八丈はちじょう方言ほうげん

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八丈はちじょう方言ほうげん八丈はちじょう
はなされるくに 日本にっぽん
地域ちいき 伊豆諸島いずしょとう
言語げんご系統けいとう
にち琉語ぞく
初期しょき形式けいしき
言語げんごコード
ISO 639-3
Glottolog hach1239[1]
消滅しょうめつ危険きけん評価ひょうか
Definitely endangered (Moseley 2010)
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八丈はちじょう方言ほうげん(はちじょうほうげん)は、東京とうきょう伊豆諸島いずしょとうぞくする八丈島はちじょうじま青ヶ島あおがしま使用しようされている日本語にほんご方言ほうげん東日本ひがしにっぽん方言ほうげんふくまれることもあるが、本土ほんど日本語にほんごとのいちじるしいため、独立どくりつした言語げんご八丈はちじょう、はちじょうご)とする場合ばあいもある。住民じゅうみんからはたんしま言葉ことばばれている。2009ねん平成へいせい21ねん)2がつ19にちユネスコにより消滅しょうめつ危機きき言語げんごの「危険きけん」(definitely endangered)と分類ぶんるいされた[2][3]

概説がいせつ[編集へんしゅう]

日本語にほんご方言ほうげん区分くぶんいちれいで、おおきな方言ほうげん境界きょうかいほどふとせんしめしている。

八丈島はちじょうじま北部ほくぶ伊豆諸島いずしょとうとのあいだには黒潮くろしおながれており、古来こらい海洋かいよう交通こうつう難所なんしょであったため本土ほんどとの交流こうりゅうすくなく、本土ほんど方言ほうげんとはいちじるしい方言ほうげんがある。万葉集まんようしゅう記録きろくされた上代じょうだい東国とうごく方言ほうげん特徴とくちょうおおくとどめ、さらに「~ず」の古形こけい「にす」にさかのぼる否定ひていがた連用形れんようけい終止しゅうし用法ようほうなど、上代じょうだい以前いぜんのものとおもわれる文法ぶんぽう要素ようそ保存ほぞんされているとされる。

太平洋戦争たいへいようせんそうしまがい就職しゅうしょくするさい苦労くろうしないようにと共通きょうつう教育きょういくすすめられたことや、テレビの普及ふきゅうともな共通きょうつう首都しゅとけん方言ほうげん浸透しんとうによって、八丈はちじょう方言ほうげん衰退すいたいすすんでいる。ユネスコが消滅しょうめつ危機ききにある言語げんごであると発表はっぴょうしたことで八丈はちじょう方言ほうげんへの関心かんしんたかまり、八丈はちじょう方言ほうげん継承けいしょう活動かつどう活発かっぱつしている。

なお沖縄おきなわけん大東諸島だいとうしょとう八丈島はちじょうじまからの開拓かいたくみんにより、八丈はちじょう方言ほうげんぞく方言ほうげんはなされている。大東諸島だいとうしょとう方言ほうげん参照さんしょう

音韻おんいん[編集へんしゅう]

アクセントアクセントである。母音ぼいん融合ゆうごういちじるしい。 特筆とくひつすべき特徴とくちょうとして語頭ごとうの[p]おと存在そんざいがあげられる[4][5][6]

方言ほうげん学者がくしゃ柴田しばたたけしは『方言ほうげんろん』のなかで、八丈はちじょう方言ほうげんについて「音声おんせい印象いんしょうからすると、どこか、沖縄おきなわくびさと方言ほうげんおもわせるものがある。」としるしている。

文法ぶんぽう[編集へんしゅう]

上代じょうだい東国とうごく方言ほうげん特徴とくちょうぐといわれる。

本土ほんど方言ほうげんのほとんどでうしなわれた動詞どうし形容詞けいようし終止しゅうしがた連体れんたいがた区別くべつがあり、とく連体れんたいがた万葉集まんようしゅう記録きろくされたものとおなじく「とき」「こうやま」のようにう。動詞どうし終止しゅうしがたは「く」のようにウだん語尾ごび連体れんたいがたは「こ」のようにオだんであるが、いいきりには「く」のかたちはあまり使つかわれず「こわ」のかたち使つかわれる[7]形容詞けいようしでは、終止しゅうしがたは「たかきゃ」のように「-きゃ」、連体れんたいがたは「たかけ」のように「-け」である[8]

動詞どうししには「かきんなか」(かない)のように連用形れんようけいに「んなか」をける[8]。また過去かこ表現ひょうげんに「かから」(いた)、「たかからら」(たかかった)、「しずかだらら」(しずかだった)のようなかたちがあり、古語こご完了かんりょうあらわす「り」に由来ゆらいするとみられる[7]上代じょうだい東国とうごく方言ほうげんではアだんに「り」がいており、これが八丈はちじょう方言ほうげんではアだんに「ら」がくというかたちになっている。

推量すいりょうには、「くのーわ」のように「のー」などを使つかい、集落しゅうらくにより「のー」「のう」「ぬー」「なう」とう。これは上代じょうだい東国とうごく方言ほうげん推量すいりょうあらわした「なむ・なも」の名残なごりとみられる[7]

語彙ごい[編集へんしゅう]

早朝そうちょう意味いみする「つとめて」に由来ゆらいする「とんめて」、あたま意味いみする「つぶり」など古語こご保持ほじしている。また、茨城いばらき方言ほうげんなどとおなじく動物どうぶつめいに「~め」(いぬめ、きつねめなど)をつけるが八丈はちじょう方言ほうげんでは茨城いばらきくらべ「~め」の用法ようほうひろい。

分類ぶんるい[編集へんしゅう]

イアヌッチ(2019)によると、8つの方言ほうげん識別しきべつできるとされる[9]近代きんだいになってからの移民いみんによる大東諸島だいとうしょとう方言ほうげんがある。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Hachijo”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History. http://glottolog.org/resource/languoid/id/hach1239 
  2. ^ 消滅しょうめつ危機ききにある方言ほうげん言語げんご,文化庁ぶんかちょう Archived 2015ねん4がつ26にち, at the Wayback Machine.
  3. ^ 八丈はちじょう世界せかい2500言語げんご消滅しょうめつ危機きき 日本にっぽんは8対象たいしょう方言ほうげん独立どくりつ言語げんご ユネスコ”. 朝日新聞あさひしんぶん (2009ねん2がつ20日はつか). 2014ねん3がつ29にち閲覧えつらん
  4. ^ 飯豊いいとよ毅一きいちほか (1982-1986)『講座こうざ方言ほうげんがく』(ぜん10さつ),東京とうきょう国書刊行会こくしょかんこうかい
  5. ^ 遠藤えんどうよしみもとほか (1961)『方言ほうげんがく講座こうざ』(ぜん4さつ),東京とうきょう東京とうきょうどう
  6. ^ 柴田しばたたけし (1988)『方言ほうげんろん東京とうきょう平凡社へいぼんしゃ
  7. ^ a b c 大島おおしま(1984)。
  8. ^ a b ちく(1986)。
  9. ^ David Joseph Iannucci (2019) HACHIJO LANGUAGE OF JAPAN PHONOLOGY AND HISTORICAL DEVELOPMENT (わけ日本にっぽん八丈はちじょう音韻おんいん歴史れきしてき発展はってん)

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]