三栖みす廃寺はいじ跡あと

石碑せきひ付近ふきん（左ひだりに塔とう跡あと）

三栖みす廃寺はいじ跡あと

三栖みす廃寺はいじ跡あとの位置いち

三栖みす廃寺はいじ跡あと（みすはいじあと）は、和歌山わかやま県けん田辺たなべ市し下三栖しもみすにある古代こだい寺院じいん跡あと。塔とう跡あとは国くにの史跡しせきに指定していされている。

概要がいよう

和歌山わかやま県けん南部なんぶ、左会津川ひだりあいづがわ右岸うがんの衣笠きぬがさ山南さんなん麓ふもとに位置いちする、近畿きんき地方ちほうでは最さい南みなみの白鳳はくほう寺院じいん跡あとである。これまでに1930年ねん（昭和しょうわ5年ねん）から発掘はっくつ調査ちょうさが実施じっしされている。

伽藍がらんは法隆寺ほうりゅうじ式しき伽藍がらん配置はいちで、金堂こんどう（未み確認かくにん）を東ひがし、塔とうを西にしに配はいし、推定すいてい僧坊そうぼうが寺てら域いき北きた寄よりに認みとめられる。創建そうけん時期じきは白鳳はくほう期きの7世紀せいき後半こうはん頃ころと推定すいていされる。紀伊きい国こく牟婁むろ郡ぐんの豪族ごうぞくの氏し寺てらと想定そうていされるとともに、牟婁むろ郡ぐんの郡ぐん寺てらとする説せつもある。三栖みす廃寺はいじの位置いちする田辺たなべ市域しいきは、石室いしむろ古墳こふんの盛さかんな畿内きない・紀伊きいの文化ぶんかと古墳こふんの希薄きはくな熊野くまのの文化ぶんかとの境界きょうかいになるが、そうした地域ちいきに接触せっしょく領域りょういきの墓はか制せいとして磯いそ間あいだ岩がん陰かげ遺跡いせき・立戸たちど岩がん陰かげ遺跡いせきが営いとなまれており、それらの後代こうだいには三栖みす廃寺はいじが営いとなまれたことで律令制りつりょうせいの進展しんてんを考察こうさつするうえで示唆しさ的てきな遺跡いせきになる。

寺てら域いきのうち塔とう跡あとは1935年ねん（昭和しょうわ10年ねん）に国くにの史跡しせきに指定していされた。現在げんざいでは塔とう跡あと・推定すいてい僧坊そうぼう跡あとが史跡しせき整備せいびのうえで公開こうかいされている。

名称めいしょう

寺院じいんの当時とうじの名称めいしょうについては「三栖みす寺てら」または「牟婁むろ寺てら」だったのではないかとの説せつがあるが、確かくたる史料しりょうがないため現在げんざいは「三栖みす廃寺はいじ」と呼よばれている。

来歴らいれき

• 治ち承うけたまわ2年ねん（1178年ねん）閏うるう6月がつ26日にちの「造みやつこ日前ひくま国こく懸かか宮みや役やく請文案あん」に「生馬いくま堅田かただ庄三しょうぞう柄え寺領じりょう」の記載きさい（一説いっせつに「三さん柄え寺てら」は当とう寺てらか）。
• 1930-1931年ねん（昭和しょうわ5-6年ねん）、調査ちょうさ。
• 1935年ねん（昭和しょうわ10年ねん）12月24日にち、塔とう跡あとが国くにの史跡しせきに指定してい。
• 1969年ねん（昭和しょうわ44年ねん）、寺てら域いき測量そくりょう調査ちょうさ。
• 1974-1975年ねん（昭和しょうわ49-50年ねん）、保存ほぞん管理かんり計画けいかく策定さくてい事業じぎょう調査ちょうさ。
• 1978-1982年ねん（昭和しょうわ53-57年ねん）、発掘はっくつ調査ちょうさ（帝塚山大学てづかやまだいがく・田辺たなべ市し教育きょういく委員いいん会かい）。
• 1985年ねん（昭和しょうわ60年ねん）3月がつ25日にち、史跡しせき範囲はんいの追加ついか指定してい。

