成田なりた用水ようすい

成田なりた用水ようすい
延長えんちょう	成田なりた幹線かんせん（取水しゅすい施設しせつ） 5.9km 成田なりた幹線かんせん（水路すいろ施設しせつ） 3.0km 多古たこ芝山しばやま幹線かんせん 12.0km 二川ふたかわ幹線かんせん 4.2km 野毛平のげだいら支線しせん 0.3km 多古たこ支線しせん 2.2km 多古たこ支線しせん 5.3km
灌漑かんがい面積めんせき	3,300ha
取水しゅすい元もと	新川しんかわ機き場じょう（千葉ちば県けん成田なりた市し西大須賀にしおおすか ）
流域りゅういき	千葉ちば県けん成田なりた市し 多古たこ町まち 横芝よこしば光ひかり町まち 芝山しばやま町まち

成田なりた用水ようすい（なりたようすい）は、成田なりた国際こくさい空港くうこう周辺しゅうへんの市町しちょうの農地のうちに利根川とねがわから取水しゅすいした水みずを供給きょうきゅうする千葉ちば県けんの用水ようすいである。

概要がいよう

成田なりた用水ようすいは利根川とねがわから水みずを取水しゅすいし、パイプラインやファームポンドを通つうじて、成田なりた市し・多古たこ町まち・横芝よこしば光ひかり町まち・芝山しばやま町まちの1市し3町まちに跨またがる、約やく3,300ヘクタールの農地のうちに灌漑かんがい用水ようすいを供給きょうきゅうしている。

用水ようすいのルートとしては、利根川とねがわの水みずを新川しんかわ機き場じょうで組くみ上あげ、成田なりた幹線かんせん及および小泉こいずみ機き場じょうを経由けいゆして、各かく市町しちょうの水田すいでんや畑はたけに送おくっている。

主おもな施設しせつは以下いかの通とおり。

• 新川しんかわ揚水ようすい機き場じょう
• 根木名ねこな川がわ水みず管かん橋きょう
• 小泉こいずみ揚水ようすい機き場じょう
• 小泉こいずみ中継ちゅうけい水槽すいそう
• ファームポンド

経緯けいい

成田なりた用水ようすい開削かいさく前まえの下総台地しもうさだいちでの農作のうさく

春一番はるいちばんが吹ふいた日ひの下総台地しもうさだいち。土どが舞まい上あがり空そらが赤あか茶色ちゃいろに染そまっていることが確認かくにんできる。

千葉ちば県けん北部ほくぶを跨またがる下総台地しもうさだいちは気候きこうが温暖おんだんであるが、地下水ちかすい位いが低ひくく水源すいげんに乏とぼしいうえに赤土あかつちと呼よばれる透水とうすい性せいが高たかい関東かんとうロームをはじめとする火山灰かざんばい土どが堆積たいせきしている洪ひろし積せき台地だいちである。一帯いったいは周期しゅうき的てきな干かんばつに見舞みまわれてきており、冬ふゆから春はるにかけての乾燥かんそう期きには赤あか風ふうと呼よばれる砂嵐すなあらしが吹ふき荒あれ、作物さくもつの苗なえや肥料ひりょうが土壌どじょうごと飛とばされ跡形あとかたも残のこらなくなるような土地とちであった。その為ため、元来がんらい台地だいち上じょうの土地とちは農作物のうさくもつを育そだてる場所ばしょとしては限定げんてい的てきな使用しようしかできなかった。戦後せんごになると化学かがく肥料ひりょうが普及ふきゅうし、地表ちひょうに広ひろく分布ぶんぷするリン酸さん分ぶんの乏とぼしい黒くろボク土どでも土壌どじょう改良かいりょうが可能かのうになったことで、下総台地しもうさだいちでも多様たような農作物のうさくもつを安定あんてい的てきに生産せいさんできる素地そじが出でてきたが、農業のうぎょう用水ようすいの問題もんだいは依然いぜんとして残のこされていた。

また、下総台地しもうさだいちの縁辺えんぺん部ぶでは、縄文じょうもん海うみ進すすむ期きの海蝕かいしょくや河川かせんによる侵蝕しんしょくにより台地だいちが削けずられて形成けいせいされた谷地やちが各所かくしょにあり、そこでは古ふるくから谷津田やつだと呼よばれる牧歌ぼっか的てきな水田すいでんで入会地いりあいちを用もちいた自給自足じきゅうじそく的てきな農業のうぎょうが営いとなまれていた。しかし、谷津田やつだは年間ねんかんを通とおして土壌どじょうを乾かわかせない強つよ湿田しつでんであり、人間にんげんの腰こしや膝ひざの位置いちまでが浸つかるほど水みずが溜たまるため、近代きんだいに入はいり農業のうぎょう技術ぎじゅつが発達はったつし入会地いりあいち等とうの利点りてんが薄うすれると、水みず管理かんりや大型おおがた農業のうぎょう機械きかいの導入どうにゅうができない谷津田やつだは相対そうたい的てきに農地のうちとしての生産せいさん性せいが低ひくくなっていった。

