ビルマ料理りょうり

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ビルマの食卓しょくたくれい
ヤンゴン野外やがい喫茶店きっさてん

ビルマ料理りょうり(ビルマりょうり)またはミャンマー料理りょうり(ミャンマーりょうり)は、東南とうなんアジアミャンマー旧称きゅうしょうビルマ)でべられている郷土きょうど料理りょうりである。スパイス使用しよう比較的ひかくてきおさえられているてん[1]あぶら多用たようするてん特徴とくちょうがある[2][3]。ここでは、ミャンマーの多数たすう民族みんぞくであるビルマぞくしょく文化ぶんか中心ちゅうしんに、ミャンマー(ビルマ)のしょく文化ぶんかについて解説かいせつする。

主食しゅしょくふくさい[編集へんしゅう]

主食しゅしょく[編集へんしゅう]

ビルマの典型てんけいてきなヒンと野菜やさいとごはん食事しょくじ

べいပေါင်းဆန်)が主食しゅしょくえられ[4][5]、1,2種類しゅるいふくさいえて大量たいりょうこめべるのが基本きほんてきなビルマぞく食事しょくじスタイルである[5][6]後述こうじゅつするシャンまいもちまいべられているが、ミャンマーの食卓しょくたくにはインディカしゅのうるちまいのぼることがおお[5]都市としでは朝食ちょうしょく外食がいしょくませることもめずらしくなく[7]屋台やたい軽食けいしょくどうではべい以外いがいモヒンガーမုန့်ဟင်းခါး)、オンノ・カウスェーအုန်းနို့ခေါက်ဆွဲ)といった麺類めんるいナンနံပြား)にあぶらじょうအီကြာ‌ကွေး)といったインドけい中華ちゅうかけい軽食けいしょくべられている[7][6]一方いっぽう昼食ちゅうしょく夕食ゆうしょくにはべいかせず、べいふくさい一緒いっしょべるのが一般いっぱんてきなミャンマーの食卓しょくたくのスタイルである。

ふくさい[編集へんしゅう]

ふくさいは、日本にっぽんでは便宜上べんぎじょうカレーしょうされることもある「ヒン」(ဟင်း)という煮込にこ料理りょうり中心ちゅうしんであり、ヒンは「おかず」「ふくさい」の同義語どうぎごとしても使つかわれる[8]タマネギトマトくわわる場合ばあいもある)をベースとして煮込にこみ、ブタウシヒツジニワトリせいにく内臓ないぞう魚介ぎょかいるい野菜やさいであり、調味ちょうみりょうつぶさおうじて使つかけられる。その種類しゅるい煮込にこ時間じかんによって、水気みずけおおいシーレー・イェーレー、水気みずけくなるまで煮込にこんだシービャン(スィービャン)の2つに大別たいべつされる。どちらも多量たりょうあぶら使つかってあおトウガラシ多用たようしないてん特徴とくちょうがあり[9]、スパイスの種類しゅるいかぎられる。食材しょくざい風味ふうみとエキスをふくんだあぶら美味びみとされ、とともにあぶらしょくされる[3][9]。インドふうのヒンは「カラーヒン」(ကုလားဟင်း)とばれ、スパイスの種類しゅるいおおいのが特徴とくちょうである[10]。ミャンマーないでの健康けんこうたいする関心かんしんたかまりからあぶら使用しようおさえる傾向けいこうもあるが、なおおおくのあぶら料理りょうり使つかわれている[3]

油分ゆぶんおおいヒンにたいしてスープものには野菜やさいおお使つかわれ、淡白たんぱく味付あじつけの料理りょうりおお[3]

富裕ふゆうそうではあさ昼夜ちゅうや三食さんしょく様々さまざま種類しゅるいふくさいべいえられる。中流ちゅうりゅうそうではあさいちさいひるいちしるさい夕食ゆうしょくさいとなり、農民のうみんさんしょくすべいちさいという構成こうせい常態じょうたいとなっている[11]

