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ダルマ・シャーストラ

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

ダルマ・シャーストラサンスクリット:धर्मशास्त्र、dharmaśāstra)は、広義こうぎには紀元前きげんぜん6世紀せいきころから19世紀せいき中葉ちゅうようまでえることなくつづけられてきたインド法典ほうてん総称そうしょうダルマ・スートラりつほうけい)をふく[1][2]通常つうじょう、「法典ほうてん」とやくし、「ヒンドゥー法典ほうてん」ともしょうされる[2]

狭義きょうぎには、とくにダルマ・スートラと区別くべつして紀元前きげんぜん2世紀せいきころから西暦せいれき5世紀せいきないし6世紀せいきにかけてサンスクリットしるされた法典ほうてんで、おもなものとしては『マヌ法典ほうてん』や『ヤージュニャヴァルキヤ法典ほうてん』がある[2][3]

広義こうぎのダルマ・シャーストラ

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広義こうぎのダルマ・シャーストラは、紀元前きげんぜん6世紀せいきから紀元前きげんぜん2世紀せいきにかけてのダルマ・スートラ、紀元前きげんぜん2世紀せいきから紀元きげん5、6世紀せいきにかけてのスムリティ英語えいごばんひじりつたえ、憶伝しょ)、7世紀せいきないし8世紀せいき以降いこう注釈ちゅうしゃくしょ12世紀せいき以降いこうのダルマ・ニバンダに分類ぶんるいされる[1][注釈ちゅうしゃく 1]。ダルマ・スートラは、すでにバラモン教ばらもんきょう天啓てんけい聖典せいてんであるヴェーダ付随ふずいして成立せいりつしており、バラモン教ばらもんきょう社会しゃかいの4つの種姓すじょうヴァルナ)それぞれの権利けんり義務ぎむ日常にちじょう生活せいかつのありかた規定きていされていた[2][注釈ちゅうしゃく 2]。ダルマ・スートラは散文さんぶんからだかれ、特定とくていのヴェーダ学派がくはむすびつく性格せいかくをもっている[3]

狭義きょうぎのダルマ・シャーストラ

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狭義きょうぎのダルマ・シャーストラは、紀元前きげんぜん2世紀せいきころから西暦せいれき5世紀せいきないし6世紀せいきにかけてサンスクリット韻文いんぶんからだしるされた法典ほうてん[3]、「法典ほうてん文学ぶんがく」とやくされることもある[2]おもなダルマ・シャーストラには『マヌ法典ほうてん』や『ヤージュニャヴァルキヤ法典ほうてん』『ナーラダ法典ほうてん英語えいごばん』『ヴィシュヌ法典ほうてん英語えいごばん』などがあり、とくにダルマ・スートラと区別くべつされる[3]。『ヤージュニヴァルキヤ法典ほうてん』や『ナーラダ法典ほうてん』といった後期こうきヒンドゥー法典ほうてんは、『マヌ法典ほうてん』ほどの総合そうごうせいにはけるが、しょ規定きていはいっそう現実げんじつ生活せいかつそくしたものにととのえられている[6]。『マヌ法典ほうてん』やそれに先立さきだ諸々もろもろりつほうけいには、司法しほうにかかわる規定きてい存在そんざいし、そのさだめるところによれば、司法しほう最高さいこう権威けんいたるおうはダルマ(きよしほう)にしたがって犯罪はんざいばっしなければならないものとする[6]。しかし、ダルマを保持ほじして諸人もろびと教導きょうどうするのはバラモンの役割やくわりとみなされているところから、実際じっさいには学識がくしき経験けいけんゆたかなバラモン階層かいそうものおう代理だいりとして裁判さいばんのぞむことがおおかったのである[6]。ダルマ・シャーストラは国王こくおうさだめた国法こくほうではないにもかかわらず、司法しほうしゅとしてバラモン階級かいきゅうによって掌握しょうあくするところであったため、実際じっさい法廷ほうていではおおきな効力こうりょくゆうした[6]。ダルマ・シャーストラはスムリティ(ひじりつたえ)にふくまれ、特定とくてい儀礼ぎれい学派がくは(ダルシャナ)にはむすびつかない[3][注釈ちゅうしゃく 3]18世紀せいき後半こうはんから19世紀せいき初頭しょとうにかけて40しゅ法典ほうてん英語えいごフランス語ふらんすごドイツなど西欧せいおう諸語しょご翻訳ほんやくされた[3]

周辺しゅうへんこく後世こうせいへの影響えいきょう

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ダルマ・シャーストラはインドはもとより東南とうなんアジア世界せかいにもおおきな影響えいきょうをおよぼした。たとえば、ミャンマー王朝おうちょう時代じだい編纂へんさんされた「ダマタッ」はマヌ法典ほうてんなどのダルマ・シャーストラが仏教ぶっきょうてき改作かいさくされた世俗せぞくほうとしてられている[8]

18世紀せいき後半こうはん以降いこうイギリスひがしインド会社かいしゃかく管区かんくごとに首位しゅい民事みんじ裁判所さいばんしょ首位しゅい刑事けいじ裁判所さいばんしょ設置せっちして、そのした地方裁判所ちほうさいばんしょとムンシフ裁判所さいばんしょ[注釈ちゅうしゃく 4]しんきゅうせい裁判さいばん制度せいどをインドに導入どうにゅうし、そこではひがしインド会社かいしゃ政府せいふ制定せいていほう運用うんようされたが、民法みんぽうとりわけ家族かぞくほう分野ぶんやではぜんインドじん適用てきようしうる画一かくいつてきほう制定せいていむずかしかったので、初代しょだいインド総督そうとくとなったウォーレン・ヘースティングズは、ヒンドゥー教徒きょうとたいしてはダルマ・シャーストラのほう適用てきようするという原則げんそくてた。これは、近代きんだいインド社会しゃかいを『マヌ法典ほうてん』や『ヤージュニャヴァルキヤ法典ほうてん』といった古典こてん法典ほうてんにのっとって理解りかいし、判断はんだんすることを意味いみした[9][注釈ちゅうしゃく 5]

