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ヘボンしきマ字まじ

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マ字まじ > ヘボンしきマ字まじ

ヘボンしきマ字まじ(ヘボンしきローマじ、えい: Hepburn romanization)は、日本語にほんご表記ひょうきラテン文字もじ表記ひょうき転写てんしゃするさい規則きそく、いわゆるマ字まじ複数ふくすうある表記ひょうきほうのうち、日本にっぽん国内こくないおよび国外こくがいもっとひろ利用りようされている方式ほうしきである。

ジェームス・カーティス・ヘボン(James Curtis Hepburn)[注釈ちゅうしゃく 1]によって考案こうあんされた。

マ字まじ表記ひょうきほうとしては日本にっぽんしきマ字まじおよびそれをもとにした訓令くんれいしきマ字まじ競合きょうごうする方式ほうしきである。日本語にほんご話者わしゃけに日本語にほんごこぼしさらには正書法せいしょほう日本語にほんごマ字まじ)となることを目指めざして開発かいはつされた日本にっぽんしきけいくらべ、英語えいごラテン語らてんご発音はつおんへの親和しんわせい重視じゅうししたヘボンしき外国がいこくじんのための案内あんない日本語にほんご翻訳ほんやく用途ようといている。

歴史れきし[編集へんしゅう]

1859ねん江戸えど時代じだい末期まっき日本にっぽんおとずれたアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく長老ちょうろう教会きょうかい医療いりょう伝道でんどう宣教師せんきょうし医師いしでもあったジェームス・カーティス・ヘボンは、布教ふきょう活動かつどうおこなかたわら、現在げんざい神奈川かながわけん横浜よこはま男女だんじょ共学きょうがくヘボンじゅく明治めいじ学院がくいんフェリス女学院じょがくいん源流げんりゅう)をひら医学いがく英語えいご教育きょういくおこなうと同時どうじに、和英かずひで辞典じてん編纂へんさん聖書せいしょ翻訳ほんやくんだ。

ヘボンは1867ねん世界せかいはつ近代きんだいてき和英かずひで辞典じてんであるかず英語えいごりん集成しゅうせい横浜よこはまロンドン同時どうじ発行はっこうした。これらは日本語にほんご見出みだ例文れいぶんマ字まじしるしていたものだったが、1872ねん発行はっこうされただい2はんまでのマ字まじ表記ひょうきほうはそれ以前いぜんジョン・リギンズサミュエル・ロビンス・ブラウン方式ほうしきとほとんどおなじだった[1]。ヘボンはまたアメリカ聖書せいしょ協会きょうかいからマ字まじかれたヨハネ福音ふくいんしょShin-Yaku Sei-sho. Yohane no fuku-in』を1873ねんに、『Warera no Shu Iyesu Kirisuto no Shin Yaku Zensho』を1880ねん出版しゅっぱんした[2][3]

1884ねん外山とやま正一しょういち東洋とうよう学芸がくげい雑誌ざっしに「うま主張しゅちょうスルしゃつげグ」を発表はっぴょうし、マ字まじ国字こくじろんとなえた。このけにこたえるかたち翌年よくねん1がつ17にちうまかい設立せつりつされた。会員かいいん外山とやま正一しょういち神田かんだ乃武ないぶ矢田部やたべ良吉りょうきちバジル・ホール・チェンバレンらであった。どうかい機関きかんRōmaji Zasshi』を発行はっこうし、2がつ19にちにつづりかた決定けっていした[4]うまかい方式ほうしきは『うまにて日本語にほんごかた[5]しるされている[6]

ヘボンは1886ねん発行はっこうされた英語えいごりん集成しゅうせいだい3はんにおいて、うまかい方式ほうしきれたマ字まじひょうマ字まじ表記ひょうきほう完成かんせいさせた[7]。これが初期しょきのヘボンしきとして最初さいしょひろ普及ふきゅうした方式ほうしきであるが、後年こうねんひろまった方式ほうしきとは若干じゃっかん規則きそくことなるため、今日きょうでは区別くべつのため便宜上べんぎじょうTraditional Hepburn(きゅうヘボンしき」とばれている。