食材しょくざい調味ちょうみりょう[編集へんしゅう]

食材しょくざい[編集へんしゅう]

食材しょくざいにはヒラマメインゲンマメヒヨコマメなどのまめ頻繁ひんぱんもちいられ、東南とうなんアジアのくにくらべて種類しゅるい調理ちょうりほう豊富ほうふである[12]。ヒンの調理ちょうりにおいて、あぶらでスパイスをいためるてん東南とうなんアジア大陸たいりくくにべられる「カレー」の調理ちょうりほうことなり[13]、むしろまめ使用しよう頻度ひんどとカレーの調理ちょうりほう同様どうようインド料理りょうり共通きょうつうするが、使つかわれるスパイスの種類しゅるいはインド料理りょうりよりもすくない[13]ビルマふう豆腐とうふなどの豆腐とうふがミャンマーではよくべられ、ヒヨコマメからつくられることもあり、ターメリック黄色きいろ着色ちゃくしょくした豆腐とうふあつげのように調理ちょうりされた豆腐とうふ料理りょうり使つかわれる[14]ローゼルを「チンバウン」(ချဉ်ပေါင်)といい、そのいたぶつ(ジョー)やスープにする。様々さまざまふとさや形状けいじょうライスヌードル使つかわれる。

発酵はっこうさせたちゃラペッソーလက်ဖက်စို)が食材しょくざい漬物つけもの)として使つかわれるてん東南とうなんアジアでもめずらしい[14]。ビルマには「にくぶた果物くだものはマンゴー、ちゃ」という言葉ことばがあり、ビルマにおいてちゃさい代表だいひょうする食材しょくざいとされている[3]。また、ちゃはシロップをかけて菓子かしとしてもしょくされている[14]。タイ北部ほくぶにもちゃしょくする習慣しゅうかんがあり、かつては発酵はっこうさせたちゃ食後しょくごあじわっていたが、現在げんざいではハイゴショウPiper sarmentosum)のショウガなどをつつんだミアン(เมี่ยง、en)がちゃ習慣しゅうかんわっている[15]

調味ちょうみりょう[編集へんしゅう]

ビルマ料理りょうりでは料理りょうり塩味しおあじけるためにさかなひしおငါးငံပြာရည်)と塩辛しおからငပိ)が使つかわれるが、その種類しゅるいは3つに大別たいべつされる。塩辛しおからのペーストであるンガピငပိ)、さかな原型げんけいのまま加工かこうしたンガピガウン、さかなひしおのンガピーイェーである。ンガピを加工かこうしたンガピジョーという、ふりかけたそぼろじょう副食ふくしょくつくられる[16][6]。このさかなひしおビルマぞく伝統でんとうしょく文化ぶんかではなく、かれらがモンぞくピューぞくなど9世紀せいき以前いぜんうえビルマ居住きょじゅうしていた先住民せんじゅうみんぞくかられたしょく文化ぶんかだとかんがえられている[17]。また、かつてはさかなひしお素材そざい淡水魚たんすいぎょおもであったが、19世紀せいき以降いこうビルマぞくによるしもビルマ開発かいはつすすむにつれて海水かいすいぎょによるさかなひしおつくられるようになり、1956ねんより本格ほんかくてき海水かいすいぎょさかなひしお生産せいさん国営こくえい工場こうじょうによって開始かいしされた[18]

ニンニク、タマネギをいためるさい使用しようされたあぶら「スィー・ジェッ」は、ひろ用途ようとのある調味ちょうみりょうとして有名ゆうめいである[3]甘味あまみりょうとしてサトウキビ砂糖さとうパームヤシからつくられるパームシュガーထန်းလျက်)、そして酸味さんみタマリンドမန်ကျည်း)や柑橘類かんきつるいけるが、このてん東南とうなんアジア諸国しょこく共通きょうつうする。

