ティミムス

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ティミムス
生息せいそく年代ねんだい: はく亜紀あき前期ぜんきアルビアン, 106 Ma
ホロタイプ標本ひょうほん NMV P186303(ひだり大腿だいたいこつ
分類ぶんるい
ドメイン : かく生物せいぶつ Eukaryota
さかい : 動物界どうぶつかい Animalia
もん : 脊索せきさく動物どうぶつもん Chordata
もん : 脊椎動物せきついどうぶつもん Vertebrata
つな : 爬虫つな Reptilia
つな : そうゆみつな Diapsida
下綱しもつな : しゅりゅうがた下綱しもつな Archosauromorpha
上目うわめ : 恐竜きょうりゅう上目うわめ Dinosauria
: りゅうばん Saurischia
: ししあし Theropoda
階級かいきゅうなし : とり吻類 Averostra
下目しため : テタヌラ下目しため Tetanurae
階級かいきゅうなし : コエルロサウルスるい Coelurosauria
階級かいきゅうなし : ティラノラプトラ Tyrannoraptora
うえ : ?ティラノサウルスうえ Tyrannosauroidea
ぞく : ティミムスぞく Timimus
学名がくめい
Timimus
Rich & Vickers-Rich, 1993
たね

ティミムス学名がくめいTimimus)は、はく亜紀あき前期ぜんきオーストラリア生息せいそくした、コエルロサウルスるいぞくするししあしるい恐竜きょうりゅうぞく当初とうしょオルニトミモサウルスるいとして同定どうていされていたが、現在げんざいではことなる種類しゅるいししあしるいであるとかんがえられており、おそらくはティラノサウルスうえである[1]

発見はっけんたね[編集へんしゅう]

オーストラリアの南端なんたんにあるちいさな Dinosaur Cove の東部とうぶ Lake Copco 採石さいせきじょうにて、1991ねん成体せいたい幼体ようたいわせてけい2ほん大腿だいたいこつが1メートル以内いない距離きょり発見はっけんされた。トーマス・リッチとかれつまパトリシア・ヴィッカーズ・リッチにより、しきしゅティミムス・ヘルマニは1933ねんから1934ねんにかけて正式せいしき命名めいめいはしてき記載きさいされた。ぞくめいは「ティムもどき」を意味いみする。これは発見はっけんしゃ息子むすこティモシー・リッチと生物せいぶつ学者がくしゃティム・フラネリーに由来ゆらいし、オルニトミモサウルスるいとの関係かんけい推定すいていされたことを反映はんえいするラテン語らてんごmimusむすけられた。たね小名しょうみょう長年ながねんわたって Dinosaur Cove プロジェクトをささえた有志ゆうしのジョン・ヘルマンをとなえたもの[2]

ホロタイプ標本ひょうほん NMV P186303 は Eumeralla そう発見はっけんされ、このそうやく1おく600まんねんまえはく亜紀あき前期ぜんきアルビアンにあたる。ホロタイプ標本ひょうほん成体せいたいひだり大腿だいたいこつである[2]

1994ねんのトーマス・リッチ博士はかせのコメントによると、より完全かんぜん標本ひょうほんをホロタイプとするのがのぞましいが、この地域ちいき露頭ろとうかぎられているためティミムスの骨格こっかくのち発見はっけんされるとはかんがえにくい。また、オルニトミモサウルスるいしんぞくとして同定どうていされる複数ふくすう特徴とくちょうがホロタイプ標本ひょうほん確認かくにんされており、ティミムスの生物せいぶつがく文献ぶんけんにおける資料しりょう参照さんしょう役立やくだったであろう。リッチは「恐竜きょうりゅう名前なまえはそれ自体じたい電話でんわ番号ばんごうのようなものである。名前なまえ標本ひょうほんと、その解析かいせきからまれたアイデアをしめすラベルである。不正確ふせいかく電話でんわちょうのように混乱こんらんまねくラベルはシステムを機能きのう不全ふぜんみちびくため、もの名前なまえやラベルをけるさいにはける必要ひつようがある。しかしそれは標本ひょうほんやそれに関連かんれんするアイデアをつくすことではなく、たんにコミュニケーションという目的もくてき便利べんり手段しゅだんつくることである。[ちゅう 1]」とコメントしている[3]

2番目ばんめ大腿だいたいこつ成長せいちょうしきっていない個体こたいのもので、パラタイプ標本ひょうほん NMV P186323 に指定していされている。おな現場げんばから産出さんしゅつした複数ふくすう椎骨ついこつほんしゅてられているほか、みなみオーストラリアから出土しゅつどしたほねもティミムスと同定どうていされているものがある。

記載きさい[編集へんしゅう]

ホロタイプ標本ひょうほん大腿だいたいこつながさ44センチメートルにたっし、このことから全長ぜんちょうは2.5メートルと推定すいていされた[4]細長ほそなが体型たいけいからしなやかな動物どうぶつであったことが示唆しさされている。パラタイプ標本ひょうほん大腿だいたいこつは11センチメートルで、しめぎちょう形質けいしつおもわれる複数ふくすう特徴とくちょうしめされている。したがわ関節かんせつ関節かんせつおかあいだしんすじみぞ存在そんざいせず、これはオルニトミモサウルスるい基盤きばんてき特徴とくちょうである[4]大腿だいたいこつあたま前後ぜんご方向ほうこうひらたい。前方ぜんぽうてんだいてんどう程度ていどたかさにある。

系統けいとう発生はっせい[編集へんしゅう]

