ドナルド・キーン再説さいせつ

このブログはもうずいぶん昔むかし（私わたしが30才さい台だいの頃ころ）から書かき散ちらし書がき殴なぐっているもので、手直てなおし・書かき直なおしが必要ひつようなのだが（改編かいへんするというわけでなく書式しょしきなどのメンテナンスが必要ひつようということ）、ふと、25年ねんも前まえ（ということは35才さいの時とき）ドナルド・キーンついて批判ひはんしている文ぶんをみつけた。

ドナルド・キーン、ドナルド・キーン2、ドナルド・キーン3、宣長のりながの違和感いわかん、原はら勝郎かつろう、「山月やまつき記き」はなぜ国民こくみん教材きょうざいとなったのか

どうであろうか。すでに書かいたことはできるだけ繰くり返かえさないが、司馬しば遼りょう太郎たろうがとんでもない歴史れきし音痴おんちなのは今更いまさらどうしようもないとして（そういえば合羽かっぱ橋きょうに行いったとき台東たいとう区立くりつ図書館としょかんの池波いけなみ正太郎しょうたろう文庫ぶんこに行いったら司馬しば遼りょう太郎たろうの本ほんまで置おいてあった。あれはけしからんことだ。ちゃんと分別ふんべつしてほしい。合羽かっぱ橋きょうには雨合羽あまがっぱは売うってなかった）、ドナルド・キーンはなぜよりにもよって、足利あしかが義政よしまさに興味きょうみを持もったのか。他たに面白おもしろそうな人ひとはいくらでもいるのになぜ義政よしまさの本ほんをいくつも出だしたのか。

25年ねん前まえの私わたしは彼かれが先さきに、京都きょうと人じんか誰だれかに感化かんかされて室町むろまち文化ぶんか、東山ひがしやま文化ぶんかに興味きょうみをもちそこから義政よしまさに興味きょうみをもったのではないか、と推測すいそくしているのであるが、それは原はら勝郎かつろうという人ひとが

書畫しょが、茶ちゃ湯ゆ、活花いけばな、又または連歌れんが、能樂のうがく等とうに關係かんけいした方面ほうめんに興味きょうみを持もつた場合ばあいであるので、一口ひとくちに之これを評ひょうすれば骨董こっとう的てき興味きょうみから觀察かんさつした足利あしかが時代じだいであつたのである。

と言いっているのと同おなじだ。しかしそれだけでなく、今いま思おもうに、彼かれは義政よしまさを彼かれのライフワークである明治天皇めいじてんのうにぶつけて、日本にっぽんという国くにの典型てんけい的てきな最高さいこう権力けんりょく者しゃ（しかも権威けんい的てきな、象徴しょうちょう的てきな意味いみでの）の、特とくに際立きわだった、特徴とくちょう的てきな二人ふたりを対比たいひしてみたかったのではなかろうか。

この、ドナルド・キーンという人ひとに取とり上あげられたことは義政よしまさにとって非常ひじょうに迷惑めいわくなことであった。同時どうじに、明治天皇めいじてんのうにとってもまったくありがたくはないことだったと思おもう。ドナルド・キーンによって日本にっぽん史し研究けんきゅうは多少たしょうとも進歩しんぽしたのだろうか？非常ひじょうに疑問ぎもんだ。司馬しば遼りょう太郎たろうを引ひっ張ぱり出だしてきてこんな対談たいだんをして合あいの手てを打うたせたりするようでは、たかが知しれている。むしろ日本にっぽん史しに対たいする誤解ごかいを再さい生産せいさんし変へんな箇所かしょをことさら膨ふくらませて奇形きけいにしただけだったのではないか。

