ボアストローク比ひ

ボア・ストローク比ひ。
排気はいき量りょうが同おなじ場合ばあい、数字すうじが大おおきいほどクランク半径はんけいが小ちいさく（てこ棒ぼうが短みじかく）なって1ストロークあたりのトルクは小ちいさくなるが、ピストンスピードを低ひくく抑おさえることができ、高こう回転かいてん化か = 高こう出力しゅつりょく化かに有利ゆうりとなる。逆ぎゃくに、数字すうじが小ちいさくなるほどピストンスピードが高たかく、クランク半径はんけいも大おおきくなるため高こう回転かいてん化かには向むかないが、ストールしづらく低てい回転かいてん域いきで扱あつかいやすくなる。
また、燃焼ねんしょう室しつの表面積ひょうめんせきの差さは熱ねつ効率こうりつにも影響えいきょうする。

ボアストローク比ひ（ボアストロークひ 英えい: bore/stroke ratio）とは、レシプロエンジンにおけるシリンダーボア（内径ないけい）とピストンストローク（行程こうてい）の比率ひりつのことで、ストロークをボアで割わった値ねである。エンジンの性格せいかくを類別るいべつする際さいに使用しようされることが多おおく、この値ねが1.0（1：1）の場合ばあいはスクエアストロークまたは略りゃくしてスクエア、1より小ちいさいものはショートストロークまたはオーバースクエア、1より大おおきいものはロングストロークと呼よばれる。

多おおくの実用じつようガソリンエンジンでは、ボア・ストローク比ひは1.0近傍きんぼうに設定せっていされるか、ややロングストロークに設定せっていされる。一部いちぶの高性能こうせいのうスポーツカー用ようエンジンやレース用ようエンジンではショートストロークに設定せっていされ、フォーミュラ1用ようのエンジンでは2.0（1/2）近ちかくと極端きょくたんにショートストロークに設定せっていされ、極限きょくげんの高こう回転かいてん性能せいのうを実現じつげんしている。

また、船舶せんぱく用ようの大型おおがた2ストロークディーゼルエンジン（ユニフロー掃気ディーゼルエンジン#船舶せんぱく用よう）では0.25（4倍ばい）付近ふきんと大幅おおはばなロングストロークとなっている。これは燃費ねんぴ性能せいのうを最さい重視じゅうししたもので、ガソリンエンジンと異ことなり、運転うんてん中ちゅうのディーゼルエンジンのシリンダー内ないは常つねに空気くうき過剰かじょうの状態じょうたいにあり、この燃焼ねんしょうに関与かんよしなかった空気くうきも燃焼ねんしょう熱ねつによって膨張ぼうちょうして出力しゅつりょくに寄与きよするため、膨張ぼうちょう時間じかんを長ながくとる設定せっていとなっている。

フィンランドなどの一部いちぶの国くにでは、ボアをストロークで割わった「ストロークボア比ひ」が用もちいられる。

種別しゅべつ

スクエアストローク

ボアストローク比ひが1（1：1）であるものをいう。ピストンの往復おうふく運動うんどうで得えられる容積ようせきの縦断じゅうだん面めんが、正方形せいほうけいであることからこの名なが付ついた。下記かきの2つの中なか間あいだ的てきな性格せいかくと言いえ、2000年ねん現在げんざいにおいては、パワー向上こうじょうのみならず総合そうごう的てきなエンジンの性能せいのう向上こうじょうが重要じゅうようとされ、スクエアもしくはそれに近ちかい比率ひりつの物ものが増ふえている。

ショートストローク

ボアストローク比ひが1よりも小ちいさいものをいう。一般いっぱん的てきにショートストロークではコンパクトな（表面積ひょうめんせきの少すくない）燃焼ねんしょう室しつを実現じつげんしにくく、低速ていそくでの燃費ねんぴ性能せいのうは悪化あっかするが、同どう排気はいき量りょうのロングストローク型がたに比くらべ、1回転かいてんあたりのピストン往復おうふく距離きょりが短みじかいことから高こう回転かいてんとなり、また、ピックアップ特性とくせいを向上こうじょうさせやすく、出力しゅつりょく重視じゅうし型がたのエンジンとなる。

ただ、高こう出力しゅつりょくにするためにはとにかくボアを大おおきくすれば良よいかというと、必かならずしもそうではなく、ボアを大おおきくすれば必然ひつぜん的てきにピストンも大おおきくなり、したがってそれらにかかわる部品ぶひんも頑丈がんじょうにせざるを得えず、エンジンの全長ぜんちょうも長ながくなってしまう。また、ボアを大おおきくする以外いがいにも多たバルブ化かなど別べつのアプローチによって高こう出力しゅつりょくを達成たっせいできるようになったため、ボアの拡大かくだい＝さらなるショートストロークには歯止はどめがかかった。

