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だいよんあいだごおり

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
だいよんあいだごおり
わけだい Inter Ice Age 4
作者さくしゃ 安部あべ公房こうぼう
くに 日本の旗 日本にっぽん
言語げんご 日本語にほんご
ジャンル 長編ちょうへん小説しょうせつSF小説しょうせつ
発表はっぴょう形態けいたい 雑誌ざっし掲載けいさい
初出しょしゅつ情報じょうほう
初出しょしゅつ世界せかい
1958ねん7がつごう-1959ねん3がつごう
刊本かんぽん情報じょうほう
出版しゅっぱんもと 講談社こうだんしゃ
出版しゅっぱん年月日ねんがっぴ 1959ねん7がつ5にち
装幀そうてい 安部あべ真知まち挿絵さしえ兼務けんむ
そうページすう 251
ウィキポータル 文学ぶんがく ポータル 書物しょもつ
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だいよんあいだごおり』(だいよんかんぴょうき)は、安部あべ公房こうぼうSF長編ちょうへん小説しょうせつ。「序曲じょきょく」「プログラム カード No.1」「プログラム カード No.2」「間奏かんそうきょく」「ブループリント」の5しょうからる。日本にっぽん最初さいしょ本格ほんかくてき長編ちょうへんSF小説しょうせつだとされている[1]万能ばんのう電子でんし頭脳ずのう予言よげん機械きかい」を研究けんきゅう開発かいはつした博士はかせが、実験じっけんだいとしてあるちゅう年男としおとこ未来みらい予言よげんしようとするが、ハプニングに見舞みまわれ事態じたいおもわぬ方向ほうこうみちびかれ、やがて「予言よげん機械きかい」による人類じんるい苛酷かこく未来みらい予測よそくぞうと、おのれ運命うんめいあきらかとなる物語ものがたりれがたい人類じんるい未来みらい博士はかせ自身じしん予言よげん機械きかい未来みらいぞうであり、それに適応てきおうするために、おのれ研究けんきゅう組織そしきにより現在げんざいおのれ否定ひていされることになるというパラドックス葛藤かっとうえがかれ、日常にちじょう[よう曖昧あいまい回避かいひ]せい未来みらい関係かんけい現在げんざいにとって未来みらいとはなにかをうている[2]

発表はっぴょう経過けいか

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1958ねん昭和しょうわ33ねん)、雑誌ざっし世界せかい』7がつごうから翌年よくねん1959ねん昭和しょうわ34ねん)3がつごう連載れんさいされ、同年どうねん7がつ5にち講談社こうだんしゃより単行本たんこうぼん刊行かんこうされた[3]刊行かんこうさいして、初出しょしゅつばん大幅おおはば加筆かひつ改稿かいこうし、とくさい終章しゅうしょうの「少年しょうねん」の登場とうじょう場面ばめんにはおおくの加筆かひつがなされ、また再刊さいかんにあたっても、印刷いんさつ段階だんかいでのすうおおくの脱落だつらく部分ぶぶん誤植ごしょく個所かしょ修正しゅうせいされ刊行かんこうされた[3]文庫ぶんこばん新潮しんちょう文庫ぶんこ刊行かんこうされている。翻訳ほんやくばんはD.E. Saunders やくえいだい:Inter Ice Age 4)をはじめ世界せかい各国かっこくおこなわれ、たか評価ひょうかけた[1]

なお、1966ねん昭和しょうわ41ねん)、雑誌ざっし映画えいが芸術げいじゅつ』4がつごう映画えいが脚本きゃくほんされたものも掲載けいさいされたが、映画えいが実現じつげんしなかった[3][4]

作品さくひん成立せいりつ主題しゅだい

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安部あべ公房こうぼうは、『だいよんあいだごおり連載れんさい半年はんとしまえ作品さくひん構想こうそうについて以下いかのようにかたっている。

