マルタ・アルゲリッチ

マルタ・アルゲリッチ Martha Argerich
マルタ・アルゲリッチ（1962年ねん）
本名ほんみょう	Maria Martha Argerich
生年月日せいねんがっぴ	(1941-06-05) 1941年ねん6月5日にち（83歳さい）
出生しゅっしょう地ち	アルゼンチン・ブエノスアイレス
職業しょくぎょう	ピアニスト
ジャンル	クラシック音楽おんがく
活動かつどう期間きかん	1949年ねん -
活動かつどう内容ないよう	1965年ねん：ショパン国際こくさいピアノコンクール優勝ゆうしょう
受賞じゅしょう グラミー賞しょう クラシック最優秀さいゆうしゅう独奏どくそう 2000年ねん『プロコフィエフ：ピアノ協奏曲きょうそうきょく第だい1番ばん&第だい3番ばん、バルトーク：ピアノ協奏曲きょうそうきょく第だい3番ばん』 2006年ねん『ベートーヴェン：ピアノ協奏曲きょうそうきょく第だい2番ばん&第だい3番ばん』 最優秀さいゆうしゅう室内楽しつないがく 2005年ねん『プロコフィエフ：組曲くみきょく「シンデレラ」/ラヴェル：マ・メール・ロワ』 その他たの賞しょう ブゾーニ国際こくさいピアノコンクール優勝ゆうしょう ジュネーブ国際こくさい音楽おんがくコンクール優勝ゆうしょう ショパン国際こくさいピアノコンクール優勝ゆうしょう ショパン国際こくさいピアノコンクールポーランド放送ほうそう局きょく賞しょう（マズルカ賞しょう）受賞じゅしょう
備考びこう
フランス政府せいふ芸術げいじゅつ文化ぶんか勲章くんしょうオフィシェ ローマ・サンタ・チェチーリア協会きょうかい員いん ミュージカル・アメリカ誌し・Musician of the Year 第だい17回かい高松宮たかまつのみや殿下でんか記念きねん世界せかい文化ぶんか賞しょう 旭日きょくじつ小しょう綬章じゅしょう 旭日きょくじつ中ちゅう綬章じゅしょう ショパン国際こくさいコンクール審査しんさ員いん

マルタ・アルゲリッチ（2015年ねん）

マリア・マルタ・アルゲリッチ（Maria Martha Argerich スペイン語ご発音はつおん: [ˈmaɾta aɾxeˈɾitʃ], カタルーニャ語ご発音はつおん: [əɾʒəˈɾik]、1941年ねん6月5日にち - ）は、アルゼンチン・ブエノスアイレス出身しゅっしんのピアニスト。2021年ねん現在げんざい、世界せかいのクラシック音楽おんがく界さかいで高たかい評価ひょうかを受うけているピアニストの一人ひとりである。

名前なまえ

Argerichの読よみ方かたについては、「アルゲリッチ」が普通ふつうであるが、アルゲリッチの母国ぼこくであるアルゼンチンがスペイン語ごを公用こうよう語ごとしていることから、その読よみ方かたで「アルヘリッチ」、「アルヘリチ」などとも表記ひょうきされる。また、日本にっぽんではドイツ語ご読よみで「アルゲリッヒ」「アルゲリヒ」と表記ひょうきされていた時期じきもある。アルゲリッチ自身じしんは来日らいにち時じのインタビューで「どちらの呼よび方かたが正ただしいのかよく聞きかれるが、自分じぶんの先祖せんぞはスペインのカタルーニャ地方ちほう出身しゅっしんで、カタルーニャ語ごの読よみ方かたでは『アルジェリック』になる。しかし、自分じぶんとしては『アルゲリッチ』が気きに入いっているので、これに決きめている」という主旨しゅしの発言はつげんをしている。映画えいが『アルゲリッチ 私わたしこそ、音楽おんがく！』では、三さん女じょのステファニーが自みずからの苗字みょうじをアルゲリッシュと発音はつおんしている。

アルゲリッチという苗字みょうじは珍めずらしく、バルセロナに一族いちぞくがいると言いわれるほか、クロアチアのアルゲリチという村むらにルーツがあるとの説せつもある。

来歴らいれき

ブエノスアイレスの中産ちゅうさん階級かいきゅう家庭かていに生うまれた。父ちちフアン・マヌエル・アルゲリッチは経済けいざい学がく教授きょうじゅや会計士かいけいしを務つとめ、その祖先そせんは18世紀せいきにカタルーニャ地方ちほうからアルゼンチンへ移住いじゅうしている。母ははフアニータ（旧姓きゅうせいヘラー）は、ベラルーシからのユダヤ系けい移民いみんの2世せいであるが、ユダヤ教きょうからプロテスタントに改宗かいしゅうしていた。

