臓器ぞうき不全ふぜん

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臓器ぞうき不全ふぜん
概要がいよう
分類ぶんるいおよび外部がいぶ参照さんしょう情報じょうほう
ICD-9-CM 995.92
eMedicine med/3372
MeSH D009102

臓器ぞうき不全ふぜん(たぞうきふぜん、えい: MOF; Multiple Organ Failure)とは、生命せいめい維持いじ必要ひつよう複数ふくすう臓器ぞうき機能きのう障害しょうがいされた状態じょうたいのこと。現代げんだい救急きゅうきゅう医療いりょう最大さいだい課題かだいのひとつとされている。局所きょくしょ障害しょうがい枢要すうよう臓器ぞうき影響えいきょうすることによるPrimary MOF と、全身ぜんしんせい炎症えんしょう反応はんのう症候群しょうこうぐんから発展はってんしてしょうじるSecondary MOF がある。

概要がいよう[編集へんしゅう]

MOFという概念がいねん注目ちゅうもくされるようになった背景はいけいには、救急きゅうきゅう医療いりょう発達はったつがある。MOFは本来ほんらいいたじょうだれもがとお過程かていであるが、救急きゅうきゅう医療いりょう発達はったつする以前いぜんにおいては、MOFからへの距離きょり非常ひじょうみじかく、ほとんど不可分ふかぶんであった。しかし、出血しゅっけつ腎不全じんふぜん急性きゅうせい呼吸こきゅう窮迫きゅうはく症候群しょうこうぐんなど、ぜん段階だんかいにおける症候しょうこうひとひと克服こくふくした結果けっかとして、1970年代ねんだいから、集中しゅうちゅう治療ちりょうなか患者かんじゃ死因しいんとして、MOFが問題もんだいされるようになってきたものである。

MOFの基本きほんてき病態びょうたいは、急性きゅうせい炎症えんしょう反応はんのうとこれにともなう各種かくしゅサイトカインなど化学かがく伝達でんたつ物質ぶっしつ発現はつげん増大ぞうだいによって、全身ぜんしんにおいて同時どうじ多発たはつてき障害しょうがいしょうじることにある。おも障害しょうがい下記かきのとおりである。

血管けっかん拡張かくちょうりゅう分布ぶんぷ異常いじょう
NF-κかっぱB活性かっせいによってもたらされるもので、血液けつえき分布ぶんぷ異常いじょうせいショック英語えいごばん誘発ゆうはつする。ただし後述こうじゅつ血管けっかん内皮ないひ障害しょうがい進展しんてんすると血管けっかん収縮しゅうしゅくてんじる。
しん収縮しゅうしゅくせい障害しょうがい
アドレナリンβべーた受容じゅようたいアデニルさんシクラーゼあいだ情報じょうほう伝達でんたつ阻害そがいしてカテコラミン反応はんのうせい低下ていかすることでしょうじるもので、こころはらせいショックを誘発ゆうはつする。
血管けっかん透過とうかせい亢進こうしん
こうちゅうだま浸潤しんじゅんともなエラスターゼ放出ほうしゅつによる細胞さいぼう障害しょうがいなどによってしょうじるもので、急性きゅうせい呼吸こきゅう窮迫きゅうはく症候群しょうこうぐん循環じゅんかん血液けつえきりょう減少げんしょうせいショックなどを誘発ゆうはつする。
血管けっかん内皮ないひ障害しょうがい
NF-κかっぱBやケモカイン受容じゅようたい活性かっせいによってもたらされるもので、微小びしょう血栓けっせん形成けいせいによるふさがせんりゅううつとどこお誘発ゆうはつする。
いと球体きゅうたい濾過ろかりょう減少げんしょう
りゅう分布ぶんぷ異常いじょう血管けっかん内皮ないひ障害しょうがいによるきょ、また炎症えんしょうせいサイトカインによってしょうじるもので、急性きゅうせい腎不全じんふぜん発展はってんするおそれがだいである。

