バリオニクス

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ケラトスコプスぞくから転送てんそう
バリオニクス
生息せいそく年代ねんだい: 中生代ちゅうせいだい前期ぜんきはく亜紀あき, 139.8–112 Ma
バリオニクス骨格こっかく
地質ちしつ時代じだい
中生代ちゅうせいだい前期ぜんきはく亜紀あき
分類ぶんるい
ドメイン : かく生物せいぶつ Eukaryota
さかい : 動物界どうぶつかい Animalia
もん : 脊索せきさく動物どうぶつもん Chordata
もん : 脊椎動物せきついどうぶつもん Vertebrata
つな : 爬虫つな Reptilia
つな : そうゆみつな Diapsida
下綱しもつな : しゅりゅうがた下綱しもつな Archosauromorpha
上目うわめ : 恐竜きょうりゅう上目うわめ Dinosauria
: りゅうばん Saurischia
: ししあし Theropoda
階級かいきゅうなし : とり吻類 Averostra
下目しため : テタヌラ下目しため Tetanurae
: スピノサウルス Spinosauridae
: バリオニクス Baryonychinae
学名がくめい
Baryonycinae
Charig & Milner, 1986
ぞく

バリオニクス (バリオニクスあか、学名がくめい:Baryonychinae)は、恐竜きょうりゅういち分類ぶんるいぐんで、ししあしスピノサウルス分類ぶんるいされるバリオニクススコミムスクリスタトゥサウルスイクティオヴェナトル?とうふく[1]

バリオニクス大型おおがたそく歩行ほこう捕食ほしょくしゃで、細長ほそながいワニのような頭蓋骨ずがいこつと、ロゼットじょうひろがったしもあご先端せんたんち、円錐えんすいがたの、おおくの場合ばあい鋸歯きょしのないと、明確めいかくぜん上顎じょうがくきりこんってた。拡大かくだいした最初さいしょゆびつめで3ほんゆびささえる頑丈がんじょう前肢ぜんしっており、名前なまえ間接かんせつてきにそれを示唆しさする。バリオニクスぞくは、より派生はせいしたスピノサウルスとはことなり小型こがたかあるいは存在そんざいしなかった。

発見はっけん歴史れきし[編集へんしゅう]

1820ねん生物せいぶつ学者がくしゃのギデオン・マンテルはイギリスワドハースト粘土ねんどそうから多数たすう化石かせき発見はっけんしたことからはじまった[2]。これらは1841ねん生物せいぶつ学者がくしゃリチャード・オーウェンによってスコサウルス・カルトリデンスと名付なづけられ、ワニの一種いっしゅであると誤認ごにんされた[3]。2番目ばんめたねであるスチョサウルス ジラルディは、1897ねんポルトガルパポ セコそうのアンリ=エミール ソバージュによって命名めいめいされた[4]。1986ねんにバリオニクスが記載きさいされてはじめて、これらの化石かせきはスピノサウルスであることが特定とくていされ、スコサウルスはスピノサウルス分類ぶんるいされた。

この代表だいひょうとして2番目ばんめ記載きさいされているものは、1983ねん化石かせき収集しゅうしゅうウィリアム・ジョン・ウォーカーによって、イギリスサリーしゅうウィールド・クレイそうのスモークジャック・ピットない発掘はっくつされた。 これによりロンドン自然しぜん博物館はくぶつかん関与かんよはじまり、65% 完全かんぜん骨格こっかくであるNHMUK VP R9951発見はっけんされた。1986ねんにこの標本ひょうほん出版しゅっぱんされ、アラン・J・チャリグとアンジェラ・C・ミルナーによってバリオニクス・ウォーカーリとして記載きさいされ[5]、1997ねんにはより詳細しょうさい単行本たんこうぼん出版しゅっぱんされた[6][7]。その、1998ねんと2004ねんに、このぞくぞくするとかんがえられるほね脊椎せきついこつ発見はっけんされた[8]同年どうねん、ホルツらによってスピノサウルスとバリオニクス分類ぶんるいがくてき定義ていぎされた[1]

1973ねん生物せいぶつ学者がくしゃのフィリップ・タケは、ニジェールエルハズそうのガドゥファウアで、2つのぜん上顎じょうがくこつ部分ぶぶんてき上顎じょうがくこつこつからなる標本ひょうほんMNHN GDF 266と、いくつかの同様どうよう化石かせき発見はっけんした。これらは1998ねんクリスタトゥサウルス・ラパレンティのホロタイプおよびパラタイプとして記載きさいされたが[9]、この標本ひょうほん当時とうじあらたに記載きさいされたバリオニクスをあらわしているかどうかについてはいくつかの決定的けっていてきでない議論ぎろんがあった[5][6]

