母 の初恋
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1940
発表 経過
[そのうちの
作品 背景
[『
この
あらすじ
[6
しかし
登場 人物
[佐山 - 41、2
歳 。映画 のシナリオ作家 。元来 は戯曲 の作家 で、舞台 の台本 書 きへの転身 を考 えている。妻 と子供 が2人 (女 の子 と男 の子 )いる。真面目 な性格 。田舎 出身 。嫁 いだ姉 が2人 いる。昔 の恋人 の娘 ・雪子 を3年 前 に引 き取 った。 時枝 - 30
歳 くらい。佐山 の妻 。佐山 より11歳 若 いが、家庭 の中 にでんと尻 を据 えて落 ち着 いている。人 がよく人情 脆 い。一切 の望 みを子供 達 の上 に置 いて、自分 の若 さを大方 忘 れている。 雪子 - 19
歳 。色白 。死 んだ母親 よりも美人 。はにかみがちな内気 な娘 。14歳 の時 に母 が死亡 し、女学校 を辞 め、しばらく百貨店 の寄宿舎 に住 み込 みで食堂 の給仕 の仕事 をしていた。16歳 で佐山 家 に引 き取 られた。女学校 を去年 卒業 。料理 好 きで女学校 3年 の時 から養母 ・時枝 の家事 手伝 いをする。婚礼 の時 に手 荒 れだといけないから水仕事 はしなくていいと言 われても、婚礼 の日 の朝食 の支度 や佐山 の子供 たちの弁当 も作 る。佐山 を「おじさん」と呼 ぶ。佐山 と居 ても、知 らず知 らずに溝 の縁 を歩 く悲 しい癖 がある。 民子 雪子 の母 。佐山 の元 恋人 。33、4歳 で病死 。佐山 に結婚 を申 し込 まれ婚約 していたが、肉体 関係 はなかった。17、8歳 で最初 に結婚 した男 (映画 新聞 の記者 )は結核 となり、男 の田舎 で看病 したが死亡 し、一人娘 の雪 子 を連 れて根岸 と再婚 するが貧乏 で苦労 が重 なり、心臓 と腎臓 を患 う。雪子 が13歳 の時 に根岸 と離婚 し、麻布 十 番 の裏町 で母子 2人 暮 らしていたが、翌年 に死亡 。死 ぬ前 に娘 に、「佐山 さんによろしく」と言 う。根岸 民子 と再婚 した男 。雪子 の継父 。朝鮮 を浮浪 して来 た鉱山 技師 。内地 へ帰 っても山気 が抜 けず、運 よく鉱山 に務 めても、すぐ自分 の野心 を出 しては追 われ、居所 も分 からない時 が多 かった。民子 は方々 の山 へ夫 を追 っかけ歩 き、東京 に落 ち着 いたと思 いきや、酒場 などで働 かされ、その金 が貯 まると、夫 はまた飛 び出 して行 くという有様 だった。雪子 に嫌 われている。若杉 大学 を3年 ほど前 に出 た銀行 員 。係累 は少 ない。佐山 の働 いている撮影 所 に出入 りしている洋服 屋 が縁談 の仲立 ちの内職 をしていて、その男 が雪 子 を見 て、若杉 の縁談 を持 って来 た。雪子 の親友 雪子 の女学校 時代 の友達 。佐山 が雪 子 の新婚 旅行 の宿屋 を探 しに熱海 へ旅立 つ時 に、バス停 まで見送 った雪子 が、そばのポストにためらいがちに投函 した手紙 の送 り主 。
愛 する人達
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1941 | ||
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コード | NCID BN07369558 | |
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女 の夢
[- ずっと
