ベクトル空間くうかん

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線形せんけい空間くうかんから転送てんそう

数学すうがくとく線型せんけい代数だいすうがくにおけるベクトル空間くうかん(ベクトルくうかん、えい: vector space)、または、線型せんけい空間くうかん(せんけいくうかん、えい: linear space)は、ベクトルえい: vector)とばれるもとからなるあつまりの数学すうがくてき構造こうぞうである。

ベクトルにはwikidata定義ていぎされ、またスカラーばれるかずによるせき(スカラー乗法じょうほう)をおこなえる。スカラーは実数じっすうとすることもおおいが、複素数ふくそすう有理数ゆうりすうあるいは一般いっぱんかわからだもとによるスカラー乗法じょうほうつベクトル空間くうかんもある。ベクトルのとスカラー乗法じょうほう演算えんざんは、「ベクトル空間くうかん公理こうり」とばれる特定とくてい条件じょうけん#定義ていぎふし参照さんしょう)を満足まんぞくするものでなければならない。ベクトル空間くうかんひとつのれいは、ちからのような物理ぶつりりょう表現ひょうげんするのにもちいられる空間くうかんベクトル全体ぜんたいである(おな種類しゅるい任意にんいふたつのちからは、くわわせてちから合成ごうせいばれるだいさんちからのベクトルをあたえる。また、ちからのベクトルをじつすうばいしたものはまたべつちからのベクトルをあらわす)。おな調子ちょうしで、平面へいめん空間くうかんでの変位へんいあらわすベクトルの全体ぜんたいもやはりベクトル空間くうかんす。

ベクトル空間くうかん線型せんけい代数だいすうがくにおける主題しゅだいであり、ベクトル空間くうかんはその次元じげん大雑把おおざっぱにいえばその空間くうかん独立どくりつ方向ほうこうかずめるもの)によって特徴とくちょうづけられる。ベクトル空間くうかんは、さらにノルム内積ないせきなどの追加ついか構造こうぞうつこともあり、そのようなベクトル空間くうかん解析かいせきがくにおいておも関数かんすうをベクトルとする無限むげん次元じげん関数かんすう空間くうかんかたち自然しぜんしょうじてくる。解析かいせきがくてき問題もんだいでは、ベクトルのれつあたえられたベクトルに収束しゅうそくするかかを決定けっていすることもできなければならないが、これはベクトルそらはたあいだ追加ついか構造こうぞうかんがえることで実現じつげんされる。そのような空間くうかんのほとんどは適当てきとう位相いそう空間くうかんそなえており、それによって近傍きんぼう連続れんぞくといったことをかんがえることができる。こういた線型せんけい位相いそう空間くうかんとくバナッハ空間くうかんヒルベルト空間くうかんについては、ゆたかな理論りろん存在そんざいする。

歴史れきしてき視点してんでは、ベクトル空間くうかん概念がいねん萌芽ほうがは17世紀せいき解析かいせき幾何きかがく行列ぎょうれつ線型せんけい方程式ほうていしきけい理論りろん、ベクトルの概念がいねんなどにまでさかのぼれる。現代げんだいてきな、より抽象ちゅうしょうてき取扱とりあつかいがはじめて定式ていしきされるのは、19世紀せいき後半こうはんペアノによるもので、それはユークリッド空間くうかんよりも一般いっぱん対象たいしょう範疇はんちゅうふくまれるものであったが、理論りろん大半たいはんは(直線ちょくせん平面へいめんあるいはそれらのこう次元じげんでの対応たいおうぶつといったような)古典こてんてき幾何きかがくてき概念がいねん拡張かくちょうすることにかれていた。

今日きょうでは、ベクトル空間くうかん数学すうがくのみならず科学かがく工学こうがくにおいてもひろ応用おうようされる。ベクトル空間くうかん線型せんけい方程式ほうていしきけいあつかうための適当てきとう概念がいねんであり、たとえば画像がぞう圧縮あっしゅくルーチンで使つかわれるフーリエ級数きゅうすうのための枠組わくぐみを提示ていじしたり、あるいはへん微分びぶん方程式ほうていしき解法かいほうもちいることのできる環境かんきょう提供ていきょうする。さらには、テンソルのような幾何きかがくてきおよび物理ぶつりがくてき対象たいしょうを、抽象ちゅうしょうてき座標ざひょうらない (えい: coordinate-free) であつか方法ほうほうあたえてくれるので、そこからさらに線型せんけい手法しゅほうもちいて、多様たようたい局所きょくしょてき性質せいしつ説明せつめいすることもできるようになる。

ベクトル空間くうかん概念がいねん様々さまざま方法ほうほう一般いっぱんされ、幾何きかがく抽象ちゅうしょうだい数学すうがくのよりすすんだ概念がいねんみちびかれる。

導入どうにゅう[編集へんしゅう]

ベクトル空間くうかん概念がいねんについて、特定とくていふたつの場合ばあいれいにとって簡単かんたん内容ないよう説明せつめいする。

平面へいめんじょう有向ゆうこう線分せんぶん[編集へんしゅう]

ベクトル空間くうかん簡単かんたんれいは、ひとつの平面へいめんうえ固定こていしたてん始点してんとする矢印やじるし有向ゆうこう線分せんぶんすべての集合しゅうごうあたえられる。これは物理ぶつりがくちから速度そくどなどを記述きじゅつするのにもつかわれる。そのような有向ゆうこう線分せんぶん vwあたえられたとき、そのふたつの有向ゆうこう線分せんぶん平行四辺形へいこうしへんけいにはその対角線たいかくせんにもうひとつ、原点げんてん始点してんとする有向ゆうこう線分せんぶんふくまれる。このあたらしい有向ゆうこう線分せんぶんを、ふたつの有向ゆうこう線分せんぶん v + wぶ。もうひとつの演算えんざん有向ゆうこう線分せんぶんちぢみ(スケール因子いんし)させるもので、任意にんいせい実数じっすう aあたえられたとき、vきはおなじでながさだけを aぶんだけ拡大かくだい (えい: dilate) または縮小しゅくしょう (えい: shrink) した有向ゆうこう線分せんぶんを、va-ばい avう。aまけのときは av今度こんどぎゃく方向ほうこうちぢみさせることで同様どうようさだめる。

いくつか実際じっさい図示ずしすれば、たとえば a = 2 のとき、られるベクトル awwどう方向ほうこうながさが wばいのベクトル (下図したずみぎあか) であり、この 2w w + w ともひとしい。さらに (−1)v = −vvおなながさできだけが vぎゃくになる (下図したずみぎあお)。

ベクトルの加法: ベクトル v (青) と w (赤) との和 v + w (黒) スカラー乗法: −v および 2w

かず順序じゅんじょたい[編集へんしゅう]

もうひと重要じゅうようれいは、実数じっすう x, yたいによってあたえられる(xyたいならべる順番じゅんばん重要じゅうようであり、そのようなたい順序じゅんじょたいという)。このたい(x, y)く。そのようなたいふたつのおよびじつすうばい

(x1, y1) + (x2, y2) = (x1 + x2, y1 + y2)

および

a (x, y) = (ax, ay)

定義ていぎされる。

定義ていぎ[編集へんしゅう]

集合しゅうごう V が、そのうえこう演算えんざん + と、からだ FV への作用さよう をもち、これらが任意にんい u, v, wV; a, bF[nb 1]かんしてつぎ公理系こうりけいたすとき、さんくみ (V, +, ◦) は「からだ F うえのベクトル空間くうかん」と定義ていぎされる[1][2]

公理こうり 条件じょうけん
加法かほう結合けつごうりつ
加法かほうかわりつ
加法かほう単位たんいもと存在そんざい れいベクトル 存在そんざいして、任意にんいたいして たす。
加法かほうぎゃくもと存在そんざい 任意にんいのベクトル たいし、その加法かほうぎゃくもと 存在そんざいして、 となる。
加法かほうたいするスカラー乗法じょうほう分配ぶんぱいりつ
からだ加法かほうたいするスカラー乗法じょうほう分配ぶんぱいりつ
からだ乗法じょうほうとスカラーの乗法じょうほう両立りょうりつ条件じょうけん [nb 2]
スカラーの乗法じょうほう単位たんいもと存在そんざい 左辺さへん1F乗法じょうほう単位たんいもと

ベクトル空間くうかん要素ようそはそれぞれのようにばれる。

導入どうにゅうぶしでは始点してん固定こていした有向ゆうこう平面へいめん線分せんぶん全体ぜんたい実数じっすう順序じゅんじょたい全体ぜんたい集合しゅうごうをベクトル空間くうかんれいとしてげたが、これらはともに実数じっすうたい実数じっすう全体ぜんたいからなるからだじょうのベクトル空間くうかんである。公理系こうりけいはこのようなベクトルの性質せいしつ一般いっぱんしたものである。実際じっさい番目ばんめれいふたつの順序じゅんじょたいは、をとる順番じゅんばんらず

(xv, yv) + (xw, yw) = (xw, yw) + (xv, yv)

たす。有向ゆうこう線分せんぶんれいでも v + w = w + v となることは、定義ていぎする平行四辺形へいこうしへんけい順番じゅんばん依存いぞんしないことからえる。公理こうり同様どうよう方法ほうほうたすことがどちらのれいについてもいえる。ゆえに、特定とくてい種類しゅるいのベクトルが具体ぐたいてき特質とくしつというものは無視むしして、この定義ていぎによって、さきふたつあるいはもっとほかのれいもひっくるめて、ベクトル空間くうかんというひとつの概念がいねんとしてあつかうのである。

ベクトル空間くうかん係数けいすうたい種類しゅるいもとづきのようにばれる:

からだというのは本質ほんしつてきに、四則しそく演算えんざん自由じゆうにできるかず集合しゅうごうである[nb 3]たとえば有理数ゆうりすう全体ぜんたい Q もまたからだす。

平面へいめんやより高次こうじ空間くうかんにおけるベクトルには、直観ちょっかんてきに、ちかさや角度かくど距離きょりという概念がいねん存在そんざいする。しかし、一般いっぱんてきなベクトル空間くうかんにおいてはそれらの概念がいねん不要ふようであり、実際じっさい、そういうものが存在そんざいしないベクトル空間くうかんもある。これらの概念がいねんは、一般いっぱんてきなベクトル空間くうかん追加ついかてき定義ていぎされる構造こうぞうである (#付加ふか構造こうぞうそなえたベクトル空間くうかん)。

べつ定式ていしき初等しょとうてき帰結きけつ[編集へんしゅう]