保育園ほいくえん時代じだいに同おなじ組ぐみの男おとこの子こから「どうせピアノは弾ひけないよね」と挑発ちょうはつされた際さい、やすやすと弾ひきこなしたことがきっかけで才能さいのうを見出みいだされ、2歳さい8ヶ月かげつからピアノを弾ひき始はじめる。5歳さいの時ときにアルゼンチンの名めい教師きょうしヴィンチェンツォ・スカラムッツァ（en:Vincenzo Scaramuzza）にピアノを学まなび始はじめる。

1949年ねん（8歳さい）、公開こうかいの場ばでベートーヴェンのピアノ協奏曲きょうそうきょく第だい1番ばんハ長調ちょうちょう作品さくひん15を演奏えんそうした。翌よく1950年ねん（9歳さい）にはモーツァルトのピアノ協奏曲きょうそうきょくニ短調たんちょうK466とバッハのフランス組曲くみきょくト長調とちょうちょうBWV816を演奏えんそうした。

ブエノスアイレス知事ちじのサベテという人物じんぶつがマルタの熱烈ねつれつなファンだったため、1954年ねん8月がつ13日にち、サベテの仲立なかだちにより大統領だいとうりょう府ふでアルゲリッチ親子おやこと会あったフアン・ペロン大統領だいとうりょうは、マルタに留学りゅうがく希望きぼうの有無うむを尋たずね、「フリードリヒ・グルダに習ならいたい」との申もうし出でに従したがって、アルゲリッチの父ちちを外交がいこう官かんに、母ははを大使館たいしかん職員しょくいんにそれぞれ任命にんめいし、1955年ねん初頭しょとうから一家いっかでウィーンに赴任ふにんさせた。これに伴ともなって家族かぞくとともにオーストリアに移住いじゅうしたアルゲリッチは、ウィーンとザルツブルクで2年間ねんかんグルダに師事しじした後のち、ジュネーヴでマガロフ、マドレーヌ・リパッティ（ディヌ・リパッティ夫人ふじん）、イタリアでミケランジェリ、ブリュッセルでアスケナーゼに師事しじした。10代を過すごしたウィーン時代じだいに、プエルトリコ出身しゅっしんの「最高さいこうにハンサムな男おとこの子こ」を相手あいてに処女しょじょを喪失そうしつしたと自みずから発言はつげんしている。

1957年ねん、ブゾーニ国際こくさいピアノコンクール優勝ゆうしょう。またジュネーブ国際こくさい音楽おんがくコンクールの女性じょせいピアニストの部門ぶもんにおいても優勝ゆうしょうし、第だい一線いっせんのピアニストとして認みとめられるものの、更さらにその後ごも研鑽けんさんを続つづける。1959年ねんには、ブルーノ・ザイドルフォーファーのマスタークラスを数すう回かい受講じゅこうしている。アルゲリッチは絶対ぜったい音感おんかんの持もち主ぬしではなく、調しらべ性せいを正ただしく認識にんしきしていないこともあり、聴衆ちょうしゅうの一人ひとりから「ト長調とちょうちょうの前奏ぜんそう曲きょく」の演奏えんそうを褒ほめられても自分じぶんが弾ひいた曲きょくのどれを褒ほめられたのか判わからず、考かんがえ込こんだことがある。

1960年ねん、ドイツ・グラモフォンからデビューレコードをリリースする。22歳さいの時とき、中国ちゅうごく系けいスイス人じんの作曲さっきょく家かで指揮しき者しゃのロバート・チェン（陳ちん亮あきら声ごえ）と最初さいしょの結婚けっこんをするが、1964年ねん、長女ちょうじょリダの出産しゅっさん前まえに離婚りこん。

1965年ねん、ショパン国際こくさいピアノコンクールで優勝ゆうしょうし、最優秀さいゆうしゅうマズルカ演奏えんそう者しゃに贈おくられるポーランド放送ほうそう局きょく賞しょう（マズルカ賞しょう）も受賞じゅしょうした。

1969年ねん、1957年ねんに出会であった指揮しき者しゃのシャルル・デュトワと2度目どめの結婚けっこん、後のちにデュトワとの間あいだに娘むすめが出来できる。

1970年ねん1月がつ、大阪おおさか万博ばんぱくの年としの幕開まくあけに初はつ来日らいにち。浜松はままつ市しなどの諸しょ都市としでリサイタルを開ひらく。当時とうじは「アルゲリッヒ」と表記ひょうきされていた。

1974年ねんの2度目どめの来日らいにちの際さいに飛行機ひこうきの中なかで夫婦ふうふ喧嘩けんかとなり、アルゲリッチは日本にっぽんの地ちを踏ふまずUターンし、離婚りこん。後のちに、ピアニストのスティーヴン・コヴァセヴィチと3度目どめの結婚けっこん。

