中海ちちゅうかい世界せかいでは、帝政ていせいローマ末期まっき・4世紀せいき末まつごろにローマ料理りょうりの料理りょうり法ほうをまとめた『アピキウスの書しょ』が書かかれた。同書どうしょが現存げんそん最古さいこの料理りょうり本ほんとされることもあるが、それより古ふるい大だいカトーやウァロの農のう書しょや、アテナイオス『食卓しょくたくの賢人けんじんたち』などにも料理りょうりの詳細しょうさいな記述きじゅつがある。

欧米おうべい

中世ちゅうせいヨーロッパでは、14世紀せいきに中世ちゅうせい料理りょうり本ほんの写本しゃほんが多おおく書かかれた。例たとえば、フランスのギヨーム・ティレル『Viandier』や著者ちょしゃ不明ふめい『Liber de Coquina』、ドイツ最古さいこの『Das Buch von guter Speise』（1350年ねんごろ）、イギリス最古さいこの『The Forme of Cury』（14世紀せいき末まつ）がある。

15世紀せいきから16世紀せいき、ルネサンス期きイタリアでは、美食びしょく家かの人文じんぶん主義しゅぎ者しゃプラティナが『真しんの喜よろこびと健康けんこうについて』を、料理人りょうりにんのスカッピが『オペラ』を書かき、ルネサンス期きイタリア料理りょうりを体系たいけい化かした。

17世紀せいきから19世紀せいき、イギリスでは、ハナ・ウリーが女性じょせいによる料理りょうり本ほん執筆しっぴつの草分くさわけとなり、フランカテリが労働ろうどう者しゃ階級かいきゅう向むけイギリス料理りょうりの草分くさわけ的てきな料理りょうり本ほんを書かいた。エリザベス・スミス『主婦しゅふ大全たいぜん』やイザベラ・ビートン『ビートン夫人ふじんの家政かせい読本とくほん』は、当時とうじのロングセラーとなった。

フランスでは、ラ・ヴァレンヌ、カレーム、エスコフィエらがフランス料理りょうりの料理りょうり本ほんを書かいた。ムノンは宮廷きゅうてい料理りょうりでないブルジョワ向むけ料理りょうりの草分くさわけ的てきな料理りょうり本ほん『ブルジョワの女おんな料理人りょうりにん』を書かいた。

アメリカでは、アミーリア・シモンズ『アメリカの料理りょうり』やリディア・マライア・チャイルド『アメリカのつましい主婦しゅふ』、ファニー・ファーマー『ボストン・クッキングスクール・クックブック』がロングセラーとなった。

アラビア

現存げんそん最古さいこのアラビア語ご料理りょうり本ほんは、10世紀せいきごろにイブン・サッヤール・アル＝ワッラクが編纂へんさんした『料理りょうりと食しょく養生ようじょうの書しょ』である。中世ちゅうせいイスラームの都市としでは、親戚しんせき・知人ちじん・客人きゃくじんの接待せったいや、ラマダーン明あけのイードにおける食事しょくじは重要じゅうようとされた。中世ちゅうせいアラブ医学いがくには医い食しょく同どう源みなもとの思想しそうがあり、正ただしい食事しょくじ（al-sahih min al-tabikh）は宮廷きゅうていを中心ちゅうしんとする人々ひとびとの関心事かんしんじだった。料理りょうりの種類しゅるい、ハラール、食しょく養生ようじょう、もてなしについての文章ぶんしょうはアラビア語ごの医学いがく書しょ、詩し、文学ぶんがく書しょ、旅行りょこう記きにも多おおく記しるされている。10世紀せいきバグダートの書籍しょせき商しょうだったイブン・ナディームによる図書としょ目録もくろく『フィフリスト』には、「アラブ料理りょうり書しょ」という分類ぶんるいがあり、10世紀せいきには書物しょもつのカテゴリーとして料理りょうり書しょが確立かくりつしていたことが分わかる。