民族みんぞくせい[編集へんしゅう]

民族みんぞく国家こっかであるミャンマーには、民族みんぞくならではの料理りょうりおお存在そんざいする。

うえビルマのマンダレーでははばひろめんにスープをかけた「マンダレー・モンティー」、めんからめのたれをからめてべる「マンダレー・ミーシャイ」が名物めいぶつとなっている[19]東部とうぶにあるシャンしゅう山間さんかん盆地ぼんちおおむタイけいシャンぞくあいだでは、納豆なっとう大豆だいず発酵はっこう食品しょくひんや、ミャンマーで「ガチン」(ငါးချဉ်)などとばれるなれずしべられている。また、シャンしゅうでは東南とうなんアジアではめずらしいジャポニカしゅであるシャンまい栽培さいばいされているてんで、インディカまい主流しゅりゅうほか地域ちいきことなる[20]。シャンぞくしょく文化ぶんかはミャンマーないひろ浸透しんとうしており、ミャンマーにはシャンしゅう出身しゅっしんしゃ経営けいえいする料理りょうりてんおお存在そんざいする[3]山岳さんがく民族みんぞくはトウモロコシ、雑穀ざっこく陸稲おかぼ主食しゅしょくとし、さかなることが困難こんなんである立地りっち上魚かみうおひしお料理りょうりもちいることはすくない[20]かれらは動物どうぶつにくなれずしなます料理りょうりべ、しおトウガラシ山菜さんさいるい調味ちょうみりょうやスパイスとして使用しようしている[20]。シャンしゅう北部ほくぶ山岳さんがく地帯ちたい居住きょじゅうするパラウンぞく料理りょうりはビルマぞくとは反対はんたいあぶらをほとんど使つかわず、調理ちょうりほう料理りょうりにはシャンぞく影響えいきょうられる[3]

他方たほうモンぞくなどのビルマの先住民せんじゅうみんぞくしょく文化ぶんかについては、ビルマぞくとのあいだにそれほどのちがいは[20]

代表だいひょうてき料理りょうり[編集へんしゅう]

ラペットウッ(おちゃのサラダ)
ワサビノキのチンイエー
モヒンガー
シャン・カウスェー
サムサ(サモサ

ヒン(煮込にこみ)[編集へんしゅう]

  • アメーダーヒン(အမဲသားဟင်း)- 牛肉ぎゅうにくのヒン。
  • ウェッターヒン(ဝက်သားဟင်း)- 豚肉ぶたにくのヒン。
  • チェッターヒン(ကြက်သားဟင်း)- 鶏肉とりにくのヒン。
  • セイッターヒン(ဆိတ်သားဟင်း)- ひつじにくのヒン。ミャンマーではひつじにく食材しょくざいとして使用しようされる頻度ひんど東南とうなんアジア大陸たいりく他国たこくくらべてたか[14]
  • ンガーヒン(ငါးဟင်း) - さかなのヒン。淡水魚たんすいぎょおもである[21]海水かいすいぎょのヒンとしてマナガツオた「ンガーモッヒン」などが存在そんざいする。

アトウッ(サラダ、もの[編集へんしゅう]

  • タイェッティートウッ(သရက်သီးသုပ်)- じゅくしていないマンゴーのサラダ。
  • ンガーぺートウッ(en)- さかなのすりもの日本にっぽん料理りょうりでいうところのさつまちか[22])のもの
  • チェッターヂョートウッ(ကြက်သားကြော်သုပ်)- げた鶏肉とりにく野菜やさいもの
  • ラペットウッ(လက်ဖက်သုပ်)- 発酵はっこうさせたちゃもの味付あじつけにはニンニク、トウガラシ、ライム、あぶらなどが使つかわれ、ちゃしエビやまめ、キャベツ、トマトなどとえる。

スープ[編集へんしゅう]