独身 だった36歳 の歯科 医 の大学 助手 ・久原 健一 が、ある美貌 の令嬢 ・治子 と見合 い結婚 して幸福 になるが、27歳 の治子 もずっと適齢 期 を過 ぎても独身 だった。久原 は彼女 が何故 結婚 しなかったのかを承知 の上 で結婚 した。それは治子 に片想 いし失恋 して自殺 した従兄 がいたからだった。久原 はそんな相手 の思 い込 みの平凡 な筋書 きのような出来事 は気 にならなかった。しかしそのことよりも治子 は、従兄 の件 で壊 れた縁談 相手 の片桐 を愛 していたために結婚 しなかったのであった。でも治子 はそれを久原 には話 さないでおいた。久原 と結婚 し二 晩 目 、喜 びを知 った治子 は死 んだ従兄 の夢 を見 て、罪 の意識 を覚 えた。久原 は友人 の医師 の伝手 で、従兄 が元々 神経 衰弱 だったことを調 べ、治子 を安心 させる。しかし、治子 のうちの美 しい思 い出 も天恵 の福 も失 われてゆくようだった。
ほくろの手紙
[小夜子 には、右肩 の首 の付 け根 に黒豆 のようなほくろのあり、子供 の頃 からそれをいじる癖 があった。結婚 してからも小夜子 は、夫 に、「みじめに見 える」とたしなまれてもその癖 が止 められなかった。しかし、夫 にぶたれ蹴 られても治 らなかった癖 が、夫 が無 関心 になり何 も言 わなくなると治 った。里 に帰 った小夜子 は、自分 がほくろをいじっていたのは、幼 い頃 に母 や姉 に可愛 がられて、いじられていたことに思 い当 たり、その癖 は愛 する人達 を思 うためだったと考 えた。そして幼 い頃 を思 い出 そうと、ほくろを久 しぶりに触 ってみるが、思 い出 すのはあなた(夫 )のことばかりだった。ほくろをいじる癖 は、夫 の愛情 を求 めての癖 でもあった。小夜子 はそのことを夫 へ書 き綴 った。
夜 のさいころ
[旅 興行 で踊子 たちを率 いている水田 は、夜 、踊子 たちが眠 る隣 の部屋 で、いつも一人 寝床 で、五 つのサイコロを振 っている若 い踊子 ・みち子 のことが気 になっていた。みち子 の母親 は芸者 でサイコロの名人 だったらしく、その癖 が子供 のみち子 にまで移 っていたらしかった。水田 はみち子 にサイコロを捨 てさせた。無口 なみち子 をよく近 くで見 ると、思 ったよりもいい娘 だった。水田 は、人 の化粧 品 を使 っているみち子 に、化粧 品 を買 ってやるついでに新 しいサイコロを二 つ買 ってやった。「一 が出 たら、みち子 と恋愛 しようか」と水田 が言 うと、17歳 のみち子 は恥 じらいながらも二 つとも“一 ”にした。けれども水田 は「もう一度 やってごらん」と茶化 す。- みち
子 のサイコロはまた五 つになり、前 のように練習 していた。一 つ一 つ順番 に全部 “一 ”は出 せるが、いちどきにみんな“一 ”にするのは難 しかった。もう一人 、みち子 に注目 して愛 していた男優 の花岡 が水田 に絡 んできて、みち子 の謎 は、子供 の時 に性的 いたずらをされたんじゃないかと吹 き込 み、水田 は不快 になった。花岡 はみち子 にいい役 を付 けて、ぱあっとさせてほしいと水田 に言 った。しかし寝床 で、みんなの見 ている前 で、サイコロの目 を全部 いっぺんに“一 ”にしたみち子 の無邪気 な膝小僧 を見 た水田 は、花岡 の観察 など真 っ赤 な嘘 だと分 かった。水田 は、全部 “一 ”の揃 ったサイコロを美 しい花火 のように思 い、一座 に見切 りをつけて、「ぱあっと」みち子 と2人 で出 ていこうと思 った。
燕 の童女
