ナダレ定石じょうせき

ナダレ定石じょうせき（なだれじょうせき）は囲碁いごの定石じょうせきに付つけられた俗称ぞくしょうの一ひとつで、小目こもくへの一間いっけん高だかガカリに下しもツケする形かたちから発生はっせいする定石じょうせきを指さす。最初さいしょから接触せっしょく戦せんとなり、また変化へんか型がたが多おおい難解なんかい定石じょうせきの代表だいひょうの一ひとつ。石いしが接触せっしょくしながら戦たたかいになっていく様さまを「ナダレ」と形容けいようされた。命名めいめい者しゃは三さん堀ほり将すすむ。

定石じょうせきとして研究けんきゅうされたのは昭和しょうわになってからと新あたらしく、現代げんだいでも多おおくの変化へんかが生うまれ続つづけている。また大型おおがた定石じょうせきとなる形かたちも多おおく、周囲しゅういに石いしがある場合ばあいにはツブレ（勝負しょうぶが終おわりになるほどの酷ひどい結果けっか）となる可能かのう性せいもあるため、周辺しゅうへんの配はい石せきに注意ちゅういして着手ちゃくしゅを選えらぶ必要ひつようがある点てんでも難むずかしい手法しゅほうと言いえる。

基本きほん型がたと歴史れきし

基本形きほんけいは、小目こもくに対たいする一いち間あいだ高だかガカリに黒くろ1と下したツケした場合ばあいに、白しろ2 - 白しろ4とする形かたち。プロ棋士きしはかつてはこの形かたちを白しろの悪形あくがたと考かんがえて打うたなかったが、アマチュアの間あいだではかなり打うたれていたと思おもわれる。

昭和しょうわになって、雑誌ざっし『棋道』の投稿とうこう欄らんでアマチュアからこの形かたちについて質問しつもんを受うけた長谷川はせがわ章あきら名誉めいよ八はち段だんが、調しらべてみると意外いがいに難むずかしいことに気付きづき、研究けんきゅうして、対たい木谷きたに実みのる戦せんで実戦じっせんで用もちいて定石じょうせき化かされた。なお、長谷川はせがわ以前いぜんに、方円ほうえん社しゃの巌いわお崎さき健造けんぞうが実戦じっせんでは用もちいなかったが、研究けんきゅうしていたともいわれる。

黒くろからは簡明かんめいに分わかれる形かたちも選択せんたくできるが、戦たたかいになる形かたちには小しょうナダレ定石じょうせき、大だいナダレ定石じょうせきがある。

この形かたちからの黒くろの応手おうしゅはa - eがあり、黒くろcなら小しょうナダレ定石じょうせき、黒くろdならば大だいナダレ定石じょうせきに進行しんこうする可能かのう性せいがある。

ナダレの命名めいめい者しゃは、呉清源ごせいげんとも、囲碁いごライターの三さん堀ほり将すすむとも言いわれている。

代表だいひょう的てきな図ず

簡明かんめいな形かたち

黒くろ1 (a) とツゲば、白しろ2とノビるくらいで、黒くろ3, 白しろ4などとなれば、簡明かんめいな分わかれとなる。白しろは黒くろ3まででの手抜てぬきもある。

黒くろ1 (b) の二に段だんバネはある形かたちで、白しろ2 - 白しろ6までと黒くろ1を捨すて石いしにして穏おだやかな分わかれを得える。

小しょうナダレ

黒くろ1 (c) と打ぶてば、白しろ2 - 黒くろ5となり、小しょうナダレ定石じょうせきと言いわれる形かたちとなる。この後のち、シチョウ関係かんけいや周囲しゅういの状況じょうきょうに応おうじて、険けわしい接触せっしょく戦せんとなる。

前ぜん図ず以下いか、代表だいひょう的てきな定石じょうせき。白しろ9は手てを抜ぬき、逃にげ出だしを許ゆるして打うつこともある。

人工じんこう知能ちのうの登場とうじょう以降いこう、小しょうナダレに対たいしては黒くろ1とサガり、あっさりと地ちを確保かくほする例れいが増ふえた。黒くろ3では、aとハッて上辺うわべを地ち化かすることもある。

大だいナダレ

黒くろ1 (d) と一本いっぽんノビ、白しろ2を待まって黒くろ3とハネれば、以下いか白しろ4 - 白しろ6となり、大だいナダレ定石じょうせきと言いわれる形かたちとなる。この後のち、黒くろaの内うちマガリ形かたち、黒くろbの外そとマガリ形かたちの2種類しゅるいの選択肢せんたくしがあるが、どちらも難解なんかいな長手ながて順じゅんの定石じょうせきとなる。初期しょきは外そとマガリが打うたれていたが、呉清源ごせいげんにより内うちマガリが打うちだされた。また黒くろ1の時点じてんで白しろが手てを抜ぬくこともある。