ドナルド・キーンという人ひとが義政よしまさを「ろくでなし」「気違きちがい」などと考かんがえたということは（それを後こう白河しらかわ法皇ほうおうに対たいして言いうのであればまだわかる気きもする）、彼かれにそう思おもわせ、そう言いわせた日本人にっぽんじんが彼かれの周まわりに相当そうとう数すういたということだ。また北条ほうじょう泰やすし時じのような天才てんさいに対たいして「鎌倉かまくら時代じだいの北条ほうじょう三さん代だいというのは、無学むがくでしたけれども、一生懸命いっしょうけんめい政治せいじをします。」などと発言はつげんしていることも、彼かれがちゃんと自分じぶんで調しらべなかったせいというよりは、当時とうじの日本にっぽんの歴史れきし観かんというものがそうしたものであった、特とくに、京都きょうと人じんはことさらに応仁おうにんの乱らんを馬鹿ばかにして義政よしまさをあざけって悦えつにいり、鎌倉かまくら北条ほうじょう氏しをおとしめて溜飲りゅういんを下さげていたのだろうと思おもわれるのだ（ドナルド・キーンとどこかの公家くげの子孫しそんが茶室ちゃしつかなんかでそんな話はなしをしているシーンが目めに浮うかぶ）。足利あしかが氏しにしても京都きょうと人じんにとっては北関東きたかんとうからでてきた野蛮やばん人じん程度ていどの認識にんしきなのだろう。

司馬しば遼りょう太郎たろうのように、室町むろまち将軍しょうぐんのことも応仁おうにんの乱らんの意味いみもなんにもしらずに、「どうも後世こうせいから応仁おうにんの乱らんを考かんがえると、無意味むいみで、どうしようもなくて、ただ騒さわぐだけの戦争せんそうですが」と放言ほうげんする輩やからが戦後せんご日本にっぽんには大勢おおぜいいたのだろう（たぶん今いまもおおぜいいる）。

私わたしは高校こうこうで日本にっぽん史しをとらず世界せかい史しを取とった（とすでに書かいているけれども）。どこかで日本にっぽん史しを小馬鹿こばかにしていたのだと思おもう。当時とうじの新聞しんぶんが読よむに値あたいしなかったように、日本にっぽん史しなどというものは学まなぶに値あたいしないものだと思おもっていたと思おもう。そしてのちに「日本にっぽん外史がいし」で日本にっぽん史しを一いちから独学どくがくした（これもすでに書かいている）。江戸えど時代じだいの人ひとは室町むろまち時代じだいを良よく知しっていた。今いまの私わたしたちが明治めいじ時代じだいを熟知じゅくちしているように。

今いまの人ひとたちはかつて関東かんとうで利根川とねがわを挟はさんで、西にし関東かんとうと東ひがし関東かんとうに分わかれて戦争せんそうをしていた、なんて話はなしをまったくしらない。は？それはいったいどんな歴史れきし創作そうさくものですか、何なにかちょっと面白おもしろそうですねなどと言いわれる。れっきとした事実じじつである。そしてそれにそれを元もとネタにした小説しょうせつももうある。江戸えど時代じだいに滝沢たきざわ馬琴ばきんが書かいた南総里見八犬伝なんそうさとみはっけんでんがそれだ。太田おおた道灌どうかんや、北条早雲ほうじょうそううんやその子孫しそんらがどんな戦争せんそうを闘たたかったかなどということも、彼かれらの名前なまえだけ知しっているだけだ。江戸城えどじょうも川越かわごえ城じょうも元もとはといえば、西にし関東かんとうを支配しはいする関東かんとう管領かんりょう上杉うえすぎ氏しの家いえ宰おさむ太田おおた氏しが、東ひがし関東かんとうの古河ふるかわ公方くぼうと対峙たいじするために建たてた城しろだ。

応仁おうにんの乱らんで京都きょうとが戦場せんじょうになった、戦せんに焼やかれてお寺てらもボー、などという話はなしは良よく知しっているくせに。関東かんとうに生うまれ育そだった人ひとでもよっぽど郷土きょうど史しに詳くわしい人ひとしか南総里見八犬伝なんそうさとみはっけんでんのベースとなった関東かんとうの歴史れきしを知しらない。自分じぶんが住すんでいるところの郷土きょうど史しとしては知しっていてもそれが日本にっぽん史し全体ぜんたいの中なかでどういう文脈ぶんみゃくにあるかを認識にんしきしていない。

