礼れい

礼れい（れい、旧きゅう字体じたい：禮れい、拼音: Lǐ）とは、さまざまな行事ぎょうじのなかで規定きていされている動作どうさや言行げんこう、服装ふくそうや道具どうぐなどの総称そうしょう。春秋しゅんじゅう戦国せんごく時代じだい、儒家じゅかによって観念かんねん的てきな意味いみが付与ふよされ、人間にんげん関係かんけいを円滑えんかつにすすめ社会しゃかい秩序ちつじょ（儒家じゅかにとっては身分みぶん制せい階級かいきゅう秩序ちつじょ）を維持いじするための道徳どうとく的てきな規範きはんをも意味いみするようになった。

概要がいよう

「礼れい記き#『礼れい記き』の内容ないよう」も参照さんしょう

前史ぜんしとして、孔子こうしが体系たいけい化かする以前いぜん、その源流げんりゅうとなった周しゅう王朝おうちょうにおける礼れいとは「宗法しゅうほう」を指さし、祖先そせん祭祀さいし・嫡長子ちょうし相続そうぞく・同姓どうせい不ふ婚こんなどから成なり、これらの宗法しゅうほう＝礼れいを守まもることで社会しゃかいの安定あんていをもたらすとした礼れい政せい一致いっちの封建ほうけん制度せいどが形成けいせいされた。その前代ぜんだいの殷いんでは、上帝じょうていの意思いしを一方いっぽう的てきに占うらなう祭政さいせい一致いっちの神権しんけん政治せいじを行おこなっていたが、孔子こうしが理想りそうとしたのは周しゅうにおける礼れい政せい一致いっちであった（後述こうじゅつ）。

孔子こうしは礼れいについて「克己こっき復ふく礼れい」（こっきふくれい。自己じこに打うち克かって礼れいに復帰ふっきする）することが仁ひとしであると説とき、仁じんを表現ひょうげんするうえで礼れいと仁じんは不可分ふかぶんのものと考かんがえた。孟子もうしも同様どうように、仁ひとし・義よしを美的びてきに整ととのえ、飾かざるのが礼れいであると説といた。

儒家じゅかの礼れいの基本きほん精神せいしんは供きょう犠であり、「正ただしい」方法ほうほうを守まもるという倫理りんり的てきな支持しじ以外いがいの見返みかえりを期待きたいしない贈与ぞうよである。孟子もうしは「礼れいにかなっていなければ、どんなに飢うえたひとであっても、施ほどこしの食事しょくじを受うけ取とることはない」と述のべ、礼れいは人間にんげんのあり方かたとして訓練くんれんされるべき規範きはんであると説といた。

礼れいは規範きはんであるが、法ほう規範きはんのように客観きゃっかん的てき・普遍ふへん的てきなものではなく、感情かんじょうを様式ようしき化かした主観しゅかん的てきで特殊とくしゅな規範きはんである。礼れいの具体ぐたい的てきな適用てきよう場面ばめんは王朝おうちょうや時代じだいに応おうじて適切てきせつな形かたちに見直みなおされ、変形へんけいしている。

孔子こうしの礼れい制せいによる既成きせいの秩序ちつじょ維持いじは周しゅう王朝おうちょう期きの礼れい制せいであり、春秋しゅんじゅう時代じだいに国土こくどを拡大かくだいした諸国しょこくがこれに従したがえば、国くにによっては国土こくどを縮小しゅくしょうしなければならず、これを指摘してきし、合理ごうり的てきに批判ひはんしたのが、楚すわえ国くにの子こ西にしであった（以降いこう、孔子こうしは諸国しょこくの政治せいじになぜ登用とうようされなかったかの自覚じかくをもつに至いたる）。 孟子もうしは礼れいを国家こっかの行動こうどう規範きはんとして想定そうていし、殷いんの湯ゆ王おうが葛かずら伯はくを伐うった葛かずら伯はく征伐せいばつについて、礼れいを行おこなわない葛かずら伯はくに対たいする正義せいぎの戦争せんそうであったと考察こうさつし正せい戦せんの論理ろんりを説といた。19世紀せいきの思想家しそうか章あきら炳麟は、礼れいが範はん例れい的てきな規範きはんである以上いじょう、それを普遍ふへん化かして押おし付つけることはできず、特定とくていの礼れいを特権とっけん化かしてそれを拒こばむものを悪あくとする孟子もうしの正せい戦せん論理ろんりは侵略しんりゃく戦争せんそうや植民しょくみん地ち戦争せんそうの論理ろんりに他たならないとして批判ひはんした。