[新婚 旅行 の帰 りの展望 車 「燕 」の中 、牧田 は日光 にさらされている妻 ・章子 の首 の産毛 を見 た。その産毛 は、牧田 のするがままにおとなしく従 っていた章子 の体 に、かくれているものを感 じさせた。章子 の髪 の毛 もまた、少 し赤茶 けて見 えた。牧田 は目 を閉 じると、しびれるような甘 い疲 れが体 の芯 にあって、行 きの船旅 で見 た無数 の海月 が頭 に浮 かんだ。その時 の章子 は両親 との別 れに涙 ぐんでハンカチを振 っていた。東京 へ戻 る帰 りの汽車 の前 の席 には、赤茶 けた髪 の毛 のあいの子 らしい7歳 くらいの幼 い女 の子 が座 っていた。女 の子 は一人 で絵本 も見 たり、紙風船 を膨 らませたり、折 り紙 を折 ったりして遊 んでいた。少 し離 れたところにいる母親 は本 を読 んでいたが、女 の子 は一人 でも平気 そうだった。牧田 夫婦 はその可愛 らしい女 の子 を観察 していた。章子 はふと夫 に、「私 達 、一生 この子 のことを思 い出 すでしょうね。もう二度 と会 うことはないでしょうけれど」と言 った。牧田 は、世界中 の人種 が雑婚 の平和 な時代 は、遠 い未来 に来 るであろうかと、ぼんやり考 えた。
夫 唱婦和
[- 27
歳 の延子 は夫 ・牧山 が帰宅 すると、ネクタイをほどき、靴下 を脱 がせ足袋 をはかせてやる貞淑 な妻 だった。出 かけにも、夫 に靴下 をはかせ、ワイシャツやチョッキを着 せた。そういった習慣 は、延子 の母親 も亡 き父親 にしていたことだった。牧山 は養子 だったが、東京 の教師 のため、延子 の田舎 の実家 には母 一 人 になったが、一人娘 の延子 が東京 へ行 ってしまうと、妾 の子 ・桂子 を引 き取 っていた。延子 と牧山 夫婦 は仲 が良 く、牧山 は老後 になったら、今 の若 い自分 達 のことを、延子 に昔話 としていろいろ聞 かせてもらうことを楽 しみとしていた。 延子 の母親 が死 に、牧山 は反対 したが、桂子 を東京 の家 に引 き取 ることになった。延子 より3歳 年下 の桂子 は背 ばかり高 く、骨張 った感 じで女 らしさがなく、家事 もぞんざいで、延子 が牧山 に足袋 をはかせているのを見 て冷笑 していた。だが、そんな桂子 も恋愛 をしている女 の眼 のように変 わってきた。桂子 は牧山 の助手 ・佐川 と結婚 の約束 をし、妊娠 していることを延子 に打 ち明 けた。- しかし
佐川 の話 を聞 くと、佐川 は桂子 と結婚 するつもりはないと言 った。佐川 は松山 夫婦 の前 で、自分 の日記 を延子 に見 てもらいたいと言 った。佐川 の日記 には、延子 を愛 していることが綴 られ、それを桂子 に見破 られて、関係 を迫 られたことが書 かれてあった。松山 は延子 に桂子 の非 の判断 を任 せたために、その日記 を見 ず、真実 を知 らないままだった。延子 は佐山 が自分 を愛 していたなどとは夢 にも思 わなかった。自分 の覚 えている人生 と夫 の覚 えている人生 が、違 って来 たことを自覚 した延子 は、老後 の思 い出 話 の中 にそのことを夫 に言 えるだろうか、言 えるようにならなければならないと考 えた。
子供 一 人
[- この
春 、女学校 を出 たばかりの芳子 は病院 で、激 しいつわりに苦 しみ、お産 ができるかどうかも危 ぶまれていた。そんな未熟 な幼 な妻 の母体 の危機 を夫 ・元田 はいたわり見守 っていた。田舎町 の造 り酒屋 の娘 ・芳子 は卒業 間近 、親 の縁談 を嫌 がり、畳 屋 の息子 で、苦学 し去年 大学 を出 て働 いていた元田 のアパートへ逃 げて行 ったのだった。芳子 が妊娠 し、2人 は結婚 を許 されたため、芳子 は死 んでも産 むとい張 り、自分 が死 んだ後 に夫 が日常 のことに困 らないように書 きつけた「遺言 状 」まで作 っていた。 - やがて
不安 は薄 れ、芳子 は食欲 も増 し、どんどん太 ってきた。しかし芳子 は平気 で煙草 を吸 い、人 が変 わったように下品 になり、夫 に反抗 的 態度 を取 るようになってきた。芳子 は病的 な嫉妬 に悩 まされて女中 も辞 めさせ、夫 が母体 を心配 して医者 に中絶 を頼 んだことさえも逆恨 みし、被害 妄想 に陥 った。精神 に異常 をきたした芳子 は自分 でも自覚 して宗教 書 などを読 んだりしたが、被害 妄想 は収 まらず、夫 に虐待 されているから離婚 すると里 へ手紙 を出 したりした。辞 めていった女中 が芳子 の実家 へ様子 を伝 えていたため、迎 えにきた芳子 の姉 は、元田 を責 めなかった。芳子 は戻 るつもりらしく「遺言 状 」が机 に残 してあった。不可解 な女心 が元田 の胸 にしみた。 - やがて