遺構いこう

塔とう跡あと（復元ふくげん）

推定すいてい僧坊そうぼう跡あと

寺てら域いきは方かた1町まち（約やく100メートル四方しほう）。金堂こんどうを東ひがし、塔とうを西にしに配はいする法隆寺ほうりゅうじ式しき伽藍がらん配置はいちである。遺構いこうの詳細しょうさいは次つぎの通とおり。

塔とう

釈迦しゃかの遺骨いこつ（舎利しゃり）を納おさめた塔とう。主要しゅよう伽藍がらんの西にし寄よりに位置いちし、心こころ礎いしずえの規模きぼからは三重みえ塔とうと推定すいていされる。基壇きだんは瓦かわら積せき基壇きだんで、一辺いっぺん約やく9メートルを測はかり、南みなみ辺べ中央ちゅうおうには石積いしつみ階段かいだんを付ふす。中央ちゅうおうの心しん礎いしずえは砂岩さがん系けいの自然しぜん石せきで、一辺いっぺん約やく1.90メートルの三角形さんかっけいをなし、中央ちゅうおうには柱はしら座ざ（直径ちょっけい65センチメートル・深ふかさ約やく7センチメートル）が彫ほり込こまれ、その中央ちゅうおうに舎利しゃり孔あな（直径ちょっけい約やく14センチメートル・深ふかさ約やく9センチメートル）が穿うがたれる。心こころ礎いしずえ以外いがいの礎石そせきは認みとめられていない。。

推定すいてい僧坊そうぼう（僧房そうぼう）

僧そうの宿舎しゅくしゃと推定すいていされる建物たてもの。主要しゅよう伽藍がらんの北きた寄より、中心ちゅうしん線せんからやや東ひがし寄よりに位置いちする（地形ちけいの制約せいやくからか）。基壇きだん上じょう建物たてものは東西とうざい4間あいだ・南北なんぼく2間あいだで、柱はしら間あいだは2.75-3.0メートルと一定いっていしない。

そのほか、金堂こんどう跡あと推定すいてい地区ちくの西にし縁えんにおいて幅はば約やく1.40メートル・深ふかさ約やく0.45メートルの大だい溝みぞが認みとめられている。

寺てら域いきからの出土しゅつど品ひんとしては、白鳳はくほう時代じだい後半こうはん-平安へいあん時代じだいの多量たりょうの瓦かわらのほか、石いし製せい九きゅう輪りんの一部いちぶ、風ふう鐸の風ふう招、石いし製せい天蓋てんがいの一部いちぶなどの仏教ぶっきょう関係かんけいの遺物いぶつがある。

なお、近隣きんりんの後口あとくち谷だにに分布ぶんぷする古墳こふんでは、渡来とらい人じん系けいの特徴とくちょうであるミニチュア炊飯すいはん具ぐセットが副葬ふくそうされていることから、6世紀せいき-7世紀せいき初頭しょとう頃ごろには渡来とらい人じん系けい氏族しぞくが勢力せいりょくを持もったと考かんがえられるが、三栖みす廃寺はいじとの関係かんけい性せいは明あきらかでない。

• 
  塔とう礎石そせき
  心こころ礎いしずえ以外いがいは推定すいてい復元ふくげん。
• 
  塔とう心こころ礎いしずえ
  中央ちゅうおうに舎利しゃり孔あな。

文化財ぶんかざい

国くにの史跡しせき

• 三栖みす廃寺はいじ塔とう跡あと - 1935年ねん（昭和しょうわ10年ねん）12月24日にち指定してい、1985年ねん（昭和しょうわ60年ねん）3月がつ25日にちに史跡しせき範囲はんいの追加ついか指定してい。

近隣きんりんの関連かんれん史跡しせき

高坊たかぼう遺跡いせき

三栖みす廃寺はいじの東ひがし330メートルにあり、三栖みす廃寺はいじ跡あとから出土しゅつどするものに酷似こくじする布目ぬのめ瓦かわら、弥生やよい土器どき、土師器はじき、高台たかだい付づけ坏、平底ひらぞこ壺つぼ、石器せっき（石斧せきふ・石鏃せきぞく）等とうが出土しゅつどしている。

弥生やよい時代じだいに遺跡いせきが作つくられ、その後ご7世紀せいき～9世紀せいきにかけて三栖みす廃寺はいじが作つくられた頃ころの居住きょじゅう地域ちいきであったと考かんがえられている。