ベクトルの加法かほうやスカラー乗法じょうほうは(こう演算えんざん定義ていぎによって)閉性ばれる性質せいしつたすものとなる(つまり Vかくもと u, v および Fかくもと aたいして u + v および avかならVぞくする)。これをベクトル空間くうかん公理こうり独立どくりつした条件じょうけんとしてくわえている文献ぶんけんもある[3]

抽象ちゅうしょうだい数学すうがく言葉ことばえば、さき公理系こうりけい最初さいしょよっつは「ベクトルの全体ぜんたい加法かほうかんしてアーベルぐんす」という条件じょうけんにまとめられる。のこりの条件じょうけんは「このぐん F うえぐんとなる」という条件じょうけんにまとめられる。あるいはこれを「からだ F からベクトル全体ぜんたいぐん自己じこじゅん同型どうけいたまきへのかんじゅん同型どうけい f存在そんざいすること」といいかえることもできる。この場合ばあいスカラー乗法じょうほうav ≔ (f(a))(v)さだめられる[4]

ベクトル空間くうかん公理系こうりけいから直接的ちょくせつてきかることがいくつかある。それらのうちのいくつかは群論ぐんろんをベクトル全体ぜんたい加法かほうぐん適用てきようすることでられる。たとえば Vれいベクトル 0かくもと v加法かほうぎゃくもと v一意いちい存在そんざいすることなどはそれである。その方法ほうほうられない性質せいしつ分配ぶんぱい法則ほうそくからるもので、たとえば av = 0a = 0 または v = 0 などがそうである。

歴史れきし[編集へんしゅう]

ベクトル空間くうかんは、平面へいめん空間くうかん座標ざひょうけい導入どうにゅうすることをつうじて、アフィン空間くうかんからしょうじる。1636ねんごろ、ルネ・デカルトピエール・ド・フェルマーは、変数へんすう方程式ほうていしきかい平面へいめん曲線きょくせんうえてんとを等化とうかして、解析かいせき幾何きかがく発見はっけんした[5]座標ざひょうもちいない幾何きかがくてきかい到達とうたつするために、ベルナルト・ボルツァーノは1804ねんに、てん同士どうしおよびてん直線ちょくせんあいだ演算えんざん導入どうにゅうした。これはベクトルの前身ぜんしんとなる概念がいねんである[6]。ボルツァーノの研究けんきゅうアウグスト・フェルディナント・メビウスが1827ねん提唱ていしょうした重心じゅうしん座標ざひょうけい英語えいごばん (えい: barycentric coordinates) の概念がいねんもちいて構築こうちくされたものであった[7]。ベクトルの定義ていぎ基礎きそとなったのは、ジュスト・ベラヴィティス英語えいごばんそうてん (えい: bipoint) の概念がいねんで、これは一方いっぽう端点たんてん始点してん他方たほう端点たんてん終点しゅうてんとする有向ゆうこう線分せんぶんである。ベクトルは、ジャン=ロベール・アルガン英語えいごばんウィリアム・ローワン・ハミルトンにより複素数ふくそすう表現ひょうげんとして見直みなおされ、よんげんすうそうよんげんすう英語えいごばん概念がいねんへとつながっていく[8]。これらのかずはそれぞれ R2, R4, R8もとであり、これらにたいする線型せんけい結合けつごうもちいた取扱とりあつかいは、1867ねんエドモンド・ラゲールかれ線型せんけい方程式ほうていしきけい定義ていぎした)までさかのぼれる。

1857ねんアーサー・ケイリーは、線型せんけい写像しゃぞうとよく馴染なじ記述きじゅつ簡素かんそできる、行列ぎょうれつ導入どうにゅうした。おなごろヘルマン・グラスマンはメビウスの「重心じゅうしん計算けいさん」 (えい: the barycentric calculus) を研究けんきゅうしていて、算法さんぽうともな抽象ちゅうしょうてき対象たいしょう集合しゅうごう構想こうそうしていた[9]。グラスマンの研究けんきゅうには、線型せんけい独立どくりつ次元じげんあるいはドットせきなどの概念がいねんふくまれている。実際じっさい、グラスマンは1844ねんに、考案こうあんした乗法じょうほうを以ってベクトル空間くうかん枠組わくぐみをすすめ、今日きょうでは「からだじょう多元たげんたまき」とばれる概念がいねん到達とうたつしている。ジュゼッペ・ペアノはベクトル空間くうかん線型せんけい写像しゃぞう現代げんだいてき定義ていぎあたえた最初さいしょひとで、それは1888ねんのことである[10]

ベクトル空間くうかん重要じゅうよう発展はってんアンリ・ルベーグによる函数かんすう空間くうかん構成こうせいによってこり、の1920ねんごろにステファン・バナフダフィット・ヒルベルトによって定式ていしきされた[11]。その当時とうじ代数だいすうがくあたらしい研究けんきゅう分野ぶんやであった関数かんすう解析かいせきがくとが相互そうご影響えいきょうはじめ、 p-積分せきぶん函数かんすう空間くうかん Lpヒルベルト空間くうかんなどの重要じゅうよう概念がいねんされることとなる[12]。そうして無限むげん次元じげん場合ばあいをもふくむベクトル空間くうかん概念がいねんかた確立かくりつされたものとなり、おおくの数学すうがく分野ぶんやにおいてもちいられはじめた。

れい[編集へんしゅう]

かずベクトル空間くうかん[編集へんしゅう]

からだ F うえのベクトル空間くうかんのもっとも簡単かんたんれいからだ F 自身じしん(に、その標準ひょうじゅんてき加法かほう乗法じょうほうかんがえたもの)である。これはふつう Fnかれるかずベクトル空間くうかん (えい: coordinate space ) の n = 1場合ばあいである。このすうベクトル空間くうかんもと nながn数列すうれつ):

で、かく aiFもとであるようなものである[13]F = R かつ n = 2場合ばあい上記じょうき#導入どうにゅうふしろんじたものとなる。

からだ拡大かくだい[編集へんしゅう]

複素数ふくそすう全体ぜんたい集合しゅうごう C, つまり実数じっすう x, yもちいて x + iyかたちあらわすことができるかず(ただし、虚数きょすう単位たんい)の全体ぜんたいは、x, y, a, b, cいずれも実数じっすうであるものとして、通常つうじょう (x + iy) + (a + ib) = (x + a) + i(y + b)じつすうばい c(x + iy) = (cx) + i(cy) によって、実数じっすうたいじょうのベクトル空間くうかんになる(ベクトル空間くうかん公理こうり複素数ふくそすう算術さんじゅつおな規則きそく満足まんぞくするという事実じじつからしたがう)。

じつは、この複素数ふくそすうたいれい本質ほんしつてきには(つまり、同型どうけい意味いみで)導入どうにゅうぶしげた実数じっすう順序じゅんじょたいすベクトル空間くうかんれいおなじものである。すなわち、複素数ふくそすう x + iy複素ふくそ平面へいめん において順序じゅんじょたい (x, y)あらわすものとかんがえると、複素数ふくそすうたいにおけるとスカラーとのせき規則きそくが、さきれいのそれらに対応たいおうすることが理解りかいされる。

より一般いっぱんに、代数だいすうがくおよび代数だいすうてき整数せいすうろんにおけるからだ拡大かくだいは、ベクトル空間くうかんれい一類いちるいあたえる。すなわち、からだ F部分ぶぶんたいとしてふくからだ E は、E における加法かほうFもとE における乗法じょうほうとにかんして F-ベクトル空間くうかんになる[14]たとえば、複素数ふくそすうたいR うえのベクトル空間くうかんであり、拡大かくだいたい Q うえのベクトル空間くうかんである。とくかずろんてき意味いみのあるれいは、有理数ゆうりすうたい Qひとつの代数だいすうてき複素数ふくそすう αあるふぁ添加てんかする拡大かくだい代数だいすうたいQ(αあるふぁ) である(Q(αあるふぁ)Qαあるふぁ とをふく最小さいしょうからだになる)。

函数かんすう空間くうかん[編集へんしゅう]

任意にんいひとつの集合しゅうごう Ωおめが からからだ F への函数かんすう全体ぜんたいもまた、よくあるてんごとのとスカラーばいによって、ベクトル空間くうかんす。すなわち、ふたつの函数かんすう f, g (f + g)

定義ていぎされる函数かんすうであり、スカラーばい同様どうようである。そのような函数かんすう空間くうかんおおくの幾何きかがくてき状況じょうきょうしょうじる。たとえば Ωおめが実数じっすう直線ちょくせん R やその区間くかんあるいは Rほか部分ぶぶん集合しゅうごうなどのときである。位相いそう空間くうかんろん解析かいせきがくにおけるおおくの概念がいねんたとえば連続れんぞくせい積分せきぶんせい微分びぶんせいなどは、線型せんけいせいかんしてよくう。すなわち、そのような性質せいしつたす函数かんすう加算かさんやスカラーばいもまたおな性質せいしつ[15]したがって、そのような函数かんすう全体ぜんたい集合しゅうごうもまたそれぞれベクトル空間くうかんす。これら函数かんすう空間くうかんは、函数かんすう解析かいせきがく方法ほうほうもちいてかなりくわしく調しらべられている(#付加ふか構造こうぞうそなえたベクトル空間くうかんふし参照さんしょう)。代数だいすうがくてき制約せいやくからもベクトル空間くうかんることができる。ベクトル空間くうかん F[x]多項式たこうしき函数かんすう

(ただしかく係数けいすう r0, ..., rnFもと)の全体ぜんたいによってあたえられる[16]

線型せんけい方程式ほうていしきかい空間くうかん[編集へんしゅう]

ひとし線型せんけい方程式ほうていしきけいはベクトル空間くうかんちかしい関係かんけいにある[17]たとえば方程式ほうていしきけい

a + 3b + c = 0
4a + 2b + 2c = 0

かい全体ぜんたいは、任意にんいaたいして a, b = a/2, c = −5a/2みっぐみとしてあたえられる。これらのぐみ成分せいぶんごとの加算かさんとスカラーばいはやはりおなみっつの変数へんすうくみであるから、これもかいとなり、かい全体ぜんたいはベクトル空間くうかんす。行列ぎょうれつ使つかえば上記じょうき複数ふくすう線型せんけい方程式ほうていしき簡略かんりゃくしてひとつのベクトル方程式ほうていしき、つまり

にすることができる。ここで Aあたえられた方程式ほうていしき係数けいすうふく行列ぎょうれつx はベクトル (a, b, c) であり、Ax行列ぎょうれつ乗法じょうほうを、0 = (0, 0)れいベクトルをそれぞれ意味いみする。同様どうよう文脈ぶんみゃくで、ひとし線型せんけい微分びぶん方程式ほうていしきかい全体ぜんたいもまたベクトル空間くうかんす。たとえば、