無事 に出産 したという電報 が来 て、元田 が芳子 の産室 へ行 くと、にっこり笑 って再 び可憐 な少女 のような芳子 に戻 り、赤 ん坊 に乳 を含 ませていた。元田 は信 じられないような奇 怪 な思 いで、芳子 を幾 つもの人間 に変 えて、魔術 師 のように翻弄 したとも思 える、あどけない猿 のような新 しい生 き物 が母 の乳 を強 い力 で吸 っているのを見 つめていた。
ゆくひと
[- 15、6
歳 の佐紀 雄 は、「やったあ」と歓声 をあげて、浅間山 の噴火 を見 るために月夜 のヴェランダに飛 び出 した。佐紀 雄 は小 さい頃 から、軽井沢 の別荘 に滞在 中 、浅間 が噴火 する度 にヴェランダに飛 び出 すので、両親 に笑 われていた。爆発 の直後 は、煙 とは思 えない恐 ろしい力 が凝結 した固形 体 と見 える。いわば大地 の砲 口 から出 たばかりのこのように大 きい力 を形 にして見 ることの出来 るのは、他 にありそうもないと佐紀 雄 は思 っていた。煙 が伸 び上 がったり、横 にたなびいて拡 がってしまってからは噴火 を見 た気 がしないのである。 - そんな
佐 紀雄 のところへ弘子 が寄 り添 い、肩 に触 れて、「なかへ入 りましょう」と話 しかけて来 た。弘子 の体臭 や、娘 らしい甘 さが佐紀 雄 の胸 にしみ、不意 に悲 しくなった。火山 砂 が雹のように降 って来 ても、中 へ入 ろうとしない佐 紀雄 の顔 に突然 流 れている涙 を弘子 は見 た。それは思 いがけないもので、少年 の純粋 なものが伝 わって来 るだけだった。 帰 ってゆく弘子 を、佐紀 雄 は蝙蝠傘 二 本 持 って追 って行 き、傘 はいらないと言 う弘子 と一 つの傘 になり町 まで送 っていった。弘子 は話 しているうちに、また佐紀 雄 の肩 を抱 いていた。佐紀 雄 は、どうしてよく知 らない人 のところへお嫁 に行 ってしまうのか、弘子 さんを好 きな人 は沢山 いるのに、と早口 で弘子 に聞 いた。弘子 は、「そういうものよ」と答 えたが、佐紀 雄 は怒 るように肩 をすぼめて弘子 の手 をはずした。結婚 するという人 が、なにげなく自分 の肩 を抱 いてくれることは、佐紀 雄 は許 せないように思 えた。
年 の暮
[劇 作家 の加島 泉 太 は、「亡 き友 の妻 いづこならん年 の暮 」という俳句 をつぶやき、娘 の泰子 に意見 を求 めたが、本当 はそんなことはどうでもよかった。ただ娘 の声 を聞 きたかっただけだった。泰子 は8、9か月 前 に嫁 入 りしたのだが、夫 と別 れるつもりで里 へ帰 って来 ていた。それでも泉 太 は娘 の声 を久 しぶりに聞 いて、自分 の中 に埋 もれていたものが、ぱっと花 を開 いたかのようであった。娘 の声 は妻 ・綱子 の声 にそっくりで、娘 が家 にいる時分 はあまり気 にもかけなかったが、嫁 入 りした後 に電話 で聞 く娘 の声 は、若 い頃 の妻 を思 い出 させたりした。町 で娘 と同 じ年頃 の娘 を見 ると、このような若 い娘 の恋愛 相手 に自分 だってなれないことはないのだという年甲斐 もない、さもしい根性 も頭 をもたげた。- 「
