かくりつ微分びぶん方程式ほうていしき

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

かくりつ微分びぶん方程式ほうていしき(かくりつびぶんほうていしき、えい: Stochastic differential equation)とは、1つ以上いじょうこうかくりつ過程かていである微分びぶん方程式ほうていしきであって、その結果けっかかい自身じしんかくりつ過程かていとなるものである。一般いっぱんてきに、かくりつ微分びぶん方程式ほうていしきブラウン運動うんどうウィーナー過程かてい)から派生はせいするとかんがえられる白色はくしょく雑音ざつおんむが、不連続ふれんぞく過程かていようほか作為さくい変動へんどうもちいることも可能かのうである。

背景はいけい[編集へんしゅう]

かくりつ微分びぶん方程式ほうていしきは、ブラウン運動うんどう記述きじゅつしたアインシュタイン有名ゆうめい論文ろんぶん、およびどう時期じきスモルコフスキーにより導入どうにゅうされた。しかし、バシュリエ(1900ねん)の論文ろんぶん投機とうき理論りろん」は、ブラウン運動うんどう関連かんれんした初期しょき業績ぎょうせきとして特筆とくひつすべきである。そのランジュバンがれ、のち伊藤いとうストラトノビッチかくりつ微分びぶん方程式ほうていしき数学すうがくてき基礎きそけをおこなった。

かくりつ解析かいせき[編集へんしゅう]

ブラウン運動うんどう、あるいはウィーナー過程かていは、数学すうがくてきにはきわめて複雑ふくざつである。ウィーナー過程かてい経路けいろ微分びぶん不可能ふかのうであり、したがって、微分びぶん積分せきぶんおこなうには、独自どくじ規則きそく必要ひつようとなる。かくりつ解析かいせきには、伊藤いとうかくりつ解析かいせき、ストラトノビッチかくりつ解析かいせきの2つの方法ほうほうがある。各々おのおのには長所ちょうしょおよび利点りてんがあり、はつ学者がくしゃは、あたえられた状況じょうきょうにおいてどちらを使つかうべきか混乱こんらんしがちである。しかし、指針ししん存在そんざいするのであり(下記かきエクセンダール参考さんこう文献ぶんけん参照さんしょう)、伊藤いとうかくりつ微分びぶん方程式ほうていしき等価とうかなストラトノビッチかくりつ微分びぶん方程式ほうていしき変換へんかんでき、ふたたもどすことも可能かのうである。しかし、そのかくりつ微分びぶん方程式ほうていしきてたさい、どちらの解析かいせきによったのか、注意ちゅういはらわなければならない。

数値すうちかい[編集へんしゅう]

かくりつ微分びぶん方程式ほうていしきとくかくりつへん微分びぶん方程式ほうていしき数値すうち解法かいほうは、相対そうたいてき発達はったつ分野ぶんやである。通常つうじょう微分びぶん方程式ほうていしき数値すうちかい使用しようされるアルゴリズムのほとんどは、かくりつ微分びぶん方程式ほうていしきにはほとん有効ゆうこう使用しようできず、数値すうち収束しゅうそく非常ひじょうわるいとされている。洋書ようしょであるが、P E Kloeden and E Platen, Numerical Solution of Stochastic Differential Equations, (Springer, 1999) は、おおくのアルゴリズムをあつかっている。これら手法しゅほうには、オイラー・丸山まるやまほう、ミルスタインほう、ルンゲ・クッタほうとうがある。

定義ていぎ[編集へんしゅう]

典型てんけいてきには、Btt≧0) を、 B0 = 0 をたす連続れんぞく時間じかんいち次元じげんブラウン運動うんどうウィーナー過程かてい)とするとき、積分せきぶん方程式ほうていしき

かたち略記りゃっきしたものを、かくりつ微分びぶん方程式ほうていしきという。上記じょうき方程式ほうていしきは、連続れんぞく時間じかんかくりつ過程かてい Xtいを、一般いっぱんルベーグ積分せきぶん伊藤いとう積分せきぶんしている。

かくりつ微分びぶん方程式ほうていしき発見はっけんろんてきだがとても有益ゆうえき解釈かいしゃくは、微小びしょう時間じかん間隔かんかく δでるた において、かくりつ過程かてい Xt変化へんかが、期待きたい μみゅー(Xt,t)δでるた分散ぶんさん σしぐま2(Xt,t)δでるた正規せいき分布ぶんぷしたがって変化へんかし、しかも過去かこどうかくりつ過程かていいと独立どくりつである、とることである。ウィーナー過程かてい変化へんかたがいに独立どくりつ正規せいき分布ぶんぷしたがうことから、こうかんがえることができる。

関数かんすう μみゅー(x,t) はドリフト係数けいすう(drift coefficient)、関数かんすう σしぐま(x,t) は拡散かくさん係数けいすう(diffusion coefficient)という。かくりつ微分びぶん方程式ほうていしきかいとしてられるかくりつ過程かてい Xt拡散かくさん過程かてい(かくさんかてい、えい:diffusion process)とび、通常つうじょうマルコフ過程かていである。

