力学 りきがく 系 けい (りきがくけい、英語 えいご : dynamical system )とは、一定 いってい の規則 きそく に従 したが って時間 じかん の経過 けいか とともに状態 じょうたい が変化 へんか するシステム (系 けい )、あるいはそのシステムを記述 きじゅつ するための数学 すうがく 的 てき なモデル のことである。一般 いっぱん には状態 じょうたい の変化 へんか に影響 えいきょう を与 あた える数個 すうこ の要素 ようそ を変数 へんすう として取 と り出 だ し、要素 ようそ 間 あいだ の相互 そうご 作用 さよう を微分 びぶん 方程式 ほうていしき または差分 さぶん 方程式 ほうていしき として記述 きじゅつ することによってモデル化 か される。ゲーム理論 りろん など経済 けいざい 学 がく に背景 はいけい を持 も つ分野 ぶんや では動 どう 学 がく 系 けい (どうがくけい)とも呼 よ ばれる[1] [2] 。
力学 りきがく 系 けい では、システムの状態 じょうたい を実数 じっすう の集合 しゅうごう によって定義 ていぎ している。各々 おのおの の状態 じょうたい の違 ちが いは、その状態 じょうたい を代表 だいひょう する変数 へんすう の差 さ のみによって表現 ひょうげん される。システムの状態 じょうたい の変化 へんか は関数 かんすう によって与 あた えられ、現在 げんざい の状態 じょうたい から将来 しょうらい の状態 じょうたい を一意 いちい に決定 けってい することができる。この関数 かんすう は、状態 じょうたい の発展 はってん 規則 きそく と呼 よ ばれる。
力学 りきがく 系 けい の例 れい としては、振 ふ り子 こ の振動 しんどう や自然 しぜん 界 かい に存在 そんざい する生物 せいぶつ の個体 こたい 数 すう の変動 へんどう 、惑星 わくせい の軌道 きどう などが挙 あ げられるが、この世界 せかい の現象 げんしょう すべてを力学 りきがく 系 けい と見 み なすこともできる。システムの振 ふ る舞 ま いは、対象 たいしょう とする現象 げんしょう や記述 きじゅつ のレベルによって多種 たしゅ 多様 たよう である。
力学 りきがく 系 けい の具体 ぐたい 例 れい
力学 りきがく 系 けい の考 かんが え方 かた は、ニュートン力学 りきがく に端 はし を発 はっ する。力学 りきがく 系 けい では、他 た の自然 しぜん 科学 かがく や工学 こうがく の分野 ぶんや と同様 どうよう に、状態 じょうたい の変化 へんか に影響 えいきょう を与 あた える数個 すうこ の要素 ようそ を変数 へんすう として取 と り出 だ し、要素 ようそ 間 あいだ の相互 そうご 作用 さよう を記述 きじゅつ することによってモデル化 か される。そして現在 げんざい の直後 ちょくご の状態 じょうたい を、微分 びぶん 方程式 ほうていしき または差分 さぶん 方程式 ほうていしき を用 もち いて与 あた えている。将来 しょうらい のある時点 じてん における状態 じょうたい は、現在 げんざい の直後 ちょくご の状態 じょうたい を求 もと める計算 けいさん を複 ふく 数 すう 回 かい 繰 く り返 かえ すことによって求 もと めることができる。そのため力学 りきがく 系 けい では、現在 げんざい の状態 じょうたい を与 あた えることで、将来 しょうらい のすべての状態 じょうたい を決定 けってい することができる。
しかしながら、解析 かいせき 的 てき に求 もと められる力学 りきがく 系 けい はごく一部 いちぶ だけであり、さらに力学 りきがく 系 けい を解 と くためには高度 こうど な数学 すうがく が必要 ひつよう とされる。そのため、コンピュータの登場 とうじょう 以前 いぜん では、ごく単純 たんじゅん なシステムのみが研究 けんきゅう の対象 たいしょう として扱 あつか われた。