上うえ図ず白しろ2に、下図したず黒くろ1と辛抱しんぼうすれば、これ以上いじょう白しろから隅すみへの追求ついきゅうは無ない。白しろはここまでの形かたちを利きかしと見みて満足まんぞくしてこれ以上いじょうは打うたないか、白しろ2 - 白しろ4と打うつ手てなどが考かんがえられる。

大だいナダレ形がたには現在げんざいも続々ぞくぞくと新手あらて・新しん定石じょうせきが生うまれており、最新さいしん研究けんきゅうを知しらないとプロでもハマることが珍めずらしくない。2005年ねんに韓国かんこくでは、下図したずの黒くろ1という、驚おどろくような手ても研究けんきゅうされて打うたれている。

難解なんかいな変化へんかを避さけて白しろ1, 黒くろ2とし、白しろ3またはここで手てを抜ぬいてaなど辺あたりへ展開てんかいする手ても古ふるくからあり、2006年ねんごろからまた多おおく打うたれるようになっている。

大だいナダレへの異い手順てじゅん

黒くろの下しもツケに対たいして白しろ1とヒク手しゅも時々ときどき見みられる。これに黒くろ2とさらに這はえば、白しろ3 - 白しろ5と大だいナダレに進すすむ。

小目こもくに対たいして白しろが二に間あいだ高だかガカリし、黒くろ1とカドに打うった時ときに白しろ2, 黒くろ3と運はこべば、以下いか白しろ4 - 白しろ6と、これも大だいナダレに進すすむ。

実戦じっせん譜ふ

初期しょき外がいマガリ定石じょうせき

第だい4期き本因坊ほんいんぼう戦せん挑戦ちょうせん手合てあい五ご番ばん勝負しょうぶ第だい3局きょく 1947年ねん11月25-27日にち 本因坊ほんいんぼう薫かおる和かず-木谷きたに實みのる（先番せんばん）

当時とうじは大だいナダレに白しろ1（16手て目め）の外そとマガリ形がたしか無なかった。黒くろ18ではその左下ひだりしたに打うつのが当時とうじの定型ていけいだったが、先番せんばん木谷きたには黒くろ18, 20と激はげしい戦たたかいを挑いどんだ。しばらく後のちには白しろ7で16にハネ上あげる安永やすなが一はじめ創案そうあんと言いわれる手てが多おおく打うたれる。碁ごは右みぎ上じょうの戦たたかいで黒くろ有利ゆうりに進すすむが、中盤ちゅうばんから白しろが追おい上あげて、209手て完かん、白しろ2目もく半はん勝がち。途中とちゅう木谷きたにが貧血ひんけつで倒たおれるというアクシデントもあった。岩本いわもとは最終さいしゅう第だい5局きょくも勝かって本因坊ほんいんぼう2連覇れんぱ。

新手あらて内ないマガリ

第だい1期き日本にっぽん最強さいきょう決定けってい戦せん 1957年ねん2月がつ21-22日にち 本因坊ほんいんぼう秀しゅう格かく-呉清源ごせいげん（先番せんばん）

左上ひだりうえの大だいナダレでの黒くろ1（37手て目め）が初はじめて打うたれた内うちマガリ形がたで、それまではこの手てで3に打うつ外そとマガリが定石じょうせきだった。その後ご、白しろ2では白しろ4, 黒くろ5を先さきに打うつのが手順てじゅん、白しろ10は保留ほりゅうするなど改良かいりょうされて定石じょうせき型がたとなっている。本局ほんきょくの配はい石せきでは黒くろ有利ゆうりだが、先番せんばんの呉ごが難むずかしい局面きょくめんを逃にげ切きって151手てまで中押なかおし勝がち。呉ごはリーグ戦せん8勝しょう2敗はいで第だい1期き最強さいきょう位いに就ついた。

世界せかい戦せんでハメる

第だい10期き世界せかい囲碁いご選手権せんしゅけん富士通ふじつう杯はい2回戦かいせん 1997年ねん4月がつ14日にち 王立誠おうりつせい-劉りゅう小しょう光ひかり（先番せんばん）

黒くろ1（23手て目め）はこの頃ころ研究けんきゅうされていた外そとマガリ形がたの新形しんがた。黒くろ15が緩なる手しゅで、白しろ16とカケられて黒くろ3子しが動うごけないのではハマリ形がた。282手て完かん、白しろ17目もく半はん勝がち。ナダレ定石じょうせきの指折ゆびおりの研究けんきゅう家かでもあった王おうはこの大会たいかいで準じゅん優勝ゆうしょう。

参考さんこう文献ぶんけん

• 結城ゆうき聡さとし『決定けってい版ばん 大だい斜はす・村むら正ただし・大だいナダレ 』誠実せいじつ文ぶん堂どう新光しんこう社しゃ　2009年ねん