細川ほそかわ通とおる薫かおる

凡例はんれい 細川ほそかわ通とおる董ただし
細川ほそかわ通とおる董ただし（長川寺ちょうかわじ蔵ぞう）
時代じだい	戦国せんごく時代じだい - 安土あづち桃山ももやま時代じだい
生誕せいたん	伝つて天文てんもん4年ねん（1535年ねん）
死没しぼつ	天正てんしょう15年ねん（1587年ねん）
別名べつめい	太郎たろう（通称つうしょう）、通重みちしげ、通つう頼よりゆき？
官位かんい	下野しもの守まもる
氏族しぞく	細川ほそかわ野の州しゅう家か
父母ちちはは	不明ふめい
子こ	元もと通つう

細川ほそかわ 通とおる董ただし（ほそかわ みちただ）は、戦国せんごく時代じだいの武将ぶしょう。諱いみなは通重みちしげ（みちしげ）、通つう頼よりゆき（みちより）とも（通つう頼よりゆきは通つう董ただしの父ちちであるとする説せつもある）。細川ほそかわ野の州しゅう家か庶流出身しゅっしんで、野の州しゅう家かの家督かとくを継承けいしょうしたと考かんがえられる。

出自しゅつじ

従来じゅうらい、通つう董ただしは叔父おじである輝政てるまさ（通つう政せい）の猶子ゆうしとなり、戦国せんごく時代じだいに在地ざいち領主りょうしゅとしての自立じりつを目指めざしたとされていた。

ところが、晴はれ国こくの経歴けいれきを研究けんきゅうしていた馬うま部ぶ隆弘たかひろは通つう董ただしの子孫しそんである長ちょう府ふ細川ほそかわ家かが持もつ「長ちょう府ふ細川ほそかわ系図けいず」に関かんして添付てんぷされている古文書こもんじょの多おおくは真正しんせいであるものの、系図けいず自体じたいは古文書こもんじょの内容ないように擦こすり合あわせようとしたものだと評価ひょうかし、特とくに細川ほそかわ輝政てるまさ（通つう政せい）については創作そうさくされた架空かくうの人物じんぶつであると結論けつろん付つけた。また、通つう董ただしについても野の州しゅう家かと呼よばれた家いえが、晴はれ国こくの父ちちである細川ほそかわ政春まさはるが備中びっちゅう守護しゅごに任にんじられた後のちは、政春まさはるの官途かんと名めい（安房あわ守もり）から「房州ぼうしゅう家か」と呼よばれるようになっていた（従したがって、早世そうせいした晴はれ国こくも安房あわ守もりは名乗なのっていないものの、世間せけんからは房州ぼうしゅう家か当主とうしゅとして扱あつかわれていた）のにもかかわらず、その後継こうけい者しゃである筈はずの通つう董ただしが官途かんと名めいを下野げや守もりと称しょうして家名かめいを「野の州しゅう家か」に戻もどしてしまっていることを指摘してきし、通つう董ただしが細川ほそかわ晴はる国こくの後継こうけい者しゃとして立たてられたのは事実じじつであるが晴はれ国こくの子こではなく傍流ぼうりゅうからの継承けいしょうであったと推測すいそくしている。通つう董ただしとその子孫しそんである長ちょう府ふ細川ほそかわ家かが野の州しゅう家かの直系ちょっけいとしての正統せいとう性せいを強調きょうちょうするために輝政てるまさ（通つう政せい）という晴はれ国こくと通つう董ただしの間あいだを埋うめる存在そんざいを創作そうさくしたものの、野の州しゅう家かが房州ぼうしゅう家かに家名かめいを改あらためていた事実じじつを確認かくにんできず（あるいは無視むししたために）、系図けいずと添付てんぷの古文書こもんじょの内容ないようが示しめす事実じじつ関係かんけいと合致がっちしなくなってしまったとしている。

なお、通つう董ただしが晴はれ国こくの後継こうけい者しゃであることを示しめす文書ぶんしょとしては、「長ちょう府ふ細川ほそかわ文書ぶんしょ」に所収しょしゅうされた某ぼう年とし7月がつ13日にち付づけの細川ほそかわ氏綱うじつなから通つう董ただしに充あてられた書状しょじょうがあるが、細川ほそかわ氏綱うじつなが「氏綱うじつな」と称しょうし始はじめるのは天文てんもん12年ねん（1543年ねん）8月がつであるため、天文てんもん5年ねん（1536年ねん）の晴はれ国こくの死しの直後ちょくごではなく時間じかんを経過けいかしてから出だされた文書ぶんしょであり、同どう文書ぶんしょ自体じたいが「安房あわ守もり殿どの家督かとく」の継承けいしょうを認みとめたと記しるして晴はれ国こく（通称つうしょう：八郎はちろう）本人ほんにんを意味いみする「晴はれ国こく殿どの家督かとく」「八郎はちろう殿どの家督かとく」と表記ひょうきしなかったのは、高こう国こく没後ぼつごの後継こうけい争あらそいで晴はれ国こくとは微妙びみょうな関係かんけいにあった氏綱うじつなが、通つう董ただしを房州ぼうしゅう家かの後継こうけい者しゃとしては認みとめたものの、後日ごじつになって通つう董ただしが「高こう国こくー晴はれ国こくー通どおり董ただし」という京きょう兆ちょう家いえ相続そうぞくの正統せいとう性せいを主張しゅちょうするのを阻止そししたい思惑おもわくがあったとみられている。