ビルマスープは「アイェー」とばれる。タイ料理りょうりとは対照たいしょうてき強烈きょうれつ刺激しげきうったえかけないてん、スープの出汁だし淡水魚たんすいぎょ使つかてん特徴とくちょうがある[23]

  • チンイェー(ချဉ်ရည်)- おおく、タマリンドなどで酸味さんみしたスープ。
  • ヒンジョー(ဟင်းချို)- チンイエーとことなり、スープ自体じたいにしっかりとした味付あじつけがされている[23]
  • ヒンガー(ဟင်းခါး)- 胡椒こしょうかせたスープ。

漬物つけもの[編集へんしゅう]

  • チンバッ(ချဉ်ဖတ်)- 重湯おもゆべいのとぎじるしおくわえたものを数日すうじつ放置ほうちし、酸味さんみくわわったえき青菜あおな、モヤシなどの野菜やさいんでつく漬物つけもの[6]

麺類めんるい[編集へんしゅう]

  • モヒンガーမုန့်ဟင်းခါး)- ナマズけいのスープをかけた、しのべいめんライスヌードル)。
  • オンノ・カウスェーအုန်းနို့ခေါက်ဆွဲ)- 小麦こむぎめんいため、さかなひしお味付あじつけしたココナッツミルクのスープをかけた料理りょうりタイ王国おうこく北部ほくぶラオス一部いちぶに「カオソーイ」という類似るいじした料理りょうり存在そんざいする[24]
  • シャン・カウスェー(ရှမ်းခေါက်ဆွဲ)- シャンぞくふうめん料理りょうりざいにはトマトと鶏肉とりにく使つかわれる[3]
  • シュエタウン・カウスェー(ရွှေတောင်ခေါက်ဆွဲ)- 小麦こむぎめんもの
  • カッチーカイ(ကတ်ကြေးကိုက်) - 辛味からみのあるきそば料理りょうり

べい料理りょうり[編集へんしゅう]

パンるい[編集へんしゅう]

菓子かし[編集へんしゅう]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ もりえだ『ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー』、p238
  2. ^ もりえだ『ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー』、pp236-238
  3. ^ a b c d e f g h i 田村たむら松田まつだ『ミャンマーをるための60しょう』、pp216-220
  4. ^ もりえだ『ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー』、p222
  5. ^ a b c もりえだ『ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー』、p225
  6. ^ a b c d もりえだ『ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー』、p230
  7. ^ a b もりえだ『ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー』、p223
  8. ^ 落合おちあいからくない煮込にこ料理りょうり ビルマのヒン」『アジア・カレー大全たいぜん』、p74
  9. ^ a b 落合おちあいからくない煮込にこ料理りょうり ビルマのヒン」『アジア・カレー大全たいぜん』、p76
  10. ^ 落合おちあいからくない煮込にこ料理りょうり ビルマのヒン」『アジア・カレー大全たいぜん』、p75
  11. ^ もりえだ『ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー』、pp220-222
  12. ^ もりえだ『ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー』、p236
  13. ^ a b もりえだ『ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー』、p237
  14. ^ a b c d もりえだ『ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー』、p239
  15. ^ Thompson Thai Food、p83
  16. ^ もりえだ『ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー』、p31
  17. ^ もりえだ『ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー』、pp232-235, p265
  18. ^ もりえだ『ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー』、pp234-235
  19. ^ 地球ちきゅうあるかた ミャンマー(ビルマ)(2011‐2012年版ねんばん)』、p15, p227
  20. ^ a b c d もりえだ『ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー』、p218
  21. ^ 地球ちきゅうあるかた ミャンマー(ビルマ)(2011‐2012年版ねんばん)』、p15
  22. ^ もりえだ『ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー』、p229
  23. ^ a b もりえだ『ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー』、p228
  24. ^ もりえだ『ベトナム・カンボジア・ラオス・ミャンマー』、p224

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]