1905ねんにはマ字まじろんしゃ大同団結だいどうだんけつはかられ、教育きょういくしゃ嘉納かのう治五郎じごろう中心ちゅうしんマ字まじひろめかい成立せいりつした。どうかい翌年よくねん、ヘボンしき修正しゅうせいくわえたものを考案こうあん[8][6][9]し、この方式ほうしきは「修正しゅうせいヘボンしき(Modified Hepburn)」または「標準ひょうじゅんしき」としてられることになった[10][11]。なお、これに対抗たいこうして日本にっぽんしき主張しゅちょうする田中館たなかだて愛橘あいきつ田丸たまる卓郎たくろうらは1912ねんマ字まじひろめかい退会たいかいし、1914ねん東京とうきょうマ字まじかい(のちに日本にっぽんマ字まじかい改称かいしょう)を設立せつりつしている[12][13]

鉄道てつどうしょうははじめ駅名えきめいマ字まじ表記ひょうき日本にっぽんしき採用さいようかんがえていたが、西園寺さいおんじ公望きんもち藤岡ふじおか勝二しょうじら、マ字まじひろめかい会員かいいん6めい連名れんめい建白けんぱくしょ提出ていしゅつして反対はんたいした[14]1927ねん鉄道てつどうしょう鉄道てつどう掲示けいじ規則きそく通達つうたつ571ごう)によりヘボンしき採用さいようした。

1930ねんから1936ねんまで文部省もんぶしょう臨時りんじマ字まじ調査ちょうさかいひらかれたが、鉄道てつどうしょう商工しょうこうしょう地質調査所ちしつちょうさしょ標準ひょうじゅんしき(ヘボンしき)を、陸地りくち測量そくりょう水路すいろ中央ちゅうおう気象台きしょうだい日本にっぽんしき主張しゅちょうした。1937ねん内閣ないかく訓令くんれいだい3ごうによって日本にっぽんしきをベースに改変かいへんくわえたマ字まじ表記ひょうきほう制定せいていされ[15]のち訓令くんれいしきばれる方式ほうしき確立かくりつした[16]。これにならい、1938ねん鉄道てつどうしょうマ字まじ表記ひょうき訓令くんれいしきあらためている。日本にっぽん政府せいふ公的こうてきマ字まじ表記ひょうきが、当時とうじ圧倒的あっとうてき優勢ゆうせいだったヘボンしきではなく、日本にっぽんしきをベースとした理由りゆうについて、柿木かきのきしげるよろしはヘボンしき中心ちゅうしんてき人物じんぶつであった藤岡ふじおか勝二しょうじ1935ねんぼっしたことと関係かんけいするのではないかとしている[17]

1945ねん9月3にちだい世界せかい大戦たいせん直後ちょくご占領せんりょうにおいて、GHQ(SCAP)日本語にほんごをアルファベットであらわ方式ほうしきとして修正しゅうせいヘボンしき採用さいようする指令しれいした。これは公的こうてきマ字まじ表記ひょうきとしての戦前せんぜん訓令くんれいしきえるものとなった[18]

日本にっぽん主権しゅけん回復かいふく国語こくご審議しんぎかいではマ字まじ調査ちょうさ分化ぶんか審議しんぎかいひらき、マ字まじのつづりかた統一とういつしようとした。1953ねん国語こくご審議しんぎ会長かいちょう土岐とき善麿ぜんまろは「マ字まじつづりの単一化たんいつかについて」においてあらたなマ字まじひょうマ字まじ表記ひょうきほう提言ていげんした。これは「だい1ひょう」を戦前せんぜん訓令くんれいしき同一どういつのものとし、訓令くんれいしき復活ふっかつさせるものであったが、日本にっぽんしき修正しゅうせいヘボンしきつづりも「現実げんじつには通用つうようしている」ためかたるべきであるとして、これを「だい2ひょう」としてのこした。この提言ていげん1954ねん12月9にちに「マ字まじのつづりかた」として内閣ないかく告示こくじされたため、名目めいもくじょう公的こうてきマ字まじほうふたた訓令くんれいしきもどることになるが、条件じょうけんきではあるが日本にっぽん政府せいふ修正しゅうせいヘボンしき事実じじつじょうみとめることとなった。