1994ねん研究けんきゅうしゃはティミムスをオルニトミモサウルス(すなわちオルニトミムス)とした。ゴンドワナ大陸たいりく由来ゆらいするオルニトミモサウルスるいめずらしく、疑問ぎもんされた。オルニトミモサウルスるい南半球みなみはんきゅうにも生息せいそくしていてそこを起源きげんとしていたことの証拠しょうことしてティミムスは提示ていじされたが、即座そくざにトーマス・ホルツがティミムスの系統けいとうてき位置いちづけに疑問ぎもんていした[5]今日きょうではティミムスはオルニトミモサウルスるいとの共有きょうゆう派生はせい形質けいしつたないことが判明はんめいしており、ティミムスがオルニトミモサウルスるい分類ぶんるいされる根拠こんきょうしなわれている。なんらかのコエルロサウルスるいにあたる疑問ぎもんめいとする研究けんきゅうしゃもいる[6]。2012ねん研究けんきゅうティラノサウルスうえ有効ゆうこうぞくであるとされ[1]、この結論けつろんはDelcourt と Grillo による2018ねん論文ろんぶん支持しじされている[7]

なお、おなじく南半球みなみはんきゅう大陸たいりくであるみなみアメリカ大陸あめりかたいりくブラジル)から発見はっけんされたサンタナラプトルもティラノサウルスうえぞくする可能かのうせいたかいとられている。サンタナラプトルはティミムスよりも化石かせき保存ほぞんくティラノサウルスうえ分類ぶんるいされる根拠こんきょ豊富ほうふであったため、ティミムスもサンタナラプトルの分類ぶんるい影響えいきょうされてティラノサウルスうえ分類ぶんるいされる可能かのうせいたかまっている。なおこうしたティラノサウルスうえ恐竜きょうりゅうはヨーロッパからきたアメリカ大陸あめりかたいりく経由けいゆしてみなみアメリカ大陸あめりかたいりくやオーストラリア大陸たいりく分布ぶんぷひろげたとかんがえられているが、当時とうじ南半球みなみはんきゅう頂点ちょうてん捕食ほしょくしゃにはカルカロドントサウルススピノサウルスやそのアベリサウルスがいたため、アジアや北米ほくべいのようにティラノサウルスうえ大型おおがたすることはなかった[8]

生物せいぶつがく[編集へんしゅう]

ティミムスの生息せいそくはく亜紀あき前期ぜんきには南極なんきょくちかいためごくいき森林しんりんであり、なつおだやかであるがふゆくら寒冷かんれいであった。1996ねんほね化石かせき微細びさい構造こうぞう専門せんもん Anusuya Chinsamy-Turan がティミムスとラエリナサウラほね要素ようそ検査けんさし、両者りょうしゃほね組織そしきことなることを発見はっけんした。とりばんるい一定いっていほね沈着ちんちゃくりつしめ一方いっぽうでコエルロサウルスるいほね形成けいせい周期しゅうきてきパターンをゆうし、ティミムスは冬眠とうみんをしてふゆえていたことが示唆しさされた[9]。オーストラリアのヴィクトリアしゅう Inverloch にちかい Strzelecki そうぐんからティミムスあるいはきんえんしゅ可能かのうせいがある化石かせき産出さんしゅつしており、あしそこ表面ひょうめん構造こうぞうくぼんだだい3ゆびだい1趾骨である。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ "By themselves, the names of dinosaurs are like telephone numbers - they are labels that go with specimens and the ideas that flow from the analysis of the material. Confusing labels, like an inaccurate telephone book, lead to an unworkable system, so one must be careful in putting names or labels on things. But the act of doing so is not creating those specimens or the ideas associated with them; it is merely creating a convenient "handle" for purposes of communication".

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b Benson, R. B. J.; Rich, T. H.; Vickers-Rich, P.; Hall, M. (2012). Farke, Andrew A. ed. “Theropod Fauna from Southern Australia Indicates High Polar Diversity and Climate-Driven Dinosaur Provinciality”. PLoS ONE 7 (5): e37122. doi:10.1371/journal.pone.0037122. PMC 3353904. PMID 22615916. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3353904/. 
  2. ^ a b T.H. Rich and P. Vickers-Rich, 1994, "Neoceratopsians and ornithomimosaurs: dinosaurs of Gondwana origin?", National Geographic Research and Exploration 10(1): 129-131
  3. ^ Rich T.H. (1994). “Naming a new Genus & Species of Dinosaur on the basis of a Single Bone.”. Dinosaur Report: 10–11. 
  4. ^ a b Long, J.A. (1998). Dinosaurs of Australia and New Zealand and Other Animals of the Mesozoic Era, Harvard University Press, p. 108
  5. ^ Holtz, T. R., Jr. 1994. "The phylogenetic position of the Tyrannosauridae: Implications for theropod systematics". Journal of Paleontology 68: 1100-1117
  6. ^ S.A. Hocknull, M.A. White, T.R. Tischler, A.G. Cook, N.D. Calleja, T. Sloan, and D.A. Elliot. 2009. "New mid-Cretaceous (latest Albian) dinosaurs from Winton, Queensland, Australia". PLoS ONE 4(7):e6190: 1-51
  7. ^ Rafael Delcourt; Orlando Nelson Grillo (2018). "Tyrannosauroids from the Southern Hemisphere: Implications for biogeography, evolution, and taxonomy". Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology. in press. doi:10.1016/j.palaeo.2018.09.003.
  8. ^ 小林こばやしかいつぎ (2021ねん2がつ11にち). “南半球みなみはんきゅうからも発見はっけん! みずからのあし世界中せかいじゅうひろがったティラノ軍団ぐんだん”. 講談社こうだんしゃ. 2021ねん2がつ26にち閲覧えつらん
  9. ^ Chinsamy, A., Rich, T., and Rich-Vickers, P. (1996). "Bone histology of dinosaurs from Dinosaur Cove, Australia", Journal of Vertebrate Paleontology 16(Supplement to No.3), 28A

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]