新しん東京とうきょう国際こくさい空港くうこう建設けんせつと成田なりた用水ようすい事業じぎょう

芝山しばやま町まち菱田ひしだ地区ちくにある成田なりた用水ようすい竣工しゅんこう記念きねん碑ひとデルタ航空こうくうのボーイング767-300

1966年ねん7月がつ4日にちの佐藤さとう栄作えいさく内閣ないかくの閣議かくぎ決定けってい（s:新しん東京とうきょう国際こくさい空港くうこうの位置いち及および規模きぼについて）によって、新しん東京とうきょう国際こくさい空港くうこう（現在げんざいの成田なりた国際こくさい空港くうこう）が、千葉ちば県けんの成田なりた市しと芝山しばやま町まちを跨またいで建設けんせつされることとなった。

しかし、当時とうじ空港くうこうは迷惑めいわく施設しせつとして世間せけんから認識にんしきされており、更さらに政界せいかいと行政ぎょうせいの折衝せっしょうのもとでなされた新しん空港くうこうの計画けいかく策定さくていにおいては、住民じゅうみん参加さんかの過程かていが全まったく踏ふまれていなかった。複雑ふくざつな情勢じょうせいの中なかで地元じもと住民じゅうみんへの十分じゅうぶんな説明せつめい抜ぬきになされたこの計画けいかく決定けっていは、結果けっかとして激はげしい反対はんたい運動うんどうを招まねくこととなった（成田空港なりたくうこう問題もんだい）。

そこで日本国にっぽんこく政府せいふは、地元じもとの懐柔かいじゅう策さくとして、自治体じちたいからの要望ようぼうに応おうじるかたちで、1970年ねん3月28日にちに「新しん東京とうきょう国際こくさい空港くうこう周辺しゅうへん整備せいびのための国くにの財政ざいせい上じょうの特別とくべつ措置そちに関かんする法律ほうりつ」（財特法ざいとくほう、現げん「成田なりた国際こくさい空港くうこう周辺しゅうへん整備せいびのための国くにの財政ざいせい上じょうの特別とくべつ措置そちに関かんする法律ほうりつ」）を制定せいていした。成田なりた用水ようすい事業じぎょうは同どう法ほうに基もとづき、新しん空港くうこうに係かかる周辺しゅうへん対策たいさく事業じぎょうの一環いっかんとして、空港くうこう周辺しゅうへん地域ちいき（成田なりた市し、旧きゅう下総しもふさ町まち、旧きゅう大栄たいえい町まち、多古たこ町まち、芝山しばやま町まち、旧きゅう横芝よこしば町まちの空港くうこう計画けいかく地ち外がいの農地のうち）を受益じゅえき地ちとして計画けいかくされた。成田なりた用水ようすい事業じぎょうは、国くにからの90%を超こえる異例いれいな高率こうりつ補助ほじょのもと、下総台地しもうさだいちの農地のうちに給水きゅうすい・排水はいすい機能きのうを付与ふよするものであり、長年ながねん水利すいり問題もんだいを抱かかえながら農業のうぎょうを続つづけてきた地元じもと農家のうかにとって光明こうみょうとなるはずの事業じぎょうであった。

一方いっぽうで、事業じぎょうの対象たいしょうとなる地区ちくは、上記じょうきのとおり三里塚さんりづか闘争とうそうの渦中かちゅうにあり、成田なりた用水ようすい事業じぎょうは空港くうこう建設けんせつと引ひき換かえのいわば「アメ」であったことから、その受入うけいれを巡めぐって地域ちいき住民じゅうみんらは紛糾ふんきゅうした。特とくに1978年ねん12月に受益じゅえき対象たいしょう区域くいきが三里塚さんりづか芝山しばやま連合れんごう空港くうこう反対はんたい同盟どうめいの拠点きょてんであった菱田ひしだ地区ちくにまで広ひろげられると、空港くうこう計画けいかく地ち内ないで畑作はたさくを行おこなう農家のうかと、計画けいかく地ち外がいで稲作いなさくを行おこなう農家のうかの間あいだで深刻しんこくな対立たいりつが生うまれ、空港くうこう反対はんたい運動うんどうを牽引けんいんしていた三里塚さんりづか芝山しばやま連合れんごう空港くうこう反対はんたい同盟どうめいが、新しん東京とうきょう国際こくさい空港くうこう開港かいこう後ごの1983年ねん3月8日にちに『北原きたはら派は』と『熱田あつた派は』に分裂ぶんれつし、反対はんたい派は農家のうかの大だい多数たすうが三里塚さんりづか闘争とうそうから離脱りだつする要因よういんの一ひとつともなった。

