ウォーワゴン

ウォーワゴン（War wagon）とは、戦争せんそうに使つかわれた重厚じゅうこうな馬車ばしゃである。内部ないぶ乗員じょういんは馬車ばしゃで大砲たいほうや矢やから身みを守まもりながら、細ほそいスリットから槍やり、弓ゆみ、弩いしゆみ、銃じゅう等とうで攻撃こうげきを行おこなった。また、キャンプを囲かこい機動きどう的てきな要塞ようさいとしても運用うんようされた。

時代じだいや地域ちいきによって、Wagon Fort、ヴァーゲンブルク（Wagenburg）、洞ほら屋や车などとも呼よばれる。ウォーワゴンの運用うんようで最もっとも知しられるフス戦争せんそうでは、ボゾバハラドバ（チェコ語ご: vozová hradba）と呼よばれている。

古代こだいには戦車せんしゃ（チャリオット）として戦闘せんとう用ようの馬車ばしゃは存在そんざいしたが、チャリオットは馬うまに牽引けんいんされて戦場せんじょうを駆かけ回まわる機動きどう戦力せんりょくとして運用うんようされたのに対たいし、ウォーワゴンは戦闘せんとう時じは馬うまを外はずす、移動いどう可能かのうなトーチカである点てんで区別くべつされる。

歴史れきし

最もっとも古ふるい記録きろくは、『漢書かんしょ』に記載きさいされている紀元前きげんぜん119年ねんの漢かん匈戦争そうにおける「武たけ剛つよし車しゃ」である^[1]。

紀元前きげんぜん1世紀せいきの書物しょもつ『ガリア戦記せんき』にも、馬車ばしゃによる陣地じんちについて記載きさいされている。

4世紀せいきのローマ軍ぐん将校しょうこうで歴史れきし家かであるアンミアヌス・マルケリヌスによるローマ軍ぐんの陣地じんち「AD carraginem」がゴート族ぞく野営やえいのような形式けいしきに近ちかづいているという説明せつめいである^[2]。これを歴史れきし家かはWagon Fort（馬車ばしゃ砦とりで）として解釈かいしゃくしている^[3]。

その他た、カルカ河畔かはんの戦たたかいなど、多おおくの戦たたかいで馬車ばしゃによる防衛ぼうえい陣地じんちを構築こうちく運用うんようする戦術せんじゅつが見みられる。

バリエーション

Laager

語源ごげんは南みなみアフリカのlaager, lager, leaguer、laer（ドイツ語ごの軍ぐんを意味いみするlegerから来きているアフリカーンス語ご）であり、元々もともと彼かれらは侵略しんりゃく者しゃや夜行やこう性せいの動物どうぶつから守まもるため、荷車にぐるまで円陣えんじんを作つくり内側うちがわに牛うしや馬うまを引ひき入いれて守まもった。 19世紀せいきのアメリカでも、同おなじように馬車ばしゃで円陣えんじんを作つくり開拓かいたく者しゃを襲撃しゅうげきから守まもった^[4]^[5]。

Tabor

語源ごげんはフス戦争せんそうの軍事ぐんじ拠点きょてんターボル（Tábor）かフス戦争せんそうタボール派はに由来ゆらいする。コンボイやキャンプに使つかわれる馬車ばしゃである。ジプシーなどの移動いどう系けい民族みんぞくで見みかける。13世紀せいきから20世紀せいきまでヨーロッパの軍隊ぐんたい支援しえんに使用しようされ、野外やがい炊具・武器ぶき職人しょくにん・靴くつ屋やなどの後方こうほう支援しえんの人間にんげんや、すべての必要ひつような物資ぶっしを乗のせて移動いどうした。

車くるま営

明あきらの名将めいしょう戚継光こうや孫まご承うけたまわ宗むねによって対たいモンゴル騎兵きへいを念頭ねんとうに考案こうあん・実行じっこうされた。火器かきを搭載とうさいした車両しゃりょう（牛馬ぎゅうば車しゃ）と拒こばめ馬ば器き（バリケード）で円陣えんじんまたは地形ちけいに合あわせた方陣ほうじんを組くみ、中心ちゅうしんに鳥銃ちょうじゅうなどの小型こがた火器かき兵へいと長ちょう槍やり兵へいを置おいたものであったという。