つよかいじゃくかい[編集へんしゅう]

かくりつ微分びぶん方程式ほうていしき理論りろんてき解釈かいしゃくは、どう方程式ほうていしきかいとはなにかによって解釈かいしゃくする。かくりつ微分びぶん方程式ほうていしきかい主要しゅよう定義ていぎには、つよかい(きょうかい、えい:strong solution)とじゃくかい(じゃくかい、えい:weak solution)の種類しゅるいある。 どちらも、かくりつ微分びぶん方程式ほうていしき対応たいおうする積分せきぶん方程式ほうていしきかいとなるかくりつ過程かてい Xt存在そんざい要件ようけんとする。両者りょうしゃちがいは、基礎きそとなるかくりつ空間くうかん (Ωおめが, F, P) にある。じゃくかいとは、かくりつ積分せきぶん方程式ほうていしきたすかくりつ空間くうかんかくりつ過程かていをいい、つよかいは、あたえられたかくりつ空間くうかんうえ定義ていぎされ、かくりつ積分せきぶん方程式ほうていしきたすかくりつ過程かていをいう。

幾何きかブラウン運動うんどう[編集へんしゅう]

以下いかかくりつ微分びぶん方程式ほうていしき

重要じゅうようれいであり、このかい幾何きかブラウン運動うんどう(きかぶらうんうんどう、えい:geometric Brownian motion)という。これは、数理すうりファイナンスにおいて、ブラック・ショールズ・オプション価格かかくモデルで、株式かぶしき価格かかくうごきを方程式ほうていしきである。

伊藤いとう過程かてい[編集へんしゅう]

係数けいすう関数かんすうμみゅーσしぐまが、かいかくりつ過程かていXt現在げんざいのみならず、どう過程かてい過去かこ、またはかくりつ過程かてい現在げんざい過去かこにも依存いぞんする、さらに一般いっぱんてきかくりつ微分びぶん方程式ほうていしきかんがえられる。この場合ばあいかいかくりつ過程かてい Xt はマルコフ過程かていではなく、そのかい拡散かくさん過程かていではなく伊藤いとう過程かてい(Itō process)とばれる。係数けいすう関数かんすう現在げんざい過去かこXtのみに依存いぞんする場合ばあい定義ていぎするかくりつ微分びぶん方程式ほうていしきは、かくりつ遅延ちえん微分びぶん方程式ほうていしき(stochastic delay differential equation)という。

かい存在そんざい一意いちいせい[編集へんしゅう]

決定けっていろんてき常微分じょうびぶん方程式ほうていしきへん微分びぶん方程式ほうていしき同様どうようあたえられたかくりつ微分びぶん方程式ほうていしきかい存在そんざいするか、存在そんざいするとして一意いちいかをることは、重要じゅうようである。下記かきは、n次元じげんユークリッド空間くうかんRnり、m次元じげんブラウン運動うんどうB無作為むさくいこうとする伊藤いとうかくりつ微分びぶん方程式ほうていしきかい存在そんざいおよび一意いちいせいかんする一般いっぱんてき定理ていりである。参考さんこう文献ぶんけんしるしたエクセンダールのほんの §5.2には、証明しょうめい記載きさいされている。

T > 0とする。


はか関数かんすうで、適当てきとう定数ていすうCD存在そんざいし、任意にんいt ∈ [0, T]、任意にんいx, yRnたいし、つぎの2条件じょうけんたすとする。


ここで、

である。 かくりつ変数へんすうZは、{Bs}s≧0により生成せいせいされるσしぐま加法かほうぞく独立どくりつであり、かつ、

たすとする。このとき、かくりつ微分びぶん方程式ほうていしき


は、以下いかの2つの性質せいしつゆうするtかんして連続れんぞくかい を、Pにかんしてほとん確実かくじつ一意いちいゆうする。

  • X は、ZBsst) により生成せいせいされる増大ぞうだい情報じょうほうけい[ちゅう 1]適合てきごうする[ちゅう 2]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ はか空間くうかん (Ωおめが, F) において、t ∈[0, ∞) をじょ変数へんすうとする部分ぶぶん集合しゅうごうぞく {Ft} が増大ぞうだい情報じょうほうけい(ぞうだいじょうほうけい、えい:filtration)であるとは、FtF部分ぶぶん σしぐま 加法かほうぞくであって、かつ 0≦stFsFtたすことをいう。
  2. ^ 増大ぞうだい情報じょうほうけい {Ft} があたえられたかくりつ空間くうかん (Ωおめが, F, P) じょうかくりつ過程かてい {Xt(ωおめが)} が {Ft} に適合てきごうする(えい:adapted)とは、任意にんいtたいして XtFt はかになることをいう。

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]