倒語とうご

倒語とうご（とうご）とは、言葉ことばを逆ぎゃくの順序じゅんじょで読よむ言語げんご現象げんしょう。逆ぎゃく読よみ、または逆さかさ読よみとも言いう。「てぶくろ」→「ろくぶて」^[1]など。

概要がいよう[編集へんしゅう]

逆さかさ読よみを行おこなうことによって、何なんらかの強調きょうちょうを行おこなおうとする言語げんご活動かつどうは、言語げんごや時代じだいを問とわず幅広はばひろく見みられる。逆さかさ読よみした語かたりの語かたり用ようは、多岐たきにわたるが、一般いっぱん的てきには隠語いんごのような正式せいしきな用法ようほうとはみなされない状況じょうきょうで使用しようされることが多おおい。

日本語にほんごにおいては、江戸えど時代じだいに流行りゅうこうしたことが有名ゆうめいである。（例れい：「キセル」→「セルキ」）このうち、たとえば「しだらない」→「だらしない」などのいくつかの言葉ことばは、逆さかさ読よみをした形かたちの語かたりが、正式せいしきな語かたりとして定着ていちゃくした。「たね」と「ネタ」のように意味いみが分化ぶんかし二に重じゅう語ご化かした例れいもある。

英語えいごにおいてはリバース・スペリング（逆さかさ書がき、reverse-spelling）と呼よばれる。"Evian"と"Naive"、"Redrum"と"Murder"、''Golf''と''Flog''、''God''と''Dog''、''Tide''と''Edit''、''Rodos''と''Sodor''、''Bat''と''Tab''、''Tokyo''と''Oykot''、''Cat''と''TAC''、''Rat''と''Tar''、''Ako''と''Oka''、''BOT''と''TOB''、''Job''と''BOJ''などの例れいがある。

日本にっぽんにおける「倒語とうご」という表現ひょうげんの大変たいへん古ふるい用例ようれいに、日本書紀にほんしょき巻まき三さん「能のう以諷歌か倒語とうご、掃蕩そうとう妖氣ようき。倒語とうご之の用もちい、始はじめ起おこり乎茲。」がある。この「倒語とうご」は「サカシマゴト」と読よむのが通例つうれいで、神話しんわ上じょう日本にっぽんで初はじめての「倒語とうご」の例れいとされるが、意味いみは必かならずしも逆さかさ読よみとは限かぎらず、わざと逆ぎゃくのことを言いう呪のろいや、なんらかの暗くら語ご・暗号あんごうのようなものとも考かんがえられている（もっとも、当時とうじの感覚かんかくでは、逆ぎゃくにしただけでも十分じゅうぶんに一種いっしゅの暗号あんごうであったとも考かんがえられる）。

構造こうぞう[編集へんしゅう]

逆さかさ読よみは、一般いっぱんに、音素おんそを逆順ぎゃくじゅんに読よんだもの（録音ろくおんして逆ぎゃくに再生さいせいすると元もとの言葉ことばに近ちかく聞きこえる）とは異ことなり、その言語げんごの文字もじ体系たいけい、音韻おんいん構造こうぞうや音節おんせつの影響えいきょうを受うける。日本語にほんごは1文字もじ≒1音節おんせつ（正確せいかくには1モーラ）であるため違ちがいが表あらわれる言語げんごのひとつで、たとえば「赤坂あかさか」/akasaka/ のように文字もじではなく音素おんその逆転ぎゃくてんとなる語かたりについて、同類どうるいだが別べつの言葉ことば遊あそびとして認知にんちされているほどである。

このため、「キセル」/kiseru/ の音素おんそを逆順ぎゃくじゅんに読よむと /uresik/ だが、日本語にほんご話者わしゃは通常つうじょう、「セルキ」/seruki/ を「キセル」の逆順ぎゃくじゅんとする。音素おんそ文字もじを用もちいる言語げんごでも、音素おんそと文字もじが正確せいかくに対応たいおうしない等とうが原因げんいんで、逆さかさ書がきは音素おんその逆順ぎゃくじゅん読よみと同おなじにはならないことが多おおい。

また漢字かんじを併用へいようする日本語にほんごの言葉ことば遊あそびとしては、「象ぞう印しるし」・「印象いんしょう」といったものもある^[2]。回文かいぶんから派生はせいした言葉ことば遊あそびとして、逆さかさにすると別べつの意味いみが通とおる文ぶんになるものをsemordnilapというが（詳細しょうさいは回文かいぶんの記事きじを参照さんしょう）、倒語とうごのうち互たがいに倒語とうごになるようなペアは、それだとも言いえる。

近年きんねんの逆さかさ読よみ[編集へんしゅう]

ジャズ業界ぎょうかい[編集へんしゅう]

米べい軍ぐんキャンプなどを営業えいぎょうで回まわるジャズバンドのバンドマンにおいて、逆さかさ読よみが流行りゅうこうした。この言語げんご現象げんしょうを、ズージャ語ごと呼よぶ。創成そうせい期きの民間みんかん放送ほうそう、テレビ業界ぎょうかい、芸能げいのうマネージメント業界ぎょうかいはジャズ出身しゅっしん者しゃが非常ひじょうに多おおかったこともあり、放送ほうそう業界ぎょうかい、芸能げいのう界かいにも伝搬でんぱんした。その名残なごりは現在げんざいにまで及およんでいる。