単純 たんじゅん な力学 りきがく 系 けい ならば、その振 ふ る舞 ま いも容易 ようい に理解 りかい することができる。しかしながら複雑 ふくざつ なシステムになると、その挙動 きょどう も複雑 ふくざつ さを増 ま し、詳 くわ しく解析 かいせき しなければ将来 しょうらい の状態 じょうたい を予想 よそう することができなくなる。
よく知 し られたシステムであっても、その挙動 きょどう に影響 えいきょう を与 あた える変数 へんすう をすべて記述 きじゅつ できているとは限 かぎ らない。また、求 もと められた数値 すうち 解 かい がシステムの近似 きんじ 解 かい として本当 ほんとう に適切 てきせつ かどうかについても検証 けんしょう しなければならない。これらの問題 もんだい を解決 かいけつ するため、力学 りきがく 系 けい の研究 けんきゅう ではリアプノフ安定 あんてい や構造 こうぞう 安定 あんてい など、「安定 あんてい 性 せい 」の概念 がいねん が用 もち いられている。安定 あんてい 性 せい の概念 がいねん を用 もち いることにより、たとえモデルが同 おな じであっても、初期 しょき 条件 じょうけん の違 ちが いによってシステムの挙動 きょどう に大 おお きな違 ちが いが出 で る理由 りゆう を容易 ようい に説明 せつめい することができる。
システムの挙動 きょどう は初期 しょき 条件 じょうけん によって異 こと なるため、ある 1 つの初期 しょき 条件 じょうけん の下 した での挙動 きょどう を調 しら べることに大 おお きな意味 いみ はない。ある条件 じょうけん では周期 しゅうき 的 てき な振 ふ る舞 ま いをするかもしれないし、ある状態 じょうたい に落 お ち着 つ くかもしれない。どのような条件 じょうけん でどのような挙動 きょどう を呈 てい するかが重要 じゅうよう である。力学 りきがく 系 けい では、システムの挙動 きょどう の種類 しゅるい を数学 すうがく 的 てき に分類 ぶんるい している。起 お こりうる挙動 きょどう の種類 しゅるい が完全 かんぜん に知 し られている力学 りきがく 系 けい の例 れい としては、状態 じょうたい を 2 変数 へんすう で記述 きじゅつ できるシステムや、線形 せんけい 力学 りきがく 系 けい などがある。
システムの状態 じょうたい に影響 えいきょう を与 あた える変数 へんすう が多様 たよう な場合 ばあい 、ある変数 へんすう の値 ね が臨界 りんかい 値 ち と呼 よ ばれるある一定 いってい の値 ね を超 こ えると、システムの挙動 きょどう が大 おお きく変化 へんか する分岐 ぶんき 現象 げんしょう が起 お こる。分岐 ぶんき 現象 げんしょう の例 れい としては、割 わ り箸 ばし の両 りょう 端 はし にある一定 いってい 以上 いじょう の力 ちから を加 くわ えると折 お れる現象 げんしょう 、道路 どうろ を通過 つうか する自動車 じどうしゃ の台数 だいすう がある一定 いってい の台数 だいすう を超 こ えると渋滞 じゅうたい が発生 はっせい する現象 げんしょう 、鉛 なまり をある一定 いってい 以上 いじょう の温度 おんど に加熱 かねつ すると溶融 ようゆう する現象 げんしょう などが挙 あ げられる。
力学 りきがく 系 けい の理論 りろん はアンリ・ポアンカレ の研究 けんきゅう によって飛躍 ひやく 的 てき に発展 はってん し、力学 りきがく 系 けい の概念 がいねん は統計 とうけい 力学 りきがく やカオス理論 りろん の基礎 きそ の構築 こうちく に対 たい して大 おお きな影響 えいきょう を与 あた えた。
一般 いっぱん に力学 りきがく 系 けい とは、以下 いか の条件 じょうけん を満 み たす、時間 じかん T 、位相 いそう 空間 くうかん である多様 たよう 体 たい M 、写像 しゃぞう f によるタプル である。
t
,
s
∈
T
,
x
∈
M
,
f
:
T
×
M
→
M
,
f
(
0
,
x
)
=
x
,
f
(
s
,
f
(
t
,
x
)
)
=
f
(
t
+
s
,
x
)
.
