ネオダダ

ネオダダ (Neo-Dada) は、作品さくひん制作せいさくの方法ほうほう論ろんや意図いとが初期しょきのダダイスムと類似るいじ点てんを持もつ、1950年代ねんだい後半こうはんから1960年代ねんだいのアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくの美術家びじゅつかや美術びじゅつ運動うんどうを表あらわすのに使つかわれた用語ようごである。

起源きげん

もとは、1958年ねんのアートニューズ誌しにおいて、当時とうじ廃物はいぶつや大衆たいしゅう的てきなイメージを使用しようした絵画かいがで抽象ちゅうしょう表現ひょうげん主義しゅぎに替かわり注目ちゅうもくを浴あびつつあったロバート・ラウシェンバーグやジャスパー・ジョーンズといった画家がか、ハプニングなどのパフォーマンスアート活動かつどうを行おこなっていたアラン・カプロー、クレス・オルデンバーグ、ジム・ダインなどの作家さっかたちを一いち括くくりに特集とくしゅうし、美術びじゅつ評論ひょうろん家かハロルド・ローゼンバーグがこれらにネオダダと名なづけたことがはじまりである。以後いご、評論ひょうろん家かバーバラ・ローズによって「ネオダダ」と言いう用語ようごは1960年代ねんだいに広ひろまり、おおむね1950年代ねんだい〜1960年代ねんだいにこれらの作家さっかによって行おこなわれた活動かつどうを指さして使つかわれる。

特徴とくちょう

ネオダダの作品さくひんの例れいとしては、既製きせい品ひんの使用しよう（レディメイド）や大衆たいしゅう的てきな図像ずぞうの流用りゅうよう（アッサンブラージュ、コラージュ）、そしてその不条理ふじょうり性せいなどがある。また伝統でんとう的てきな芸術げいじゅつや美学びがくの概念がいねんを否定ひていする反はん芸術げいじゅつ的てきなところもある。これらの手法しゅほうや反はん芸術げいじゅつ性せいが、新あらたなダダイスムとみなされた要因よういんである。確たしかにロバート・ラウシェンバーグの、既製きせい品ひんを組くみ合あわせて（コンバインして）その上うえから絵具えのぐを塗ぬりつけたコンバイン・ペインティングなどはレディメイドやアサンブラージュなどと形式けいしき上じょう共通きょうつう点てんがある。

しかし、ネオダダは、概念がいねんや言葉ことばの実験じっけんとしてのレディメイドなどを制作せいさくした第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせん後ごのダダイスムとは時代じだい背景はいけいが異ことなり、より工業こうぎょう化かや大量たいりょう生産せいさん・大量たいりょう消費しょうひが進すすみ廃物はいぶつがあふれていた時代じだいのアメリカを舞台ぶたいとしているため、新品しんぴんよりは廃物はいぶつを好このんで用もちいたり新品しんぴんを廃物はいぶつ同様どうようにするなどより即そく物性ぶっせいや即興そっきょう性せいが強つよい。これらの作品さくひんはジャンク・アート（ゴミ芸術げいじゅつ、廃物はいぶつ芸術げいじゅつ）などとも呼よばれていた。反はん芸術げいじゅつでありながら、環境かんきょうを埋うめ尽つくしていた廃品はいひんを新あらたな自然しぜんと見みて、そこに美よしを見出みいだそうとしたネオダダを「工業こうぎょう化か社会しゃかいの自然しぜん主義しゅぎ」と呼よぶ向むきもある。

ネオダダに属ぞくする作家さっかたちのうち、ロバート・ラウシェンバーグらは1930年代ねんだいから1950年代ねんだいにかけて存在そんざいしたノースカロライナ州しゅうブラックマウンテンのリベラル・アーツ・カレッジ「ブラック・マウンテン・カレッジ」で学まなんでいた。ここでは美術家びじゅつかのみならず音楽家おんがくか、詩人しじん、思想家しそうからが教おしえており、なかでも教鞭きょうべんをとっていた音楽家おんがくかジョン・ケージの、音響おんきょうを即そく物的ぶってきに考かんがえることや偶然ぐうぜん性せいを利用りようするといった活動かつどうから強つよい思想しそう的てきな影響えいきょうを受うけている。もともと「何なにもせずに黙だまりこくる」という発想はっそうはケージのオリジナルではなく、エルヴィン・シュルホフの「五いつつのピトレスク」で初はじめて楽譜がくふになったものであり、これをケージが「4分ふん33秒びょう」にしたこと自体じたいがネオ・ダダの発端ほったんであった。ヨーロッパで発案はつあんされたものがアメリカ流りゅうに改良かいりょうされ、理論りろん化かされたものがネオダダなのである。