技術ぎじゅつ自然しぜんよりも人間にんげんほうむかってすす場合ばあい、たとえば、このつぎにぼくはそういうことをこうとおもっているのですが、一番いちばんおおきなかわかたは――もちろん妄想もうそうですが――水中すいちゅう生活せいかつ人間にんげんがもどる場合ばあいです。それは胎児たいじのときに人間にんげんえらがあるでしょう。人工じんこう海中かいちゅう生活せいかつができるようになる。温度おんどがないでしょう。資源しげん無限むげんにある。うみほうがずっと生活せいかつ合理ごうりてきにできる。地球ちきゅうはだんだんだんくなって、南極なんきょくこおりがとけて、おおきなやま頂上ちょうじょうだけがのこるということにならないともかぎらない。人工じんこう衛星えいせいってどこかにくこともできるけれども、人間にんげん加工かこうしてみずなかれて水中すいちゅう生活せいかつをするということもかんがえられる。そうすると人間にんげん感情かんじょうかわる。おな人間にんげんといえるかどうかもわからないが。 — 安部あべ公房こうぼうあら正人まさと埴谷はにやゆうだか武田たけだ泰淳たいじゅんとの座談ざだんかい)「科学かがくから空想くうそうへ――人工じんこう衛星えいせい人間にんげん芸術げいじゅつ[5]

そして連載れんさい主題しゅだいかかわる「未来みらい」と現在げんざい関係かんけいについては、以下いかのようにかたっている。

未来みらいは、日常にちじょうてき連続れんぞくかんに、有罪ゆうざい宣告せんこくをする。この問題もんだいは、今日きょうのようなてんがたにあっては、とくに重要じゅうようなテーマだとおもい、ぼくは現在げんざいなか闖入ちんにゅうしてきた未来みらい姿すがたを、さばくものとしてとらえてみることにした。日常にちじょう連続れんぞくかんは、未来みらい瞬間しゅんかんに、ななければならないのである。未来みらい了解りょうかいするためには、現実げんじつきるだけでは不充分ふじゅうぶんなのだ。日常にちじょうせいというこのもっとも平凡へいぼん秩序ちつじょにこそ、もっともおおきなつみがあることを、はっきり自覚じかくしなければならないのである。 — 安部あべ公房こうぼう「あとがき」(『だいよんあいだごおり』)[2]

安部あべは、「現在げんざいに、未来みらい価値かち判断はんだんする資格しかくがあるかどうかはすこぶる疑問ぎもんで、現在げんざいにはなんらかの未来みらいを、否定ひていする資格しかくがないばかりか、肯定こうていする資格しかくもない」とおもうとし、「しん未来みらいは、おそらく、その価値かち判断はんだんをこえた、断絶だんぜつむこうに、〈もの〉のようにあらわれる」と考察こうさつしつつ、室町むろまち時代ときよのような過去かこ人間にんげん視点してんから現代げんだいがどううつるかを、現代げんだいじんから未来みらいかさねて、「おそらく、残酷ざんこく未来みらい、というものがあるのではない。未来みらいは、それが未来みらいだということで、すでに本来ほんらいてき残酷ざんこくなのである。その残酷ざんこくさの責任せきにんは、未来みらいにあるのではなく、むしろ断絶だんぜつを肯んじようとしない現在げんざいがわにあるのだろう」とかた[2]以下いかのように説明せつめいしている[6]

未来みらいが「今日きょう」のつみかさねによってつくられたとしても、未来みらいが「今日きょう」にぞくしているとはかぎらない。たとえば、石器せっき時代じだい人間にんげん現代げんだいあらわれたとして、かれ現代げんだい地獄じごくだとおもうだろうか、それとも極楽ごくらくだとおもうだろうか。どうおもったところで、この場合ばあいさばいているのは、かれではなく、やはりあくまでも時代じだいがわなのである。(中略ちゅうりゃくきるということは、けっきょく、未来みらいなか自分じぶんおもえがくことかもしれない。そして未来みらいはかならずやってる。だが、そのやって未来みらいのなかに、予期よきしていたきみ姿すがたがあるとはかぎらないのだ。 — 安部あべ公房こうぼう「『今日きょう』をさぐる執念しゅうねん[6]

また、『だいよんあいだごおり』を執筆しっぴつちゅう安部あべ自身じしん未来みらいとの「断絶だんぜつ」の残酷ざんこくさにくるしめられ、その残酷ざんこくさから完全かんぜんにのがれることが不可能ふかのうなことをったとし、以下いかのようにかたっている[2]