(1)

けば、a, b任意にんい定数ていすうとして f(x) = aex + bxexられる。ただし ex指数しすう函数かんすうである。

クラス[編集へんしゅう]

ベクトル空間くうかんはいくつかのクラスに分類ぶんるいできる。

  • 有限ゆうげん次元じげんベクトル空間くうかん有限ゆうげんベクトル空間くうかん): 有限ゆうげんのベクトルのくみ生成せいせいされる、あるいは {0} である、ベクトル空間くうかん[18]
  • 無限むげん次元じげんベクトル空間くうかん: 有限ゆうげん次元じげんベクトル空間くうかん定義ていぎたさないベクトル空間くうかん[19]

基底きてい次元じげん[編集へんしゅう]

R2 のベクトル v (あお) をことなる基底きていによってあらわしたもの: R2標準ひょうじゅん基底きていによる v = xe1 + ye2 (くろ) とべつはす交基そこによる v = f1 + f2 (あか)

基底きてい簡明かんめい方法ほうほうでベクトル空間くうかん構造こうぞうあきらかにする。基底きていとは、適当てきとう添字そえじ集合しゅうごう添字そえじけられたベクトルの(有限ゆうげんまたは無限むげん集合しゅうごう B = {vi}iI であって、それが全体ぜんたい空間くうかんるもののうちで極小きょくしょうとなるものをう。この条件じょうけんは、任意にんいのベクトル v が、基底きていもと有限ゆうげん線型せんけい結合けつごう

ak がスカラーで vik基底きてい Bもと (k = 1, ..., n))としてあらわされることを意味いみし、また極小きょくしょうせいB線型せんけい独立どくりつせいつようにするためのものである。ここでベクトルの集合しゅうごう線型せんけい独立どくりつであるというのは、そのいずれのもとのこりのもと線型せんけい結合けつごうとしてあらわされることがないときにい、これはまた方程式ほうていしき

たされるのが、すべてのスカラー a1, ..., anれいひとしい場合ばあいかぎるとってもおなじことである。基底きてい線型せんけい独立どくりつせいは、V任意にんいのベクトルが基底きていベクトルによる表示ひょうじ(そのような表示ひょうじができることは基底きてい全体ぜんたい空間くうかん Vることから保証ほしょうされている)が一意いちいであることを保証ほしょうする[20]。このことは、基底きていベクトルを R3 における基本きほんベクトル x, y, zこう次元じげん場合ばあい同様どうよう対象たいしょう一般いっぱんするものとることによって、ベクトル空間くうかん観点かんてんでの座標ざひょうけとしてべることができる。

基本きほんベクトル e1 = (1, 0, ..., 0), e2 = (0, 1, 0, ..., 0), ..., en = (0, 0, ..., 0, 1)Fn標準ひょうじゅん基底きていばれる基底きていす。これは任意にんいのベクトル (x1, x2, ..., xn) がこれらのベクトルの線型せんけい結合けつごうとして一意的いちいてき

あらわされることによる。

任意にんいのベクトル空間くうかん基底きていつことが、ツォルンの補題ほだいからしたが[21]したがって、ツェルメロ=フレンケル集合しゅうごうろん公理こうりあたえられていれば、任意にんいのベクトル空間くうかんにおける基底きてい存在そんざいせい選択せんたく公理こうり同値どうちになる[22]。また選択せんたく公理こうりよりもよわちょうフィルター補題ほだい英語えいごばんから、あたえられたひとつのベクトル空間くうかん V において任意にんい基底きていおなすうもと(あるいは濃度のうど)をつことがしめされ(ベクトル空間くうかん次元じげん定理ていり英語えいごばん[23]、その濃度のうどをベクトル空間くうかん V次元じげん dim Vぶ。有限ゆうげんのベクトルでられる空間くうかん場合ばあいであれば、上記じょうき主張しゅちょう集合しゅうごうろんてき基礎きそけをきにしてもしめせる[24]

かずベクトル空間くうかん Fn は、すでにしめした基底きていによってその次元じげんn であることがわかる。#函数かんすう空間くうかんふしべた多項式たこうしきたまき F[x]次元じげん可算かさん集合しゅうごう基底きていひとつは 1, x, x2, …あたえられる)であり、ある(有界ゆうかいまたは有界ゆうかいな)区間くかんじょう函数かんすう全体ぜんたい空間くうかんなど、もっと一般いっぱん函数かんすう空間くうかん次元じげん当然とうぜん無限むげんだいになる[nb 4]あらわれる係数けいすうたいして適当てきとう正則せいそくせい条件じょうけんすものとして、ひとしつぎ常微分じょうびぶん方程式ほうていしきかい空間くうかん次元じげんはその方程式ほうていしき階数かいすうひとしい[25]たとえば、しき(1)のかい空間くうかんexxex生成せいせいされ、これらふたつの函数かんすうR うえ線型せんけい独立どくりつであるから、この空間くうかん次元じげん2 で、方程式ほうていしき階数かいすう 2一致いっちする。

有理数ゆうりすうたい Q うえ拡大かくだいたい Q(αあるふぁ)次元じげんαあるふぁ依存いぞんしてまる。αあるふぁ有理数ゆうりすう係数けいすう代数だいすう方程式ほうていしき

満足まんぞくする、すなわち αあるふぁ代数だいすうてきすうであるとき、次元じげん有限ゆうげんである。より正確せいかくには、その次元じげんαあるふぁ最小さいしょう多項式たこうしき次数じすうひとしい[26]たとえば、複素数ふくそすうたい Cじつ次元じげんのベクトル空間くうかんで、1虚数きょすう単位たんい i生成せいせいされる。後者こうしゃ方程式ほうていしき i2 + 1 = 0満足まんぞくするから、このことからも C次元じげん R-ベクトル空間くうかんであることがえる(また、任意にんいからだがそうだが、C 自身じしんうえのベクトル空間くうかんとして Cいち次元じげんである)。 他方たほうαあるふぁ代数だいすうてきでないならば、Q(αあるふぁ)Q うえ次元じげん無限むげんだいである。たとえば αあるふぁ = πぱい とすれば、πぱいとする代数だいすう方程式ほうていしき存在そんざいしない(べつないいかたをすれば、πぱい超越ちょうえつすうである)[27]

線型せんけい写像しゃぞう行列ぎょうれつ[編集へんしゅう]

線型せんけい写像しゃぞう[編集へんしゅう]

ふたつのベクトル空間くうかんあいだ関係かんけいせい線型せんけい写像しゃぞうあるいは線型せんけい変換へんかんによってあらわすことができる。これは、ベクトル空間くうかん構造こうぞう反映はんえいした写像しゃぞうすなわ任意にんいx, yV任意にんいaFたいして

たすという意味いみとスカラーとのせきたもつものである[28]

同型どうけい写像しゃぞうとは、線型せんけい写像しゃぞう f: VWぎゃく写像しゃぞう g: WV, すなわ写像しゃぞう合成ごうせい (fg): WW および (gf): VV がともに恒等こうとう写像しゃぞうとなるものが存在そんざいするものをう。おなじことだが、f一対一いちたいいちたん)かつうえへの(ぜん線型せんけい写像しゃぞうである[29]VWあいだ同型どうけい写像しゃぞう存在そんざいするとき、これらはたがいに同型どうけいであるという。このとき、V において任意にんい関係かんけいしきfつうじて W における関係かんけいしきうつされ、またぎゃくgつうじておこなえるという意味いみで、これら本質ほんしつてきおなじベクトル空間くうかん做すことができる。

矢印やじるしベクトル v をその座標ざひょう xy記述きじゅつすることはベクトル空間くうかん同型どうけいである

たとえば、「平面へいめんじょう有向ゆうこう線分せんぶん矢印やじるし)」のすベクトル空間くうかんと「かず順序じゅんじょたい」のすベクトル空間くうかん同型どうけいである。つまり、ある(固定こていされた)座標ざひょう原点げんてん始点してんとする平面へいめんじょう有向ゆうこう線分せんぶんは、しめすように、線分せんぶんx-成分せいぶんy-成分せいぶんかんがえることにより、順序じゅんじょたいとしてあらわすことができる。ぎゃく順序じゅんじょたい (x, y)あたえられてとき、x だけみぎに(xまけのときは |x| だけひだりに)って、かつ y だけうえに(yまけのときは |y| だけしたに)有向ゆうこう線分せんぶんとして vられる。

固定こていされたベクトル空間くうかんあいだ線型せんけい写像しゃぞう VW全体ぜんたいは、それ自体じたい線型せんけい空間くうかんし、HomF(V, W)L(V, W) などであらわされる[30]V から係数けいすうたい F への線型せんけい写像しゃぞう全体ぜんたい空間くうかんは、V双対そうついベクトル空間くうかん Vばれる[31]自然しぜん変換へんかん VV∗∗つうじて、任意にんいのベクトル空間くうかんはそのじゅう双対そうついむことができる。この写像しゃぞう同型どうけいとなるのは空間くうかん有限ゆうげん次元じげんのときであり、かつそのときかぎ[32]

V基底きていひとえらぶと、V任意にんいもと基底きていベクトルの線型せんけい結合けつごうとして一意的いちいてきあらわされるから、線型せんけい写像しゃぞう f: VW基底きていベクトルのさきめることで完全かんぜん決定けっていされる[33]dim V = dim W ならば、VW基底きてい固定こていするとき、そのあいだぜんたんしゃから Vかく基底きていもとW対応たいおうする基底きていもとうつすような線型せんけい写像しゃぞうしょうじるが、これは定義ていぎにより同型どうけい写像しゃぞうとなる[34]したがって、ふたつのベクトル空間くうかん同型どうけいとなるのは、それらの次元じげん一致いっちするときであり、ぎゃくもまたつ。これは、べつないいかたをすれば、任意にんいのベクトル空間くうかんはその次元じげんにより(ちがいをのぞいて)「完全かんぜん分類ぶんるいされている」ということである。とく任意にんいn-次元じげん F-ベクトル空間くうかん VFn同型どうけいである。しかし、「標準ひょうじゅんてき」あるいはあらかじめ用意よういされた同型どうけいというものは存在そんざいしない。実際じっさい同型どうけい φふぁい: FnV は、Fn標準ひょうじゅん基底きていVφふぁいうつすことにより、Vえらぶことと等価とうかである。適当てきとう基底きていえら自由じゆうがあることは、無限むげん次元じげん場合ばあい文脈ぶんみゃくとく有効ゆうこうである(後述こうじゅつ)。

