ポピュラー和声わせい

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
コード進行しんこうから転送てんそう

ポピュラー和声わせい(ポピュラーわせい)ではジャズポップスにおける和声わせいについて記述きじゅつする。和声わせいえい: harmony, ハーモニー)は、メロディリズムとともに、音楽おんがくにおける要素ようそひとつを[1]時間じかんながれのなかコードとコードを連結れんけつするときにこる動的どうてきひびきの変化へんかを、広義こうぎにいうものである[2]

機能きのう和声わせい[編集へんしゅう]

世界せかいだい百科ひゃっか事典じてんによると、「今日きょう和声わせいといった場合ばあい音楽おんがくにおいて和音わおん水平すいへいてき時間じかんてき連結れんけつされたとき、その音響おんきょう現象げんしょう意味いみする」[3]とあるが、大半たいはんのジャズやポップスにおける和声わせいは、17世紀せいき後期こうきから20世紀せいき初頭しょとうまでの西洋せいよう音楽おんがくにおいて作曲さっきょく技法ぎほう基礎きそとなった狭義きょうぎ和声わせい、すなわち機能きのう和声わせい[4][5]や、そのかくとなる調しらべせい[6]もとづいている。

調しらべせい[編集へんしゅう]

まず、機能きのう和声わせいにおいて調しらべせい "Tonality" がどのように確定かくていするのかをしめす。これは和音わおん機能きのう後述こうじゅつ)を説明せつめいする基本きほんてき概念がいねんとなるからである。

長調ちょうちょうのダイアトニック・コード(後述こうじゅつ)のなかで、もっとひびきが不安定ふあんてい和音わおんは V7 であり、もっとひびきが安定あんていしている和音わおんは I△7 である(説明せつめい簡略かんりゃくのため I6ふくめない)。ハ長調ちょうちょう説明せつめいするとそれぞれ G7 と C△7 である。つぎのようなコード進行しんこうかんがえる。

C Major Key G7 C△7
解決かいけつのようす ファ


おと記号きごう V7 I△7

この、不安定ふあんてい和音わおんから安定あんていした和音わおんへの進行しんこうは、緊張きんちょう弛緩しかんかんじせさ、ききて安心あんしんかんあたえる。これは、G7 のシとファはトライトーンといい、緊張きんちょうかん不安定ふあんていさをかんじさせる音程おんていである。それが C△7安定あんていした音程おんていであるドとミ(ちょう3)に進行しんこうすることによるものである。これを解決かいけつする "Resolve" という。

短調たんちょう場合ばあい同様どうようで、

C Minor Key G7 Cm7 ひとし
解決かいけつのようす ファ

♭ミ
おと記号きごう V7 I-7 ひとし

G7 のシとファが Cm7 ひとしのドと♭ミ(たん3)に解決かいけつすることにより、緊張きんちょう弛緩しかんかんじせさ、ききて安心あんしんかんあたえる。

トライトーンの、ちょう3またはたん3への解決かいけつが、調しらべせい確定かくていする重要じゅうようかぎとなる。

また、G7のソがC△7のドに進行しんこうすること(つよ進行しんこう)も、弛緩しかんかんじさせる。これは、ソの倍音ばいおんふくまれるトライトーン(だい5倍音ばいおんだい7ばいおんによって形成けいせいされる)が解決かいけつすることによるものである。

まとめると、ドミナント・セブンス・コード V7 が I の和音わおん(I、I△6、I△7、Im、Im6、Im7、Im△7)に進行しんこうすると調しらべせい確定かくていする[ちゅう 1]

和音わおん機能きのう[編集へんしゅう]

前述ぜんじゅつの、ドミナント・セブンス・コード V7 のように、I の和音わおん(I△7やIm7など)に解決かいけつすると調しらべせい確定かくていするはたらきをドミナント dominant という。ドミナントは「支配しはいする」という意味いみである。また、I△7 や I-7 のように、もっと安定あんていかんのある和音わおんはたらきをトニック tonic という。