この小説しょうせつから希望きぼうみとるか、絶望ぜつぼうみとるかは、むろん読者どくしゃ自由じゆうである。しかしいずれにしても、未来みらい残酷ざんこくさとの対決たいけつはさけられまい。この試練しれんをさけては、たとえ未来みらい希望きぼうをもつ思想しそうつにしても、その希望きぼうたんなる願望がんぼういきるものではないのだ。(中略ちゅうりゃく)この小説しょうせつは、ひとつの日常にちじょうてき連続れんぞくかんの、でおわる。だがそれはなんらの納得なっとくも、またなんらの解決かいけつをも、もたらしはしない。あなたは、むらがる疑問ぎもんに、おしつつまれてしまうことだろう。ぼく自身じしん、いまだにからないことが沢山たくさんある。 — 安部あべ公房こうぼう「あとがき」(『だいよんあいだごおり』)[2]

あらすじ

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世界せかいはつ予言よげん機械きかい「モスクワ1ごう」がソビエト開発かいはつされ、かく自由じゆう諸国しょこくにおける天気てんき予報よほうから株価かぶか予測よそく各種かくしゅ経済けいざい指数しすうまで正確せいかく的中てきちゅうさせていた。日本にっぽんもそれに対抗たいこうするため、中央ちゅうおう計算けいさん技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょの「わたし」(勝見かつみ博士はかせ)が予言よげん機械きかい「KEIGI-1」を開発かいはつした。「KEIGI-1」は、ひと脳波のうはから、記憶きおく人格じんかくをも再現さいげんすることができるようになっていた。ソビエトでその開発かいはつされた「モスクワ2ごう」は、未来みらい共産きょうさん主義しゅぎなかになるとの予言よげんをし、アメリカはそれにたい抗議こうぎ表明ひょうめいし、国際こくさい友好ゆうこうをおびやかす政治せいじてき予言よげん非難ひなんされた。日本にっぽんのプログラム委員いいんかい統計とうけいきょくもそれに影響えいきょうされ、政治せいじ問題もんだいむすびつきそうなものを制限せいげんし、あたらしいプログラムを研究所けんきゅうじょ要請ようせいした。

一個人いっこじん人間にんげん未来みらい予言よげんしてみることにした「わたし」と助手じょしゅよりゆきは、まちかけたあるちゅう年男としおとこをつけ尾行びこうした。おとこだれかとわせしていたが、すっぽかされ愛人あいじんのアパートにはいっていった。部屋へや位置いちよりゆきたしかめにき、「わたし」とよりゆきはひとまず引揚ひきあげた。翌日よくじつおとこ部屋へやころされたという記事きじ新聞しんぶんった。愛人あいじんおんなころしを自供じきょうしていたが、状況じょうきょうから犯人はんにんおんなとはおもえなかった。おとこ尾行びこうしていたことをタバコられていた「わたし」とよりゆきは、自分じぶんたちに嫌疑けんぎおよび、そこからマスコミ研究所けんきゅうじょ仕事しごとをかぎつけられることを危惧きぐした。先手せんてって真犯人しんはんにんさがし、予言よげん機械きかい犯罪はんざい捜査そうさ利用りようできるみちかんがえた「わたし」とよりゆきは、統計とうけいきょく協力きょうりょくで、警察けいさつからおとこ屍体したい中央ちゅうおう保険ほけん病院びょういんはこび、大脳皮質だいのうひしつ反射はんしゃ機械きかいにかけ、生前せいぜん記憶きおく解析かいせきした。おとこ神経しんけい痕跡こんせきは、愛人あいじんある病院びょういん妊娠にんしん3週間しゅうかん堕胎だたい手術しゅじゅつけて7せんえんをもらい、そのおな境遇きょうぐうにん紹介しょうかいするブローカー内職ないしょく報酬ほうしゅうけていたことをかたった。「わたし」に脅迫きょうはく電話でんわがかかってた。面倒めんどうなことに巻添まきぞえをくったと「わたし」はかんがえたが、よりゆき意見いけんもあり、さらにおんな機械きかい調しらべようとするが、途中とちゅうおんな毒殺どくさつされ、神経しんけい反応はんのう調しらべられなくなった。そのときよりゆき世界せかいでは哺乳ほにゅう動物どうぶつ母胎ぼたいがい発生はっせい研究けんきゅうがひそかにさかんにおこなわれているとし、水棲すいせい哺乳類ほにゅうるいたことがあるというはなしをした。