ソロやピアノ協奏曲きょうそうきょくの演奏えんそうを数多かずおおくこなすが、1983年ねん頃ごろからソロ・リサイタルを行おこなわないようになり、室内楽しつないがくに傾倒けいとうしていく。ヴァイオリニストのギドン・クレーメル、イヴリー・ギトリス、ルッジェーロ・リッチ、チェリストのロストロポーヴィチ、マイスキーなど世界せかい第だい一いち級きゅうの弦楽げんがく奏者そうしゃとの演奏えんそうも歴史れきし的てき価値かちを認みとめられている。

1990年代ねんだい後半こうはんからは、自身じしんの名なを冠かんした音楽おんがく祭さいやコンクールを開催かいさいし、若手わかての育成いくせいにも力ちからを入いれている。1998年ねんから別府べっぷアルゲリッチ音楽おんがく祭さい、1999年ねんからブエノスアイレスにてマルタ・アルゲリッチ国際こくさいピアノコンクール、2001年ねんからブエノスアイレス・マルタ・アルゲリッチ音楽おんがく祭さい、2002年ねんからルガーノにてマルタ・アルゲリッチ・プロジェクトを開催かいさいしている。

受賞じゅしょう歴れきには、フランス政府せいふ芸術げいじゅつ文化ぶんか勲章くんしょうオフィシェ（1996年ねん）、ローマ・サンタ・チェチーリア協会きょうかい員いん（1997年ねん）、グラミー賞しょう（1999年ねん、2004年ねん、2005年ねん）、ミュージカル・アメリカ誌し・Musician of the Year（2001年ねん）、第だい17回かい高松宮たかまつのみや殿下でんか記念きねん世界せかい文化ぶんか賞しょう（音楽おんがく部門ぶもん、2005年ねん）、旭日きょくじつ小しょう綬章じゅしょう（若手わかて音楽家おんがくかの育成いくせい等とうに寄与きよしたとして、2005年ねん）、旭日きょくじつ中ちゅう綬章じゅしょう（2016年ねん）などがある。

演奏えんそうスタイル

デビュー時じには、ライヴで極度きょくどにテンポが速はやいという報道ほうどうをされた。

レパートリー

レパートリーはバロック音楽おんがくから古典こてん派は、ロマン派は、印象派いんしょうは、現代げんだい音楽おんがくまで非常ひじょうに幅広はばひろい。J.S.バッハ、スカルラッティ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマン、ショパン、リスト、メンデルスゾーン、ブラームス、チャイコフスキー、ドビュッシー、ラヴェル、フランク、サン＝サーンス、クライスラー、バルトーク、ラフマニノフ、スクリャービン、プロコフィエフ、ストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチ、ルトスワフスキ、メシアンなど。一方いっぽうで、スティーヴン・コヴァセヴィチ、ネルソン・フレイレ、アレクサンドル・ラビノヴィチ、近年きんねんではアルゲリッチお気きに入いりの若手わかてピアニストたちとともにピアノ2重奏じゅうそうや連弾れんだんによる演奏えんそう会かいも行おこなっている。母国ぼこくアルゼンチンの作曲さっきょく家かでは、ヒナステラ、ピアソラ、ロペス＝ブチャルド、グアスタビーノ、ラーサラ、ラミレスなど。日本人にっぽんじんの作品さくひんでは、1995年ねんに小澤おざわ征爾せいじのバースデイ・コンサートで、大江おおえ光ひかりのチェロとピアノのための「お話はなし-A Talk」をロストロポーヴィチとの共演きょうえんで世界せかい初演しょえんした。

ただし、マウリツィオ・ポリーニほかに見みられるベートーヴェンのソナタ全集ぜんしゅうのような体系たいけい的てきな録音ろくおんを果はたす前まえに、ソロ活動かつどうから半分はんぶん引退いんたいしてしまった。このため、BOXセットが発売はつばいされても人気にんきのためにすぐに売うり切きれてしまい、各種かくしゅレーベルが権利けんりを保持ほじしたままで実じつは全貌ぜんぼうが掴つかみづらい。