{\displaystyle {\begin{aligned}&t,s\in T,~\mathbf {x} \in M,\\&\mathbf {f} :T\times M\to M,\\&\mathbf {f} (0,\mathbf {x} )=\mathbf {x} ,\\&\mathbf {f} (s,\mathbf {f} (t,\mathbf {x} ))=\mathbf {f} (t+s,\mathbf {x} ).\end{aligned}}}
力学 りきがく 系 けい は、連続 れんぞく 力学 りきがく 系 けい と離散 りさん 力学 りきがく 系 けい に分類 ぶんるい する事 こと ができる。
連続 れんぞく 力学 りきがく 系 けい [ 編集 へんしゅう ]
t が実数 じっすう 全体 ぜんたい で定義 ていぎ される力学 りきがく 系 けい は連続 れんぞく 力学 りきがく 系 けい 、あるいはフロー (流 なが れ )と呼 よ ばれる。連続 れんぞく 力学 りきがく 系 けい は一般 いっぱん に微分 びぶん 方程式 ほうていしき で定義 ていぎ されることが多 おお い。
例 たと えば、関数 かんすう X 1 (t ), X 2 (t ), ..., X n (t ) を成分 せいぶん に持 も つような n 次元 じげん ベクトル [要 よう 曖昧 あいまい さ回避 かいひ ] を X (t )、t と X の関数 かんすう である n 次元 じげん のベクトルを F (t , X ) とし、X に対 たい する連立 れんりつ 微分 びぶん 方程式 ほうていしき
d
X
d
t
=
F
(
t
,
X
)
{\displaystyle {\frac {d\mathbf {X} }{dt}}=\mathbf {F} (t,\mathbf {X} )}
を考 かんが える。このとき、n 次元 じげん 空間 くうかん (X 1 , X 2 , ..., X n ) が上述 じょうじゅつ の微分 びぶん 方程式 ほうていしき の相 あい 空間 くうかん であり、f t は f t (X (s )) = X (s + t ) によって与 あた えられる。
より抽象 ちゅうしょう 的 てき には、微分 びぶん 方程式 ほうていしき を与 あた える係数 けいすう 行列 ぎょうれつ F は多様 たよう 体 たい 上 じょう のベクトル場 じょう として与 あた えられ、力学 りきがく 系 けい f はそのベクトル場 じょう の流 なが れ として実現 じつげん される。従 したが って連続 れんぞく 力学 りきがく 系 けい は実数 じっすう の加法 かほう 群 ぐん R による多様 たよう 体 たい M への可 か 微分 びぶん な作用 さよう だということになる。
離散 りさん 力学 りきがく 系 けい [ 編集 へんしゅう ]
t が整数 せいすう 全体 ぜんたい でのみ定義 ていぎ されるような力学 りきがく 系 けい は離散 りさん 力学 りきがく 系 けい とよばれる。離散 りさん 力学 りきがく 系 けい は多様 たよう 体 たい のある変換 へんかん の反復 はんぷく 写像 しゃぞう としてとらえられる。つまり、任意 にんい の整数 せいすう n について fn は f1 を n 回 かい 合成 ごうせい した(n が負 まけ ならば f の逆 ぎゃく 写像 しゃぞう を -n 回 かい 合成 ごうせい した)写像 しゃぞう になっている。したがって離散 りさん 力学 りきがく 系 けい は可逆 かぎゃく 変換 へんかん f1 が定 さだ める整数 せいすう の加法 かほう 群 ぐん Zによる多様 たよう 体 たい Mへの作用 さよう だということになる。
