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開幕投手(かいまくとうしゅ)とは、野球における開幕戦の先発投手を指す。
開幕投手はペナントレースの最初の試合(開幕試合)に登板する先発投手であり各チームを代表する投手が投入される[1]。開幕試合は特別な意味を持つという意見と開幕試合も長いペナントレースの単なる1試合であるという意見があるが、実際のところ開幕試合は特別視されている[1]ことが多い。
日本野球機構 (NPB) 管轄のプロ野球の開幕戦には、各球団ともエースと呼ばれる投手を筆頭に、球団の代表投手を先発させる例が比較的多く、投手にとっても開幕投手に指名されるのは名誉なことであるとされる。そのため新人選手が選ばれることは稀である。それでも1950年代には毎年のように新人選手の開幕投手が登場していたが[2]、それ以降は1962年の城之内邦雄(巨人)、ドラフト制施行後は1984年の高野光(ヤクルト)、2013年の則本昂大(楽天)、2022年の北山亘基(日本ハム)の4人のみとなっている[3]。
NPBにおいては、金田正一(国鉄・巨人)と鈴木啓示(近鉄)の14回が開幕投手の最多記録で、鈴木の挙げた開幕戦9勝は日本記録である。また、山田久志(阪急)の12年連続開幕投手(1975年 - 1986年)及び5年連続開幕戦勝利も日本記録となっている。
NPB史上において、最年長の開幕投手は1998年の大野豊(広島)で42歳7か月。最年少の開幕投手は1952年の大田垣喜夫(広島)で18歳5か月。
1リーグ制(1936年春夏季 - 1944年)
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1リーグ制(1946年 - 1949年)
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2リーグ13 - 15球団制(1950年 - 1957年)
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2リーグ12球団制(1958年 - 2004年)
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2リーグ12球団制(2005年 - )
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- 1960年の大洋ホエールズの開幕投手は本来秋山登が務める予定だったが、中日ドラゴンズとの開幕試合前の練習中に中日コーチの牧野茂のノックバットが秋山の顔面に直撃し昏倒。投げられる状態ではなくなってしまった為、急遽幸田優が開幕投手となった。この他にも、本来開幕投手の予定と公言された投手がその後負傷し、別の投手を開幕投手に起用したケースがいくつか存在する。
- 1970年の開幕投手のうち、中日の小川健太郎、西鉄ライオンズの池永正明、東映フライヤーズの森安敏明の3人はいずれも黒い霧事件の影響でシーズン中に永久失格処分を受け、阪神の江夏豊はシーズン後に戒告処分を受けた。西鉄からはその前年の開幕投手の与田順欣も永久失格処分を受けている。また、1991年の横浜大洋ホエールズの開幕投手の中山裕章もこのシーズン終了後に不祥事が発覚し、プロ野球を一時去った(1994年に中日で復帰)。
- 1996年の千葉ロッテマリーンズは、前年1995年から2年連続で当初務める予定だった伊良部秀輝が故障で登板回避になり、開幕3連戦の他のローテーションは動かせないということで、小宮山悟やエリック・ヒルマンではなく、4番手の園川一美を開幕投手に起用した(開幕2日前に急遽決まった)。その際に対戦相手の福岡ダイエーホークス監督の王貞治に読みを外された悔しさもあって「開幕投手には格というものがあるだろう」と言われてしまった。ただ、試合は園川は勝利投手にはなれなかったものの、ロッテは勝利した。
