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力学りきがくけい

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

力学りきがくけい(りきがくけい、英語えいご: dynamical system)とは、一定いってい規則きそくしたがって時間じかん経過けいかとともに状態じょうたい変化へんかするシステムけい)、あるいはそのシステムを記述きじゅつするための数学すうがくてきモデルのことである。一般いっぱんには状態じょうたい変化へんか影響えいきょうあたえる数個すうこ要素ようそ変数へんすうとしてし、要素ようそあいだ相互そうご作用さよう微分びぶん方程式ほうていしきまたは差分さぶん方程式ほうていしきとして記述きじゅつすることによってモデルされる。ゲーム理論りろんなど経済けいざいがく背景はいけい分野ぶんやではどうがくけい(どうがくけい)ともばれる[1][2]

力学りきがくけいでは、システムの状態じょうたい実数じっすう集合しゅうごうによって定義ていぎしている。各々おのおの状態じょうたいちがいは、その状態じょうたい代表だいひょうする変数へんすうのみによって表現ひょうげんされる。システムの状態じょうたい変化へんか関数かんすうによってあたえられ、現在げんざい状態じょうたいから将来しょうらい状態じょうたい一意いちい決定けっていすることができる。この関数かんすうは、状態じょうたい発展はってん規則きそくばれる。

力学りきがくけいれいとしては、振動しんどう自然しぜんかい存在そんざいする生物せいぶつ個体こたいすう変動へんどう惑星わくせい軌道きどうなどがげられるが、この世界せかい現象げんしょうすべてを力学りきがくけいなすこともできる。システムのいは、対象たいしょうとする現象げんしょう記述きじゅつのレベルによって多種たしゅ多様たようである。

力学りきがくけい具体ぐたいれい

概要がいよう[編集へんしゅう]

力学りきがくけいかんがかたは、ニュートン力学りきがくはしはっする。力学りきがくけいでは、自然しぜん科学かがく工学こうがく分野ぶんや同様どうように、状態じょうたい変化へんか影響えいきょうあたえる数個すうこ要素ようそ変数へんすうとしてし、要素ようそあいだ相互そうご作用さよう記述きじゅつすることによってモデルされる。そして現在げんざい直後ちょくご状態じょうたいを、微分びぶん方程式ほうていしきまたは差分さぶん方程式ほうていしきもちいてあたえている。将来しょうらいのある時点じてんにおける状態じょうたいは、現在げんざい直後ちょくご状態じょうたいもとめる計算けいさんふくすうかいかえすことによってもとめることができる。そのため力学りきがくけいでは、現在げんざい状態じょうたいあたえることで、将来しょうらいのすべての状態じょうたい決定けっていすることができる。

しかしながら、解析かいせきてきもとめられる力学りきがくけいはごく一部いちぶだけであり、さらに力学りきがくけいくためには高度こうど数学すうがく必要ひつようとされる。そのため、コンピュータの登場とうじょう以前いぜんでは、ごく単純たんじゅんなシステムのみが研究けんきゅう対象たいしょうとしてあつかわれた。

単純たんじゅん力学りきがくけいならば、そのいも容易ようい理解りかいすることができる。しかしながら複雑ふくざつなシステムになると、その挙動きょどう複雑ふくざつさをし、くわしく解析かいせきしなければ将来しょうらい状態じょうたい予想よそうすることができなくなる。

よくられたシステムであっても、その挙動きょどう影響えいきょうあたえる変数へんすうをすべて記述きじゅつできているとはかぎらない。また、もとめられた数値すうちかいがシステムの近似きんじかいとして本当ほんとう適切てきせつかどうかについても検証けんしょうしなければならない。これらの問題もんだい解決かいけつするため、力学りきがくけい研究けんきゅうではリアプノフ安定あんてい構造こうぞう安定あんていなど、「安定あんていせい」の概念がいねんもちいられている。安定あんていせい概念がいねんもちいることにより、たとえモデルがおなじであっても、初期しょき条件じょうけんちがいによってシステムの挙動きょどうおおきなちがいが理由りゆう容易ようい説明せつめいすることができる。