前回ぜんかい子宮しきゅうがい妊娠にんしんをして、堕胎だたい処置しょちまよっていた「わたし」のつまが、何者なにものかにおびきされて胎児たいじ堕胎だたいさせられた。「わたし」はこれまでの経緯けいいなに仕組しくまれた意図いとかんじ、よりゆきがこのけん首謀しゅぼうしゃではないかとうたがした。「わたし」はよりゆき一緒いっしょに、中央ちゅうおう保険ほけん病院びょういん山本やまもと博士はかせ義兄ぎけい所長しょちょうをしているという母胎ぼたいがい発生はっせい研究所けんきゅうじょってみた。そこはよろいきょうわたったところにある研究所けんきゅうじょで、水棲すいせいねずみ水棲すいせいぶたなどが飼育しいくされていた。

わたし」はつま堕胎だたい手術しゅじゅつけた場所ばしょ山本やまもと研究所けんきゅうじょではないかという確信かくしんふかめ、つま予言よげん機械きかいにかけようとおもった。「わたし」はうばわれた自分じぶん子供こども胎児たいじ)が水棲すいせい人間にんげんとして成長せいちょうし、「わたし」にいだ感情かんじょうくら未来みらいかんがえ、胎児たいじころしてしまいたかった。そのとき「わたし」の行動こうどう阻止そしする脅迫きょうはく電話でんわふたたびかかってきた。それは「わたし自身じしんこえだった。そのこえだいいち予言よげんで「わたし」の未来みらいだい予言よげんだった。機械きかい操作そうさしているのはよりゆきだったが、それを指示しじしているのは〈わたし〉だったのだ。

わたし」は〈わたし〉がやとった暗殺あんさつしゃおとこ一緒いっしょに、じつ水棲すいせい人間にんげん養育よういくじょう委員いいんかいとなっていた「わたし」の研究所けんきゅうじょった。〈わたし〉は、未来みらいったときの「わたし」がなにをするのかすでに予言よげんしていて、「わたし」はころされることになっていた。「わたし」のだい予言よげんである〈わたし〉は、「ある未来みらいすくうために、べつの未来みらい犠牲ぎせいにしなければならないような時代じだいには殺人さつじんもやむをない」とった。「わたし」の開発かいはつした予言よげん機械きかいは、地球ちきゅうがやがて地下ちか火山かざん活動かつどうによる海水かいすい生成せいせいにより水没すいぼつすることを予言よげんし、その対処たいしょのために研究けんきゅういんたちにより水棲すいせい人間にんげん養育よういくがすでになされていたのだった。