亡 き友 の妻 」というのは、泉 太 の愛読 者 で約 10年間 、泉 太 の色紙 を買 い続 けてくれていた女性 ・木曾 千代子 であった。女学生 だった千代子 は、泉 太 へずっと手紙 を寄 こしていて、3年 目 の夏 に泉 太 の家 を訪問 して来 た。まだ可憐 な小娘 である千代子 に、泉 太 は陰鬱 な自分 の作品 など読 んでもらいたくなく、「あなたの存在 の方 が、どれだけいいかしれやしない」と思 わず口走 るところだった。泉 太 の作品 は、殺人 などを描 き、極彩色 じみた絢爛 な作風 であった。 泉 太 は娘 の泰子 が小学校 に上 がり、自分 の作品 を読 むのも嫌 であった。弟 の明男 が生 まれてから、母 でなく自分 と添 い寝 をするようになった泰子 のおかっぱの毛 を息 で吹 きながら、泉 太 は自分 の経 て来 た道 を虚 ろに感 じるのだった。自分 の書 いた悲劇 などは、案山子 が舞台 で肩肘 張 って、破 れ衣 の袖 を振 りながら踊 っているに過 ぎず、案山子 は作者 の姿 であり、客 がいると思 った見物 席 には、蕭々 と野分 が吹 いているだけなのだ。自分 がこの世 に生 んだ生 き身 は2人 の子供 だけで、戯曲 などは死物 だと泉 太 は思 った。千代子 は、5年 目 の色紙 を買 って間 もなくして、結婚 した。そう聞 いた時 の自分 のさびしさが泉 太 には意外 であった。泉 太 は千代子 を精一杯 愛 さなかったことを後悔 した。それは、朝 に千代子 を愛 することが出来 たならば、その夕 に死 んでもいいという覚悟 で、千代子 と付 き合 って来 なかった悔恨 だった。愛 するというと穏 やかではないが、それは心 のことで、泉 太 は千代子 といい加減 に付 き合 って来 た年月 、自分 は十分 に生 きていなかったと悔 いた。千代子 はその後 も色紙 を買 い続 けてくれたが、8年 目 に夫 が戦死 してから、消息 が途絶 えた。そんなことを考 えながら、年 の暮 、茫々 として人生 の思 いが、泉 太 の胸 を流 れた。
作品 評価 ・研究
[『
また、「
『ゆくひと』について
そして、『
人 は内面 に入 るとき、いかに多 くのものを失 つたかに気 づかない。その失 はれたものを、川端 さんはしばしば「こころ」といふ優 しい言葉 でとらへて来 てをられる。それをとらへる力 は、啻(ただ)に感覚 といふやうなものではない。日頃 は死 んでゐるやうに見 えるわれわれのいはば絶対 的 な生 が、少女 や花 や小鳥 のやうな「生 それ自身 」――いはば絶対 的 な生 ――に行 き合 ふときに、覚 えずにはゐられない瞬間 のまぶしさ、これにつづく何事 をも願 はない清冽 なためらひ、さういふものから生 れ出 てくる力 かと思 はれる。時 として私 たちはさういふ絶対 的 な生 をも、相対 的 な生 の物差 で割 り切 ることを理性 と考 へ、自分 が揺 ぐまいとする努力 のすべてを失 ふ。しかし川端 さんの文学 の態度 は、たえず無 偏 なものをうけ入 れる仕度 をしてゐる。いはば虚 しさの裡 にあふれた待 つことの充溢 であり、虚空 にふりそそぐ美 酒 を待 ち設 けてさし出 された盃 であり、神 々の饗宴 にそなへた純白 な卓 布 のやうでもある。それはまた今 のやうな雑然 たる時代 との対照 に於 て、リルケが羅 馬 の或 る庭園 で見 たあのふしぎなアネモネの花 を思 はせるものがある。 —三島 由紀夫 「『夜 のさいころ』などについて」[1]
そして
映画 化
[
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1954 | |
102 | |
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『
スタッフ
[キャスト
[佐山 :上原 謙 佐山 の妻 ・時枝 :三宅 邦子 雪子 :岸 惠子 母 ・民子 :丹 阿弥 谷津 子 義父 ・根岸 :加 東大 介 高浜 :志村 喬 若杉 :小泉 博 沢田 :千秋 実 緑川 阿佐子 :香川 京子 女給 ・ユリ:立花 満枝 女給 ・三千代 :三木 鞠子 原稿 を持 って来 る青年 :澄川 透 魚屋 の親爺 :田辺 元 佐山 家 の女中 :黒田 隆子 天津 敏 (ノンクレジット)