概要がいよう

備中びっちゅう国こくの状況じょうきょう

文ぶん亀かめ3年ねん（1503年ねん）頃ごろには、細川ほそかわ義春よしはるの子こ・之これ持じが備中びっちゅう守護しゅごに任にんじられており、一方いっぽうで永えい正ただし5年ねん（1508年ねん）頃ごろから、細川ほそかわ野の州しゅう家か分家ぶんけの細川ほそかわ国こく豊ゆたか（細川ほそかわ春はる倶の長子ちょうし）が守護しゅごとして活動かつどうし始はじめている。国くに豊ゆたかは間まもなく没ぼっし、その後ごを継ついだ九郎くろう二郎じろう某ぼうも永えい正ただし12年ねん（1515年ねん）に19歳さいの若わかさで自害じがいをしたため、野の州しゅう家かの細川ほそかわ政春まさはるが備中びっちゅう守護しゅごとなっている。同おなじ備中びっちゅう国こくに之これ持じと国くに豊ゆたか・九郎くろう二郎じろう・政春まさはるの2人ふたりの守護しゅごが存在そんざいした背景はいけいには、細川ほそかわ政まさし元もとの死後しごに発生はっせいした後継こうけい者しゃ争あらそい・永えい正ただしの錯乱さくらん（両りょう細川ほそかわの乱らん）が原因げんいんであったとみられている。政せい元もとの養子ようしであり、争あらそいの当事とうじ者しゃであった細川ほそかわ澄きよし元もとは之これ持もちの弟おとうと、もう一方いっぽうの当事とうじ者しゃである細川ほそかわ高だか国こくは国くに豊ゆたかの従兄じゅうけいで政春まさはるの実みの息子むすこでもあった。2人ふたりの守護しゅごが並立へいりつした結果けっか、守護しゅご家かが備中びっちゅうの戦国せんごく大名だいみょうへと変貌へんぼうすることは無なかった。そして、政春まさはるの没後ぼつご、備中びっちゅう守護しゅごの任命にんめいの記録きろくはなく、これをもって備中びっちゅう守護しゅご家かは事実じじつ上じょう断絶だんぜつした。以後いご、備中びっちゅうでは中世ちゅうせい的てき権威けんいは大おおいに衰おとろえ、有力ゆうりょく国人くにびと勢力せいりょくが台頭たいとうしてするようになり、備中びっちゅうは守護しゅご代だいであった庄しょう氏し・石川いしかわ氏し、また庄しょう氏しとの連携れんけいを深ふかめていた三村みつむら氏し、さらに秋庭あきば氏し・新見にいみ氏し・丹治たんじ部ぶ氏し・上野うえの氏し・陶山すやま氏し・中島なかじま氏し・姫井ひめい氏しなどの備中びっちゅう36氏しと称しょうされた諸しょ勢力せいりょくが、国人くにびととしてそれぞれ割拠かっきょする状況じょうきょうであった。また、大内おおうち氏しや尼子あまこ氏しの介入かいにゅうが続つづいたことが混沌こんとんとした備中びっちゅう情勢じょうせいを加速かそくさせていた。

通つう董ただしの活動かつどう

通つう董ただしは、永えい禄ろく3年ねん（1560年ねん）頃ごろまでは通つう頼よりゆきの名前なまえで署名しょめいしている。細川ほそかわ氏綱うじつなの命いのちで伊予いよ国こく（温泉おんせん郡ぐん松山まつやま城じょう→宇摩うま郡ぐん川之江かわのえ城じょう）から備中びっちゅう国こく浅口あさくち郡ぐんへと移うつったとされるが詳細しょうさいは不明ふめい。通つう董ただしは従来じゅうらい尼子あまこ氏し方ほうであったが、天文てんもん18年ねん（1549年ねん）11月には「柏かしわ島とう政所まどころ山さん」で大内おおうち氏しと戦たたかっており、この結果けっか大内おおうち氏しへと基準きじゅんすることとなった。また、時期じきは不明ふめいだが、通つう頼よりゆきの名前なまえで活動かつどうしている頃ころに、細川ほそかわ氏綱うじつなが通つう頼よりゆきの麾下きかに浅口あさくち郡ぐんの国人くにびと勢力せいりょくの結集けっしゅうを画策かくさくしている。