おなじく1954ねんには研究けんきゅうしゃ新和しんわすぐるだい辞典じてんだい3はんにおいて修正しゅうせいヘボンしきひょうあらためてさい定義ていぎし、これを出典しゅってんとしてアメリカ図書館としょかん協会きょうかいおよびアメリカ議会ぎかい図書館としょかんマ字まじ表記ひょうきほうなどべいえい公的こうてき機関きかんマ字まじ表記ひょうきほう採択さいたくされるなど、修正しゅうせいヘボンしきデファクトスタンダードとして戦後せんご国際こくさい社会しゃかいひろまっていった[19]

こうした経緯けいい改訂かいていされてきたヘボンしきかく分野ぶんや様々さまざま時期じき採用さいようされてきた結果けっか、ヘボンしきばれる表記ひょうきほううまかいおよびヘボンの「英語えいごりん集成しゅうせいだい3はんからひろまったきゅうヘボンしきと、マ字まじひろめかい起源きげんとし、GHQの影響えいきょうけた「新和しんわすぐるだい辞典じてん」の修正しゅうせいヘボンしきの、若干じゃっかん規則きそくことなる種類しゅるい系統けいとう混在こんざいすることとなった。どちらの方式ほうしきひろ一般いっぱん普及ふきゅうしており、おなじヘボンしきでも表記ひょうきゆれ発生はっせいする要因よういんとなっている。アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくはじめとする英語えいごけんもっとおお使用しようされている日本語にほんごマ字まじ表記ひょうきほうは「新和しんわすぐるだい辞典じてん」を出典しゅってんとする修正しゅうせいヘボンしきであり、たんに「Hepburn romanization」と場合ばあいはこの修正しゅうせいヘボンしきすことがおおい。一方いっぽう日本にっぽん国内こくないでは旧来きゅうらいからの表記ひょうき使用しようされる分野ぶんやおおく、国内こくないたんに「ヘボンしき」とんだ場合ばあいは「英語えいごりん集成しゅうせいだい3はんきゅうヘボンしきすこともおおい。また、英語えいごけんでもきゅうヘボンしきつづりが定着ていちゃくした日本語にほんご由来ゆらい単語たんごTempuraなど)が存在そんざいする。

また、上記じょうきの「新和しんわすぐるだい辞典じてん」のマ字まじ表記ひょうき日本にっぽん国内外こくないがいで「Modified Hepburn(修正しゅうせいヘボンしき)」として定着ていちゃくする以前いぜんにも、ヘボンしき幾度いくどもの修正しゅうせいかさねてきたため、文献ぶんけんによっては2020ねん現在げんざいとはことなる意味いみで「修正しゅうせいヘボンしき」という呼称こしょう使用しようしている場合ばあいがあるため注意ちゅうい必要ひつようである。れいとして、現在げんざいでは修正しゅうせいヘボンしきとは区別くべつされている「英語えいごりん集成しゅうせいだい3はんのヘボンしきも、初版しょはんおよびだい2はんとはことなるという意味いみ修正しゅうせいヘボンしきばれる場合ばあいがある[20][21]

ひょう表記ひょうきほう[編集へんしゅう]

ヘボンしきではラテン・アルファベット26文字もじのうち、L・Q・V・Xの4のぞいた22文字もじ使用しようする。訓令くんれいしきとくらべてC・F・Jの3文字もじおおい。

