病弱びょうじゃく児じ

病弱びょうじゃく児じ（びょうじゃくじ）とは、病弱びょうじゃくの幼児ようじ・児童じどう・生徒せいとの事ことで、学校がっこう教育きょういく法ほうの定義ていぎによれば、慢性まんせいの心臓しんぞう、肺はい、腎臓じんぞうなどの疾患しっかんで、継続けいぞくして治療ちりょうもしくは生活せいかつ規制きせいの必要ひつような子こどものこと。便宜上べんぎじょう、本ほん項こうでは、学校がっこう教育きょういく法ほう上うえの「病弱びょうじゃく」・「病弱びょうじゃく者しゃ」および「病弱びょうじゃく教育きょういく」についても取とり上あげる。

概要がいよう

学校がっこう教育きょういく法ほう上うえは、特別とくべつ支援しえん学校がっこうの制度せいど確立かくりつ後ごは「病弱びょうじゃく者しゃ（身体しんたい虚弱きょじゃく者しゃを含ふくむ。）」と定義ていぎされている。特別とくべつ支援しえん学校がっこう制度せいどが発足ほっそくする以前いぜんの2002年ねんより、学校がっこう教育きょういく法ほう上じょうの「病弱びょうじゃく」の定義ていぎから、「6か月げつ以上いじょう」という項目こうもくは削除さくじょされ、「継続けいぞくして」という表現ひょうげんとなっているため、短期たんき入院にゅういんと通院つういんの繰くり返かえしが必要ひつような子こどもに対たいしての教育きょういくもこの「病弱びょうじゃく教育きょういく」に含ふくまれる。

なお、特別とくべつ支援しえん学校がっこう教育きょういく職員しょくいん免許めんきょ状じょうにおける教育きょういく領域りょういきとしての「病弱びょうじゃく者しゃ」には、「病弱びょうじゃく者しゃ(身体しんたい虚弱きょじゃく者しゃを含ふくむ。)に関かんする教育きょういく」として、身体しんたい虚弱きょじゃく者しゃを含ふくめて捉とらえられている。ここでの「身体しんたい虚弱きょじゃく者しゃ」とは、おもに、「明確めいかくな病気びょうきではない」あるいは「病名びょうめい診断しんだんができない状態じょうたいである」ものを指さすとされている。いずれにしても、「生活せいかつ規制きせいが必要ひつような身体しんたい状態じょうたい」である点てんは、「病弱びょうじゃく」とは変かわらない。栄養失調えいようしっちょうなどの、病気びょうきではないが体からだが弱よわまっている状態じょうたい（あるいはかかりやすい状態じょうたい）も、身体しんたい虚弱きょじゃくに含ふくまれる。

なお、「病弱びょうじゃく」・「身体しんたい虚弱きょじゃく」のいずれも、医学いがく用語ようごではない（ちなみに、「知的ちてき障害しょうがい」も医学いがく用語ようごではなく、「精神せいしん遅滞ちたい」が「知的ちてき障害しょうがい」に対応たいおうする医学いがく用語ようごである）。

病弱びょうじゃく教育きょういくの歴史れきし的てきな経緯けいい

1960年ねん代だい後半こうはん当時とうじ、病弱びょうじゃく教育きょういくの対象たいしょうの児童じどう・生徒せいとの6割わりが結核けっかくに罹かかっていた。1970年ねん代だい後半こうはんになると、結核けっかく罹患りかんが比率ひりつ的てきには激減げきげんし、虚弱きょじゃく・肥満ひまん、腎臓じんぞう疾患しっかん、呼吸こきゅう器き疾患しっかんなどがその比率ひりつを高たかめるようになった。その後ごは、呼吸こきゅう器き疾患しっかんが比較的ひかくてき高たかい比率ひりつを維持いじする形かたちで推移すいいしていった。1980年ねん代だい末期まっき以降いこう、神経しんけい疾患しっかんや心身しんしん症しょう等ひとしなどといった疾患しっかんの比率ひりつも高たかまり、2000年ねん前後ぜんごになると、これに悪性あくせい新しん生物せいぶつが加くわわるようになっていった。また、遺伝いでん性せい血管けっかん性せい浮腫ふしゅ（HAE）なども対象たいしょうとなる。なお、神経しんけい系けい疾患しっかん（ニューロパチー）や筋すじ系統けいとう疾患しっかん（ミオパチー）、骨ほね系統けいとう疾患しっかん^[1]については、肢体したい不自由ふじゆう教育きょういくの対象たいしょうになる場合ばあいもある。

これらの経緯けいいから、病弱びょうじゃく対象たいしょうの養護ようご学校がっこう・特別とくべつ支援しえん学校がっこうおよびそれらの学校がっこうに併設へいせつされる病院びょういんの病棟びょうとうも変化へんかを見みせるようになり、中なかには、病弱びょうじゃくを対象たいしょうとする学校がっこうが、地域ちいきあるいは県域けんいき全体ぜんたいで減少げんしょうあるいは空白くうはくになるケース^[2]もあり、受うけ皿ざらが他たの教育きょういく領域りょういきでも対応たいおうできるような体制たいせい作づくりが要求ようきゅうされている状況じょうきょうにある。