8世紀せいきから11世紀せいきにかけてはバグダード、10世紀せいき後半こうはんから15世紀せいきにはエジプトやシリア、13世紀せいきにはマグリブやアンダルスを中心ちゅうしんとしてアラブ料理りょうり書しょが作つくられており、各かく時代じだいの経済けいざいと文化ぶんかの中心ちゅうしん地ちで盛さかんだったことが分わかる。著者ちょしゃや編者へんしゃは、9世紀せいきから11世紀せいきにかけては宮廷きゅうていに仕つかえる学者がくしゃ、音楽家おんがくか、官僚かんりょう、カリフの侍医じいたちだった。13世紀せいき以降いこうになると都市としの知識ちしき人じんであるウラマー、カーディー、詩人しじんなどが手てがけるようになった。その理由りゆうは、料理りょうり書しょの内容ないようが宮廷きゅうてい料理りょうりから各かく地域ちいきの都市としの料理りょうりに変かわった点てんにあると推測すいそくされる。

東ひがしアジア

『豆腐とうふ百ひゃく珍ちん』

中国ちゅうごく料理りょうりについては、7世紀せいき・隋ずい代だいの図書としょ目録もくろく『隋ずい書しょ経籍けいせき志こころざし』などに、題名だいめいに『食しょく経けい』と付つく料理りょうり本ほんが多おおく記録きろくされているが、ほとんどが逸書いっしょとなっており現存げんそんしていない。現存げんそん最古さいこ級きゅうの料理りょうりの記述きじゅつは、6世紀せいき・北きた魏たかしの農のう書しょ『斉ひとし民みん要よう術じゅつ』や、先さき秦しんの『礼れい記き』における天子てんしに捧ささげられる食たべ物もの、『呂りょ氏し春秋しゅんじゅう』本ほん味あじ編へんなどに見みられる。10世紀せいき・宋そう代だい以降いこうは印刷いんさつ技術ぎじゅつの発展はってんにより、『中ちゅう饋録』『山家やまや清きよし供きょう』『随ずい園えん食しょく単たん』など多おおくの料理りょうり本ほんが現存げんそんする。モンゴルが中国ちゅうごくを治おさめた元もと代だいには、皇帝こうていに飲食いんしょくを提供ていきょうした飲いん膳ぜん太ふとし医いの忽ゆるがせ思おもえ慧としが食しょく養やしなえ本ほん『飲いん膳ぜん正せい要よう』を1330年ねんごろに執筆しっぴつしている。『飲いん膳ぜん正せい要よう』には、モンゴル料理りょうりやペルシア料理りょうりと推定すいていされる料理りょうりも含ふくまれている。

韓国かんこく料理りょうりについては、1670年ねん頃ごろに貞さだ夫人ふじん安東あんどう張ちょう氏しが『飲食いんしょく知ち味方みかた』として料理りょうり法ほうを記しるしている。

日本にっぽん料理りょうりについては、江戸えど時代じだいに至いたるまで料理りょうりに関かんする本ほんはあるものの、詳くわしい内容ないようは秘事ひめごと口伝くでんの形かたちで料理人りょうりにんの師弟してい間あいだでのみ伝つたえられた（四条しじょう流りゅう庖丁ぼうちょう道どうなど）。江戸えど時代じだいになると、印刷いんさつ技術ぎじゅつの発展はってんにより料理りょうり本ほんが民衆みんしゅうも読よめるものとなった。江戸えど時代じだいの料理りょうり本ほんに『料理りょうり物語ものがたり』『豆腐とうふ百ひゃく珍ちん』『本ほん朝食ちょうしょく鑑かん』などがある。

現代げんだい

20世紀せいき以降いこうは、料理りょうり研究けんきゅう家かや芸能人げいのうじんによって世界中せかいじゅうで無数むすうの料理りょうり本ほんが書かかれており、料理りょうり雑誌ざっしや、料理りょうり番組ばんぐみの書籍しょせき化かも多おおくある。