つぎのようなコード進行しんこうかんがえる。

C Major Key C△7 F△7 G7 C△7
おと記号きごう I△7 IV△7 V7 I△7

この進行しんこういたとき、I△7→IV△7ゆるやかな高揚こうようかんじ、IV△7→V7緊張きんちょうかんじ、V7→I△7安心あんしんかんじる。このことから IV△7てき支配しはいしているとかんがえることができる。このはたらきをサブドミナント subdominant という。

長調ちょうちょうにおいて、IV の和音わおんがマイナー・コードになることがある(IVm7 ひとし)。これをサブドミナント・マイナー subdominant minor であるという。サブドミナント・マイナーの和音わおんには、かなら音階おんかいじょうの ♭vi (ハ短調たんちょうでは ♭ラ)のおとふくまれる。

まとめると、和音わおん機能きのう以下いかの4つにけられる。

和音わおん[編集へんしゅう]

クラシックの理論りろんでは三和音さんわおん triad単位たんいであったが、ポピュラー音楽おんがく理論りろんではよん和音わおん tetrad単位たんいとなる(ほとんど三和音さんわおんばかりのポピュラー音楽おんがく存在そんざいするが、ここで説明せつめいする和音わおんだい7おとまたはだい6おと省略しょうりゃくされたものととらえることができる。つまり理論りろんてきにはまったくおなじである)。

ポピュラー音楽おんがく理論りろんしゅとしてあつかよん和音わおんにはつぎ種類しゅるいがある。

  • セブンス・コード seventh chord
  • シックスス・コード sixth chord

和音わおん構成こうせいおん和声わせいおん)は、セブンス・コードではRoot、3rd、5th、7thであり、シックスス・コードではRoot、3rd、5th、6thである。

ダイアトニック・コード[編集へんしゅう]

ダイアトニック・コード diatonic chord とは、長音階ちょうおんかいまたは短音階たんおんかい構成こうせいおんからなるコードである。

おな機能きのうつコードはたがいに交換こうかん可能かのうであり(代理だいり和音わおん substitute chord またはサブコード sub chord であるという)、代理だいり和音わおんはT'のように「'」をつけて表記ひょうきする。

以下いかに、ダイアトニック・コードとその機能きのうしめす。

長調ちょうちょうのダイアトニック・コード
コード I△7
I6
IIm7
IIm6
IIIm7 IV△7
IV6
V7 VIm7 VIIm7(♭5)
機能きのう T S' T'(D') S D T' D'(?)
短調たんちょうのダイアトニック・コード
1. 自然しぜん短音階たんおんかい natural minor scale うえのダイアトニック・コード
コード Im7 IIm7(♭5) III△7
III6
IVm7
IVm6
Vm7 VI△7
VI6
VII7
機能きのう T SM' T' SM D SM'(T') SM'(D')
2. 和声わせいてき短音階たんおんかい harmonic minor scale うえのダイアトニック・コード
コード Im△7 IIm7(♭5) III△7+5 IVm7
IVm6
V7 VI△7
VI6
VIIdim7
機能きのう T SM' × SM D SM'(T') D'
3. 旋律せんりつてき短音階たんおんかい melodic minor scale うえのダイアトニック・コード
コード Im△7
Im6
IIm7
IIm6
III△7+5 IV7 V7 VIm7(♭5) VIIm7(♭5)
機能きのう T S' × S(?) D T'(?) D'

一般いっぱんてき機能きのう
T: トニック tonic
S: サブドミナント subdominant
SM: サブドミナント・マイナー subdominant minor
D: ドミナント dominant
×: ひびきが奇異きいなためオーソドックスなスタイルでは使用しようされない。

ノン・ダイアトニックな代理だいり和音わおん[編集へんしゅう]

ノン・ダイアトニック・コード non diatonic chord とはダイアトニック・コード以外いがいのコードであり、そのなかにはダイアトニック・コードとおな機能きのうつものがある。これをノン・ダイアトニックな代理だいり和音わおんという。