臓器ぞうき」の定義ていぎはやや曖昧あいまいであるが、日本にっぽんではおおくの場合ばあいはい肝臓かんぞう腎臓じんぞう消化しょうかけい循環じゅんかんけい中枢ちゅうすう神経しんけいけい凝固ぎょうこせん溶系の7つの機能きのうのうち2つ以上いじょう短期間たんきかんないし同時どうじ不全ふぜんになったときとされる。

重症じゅうしょう判定はんていには、SOFAスコアやAPACHE-IIスコアなど、いくつかの指標しひょう提案ていあんされている。SOFAスコア(Sequential Organ Failure Assessment score)は簡便かんべんであるために比較的ひかくてき多用たようされており、2009ねん新型しんがたインフルエンザの世界せかいてき流行りゅうこうさいしてマックマスター大学だいがく中心ちゅうしんとして策定さくていされたトリアージプロトコルでも採用さいようされた。

SOFAスコア (日本にっぽんばん敗血症はいけつしょう診療しんりょうガイドライン 2016 - 日本にっぽん救急きゅうきゅう学会がっかいより引用いんよう
項目こうもく 点数てんすう
0 1 2 3 4
呼吸こきゅう機能きのう
PaO2/FiO2 [mmHg]
≧ 400 400 >≧ x ≧ 300 300 > x ≧ 200 200 > x ≧ 100
呼吸こきゅう補助ほじょ
100 > x
呼吸こきゅう補助ほじょ
凝固ぎょうこ機能きのう
血小板けっしょうばんすう [×103/mm2]
x ≧ 150 150 > x ≧ 100 100 > x ≧> 50 50 > x ≧ 20 20 > x
かん機能きのう
血漿けっしょうビリルビン [mg/dL]
< 1.2 1.2〜1.9 2.0〜5.9 6.0〜11.9 > 12.0
循環じゅんかん機能きのう
血圧けつあつ低下ていか
平均へいきん動脈どうみゃくあつ ≧70 mmHg 平均へいきん動脈どうみゃくあつ <70 mmHg ドパミン≦5γがんま
あるいはドブタミン投与とうよ
投与とうよりょうわない)
ドパミン>5γがんま
あるいはアドレナリン≦0.1γがんま
あるいはノルアドレナリン≦0.1γがんま
ドパミン>15γがんま
あるいはアドレナリン>0.1γがんま
あるいはノルアドレナリン>0.1γがんま
中枢ちゅうすう神経しんけい機能きのう
Glasgow Coma Scale
15 14〜13 12〜10 9〜6 6未満みまん
じん機能きのう
クレアチニン [mg/dL]
1.2未満みまん 1.2〜1.9 2.0〜3.4 3.5〜4.9
あるいは尿にょうりょうが500mL/にち未満みまん
>5.0
あるいは尿にょうりょうが200mL/にち未満みまん

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現在げんざいのところ、かく臓器ぞうき機能きのう不全ふぜん個々ここ治療ちりょうすることはできるものの、これらが関連かんれんして一時いちじ発生はっせいした場合ばあい、それぞれに対処たいしょしていく以外いがい治療ちりょうほうがない。このことから、MOFの状態じょうたいおちい以前いぜんにこれを予防よぼうすることがさい重要じゅうようであり、そのぜん段階だんかいである全身ぜんしんせい炎症えんしょう反応はんのう症候群しょうこうぐん(SIRS)の時点じてん対策たいさくこうじることが必要ひつようである。

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • Canadian Medical Association. “Appendix 1: Scoring criteria for the Sequential Organ-Failure Assessment (SOFA) score” (PDF) (英語えいご). 2010ねん9がつ5にち閲覧えつらん
  • 小濱おばまけい救急きゅうきゅうマニュアル だい3はん医学書院いがくしょいん、2005ねんISBN 978-4-260-00040-6 
  • 日本にっぽんばん敗血症はいけつしょう診療しんりょうガイドライン 2016 日本にっぽん救急きゅうきゅう学会がっかい (PDF)

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]