子音しいん+たん母音ぼいんについて、以下いか五十音ごじゅうおんふうしめす。訓令くんれいしきとは14かしょちがいがある。以下いかひょうではことなる部分ぶぶんちゃけいしょくセルとしろ太字ふとじしめす(カッコない訓令くんれいしきでの表記ひょうきしめす)。

あ a い i う u え e お o
か ka き ki く ku け ke こ ko きゃ kya きぃ kyi きゅ kyu きぇ kye きょ kyo
が ga ぎ gi ぐ gu げ ge ご go ぎゃ gya ぎぃ gyi ぎゅ gyu ぎぇ gye ぎょ gyo
さ sa shi(si) す su せ se そ so しゃ sha(sya) しぃ shi(syi) しゅ shu(syu) しぇ she(sye) しょ sho(syo)
ざ za ji(zi) ず zu ぜ ze ぞ zo じゃ ja(zya) じぃ ji(zyi) じゅ ju(zyu) じぇ je(zye) じょ jo(zyo)
た ta chi(ti) tsu(tu) て te と to ちゃ cha(tya) ちぃ chi(tyi) ちゅ chu(tyu) ちぇ che(tye) ちょ cho(tyo)
だ da ji(di) zu(du) で de ど do ぢゃ dya ぢぃ dyi ぢゅ dyu ぢぇ dye ぢょ dyo
な na に ni ぬ nu ね ne の no にゃ nya にぃ nyi にゅ nyu にぇ nye にょ nyo
は ha ひ hi fu(hu) へ he ほ ho ひゃ hya ひぃ hyi ひゅ hyu ひぇ hye ひょ hyo
ば ba び bi ぶ bu べ be ぼ bo びゃ bya びぃ byi びゅ byu びぇ bye びょ byo
ぱ pa ぴ pi ぷ pu ぺ pe ぽ po ぴゃ pya ぴぃ pyi ぴゅ pyu ぴぇ pye ぴょ pyo
ま ma み mi む mu め me も mo みゃ mya みぃ myi みゅ myu みぇ mye みょ myo
や ya ゆ yu よ yo
ら ra り ri る ru れ re ろ ro りゃ rya りぃ ryi りゅ ryu りぇ rye りょ ryo
ら゚ la り゚ li る゚ lu れ゚ le ろ゚ lo り゚ゃ lya り゚ぃ lyi り゚ゅ lyu り゚ぇ lye り゚ょ lyo
わ wa ゐ i ゑ e を o
わ゙ va ゐ゙ vi ゔ vu ゑ゙ ve を゙ vo
ん n

ヘボンしき表音ひょうおんてきであり、標準ひょうじゅんてき日本語にほんごでは発音はつおんじょう区別くべつされない「じ・ぢ」「ず・づ」「お・を」などをけない。

ぎょう鼻濁音びだくおん子音しいん破裂はれつおん区別くべつせず、ともにgを使用しようする(訓令くんれいしき日本にっぽんしきでも同様どうよう)。

ちょう母音ぼいん通常つうじょうはは音字おんじうえマクロンいてōのようにしめされるが、マ字まじひろめかい標準ひょうじゅんしきでは訓令くんれいしき同様どうようサーカムフレックス使つかうこととしている[9]。もっともちょう母音ぼいんたん母音ぼいん区別くべつせずに記号きごう省略しょうりゃくする形式けいしきもあり、とく国際こくさいてきられている地名ちめいなどは慣例かんれいてきちょう母音ぼいん表記ひょうきしない場合ばあいおおい(れい:トーキョー→Tokyo)。