人物じんぶつ

• 前述ぜんじゅつの通とおり3度どの結婚けっこんで3人にんの娘むすめをもうけたが、いずれも離婚りこんしている。子こどもたちはみなアルゲリッチが引ひき取とり育そだてた。アルゲリッチの3人にんの娘むすめには、いずれもプロフェッショナルの音楽家おんがくかはいない。しかし、ロバート・チェンとの間あいだに生うまれたリダ・チェンは、ヴィオラ奏者そうしゃとして母親ははおやと共演きょうえんすることがしばしばある。シャルル・デュトワとの娘むすめアニー・デュトワは、アルゲリッチのいくつかのCDをはじめ、しばしばクラシック音楽おんがくのCDのライナーノートや音楽おんがく専門せんもん誌しに執筆しっぴつしている。デュトワとの結婚けっこん生活せいかつは、デュトワがチョン・キョンファと浮気うわきしたことにより終焉しゅうえんを迎むかえた。ピアニストのスティーヴン・コヴァセヴィチとの間あいだに生うまれたステファニー・アルゲリッチは、主おもにアルゲリッチのCDの表紙ひょうしやドキュメンタリー映像えいぞうなどを撮影さつえいしているプロの映像えいぞうアーティストである。コヴァセヴィチとの別離べつりの後のち、「わたしは恋愛れんあいに向むいていないと思おもう」と語かたっていたが、10歳さい下かのミシェル・ベロフと4年間ねんかん、4歳さい下かのアレクサンドル・ラビノヴィチと10年間ねんかん、恋愛れんあい関係かんけいにあった。ロストロポーヴィチと恋仲こいなかだった旨むねが取沙汰とりざたされたこともあるが、アルゲリッチは「何なにも記憶きおくにない」と言いっている。
• 1980年ねんの第だい10回かいショパン国際こくさいコンクールの審査しんさ員いんであったアルゲリッチは、ユーゴスラヴィアからの参加さんか者しゃイーヴォ・ポゴレリチが本選ほんせんに選えらばれなかったことに抗議こうぎし、審査しんさ員いんを辞退じたいした。ポゴレリチのことを「だって彼かれは天才てんさいよ!」とい残いのこしたことにされたが、これは不正確ふせいかくな日本語にほんご訳やくである。
• アーリンク・アルゲリッチ財団ざいだん(AAF)の共同きょうどう設立せつりつ者しゃであり、少すこしでも脈みゃくのある国際こくさいピアノコンクールであればAAFの承認しょうにんを授さづけて助成じょせいしている。WFIMCからAAFに乗のり換かえたコンクールもある。

日本にっぽんとのつながり

• 1970年ねんに初はつ来日らいにちし、以後いご、幾度いくども来日らいにちしている。
• 大分おおいた県けん別府べっぷ市しとは特とくにつながりが深ふかく、1994年ねんに別府べっぷビーコンプラザ・フィルハーモニアホール名誉めいよ音楽おんがく監督かんとくに就任しゅうにんし、1998年ねんから開催かいさいされている別府べっぷアルゲリッチ音楽おんがく祭さいの総そう監督かんとくを務つとめ、2007年ねんには同どう音楽おんがく祭さいの主催しゅさい団体だんたいである財団ざいだん法人ほうじんアルゲリッチ芸術げいじゅつ振興しんこう財団ざいだん（Argerich Arts Foundation）の総裁そうさいに就任しゅうにんしている。支援しえん者しゃが資金しきんを拠出きょしゅつし、別府べっぷアルゲリッチ音楽おんがく祭さいの拠点きょてんとなるコンサートホール「しいきアルゲリッチハウス」が2015年ねんに完成かんせいしている。
• アルゲリッチは、1998年ねん以降いこうは毎年まいとしの別府べっぷアルゲリッチ音楽おんがく祭さいのために欠かかさずに来日らいにちしている。ただし2020年度ねんどは新型しんがたコロナウィルスの感染かんせん拡大かくだいのため音楽おんがく祭さい開催かいさい、来日らいにちともに2021年ねんへ延期えんき、2021年度ねんどの別府べっぷアルゲリッチ音楽おんがく祭さいも新型しんがたコロナウイルス感染かんせん拡大かくだいのため中止ちゅうしされた。
• 2021年ねん5月、大分おおいた県けんはアルゲリッチの誕生たんじょう日びである6月がつ5日にちを「マルタ・アルゲリッチの日ひ」と制定せいていした。
• 2022年ねん5月、大分おおいた県けんの芸術げいじゅつ・文化ぶんか振興しんこうへの大おおきな功績こうせきに対たいし県民けんみん栄誉えいよ賞しょうが授与じゅよされた。

参考さんこう文献ぶんけん

• オリヴィエ・ベラミー『マルタ・アルゲリッチ 子供こどもと魔法まほう』音楽之友社おんがくのともしゃ
• 吉澤よしざわヴィルヘルム『ピアニストガイド』青あお弓ゆみ社しゃ

外部がいぶリンク

• 招聘しょうへい会社かいしゃKAJIMOTOによるプロフィール
• “ドイツ・グラモフォンによる紹介しょうかい”. 2007年ねん9月がつ27日にち時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2021年ねん3月がつ28日にち閲覧えつらん。
• 別府べっぷアルゲリッチ音楽おんがく祭さい
• 高松宮たかまつのみや殿下でんか記念きねん世界せかい文化ぶんか賞しょう