之繞に限らず、活字体の規範は康熙字典体(旧字体)であるとされてきたが、1946年に告示された当用漢字表では沢(澤)や浜(濱)などの簡易字体(新字体)が採用された。康熙字典体の之繞は点が2つで直角の折れにヘ形の払いの二点之繞(辶)になっている。一方、1949年に告示された当用漢字字体表の之繞は一点(辶)になっている。しかし当用漢字表に附属する簡易字体131字の表には之繞の一点と二点の差が記載されていない。1981年に告示された常用漢字表に示されている旧字体357字にも之繞の差は記載されていない。当用漢字や常用漢字に倣い、さらに漢字全般の簡略化を推し進め、例えば「鷗」→「鴎」のように簡略化された部分字形を表外字にも適用するJIS X 0208(当時はJIS C 6226)が1983年に改正された。その後2000年1月にJIS X 0213が制定されたが、国語審議会は2000年12月に表外字については簡略化しないとする表外漢字字体表を答申した。そのためJIS X 0213は同字体表との整合性をとるため2004年に改正された。表外漢字字体表の印刷標準字体は基本的に康熙字典体に従うものであるが、之繞については一点も許容されている(3部首許容)。JIS漢字やUnicodeは一点と二点を包摂する(区別しない)としている。
日本ではJIS X 0208においては部首が含まれていなかったが、2000年にJIS X 0213が定められ、第3水準に部首である辵(JIS X 0213で1-92-51)、第4水準漢字に一点之繞(JIS X 0213で2-89-73)と二点之繞(JIS X 0213で2-89-74)が定義された。Unicodeでは、CJK統合漢字の他にも、辵が康熙部首ブロックに、3種類の之繞がCJK部首補助ブロックにも含まれている。
康熙字典 日本(二点之繞) 韓国 台湾(伝統的な字形) 香港(伝統的な字形)
日本(一点之繞) 中国
台湾(教科書体の字形) 香港(教科書体の字形)
U+8FB6 (異体字セレクタ:U+E0100/U+E0102) U+2ECD
U+8FB6 (U+FA66) (異体字セレクタ:U+E0101/U+E0103) U+2ECC
U+8FB6 (異体字セレクタ:U+E0104) U+2ECE
辶
辶
辶
Unicodeのコードポイントは、上段がCJK統合漢字、下段がCJK部首補助である。CJK部首補助ブロックの方の文字には名前が付けられており、U+2ECCの一点之繞がCJK RADICAL SIMPLIFIED WALK(簡略化された之繞)、U+2ECDの二点之繞がCJK RADICAL WALK ONE(之繞1)U+2ECEの一点にフフヘの形の之繞がCJK RADICAL WALK TWO(之繞2)となっている。
CJK統合漢字ブロックの方は本来はどの形もU+8FB6に統合されているが、二つの之繞の形に別の符号が与えられているJIS X 0213の文章を変換する際は、U+8FB6には二点之繞を対応させ、一点之繞の方は、往復変換の保証のため(可逆性を失わないように)互換専用領域であるCJK互換漢字のU+FA66に対応させることとなっている。2007年末には異体字セレクタを使用して区別する方法も規定された。統合漢字ブロックの方のU+8FB6の後に上の表に示した異体字セレクタU+E01xxを加えて表す。2010年には汎用電子コレクション用の異体字セレクタも追加され、その中には、Adobe-Japan1-6には無い台湾、香港で使われる字形と同じ一点にフフヘの形も含まれている。なお、Adobe-Japan1-6と汎用電子コレクションの両方にある一点之繞と二点之繞には二つの異体字セレクタが与えられたが、これは出典が異なれば字形が同じであっても異体字セレクタは統合しない方針のためである。コードポイントが若い方(U+E0100とU+E0101)がAdobe-Japan1-6用、大きい方(U+E0102とU+E0103)が汎用電子コレクション用である。
UnicodeのCJK統合漢字、JIS X 0208には、之繞を含む漢字で之繞の形の違いのみで分離されているものは1字もない。JIS X 0213では上記の部首を示すための之繞のみの字(2-89-73、2-89-74)が唯一分離されている。