撥音はつおん(ん)は原則げんそくとしてnでしめされる。きゅうヘボンしきではうしろにp, b, mがつづくときにはnのわりにmで表記ひょうきされるが(れい:しんばし→Shimbashi)、「マ字まじひろめかい」および「新和しんわすぐるだい辞典じてん」の修正しゅうせいヘボンしきではつねにnで表示ひょうじされる(しんばし→Shinbashi)。撥音はつおんうしろにはは音字おんじまたはyがつづ場合ばあいあいだきゅうヘボンしきではハイフン(ほんやく→Hon-yaku)、修正しゅうせいヘボンしきではアポストロフィ区切くぎる(ほんやく→Hon'yaku)。

促音そくおん(っ)は子音しいんの1文字もじかさねるが、chについてはcchではなくtchとする。

アクセント表記ひょうきしない(訓令くんれいしき日本にっぽんしきでも同様どうよう)。

かく分野ぶんやでの採用さいようれい[編集へんしゅう]

上記じょうきのようにヘボンしき日本にっぽんしき訓令くんれいしき競合きょうごう関係かんけいにあり、また一時期いちじき日本にっぽん政府せいふ公的こうてきマ字まじ表記ひょうきから排除はいじょされていたにもかかわらず、様々さまざま分野ぶんや各種かくしゅのヘボンしきひろ採用さいようされている。

府中ふちゅう本町ほんちょうえき駅名えきめいしるべ1986ねん国鉄こくてつ時代じだい)。なお、現行げんこう案内あんないでは「Fuchūhommachi」表記ひょうきとなっている。

鉄道てつどう駅名えきめい運輸省うんゆしょう鉄道てつどう掲示けいじ規程きてい」(1947ねん7がつ26にち たち398ごうのちすうかい改訂かいてい)でヘボンしき使つかうこととしている。表記ひょうきほうは「英語えいごりん集成しゅうせい」のきゅうヘボンしきじゅんじており、大正たいしょう時代じだいから基本きほんてき変化へんかがない。ちょう母音ぼいんはマクロンを使用しようする。撥音はつおんはb/m/pのまえでmを使用しようし、うしろに母音ぼいんやyがあった場合ばあい、あるいは方角ほうがく東西とうざい南北なんぼく)やしんなどをかんしたのち、もしくは固有名詞こゆうめいしわせた地名ちめいとうにはハイフンをくわえる。JR以外いがい鉄道てつどう事業じぎょうしゃおおむきゅうヘボンしき使つかっているが、ちょう母音ぼいん撥音はつおん、ハイフン大文字おおもじ小文字こもじかたとう多少たしょう統一とういつられる(直通ちょくつう運転うんてんがあるとう直通ちょくつう相手あいて路線ろせん路線ろせんふくまれる場合ばあい自社じしゃきょく方式ほうしき他社たしゃきょく方式ほうしきのどちらにわせているかは事業じぎょうしゃによる)。

道路どうろ標識ひょうしきにおいては1986ねん10がつ25にち建設省けんせつしょう道路どうろ標識ひょうしきれい」でヘボンしき採用さいようしている。おおむ修正しゅうせいヘボンしきじゅんじた表記ひょうき採用さいようされており、撥音はつおんはnで統一とういつされているが、撥音はつおんうしろにはは音字おんじまたはyがつづ場合ばあい区切くぎ記号きごうきゅうヘボンしきじゅんじたハイフンである。また、ちょう母音ぼいんたん母音ぼいん区別くべつされない[22][23]

日本にっぽん地質ちしつ学会がっかい1952ねん地層ちそう命名めいめいにヘボンしき使つかうことを決定けっていした。気象庁きしょうちょう1955ねん3月1にち通達つうたつ気象きしょう年報ねんぽう月報げっぽう地名ちめいにヘボンしき採用さいようしている。地質調査所ちしつちょうさしょは1984ねん4がつ17にち規程きていでヘボンしき採用さいようした。水路すいろ訓令くんれいしき使つかってきたが、1999ねんにヘボンしき移行いこうした[23]