21世紀せいきには、クックパッドなどレシピサイトの台頭たいとうにより、料理りょうり本ほんの売上うりあげは落おちているとされる。しかし同時どうじに、ブロガーやYoutuberによる料理りょうり本ほんが、出版しゅっぱん不ふ況きょうの中なかでベストセラーになってもいる。

医学いがく

医い食しょく同どう源みなもとという言葉ことばがあるように、料理りょうり本ほんは古代こだいの医療いりょうと関連かんれんしていた。インドの料理りょうり本ほんの多おおくや、上記じょうきアラビアの『料理りょうりと食しょく養生ようじょうの書しょ』もその一いち例れいである。

中国ちゅうごくの歴代れきだいの料理りょうり本ほんは、「医い」を重視じゅうしする本ほん草書そうしょ的てきな料理りょうり本ほんと、「食しょく」を重視じゅうしする料理りょうり本ほんの二に系統けいとうに分わけられる。例たとえば上記じょうきの『飲いん膳ぜん正せい要よう』は前者ぜんしゃ、『斉ひとし民みん要よう術じゅつ』は後者こうしゃに属ぞくする。

日本にっぽんでも、陰陽いんよう五ご行ぎょう説せつに基もとづく材料ざいりょうの選択せんたくや薬学やくがくの知識ちしきが考慮こうりょされた。

薬くすりの処方箋しょほうせんをレシピというように、古代こだいギリシアでは医師いしが食事しょくじのレシピも書かいていた（古代こだいギリシア・ローマの食しょく養やしなえと医療いりょう）。

計量けいりょう

香川かがわ綾あやが創刊そうかんした『栄養えいようと料理りょうり』

詳細しょうさいは「調理ちょうり用よう計量けいりょう器き」を参照さんしょう

19世紀せいきになるまで計量けいりょうについては記しるされていない。料理りょうり本ほんは、料理人りょうりにんの記憶きおくを補おぎなう備忘録びぼうろくとして使つかわれ、味付あじつけは経験けいけんからくる匙加減さじかげんで作つくっていたため分量ぶんりょうを計量けいりょうする記述きじゅつが省はぶかれていた。

日本にっぽんでは、女子栄養大学じょしえいようだいがく創設そうせつ者しゃの香川かがわ綾あやが、1948年ねん(昭和しょうわ23年ねん)にメめートル法とるほうや尺貫法しゃっかんほうが混在こんざいしていた計量けいりょうスプーン・計量けいりょうカップに統一とういつした規格きかくを持もち込こみ、NHKの料理りょうり番組ばんぐみなどで普及ふきゅうに努つとめた。