京都きょうとと関東かんとうは連動れんどうしていた。京都きょうとしか見みていなくて応仁おうにんの乱らんがわかるはずがない。義教よしのりが関東かんとうをぶっ壊こわしたせいで、関東かんとうは大乱たいらんとなった。義政よしまさはそれをなんとか収おさめようとして余計よけい火ひに油あぶらを注そそいだ。義政よしまさが何なにもしなかったのではない。無能むのうだったのでもない。嫁よめの日野ひの富子とみこの尻しりに敷しかれていたせいでもない。不可能ふかのうだったのだ（もし義政よしまさが強権きょうけんを発動はつどうすれば義教よしのりや義輝よしてるのように家臣かしんに暗殺あんさつされるか義昭よしあきのように京都きょうとから追放ついほうされるおそれがあった。勢いきおい合議ごうぎ制せいにならざるを得えず、細川ほそかわ、山名やまななどの大だい族ぞくには遠慮えんりょせねばならぬ）。

京都きょうとの室町むろまち将軍しょうぐんと関東かんとうの鎌倉かまくら公方くぼうはもともと尊たかし氏しの息子むすこたちだったがだんだんに血ちが遠とおくなり、足利あしかが本家ほんけの室町むろまち将軍しょうぐんと分家ぶんけの鎌倉かまくら公方くぼうが対立たいりつするようになって（江戸えど時代じだいに徳川とくがわ氏しが御三家ごさんけ、御ご三さん卿きょうどうし対立たいりつしなかった（少すくなくとも戦争せんそうには発展はってんしなかった）のは足利あしかが氏しの前例ぜんれいを学まなんでいたからだ）、関東かんとうの方ほうが先さきに幕府ばくふ体制たいせいが崩壊ほうかいしていき、それが京都きょうとへ逆流ぎゃくりゅうしてきて応仁おうにんの乱らんになった。足利あしかが将軍しょうぐんが守護しゅごを任命にんめいして日本にっぽん全国ぜんこくを支配しはいするという制度せいどは東ひがしから西にしへと崩くずれていった。その全体ぜんたい的てきな流ながれを説明せつめいしなくては応仁おうにんの乱らんも戦国せんごく時代じだいもわかるはずがない。日本にっぽん外史がいしを読よめばその流ながれはわかる。南総里見八犬伝なんそうさとみはっけんでんを読よめばだいたいの雰囲気ふんいきはわかる（あれを通読つうどくする人ひとは滅多めったにいないとは思おもうが）。江戸えど時代じだいの、京都きょうとの人ひとはともかく、関東かんとうに住すんでいた人ひとたちはみんなわかっていたはずだ。ところが今いまの日本にっぽん史しでは室町むろまち時代じだいをほとんどまったく教おしえない。ただ京都きょうと室町むろまち御所ごしょで茶ちゃの湯ゆがー、申楽さるがくがー、書院造しょいんづくりがー、連歌れんががーと芸能げいのうにうつつを抜ぬかしていたら突然とつぜん青天せいてんの霹靂へきれきのごとく応仁おうにんの乱らんが勃発ぼっぱつし、義政よしまさは銀閣寺ぎんかくじを建たてて政治せいじから逃避とうひし、日野ひの富子とみこは義政よしまさを尻しりに敷しき、ぐだぐだ戦争せんそうが続つづいて日本にっぽん全体ぜんたいに波及はきゅうして戦国せんごく時代じだいになった、くらいのことしかいわない。で、司馬しば遼りょう太郎たろうの書かいたものばかり読よんでいる。室町むろまち時代じだいがわかるはずがない。

私わたしも関東かんとうに住すみ、東京とうきょう神奈川かながわ、埼玉さいたまや千葉ちばなどあちこち経巡へめぐってきたせいで、関東かんとうのことがだいぶわかるようになってきた。東京とうきょうは日本にっぽんの首都しゅとであるはずだが、日本人にっぽんじんは関東かんとうのことをわかってない。

ともあれ。私わたしが最近さいきん書かいた本ほんでも（いつ出版しゅっぱんされるかわからないが）ドナルド・キーン批判ひはんをしたのだった。彼かれはいろいろわかってない。それはやむを得えないことだ。しかしながらみんなドナルド・キーンの研究けんきゅうはすごく優すぐれたものだと思おもい込こんでいて、実際じっさいにはろくに読よんでもいないし、ちゃんとした検証けんしょうなどまったくされていない。これは困こまったことである。