後こうロ谷たに古墳こふん

三栖みす廃寺はいじの北東ほくとう230メートルにある古墳こふん時代じだい後期こうきの古墳こふん群ぐん（二に基き）。横穴よこあな式しき石室いしむろ。築造ちくぞう年代ねんだいは6世紀せいき末すえから7世紀せいき初頭しょとう。

ミニチュア炊飯すいはん具ぐセット（かまど・釜がま・鍋なべ）、小型こがた壺つぼ、須恵すえ器き、土師器はじき等ひとしが出土しゅつどしている。特とくに一いち号ごう墳ふん玄室げんしつに副葬ふくそうされているミニチュア炊飯すいはん具ぐは和歌山わかやま県けん下したでも数少かずすくなく、さらに南限なんげん例れいでもあるので発掘はっくつ調査ちょうさの際さいも注目ちゅうもくされていた。ミニチュア炊飯すいはん具ぐセットは渡来とらい人じん系けい氏族しぞくの古墳こふんの特徴とくちょうであり、日本にっぽんにおける初期しょきの仏教ぶっきょうの担にない手ては渡来とらい系けい氏族しぞくであったことから、三栖みす廃寺はいじ創建そうけんにも何なんらかの関かかわりがあると考かんがえられているが、現在げんざいのところ史料しりょうが発見はっけんされていないため詳細しょうさいは不明ふめいである。

二に号ごう墳ふん玄室げんしつからは一いち号ごう墳ふんよりも古ふるい6世紀せいき後半こうはんの須恵すえ器き等ひとしが発見はっけんされていることから、周辺しゅうへんにはさらに古ふるい古墳こふんが存在そんざいした可能かのう性せいも指摘してきされている。

三栖みすの銅鐸どうたく

後こうロ谷たに古墳こふんの裏手うらての畑はたけで1996年ねんに発見はっけんされた弥生やよい時代じだい後期こうきの銅鐸どうたくの19片へんのかけら。大おおきさ100センチ以上いじょうと推定すいていされており、現在げんざいは田辺たなべ市しの歴史れきし民俗みんぞく資料しりょう館かんに保管ほかんされている。

参考さんこう文献ぶんけん

（記事きじ執筆しっぴつに使用しようした文献ぶんけん）

• 史跡しせき説明せつめい板ばん（田辺たなべ市し教育きょういく委員いいん会かい、1994年ねん・2005年ねん設置せっち）
• 「三栖みす廃寺はいじ」『日本にっぽん歴史れきし地名ちめい大系たいけい 31 和歌山わかやま県けんの地名ちめい』平凡社へいぼんしゃ、1983年ねん。ISBN 458249031X。 
• 「三栖みす廃寺はいじ塔とう跡あと」『国くに指定してい史跡しせきガイド』講談社こうだんしゃ。  - リンクは朝日新聞社あさひしんぶんしゃ「コトバンク」。

関連かんれん文献ぶんけん

（記事きじ執筆しっぴつに使用しようしていない関連かんれん文献ぶんけん）

• 『史跡しせき三栖廃寺塔跡保存管理計画策定報告書』和歌山わかやま県けん教育きょういく委員いいん会かい、1976年ねん。 
• 『田辺たなべ市し三栖廃寺遺跡発掘調査概要』田辺たなべ市し教育きょういく委員いいん会かい、1978年ねん。 
• 『田辺たなべ市し三栖廃寺遺跡発掘調査概要II』田辺たなべ市し教育きょういく委員いいん会かい、1979年ねん。 
• 『田辺たなべ市し三栖廃寺遺跡発掘調査概要III』田辺たなべ市し教育きょういく委員いいん会かい、1980年ねん。 
• 『田辺たなべ市し三栖廃寺遺跡発掘調査概要IV』田辺たなべ市し教育きょういく委員いいん会かい、1981年ねん。 
• 『田辺たなべ市し三栖みす廃寺はいじ遺跡いせき発掘はっくつ調査ちょうさ概要がいようV』田辺たなべ市し教育きょういく委員いいん会かい、1982年ねん。 

外部がいぶリンク

• 三栖みす廃寺はいじ塔とう跡あと - 国くに指定してい文化財ぶんかざい等とうデータベース（文化庁ぶんかちょう）