行列ぎょうれつ[編集へんしゅう]

典型てんけいてき行列ぎょうれつ

行列ぎょうれつ (えい: matrix ) は線型せんけい写像しゃぞう情報じょうほう記述きじゅつするのに有効ゆうこう概念がいねんである[35]行列ぎょうれつは、のように、スカラーの矩形くけい配列はいれつとしてかれる。任意にんいm × n 行列ぎょうれつ AFn から Fm への線型せんけい写像しゃぞう

としてしょうじる(総和そうわあらわす)。これはまた行列ぎょうれつ A座標ざひょうベクトル x との行列ぎょうれつ乗法じょうほうもちいて

xAx

くこともできる。さらにえば、VW基底きていえらぶことで、任意にんい線型せんけい写像しゃぞう f: VW同様どうよう方法ほうほう行列ぎょうれつによって一意的いちいてきあらわされる[36]

この平行へいこう六面体ろくめんたい体積たいせきはベクトル r1, r2, r33 × 3 行列ぎょうれつ行列ぎょうれつしき絶対ぜったい一致いっちする。

正方まさかた行列ぎょうれつ A行列ぎょうれつしき det (A) は、A対応たいおうする線型せんけい写像しゃぞう同型どうけいかをはかるスカラーである(同型どうけいとなるには、行列ぎょうれつしき0 でないことが必要ひつようかつ十分じゅうぶんである)[37]n × n じつ行列ぎょうれつ対応たいおうする Rn線型せんけい変換へんかんたもつには、その行列ぎょうれつしきせいとなることが必要ひつよう十分じゅうぶんである。

固有値こゆうち固有こゆうベクトル[編集へんしゅう]

自己じこじゅん同型どうけいすなわ線型せんけい写像しゃぞう f: VV は、この場合ばあいベクトル v とその f によるぞう f(v) とを比較ひかくすることができるから、とく重要じゅうようである。

任意にんいれいでないベクトル v が、スカラー λらむだたいして λらむだv = f(v)満足まんぞくするとき、これを f固有値こゆうち (えい: eigenvalue ) λらむだぞくする固有こゆうベクトル (えい: eigenvector ) という[nb 5][38]おなじことだが、固有こゆうベクトル v fλらむだ · Idかくもとである(ここで Id恒等こうとう写像しゃぞう VV)。V有限ゆうげん次元じげんならば、これは行列ぎょうれつしき使つかっていいかえることができる。つまり、f固有値こゆうち λらむだつことは

となることと同値どうちである。行列ぎょうれつしき定義ていぎくだすことにより、このしき左辺さへんλらむだ変数へんすうとする多項式たこうしきることができて、これを f固有こゆう多項式たこうしき[39]係数けいすうたい F がこの多項式たこうしきふく程度ていどおおきい(F = C のように、F代数だいすうてき閉体ならばこの条件じょうけん自動的じどうてきたされる)ならば任意にんい線型せんけい写像しゃぞうすくなくともひとつの固有こゆうベクトルをつ。

ベクトル空間くうかん V固有こゆう基底きてい英語えいごばん固有こゆうベクトルからなる基底きてい)をつかもしれないしたないかもしれないが、それがどちらであるかは写像しゃぞうジョルダン標準ひょうじゅんがたによって制御せいぎょされる[nb 6]f特定とくてい固有値こゆうち λらむだぞくする固有こゆうベクトル全体ぜんたい集合しゅうごうは、固有値こゆうち λらむだ(と f)に対応たいおうする固有こゆう空間くうかんばれるベクトル空間くうかんす。無限むげん次元じげん場合ばあい対応たいおうする主張しゅちょうであるスペクトル定理ていりたっするには、函数かんすう解析かいせきがく道具立どうぐだてが必要ひつようである。

基本きほんてき構成こうせいほう[編集へんしゅう]

上記じょうき具体ぐたいれいくわえて、あたえられたベクトル空間くうかんからべつのベクトル空間くうかん標準ひょうじゅんてき線型せんけい代数だいすうがくてき構成こうせいがいくつか存在そんざいする。それらは以下いかべる定義ていぎくわえて普遍ふへんせいばれる、線型せんけい空間くうかん XX から任意にんい線型せんけい空間くうかんへの線型せんけい写像しゃぞうによって特定とくていすることができるという性質せいしつによっても特徴とくちょうづけられる。

部分ぶぶん空間くうかんしょう空間くうかん[編集へんしゅう]

R3原点げんてんとお直線ちょくせん (あおほそ) は線型せんけい部分ぶぶん空間くうかんである。これはふたつの平面へいめん (みどり) のまじわりである。

ベクトル空間くうかん Vそらでない部分ぶぶん集合しゅうごう W加法かほうとスカラー乗法じょうほうしたじている(したがってまた、Vれいベクトルをふくむ)ならば、V部分ぶぶん空間くうかんであるという[40]V部分ぶぶん空間くうかんは、それ自体じたいが(おなたいじょうの)ベクトル空間くうかんす。ベクトルからなる集合しゅうごう Sたいして、それをふく部分ぶぶん空間くうかんすべてのまじわりは S線型せんけいつつみごう Sふく最小さいしょうV部分ぶぶん空間くうかんす。ぞくするもと言葉ことばえば、S空間くうかんSもと線型せんけい結合けつごう全体ぜんたい部分ぶぶん空間くうかんである[41]

部分ぶぶん空間くうかん相対そうたいする概念がいねんとして、しょう空間くうかんがある[42]任意にんい部分ぶぶん空間くうかん WVたいして、(「VWった」)しょう空間くうかん V/W以下いかのように定義ていぎされる。 まず集合しゅうごうとして V/W は、vV任意にんいのベクトルとして v + W = {v + w  |  wW} なるかたち集合しゅうごうすべてからなる。そのふたつのもと v1 + W および v2 + W(v1 + v2) + W で、またスカラーばいせきa(v + W) = (av) + Wあたえられる。この定義ていぎかぎv1 + W = v2 + W となる同値どうちv1v2 とのWはいることである[nb 7]。この方法ほうほうしょう空間くうかんは、部分ぶぶん空間くうかん Wふくまれる情報じょうほうを「忘却ぼうきゃく」したものとなる。

線型せんけい写像しゃぞう f: VWかく ker(f)Wれいベクトル 0うつされるベクトル v からなる[43]かくおよびぞう im(f) = {f(v)  |  vV} はともにそれぞれ V および W部分ぶぶん空間くうかんである[44]かくぞう存在そんざいは(固定こていしたからだ Fじょうぐんけんアーベルけん(つまり、数学すうがくてき対象たいしょうとそれらのあいだ構造こうぞうたも写像しゃぞうあつまり、すなわけん、であってアーベルぐんけん非常ひじょうによくいをするもの)をすことの要件ようけん一部いちぶである[45]。これにより、同型どうけい定理ていり線型せんけい代数だいすうがくてきないいかたをすれば階数かいすう退化たいか次数じすう定理ていり

だいだいさん同型どうけい定理ていり群論ぐんろんにおける相当そうとう定理ていり同様どうよう仕方しかたできちんと定式ていしき証明しょうめいをすることができる。

重要じゅうようれいは、適当てきとう固定こていした行列ぎょうれつ Aたいする線型せんけい写像しゃぞう xAxかくである。この写像しゃぞうかくAx = 0たすベクトル x 全体ぜんたい部分ぶぶん空間くうかんであり、これは Aぞくするひとし線型せんけい方程式ほうていしきけいかい空間くうかんならない。このかんがかた線型せんけい微分びぶん方程式ほうていしき

かく係数けいすう aix函数かんすう)にたいしても拡張かくちょうできる。対応たいおうする線型せんけい写像しゃぞう

函数かんすう fしるべ函数かんすうが(たとえば f′′(x)2 のようなこうあらわれないという意味いみで)線型せんけいあらわれている。微分びぶん線型せんけいである(すなわ(f + g)′ = f′ + g および定数ていすう c について (cf)′ = cfつ)から、上記じょうき作用素さようそ線型せんけいである(線型せんけい微分びぶん作用素さようそう)。とくに、この微分びぶん方程式ほうていしき D(f) = 0かい全体ぜんたいは(R または C うえの)ベクトル空間くうかんとなる。

直積ちょくせき直和なおかず[編集へんしゅう]

添字そえじけられたベクトル空間くうかんぞく 直積ちょくせき とは、順序じゅんじょぐみ 全体ぜんたい集合しゅうごうに、加法かほうとスカラー乗法じょうほう成分せいぶんごとの演算えんざんによってさだめたものである[46]。この構成こうせい変種へんしゅとして、直和なおかず (あるいはせき )はさき順序じゅんじょぐみにおいて有限ゆうげん例外れいがいのぞすべての成分せいぶんれいベクトルであるようなものだけをゆるしてられるものである。添字そえじ集合しゅうごう 有限ゆうげんならばこのふたつの構成こうせい一致いっちするが、そうでないならばちがうものをあたえる。

テンソルせき[編集へんしゅう]

おなたい F うえふたつのベクトル空間くうかん VWテンソルせき (えい: tensor product ) VF W あるいはたんVW は、線型せんけい写像しゃぞう変数へんすうにするような概念がいねん拡張かくちょうあつか多重たじゅう線型せんけい代数だいすうにおける中心ちゅうしんてき概念がいねんのひとつである。写像しゃぞう g: V × WX; (v, w)g(v, w)そう線型せんけい写像しゃぞうであるとは、gりょう変数へんすう v, wいずれについても線型せんけいであることをう。これはつまり、w固定こていしたとき写像しゃぞう vg(v, w)線型せんけいであり、かつ v固定こていしたとき同様どうようであることを意味いみする。

テンソルせき以下いかのような意味いみで、そう線型せんけい写像しゃぞう普遍ふへんてきれる特別とくべつのベクトル空間くうかんである。それはテンソルばれる記号きごうの(形式けいしきてきな)有限ゆうげん

全体ぜんたいからなる線型せんけい空間くうかんで、これらのもとa をスカラーとして

なる規則きそくしばられている[47]

テンソルせき普遍ふへんせいあらわかわ図式ずしき

これらの規則きそくは、写像しゃぞう f: V × WVW; (v, w) ↦ vwそう線型せんけいとなることを保証ほしょうするものである。テンソルせき普遍ふへんせいとは