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ ダルマ・ニバンダはふる法典ほうてんるい条文じょうぶん抜粋ばっすいしてんだ実用じつようてき法規ほうきしゅうであり、諸王しょおうやイギリス当局とうきょくによって編纂へんさんもとめられ、実際じっさい裁判さいばんもちいられた[4]
  2. ^ ダルマの原義げんぎは「ささえをたもつ」である[5]。これを、人間にんげん人間にんげんたらしめるものと解釈かいしゃくすれば「真実しんじつ」、宗教しゅうきょうしゃにとっては「おしえ」「教法きょうほう」となり、社会しゃかいてき脈絡みゃくらくのなかでは「倫理りんり」となる[5]。これが共同きょうどうたいのなかで強制きょうせいりょくをともなう行為こういパターンとして固定こていするならば「義務ぎむ」「法律ほうりつ」というような意味いみになる[5]。ダルマの内容ないよう権威けんいはすべてヴェーダにもとづいているが、ヴェーダそのものはてんこえかみ啓示けいじかんがえられているのにたいし、ダルマ・シャーストラはヴェーダをより詳細しょうさいなものとし、言葉ことばらずな部分ぶぶんおぎなうための、賢者けんじゃ聖人せいじんおしえた権威けんいあるひじりつたえ聖典せいてん(スムリティ)とかんがえられている[5]
  3. ^ バラモン教ばらもんきょう由来ゆらいする3つの学派がくはには、ヴェーダーンタサーンキヤヨーガがある[7]
  4. ^ ムンシフとはインドじん下級かきゅう判事はんじのこと。地方裁判所ちほうさいばんしょしたかれた[9]
  5. ^ そのため、たとえば『マヌ法典ほうてん』では、だい5のヴァルナは存在そんざいしないとされているが、実際じっさいのインド社会しゃかいには不可ふかさわみんしょカーストをふくむ多様たようなカースト集団しゅうだん存在そんざいしていたので、イギリス当局とうきょく多種たしゅ多様たようなカーストを4種姓すじょうのサブ・カーストとみなして対処たいしょした[9]。イギリス統治とうちではしたがって、不可ふかさわみんという範疇はんちゅう法的ほうてきには存在そんざいしないこととなった[9]。また、この政策せいさくは、ぜんインドを対象たいしょうとする国勢調査こくせいちょうさ導入どうにゅうされ、そこに調査ちょうさ項目こうもくとしてカーストがくわえられたことによって、人々ひとびとみずからのヴァルナ帰属きぞくつよ意識いしきすることになり、それぞれのカーストの広域こういきてき連合れんごう強化きょうかする現象げんしょうこした[9]

出典しゅってん

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参考さんこう文献ぶんけん

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  • 奥平おくだいら龍二りゅうじ『ビルマ法制ほうせい研究けんきゅう入門にゅうもん ―伝統でんとうほう歴史れきしてき役割やくわり―』日本にっぽん図書としょ刊行かんこうかい、2002ねん3がつISBN 978-4823107467 
  • 辛島からしまのぼる へんみなみアジア山川やまかわ出版しゅっぱんしゃ新版しんぱん世界せかい各国かっこく7〉、2004ねん3がつISBN 4-634-41370-1 
    • 山崎やまざき元一げんいち辛島からしまのぼる ちょだい2しょう マウリヤ帝国ていこくとそののインド大陸たいりく」、辛島からしま へんみなみアジア山川やまかわ出版しゅっぱんしゃ新版しんぱん世界せかい各国かっこく7〉、2004ねんISBN 4-634-41370-1 
    • 小谷おたにひろしこれ辛島からしまのぼる ちょだい7しょう イギリス植民しょくみん支配しはいはじまりとインド社会しゃかい」、辛島からしま へんみなみアジア山川やまかわ出版しゅっぱんしゃ新版しんぱん世界せかい各国かっこく7〉、2004ねんISBN 4-634-41370-1 
  • 奈良なら康明やすあき「ヒンドゥー教徒きょうと生活せいかつ」『インドのかお河出書房新社かわでしょぼうしんしゃ生活せいかつ世界せかい歴史れきし5〉、1991ねん8がつISBN 4-309-47215-X 
  • 藤井ふじいあつし『インド社会しゃかいとカースト』山川やまかわ出版しゅっぱんしゃ世界せかいリブレット〉、2007ねん12月。ISBN 4-634-34860-8 
  • 辛島からしま, のぼり前田まえだ, せん江島えじま, めぐみきょう監修かんしゅう へんみなみアジアを事典じてん平凡社へいぼんしゃ、1992ねん10がつISBN 4-582-12634-0 
  • ミルチア・エリアーデ しる島田しまだ裕巳ひろみ わけ世界せかい宗教しゅうきょう3』筑摩書房ちくましょぼうちくま学芸がくげい文庫ぶんこ〉、2000ねん5がつISBN 4-480-08563-7 

関連かんれん項目こうもく

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