テレビドラマ化
[- 『
母 の初恋 』(NHK) - お
好 み日曜 座 『母 の初恋 』(NHK) - 『
母 の初恋 』([NET、現在 のテレビ朝日 ) 日立 劇場 『母 の初恋 』(TBS)- シャープ
月曜 劇場 『母 の初恋 』(KTV) 川端 康成 名作 シリーズ『母 の初恋 』(KTV)- ドラマ・スペシャル『
最後 の家族 旅行 Family Affair川端 康成 作 「母 の初恋 」より』(TBS)
フジテレビ |
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(なし)
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(1963 |
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フジテレビ |
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(1963 |
れいこちゃんごめんネ
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【 |
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(1973 【 |
他 短編 のテレビドラマ化
[おもな収録 刊行 本
[- 『
正月 三ヶ日 』(新 声 閣 、1940年 12月20日 )限定 150部 - 『
愛 する人達 』(新潮社 、1941年 12月17日 。改装 版 1945年 10月 15日 。1946年 11月10日 )装幀 :芹沢 銈介収録 作品 :「母 の初恋 」「女 の夢 」「ほくろの手紙 」「夜 のさいころ」「燕 の童女 」「夫 唱婦和 」「子供 一 人 」「ゆくひと」「年 の暮 」
- 『
日雀 』(新 紀元 社 、1946年 4月 15日 ) - 『
夜 のさいころ』(浪漫 新書 ・トッパン、1949年 1月 5日 ) 新潮 青春 文学 叢書 『伊豆 の踊子 』(新潮社 、1955年 1月 31日 )- 『
燕 の童女 』(筑摩書房 、1955年 9月 25日 )- カバー
絵 :稗田 一穂 収録 作品 :「母 の初恋 」「ほくろの手紙 」「燕 の童女 」「夫 唱婦和 」「年 の暮 」「再婚 者 」
- カバー
文庫 版 『愛 する人達 』(新潮 文庫 、1951年 10月 15日 。改版 2006年 3月 25日 )
全集 収録
[- 『
川端 康成 全集 第 5巻 雪国 』(新潮社 、1969年 4月 15日 ) - 『
川端 康成 全集 第 7巻 小説 7』(新潮社 、1981年 1月 20日 )
脚注
[- ^ a b c d e f g h i j k l m n
三島 由紀夫 「解説 」(『夜 のさいころ』浪漫 新書 ・トッパン、1949年 1月 )。「『夜 のさいころ』などについて」(『狩 と獲物 』要 書房 、1951年 6月 )。三島 27巻 2003, pp. 129–133に所収 - ^ a b 「あとがき」(『
正月 三ヶ日 』新 声 閣 、1940年 12月 )。評論 5 1982, p. 595に所収 - ^ a b c 「
解題 」(小説 7 1981, pp. 591-) - ^ 「あとがき」(『
川端 康成 選集 第 9巻 高原 』(改造 社 、1939年 12月 )。評論 5 1982, pp. 567–662 - ^ a b c d e f g
高見 順 「解説 」(愛 する 2006, pp. 223–230) - ^ a b c 「