任意にんいベクトル空間くうかん X任意にんいそう線型せんけい写像しゃぞう g: V × WXあたえられたとき、写像しゃぞう u: VWX一意的いちいてき存在そんざいして、上記じょうき写像しゃぞう f との合成ごうせい ufgひとしくなるようにすることができる ( u(vw) = g(v, w) )[48]

というものである。テンソルせき普遍ふへんせい対象たいしょうを、その対象たいしょうからの、あるいはその対象たいしょうへの写像しゃぞうによって間接かんせつてき定義ていぎするという(すすんだ抽象ちゅうしょう代数だいすうがくではよくもちいられる)手法しゅほういちれいである。

付加ふか構造こうぞうそなえたベクトル空間くうかん[編集へんしゅう]

線型せんけい代数だいすうがく観点かんてんからは、任意にんいのベクトル空間くうかんが(同型どうけいのぞいて)その次元じげんによって特徴とくちょうづけられるという意味いみで、ベクトル空間くうかんについては完全かんぜんかっている。しかしベクトル空間くうかんというものは「本質ほんしつてきに」、はこ数列すうれつべつ函数かんすう収束しゅうそくするかかという(解析かいせきがくでは重要じゅうような)問題もんだいについてあつか枠組わくぐみを提供ていきょうしていないし、同様どうよう加法かほう演算えんざん有限ゆうげんこうのみをゆる線型せんけい代数だいすうがくでは無限むげん級数きゅうすうあつかうのには適当てきとうでない。したがって、函数かんすう解析かいせきがくではベクトル空間くうかんさらなる構造こうぞうかんがえる必要ひつようもとめられる。ほとんど同様どうように、付加ふかてき情報じょうほうつベクトル空間くうかん有効ゆうこうはたら部分ぶぶん抽象ちゅうしょうてきつけだすことで、公理こうりてき取扱とりあつかいからベクトル空間くうかん代数だいすうがくてき本質ほんしつてき特徴とくちょうりにすることができる[よう出典しゅってん]

付加ふか構造こうぞうひとつのれいは、順序じゅんじょ集合しゅうごう で、これによりベクトルの比較ひかくおこなえるようになる[49]たとえば、みのる n-次元じげん空間くうかん Rn は、ベクトルを成分せいぶんごとに比較ひかくすることで順序じゅんじょづけることができる。また、ルベーグ積分せきぶん函数かんすうふたつのせい函数かんすう

として(f+fせい部分ぶぶんf部分ぶぶんあらわすことができることに依拠いきょしているから、順序じゅんじょ線型せんけい空間くうかん英語えいごばんたとえばリース空間くうかん)はルベーグ積分せきぶんにおいて基本きほんてきである[50]

ノルム空間くうかんおよび内積ないせき空間くうかん[編集へんしゅう]

ベクトルの「測度そくど」は、ベクトルのながさをはかノルムや、ベクトルのあいだかくはか内積ないせきめることによってあたえられる。ノルムが定義ていぎされたベクトル空間くうかんをノルム空間くうかんとよび、ノルムを |v| のようにあらわす。内積ないせき定義ていぎされたベクトル空間くうかん内積ないせき空間くうかんび、 内積ないせきv, w のようにあらわす。内積ないせき空間くうかん付随ふずいするノルム

[51]

かずベクトル空間くうかん Fn標準ひょうじゅん内積ないせき

そなえている。これは R2 においてよくあるふたつのベクトル x, yかく θしーた概念がいねん余弦よげん定理ていり

によって反映はんえいするものである。これにより、x · y = 0たすふたつのベクトル x, yたがいに直交ちょっこうするとわれる。この標準ひょうじゅん内積ないせき重要じゅうよう変形へんけいばんとして、ミンコフスキー空間くうかん R4 = R3,1 はローレンツつもる

そなえる[52]標準ひょうじゅん内積ないせきとのおおきなちがいは、ローレンツつもるせい定値ていちでないこと、つまり x|xまける(たとえば x = (0,0,0,1) のとき)ことである。(みっつの空間くうかんてき座標ざひょうとはことなり、時間じかん対応たいおうする)だいよん座標ざひょうかんがえることは特殊とくしゅ相対性理論そうたいせいりろん数学すうがくてき取扱とりあつかいにおいて有効ゆうこうである。

線型せんけい位相いそう空間くうかん[編集へんしゅう]

収束しゅうそくせい問題もんだいは、ベクトル空間くうかん V両立りょうりつする位相いそうちかさを記述きじゅつすることを可能かのうにする構造こうぞう)をれることによってあつかわれる。[53][54]。 ここでいう「両立りょうりつ」とは、加法かほうとスカラー乗法じょうほうがともに連続れんぞく写像しゃぞうとなるという意味いみで、大雑把おおざっぱえば、x, yVaFかぎられた範囲はんいなかにあれば、x + yaxかぎられた範囲はんいまるということである[nb 8]。スカラーについてこの議論ぎろんがきちんと意味いみつようにするためには、この文脈ぶんみゃくにおいてからだ F にも位相いそうさだめられていなければならない。よくもちいられるのが実数じっすうたい複素数ふくそすうたいである。

このような線型せんけい位相いそう空間くうかんではベクトルこう級数きゅうすうかんがえることができて、Vもとからなるれつ (fi)iN無限むげん

とは、対応たいおうする有限ゆうげん部分ぶぶん極限きょくげんあらわすものである。たとえば fi が、ある(じつまたは複素ふくそ函数かんすう空間くうかんぞくする函数かんすうであるとすると、この場合ばあい級数きゅうすう函数かんすうこう級数きゅうすうばれる。函数かんすうこう級数きゅうすう収束しゅうそく様態ようたい英語えいごばんは、函数かんすう空間くうかんされた位相いそう依存いぞんする。そのような様態ようたいなかでもかくてん収束しゅうそく一様いちよう収束しゅうそくふたつはとく際立きわだったれいである。

R2 の「単位たんい球面きゅうめん」はノルム 1平面へいめんベクトルからなる。は、ことなる p-ノルムかんする単位たんい球面きゅうめんp = 1, 2, ∞場合ばあいえがいたもの。またおおきな菱形ひしがた1-ノルムが 2ひとしいようなてんえがいたものである。

あるしゅ無限むげん級数きゅうすう極限きょくげん存在そんざい保証ほしょうする方法ほうほうひとつは、かんがえる空間くうかん任意にんいコーシーれつ収束しゅうそくするようなものにかぎってかんがえることである。そのようなベクトル空間くうかん完備かんび距離きょり空間くうかんであるという。おおまかにえば、ベクトル空間くうかん完備かんびというのは必要ひつよう極限きょくげんをすべてふくむということである。たとえば単位たんい区間くかん [0, 1] うえ多項式たこうしき函数かんすう全体ぜんたいすベクトル空間くうかん一様いちよう収束しゅうそく位相いそうれたものは完備かんびでない。これは [0, 1] うえ任意にんい連続れんぞく函数かんすうが、多項式たこうしきはこ数列すうれつ一様いちよう近似きんじすることができるというストーン=ワイエルシュトラスの定理ていりによる[55]対照たいしょうてきに、区間くかん [0, 1] うえ連続れんぞく函数かんすう全体ぜんたい空間くうかんおな位相いそうれたものは完備かんびになる[56]。ノルムからは、ベクトルれつ vnv収束しゅうそくする必要ひつようじゅうふん条件じょうけん

さだめることによって、空間くうかん位相いそうはいる。バナッハ空間くうかんおよびヒルベルト空間くうかんは、それぞれノルムおよび内積ないせきからさだまる位相いそうかんして完備かんび位相いそう空間くうかんである。函数かんすう解析かいせきがく重要じゅうようになるそれらの研究けんきゅうは、有限ゆうげん次元じげん位相いそう線型せんけい空間くうかんじょうのノルムはどれもおな収束しゅうそくせい概念がいねんさだめるから、無限むげん次元じげんベクトル空間くうかん焦点しょうてんがあてられる[57]R2 うえ1 ノルムと ノルムとの同値どうちせいしめすものである。単位たんい球体きゅうたい」はたがいにかこまれているから、れつ1 ノルムにかんして 0収束しゅうそくすることと、そのれつ ノルムにかんして収束しゅうそくすることとが同値どうちになる。しかし無限むげん次元じげん空間くうかん場合ばあいには、一般いっぱんにはたがいに同値どうちでないような位相いそう存在そんざいしおり、そのことが位相いそう線型せんけい空間くうかん研究けんきゅうを、付加ふか構造こうぞうたないじゅん代数だいすうてきなベクトル空間くうかん理論りろんよりもゆたかなものとしているのである。

概念的がいねんてき観点かんてんでは、位相いそう線型せんけい空間くうかんかんするすべての概念がいねん位相いそうとうまくうものでなければならない。たとえば、位相いそう線型せんけい空間くうかんあいだ線型せんけい写像しゃぞう(あるいは線型せんけいひろし函数かんすうVW連続れんぞくであるものと仮定かていされる[58]とくに、(位相いそうてき双対そうつい空間くうかん V連続れんぞくひろし函数かんすう VR (or C) からなるものとする。基礎きそハーン-バナッハの定理ていりは、適当てきとう位相いそう線型せんけい空間くうかん連続れんぞくひろし函数かんすうによって部分ぶぶん空間くうかんけることに関係かんけいするものである[59]

バナッハ空間くうかん[編集へんしゅう]

ステファン・バナフ導入どうにゅうしたバナッハ空間くうかんとは、完備かんびノルム空間くうかんのことである[60]ひとつのれいとして、 (1 ≤ p ≤ ∞) は、実数じっすう成分せいぶんとする無限むげん次元じげんベクトル x = (x1, x2, ...) であって、p < ∞たいして

または p = ∞たいして

定義ていぎされる p-ノルムが有限ゆうげんとなるようなもの全体ぜんたいすベクトル空間くうかんである。無限むげん次元じげん空間くうかん 位相いそうは、ことなる pたいしては同値どうちでない。たとえばベクトルのれつ xn = (2n, 2n, ..., 2n, 0, 0, ...), つまり各項かくこう最初さいしょ2n-成分せいぶん2nのこりはすべて 0 となるような無限むげん次元じげんベクトルとなるようなベクトルれつp = ∞ のときはれいベクトル収束しゅうそくするが、p = 1 のときはそうならない。しきにすれば