1997ねん、ポール セレーノとその同僚どうりょうは、ガドゥファウアでやく67%完成かんせいした骨格こっかくMNN GDF500発見はっけんした。翌年よくねん、セレノらはこの標本ひょうほんあたらしいバリオニクススコミムス・テネレンシスと記載きさいした[10]。このたねは、1990年代ねんだいから2000年代ねんだいにかけて、クリスタトゥサウルスとバリオニクスをめぐる同義語どうぎご論争ろんそう対象たいしょうにもなった[11][12]

2013ねんから2020ねんにかけて、イギリスのウェセックスそうからいくつかのスピノサウルス破片はへん発見はっけんされた。2021ねんに、Barkerらはこれらの標本ひょうほんIWCMS 2014.95.5IWCMS 2021.30IWCMS 2014.95.1-3IWCMS 2014.95.4IWCMS 2014.95.6IWCMS 2014.96.1、2について説明せつめいした。2020.448.1、2、およびIWCMS 2014.96.3は、2つのあたらしいぞくCeratosucops inferodiosおよびRiparovenator milneraeとして認識にんしきされた。

中国ちゅうごくうま家村いえむらそうから出土しゅつどしたししあしるいは、やく8,600まんねんから8,500まんねんまえのものと推定すいていされる。かれらは、このがおそらくバリオニクスぞくするものと解釈かいしゃくし、バリオニクスおよびメガロサウルスうえ全体ぜんたい時間じかんてき範囲はんいはく亜紀あき後期こうきまで拡大かくだいするとかんがえられた。

概要がいよう[編集へんしゅう]

バリオニクスはより進化しんかしたスピノサウルスよりも平均へいきんしてちいさかったが、それでもししあしるい一般いっぱん比較ひかくするとかなりおおきかった。最小さいしょうたねであるケラトスコプスリパロヴェナトル体長たいちょう8~9メートル、やく1.4~2トンと推定すいていされているが、最大さいだいたねであるスコミムスは体長たいちょう9.5~11メートル、体重たいじゅう3~4.7トンと推定すいていされている。このたねは、のスピノサウルスるい同様どうように、おおきな3ほんつめ頑丈がんじょう前肢ぜんしほこっていた。しかし、より派生はせいしスピノサウルスとはことなり、スコミムス、リパロヴェナトル、ケラトスコプスのように、これらの動物どうぶつちいさなっていた。バリオニクスのように仙骨せんこつ椎骨ついこつのみがびているものもあれば、まったくないものもあった。

頭蓋骨ずがいこつ[編集へんしゅう]

スコミムスの頭蓋骨ずがいこつ

のほとんどのスピノサウルスるい同様どうように、バリオニクスししあしるい比較ひかくして非常ひじょう細長ほそなが頭蓋骨ずがいこつっていた。さらに、スピノサウルスるい比較ひかくしても、かれらの頭蓋骨ずがいこつながかった。おそらく、もっと比例ひれいしてながくなった頭蓋骨ずがいこつはスコミムスのものとかんがえられている。非常ひじょうにワニに頭蓋骨ずがいこつには、スピノサウルスるいのほとんどのししあしるいとはことなり、頭蓋骨ずがいこつ前部ぜんぶ (前上まえかみ顎骨がっこつ) から後部こうぶまで突起とっきがほとんどなかった。バリオニクスししあしるい比較ひかくしてぜん眼窩がんかまどすくなく、前部ぜんぶ吻のだい部分ぶぶんぜん上顎じょうがくこつ上顎じょうがくこつによって形成けいせいされた固体こたいほねである。ぜん上顎じょうがくこつ先端せんたんは、拡大かくだいしてかえった保持ほじする「ターミナルロゼット」に拡張かくちょうされた。これらの拡張かくちょう背後はいごで、バリオニクスは、おさまる鼻腔びこう隙間すきまふく合体がったいと、さらに後方こうほうに、おおきな上顎じょうがく前方ぜんぽうがくぼんだじょう隙間すきま特徴とくちょうとした。これらの動物どうぶつには、縮小しゅくしょうしたせまぜん上顎じょうがくこつりょうもあった。

分類ぶんるい[編集へんしゅう]

バリオニクスは、1986ねんにアラン J. チャリグとアンジェラ ミルナーによってバリオニクスをふくめてそのを「バリオニクス」と名付なづけたときにはじめて暗黙あんもくてき命名めいめいされた。バリオニクスがスピノサウルスであることが判明はんめいしたとき、バリオニクス無効むこうとなった。ミルナーは、スコサウルスもこのぞくしている可能かのうせいたかいとべた。