通つう董ただしは永えい禄ろく元年がんねん（1558年ねん）から同どう3年ねん（1560年ねん）頃ごろまでに浅口あさくち郡ぐんを平定へいていしていたようだが、同どう3年ねんまでに安倍あべ氏しと小坂こさか氏しが離反りはんしている。また、同どう時期じきには毛利もうり氏し方かたに属ぞくしている。

永えい禄ろく5年ねん（1562年ねん）頃ごろには、毛利もうり元就もとなりが一族いちぞくの兼重かねしげ氏しに対たいし、宇喜多うきた氏しの攻撃こうげきにさらされる連島つらじまにいた細川ほそかわ氏しを救援きゅうえんしするために能島のしま村上むらかみ氏しの動員どういんを命めいじている、これが通つう董ただしのことを指さしているのかは不明ふめい。

永えい禄ろく11年ねん（1568年ねん）の本太もとぶと城じょう合戦かっせんでは、元もと就方の軍勢ぐんぜいの中なかに通つう董ただしの名前なまえが見みえる。このことから、通つう頼よりゆきが通つう董ただしへと名前なまえを変かえたのは、永えい禄ろく元年がんねん（1558年ねん）から永えい禄ろく11年ねん（1568年ねん）の間あいだであるとわかる。また、この合戦かっせんでは軍功ぐんこうを重かさねたようで、足利あしかが義昭よしあきの御教書みぎょうしょで軍功ぐんこうを誉ほめられており、通つう董ただしも元就もとなりに500貫かんの領地りょうちを要求ようきゅうしている。

元もと亀かめ元年がんねん（1570年ねん）8月がつ24日にちには、宇喜多うきた氏し勢いきおいが尼子あまこ氏しとともに備中びっちゅう国こくに出兵しゅっぺいし、通つう董ただしは杉山すぎやま城しろに篭こもってこれと戦たたかっている。この時ときの軍功ぐんこうによって、小早川こばやかわ隆景たかかげは通つう董ただしに備前びぜん国こくに1000貫かんの領地りょうちを宛あてがうことを約束やくそくしている。ただし、翌年よくねん2月がつには浅口あさくち郡ぐん片島かたしまで敗退はいたいし、5月7日にちには通つう董ただしと庄しょう元もと祐ゆうが籠城ろうじょうする程ほどにまで追おい込こまれ、同月どうげつ13日にちには帰陣きじんしている。

天正てんしょう3年ねん（1575年ねん）に、通つう董ただしは鴨かも山城やましろに入はいり、天正てんしょう10年ねん（1582年ねん）には、備中高松びっちゅうたかまつ城じょうの戦たたかいに通つう董ただしも加くわわり、織田おだ勢ぜいと対峙たいじした。この直後ちょくごに本能寺ほんのうじの変へんが生しょうじ、通つう董ただしを含ふくむ毛利もうり氏しは織田おだ氏しと講和こうわした。

通つう董ただしは浅口あさくちを中心ちゅうしんに6000石いし余よ（貫ぬき高だか制せいの時代じだいのはずだが）の知行ちぎょうを有ゆうするようになっており、永えい禄ろく2年ねんに備中びっちゅうの地ちを踏ふんで以来いらいの旧領きゅうりょう回復かいふくに、一定いっていの成果せいかを上あげたとも言いえる。天正てんしょう15年ねん（1587年ねん）、豊臣とよとみ秀吉ひでよしの九州きゅうしゅう征伐せいばつの際さいには、通つう董ただしは小早川こばやかわ隆景たかかげに従したがって出陣しゅつじんし先鋒せんぽうをも勤つとめるまでにいたるが、帰国きこく途中とちゅうの赤あか間あいだ関せきで死し没ぼっす。享年きょうねん53。

通つう董ただしの子こ・細川ほそかわ元もと通つう（浅口あさくち元もと道みち）は穂ほ井田いだ元もと清きよしの娘むすめを妻つまとしており、元げん清きよしの麾下きかで、朝鮮ちょうせん出兵しゅっぺいに出陣しゅつじんし軍功ぐんこうを収おさめた。慶長けいちょう5年ねん（1600年ねん）の関ヶ原せきがはらの戦たたかい以後いごに、西にし軍ぐんの毛利もうり氏しが防ぼう長ちょう二にカ国かこくに削そぎ封ふうされると、元もと通つうも浅口あさくちを去さり義弟ぎてい・毛利もうり秀しげる元もとのもとに身みを寄よせた。家臣かしんたちは備中びっちゅうに止とまるもの、防ぼう長ちょうに下くだるものありと離散りさんせざるを得えなかった。元もと通つうの子孫しそんは長ちょう府ふ毛利もうり家かの家老がろうとなり、やがて明治維新めいじいしんを迎むかえている。