おな機能きのうつコード同士どうしは、ダイアトニック・コードであるかノン・ダイアトニック・コードであるかにかかわらず、たがいに交換こうかん可能かのう代理だいり和音わおんである。

以下いかにノン・ダイアトニックな代理だいり和音わおんしめす。

長調ちょうちょうにおけるノン・ダイアトニックな代理だいり和音わおん
コード 機能きのう 備考びこう
I7 T I△7だい7おとブルー・ノートてんじたもの。
#IVm7(♭5) T I△7またはI6Lydianスケール適用てきようしてフレーズをつくることがある。このときのLydianスケールのだい4おと#iv)をルートにした和音わおん
II7 D V7おなトライトーンつ、げん5じょう調しらべからの借用しゃくよう和音わおん。V7トライトーン・サブスティテューションうらコード)。
IV7 S IV△7だい7おとがブルー・ノートにてんじたもの。ドイツのろくどう構成こうせいおんをもつ。
VII7 S IV7おなじトライトーンを和音わおん。IV7 のトライトーン・サブスティテューション(うらコード)。
#IVm7(♭5) S IV△7のルートが半音はんおんげられた和音わおん
II△7 SM 短調たんちょうのIIm7(♭5)のルートが半音はんおんがったかたちナポリのろくIIだいいち転回てんかいがた)のiiをルートとして表記ひょうきし、だい7おと付加ふかした和音わおん
VI7 SM どう主調しゅちょう短調たんちょうのダイアトニック・コードであるVI△7だい7おとがブルー・ノートにてんじた和音わおん
VII7 SM どう主調しゅちょう短調たんちょうのダイアトニック・コードからの借用しゃくよう和音わおん

※ トニックの#IVm7(♭5)とサブドミナントの#IVm7(♭5)とは前後ぜんごながれで判断はんだんできる。

短調たんちょうにおけるノン・ダイアトニックな代理だいり和音わおん
コード 機能きのう 備考びこう
II7 D V7おなトライトーンつ、げん5じょう調しらべからの借用しゃくよう和音わおん。V7トライトーン・サブスティテューションうらコード)。
VII7 S IV7おなじトライトーンを和音わおん。IV7 のトライトーン・サブスティテューション(うらコード)。
II△7 SM IIm7(♭5)のルートが半音はんおんがったかたちナポリのろくIIだい1転回てんかいがた)のiiをルートとして表記ひょうきし、だい7おと付加ふかした和音わおん
VI7 SM VI△7だい7おとがブルー・ノートにてんじた和音わおん

カデンツ(終止しゅうしがた)の法則ほうそく[編集へんしゅう]

トニック、ドミナント、サブドミナント、サブドミナント・マイナーのかく和音わおんは、つぎ原理げんりもとづいて進行しんこうする。これをカデンツの法則ほうそくという。

  1. T は D、S、SM に進行しんこうしうる。
  2. D はかならず T に進行しんこうする。
  3. S は T、D、SM に進行しんこうしうる。
  4. SM は T、D に進行しんこうしうる。

おな機能きのうのコードへの進行しんこう基本きほんてきにはつね可能かのう

※カデンツは調しらべ一定いってい場合ばあいでのみつ。

以上いじょうをまとめるとつぎのようになる。

  • T - D - T
  • T - S - T
    変形へんけいとして
    • T - SM - T
    • T - S - SM - T
  • T - S - D - T
    変形へんけいとして
    • T - SM - D - T
    • T - S - SM - D - T

ボイシングおよびボイス・リーディング[編集へんしゅう]

クラシック音楽おんがくにおけるボイシング voicingこえ配分はいぶん)およびボイス・リーディング voice leadingこえみちびかた)は、かく旋律せんりつ独立どくりつせい重視じゅうししたこえ書法しょほう part writingおもであるが、ポピュラー音楽おんがくでは、あるこえ和声わせいてきあつみをたせるためにそのこえ従属じゅうぞくしたこえ配置はいちするというセクションの書法しょほうセクショナル・ハーモニーえい sectional writing)も頻繁ひんぱんもちいられる。

