歌詠うたよみの死滅しめつ

和歌わかを詠よみ始はじめの頃ころは、やまとことばだけで、五ご七なな五ご七なな七ななに詠よむのがとても難むずかしいと感かんじる。 だけどその習慣しゅうかんを10年ねん、20年ねんと続つづけていくうちに、自然しぜんに歌うたが詠よめるようになる。

今いま私わたしはシラフのときにはほとんど歌うたを詠よまないが、なぜか酒さけに酔よって知性ちせいや理性りせいというブレーキが利きかなくなると歌うたを詠よむ人ひとになってしまった。 そして詠よんだ歌うたを忘わすれて翌朝よくあさ、ツイッターか何なにかに書かき込こんだのをみて、 こんな歌か自分じぶんで詠よんだんだなと驚おどろく。

私わたしたちは考かんがえてしゃべるのではない。 歌うたもそうだと思おもう。 自然しぜんに詠よめるまで訓練くんれんすることが大事だいじなのだ。 そこまでいけば歌うたなど勝手かってに詠よめるのだ。 昔むかしのうまい歌詠うたよみたちもみんなそうだった。 うまい歌うたを詠よもうと思おもって詠よむのではない。 歌うたというものはほとんど無意識むいしきに詠よまなくては良よい歌うたにはならない。 良よい歌うたを詠よもうと巧たくんではならない。 そんな歌うたはたいてい出来損できそこないだ。

もちろん酔よっ払ぱらって下手へたな歌うたを詠よむこともある。 あとからみて陳腐ちんぷだなあと思おもうことも多おおい。 しかしシラフのときには決けっして詠よめない、詠よまないような歌うたを詠よんでいて我わがながら驚おどろくこともある。

そして、いろんな人ひとたちのブログやSNSなど見みてて、 やまとことばだけで、五ご七なな五ご七なな七ななに、きちんとした和歌わかを詠よんでいる人ひとが、 私わたし以外いがいにはもはや一人ひとりもいないのではないかという気きがしてならない。 まだきちんと平仄ひょうそくあわせした七言しちごん絶句ぜっくなどの漢詩かんしを作つくる人ひとのほうが多おおいように思おもう。

きちんと和歌わかを詠よむ人ひと、桂園けいえん派はの生いき残のこりは柳田やなぎだ国男くにおくらいまでだった。 今いまの人ひとたちは昔むかしの人ひとたちのように和歌わかを詠よむことなんてできないとはなから諦あきらめている。 佐佐木ささき信綱のぶつなあたりがそう決きめてしまった。 佐佐木ささき信綱のぶつなですら詠よめないのだから私わたしたちも詠よめるはずがないと思おもい込こんでしまった。 諦あきらめるから詠よめないのだ。 一ひとつの伝統でんとうが尽つきようとしている。死しに絶たえようしている。 このままではほんとうに日本人にっぽんじんは和歌わかを詠よめなくなってしまう。 実じつに恐おそろしい。