1998ねんに、Serenoらははスコミムスぞく記載きさいし、バリオニクスとともにバリオニクスいた。かれらはこの際立きわだった特徴とくちょうを「末端まったんロゼットのうしろのこつにある多数たすう小型こがた鋸歯きょしじょうと、ふかいキールのあるぜんしい」と定義ていぎした。2002ねんまでに、このにはバリオニクスぞく、スコミムスぞく、およびスコサウルスぞくふくまれるという結論けつろんられた。このクレードはホルツらによって系統けいとう発生はっせいてき定義ていぎされました。すべての分類ぶんるいぐんはスピノサウルス・エジプティアクスよりもバリオニクス・ワルケリにきんえんであるためである。

イクティオヴェナトルの2012ねん説明せつめいでは、このぞくすることが判明はんめいしたが、そののほとんどすべての研究けんきゅうではそうではないことが判明はんめいし、スピノサウルス分類ぶんるいされた。

2021ねんまで、クリスタトゥサウルスとスコサウルスはあまりにも不完全ふかんぜんうたがわしいとかんがえられていたため、バリオニクスのスコミムスとバリオニクスのみが系統けいとう解析かいせきふくまれており、Ardenらがおこなった解析かいせきのように、ほぼつねにバリオニクス姉妹しまいぞくであることが判明はんめいしている。2018ねん以下いかしめされています。

スピノサウルス

Praia das Aguncheiras taxon

バリオニクス
バリオニクス
スコミムス
スピノサウルス
シアモサウルス

Eumeralla taxon

イクティオヴェナトル
イリタトル
オキサライア
スピノサウルスぞく

Gara Samani taxon

シギルマッササウルス
スピノサウルス

2021ねん、Chris Barker、Hone、Darren Naish、Andrea Cau、Lockwood、Foster、Clarkin、Schneider、Gostlingは、スピノサウルスの2しゅ新種しんしゅ、ケラトスコプスとリパロヴェナトルを記載きさいし、十分じゅうぶん支持しじてバリオニクス分類ぶんるいした。かれらはスコミムスとならんであたらしく創設そうせつされた部族ぶぞくケラトスコプスぞくなかかれらを配置はいちした。「1. 前頭まえがしら腹部ふくぶ眼窩がんかめんあつく(ながさの40%以上いじょうたかさ)、ふかたてみぞによって掘削くっさくされている。2. がわ頭上ずじょう窩のぜんえん明確めいかくつよ湾曲わんきょくしている。3. 基底きていちょうがたほねがわふく楕円だえんがた瘢痕はんこんのちあたまめん掘削くっさくされている。」このぞくたね全長ぜんちょうやく7.7から9.5 メートルである。ベイズほうによる系統けいとう解析かいせき結果けっか以下いかしめされています。

メガロサウルス

スピノサウルス

ヴァリボナベナトリクス

バリオニクス
イベロスピナス
バリオニクス
ケラトスコプスぞく
スコミムス
リパロヴェナトル
ケラトスコプス
スピノサウルス
カマリラサウルス
イクティオヴェナトル
イリタトル
スピノサウルスぞく
シギルマッササウルス

"スピノサウルス B" (=?cf. シギルマッササウルス/Spinosaurus sp.)

MSNM-V4047 (=?cf. シギルマッササウルス/スピノサウルス sp.)

FSAC-KK11888 (スピノサウルス sp.)

スピノサウルス holotype

生物せいぶつがく[編集へんしゅう]

もの[編集へんしゅう]

バリオニクスのちいさく、かえっていて鋸歯きょしがほとんど、またはまったくなく、ワニのています。 これらは、多数たすうかえったが、もがくすべりやすい動物どうぶつあごのどなか保持ほじするのに役立やくだつため、さかなしょくせいへの適応てきおうであるとかんがえられています。にくったりいたりするために一般いっぱんされているほかのほとんどのししあしるい鋸歯きょしじょうではなかった。Vulloは2016ねんには、スピノサウルス頭蓋とうがい進化しんかさかなしょくせいへの適応てきおうを、同様どうよう進化しんかした頭蓋骨ずがいこつ現代げんだい捕食ほしょくせいウナギのであるムラエネソシダのそれにたとえている。

分類ぶんるいもっと完全かんぜん代表だいひょうしゃ一人ひとりであるバリオニクスは、ジェネラリストてき行動こうどう証拠しょうこしめしている。記録きろくされたれいの1つは、両方りょうほうさかな領域りょういきないのイグアノドンるい幼体ようたい内容ないようぶつ発見はっけんされたバリオニクスのホロタイプである。ベルギーの生物せいぶつ学者がくしゃクリストフ・ヘンドリックスらによる2016ねん研究けんきゅうでも、べつれい指摘してきされている。研究けんきゅうしゃらは、成体せいたいのスピノサウルスるいは、あごがったときにしもあごえだしもあご半分はんぶん)をよこにずらすことができ、それによって咽頭いんとうくち食道しょくどうをつなぐ開口かいこう)をひろげることができることを発見はっけんした。このあご関節かんせつつばさりゅう現生げんなまのペリカンにられるものとており、同様どうようにスピノサウルスさかな動物どうぶつなどのおおきな獲物えものむことを可能かのうにしたとかんがえられる。