馬車ばしゃではない物もの

烈れつ公おおやけ考案こうあん安神あんしん車しゃ牽引けんいんノ図ず（複製ふくせい　弘道こうどう館かん所蔵しょぞう）

testudo

ローマ軍ぐんのgalleryと呼よばれる覆おおいで装甲車そうこうしゃ化かした破やぶ城しろ槌づちやバリスタの事ことである。ウェゲティウスによれば、破やぶ城しろ槌づちのラムが陸りくガメ（testudo）の首くびを引ひっ込こめる動作どうさに似にてる事ことから名前なまえが付つけられた。シラクサ包囲ほういで初はじめて使用しようされた^[6]。当初とうしょは木材もくざいと厚あつ板いたのみであったが、後のちに全体ぜんたいを生皮なまかわで覆おおう事ことで耐火たいか性せいを獲得かくとくした^[7]。

ゴウリャイ-ゴゥロト

ゴウリャイ-ゴゥロト（ロシア語ご: Гуля́й-го́род, 「放浪ほうろうする町まち」の意い）：移動いどう式しきの置おき盾たてである。車輪しゃりんのほか、ソリでの移動いどうも行おこなわれた。15世紀せいきから17世紀せいきまでロシア軍ぐんが陣地じんちの構築こうちくに使用しようした。

木き慢

木き慢：中国ちゅうごくや日本にっぽんの戦国せんごく時代じだいに使用しようされた台車だいしゃと盾たてを組くみ合あわせた攻おさむ城じょう兵器へいき^[8]。

車くるま盾たて

車くるま盾たて（もしくは車くるま竹たけ束たば）：日本にっぽんで使用しようされた火縄銃ひなわじゅうなどを凌しのぐ台車だいしゃ付づけ防ぼう盾たて^[9]^[10]^[11]

ローマ時代じだいではvineae、英語えいごではマントレット（Mantlet）と呼よばれる。

亀甲きっこう車しゃ

亀甲きっこう車しゃ：文ぶん禄ろくの役やくにおいて、中国ちゅうごくの兵法ひょうほう書しょを基もとに加藤かとう清正きよまさらによって製作せいさくされた^[12]^[13]。

安神あんしん車しゃ

安神あんしん車しゃ：水戸みと藩はん9代だい藩主はんしゅ徳川とくがわ斉昭なりあきが作成さくせいさせた装甲そうこう牛車うしぐるまといったようなもの。鎧よろいを着きせた牛うしに引ひかせた台車だいしゃに鉄板てっぱんで作つくった車くるま箱ばこをのせたもので、中なかに兵士へいしが入はいり四方しほうに設もうけられた銃眼じゅうがんから射撃しゃげきできるようにした。^[14]。

轒辒车

中国ちゅうごくのtestudoで、紀元前きげんぜん6世紀せいきの武将ぶしょう孫まご武たけしは、4輪りんの木きの車くるまを牛革ぎゅうかわで覆おおい、内側うちがわに10人にん程度ていどが入はいり動うごかすものだと解説かいせつしている^[15]。日本にっぽんにも伝つたわり、フンオン車しゃとよばれ使用しようされた。

脚注きゃくちゅう

^ [1]漢書かんしょ評ひょう林りん. 巻まき之の55,56 班はん固かた
^ Ammianus Marcellinus, book 31, chapter 7, in the Latin.
^ アンミアヌス・マルケリヌス, The Later Roman Empire, Translated by Walter Hamilton, Penguin Classics (1986) ISBN 0-14-044406-8, p. 423; Hamilton translates "ad carraginem quam ita ipsi appellant" as "to what they call their wagon-fort"
^ Wisniewski, J. (2013年ねん4月がつ24日にち). “5 Ridiculous Myths Everyone Believes About the Wild West”. Cracked. 2014年ねん8月がつ18日にち閲覧えつらん。
^ Circle the Wagons!: Attacks on Wagon Trains in History and Hollywood Films
^ ローマ軍ぐんの攻おさむ城じょう兵器へいき(英語えいご)
^ Gilliver 1999: pp. 134-135
^ 木き慢
^ 軍法ぐんぽう極秘ごくひ伝書でんしょ. 1-7竹中たけなか半兵衛はんべえ 36p 早稲田大学わせだだいがく公開こうかい
^ 〔第だい8〕異国いこく叢書そうしょ.シ-ボルト日本にっぽん交通こうつう貿易ぼうえき史し(シ-ボルト著ちょ呉ご秀三しゅうぞう訳註やくちゅう)252-254p 国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん公開こうかい
^ 上泉かみいずみ信綱のぶつな伝でんの『訓くん閲集』巻まき9「軍ぐん器き」内ないの「車くるま楯だての図ず」及および「竹たけ楯だての作法さほう」において、絵図えずと共ともに説明せつめいが記しるされている。『上泉かみいずみ信綱のぶつな伝でん新しん陰かげ流りゅう軍学ぐんがく「訓くん閲集」』（スキージャーナル株式会社かぶしきがいしゃ、2008年ねん）pp.254-255.また巻まき5「攻おさむ城じょう・守もり城じょう」でも車くるま竹ちく束たばの説明せつめい（6、7人にんで押おし、そのまま竹たけ束たばを立たてる）が見みられる（前ぜん同どうp.166）。
^ 頼よりゆき山陽さんよう著しる日本にっぽん外史がいし
^ 日本にっぽん外史がいし全巻ぜんかん（「僕ぼくの雑記ざっき帖じょう」より）
^ 『広報こうほうみと』平成へいせい23年ねん9月がつ1日にち号ごう
^ 孫まご武たけ (中国ちゅうごく語ご), 十じゅう一家いっか注ちゅう孫子まごこ/謀はかりごと攻おさむ篇へん, ウィキソースより閲覧えつらん。