文化ぶんか

大会たいかい

• 料理りょうりレシピ本ほん大賞たいしょう in Japan
• Gourmand World Cookbook Award

博物館はくぶつかん・コレクション

詳細しょうさいは「en:Gourmet Museum and Library」を参照さんしょう

• ドイツ料理りょうり本ほん博物館はくぶつかん
• リーズ大学だいがく料理りょうり本ほんコレクション

関係かんけい者しゃ

• 料理人りょうりにん、調理ちょうり師し
• 料理りょうり研究けんきゅう家か
• 食通しょくつう（美食びしょく家か）
• フードライター

参考さんこう文献ぶんけん

• エウジェニア・サルツァ・プリーナ・リコッティ『古代こだいローマの饗宴きょうえん』武谷たけやなおみ 訳わけ、講談社こうだんしゃ〈講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ〉、2011年ねん。ISBN 978-4062920513。 
• 相本あいもと資子もとこ「クックブックを読よむ : アミーリア・シモンズとリディア・マライア・チャイルドの場合ばあい」『英えい米べい文学ぶんがく』第だい59巻かん、第だい1号ごう、関西学院大学かんせいがくいんだいがく英えい米べい文学ぶんがく会かい、2015年ねん。 NAID 120005758787。http://hdl.handle.net/10236/14526。 
• 遠藤えんどう雅司まさし『歴れきメシ！世界せかいの歴史れきし料理りょうりをおいしく食たべる』柏書房かしわしょぼう、2017年ねん。ISBN 9784760148783。 （決定けってい版ばん: 晶文社しょうぶんしゃ、2022年ねん。ISBN 978-4794973429）
• 加納かのう和雄かずお 著ちょ「コラム1 中世ちゅうせいのサンスクリット料理りょうり書しょ」、井坂いさか理穂りほ・山根やまね聡さとし 編へん『食しょくから描えがくインド 近きん現代げんだいの社会しゃかい変容へんようとアイデンティティ』春風しゅんぷう社しゃ、2019年ねん。ISBN 978-4861106330。https://researchmap.jp/kanokazuo/published_papers/31786248。 
• 小柳こやなぎ康子やすこ「イギリスの料理りょうり書しょの歴史れきし(1)-Hannah WoolleyのThe Gentlewomans Companion (1673)」『實踐じっせん英えい文學ぶんがく』第だい61号ごう、実践女子大学じっせんじょしだいがく、2009年ねん、21-33頁ぺーじ、2022年ねん11月26日にち閲覧えつらん。 
• 篠田しのだ統みつる; 田中たなか静一せいいち『中国ちゅうごく食しょく経けい叢書そうしょ 中国ちゅうごく古今ここん食物しょくもつ料理りょうり資料しりょう集成しゅうせい』書籍しょせき文物ぶんぶつ流通りゅうつう会かい、1972年ねん。 NCID BN0270516X。https://dl.ndl.go.jp/pid/12205691。 NDLJP:12205691
• 鈴木すずき貴久子きくこ「中世ちゅうせいアラブ料理りょうり書しょの系統けいとうと特徴とくちょうについて」『オリエント』第だい37巻かん第だい2号ごう、日本にっぽんオリエント学会がっかい、1994年ねん、88-107頁ぺーじ、2022年ねん10月がつ8日にち閲覧えつらん。 
• 鈴木すずき貴久子きくこ「マムルーク朝あさ時代じだいの料理りょうり書しょ『日常にちじょう食物しょくもつ誌し』を中心ちゅうしんとするアラブ・イスラーム世界せかいの食生活しょくせいかつ研究けんきゅう」、東京外国語大学とうきょうがいこくごだいがく 大学院だいがくいん総合そうごう国際こくさい学がく研究けんきゅう科か、1996年ねん3月がつ、2022年ねん10月がつ8日にち閲覧えつらん。 
• 鈴木すずき実みのる佳けい「「来きたるべき時ときに彼女かのじょに喜よろこびを与あたえてやろう」：料理りょうり・伝統でんとう・その先さきへ」『人文じんぶん論集ろんしゅう』第だい72巻かん、第だい1号ごう、静岡大学しずおかだいがく人文じんぶん社会しゃかい科学かがく部ぶ、2021年ねん。 NAID 120007151906。https://doi.org/10.14945/00028368。 
• 中村なかむら喬たかし『中国ちゅうごくの食しょく譜ふ』平凡社へいぼんしゃ〈平凡社へいぼんしゃ東洋文庫とうようぶんこ〉、1995年ねん。ISBN 978-4582805949。 
• 西村にしむら暢夫のぶお『イタリア食しょく文化ぶんかこぼれ話ばなし』文ぶん流りゅう、2013年ねん。ISBN 9784990294434。 

関連かんれん項目こうもく

• 『美味びみ求もとめ真しん』 - 20世紀せいきの美食びしょく家か木下きのした謙次郎けんじろうが古代こだいの料理りょうり書しょなどについて記しるしている。
• 栄養えいよう学がく、ガストロノミー(美食びしょく学がく)

外部がいぶリンク

• 江戸えどの料理りょうり書しょ・料理りょうり本ほん - 国文学研究資料館こくぶんがくけんきゅうしりょうかん