例たとえば、「C調ちょう」(しーちょう)という言葉ことばは、「調子ちょうしいい」とハ長調ちょうちょう (C調ちょう) をかけて、軽かるく調子ちょうしのいい事ことを吹聴ふいちょうする人物じんぶつを指さしたものである。

これ以外いがいの言葉ことばでも逆さかさ読よみが広ひろまり、「トーシロ」（素人しろうと = 一般人いっぱんじん）に悟さとられないようにするために重宝ちょうほうされた。「ワーカーノレーナガニズンタッタ」と言いうのがあるが、これの原型げんけいは「川かわの流ながれに佇たたずんだ」である。

実例じつれい[編集へんしゅう]

もともと隠語いんごゆえ、品性ひんせいに欠かけるものが多おおく、場所ばしょ柄がらを配慮はいりょして用もちいる注意ちゅういが必要ひつようである。また、語尾ごびを伸のばすのは近年きんねんの傾向けいこうである。一般いっぱんに平板へいばん型がたアクセントになることが多おおい。

ロイク = 黒くろい / ネグロイド（黒人こくじん） / 黒色こくしょく
ナオン = 女おんな
チャンカー = 母ははちゃん / 嫁よめ
チャンネー = 姉あねちゃん
チャンバー = 婆ばあちゃん
パイセン = 先輩せんぱい
ザギン = 銀座ぎんざ
ギロッポン = 六本木ろっぽんぎ
ワイハ = ハワイ
ジャーマネ = マネージャー
シータク = タクシー
ケーサ = 酒さけ
ヒーコー = コーヒー
ダータ = タダ（只ただ）
ラーハ = 腹はら（はら）
リーヘ = 減へる
シーメ = 飯めし（めし）
ベルター = 食たべる
マイウー = うまい
チョイモー = もうちょい
シーホー = 欲ほしい
ルーネー = 寝ねる
クリソツ = そっくり
クリビツ = びっくり
テンギョー = 仰天ぎょうてん
イタオドロ = 驚おどろいた
ホドナル = なるほど
グンバツ = 抜群ばつぐん
ゲーハー / GH = 禿かぶろ
ビーチ = ちび
ポコチン = 男性だんせい器き
コーマン = 女性じょせい器き
パイオツ = 乳房ちぶさ（おっぱい）
カイデー = でかい
パイオツカイデー = 巨乳きょにゅう（おっぱいでかい）
チャイチ－ = 小ちいさい
ビーチク = 乳首ちくび
シーアー= 脚あし（あし）
ガイナー = 長ながい
ソイホ / ソイホー = 細ほそい
トイフ / トイフー = 太ふとい
エーケー = 毛もう
チータ = 立たつ / 勃起ぼっき
オイニー = におい
サイクー = くさい
エーヘー = 屁へ
ソーク / ソークー = 糞くそ
メーナ / メーナー = なめる（山下やました洋輔ようすけの草くさ野球やきゅうチームの名前なまえである「ソークメナーズ」は「糞くそなめ」の意い）
パイイツ = いっぱい
パツキン = 金髪きんぱつ
グラサン = サングラス
マーヒー = 暇ひま
パツラ = ラッパ (トランペット)
ボントロ = トロンボーン
ヤノピ = ピアノ (「ア」が「ヤ」と訛なまる)
ドンバ = バンド
ラーギャ = ギャラ

ルるー大柴おおしばはスパゲティを「ゲティスパ」と呼よぶ^[3]。

注ちゅう[編集へんしゅう]

^ 「ろくぶて」は、六ろくぶて（6回かい叩はたけ/殴なぐれ）という意味いみの日本語にほんごととらえることもできる。
^ ハッカーの遺言ゆいごん状じょう──竹内たけうち郁雄いくおの徒然つれづれ苔こけ第だい2回かい：「學問がくもん」のすすめ
^ ルるー大柴おおしば『ルー語ご大だい変換へんかん　さぁ！ルー語ごを始はじめよう！』扶桑社ふそうしゃ、2007年ねん、22頁ぺーじ。ISBN 978-4-594-05409-0。

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

この項目こうもくは、言語げんご学がくに関連かんれんした書かきかけの項目こうもくです。この項目こうもくを加筆かひつ・訂正ていせいなどしてくださる協力きょうりょく者しゃを求もとめています（ウィキポータル言語げんご学がく）。

[1] 「ろくぶて」は、六ろくぶて（6回かい叩はたけ/殴なぐれ）という意味いみの日本語にほんごととらえることもできる。

[2] ハッカーの遺言ゆいごん状じょう──竹内たけうち郁雄いくおの徒然つれづれ苔こけ第だい2回かい：「學問がくもん」のすすめ

[3] ルるー大柴おおしば『ルー語ご大だい変換へんかん　さぁ！ルー語ごを始はじめよう！』扶桑社ふそうしゃ、2007年ねん、22頁ぺーじ。ISBN 978-4-594-05409-0。

[1]

[2]

[3]