幹線かんせん水路すいろと揚水ようすい場じょうの建設けんせつは、国家こっか事業じぎょうとして水資源開発公団みずしげんかいはつこうだんが担にない、支線しせん水路すいろ・畑地はたち総合そうごう整備せいび・圃場ほじょう整備せいびは県営けんえい事業じぎょうとして行おこなわれた。空港くうこう反対はんたい運動うんどうに"支援しえん者しゃ"として介入かいにゅうしていた新しん左翼さよくの過激かげき派は（極左きょくさ暴力ぼうりょく集団しゅうだん）は、これまで反対はんたい運動うんどうを行おこなってきた農家のうかであっても、事業じぎょうの賛同さんどう者しゃは全すべて新しん空港くうこう建設けんせつの推進すいしん者しゃであるものと見みなした。中なかでも中核ちゅうかく派はは『全学ぜんがく菱田ひした決戦けっせん行動こうどう隊たい』を結成けっせいして現地げんちをパトロールし、首都しゅと圏けんから活動かつどう家かを緊急きんきゅう動員どういんできる体制たいせいを整ととのえるなど、用水ようすい着工ちゃっこう阻止そし闘争とうそうに取とり組くんでいった。過激かげき派はらは賛同さんどう者しゃに対たいして街宣がいせん車しゃでの激はげしい誹謗ひぼう中傷ちゅうしょうや、田畑たはたを荒あらす等とうの嫌いやがらせを行おこなった他ほか、水利すいり施設しせつや土地とち改良かいりょう区く事務所じむしょへの放火ほうかなど事業じぎょうへの妨害ぼうがいを度々たびたび繰くり返かえした。

その為ため、成田空港なりたくうこうに係かかる左翼さよくテロが活発かっぱつ化かしていた時期じきにあたる用水ようすい敷設ふせつ工事こうじは、機動きどう隊たいの護衛ごえいを受うけながら実施じっしされた。更さらには工事こうじ請負うけおい業者ぎょうしゃそのものもテロリズムの標的ひょうてきになり、各地かくちで放火ほうか事件じけんが相次あいついだ。1984年ねん10月1日にちには、佐原さわら市しにある成田なりた用水ようすい事業じぎょうの請負うけおい業者ぎょうしゃの社長しゃちょう宅たくが中核ちゅうかく派はによって放火ほうかされ、社長しゃちょう宅たくだけでなく、事業じぎょうとは無関係むかんけいの近接きんせつした住宅じゅうたく2棟むねまでもが巻まき添ぞえで被害ひがいを受うける事件じけんが発生はっせいしている（成田なりた用水ようすい工事こうじ事業じぎょう者しゃ連続れんぞく放火ほうか事件じけん）。

このような妨害ぼうがいの中なかでも、1981年ねんに成田なりた用水ようすいは通つう水すいを開始かいしし、1993年ねんの成田なりた用水ようすい土地とち改良かいりょう区くの末端まったん灌漑かんがい排水はいすい施設しせつ整備せいびをもって、事業じぎょうが完了かんりょうした。

上記じょうきのような数奇すうきな過程かていを経へて進すすめられた事業じぎょうではあったが、成田なりた用水ようすいは千葉ちば県けんにおける農業のうぎょう経営けいえいの近代きんだい化かと安定あんてい化かに大おおきく貢献こうけんしている。

2019年度ねんどから10年間ねんかんで、約やく181億おく円えんをかけて用水ようすい施設しせつの耐震たいしん・老朽ろうきゅう化か対策たいさくが進すすめられ、千葉ちば県けんはこれに充あてるため、財特法ざいとくほうの期限きげん延長えんちょうと更新こうしん事業じぎょうへの適用てきようを求もとめている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 公安調査庁こうあんちょうさちょう 編へん『成田なりた闘争とうそうの概要がいよう』1993年ねん4月がつ。 
• 朝日新聞あさひしんぶん成田なりた支局しきょく『ドラム缶どらむかんが鳴なりやんで 元もと反対はんたい同盟どうめい事務じむ局長きょくちょう石毛いしげ博道ひろみち・成田なりたを語かたる』四谷よつやラウンド、1998年ねん6月がつ。ISBN 978-4946515194。 
• 福田ふくだ克彦かつひこ『三里塚さんりづかアンドソイル』平原へいげん社しゃ、2001年ねん10月がつ。ISBN 978-4938391263。 
• 水みず資源しげん機構きこう広報こうほう誌し『水みずとともに　2015年ねん5月がつ号ごう』
• 水みず資源しげん機構きこう広報こうほう誌し『水みずとともに　2015年ねん8月がつ号ごう』

関連かんれん項目こうもく

• 成田空港なりたくうこう問題もんだい
• 11.23機動きどう隊たい襲撃しゅうげき事件じけん
• 西組にしぐみ社長しゃちょう宅たく放火ほうか事件じけん
• 1.14機動きどう隊たい襲撃しゅうげき事件じけん

外部がいぶリンク

• 独立どくりつ行政ぎょうせい法人ほうじん水すい資源しげん機構きこう 千葉ちば用水ようすい総合そうごう管理かんり所しょ
• 成田なりた国際こくさい空港くうこう周辺しゅうへん整備せいびのための国くにの財政ざいせい上じょうの特別とくべつ措置そちに関かんする法律ほうりつ（成田なりた財特法ざいとくほう）の一部いちぶを改正かいせいする法律ほうりつ案あんの概要がいよう（日本にっぽん維新いしんの会かい） - 3ページ目めに成田なりた用水ようすいの概要がいよう