だが

である。

じつ数列すうれつよりも一般いっぱん函数かんすう f : ΩおめがR は、上記じょうきのところをルベーグ積分せきぶんえた

をノルムとしてそなえている。あたえられた領域りょういき Ωおめがたとえば区間くかんじょう|f|p < ∞満足まんぞくする積分せきぶん函数かんすう空間くうかんに、このノルムをれたものはルベーグ空間くうかん Lp(Ωおめが)ばれる[nb 9]。ルベーグ空間くうかんいずれも完備かんびになる[61](が、もし上記じょうき積分せきぶんリーマン積分せきぶんとしたならば、空間くうかん完備かんびにならない。これがルベーグ積分せきぶんろんかんがえることの正当せいとうせいひとつとしてげられる理由りゆうひとつである[nb 10])。具体ぐたいてきけば、任意にんい積分せきぶんはこ数列すうれつ f1, f2, ...|fn|p < ∞ となるものが、条件じょうけん

満足まんぞくするならば、適当てきとう函数かんすう f(x) でベクトル空間くうかん Lp(Ωおめが)ぞくするものが存在そんざいして

たすようにすることができる。

函数かんすう自体じたいだけでなくそのしるべ函数かんすうにも有界ゆうかいせい条件じょうけんすことでソボレフ空間くうかん概念がいねんみちびかれる[62]

ヒルベルト空間くうかん[編集へんしゅう]

正弦せいげん函数かんすう (あか) の有限ゆうげんによって、周期しゅうき函数かんすう (あお) を近似きんじする様子ようすを、はつこうから 5-こうまでのじゅんしめすことによってしめしたもの。

完備かんび内積ないせき空間くうかんダフィット・ヒルベルトちなんでヒルベルト空間くうかん (えい: Hilbert space) とばれる[63]自乗じじょう積分せきぶん函数かんすう空間くうかん L2(Ωおめが)

定義ていぎされる内積ないせき(ただし g(x)g(x)複素ふくそ共役きょうやくとする)[64][nb 11]れたものは主要しゅようなヒルベルト空間くうかんれいである。

定義ていぎによりヒルベルト空間くうかんにおける任意にんいのコーシーれつ極限きょくげんつから、ぎゃくあたえられた極限きょくげん函数かんすう近似きんじするという適当てきとう性質せいしつはこ数列すうれつ fnもとめることが重要じゅうようになる。初期しょき解析かいせきがくでは、テイラー近似きんじかたち微分びぶん函数かんすう f多項式たこうしきれつによる近似きんじ確立かくりつされた[65]ストーン=ヴァイアシュトラスの定理ていりにより、[a, b] うえ任意にんい連続れんぞく函数かんすう適当てきとう多項式たこうしきれつによりいくらでもちか近似きんじできる[66]三角さんかく関数かんすうもちいた同様どうよう近似きんじほう一般いっぱんにフーリエ展開てんかいばれ、工学こうがくにおいてひろ応用おうようされる(#フーリエ変換へんかんふし参照さんしょう)。より一般いっぱんに、またより概念的がいねんてきえば、これらの定理ていりは「基本きほん函数かんすうぞく」とはなにであるかということを端的たんてき記述きじゅつするものになっている。あるいは抽象ちゅうしょうヒルベルト空間くうかんにおいてどのような基本きほんベクトルぞくが、ヒルベルト空間くうかん H位相いそうてき生成せいせいするに十分じゅうぶんであるかをいうものである。ここで、位相いそうてき生成せいせいする(あるいはたん生成せいせいする)とは、それらの位相いそうてき線型せんけいつつみばれる、線型せんけいつつみ閉包へいほうすなわち、有限ゆうげん線型せんけい結合けつごうおよびその極限きょくげん)が、全体ぜんたい空間くうかん一致いっちすることである。そのような函数かんすう集合しゅうごうH基底きてい(あるいはヒルベルト基底きてい)とばれ、基底きてい濃度のうどはヒルベルト空間くうかん Hヒルベルト次元じげんばれる[nb 12]。これらの定理ていり適当てきとう基底きてい函数かんすうぞく近似きんじ目的もくてき十分じゅうぶんせいしめすことのみならず、グラム・シュミットの正規せいき直交ちょっこうほうもちいて正規せいき直交ちょっこう基底きていられることも意味いみしている[67]。そのような直交ちょっこう基底きていは、有限ゆうげん次元じげんユークリッド空間くうかんにおける座標軸ざひょうじくをヒルベルト空間くうかんたいして一般いっぱんしたものとかんがえることができる。

様々さまざま微分びぶん方程式ほうていしきたいして、そのかいをヒルベルト空間くうかん言葉ことば解釈かいしゃくすることができる。たとえば物理ぶつりがく工学こうがくにおけるかなりおおくの分野ぶんやでそのような方程式ほうていしきみちびかれ、特定とくてい物理ぶつりてき性質せいしつかいが(しばしば直交ちょっこうする)基底きてい函数かんすうぞくとしてよくあつかわれる[68]物理ぶつりがくからのれいとして、量子力学りょうしりきがくにおける時間じかん依存いぞんシュレーディンガー方程式ほうていしきは、そのかい波動はどう関数かんすうばれるへん微分びぶん方程式ほうていしきとして、物理ぶつりてき性質せいしつ時間じかんてき変化へんか記述きじゅつする。[69]。エネルギーやモーメントのような物理ぶつりてき性質せいしつたいする明確めいかくは、あるしゅ線型せんけい微分びぶん作用素さようそ固有値こゆうちとそれにぞくする固有こゆう状態じょうたいばれる波動はどう函数かんすう対応たいおうする。スペクトル定理ていりは、函数かんすう作用さようする線型せんけいコンパクト作用素さようそを、それらの固有値こゆうち固有こゆう函数かんすうもちいて分解ぶんかいすることをべるものである[70]

からだじょう多元たげんたまき[編集へんしゅう]

方程式ほうていしき xy = 1あたえられる双曲線そうきょくせん。この双曲線そうきょくせんじょう函数かんすう座標ざひょうたまきR[x, y] / (xy − 1)あたえられ、R うえ無限むげん次元じげんのベクトル空間くうかんになる。

一般いっぱんのベクトル空間くうかんは、ベクトルのあいだ乗法じょうほうたない。ふたつのベクトルの乗法じょうほうさだめるそう線型せんけい写像しゃぞう付加ふかてきそなえたベクトル空間くうかんは、からだじょう多元たげんたまき[71]おも多元たげんたまきは、なんらかの幾何きかがくてき対象たいしょううえ函数かんすう空間くうかんからしょうじる。からだをとる函数かんすうは、てんごとの乗法じょうほうち、それら函数かんすう全体ぜんたい多元たげんたまきすのである。たとえば、ストーン=ヴァイアシュトラスの定理ていりは、バナッハ空間くうかんにも多元たげんたまきにもなっているバナッハたまきにおいて成立せいりつする。

かわ多元たげんたまきいち変数へんすうまたは変数へんすう多項式たこうしきたまき使つかってたくさんつくれる。かわ多元たげんたまき乗法じょうほうかわかつ結合けつごうてきである。これらのたまきおよびその剰余じょうよたまきは、それが代数だいすう幾何きかてき対象たいしょうじょう函数かんすうたまきとなることから、代数だいすう幾何きかがく基礎きそしている[72]

べつ重要じゅうようれいはリーたまきである。リーたまき乗法じょうほうx, yせき[x, y]く)はかわでも結合けつごうてきでもないが、そうなることは制約せいやく条件じょうけん

によって制限せいげんされている。リーたまきれいには、n-正方せいほう行列ぎょうれつ全体ぜんたいすベクトル空間くうかんに、行列ぎょうれつ交換こうかん [x, y] = xyyxせきとしたものや、R3クロスせきれたものなどがふくまれる。

テンソル代数だいすう T(V)任意にんいのベクトル空間くうかんせき導入どうにゅうして多元たげんたまきるための形式けいしきてき方法ほうほうである[74]T(V) はベクトル空間くうかんとしては、単純たんじゅんテンソルあるいは分解ぶんかい可能かのうがたテンソルとばれる記号きごう

によって生成せいせいされる(ただし、テンソルの階数かいすう英語えいごばん n任意にんいうごかすものとする)。乗法じょうほうふたつのベクトル空間くうかんたいしてテンソルせき定義ていぎするときとほとんどおなじで、基底きていもとについてはそれらの記号きごうをテンソルせき 結合けつごうすることであたえ、一般いっぱんには加法かほうたいする分配ぶんぱい法則ほうそくを以って基底きていもとたいするせき延長えんちょうする。スカラーばいせきかわであるものとする。こうしてられる T(V) においては、一般いっぱんv1v2v2v1 とのあいだにはなん関係かんけい成立せいりつしない。このふたつのもと強制きょうせいてきひとしいものとさだめると対称たいしょう代数だいすう S(V) が、あるいは強制きょうせいてきv1v2 = − v2v1けば外積がいせき代数だいすう がそれぞれられる[75]

基礎きそとするからだ F明示めいじしたい場合ばあいには、F-多元たげんたまきあるいは F-代数だいすうという言葉ことばがよくもちいられる。

応用おうよう[編集へんしゅう]

ベクトル空間くうかん多様たようたいたいする応用おうよう様々さまざま状況じょうきょうしょうじてくる。つまり多様たようたいじょう定義ていぎされ、あるからだをとる函数かんすうかんがえれば、そこにはベクトル空間くうかんしょうじるのである。そのようなベクトル空間くうかんかんがえれば、解析かいせきがく幾何きかがくにおける問題もんだいあつか枠組わくぐみが提供ていきょうされる。またそういったベクトル空間くうかんはフーリエ変換へんかんなどにおいても利用りようされる。ここでげたれい網羅もうらてきなものではなく、たとえば数理すうり最適さいてきなど、ほかにももっとおおくの応用おうよう存在そんざいする。ゲーム理論りろんミニマックスほうすべてのプレイヤーが最適さいてき試行しこうおこなうことができるならば一意的いちいてきなペイがられることをべるもので、これはベクトル空間くうかんほうもちいて証明しょうめいできる[76]表現ひょうげんろんは、よくかっている線型せんけい代数だいすうがくおよびベクトル空間くうかんかんする内容ないようを、群論ぐんろんなど領域りょういきみのゆたかにうつすものである[77]

シュワァルツちょう函数かんすう[編集へんしゅう]

シュヴァルツちょう函数かんすう (えい: distribution) は、かく試験しけん函数かんすう典型てんけいてきには、関数かんすうだいなめらかな関数かんすう)にかず連続れんぞくてき仕方しかたてる線型せんけい写像しゃぞうをいう。すなわち、シュヴァルツちょう函数かんすう空間くうかんは、試験しけん函数かんすう空間くうかんの(連続れんぞくてき双対そうついである[78]後者こうしゃ空間くうかんには、試験しけん函数かんすう f それ自体じたいのみならずその高階たかしなしるべ函数かんすうまでを考慮こうりょするような位相いそうはいっている。シュヴァルツちょう函数かんすう典型てんけいてきれいはある領域りょういき Ωおめが うえ試験しけん函数かんすう f積分せきぶんする作用素さようそ