登場とうじょう人物じんぶつ

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わたし勝見かつみ
46さい中央ちゅうおう計算けいさん技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょプログラミング専門せんもん博士はかせソビエト対抗たいこう日本にっぽんで「予言よげん機械きかい」を開発かいはつした博士はかせつま息子むすこがいる。
よりゆき
わたし」の助手じょしゅわか研究けんきゅういん高田馬場たかだのばばのアパートに居住きょじゅう
友安ともやす
プログラム委員いいんかい委員いいん統計とうけいきょく役人やくにん研究けんきゅういんとつながりがふかい。
ひょろりとした新顔しんがお
大臣だいじん秘書ひしょほそゆび
所長しょちょう
研究所けんきゅうじょ所長しょちょう
和田わだ勝子かつこ
研究所けんきゅうじょいん。ときどき馬鹿ばか平凡へいぼんになったり、ひどく魅力みりょくてきになったりするむすめ欠点けってんくちびるうえ黒子くろこ光線こうせん具合ぐあいでそれがはなくそえる。
相羽あいば
研究所けんきゅうじょいんよりゆき腰巾着こしぎんちゃく
研究所けんきゅうじょいんたち
津田つだ木村きむらなど。
ちゅう年男としおとこ
56さい平凡へいぼんおとこよしよう商事しょうじ会計かいけい課長かちょう名前なまえ土田つちたすすむ
近藤こんどうちかこ
26さい土田つちたすすむ愛人あいじん新宿しんじゅくのアパートすまい。キャバレー歌手かしゅからだほねばっているが気持きもち素直すなおおんな
山本やまもと博士はかせ
中央ちゅうおう保険ほけん病院びょういん電子でんし診断しんだんしつ医師いし脳波のうは分析ぶんせき専門せんもん
守衛しゅえい
研究所けんきゅうじょ守衛しゅえい
暗殺あんさつしゃ
わたし」を尾行びこうするおとこいままで11にんころしたことがある。
わたし」のつま
子宮しきゅうがい妊娠にんしん経験けいけんがある。何者なにものかにだまされ、3週間しゅうかん以内いない胎児たいじ堕胎だたい手術しゅじゅつをされる。名前なまえ貞子さだこ
芳男よしお
わたし」の息子むすこ長男ちょうなん)。学校がっこうっても授業じゅぎょうないことがある。
山本やまもと
山本やまもと博士はかせ義理ぎりあに哺乳ほにゅう動物どうぶつ母胎ぼたいがい発生はっせい研究けんきゅうしゃあおいよごれたかお大男おおおとこにくづきのいいゆび陽気ようきおとこ
山本やまもと研究所けんきゅうじょ所員しょいんたち
愛想あいそのいい笑顔えがお原田はらだ水槽すいそう飼育しいくがかり小男こおとこ獣医じゅういなど。
イリリ
水棲すいせい人間にんげんだいいちごう少年しょうねん海中かいちゅう生活せいかつでの様々さまざま道具どうぐ発明はつめいする。ひとなつっこい。そと分泌ぶんぴつせん完全かんぜん消失しょうしつしていない。ひだりにまだ涙腺るいせん痕跡こんせきがある。
少年しょうねん
水棲すいせいじん少年しょうねん海底かいてい油田ゆでん見習みならいこう過去かこ世界せかいきつけられて、空気くうきふく新鮮しんせん海水かいすいえずえらおく装置そうち)をないで、海面かいめんにおどりる。りく音楽おんがくというものはみみくだけのものでなく、皮膚ひふかんじとれるふうのようなものではないかというおもいをたしかめたくて、遺跡いせき東京とうきょう」の小島こじまかぜけ、なみだをにじませ満足まんぞくしてぬ。