国土こくど地理ちりいん原則げんそくとして訓令くんれいしき使用しようしてきたが、2004ねん11月11にち国土こくど地理ちり院長いんちょうたち34ごうでヘボンしきあらためられた。道路どうろ標識ひょうしき同様どうよう修正しゅうせいヘボンしきであり、撥音はつおんつねにnとくが、母音ぼいんやyのまえではハイフンで区切くぎる。また、ちょう母音ぼいんたん母音ぼいん区別くべつされない[23]

日本国にっぽんこく旅券りょけん名前なまえ表記ひょうきマ字まじは、外務省がいむしょう旅券りょけんほう施行しこう規則きそく」により、特別とくべつ申請しんせいしない場合ばあい、ヘボンしき使用しようする。きゅうヘボンしきじゅんじた表記ひょうきほう採用さいようされており、撥音はつおんはb/m/pのまえでmを使用しようし、うしろに母音ぼいんやyがあった場合ばあいにはなにくわえない。ちょう母音ぼいんたん母音ぼいん区別くべつしない[23][24]

日本にっぽん郵便ゆうびん国際こくさい郵便ゆうびんマ字まじ方式ほうしきについてとく規定きていしていないが、郵便ゆうびん番号ばんごうデータファイルではきゅうヘボンしきもちいており、撥音はつおんはb/m/pのまえでmとしるし、ちょう母音ぼいんたん母音ぼいん区別くべつしない[25]

日本にっぽん地方ちほう公共こうきょう団体だんたいではその名称めいしょうマ字まじ表記ひょうきにヘボンしきもちいていることが大半たいはんであるが、ちょう母音ぼいんなど記号きごうるい省略しょうりゃくされる場合ばあいおおい。撥音はつおんあつかいについては地方ちほう公共こうきょう団体だんたいによってきゅうヘボンしき採用さいようするか修正しゅうせいヘボンしき採用さいようするか方針ほうしんかれており、二本松にほんまつ(Nihonmatsu)、紋別もんべつ(Monbetsu)などで修正しゅうせいヘボンしきが、丹波たんば(Tamba)、仙北せんぼく(Semboku)などではきゅうヘボンしきもちいられている。日本にっぽんレジストリサービス管理かんりするLGドメインめい地方ちほう公共こうきょう団体だんたいラベルは都道府県とどうふけんまたは市区しく町村ちょうそん名称めいしょうをヘボンしきなおしたものをもちいるとされているが、前述ぜんじゅつ地方ちほう公共こうきょう団体だんたいによる採用さいよう方式ほうしきちがいを反映はんえい複数ふくすうのヘボンしき混在こんざいしている[26]

外国がいこく地名ちめいでも撥音はつおんでb/m/pのまえでmを使用しようせず、nを使用しようした表記ひょうきおおられる。代表だいひょうれいとして国名こくめいデンマークDanmark)やミャンマーMyanmar)、スコットランド首都しゅとエディンバラEdinburgh)やオーストラリア首都しゅとキャンベラCanberra)などが正式せいしき英名えいめい表記ひょうきとして採用さいようされている。

アメリカ図書館としょかん協会きょうかいおよびアメリカ議会ぎかい図書館としょかんマ字まじ表記ひょうきほうは、前述ぜんじゅつとおり「新和しんわすぐるだい辞典じてんだい3はん出典しゅってんとした修正しゅうせいヘボンしきとなっており、ちょう母音ぼいんにはマクロンを使つかう。撥音はつおんつねにnとしるし、母音ぼいんやyが後続こうぞくするときにはハイフンで区切くぎ[27]

米国べいこく国家こっか規格きかく協会きょうかいではANSI Z39.11-1972 “System for the romanization of Japanese” において修正しゅうせいヘボンしき採用さいようしたが、のち訓令くんれいしきもとづくISO 3602の登場とうじょうけて1994ねん廃止はいしされているアメリカ情報じょうほう標準ひょうじゅん機構きこう英語えいごばんによって撤回てっかいされている[28]