後姿 」(「父母 への手紙 」第 二 信 )(文藝 時代 1932年 4月 号 )。小説 5 1980, pp. 181–232、作家 の自伝 & 1994-09に所収 - ^ a b 「
第 三 章 千客万来 の日々 ――満州 行 」(秀子 1983, pp. 75–156) - ^ a b
川嶋 至 「『伊豆 の踊子 』を彩 る女性 」(上 ・下 )(北海道大学 国文 学会 国語 国文 第 18・19号 、20号 、1961年 3月 、12月)。「第 三 章 精神 の傷 あと―『みち子 もの』と『伊豆 の踊子 』―」(川嶋 1969, pp. 65–111) - ^
川嶋 至 「『母 の初恋 』論 のための序章 」(苫小牧 駒澤 短期大学 研究 紀要 第 2号 、1966年 11月)。「『母 の初恋 』をめぐる一 つの推論 」(北海道大学 国文 学会 国語 国文 研究 第 36号 、1967年 2月 )。「第 五 章 ひとつの断層 ―みち子 像 の変貌 と『禽獣 』の周辺 ―」(川嶋 1969, pp. 158–199。森本 ・上 2014, pp. 399–340 - ^ a b
福田 淳子 「母 の初恋 」(事典 1998, pp. 297–298) - ^ 「カバー
解説 」(愛 する 2006) - ^ a b c d 「
第 三 章 恋 の墓標 と〈美神 〉の蘇生 ――自己 確立 へ第 五 節 〈美神 〉の蘇生 『母 の初恋 』」(森本 ・上 2014, pp. 398–414) - ^ a b 「
第 三 章 恋 の墓標 と〈美神 〉の蘇生 ――自己 確立 へ第 七 節 新 しい〈美神 〉『故 園 』と『天授 の子 』」(森本 ・上 2014, pp. 450–472) - ^
田中 保隆 「故 園 」(作品 研究 1969, pp. 189–204)
参考 文献
[- 『
川端 康成 全集 第 5巻 小説 5』新潮社 、1980年 5月 。ISBN 978-4106438059。 - 『
川端 康成 全集 第 7巻 小説 7』新潮社 、1981年 1月 。ISBN 978-4-10-643807-3。 - 『
川端 康成 全集 第 33巻 評論 5』新潮社 、1982年 5月 。ISBN 978-4-10-643833-2。 - 『
川端 康成 全集 第 35巻 雑纂 2』新潮社 、1983年 2月 。ISBN 978-4-10-643835-6。 川端 康成 『愛 する人達 』(改 )新潮 文庫 、2006年 3月 。ISBN 978-4101001043。初版 1951年 10月 川嶋 至 『川端 康成 の世界 』講談社 、1969年 10月 。NCID BN01844841。川端 秀子 『川端 康成 とともに』新潮社 、1983年 4月 。ISBN 978-4-10-346001-5。長谷川 泉 編 『川端 康成 作品 研究 』八木 書店 〈近代 文学 研究 双書 〉、1969年 3月 。NCID BN01844524。増補 版 1973年 1月 。羽鳥 徹哉 『作家 川端 の基底 』教育 出版 センター、1979年 1月 。ISBN 978-4873653075。羽鳥 徹哉 ;原 善 編 『川端 康成 全 作品 研究 事典 』勉 誠 出版 、1998年 6月 。ISBN 978-4585060086。保昌 正夫 編 『新潮 日本 文学 アルバム16川端 康成 』新潮社 、1984年 3月 。ISBN 978-4106206160。森本 穫 『魔界 の住人 川端 康成 ――その生涯 と文学 上巻 』勉 誠 出版 、2014年 9月 。ISBN 978-4585290759。森本 穫 『魔界 の住人 川端 康成 ――その生涯 と文学 下巻 』勉 誠 出版 、2014年 9月 。ISBN 978-4585290766。- 『
決定 版 三島 由紀夫 全集 第 27巻 評論 2』新潮社 、2003年 2月 。ISBN 978-4-10-642567-7。