セクションの書法しょほうではクラシックの古典こてんてき和声わせいにおける禁則きんそくがしばしば出現しゅつげんするが、これはほとんどの場合ばあい問題もんだいではない。クラシックの古典こてんてき和声わせい対位法たいいほうこえ書法しょほう)の影響えいきょう色濃いろこけているため、クラシックの古典こてんてき和声わせいにおける禁則きんそく対位法たいいほうてき理由りゆうから禁止きんしされているからである。対位法たいいほうでは、すべてのこえ音楽おんがくてき対等たいとう旋律せんりつかなでるので、こえ独立どくりつせい阻害そがいするボイシングはけられるのである。対位法たいいほうやクラシックの古典こてんてき和声わせいでは、すべてのこえ音楽おんがくてき対等たいとうであり、どのこえおもでどのこえしたがえというかなかたはしないのである。

一方いっぽう、セクションの書法しょほうでは、あきらかにおもである旋律せんりつがあり、その旋律せんりつ和声わせいてきあつみをけるためにこえ従属じゅうぞくさせて配置はいちする。ここでは、従属じゅうぞくするこえ旋律せんりつてき独立どくりつせいたせることはひかえられ、ただおもとなる旋律せんりつ和声わせい提供ていきょうする役割やくわりつ。このため、クラシックの古典こてんてき和声わせいにおける禁則きんそくは、セクションの書法しょほうではほとんど意味いみたなくなる。しかしながら、はやいパッセージで平行へいこうけるなど、クラシックにおける禁則きんそく一部いちぶはセクションの書法しょほうでもいアドバイスとなっている。

クラシック音楽おんがくでセクションの書法しょほうがまったくもちいられないわけではないが、おもではない。

ハーモニック・バックグラウンド[編集へんしゅう]

おもとなるたん旋律せんりつや、セクショナル・ハーモニーで旋律せんりつかなでられているとき、和声わせいてき伴奏ばんそうけることがある。これをハーモニック・バックグラウンドという。ハーモニック・バックグラウンドで安定あんていかんのあるひびきをたいときには、クラシックの古典こてんてき和声わせいじゅんじたボイシングがよくおこなわれる。

モーダル・ハーモニー[編集へんしゅう]

モーダル・ハーモニー modal harmony とは、モード(教会きょうかい旋法せんぽう)を調しらべとしてとらえて、和声わせい構成こうせいする技法ぎほう。これは古楽こがく復興ふっこうこった20世紀せいき前半ぜんはんからそうめられた。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ マイナー・セブンス・コードは、短調たんちょうの I-7 としても使用しようされるが、長調ちょうちょうの II-7、III-7、VI-7 としても、短調たんちょうの II-7、VI-7 としても、さまざまに使つかわれるためコードの機能きのう不明ふめいかくとなり、V-7 → I-7 というコード進行しんこう調しらべせい確定かくていしないという意見いけんもある。
  2. ^ サブドミナント・マイナーにたいしてサブドミナント・メイジャーとする理論りろんしょもある。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 小山こやまだいせん『JAZZ THEORY WORKSHOP - JAZZ 理論りろん講座こうざ 初級しょきゅうへん』(初版しょはん武蔵野むさしの音楽おんがく学院がくいん出版しゅっぱん東京とうきょう調布ちょうふ、1980ねん4がつISBN 978-4-9901941-1-6 
  • 小山こやまだいせん『JAZZ THEORY WORKSHOP - JAZZ 理論りろん講座こうざ ちゅう上級じょうきゅうへん』(初版しょはん武蔵野むさしの音楽おんがく学院がくいん出版しゅっぱん東京とうきょう調布ちょうふ、1980ねん4がつISBN 978-4-9901941-2-3 
  • Gordon Delamont『モダン・アレンジ・テクニック 編曲へんきょく作曲さっきょくほうはやしみやびことわざだい1はん だい2さつ)、エー・ティー・エヌ、東京とうきょうみなと、1988ねん1がつ30にち原著げんちょ1965ねん)。ISBN 4-7549-1324-8 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]