備考びこう

理解りかいの補助ほじょとして、以下いかに細川ほそかわ氏しの系図けいず（実子じっし関係かんけいを主おもにした抽出ちゅうしゅつ形式けいしき）、及および周辺しゅうへん概略がいりゃく図ずを示しめす。

頼よりゆき春はる
 ┣━━━┳━━━┳━━━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
頼よりゆき之これ  　詮かい春はる  　頼よりゆき有ゆう　　頼元よりもと（頼よりゆき之の 嗣）　　　　　　　　　　　 満之まんし
 　　　　┃　　　┃     ┣━━━━━━━━┓　　　　　　　　　┣━━━┳━━━┓ 備中びっちゅう守護しゅご家か　
 　　　 義之よしゆき    頼よりゆき長ちょう　  満まん元もと　　　　　　　満まん国こく　　　　　　　　基之もとゆき　　満久まく　　頼たよ重おも
　　　 阿波あわ　　　┃     ┣━━┳━━┓　  ┃　　　　　　（頼よりゆき長ちょう？嗣）（義之よしゆき嗣）┃
　　  　守護しゅご家か　持もち有ゆう　　持じ元もと　持じ之の　持もち賢けん　持もち春はる　　　　　　　　頼よりゆき久ひさ　　教きょう祐ゆう　　氏久うじひさ
　　　　　　　和泉いずみ　　　 　　　┃　典てん厩うまや家か　┣━━┳━━┓　　和泉いずみ　　　┃　　　┃
　 　　　　　　上うえ守護しゅご家か　　 　勝元かつもと　　　　教きょう春はる　政せい国こく　賢けん春はる 下しも守護しゅご家か   成之しげゆき　　勝久かつひさ
　　　　　　　　　　　　　　　 ┃　　　　　┃　　┃　　　　　　　　　　┣━━━┓
　　　 　　　　　　　　　　 　政せい元もと　　　　政春まさはる　政せい賢けん　　　　　　　　　政之まさゆき　　義春よしはる（之これ勝しょう）
　　　　　　　　　　　　　　京きょう兆ちょう家いえ 　　　　┣━━┳━━┓　　　　　　　┏━━━╋━━━┓
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　高こう国こく　晴はれ国こく　輝政てるまさ？　　  　　之これ持じ　　氏久うじひさ　　澄きよし元もと
　　　　　　　　　　　　　　　 　　 　　　　　 　┃　（通つう政せい）　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　  　　　　　　通つう董ただし 
　　　　　　　　　　　　　　　　　  　　　　　　 ┃
                            　  　　　　　　　　元もと通つう
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 野の州しゅう家か

大島おおしまの傘かさ踊おどり

貞享ていきょう3年ねん（1686年ねん）に、名君めいくんと慕したわれた細川ほそかわ通とおる董ただしの百ひゃく回忌かいきが通つう董ただしの菩提寺ぼだいじ（長川寺ちょうかわじ）で営いとなまれた。この時ときに旧きゅう大島おおしま地区ちくの遺臣いしんたちが武芸ぶげいの“はしばし”を取とり入いれた供養くよう踊おどりを奉納ほうのうしていたところ、たまたま夕立ゆうだちとなり刀がたなの代かわりに雨傘あまがさを使用しようして踊おどったことが起源きげんといわれる「大島おおしまの傘かさ踊おどり」が現代げんだいにも伝つたわっている。 これは全国ぜんこく的てきに多おおい輪わ踊おどりの形かたちをとるもので、2人ふたり1組くみとなり傘かさを刀かたなに見立みたてて斬きり合あうように踊おどるのが特徴とくちょう的てきである。岡山おかやま県けん指定してい重要じゅうよう無形むけい民俗みんぞく文化財ぶんかざいとなっている。現在げんざいは地元じもとの保存ほぞん会かいにより、その一部いちぶが盆踊ぼんおどりとして舞まわれている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 馬うま部ぶ隆弘たかひろ『戦国せんごく期き細川ほそかわ権力けんりょくの研究けんきゅう』吉川弘文館よしかわこうぶんかん、2018年ねん。ISBN 978-4-642-02950-6。 

関連かんれん項目こうもく

• 長ちょう府ふ細川ほそかわ家か