- 2004年の中日ドラゴンズは、本来なら川上憲伸が開幕投手最有力だったが、3年間一軍登板実績がなかった川崎憲次郎を開幕投手に起用した。この年監督に就任した落合博満が補強なしの全選手横一線のチームに刺激を与えることと、先発投手の情報漏洩がないかどうかを確認するための起用だったという。この起用は投手起用を基本的にヘッドコーチの森繁和に任せていた落合が、監督生活で唯一自ら決めた投手起用であったという。川上は第3戦に先発した[4]。
- 2006年の千葉ロッテマリーンズは、対福岡ソフトバンクホークス戦において、先発3本柱である清水直行、渡辺俊介、小林宏之をWBCに供出し、ボビー・バレンタイン監督の意向でWBC出場の投手は開幕カードを休ませることにしたため、前年度の新人王である、プロ2年目の久保康友を開幕投手に抜擢した。同様の理由で他の年も先発主力投手がWBCに出場したため別の投手を開幕投手に起用した球団がいくつか存在する。
- 2リーグ分裂後「同一投手による複数球団での開幕投手」は渡辺秀武(巨人・日本ハム・大洋)と涌井秀章(西武・ロッテ・楽天)の3球団が最多。特に涌井は西武で5度、ロッテで4度務めており「複数球団で複数回の開幕投手」も達成している。2021年には楽天でも開幕投手を務めて勝利投手となり、史上初の3球団で開幕戦勝利を記録している。
- 読売ジャイアンツの斎藤雅樹は、1993年から1997年まで5年連続で開幕投手を務め、1994年からは3年連続完封勝利。1997年の開幕戦はヤクルトスワローズ戦で、小早川毅彦に3打席連続本塁打を打たれ、敗戦投手となる。
- 西村龍次が開幕投手を務めるとその年はチームが優勝するジンクスがあり、西村はダイエー時代に3年連続で開幕投手に起用された。特に2000年は登板機会が開幕戦のみでシーズン0勝だったにもかかわらず、翌2001年の開幕投手に起用されている(ただし、西村はヤクルトスワローズ時代に15勝を挙げリーグ最多完封を記録するなど実績は有している)。
- 横浜ベイスターズの三浦大輔は、2005年には最優秀防御率を獲得、通算でも7度の2桁勝利を挙げるなどの活躍をしているにもかかわらず、開幕戦に限っては7戦全敗と相性が悪かった。2007年には対読売ジャイアンツ戦において、初回先頭打者である高橋由伸に投じた初球を本塁打を打たれた。
- 岡田彰布によると、開幕投手を指名するタイミングは、チームや監督によってさまざまであり、「春季キャンプ前(オフシーズンのうち)に指名」「春季キャンプ中に指名」「開幕直前に指名」と3つのパターンがあるという[5]。これは、開幕戦に対する考え方として、「シーズン全体のうちの1試合」ととらえるか、「最も重要な試合」ととらえるかによって異なるとのことである[5]。なお、岡田自身は、開幕戦は「最も重要な試合」という考えを持っていることから、開幕投手は「小細工も奇襲もせず、うちのチームは今季はこの選手をエースとして使い続ける」という明確なメッセージを込めて起用するとのことであり、実際、阪神、オリックス時代を通して、原則として「春季キャンプ期間中の早い段階」で開幕投手を指名したとのことである[5]。これにより、当該選手が開幕戦から逆算した調整ができることと共に、本人の士気の向上、及び、周囲に対するプラスの刺激の創出にもつながり、それがチーム力を向上させることになると述べている[5]。そのため、2017年シーズンに、DeNAのアレックス・ラミレス監督が、春季キャンプを待たずして石田健大を開幕投手に指名した姿勢を高く評価しているという[5][6]。もっとも、オープン戦開幕を待たずして、早い段階で開幕投手を決めることにはリスクもあるとのこととも述べており、実際、岡田自身、オリックス時代の2012年シーズンに、開幕投手に指名されていた金子千尋が、故障及びそれに伴う調整遅れになったことから開幕投手の回避に追い込まれて(代役はアルフレッド・フィガロが務めた)、それがこのシーズンの終了を待たずしての(実質的な)解任へとつながったと述べている[5]。
MLBにおける開幕投手の回数[7]。
- 太字は現役選手
- 2021年開幕戦終了時点