システムの挙動きょどう初期しょき条件じょうけんによってことなるため、ある 1 つの初期しょき条件じょうけんしたでの挙動きょどう調しらべることにおおきな意味いみはない。ある条件じょうけんでは周期しゅうきてきいをするかもしれないし、ある状態じょうたいくかもしれない。どのような条件じょうけんでどのような挙動きょどうていするかが重要じゅうようである。力学りきがくけいでは、システムの挙動きょどう種類しゅるい数学すうがくてき分類ぶんるいしている。こりうる挙動きょどう種類しゅるい完全かんぜんられている力学りきがくけいれいとしては、状態じょうたいを 2 変数へんすう記述きじゅつできるシステムや、線形せんけい力学りきがくけいなどがある。

システムの状態じょうたい影響えいきょうあたえる変数へんすう多様たよう場合ばあい、ある変数へんすう臨界りんかいばれるある一定いっていえると、システムの挙動きょどうおおきく変化へんかする分岐ぶんき現象げんしょうこる。分岐ぶんき現象げんしょうれいとしては、ばしりょうはしにある一定いってい以上いじょうちからくわえるとれる現象げんしょう道路どうろ通過つうかする自動車じどうしゃ台数だいすうがある一定いってい台数だいすうえると渋滞じゅうたい発生はっせいする現象げんしょうなまりをある一定いってい以上いじょう温度おんど加熱かねつすると溶融ようゆうする現象げんしょうなどがげられる。

力学りきがくけい理論りろんアンリ・ポアンカレ研究けんきゅうによって飛躍ひやくてき発展はってんし、力学りきがくけい概念がいねん統計とうけい力学りきがくカオス理論りろん基礎きそ構築こうちくたいしておおきな影響えいきょうあたえた。

基本きほん定義ていぎ[編集へんしゅう]

一般いっぱん力学りきがくけいとは、以下いか条件じょうけんたす、時間じかん T位相いそう空間くうかんである多様たようたい M写像しゃぞう f によるタプルである。

力学りきがくけいは、連続れんぞく力学りきがくけい離散りさん力学りきがくけい分類ぶんるいすることができる。

連続れんぞく力学りきがくけい[編集へんしゅう]

t実数じっすう全体ぜんたい定義ていぎされる力学りきがくけい連続れんぞく力学りきがくけい、あるいはフローなが)とばれる。連続れんぞく力学りきがくけい一般いっぱん微分びぶん方程式ほうていしき定義ていぎされることがおおい。

たとえば、関数かんすう X 1(t ), X 2(t ), ..., X n(t ) を成分せいぶんつような n 次元じげんベクトル[よう曖昧あいまい回避かいひ]X(t )、tX関数かんすうである n 次元じげんのベクトルを F(t, X) とし、Xたいする連立れんりつ微分びぶん方程式ほうていしき

かんがえる。このとき、n 次元じげん空間くうかん (X 1, X 2, ..., X n ) が上述じょうじゅつ微分びぶん方程式ほうていしきあい空間くうかんであり、f tf t (X(s )) = X(s + t ) によってあたえられる。

より抽象ちゅうしょうてきには、微分びぶん方程式ほうていしきあたえる係数けいすう行列ぎょうれつ F は多様たようたいじょうベクトルじょうとしてあたえられ、力学りきがくけい f はそのベクトルじょうながとして実現じつげんされる。したがって連続れんぞく力学りきがくけい実数じっすう加法かほうぐん R による多様たようたい M への微分びぶん作用さようだということになる。