集合 しゅうごう { f t (x) | t } は解 かい 軌道 きどう と呼 よ ばれる。特殊 とくしゅ な解 かい 軌道 きどう として、ホモクリニック軌道 きどう やヘテロクリニック軌道 きどう がある。
解 かい 軌道 きどう が閉曲線 へいきょくせん になる場合 ばあい は、閉軌道 どう と呼 よ ばれる。また閉軌道 どう の特殊 とくしゅ な場合 ばあい としてリミットサイクル がある。
解 かい 軌道 きどう の様子 ようす を調 しら べる理論 りろん を、大域 たいいき 理論 りろん という。
f t の不動点 ふどうてん は、解 かい 軌道 きどう の一 ひと つで重要 じゅうよう な性質 せいしつ を持 も ち、系 けい の全体 ぜんたい 像 ぞう をつかむのにも役立 やくだ つ。
一般 いっぱん に、数学 すうがく や物理 ぶつり 学 がく の分野 ぶんや で平衡 へいこう 状態 じょうたい を表 あらわ す際 さい には平衡 へいこう 点 てん 、経済 けいざい 学 がく の分野 ぶんや では均衡 きんこう 点 てん と呼 よ ばれることもある。
上述 じょうじゅつ の微分 びぶん 方程式 ほうていしき では次 つぎ のように定義 ていぎ される。相 あい 空間 くうかん 内 ない の点 てん c おいて
F
(
t
,
c
)
=
0
{\displaystyle \mathbf {F} (t,\mathbf {c} )=\mathbf {0} }
が成立 せいりつ するとき、X = c は 上述 じょうじゅつ の微分 びぶん 方程式 ほうていしき の解 かい である。この点 てん は F (t , X ) = 0 を満 み たす上述 じょうじゅつ の微分 びぶん 方程式 ほうていしき の定数 ていすう 解 かい に対応 たいおう し、相 あい 空間 くうかん の中 なか で移動 いどう しない。
力学 りきがく 系 けい の分類 ぶんるい [ 編集 へんしゅう ]
出典 しゅってん は列挙 れっきょ するだけでなく、脚注 きゃくちゅう などを用 もち いてどの記述 きじゅつ の情報 じょうほう 源 げん であるかを明記 めいき してください。記事 きじ の信頼 しんらい 性 せい 向上 こうじょう にご協力 きょうりょく をお願 ねが いいたします。(2023年 ねん 12月 )
力学 りきがく 系 けい カオス, 松葉 まつば 育雄 いくお 森北 もりきた 出版 しゅっぱん 2011-06
Kathleen T. Alligood, Tim Sauer, James A. Yorke,津田 つだ 一郎 いちろう 訳 やく :カオス 第 だい 1巻 かん – 力学 りきがく 系 けい 入門 にゅうもん ,カオス 第 だい 2巻 かん – 力学 りきがく 系 けい 入門 にゅうもん ,カオス 第 だい 3巻 かん – 力学 りきがく 系 けい 入門 にゅうもん (原書 げんしょ :Chaos: An Introduction to Dynamical Systems)
Hirsch・Smale・Devaney 力学 りきがく 系 けい 入門 にゅうもん ―微分 びぶん 方程式 ほうていしき からカオスまで― 原著 げんちょ 第 だい 3版 はん Morris W. Hirsch・Stephen Smale・Robert L. Devaney 著 ちょ ・桐木 きりき 紳 しん ・三波 みなみ 篤郎 とくろう ・谷川 たにがわ 清隆 きよたか ・辻井 つじい 正人 まさと 訳 やく (2017) 共立 きょうりつ 出版 しゅっぱん
力学 りきがく 系 けい 入門 にゅうもん (復刊 ふっかん )、齋藤 さいとう 利 とし 弥 わたる 著 ちょ (2004) 朝倉書店 あさくらしょてん
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