英国えいこくにおいては「アメリカ地名ちめい委員いいんかいおよびイギリス地名ちめい常置じょうち委員いいんかいの1976ねん合意ごういもとづく修正しゅうせいヘボンしき[29]ばれる表記ひょうきほうもちいられている。

アメリカでよく使つかわれるエレノア・ジョーデン日本語にほんご教科書きょうかしょでは本文ほんぶん訓令くんれいしきをベースとしたマ字まじ表記ひょうきほうJSLマ字まじ)を使用しようしているが、英文えいぶんちゅう日本語にほんご引用いんようぶんのぞく)ではヘボンしき使つかっている[30]

アメリカにおける標準ひょうじゅんてきスタイルガイドである『シカゴ・マニュアル』では、日本にっぽんマ字まじにはさまざまな方式ほうしきがあるものの、明治めいじ初年しょねん以来いらいもっともよく使つかわれているのは修正しゅうせいヘボンしきであるとしている。日本にっぽんでは修正しゅうせいヘボンしき研究けんきゅうしゃ辞典じてんほか主要しゅよう和英かずひで辞典じてん使つかわれているとしている。日本にっぽん以外いがいではほとんど修正しゅうせいヘボンしきのみが使つかわれているとしている。撥音はつおん母音ぼいんやyが後続こうぞくするときに区切くぎりとしてれるアポストロフィおよびちょう母音ぼいんであることをしめすマクロンについては、よくられた地名ちめい英語えいごされた日本語にほんご単語たんご場合ばあい正確せいかく発音はつおんしめ目的もくてき以外いがいではけないと例外れいがいしめしている[31]

評価ひょうか[編集へんしゅう]

日本にっぽんしき訓令くんれいしき比較ひかくしたヘボンしき欠点けってんとしては、シをshi、チをchi、ツをtsuのように3文字もじ使つかってくなど、おと正確せいかくさを追求ついきゅうしたがゆえ文字数もじすうおおくなるというてんげられる。

きゅうヘボンしきおおくの日本人にっぽんじん意識いしきてき区別くべつしないb, m, pの煩雑はんざつ使つかけがある。

ダニエル・ジョーンズは、ヘボンしき日本語にほんごではおとにすぎないものを英語えいごのフィルタによって区別くべつしてあらわしているとして批判ひはんした[32]。さらに拗音ようおんがシャ・ジャ・チャのみ子音しいん+yではなく、sh/j/chという特別とくべつかたち表記ひょうきされるのも、音韻おんいんろんてき合理ごうりてきではないとされている[33]

他方たほう子音しいんかんしては英語えいごおなかたでおおむね近似きんじできるという利点りてんがある。

また訓令くんれいしきにも共通きょうつう問題もんだいとして長音符ちょうおんぷ表記ひょうき問題もんだいがあり、長音ちょうおん記号きごう省略しょうりゃくされると高利こうり(こうり)とこおり(こおり)と狐狸こり(こり)がすべて「kori」、とおり(とおり)と党利とうり(とうり)ととり(とり)がすべて「tori」、美濃みの(みのう)と箕面みのお(みのお)などは長音符ちょうおんぷをつけても区別くべつできないなど、ややこしいかたり存在そんざいするため、日本語にほんご仮名遣かなづかいとは相容あいいれない部分ぶぶんがある。長音ちょうおん記号きごう省略しょうりゃくされることが非常ひじょうおおいことや、パソコンで使用しようするマ字まじ入力にゅうりょく方式ほうしきでは長音ちょうおん省略しょうりゃくしないこともあり、誤記ごき誤解ごかいまねく。たとえば京都きょうとはKyotoと表記ひょうきするが、これをそのまま入力にゅうりょくすると「きょと」となってしまい、「kyouto」と入力にゅうりょくする必要ひつようがあることなどがげられる。