ジャンク・アート、反はん芸術げいじゅつの世界せかい同時どうじ多発たはつ

この時代じだいには、同おなじく廃物はいぶつを寄よせ集あつめた芸術げいじゅつ作品さくひんや、従来じゅうらいの美術びじゅつの範疇はんちゅうをはみでたハプニング、パフォーマンス、「反はん芸術げいじゅつ」的てきな潮流ちょうりゅうが、工業こうぎょう化かした欧州おうしゅうや日本にっぽんなど各国かっこくに現あらわれた。

• フランスではこの頃ころ、収集しゅうしゅうした生なまゴミを透明とうめいケースに入いれたり、同おなじ種類しゅるいの機械きかいや道具どうぐの残骸ざんがいを無数むすうに収集しゅうしゅうして組くみ合あわせたアルマン、くず鉄てつを寄よせ集あつめて溶接ようせつした「アマルガム彫刻ちょうこく」や自動車じどうしゃをプレス機きに入いれて直方体ちょくほうたいに圧縮あっしゅくする「圧縮あっしゅく彫刻ちょうこく」を行おこなったセザール、日にち用品ようひんなどを梱包こんぽうしていたクリストら、工業こうぎょう社会しゃかいの「自然しぜん」をあるがままに受うけ容いれそこに意味いみを見出みいだそうとする作家さっかたちが活躍かつやくしていた。1960年ねん、こうした傾向けいこうの作家さっかたちを集あつめて評論ひょうろん家かピエール・レスタニによる展覧てんらん会かいが行おこなわれ、これに、さまざまなパフォーマンスを行おこなっていたイブ・クラインや、ジャン・ティンゲリー、ニキ・ド・サンファルらが集あつまり、「ヌーヴォー・レアリスム」というグループを組くんだ。グループは数すう年ねんで解体かいたいしたが、その思想しそうや活動かつどうはネオダダと通つうじ合あうものがある。
• ドイツでは美術家びじゅつかや音楽家おんがくか、詩人しじんなどをメンバーとするパフォーマンスアートのグループが現あらわれ、1961年ねんにフルクサスの名なが使つかわれた。流転るてん・変転へんてんし、二度にどと同おなじ事ごとを繰くり返かえさないと言いう彼かれらのパフォーマンスは各国かっこくの芸術げいじゅつ家かを巻まき込こみ、1960年代ねんだい前半ぜんはんにかけてドイツやアメリカなどで非常ひじょうに活発かっぱつに活動かつどうした。
• 日本にっぽんでも反はん芸術げいじゅつの動うごきが1960年ねん前後ぜんこうに活性かっせい化かしていた。
  • 1954年ねんから関西かんさいに具体ぐたい美術びじゅつ協会きょうかいが現あらわれ、1950年代ねんだい後半こうはんにかけてアクション・ペインティングや野外やがいにおけるインスタレーションなど矢継やつぎ早ばやに活動かつどうを行おこなった。ここにはネオダダ的てきな身近みぢかな素材そざいの利用りようやハプニング、反はん芸術げいじゅつの要素ようそが多おおく含ふくまれていた。
  • また、1950年代ねんだい後半こうはんごろから、東京とうきょう都と美術館びじゅつかんで行おこなわれていた無む審査しんさ公募こうぼ展てん「読売よみうりアンデパンダン展てん」（世界中せかいじゅうで行おこなわれているアンデパンダン展てんの一ひとつ）に廃物はいぶつなどを利用りようした作品さくひんが数多かずおおく出展しゅってんされるようになり、1960年ねんに評論ひょうろん家か・東野とうの芳明よしあきがこの展覧てんらん会かいに出展しゅってんしていた工藤くどう哲あきら巳みの作品さくひんを評ひょうして「反はん芸術げいじゅつ」の語かたりを使用しようし日本にっぽんの若手わかて美術家びじゅつかに反はん芸術げいじゅつブームを起おこした。
  • 1960年ねん、荒川あらかわ修作しゅうさく・吉村よしむら益えき信しん・篠原しのはら有司ゆうじ男おとこ・風ふう倉くら省しょう作さく（風ふう倉くら匠たくみ）・赤瀬あかせ川原平かわらたいら、読売よみうりアンデパンダン展てんに出展しゅってんしていた若わかい作家さっかたちがネオ・ダダイズム・オルガナイザーズという組織そしきを結成けっせい。その後ご「ネオダダ」と名称めいしょうを簡略かんりゃく化かし、3度どの展覧てんらん会かいを実施じっししたが、荒川あらかわ修作しゅうさくの除名じょめい問題もんだいや吉村よしむら益えき信しんの結婚けっこんによる活動かつどう場所ばしょの問題もんだいを経へるなどわずか1年ねんたらずで解体かいたいする。しかし、その間あいだに社会しゃかい風俗ふうぞく現象げんしょうとして週刊しゅうかん誌しなどマスコミを大おおいに賑にぎわせ、一部いちぶ美術びじゅつ評論ひょうろん家かに注目ちゅうもくされるアナーキーな作品さくひんや構想こうそうを数多かずおおく残のこし、スキャンダリズムを旨むねとする日本にっぽんの前衛ぜんえい美術びじゅつのひとつの傾向けいこうを示しめす典型てんけいとなった。
  • その後ごメンバーの大半たいはんが渡米とべいしたが、赤瀬あかせ川原平かわらたいは1963年ねんに高こう松次郎まつじろう・中西なかにし夏なつ之のと「ハイレッド・センター」を結成けっせいし反はん芸術げいじゅつ的てきなパフォーマンスを開催かいさいし、篠原しのはら有司ゆうじ男おとこらは新あらたなアメリカの動向どうこうであったポップ・アートにいち早はやい反応はんのうを見みせた。