病弱びょうじゃく教育きょういくの現状げんじょう

がん（悪性あくせい新しん生物せいぶつ）、小児しょうに結核けっかく、腎じん炎えん、心臓しんぞう疾患しっかん、糖尿とうにょう病びょう、喘息ぜんそく、膠にかわ原ばら病びょうなどの子供こどもが多おおく、厄介やっかいなケースでは教育きょういく委員いいん会かいが、就学しゅうがく猶予ゆうよの通知つうちを出だす場合ばあいもある。そこまででなければ、院内いんない学級がっきゅうなどで教育きょういくを受うけることもできるが、時間じかんが限かぎられる場合ばあいは訪問ほうもん学級がっきゅうの体からだを取とる場合ばあいも多おおく、病弱びょうじゃく対象たいしょうの特別とくべつ支援しえん学校がっこう自体じたいが病院びょういんに近接きんせつ（あるいは渡わたり廊下ろうかなどで建物たてもの自体じたいが接続せつぞく）していても、その病院びょういん内ないに分ぶん教室きょうしつなどを設置せっちして、別途べっとに院内いんない学級がっきゅうや訪問ほうもん学級がっきゅうを設置せっちしている場合ばあいもある。

また、障害しょうがい児じのための特別とくべつ支援しえん学校がっこうの中なかには、病弱びょうじゃく児じ（身体しんたい虚弱きょじゃく者しゃを含ふくむ）だけのための学校がっこうもあり、分校ぶんこう・分ふん教室きょうしつ等とうを含ふくめると、これは各かく都道府県とどうふけんにそれぞれ最低さいてい一いち校こうずつくらい設置せっちされている。これらの教育きょういくサービスは、病弱びょうじゃく教育きょういくとも呼よばれる。

病弱びょうじゃく者しゃの心理しんり的てきに陥おちいる危険きけんのある事項じこう

病弱びょうじゃく者しゃの場合ばあい、入院にゅういん生活せいかつの中なかでは生活せいかつ規制きせいがされるため、例たとえば、児童じどう・生徒せいとであれば、いくら院内いんない学級がっきゅうなどが設置せっちされた病院びょういんであったり、訪問ほうもん教育きょういくを実施じっしされたとしても、学校がっこうでの勉強べんきょうが結果けっか的てきに制約せいやくされることになる。そのため、学習がくしゅう成果せいかを発揮はっきする場ばも制限せいげんされてしまうため、本当ほんとうに学習がくしゅう内容ないようが発揮はっきできるかどうかについて、不安ふあん感かんを覚おぼえることになる。

そのことが、ともすれば失敗しっぱい経験けいけんのループ（負まけのスパイラル）に陥おちいることになり、学習がくしゅう活動かつどうを行おこなっても効果こうかが出でない（あるいは学習がくしゅう活動かつどう自体じたいを行おこなおうとしない）、と児童じどう・生徒せいと自身じしんがみなすようになり、いわゆる「学習がくしゅう性せい無気力むきりょく(Learned Helplessness)」と呼よばれる状態じょうたいに陥おちいる危険きけん性せいがある。このため、病弱びょうじゃく者しゃに対たいしては、生活せいかつ規制きせいの範疇はんちゅうで成功せいこう体験たいけんを積つませる工夫くふうを凝こらすことが、病弱びょうじゃく者しゃにとってのQOL向上こうじょうにつなげることができるものと考かんがえられている。それは、仮かりにホスピス病棟びょうとうに入はいっているような児童じどう・生徒せいとに対たいしてもである。

脚注きゃくちゅう

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

^ 例たとえば、脳性のうせい麻痺まひや筋きんジストロフィー、軟骨なんこつ無む形成けいせい症しょうなど。
^ 秋田あきた県けんでは、病弱びょうじゃく分ぶん教室きょうしつが閉室となった令れい和わ5年ねん度ど以降いこう、病弱びょうじゃく者しゃを主しゅたる領域りょういきとする学校がっこうが存在そんざいしないため、病弱びょうじゃく教育きょういくのセンター的てき機能きのうを秋田あきた県立けんりつ秋田あきたきらり支援しえん学校がっこう（肢体したい不自由ふじゆう者しゃを主しゅたる領域りょういきとしているが、歴史れきし的てきな経緯けいいから、開校かいこう当初とうしょより病弱びょうじゃくの拠点きょてん校こうとされていた）で担になう形かたちとなっている。

参考さんこう文献ぶんけん

全国ぜんこく病弱びょうじゃく養護ようご学がく校長こうちょう会かい編著へんちょ編へん『病弱びょうじゃく教育きょういくQ&A. pt.1 病弱びょうじゃく教育きょういくの道標どうひょう』横田よこた雅史まさし監修かんしゅう（改訂かいてい版ばん）、ジアース教育きょういく新しん社しゃ、2002年ねん。ISBN 4-921124-05-1。