作品さくひんかれた時代じだい背景はいけい概略がいりゃく

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政治せいじ
ソビエト連邦れんぽうがまだ存在そんざいする冷戦れいせん時代じだいであり、べい宇宙うちゅう開発かいはつ競争きょうそう活発かっぱつであった。1957ねん昭和しょうわ32ねん)10がつ4にちにソビエトが人類じんるいはつ人工じんこう衛星えいせいスプートニク1ごうげて、アメリカにスプートニク・ショックあたえた[7]。アメリカは科学かがく技術ぎじゅつ分野ぶんやでソビエトにおくれをったことになり、ソビエトに対抗たいこうして1958ねん昭和しょうわ33ねん)1がつ31にちエクスプローラー1ごうげて、べいソの宇宙うちゅう開発かいはつ競争きょうそうはじまった。
コンピュータ
コンピュータ作中さくちゅうでは電子でんし計算けいさん当時とうじはそうばれるのが一般いっぱんてきであった[7])は当時とうじすでにられていたが、一般いっぱんれるものではなかった。作中さくちゅう予言よげん機械きかい今日きょうスーパーコンピュータととらえることができるが、当時とうじ汎用はんようコンピュータとされるIBMシステム/360(1964ねん発表はっぴょう)もまだ登場とうじょうしていない。日本にっぽんでは1957ねん昭和しょうわ32ねん)3がつ日本電信電話にほんでんしんでんわ公社こうしゃ電気通信研究所でんきつうしんけんきゅうじょパラメトロン電子でんし計算けいさんMUSASINO-1開発かいはつし、安部あべもこのMUSASINO-1を取材しゅざい見学けんがくしている[8]。その時代じだい電子でんし頭脳ずのう可能かのうせいを「予言よげん」した安部あべ慧眼けいがんみとれる。なお、作中さくちゅうでは人格じんかくをもシミュレーションする予言よげん機械きかいであるが、入力にゅうりょく機器ききとしてはパンチカード使用しようしている。
水棲すいせい生物せいぶつ
1950年代ねんだいには、獲得かくとく形質けいしつ遺伝いでんするというトロフィム・ルイセンコ主張しゅちょうが、日本にっぽんにおいても一定いってい影響えいきょうりょくっていた[9]ワトソンクリックによりDNAじゅうらせん構造こうぞう発表はっぴょうされたのは1953ねん昭和しょうわ28ねん)である。なお、作品さくひんでは生物せいぶつ改造かいぞう直接ちょくせつ遺伝子いでんし操作そうさではなく、進化しんか名残なごり利用りようしようとする。地上ちじょう動物どうぶつもその成長せいちょう過程かていでかつてのさかな形態けいたい通過つうかするが、そこにくわえることで水中すいちゅう呼吸こきゅうのためのえらのこしたまま成長せいちょうさせようとする。物語ものがたり終盤しゅうばんでは、水棲すいせいじん不思議ふしぎ生態せいたい陸棲りくせいじんもと人類じんるい)との立場たちば逆転ぎゃくてんした関係かんけいえがかれる。
地球ちきゅう水没すいぼつ
水没すいぼつ要因よういんとして二酸化炭素にさんかたんそ増加ぞうかによる温暖おんだん、それにともな氷河ひょうが消滅しょうめつ作中さくちゅうげられているが、全面ぜんめんてき水没すいぼつしゅ要因よういんとして地球ちきゅう火山かざん活動かつどうによる海水かいすい生成せいせいによるものとしている。
SF作家さっか
この作品さくひんかれた当時とうじ、すでに活動かつどうしていたSF作家さっかとしては、戦前せんぜんから活躍かつやくしていた海野うみの十三じゅうざや、戦後せんごにデビューした漫画まんが手塚てづか治虫おさむや、デビューしたてのほし新一しんいちがいる。海野うみの十三じゅうざは『だい氷河期ひょうがき[10]という作品さくひん発表はっぴょうしている。小松こまつ左京さきょう筒井つつい康隆やすたかがSF作家さっかとしてデビューするのはのことである。

映画えいが脚本きゃくほん

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1966ねん昭和しょうわ41ねん)、雑誌ざっし映画えいが芸術げいじゅつ』4がつごう掲載けいさい東宝とうほう映画えいが企画きかくしたが、実現じつげんはしなかった[3]

シナリオの表紙ひょうしかれただつ稿こうは、1965ねん昭和しょうわ40ねん)9がつ7にちとなっている。映画えいが監督かんとく堀川ほりかわ弘通ひろみちによると、軽井沢かるいざわ千ヶ滝せんがたき白木しらき牧場ぼくじょうないにあるかし別荘べっそう執筆しっぴつされたものだという[11]。『だいよんあいだごおり』の映画えいがのぞんでいた堀川ほりかわひろしどおりは、「着想ちゃくそう秀抜しゅうばつさ、スケールの雄大ゆうだいさ、一読いちどくわたしが、この作品さくひん映画えいが夢中むちゅうになったのはもっとも」とかたっている[4]