現在げんざいでは、主おもにスポーツカーや軽自動車けいじどうしゃ、スポーツタイプのオートバイ、また乗のり物もの以外いがいでは刈がり払ばらい機きやチェーンソーなどに採用さいようされることが多おおい。

ロングストローク

ボアストローク比ひが1より大おおきいものをいう。 ショートストローク型がたに比くらべ、コンパクトな燃焼ねんしょう室しつにしやすく、低てい回転かいてん時じの冷却れいきゃく損失そんしつが小ちいさいため熱ねつ効率こうりつが良よく、実用じつよう燃費ねんぴに有利ゆうりになる。また、ピストンスピードが高たかく、クランクシャフトを回まわす力ちからが大おおきいことから、ショートストロークに比くらべて低てい回転かいてん時じのトルクが大おおきい傾向けいこうがある。これらのことから、実用じつよう型がたのエンジンという事ことになる。なお、バイクにおいてはストロークを長ながくすると鼓動こどう感かんのあるエンジンとなる。

その反面はんめん、すべてのレシプロエンジンはピストンが往復おうふく運動うんどうを行おこなう構造こうぞう上じょう、ピストンスピードの向上こうじょうに物理ぶつり的てきな限界げんかいがあり、同おなじ回転かいてん数すうにおいてはストロークが長ながいほどピストンスピードが高たかくなることから、高こう回転かいてん性能せいのうやピックアップ特性とくせいを向上こうじょうさせることが困難こんなんになるため、高こう回転かいてんには弱よわいとされる。また、エンジン長ちょうは抑おさえられるものの、エンジン高だかは高たかくなる。

なお、ストロークが長ながい直列ちょくれつ3気筒きとう以下いかのエンジンではエンジンの振動しんどうが大おおきいが、現在げんざいはピストン･コネクティングロッド（コンロッド）の軽量けいりょう化か、バランサーなどにより不快ふかいなほどではない。また、わざとバランスを崩くずして設計せっけいして振動しんどう（鼓動こどう感かん）を出だし、エンジンの味あじとしたり、トラクションにメリハリをつけるなどの演出えんしゅつをすることもある。なお、ショートストロークエンジンでもコンロッドが短みじかい場合ばあい、コンロッドの振ふり角かくが過大かだいとなり、振動しんどうが増加ぞうかする（連れん桿比も参照さんしょう）。

ホンダCB750FOURやヤマハディバージョンXJ400S、果はてはカワサキZ1300などのように、多た気筒きとうエンジンの幅はばを詰つめるためにロングストロークで設計せっけいされる場合ばあいもある。

エンジン諸しょ元もと表ひょうを見みるときには、ボアストローク比ひだけでなくストロークの長ながさ自体じたいに注目ちゅうもくすると、他たのエンジンと特性とくせい比較ひかくしやすい。また、試乗しじょうでもストロークの長短ちょうたんを意識いしきしたほうがエンジンの特性とくせいをつかみやすい。日本にっぽん製せいの乗用車じょうようしゃ・オートバイ用ようエンジンは、当初とうしょの低てい中ちゅう速そく重視じゅうし型がたを脱だっし、1980年代ねんだい以降いこうにはショートストロークのものが大だい多数たすうを占しめるようになっていたが、排出はいしゅつガス規制きせい、省しょうエネルギー、衝突しょうとつ安全あんぜん性せい（エンジン平面へいめん寸法すんぽうの縮小しゅくしょう）などの要求ようきゅうが高度こうど化かするにつれ、2000年代ねんだい以降いこうからはロングストロークのものへ移行いこうしていった。対たいして欧州おうしゅう車しゃや米国べいこく車しゃのエンジンは、従前じゅうぜんからロングストロークのものが大だい多数たすうを占しめている。ヒュンダイ アイオニックに採用さいようされている1.347と極きわめてロングストロークのものもある。

変かわったところでは税制ぜいせいと関連かんれんしてロングストロークが好このまれていた場合ばあいもある。20世紀せいき前半ぜんはんのイギリスで用もちいられていた馬力ばりき税ぜいは単純たんじゅんにボア径みちと気筒きとう数すうで決きめられていた。この場合ばあいボア径みちが小ちいさい方ほう、つまりロングストロークの方ほうが税制ぜいせい上じょう有利ゆうりであった。この馬力ばりき税ぜいによる影響えいきょうは廃止はいし後ごの1950 - 1960年代ねんだいのまでの英国えいこく車しゃに残のこったとされる。

参考さんこう文献ぶんけん

GP企画きかくセンター、1999、『エンジンの基礎きそ知識ちしきと最新さいしんメカ』1、グランプリ出版しゅっぱん ISBN 4-87687-207-4

関連かんれん項目こうもく

• レシプロエンジン
• ピストン
• ボアアップ

外部がいぶリンク

• 【今いまさら聞きけない】エンジンのボア×ストロークって何なに？ - WEB CARTOP