である。Ωおめがいちてん集合しゅうごう{p}のとき、これは試験しけん函数かんすう fてん p におけるてるディラックのデルタ関数かんすう δでるたさだめる(δでるた(f) = f(p))。

シュヴァルツちょう函数かんすう微分びぶん方程式ほうていしきくための強力きょうりょく道具どうぐである。微分びぶん線型せんけいであるといったような、解析かいせきがく標準ひょうじゅんてき概念がいねんは、自然しぜんにシュヴァルツちょう函数かんすう空間くうかん延長えんちょうすることができるから、したがって問題もんだい方程式ほうていしきをシュヴァルツちょう函数かんすう空間くうかんうつすことができて、しかもシュヴァルツちょう函数かんすう空間くうかんはもとの函数かんすう空間くうかんよりもおおきいから、方程式ほうていしきくためにより柔軟じゅうなん方法ほうほう利用りようできる(たとえば、グリーン関数かんすうほう)。

また、基本きほんかいしん函数かんすうでなくシュヴァルツちょう函数かんすうかいじゃくかい)となるのがふつうであり、じゃくかいから所期しょき境界きょうかい条件じょうけんたす方程式ほうていしきしんかいもとめるには、つかったじゃくかい実際じっさいしん函数かんすうとなることをたしかめればよく、証明しょうめいできた場合ばあいにはそれがもとの方程式ほうていしきしんかいである(たとえばリースの表現ひょうげん定理ていり帰結きけつであるじゃく形式けいしき利用りようできる)[79]

フーリエ変換へんかん[編集へんしゅう]

ねつ方程式ほうていしきは、つめたい環境かんきょうにおかれた熱源ねつげん温度おんど低下ていかのような、時間じかんとともに散逸さんいつする物理ぶつりてき性質せいしつ記述きじゅつしたものである。(黄色おうしょくあかよりもつめたい領域りょういきあらわす)

周期しゅうき関数かんすうフーリエ級数きゅうすう三角さんかく関数かんすう分解ぶんかいすることは物理ぶつりがく工学こうがくにおいてよくもちいられる手法しゅほうである[nb 13][80]だいとなるベクトル空間くうかんは、ふつうはヒルベルト空間くうかん L2(0, 2πぱい) であり、函数かんすうぞく sin mx および cos mx (m整数せいすう) が正規せいき直交ちょっこう基底きていあたえる[81]L2-函数かんすう f のフーリエ展開てんかい

である。係数けいすう am, bmf のフーリエ係数けいすうばれ、公式こうしき

もとめられる[82]

物理ぶつりがく言葉ことばえば、函数かんすう正弦せいげんかさあわせとしてあらわされ、その係数けいすう函数かんすう周波数しゅうはすうスペクトルについての情報じょうほうあたえるということになる[83]複素ふくそがたのフーリエ級数きゅうすうひろもちいられる[82]上記じょうき具体ぐたいてき公式こうしきは、より一般いっぱんポントリャーギン双対そうついばれる双対そうついからの帰結きけつである[84]加法かほうぐん R にこの双対そうついせい適用てきようすれば古典こてんてきなフーリエ変換へんかんられる。また物理ぶつりがくではぎゃく格子こうし応用おうようされる。これは有限ゆうげん次元じげん実線じっせんがた空間くうかん付加ふかてきなデータとして原子げんし結晶けっしょう位置いち符号ふごうしたたばあたえたものを基礎きそぐんとして双対そうついせい適用てきようしたものである[85]

フーリエ級数きゅうすうへん微分びぶん方程式ほうていしき境界きょうかい問題もんだいくのにも利用りようされる[86]。1822ねんジョゼフ・フーリエはじめてこの方法ほうほうねつ方程式ほうていしきくためにもちいた[87]。フーリエ級数きゅうすう離散りさんばん標本ひょうほんにおいて、函数かんすう等間隔とうかんかくならんだ有限ゆうげんてんでしかわかっていないところでもちいられる。この場合ばあい、フーリエ級数きゅうすう有限ゆうげんこうで、そのすべてのてん標本ひょうほんひとしい[88]。また、係数けいすう全体ぜんたい集合しゅうごうは、あたえられた標本ひょうほんれつ離散りさんフーリエ変換へんかん (えい: DFT : Discrete Fourier Transformation) とばれる。この DFT は(レーダー音声おんせい符号ふごう画像がぞう圧縮あっしゅくなどに応用おうようつ)デジタル信号しんごう処理しょり重要じゅうよう道具どうぐひとつである[89]画像がぞうフォーマットJPEGは、ちかしい関係かんけいにある離散りさんコサイン変換へんかん応用おうようである[90]

高速こうそくフーリエ変換へんかん離散りさんフーリエ変換へんかん高速こうそく計算けいさんするアルゴリズムである[91]。これはフーリエ係数けいすう計算けいさんだけでなく、たたもちいて、ふたつの有限ゆうげんれつたたみを計算けいさんするのにも利用りようできる[92]。また、ディジタルフィルタ[93]巨大きょだい整数せいすう多項式たこうしき高速こうそくざんアルゴリズム英語えいごばんショーンハーゲ・ストラッセンほう[94][95]にも応用おうようできる。

微分びぶん幾何きかがく[編集へんしゅう]

次元じげん球面きゅうめんのあるてんにおけるせっ空間くうかんとは、このてん球面きゅうめんせっする無限むげん平面へいめんである。

曲面きょくめんのあるてんにおけるせっ平面へいめんは、自然しぜん接点せってん原点げんてん同一どういつしたベクトル空間くうかんになる。せっ平面へいめん接点せってんにおける曲面きょくめん最適さいてき線型せんけい近似きんじあるいは線型せんけいせいである[nb 14]さん次元じげんユークリッド空間くうかん場合ばあいでさえ、せっ平面へいめん基底きてい指定していする自然しぜん方法ほうほう点綴てんていてきには存在そんざいせず、またそれゆえにせっ平面へいめんは、実数じっすうベクトル空間くうかんというよりはむしろ抽象ちゅうしょうベクトル空間くうかんとしてかんがえられる。せっ空間くうかんはよりこう次元じげん微分びぶん多様たようたいへの一般いっぱんである[96]

リーマン多様たようたいはそのせっ空間くうかん適当てきとう内積ないせきそなえた多様たようたいである[97]。そこからられるリーマンきょくりつテンソルは、それひとつでその多様たようたいすべてのきょくりつあらわすことができるもので、一般いっぱん相対性理論そうたいせいりろんではたとえば時空じくう質量しつりょうとエネルギー定数ていすう記述きじゅつするアインシュタインテンソルなどに応用おうようがある[98][99]リーぐんせっ空間くうかん自然しぜんにリーたまき構造こうぞうち、コンパクトぐん分類ぶんるいもちいることができる[100]

一般いっぱん[編集へんしゅう]

ベクトルたば[編集へんしゅう]

メビウスのおび。これは局所きょくしょてきには U × R同相どうしょうである。

ベクトルたば位相いそう空間くうかん X によって連続れんぞくてきみちすうけられたベクトル空間くうかんぞくである[96]。より明確めいかくえば、X うえのベクトルたばとは、位相いそう空間くうかん E であって、連続れんぞく写像しゃぞう

ち、Xかくてん x においてファイバー V = πぱい−1(x) がベクトル空間くうかんすようなものをう。dim V = 1 ならば直線ちょくせんたばという。任意にんいのベクトル空間くうかん Vたいし、射影しゃえい X × VX直積ちょくせき X × Vファイバーたばにする。X うえのベクトルたばは、局所きょくしょせいのある(固定こていされた)ベクトル空間くうかん VX との直積ちょくせきでなければならない。つまり、Xかくてん xたいして x適当てきとう近傍きんぼう Uえらんで、πぱいπぱい−1(U) への制限せいげん自明じめいたば U × VU同型どうけいとなるようにすることができる[nb 15]。これらの局所きょくしょ自明じめいせいにもかかわらず、ベクトルたば巨視的きょしてきには(だいとなる位相いそう空間くうかん Xかたち依存いぞんして)「じれ」ているのである。つまり、ベクトルたば自明じめいたば X × V (と大域たいいきてき同型どうけい)である必要ひつようはない。たとえば、メビウスのおびは(円周えんしゅう実数じっすう直線ちょくせんじょう半開はんかい区間くかん同一どういつすることによって)円周えんしゅう S1 うえせんたば做すことができるが、しかしこれは円筒えんとう S1 × R とはことなる。後者こうしゃ可能かのうせいだが、前者ぜんしゃはそうではない[101]

あるしゅのベクトルたば性質せいしつは、たいとなる位相いそう空間くうかんについての情報じょうほう提供ていきょうする。たとえば、せっ空間くうかんあつまりからなるせったば微分びぶん多様たようたいてんによってみちすうけられる。円周えんしゅう S1せったばは、S1 うえ大域たいいきてきれいベクトルじょう存在そんざいするから、大域たいいきてきS1 × R同型どうけいである[nb 16]対照たいしょうてきに、もうたま定理ていり英語えいごばんにより、次元じげん球面きゅうめん S2 うえせっベクトルじょういたところえていないもの存在そんざいしない[102]K-理論りろんおな位相いそう空間くうかんじょうすべてのベクトルたば同型どうけいるいについて研究けんきゅうするものである[103]ふか位相いそうてきかつ幾何きかがくてき観察かんさつくわえて、この理論りろんにはじつ有限ゆうげん次元じげん多元たげんたい分類ぶんるい(そのようなものは R, C のほかはよんげんすうからだ Hはちげんすうからだ O しかない)というようなじゅん代数だいすうがくてき帰結きけつ存在そんざいする(フルヴィッツの定理ていり英語えいごばん参照さんしょう)。

微分びぶん多様たようせったばは、多様たようたいかくてんにおいてせっ空間くうかん双対そうついであるせっ空間くうかん対応たいおうするベクトルたばである。せったば切断せつだん1-形式けいしき (1-form)ばれる。

ぐん[編集へんしゅう]