おもな刊行かんこうほん

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脚注きゃくちゅう

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  1. ^ a b 奥野おくの健男たけお安部あべ公房こうぼう――そのひと作品さくひん」(『世界せかいSF全集ぜんしゅう27 安部あべ公房こうぼう』)(早川書房はやかわしょぼう、1974ねん
  2. ^ a b c d e 安部あべ公房こうぼう「あとがき」(『だいよんあいだごおり』)(講談社こうだんしゃ、1959ねん
  3. ^ a b c d 作品さくひんノート9」(『安部あべ公房こうぼう全集ぜんしゅう 9 1958.07-1959.04』(新潮社しんちょうしゃ、1998ねん
  4. ^ a b 新潮しんちょう日本にっぽん文学ぶんがくアルバム51 安部あべ公房こうぼう』(新潮社しんちょうしゃ、1994ねん)48-49ぺーじ
  5. ^ 安部あべ公房こうぼうあら正人まさと埴谷はにやゆうだか武田たけだ泰淳たいじゅんとの座談ざだんかい)「科学かがくから空想くうそうへ――人工じんこう衛星えいせい人間にんげん芸術げいじゅつ」(世界せかい 1958ねん1がつごう掲載けいさい
  6. ^ a b 安部あべ公房こうぼう「『今日きょう』をさぐる執念しゅうねん」(新聞しんぶん紙上しじょう 1962ねん)。苅部かりべただし安部あべ公房こうぼう都市とし』(講談社こうだんしゃ、2012ねん)122ぺーじ
  7. ^ a b 苅部かりべただし安部あべ公房こうぼう都市とし』(講談社こうだんしゃ、2012ねん)128ぺーじ
  8. ^ 「『だいよんあいだごおり』のため、日本電信電話にほんでんしんでんわ公社こうしゃにてコンピューターの取材しゅざい写真しゃしん(1959ねん)」(『日本にっぽん現代げんだい文学ぶんがく全集ぜんしゅう103 田中たなかせん禾夫福田ふくだひさしそん木下きのした順二じゅんじ安部あべ公房こうぼう』)(講談社こうだんしゃ、1967ねん)。苅部かりべただし安部あべ公房こうぼう都市とし』(講談社こうだんしゃ、2012ねん)133ぺーじ
  9. ^ 鳥羽とば耕史こうじ安部あべ公房こうぼうだいよんあいだごおり』――みずのなかの革命かくめい」(早稲田わせだ文学ぶんがく国文学こくぶんがく研究けんきゅう』123しゅう、1997ねん10がつ
  10. ^ だい氷河期ひょうがき』:新字しんじしん仮名かめい - 青空あおぞら文庫ぶんこ
  11. ^ 堀川ほりかわ弘通ひろみちわたしはあきらめない」(『安部あべ公房こうぼうぜん作品さくひん4』月報げっぽう9)(新潮社しんちょうしゃ、1973ねん

参考さんこう文献ぶんけん

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  • 文庫ぶんこばんだいよんあいだごおり』(付録ふろく解説かいせつ 磯田いそだ光一こういち)(新潮しんちょう文庫ぶんこ、1970ねん改版かいはん2005ねん、2013ねん
  • 安部あべ公房こうぼう全集ぜんしゅう 9 1958.07-1959.04』(新潮社しんちょうしゃ、1998ねん
  • 安部あべ公房こうぼう全集ぜんしゅう 19 1964.10-1965.12』(新潮社しんちょうしゃ、1999ねん
  • 新潮しんちょう日本にっぽん文学ぶんがくアルバム51 安部あべ公房こうぼう』(新潮社しんちょうしゃ、1994ねん
  • 世界せかいSF全集ぜんしゅう27 安部あべ公房こうぼう』(早川書房はやかわしょぼう、1974ねん
  • 苅部かりべただし安部あべ公房こうぼう都市とし』(講談社こうだんしゃ、2012ねん

全集ぜんしゅう書誌しょし情報じょうほう

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  • だいよんあいだごおり」、世界せかいSF全集ぜんしゅうだい27かん早川書房はやかわしょぼう、1971ねんISBN 4-15-200027-9 
  • だいよんあいだごおり」、現代げんだい文学ぶんがく』 13かん講談社こうだんしゃ、1971ねん 
  • だいよんあいだごおり」、日本にっぽん文学ぶんがく全集ぜんしゅう』 85かん集英社しゅうえいしゃ、1972ねん 
  • だいよんあいだごおり」、安部あべ公房こうぼうぜん作品さくひん』 4かん新潮社しんちょうしゃ、1973ねん 
  • だいよんあいだごおり」、安部あべ公房こうぼう全集ぜんしゅう』 19かん新潮社しんちょうしゃ、1999ねん4がつISBN 4-10-640139-8 

関連かんれん項目こうもく

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