礼れいの分類ぶんるい

『儀礼ぎれい』が扱あつかっている礼れい

1. 冠かんむり礼あや
2. 婚礼こんれい
3. 喪も礼れい
4. 祭礼さいれい
5. 射い礼れい
6. 郷ごう礼あや
7. 朝礼ちょうれい
8. 聘礼

四よん礼れい

『礼れい記き』『漢書かんしょ』礼楽れいがく志こころざしには礼れいが四よっつに分類ぶんるいされている。

1. 婚姻こんいん之の礼れい - その由来ゆらいは人ひとに「男女だんじょの情じょう、妬忌の別べつ」があるため。
2. 郷さと飲いん之の礼れい - その由来ゆらいは人ひとに「交接こうせつ長幼ちょうようの序じょ」があるため。
3. 喪も祭さい之の礼れい - その由来ゆらいは人ひとに「哀あい死し思おもえ遠とおの情じょう」があるため。
4. 朝あさ覲之礼れい - その由来ゆらいは人ひとに「尊みこと尊敬そんけい上じょうの心しん」があるため。

後のちには「冠かんむり礼あや」・「婚礼こんれい」・「葬礼そうれい」・「祭礼さいれい」を四よん礼れいと呼よんだ。

五ご礼れい

『周しゅう礼あや』大宗たいそう伯はくには礼れいが五いつつに分類ぶんるいされている。

1. 吉よし礼あや - 天地てんち鬼神きじんの祭祀さいし（邦国ほうこくの鬼神きじんにつかえる）
2. 凶きょう礼れい - 葬儀そうぎ・災害さいがい救済きゅうさい（邦国ほうこくの憂うれいを哀あわれむ）
3. 軍ぐん礼れい - 出陣しゅつじん・凱旋がいせん（邦国ほうこくを同おなじくする）
4. 賓礼ひんれい - 外交がいこう（邦国ほうこくに親したしむ）
5. 嘉よしみ礼れい - 冠かんむり婚こん・饗宴きょうえん・祝賀しゅくが（万民ばんみんに親したしむ）

礼れい学がく

礼れいは儒家じゅかによって観念かんねん化かされ、秩序ちつじょ原理げんりにまで高たかめられた。荀子によって理論りろん的てき整備せいびがなされ、六経りくけいの一ひとつとして挙あげられると、礼れいを研究けんきゅう・実践じっせんする学問がくもんである礼れい学がくが起おこった。

秦はた代だい、焚書坑儒ふんしょこうじゅによって礼れいに関かんする多おおくの書物しょもつが散佚さんいつし、漢かん代だいに伝つたえられた『礼れい』は士し礼れい17篇へん（現在げんざいの『儀礼ぎれい』）のみであったという。高堂こうどう生せいがこれを伝つたえ、后きさき蒼あおが武たけ帝みかどの時とき、博士はかせとなり、その弟子でし、戴徳（大だい戴）・戴聖（小しょう戴）・慶けい普ひろしの三さん家いえに分わかれて学がく官かんに立たてられた。また『礼れい』に対たいして注釈ちゅうしゃくや補充ほじゅう説明せつめいをした「記き（礼れい記き）」がある。『漢書かんしょ』芸文げいぶん志こころざしには『記き』131篇へん・『陰かげ陽明ようめい堂どう記き』・『王おう史ふみ氏し記き』、后きさき蒼あおが著あらわした『后きさき氏し曲きょく台だい記き』が記載きさいされている。現在げんざいに伝つたわっている礼れい記きは戴徳が伝つたえた『大だい戴礼記き』、戴聖伝つたえた『小しょう戴礼記き』（現行げんこう本ほん『礼れい記き』）である。

後こう漢かんの鄭てい玄げんは古文こぶん経けいの『周しゅう官かん』を中心ちゅうしんとして『儀礼ぎれい』と『小しょう戴礼記き』を三さん礼れいとして総合そうごう的てきに解釈かいしゃくする体系たいけい的てきな礼れい学がくを構築こうちくした。

礼れいの格言かくげん

• 三顧さんこの礼れい - 劉りゅう備が諸しょ葛かずら亮あきらを迎むかえたときの礼れい
• 礼れいに始はじまり礼れいに終おわる - 1907年ねん7月がつ『武徳ぶとく誌し』に内藤ないとう高治たかじが発表はっぴょうした論文ろんぶん「剣道けんどう初歩しょほ」が初出しょしゅつ
• 克己こっき復ふく礼れい - 『論語ろんご』顔かお淵ふち篇へん
• 礼れいは庶人に下くだらず、刑けいは大夫たいふに上のぼらず - 『礼れい記き』ほか

参考さんこう文献ぶんけん

• 中島なかじま隆博たかひろ『悪あくの哲学てつがく：中国ちゅうごく哲学てつがくの想像そうぞう力りょく』筑摩書房ちくましょぼう〈筑摩ちくま選書せんしょ〉、2012年ねん。ISBN 9784480015433。 
• 渡邉わたなべ義浩よしひろ『春秋しゅんじゅう時代じだい』洋よう泉いずみ社しゃ、2018年ねん。ISBN 978-4800315571。 

関連かんれん項目こうもく

• 儀礼ぎれい
• 臣従しんじゅう儀礼ぎれい
• 「礼れい」で始はじまるページの一覧いちらん
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