ネオダダの影響えいきょう

ネオダダや反はん芸術げいじゅつの運動うんどうは、現在げんざいに至いたるまで多おおくのパフォーマンスアートや芸術げいじゅつ表現ひょうげんに影響えいきょうを与あたえている。また、アメリカではすぐ後ごに来くるポップアートに手法しゅほう的てき・理論りろん的てきな影響えいきょうを与あたえた。

作家さっか

• ジャスパー・ジョーンズ
• ロバート・ラウシェンバーグ
• デビッド・ウッダード

関連かんれん項目こうもく

• フルクサス
• ポップアート
• 反はん芸術げいじゅつ
• ハプニング
• アンフォルメル
• 具体ぐたい美術びじゅつ協会きょうかい
• コンバイン・ペインティング
• アッサンブラージュ
• ヌーヴォー・レアリスム
• アバンギャルド・前衛ぜんえい
• ネオ・ダダJAPAN 1958-1998 磯崎いそざき新しんとホワイトハウスの面々めんめん

参考さんこう文献ぶんけん

• Dorothée Brill, Shock and the Senseless in Dada and Fluxus, Dartmouth College 2010
• Catherine Craft, An Audience of Artists: Dada, Neo-Dada, and the Emergence of Abstract Expressionism, University of Chicago 2012
• Susan Hapgood, Neo-Dada: Redefining Art, 1958-62, Universe Books and American Federation of Arts (1994)
• David Hopkins, Neo-avant garde, Amsterdam, New York 2006
• Cecilia Novero, Antidiets of the Avant-Garde: From Futurist Cooking to Eat Art, University of Minnesota 2010
• Owen Smith, Fluxus: The History of an Attitude, San Diego State University 1998
• Alan Young, Dada and After: Extremist Modernism and English Literature, Manchester University 1983, pp.201-3 and Brill
• Robert Goldwater in A Dictionary of Modern Sculpture, London 1962
• Bertram Mourits, The Conceptual Poetic of K. Schippers: the aesthetic implications of literary readymades, Dutch Crossing 21.1
• Hugo Brems, Contemporary Poetry of the Low Countries, Flemish Netherlands Foundation, 1995