かれらはまた、ポルトガルのイベロスピナス(以前いぜんはバリオニクスとなされていた)の可能かのうせいのある化石かせきが、孤立こりつしたイグアノドンの関連かんれんして発見はっけんされたことを報告ほうこくし、スピノサウルスるい日和見ひよりみてき摂食せっしょく行動こうどう裏付うらづけるものとしてほか同様どうよう関連かんれんせいとともにそれをリストにげた。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ a b Holtz, Thomas R.; Molnar, Ralph E.; Currie, Philip J. (2019). “Basal Tetanurae”. In Weishampel, David B.; Dodson, Peter; Osmólska, Halszka. The Dinosauria, Second Edition. pp. 71–110. doi:10.1525/9780520941434-009. ISBN 978-0-520-94143-4 
  2. ^ Mantell, G.A., 1822, The fossils of the South Downs or Illustrations of the Geology of Sussex, London, Rupton Relfe
  3. ^ Owen, Richard (1840). Odontography; or, A treatise on the comparative anatomy of the teeth; their physiological relations, mode of development, and microscopic structure, in the vertebrate animals.. H. Baillière. pp. 1–32. OCLC 5294428. https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k98751k 
  4. ^ Sauvage, H. E (1897) (フランス語ふらんすご). Vertébrés fossiles du Portugal: contributions à l'étude des poissons et des reptiles du jurassique et du crétacique [Fossil vertebrates from Portugal: contributions to the study of Jurassic and Cretacic fish and reptiles]. l'Académie royale des Sciences. OCLC 1015745741 [ようページ番号ばんごう]
  5. ^ a b Charig, A. J.; Milner, A. C. (1986). “Baryonyx, a remarkable new theropod dinosaur”. Nature 324 (6095): 359–361. Bibcode1986Natur.324..359C. doi:10.1038/324359a0. PMID 3785404. 
  6. ^ a b Charig, A. J.; Milner, A. C. (1997). Baryonyx walkeri, a fish-eating dinosaur from the Wealden of Surrey”. Bulletin of the Natural History Museum of London 53: 11–70. https://www.biodiversitylibrary.org/page/36949178#page/199/mode/1up. 
  7. ^ Therrien, François; Henderson, Donald M. (12 March 2007). “My theropod is bigger than yours … or not: estimating body size from skull length in theropods”. Journal of Vertebrate Paleontology 27 (1): 108–115. doi:10.1671/0272-4634(2007)27[108:MTIBTY]2.0.CO;2. 
  8. ^ Clabby, S. M. (2005ねん). “Baryonyx Charig and Milner 1986”. DinoWight. 2015ねん10がつ12にち閲覧えつらん
  9. ^ Taquet, Philippe; Russell, Dale A. (September 1998). “New data on spinosaurid dinosaurs from the early cretaceous of the Sahara”. Comptes Rendus de l'Académie des Sciences, Série IIA 327 (5): 347–353. Bibcode1998CRASE.327..347T. doi:10.1016/S1251-8050(98)80054-2. 
  10. ^ Sereno, Paul C.; Beck, Allison L.; Dutheil, Didier B.; Gado, Boubacar; Larsson, Hans C. E.; Lyon, Gabrielle H.; Marcot, Jonathan D.; Rauhut, Oliver W. M. et al. (13 November 1998). “A Long-Snouted Predatory Dinosaur from Africa and the Evolution of Spinosaurids”. Science 282 (5392): 1298–1302. Bibcode1998Sci...282.1298S. doi:10.1126/science.282.5392.1298. PMID 9812890. 
  11. ^ Sues, H.-D.; Frey, E.; Martill, M.; Scott, D.M. (2002). “Irritator challengeri, a spinosaurid (Dinosauria: Theropoda) from the Lower Cretaceous of Brazil”. Journal of Vertebrate Paleontology 22 (3): 535–547. doi:10.1671/0272-4634(2002)022[0535:icasdt]2.0.co;2. 
  12. ^ Rauhut, O. W. M. (2003). The interrelationships and evolution of basal theropod dinosaurs. Special Papers in Palaeontology. 69. pp. 35–36. ISBN 978-0-901702-79-1 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]