真諦しんたい

真諦しんたい（しんだい、旧きゅう字体じたい: 眞諦しんたい、梵: Paramārtha パラマールタ、永えい元はじめ元年がんねん（499年ねん） - 太ふとし建けん元年がんねん1月がつ11日にち（569年ねん2月がつ12日にち））は、西にしインド生うまれで中国ちゅうごくに渡来とらいした訳わけ経けい僧そう、真諦しんたい三蔵さんぞう。鳩ばと摩ま羅ら什、玄げん奘、不空ふくう金きむ剛つよしと共ともに四大しだい訳やく経けい家かと呼よばれる。

『続ぞく高僧こうそう伝でん』の本ほん伝つてでは、音訳おんやく表記ひょうきによって、拘かかわ那な羅ら陀や波なみ羅ら末まつ陀と書かかれており、意訳いやくで真諦しんたい、あるいは親おや依よという、と記しるされているが、一般いっぱんには真諦しんたいという呼称こしょうで通用つうようしている。

生涯しょうがい

西にしインドのウッジャイニー（ウッジャイン）で生うまれる。インド僧そうであったが、扶南国こくにいた所ところを南朝なんちょう梁はりの武たけ帝みかどに招まねかれ、以後いご経典きょうてんの翻訳ほんやくにたずさわる。大乗だいじょう仏教ぶっきょうの中なかでも瑜伽ゆが行ぎょう唯識ゆいしき学派がくはを伝つたえた。

梁はりの太ふと清きよし2年ねん（548年ねん）、真諦しんたいは広州こうしゅうを経由けいゆして建たて康やすし（現在げんざいの南京なんきん）に到着とうちゃくした。しかし、時ときは侯ほう景けいの乱らんに端はしを発はっする南朝なんちょう梁はり末まつの動乱どうらんさなかの都とであり、勧進元かんじんもとの武たけ帝みかども亡ほろびく、もはや昔日せきじつの面影おもかげは失うしなわれていた。

真諦しんたいは、その後ごの南朝なんちょう梁はり末まつから陳ひねにかけての難なんを呉くれ郡ぐんの地ちに避さけ、訳わけ経けい事業じぎょうを開始かいしした。困難こんなんな状況じょうきょうの中なかでも、一いち生涯しょうがいに翻訳ほんやくした経論きょうろんは、76部ぶ315巻かんに達たっした。しかも、その中なかには、『摂と大乗だいじょう論ろん』、『倶舎論ろん』、『金かね七なな十じゅう論ろん』などの重要じゅうような経論きょうろんが含ふくまれていた。

晩年ばんねんには、仏法ぶっぽうの求もとめ通どおりの時ときではなく、渡来とらいした真意しんいを阻害そがいされていると感かんじ、南海なんかいを経へてインドに帰かえることを決意けついする。しかし、それも成功せいこうせず、広州こうしゅうに留とまり、刺史ししの要請ようせいによって再ふたたび訳やく経けいに従事じゅうじし、また、講こう経けい・講こう論ろんに努つとめた。真諦しんたいが没ぼっする前年ぜんねんには、真諦しんたいに帰依きえした一門いちもんが、建たて康やすし仏教ぶっきょう界かいへの復帰ふっきを求もとめた。しかし、都との有力ゆうりょくな僧そうの間あいだから反対はんたい意見いけんが相次あいついだため、実現じつげんすることはなかった。

訳わけ経けい

• 『十じゅう七なな地ち論ろん』（散佚さんいつ）
• 『阿おもね毘達磨だるま倶舎釋しゃく論ろん』（『倶舎釈しゃく論ろん』）（大だい正蔵しょうぞう Vol.29 毘曇部ぶ No.1559）
• 『攝と大乘だいじょう論ろん』（大正たいしょう蔵ぞう Vol.31 瑜伽ゆが部ぶ No.1593）
• 『攝と大乘だいじょう論ろん釋しゃく』（大正たいしょう蔵ぞう Vol.31 瑜伽ゆが部ぶ No.1595）
• 『中ちゅう邊べ分別ふんべつ論ろん』（大正たいしょう蔵ぞう Vol.31 瑜伽ゆが部ぶ No.1599）
• 『大乗だいじょう起おこり信しん論ろん』（大正たいしょう蔵ぞう Vol.32 論集ろんしゅう部ぶ No.1666）
• 『金かね七なな十じゅう論ろん』（大正たいしょう蔵ぞう Vol.54 外教がいきょう部ぶ No.2137）

没後ぼつごには訳出やくしゅつ経論きょうろんが北方ほっぽうに受容じゅようされ、弟子でし達たちによって『摂と大乗だいじょう論ろん』・『摂と大乗だいじょう論ろん釈しゃく』を所ところ依よとした摂と論ろん宗むねが成立せいりつする、真諦しんたいはその祖そとされるに至いたった。

また、真諦しんたい訳やくとされる『大乗だいじょう起おこり信しん論ろん』が後代こうだいの中国ちゅうごくや日本にっぽんの仏教徒ぶっきょうとに与あたえた影響えいきょうは測はかり知しれないものがある。

特色とくしょく

真諦しんたいの訳わけ経けいの特色とくしょくは、講こう学がくと訳わけ経けいとが表裏一体ひょうりいったいをなしていた点てんである。常つねに訳出やくしゅつされた経典きょうてんには、「義ぎ疏」や「注記ちゅうき」が加くわえられた。しかし、その中国ちゅうごくにおける生涯しょうがいは、一ひとつの拠点きょてんにとどまることなく、各地かくちを流浪るろうしながらの訳わけ経けい事業じぎょうであったため、まとめて保存ほぞんされることが困難こんなんな状況じょうきょうにあった。その上うえ、真諦しんたいの没後ぼつごには、陳ひねが隋ずいに滅ほろぼされたために、その混乱こんらんに一層いっそうの拍車はくしゃを掛かけた。

伝記でんき資料しりょう

• 『続ぞく高僧こうそう伝でん』巻まき1「陳ちん南海なみ西にし天竺てんじく沙門しゃもん拘かかわ那な羅ら陀伝」

関連かんれん項目こうもく

• 無む著ちょ
• 唯識ゆいしき派は
• 摂と大乗だいじょう論ろん
• 摂と論ろん宗むね