マヌ法典ほうてん

『マヌ法典ほうてん』（マヌほうてん、サンスクリット語ご: मनुस्मृति）は、紀元前きげんぜん2世紀せいきから紀元きげん後ご2世紀せいきにかけて成立せいりつしたと考かんがえられている法典ほうてん（ダルマ・シャーストラ）。世界せかいの創造そうぞう主ぬしブラフマーの息子むすこにして世界せかいの父ちち、人類じんるいの始祖しそたるマヌが述のべたものとされている。バラモンの特権とっけん的てき身分みぶんを強調きょうちょうしており、バラモン中心ちゅうしんの四よん種姓すじょう（カースト制度せいど）の維持いじに貢献こうけんした。

概要がいよう

『マヌ法典ほうてん』はそれ以前いぜんのインド法典ほうてん類るいの中なかでも最もっとも優すぐれたものであると同時どうじに、バラモン教ばらもんきょう、ヒンドゥー教きょうなどの教義きょうぎの支柱しちゅうとなった。『マヌ法典ほうてん』は一般いっぱんに、その成立せいりつ以前いぜんに存在そんざいした法ほう（律りつ法ほう経けい）を元もとに成立せいりつしたとされるが、ヴェーダの一派いっぱのマーナヴァ派はの影響えいきょうが大おおきい。そのため、マーナヴァ派はの律りつ法ほう経けいがその基本きほんにあると考かんがえられる。

構成こうせいは下記かきの12章しょう2684条じょうからなり、韻文いんぶん体たいで書かかれ、その内容ないようは、現代げんだい的てきな意味合いみあいのある法律ほうりつ的てき規定きていは全体ぜんたいの4分ぶんの1で、宇宙うちゅう論ろん、宗教しゅうきょう論ろん、道徳どうとく論ろんなどの規定きていが多おおく含ふくまれる。バラモン・クシャトリア・ヴァイシャ・シュードラの四よん種姓すじょう（ヴァルナ）の権利けんり、義務ぎむ、四よん住じゅう制度せいど（アーシュラマ）における成長せいちょう過程かていでの通過つうか儀礼ぎれいやその他たの通過つうか儀礼ぎれいを規定きていし、最終さいしゅうでは輪廻りんねや解脱げだつにいたる。法律ほうりつ的てきな項目こうもくとしては、国家こっかや国王こくおうの行政ぎょうせいに関かんする事項じこう、相続そうぞく法ほう、婚姻こんいん法ほうなども含ふくんでいる。そのためマーナヴァ派はの律りつ法ほう経けいがその基本きほんであるが、汎ひろしインド的てきな特徴とくちょうを持もっている。8世紀せいきから、その注釈ちゅうしゃく書しょが多おおく書かかれ、長ながい間あいだヒンドゥーの生活せいかつ規範きはんとなった。

また、その内容ないようが理念りねん的てきで文学ぶんがく的てき、加くわえて教訓きょうくん的てきな要素ようそが多おおいために、インド人じんの生活せいかつのみならず、インド人じんの内面ないめん部分ぶぶん、精神せいしん部分ぶぶんにまで深ふかく根ねざすなど、その影響えいきょう力りょくは計はかり知しれない。インドはもとより東南とうなんアジア世界せかいにも大おおきな影響えいきょうをおよぼした。

構成こうせい

• 第だい1章しょう：世界せかいの創造そうぞう
• 第だい2章しょう：ダルマの源みなもと
• 第だい2章しょう：受胎じゅたいから幼児ようじ時代じだい
• 第だい2章しょう：学生がくせい、修業しゅうぎょう期きの行動こうどうの準則じゅんそく
• 第だい3章しょう：婚姻こんいん及および婚姻こんいん形式けいしきの選択せんたく
• 第だい3章しょう：家長かちょう期きの行動こうどうの準則じゅんそく
• 第だい4章しょう：家長かちょう期きの行動こうどうの準則じゅんそく
• 第だい5章しょう：家長かちょう期きの行動こうどうの準則じゅんそく
• 第だい6章しょう：老後ろうご期きの行動こうどうの準則じゅんそく
• 第だい7章しょう：王おうの行動こうどうの準則じゅんそく
• 第だい8章しょう：王おうの行動こうどうの準則じゅんそく
• 第だい9章しょう：王おうの行動こうどうの準則じゅんそく
• 第だい9章しょう：ヴァイシャの生業せいぎょう
• 第だい9章しょう：シュードラの生業せいぎょう
• 第だい10章しょう：混血こんけつ集団しゅうだんと特有とくゆうの職業しょくぎょう
• 第だい10章しょう：窮迫きゅうはく時じの生活せいかつ法ほう
• 第だい11章しょう：罪つみと贖罪しょくざい
• 第だい12章しょう：輪廻りんね及および真しんの至福しふくを齎もたらす行為こうい

参考さんこう文献ぶんけん

• 奥平おくだいら竜二りゅうじ『ビルマ法制ほうせい史し研究けんきゅう入門にゅうもん - 伝統でんとう法ほうの歴史れきし的てき役割やくわり』日本にっぽん図書としょ刊行かんこう会かい、2002年ねん3月がつ。ISBN 978-4-8231-0746-7。 
• 『南みなみアジアを知しる事典じてん インド＋スリランカ＋ネパール＋パキスタン＋バングラデシュ＋ブータン＋モルディヴ』辛島からしま昇のぼる・前田まえだ専せん学がく・江島えじま惠めぐみ教きょうほか（新しん訂てい増補ぞうほ）、平凡社へいぼんしゃ、1992年ねん4月がつ。ISBN 978-4-582-12634-1。 

関連かんれん文献ぶんけん

• 渡瀬わたせ信之のぶゆき訳注やくちゅう 『マヌ法典ほうてん - サンスクリット原典げんてん全訳ぜんやく』（中公ちゅうこう文庫ぶんこ、1991年ねん）
  • 改訂かいてい版ばん 『マヌ法典ほうてん』（平凡社へいぼんしゃ〈東洋文庫とうようぶんこ〉、2013年ねん）
• 渡瀬わたせ信之のぶゆき 『マヌ法典ほうてん - ヒンドゥー教きょう世界せかいの原型げんけい』（中公新書ちゅうこうしんしょ、1990年ねん）
• 田辺たなべ繁子しげこ訳わけ 『マヌの法典ほうてん』（岩波いわなみ文庫ぶんこ（解説かいせつ辻つじ直四郎なおしろう）、1953年ねん）、復刊ふっかん1990年ねん・2021年ねんほか、英訳えいやくを基もとにした文語ぶんご体たい訳わけ
• 田辺たなべ繁子しげこ 『マヌ法典ほうてんの家族かぞく法ほう』（日本にっぽん評論ひょうろん社しゃ、1960年ねん）
• 中野なかの義照よしてる訳註やくちゅう 『マヌ法典ほうてん』（日本にっぽん印度いんど学会がっかい、1951年ねん）

関連かんれん項目こうもく

• ヒンドゥー教きょう
• ヤージュニャヴァルキヤ法典ほうてん - ヤージュニャヴァルキヤ
• カースト制度せいど
• ビームラーオ・アンベードカル