ハロルド・E・パーマーは、日本にっぽんマ字まじろん正書法せいしょほうこぼし音声おんせい表記ひょうきの3種類しゅるい混同こんどうしていることを批判ひはんし、正書法せいしょほうとしては日本にっぽんしき支持しじするが、外国がいこくじんけの表記ひょうきとしてはヘボンしき学者がくしゃ音声おんせい表記ひょうきとしては国際こくさい音声おんせい記号きごう使つかうのが適当てきとうとした[34]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ オードリー・ヘプバーンなどと同姓どうせい表記ひょうきことなるのはもっぱら転写てんしゃじょう都合つごうである。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ 杉本すぎもと(1989) pp.262 - 263
  2. ^ かやとう(2000) p.126
  3. ^ 訓点くんてん聖書せいしょマ字まじ聖書せいしょ明治学院大学めいじがくいんだいがく図書館としょかん デジタルアーカイブスhttp://www.meijigakuin.ac.jp/mgda/bible/topics/kanyaku.html 
  4. ^ 国語こくご施策しさくひゃくねん』pp.207 - 208
  5. ^ うまかいうまにて日本語にほんごかた』1885ねんhttps://www.let.osaka-u.ac.jp/okajima/hyoki/roma.pdf 
  6. ^ a b 服部はっとり(1960) p.675
  7. ^ 明治学院大学めいじがくいんだいがく図書館としょかん - かず英語えいごりん集成しゅうせいデジタルアーカイブス - かず英語えいごりん集成しゅうせいかくはんマ字まじ対照たいしょうひょう”. Meijigakuin.ac.jp. 2024ねん5がつ26にち閲覧えつらん
  8. ^ 国語こくご施策しさくひゃくねん』p.210
  9. ^ a b 藤岡ふじおか勝二しょうじマ字まじ手引てびきマ字まじひろめかい、1906ねんhttps://www.let.osaka-u.ac.jp/okajima/hyoki/romate.pdf 
  10. ^ Seeley, Christopher (2000). A History of Writing in Japan (Illustrated, reprint ed.). University of Hawaii Press. p. 140. ISBN 9780824822170. https://books.google.com/books?id=ZIkuX0US69QC&q=%22standard%20system%22%20romaji&pg=PA140 2020ねん11月1にち閲覧えつらん 
  11. ^ Unger, J. Marshall (1996). Literacy and Script Reform in Occupation Japan: Reading between the Lines. Oxford University Press. p. 53. ISBN 9780195356380. https://books.google.com/books?id=ScHa7N2_0HkC&q=%22standard%20system%22%20romaji&pg=PA53 2020ねん11月1にち閲覧えつらん 
  12. ^ 国語こくご施策しさくひゃくねん』p.211
  13. ^ 柿木かきのき(2013) p.135
  14. ^ 柿木かきのき(2013) p.152
  15. ^ 内閣ないかく訓令くんれいだいさんごう』1937ねんhttp://www.cityfujisawa.ne.jp/~roomazi/Tuzuri/kunrei3.html マ字まじ文庫ぶんこ
  16. ^ 国語こくご施策しさくひゃくねん』p.215
  17. ^ 柿木かきのき(2013) pp.136 - 137
  18. ^ Unger, John Marshall (1996). Literacy and Script Reform in Occupation Japan: Reading between the Lines. Oxford University Press. p. 78. ISBN 978-0-19-535638-0. https://books.google.com/books?id=ScHa7N2_0HkC&pg=PA78 2020ねん11月1にち閲覧えつらん 
  19. ^ UHM Library : Japan Collection Online Resources”. Hawaii.edu (2005ねん10がつ6にち). 2020ねん11月1にち閲覧えつらん
  20. ^ 高谷たかや道男みちお「ヘボン博士はかせ偉大いだいなる功績こうせき」『標準ひょうじゅんしきマ字まじ制定せいていななじゅう周年しゅうねん記念きねん講演こうえんしゅう』(標準ひょうじゅんマ字まじかい、1957ねん)20〜25ぺーじ
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参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]