離散りさん力学りきがくけい[編集へんしゅう]

t整数せいすう全体ぜんたいでのみ定義ていぎされるような力学りきがくけい離散りさん力学りきがくけいとよばれる。離散りさん力学りきがくけい多様たようたいのある変換へんかん反復はんぷく写像しゃぞうとしてとらえられる。つまり、任意にんい整数せいすう n について fn は f1 を n かい合成ごうせいした(nまけならば f のぎゃく写像しゃぞうを -n かい合成ごうせいした)写像しゃぞうになっている。したがって離散りさん力学りきがくけい可逆かぎゃく変換へんかん f1さだめる整数せいすう加法かほうぐんZによる多様たようたいMへの作用さようだということになる。

かい軌道きどう[編集へんしゅう]

集合しゅうごう { f t(x) | t } はかい軌道きどうばれる。特殊とくしゅかい軌道きどうとして、ホモクリニック軌道きどうヘテロクリニック軌道きどうがある。

かい軌道きどう閉曲線へいきょくせんになる場合ばあいは、閉軌どうばれる。また閉軌どう特殊とくしゅ場合ばあいとしてリミットサイクルがある。

かい軌道きどう様子ようす調しらべる理論りろんを、大域たいいき理論りろんという。

不動点ふどうてん[編集へんしゅう]

f t の不動点ふどうてんは、かい軌道きどうひとつで重要じゅうよう性質せいしつち、けい全体ぜんたいぞうをつかむのにも役立やくだつ。 一般いっぱんに、数学すうがく物理ぶつりがく分野ぶんや平衡へいこう状態じょうたいあらわさいには平衡へいこうてん経済けいざいがく分野ぶんやでは均衡きんこうてんばれることもある。

上述じょうじゅつ微分びぶん方程式ほうていしきではつぎのように定義ていぎされる。あい空間くうかんないてん c おいて

成立せいりつするとき、X = c上述じょうじゅつ微分びぶん方程式ほうていしきかいである。このてんF(t , X) = 0たす上述じょうじゅつ微分びぶん方程式ほうていしき定数ていすうかい対応たいおうし、あい空間くうかんなか移動いどうしない。

力学りきがくけい分類ぶんるい[編集へんしゅう]

大域たいいき理論りろん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 岡田おかだ あきら「ゲーム理論りろん歴史れきし現在げんざい 人間にんげん行動こうどう解明かいめい目指めざして」『経済けいざいがく研究けんきゅうだい49かんだい1ごう経済けいざいがく学会がっかい、2007ねん、137–154ぺーじdoi:10.11498/jshet2005.49.137 
  2. ^ 山口やまぐち 利夫としお『マクロ経済けいざいどうがく―ガイド―』三菱みつびし経済けいざい研究所けんきゅうじょ、2001ねん5がつdoi:10.60246/merierb.2001.55 

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

和書わしょ[編集へんしゅう]

  • 力学りきがくけいカオス, 松葉まつば育雄いくお 森北もりきた出版しゅっぱん 2011-06
  • Kathleen T. Alligood, Tim Sauer, James A. Yorke,津田つだ 一郎いちろう やく :カオス だい1かん力学りきがくけい入門にゅうもん,カオス だい2かん力学りきがくけい入門にゅうもん,カオス だい3かん力学りきがくけい入門にゅうもん (原書げんしょ:Chaos: An Introduction to Dynamical Systems)
  • Hirsch・Smale・Devaney 力学りきがくけい入門にゅうもん微分びぶん方程式ほうていしきからカオスまで― 原著げんちょだい3はん Morris W. Hirsch・Stephen Smale・Robert L. Devaney ちょ桐木きりきしん三波みなみ篤郎とくろう谷川たにがわ清隆きよたか辻井つじい正人まさと やく (2017) 共立きょうりつ出版しゅっぱん
  • 力学りきがくけい入門にゅうもん復刊ふっかん)、齋藤さいとうとしわたる ちょ (2004) 朝倉書店あさくらしょてん

洋書ようしょ[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

  • Dynamical Systems 英語えいご - スカラーペディア百科ひゃっか事典じてん力学りきがくけい」の項目こうもく
  • Weisstein, Eric W. "Dynamical System". mathworld.wolfram.com (英語えいご).
  • 力学りきがくけい』 - コトバンク