ベクトル空間くうかんからだたいするものであるように、ぐん (えい: modules) の概念がいねんたまきたいするものである。これはベクトル空間くうかん公理こうりにおいてからだ F とするところをたまき Rえることでられる[104]ぐん理論りろんはベクトル空間くうかんのそれとくらべて(たまきもとかならずしもぎゃくもと存在そんざいしないことで)より複雑ふくざつなものになっている。たとえばぐんは、Z-ぐん(つまりアーベルぐん)としての Z/2Z のように、かならずしも基底きていたない。基底きていつようなぐん(ベクトル空間くうかんもそう)は自由じゆうぐんばれる。にもかかわらずベクトル空間くうかんは、係数けいすうたまきからだであるようなぐんとして簡単かんたん定義ていぎすることができて、そのもとをベクトルとぶ。かわたまき代数だいすう幾何きかがくてき解釈かいしゃくは、それらのたまきのスペクトルつうじて、ベクトルたば代数だいすうてき対応たいおうぶつである局所きょくしょ自由じゆうぐん概念がいねんなどを展開てんかいすることを可能かのうにする。

アフィン空間くうかんおよび射影しゃえい空間くうかん[編集へんしゅう]

R3 うちアフィン平面へいめん (水色みずいろ): これは次元じげん線型せんけい部分ぶぶん空間くうかんをベクトル x (あか) でずらしたものである。

大雑把おおざっぱうと、アフィン空間くうかん (えい: affine space ) というのはベクトル空間くうかんからその原点げんてんをわからなくしたものである[105]。より正確せいかくには、アフィン空間くうかんとは自由じゆうかつ推移すいいてきなベクトル空間くうかんぐん作用さようそなえた集合しゅうごうう。とくにベクトル空間くうかんは、写像しゃぞう

かんがえることによって、自身じしんうえのアフィン空間くうかんとなる。W をベクトル空間くうかんとするとき、W のアフィン部分ぶぶん空間くうかんとは、固定こていしたベクトル xW によって線型せんけい部分ぶぶん空間くうかん V平行へいこう移動いどうすることによってられるものをう。この空間くうかんx + VV による W剰余じょうよるい)であり、vVたいする x + vかたちのベクトルすべてからなる。重要じゅうようれいは、ひとし線型せんけい方程式ほうていしきけい

かい空間くうかんである。これはひとしつぎ場合ばあい、つまり b = 0場合ばあい一般いっぱんするものである[106]。このかい空間くうかんは、方程式ほうていしき特殊とくしゅかい x と、付随ふずいするひとし方程式ほうていしきかい空間くうかん(つまり Aかく空間くうかんVたいするアフィン部分ぶぶん空間くうかん x + V である。

固定こていされた有限ゆうげん次元じげんベクトル空間くうかん Vいち次元じげん線型せんけい部分ぶぶん空間くうかん全体ぜんたい集合しゅうごう射影しゃえい空間くうかんばれる。これは平行へいこうせん無限むげんとおにおいてまじわるという概念がいねん定式ていしきもちいられる[107]グラスマン多様たようたい英語えいごばんおよびはた多様たようたい英語えいごばんはそれぞれ、まった次元じげん k線型せんけい部分ぶぶん空間くうかんおよびはた英語えいごばんばれる線型せんけい部分ぶぶん空間くうかん包含ほうがんれつみちすうけることによる、射影しゃえい空間くうかん概念がいねん一般いっぱんである。

とつ解析かいせき[編集へんしゅう]

n-次元じげん単体たんたい標準ひょうじゅんとつ集合しゅうごうで、任意にんい多面体ためんたいうつり、また、標準ひょうじゅん (n + 1)-次元じげんアフィンちょう平面へいめん標準ひょうじゅんアフィン空間くうかん)と標準ひょうじゅん (n + 1)-次元じげん象限しょうげん標準ひょうじゅんきりたい)とのまじわりになっている。

順序じゅんじょたいとく実数じっすうたいじょうで、とつ解析かいせき概念がいねんかんがえることができる。もっと基本きほんてきなものは、非負ひふ線型せんけい結合けつごう全体ぜんたいからなるきり、および1 となる非負ひふ線型せんけい結合けつごう全体ぜんたいからなるとつ集合しゅうごうである。とつ集合しゅうごうはアフィン空間くうかん公理こうりきりたい公理こうりわせたものとしてることができ、これはとつ集合しゅうごう標準ひょうじゅん空間くうかんである n-単体たんたいちょう平面へいめん象限しょうげんとのまじわりであることを反映はんえいしたものになっている。このような空間くうかんとく線型せんけい計画けいかく問題もんだいにおいてもちいられる。

普遍ふへん代数だいすうがく言葉ことばえば、ベクトル空間くうかんはベクトルの有限ゆうげん対応たいおうする係数けいすう有限ゆうげんれつ全体ぜんたい普遍ふへんベクトル空間くうかん K うえ代数だいすうであるが、一方いっぽうアフィン空間くうかんはここでいう(1有限ゆうげんれつ全体ぜんたいす)普遍ふへんアフィンちょう平面へいめんじょう代数だいすうであり、またきりたい普遍ふへん象限しょうげんじょう代数だいすうとつ集合しゅうごう普遍ふへん単体たんたいじょう代数だいすうである。これは、「座標ざひょうたいする(可能かのうな)制限せいげん」をもちいて公理こうり幾何きかしたものである。

線型せんけい代数だいすうがくにおけるおおくの概念がいねんとつ解析かいせきにおける対応たいおうする概念がいねんがあって、基本きほんてきなものとしては基底きていや(とつつつみのようなかたちでの)生成せいせい概念がいねんなど、また重要じゅうようなものとしては(双対そうつい多角たかくがた双対そうついきりごくきり双対そうつい問題もんだいのような)双対そうついせいなどがふくまれる。しかし線型せんけい代数だいすうがくにおいて任意にんいのベクトル空間くうかんやアフィン空間くうかん標準ひょうじゅん空間くうかん同型どうけいとなるのとはことなり、任意にんいとつ集合しゅうごうきりたい単体たんたい象限しょうげん同型どうけいとなるわけではない。むしろ単体たんたいから多面体ためんたいうえ写像しゃぞう一般いっぱんされた重心じゅうしん座標ざひょうけい英語えいごばんによってつね存在そんざいし、またその双対そうつい写像しゃぞうとして多面体ためんたいから(めんかずひとしい次元じげんの)象限しょうげんなかへの写像しゃぞうスラック変数へんすう英語えいごばんによって存在そんざいするが、これらが同型どうけいとなることはまれである(ほとんどの多面体ためんたい単体たんたいでも象限しょうげんでもない)。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ ここではベクトルをスカラーから区別くべつするために、ベクトルは太字ふとじあらわす。あるいは、とく物理ぶつりがくで、矢印やじるしうえせる記法きほうひろもちいられる。「ベクトルをラテンアルファベットあらわし、スカラーはグリークアルファベット(ギリシャ文字もじ)であらわす」などの流儀りゅうぎや、場合ばあいによってはまったく文字種もじしゅ区別くべつをしないこともある。
  2. ^ この公理こうり演算えんざん結合けつごうせい仮定かていするものではない。ここでは種類しゅるい乗法じょうほう、つまりスカラーの乗法じょうほう bvからだ乗法じょうほう ab との関係かんけいせいかんがえているからである。
  3. ^ 文献ぶんけんによっては(たとえば Brown 1991係数けいすうたいRC制限せいげんするものあるが、理論りろんだい部分ぶぶん変更へんこうなしに任意にんいからだじょうつものである
  4. ^ たとえば、(無数むすう存在そんざいする)区間くかん指示しじ函数かんすうはどれも線型せんけい独立どくりつである。
  5. ^ この術語じゅつごは、「自身じしんの」とか「固有こゆうの」という意味いみドイツeigen“ に由来ゆらいする。
  6. ^ Roman 2005, p. 140, ch. 8. ジョルダン・シュバレー分解ぶんかい英語えいごばん参照さんしょう
  7. ^ 書籍しょせきによっては(Roman 2005など)この同値どうち関係かんけいからはなしはじめて、それを使つかって V/W具体ぐたいがたみちびかたちをとるものもある
  8. ^ この仮定かていからは、られる位相いそう一様いちよう構造こうぞうつことがみちびかれる。Bourbaki 1989, ch. II
  9. ^ |•|pかんする三角さんかく不等式ふとうしきミンコフスキーの不等式ふとうしきからられる。技術ぎじゅつてき理由りゆうから、この文脈ぶんみゃくではほとんどいたところ一致いっちする函数かんすうたがいに同一どういつする。こうすれば上記じょうきの「ノルム」ははんノルムなだけでなく本当ほんとうノルムあたえる。
  10. ^ L2ぞくするおおくの函数かんすうはルベーグ測度そくど有界ゆうかいでなく、古典こてんてきなリーマン積分せきぶんでは積分せきぶんすることができない。ゆえにリーマン積分せきぶん函数かんすう空間くうかんL2-ノルムにかんして完備かんびにならず、また それらにたいする直交ちょっこう分解ぶんかい適用てきようできない。これはルベーグ積分せきぶん優位ゆういせいしめすものである」Dudley 1989, p. 125, sect. 5.3
  11. ^ p ≠ 2 のとき Lp(Ωおめが) はヒルベルト空間くうかんでない。
  12. ^ ヒルベルト空間くうかん基底きていというのは、すでべた線型せんけい代数だいすうがくてき意味いみでの基底きていおなじものを意味いみしない。区別くべつのためには、後者こうしゃハメル基底きていばれる。
  13. ^ フーリエ級数きゅうすう周期しゅうきてきだが、この手法しゅほう任意にんい区間くかんじょうL2-函数かんすうたいして、函数かんすう区間くかん外側そとがわ周期しゅうきてき延長えんちょうすることによって適用てきようできる。Kreyszig 1988, p. 601
  14. ^ これは BSE-3 2001うには、接点せってん Pとお平面へいめんであって、曲面きょくめんじょうてん P1 とこの平面へいめんとの距離きょりが、曲面きょくめん沿って P1Pちかづけた極限きょくげんでの P1P との距離きょりよりも無限むげんちいさいようなものである。
  15. ^ つまり、πぱい−1(U) から V × U へのじゅん同型どうけいで、その制限せいげんがファイバーのあいだ同型どうけいとなるものが存在そんざいする。
  16. ^ S1せったばのようなせんたば自明じめいとなる必要ひつようじゅうふん条件じょうけんは、いたところえていない切断せつだん存在そんざいすることである(Husemoller 1994, Corollary 8.3 を参照さんしょう)。せったば切断せつだんというのは、ベクトルじょうならない。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

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参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

線型せんけい代数だいすうがくかんするもの[編集へんしゅう]

解析かいせきがくかんするもの[編集へんしゅう]

歴史れきしかんするもの[編集へんしゅう]

発展はってんてき話題わだいかんするもの[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]