参考さんこう文献ぶんけん

ガリア戦記せんきガイウス・ユリウス・カエサル紀元前きげんぜん1世紀せいき
The Hussite Wars (1419–36), Stephen Turnbull, Osprey Publishing (ISBN 1-84176-665-8)
Gilliver, C.M. (1999). The Roman Art of War. Charleston, SC: Tempus. ISBN 0-7524-1939-0.

外部がいぶリンク

ウィクショナリーには、circle the wagonsの項目こうもくがあります。
Warwagons
The Zaporozhian Cossack Battle at Korsun
"The Hussite Wars (1419-36)", Stephen Turnbull, Osprey Publishing (ISBN 1-84176-665-8)
the Polish Army
THE WAR WAGON

[1] [1]漢書かんしょ評ひょう林りん. 巻まき之の55,56 班はん固かた

[2] Ammianus Marcellinus, book 31, chapter 7, in the Latin.

[3] アンミアヌス・マルケリヌス, The Later Roman Empire, Translated by Walter Hamilton, Penguin Classics (1986) ISBN 0-14-044406-8, p. 423; Hamilton translates "ad carraginem quam ita ipsi appellant" as "to what they call their wagon-fort"

[4] Wisniewski, J. (2013年ねん4月がつ24日にち). “5 Ridiculous Myths Everyone Believes About the Wild West”. Cracked. 2014年ねん8月がつ18日にち閲覧えつらん。

[5] Circle the Wagons!: Attacks on Wagon Trains in History and Hollywood Films

[6] ローマ軍ぐんの攻おさむ城じょう兵器へいき(英語えいご)

[7] Gilliver 1999: pp. 134-135

[8] 木き慢

[9] 軍法ぐんぽう極秘ごくひ伝書でんしょ. 1-7竹中たけなか半兵衛はんべえ 36p 早稲田大学わせだだいがく公開こうかい

[10] 〔第だい8〕異国いこく叢書そうしょ.シ-ボルト日本にっぽん交通こうつう貿易ぼうえき史し(シ-ボルト著ちょ呉ご秀三しゅうぞう訳註やくちゅう)252-254p 国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん公開こうかい

[11] 上泉かみいずみ信綱のぶつな伝でんの『訓くん閲集』巻まき9「軍ぐん器き」内ないの「車くるま楯だての図ず」及および「竹たけ楯だての作法さほう」において、絵図えずと共ともに説明せつめいが記しるされている。『上泉かみいずみ信綱のぶつな伝でん新しん陰かげ流りゅう軍学ぐんがく「訓くん閲集」』（スキージャーナル株式会社かぶしきがいしゃ、2008年ねん）pp.254-255.また巻まき5「攻おさむ城じょう・守もり城じょう」でも車くるま竹ちく束たばの説明せつめい（6、7人にんで押おし、そのまま竹たけ束たばを立たてる）が見みられる（前ぜん同どうp.166）。

[12] 頼よりゆき山陽さんよう著しる日本にっぽん外史がいし

[13] 日本にっぽん外史がいし全巻ぜんかん（「僕ぼくの雑記ざっき帖じょう」より）

[14] 『広報こうほうみと』平成へいせい23年ねん9月がつ1日にち号ごう

[15] 孫まご武たけ (中国ちゅうごく語ご), 十じゅう一家いっか注ちゅう孫子まごこ/謀はかりごと攻おさむ篇へん, ウィキソースより閲覧えつらん。

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