巡業じゅんぎょう

巡業じゅんぎょう（じゅんぎょう）とは、各地かくちを興行こうぎょうしてまわること^[1]。巡めぐった先々さきざきの土地とちで興行こうぎょうすること^[2]。芸能げいのうの世界せかいでは「営業えいぎょう」^[3]、「どさ回まわり」^[4]といった表現ひょうげんも用もちいられる。

大相撲おおずもうにおける巡業じゅんぎょう[ソースを編集へんしゅう]

大相撲おおずもうにおいて巡業じゅんぎょうとは、本場所ほんばしょのない時期じきに力士りきし一いち行ぎょうが本場所ほんばしょが行おこなわれていない地方ちほうへ出向でむき、1日にち限かぎりの相撲すもう披露ひろうを行おこなうことをいう。日本にっぽん相撲すもう協会きょうかいは、定款ていかん第だい4条じょうにおいて巡業じゅんぎょうを本場所ほんばしょと並ならぶ筆頭ひっとう事業じぎょうとして位置付いちづけている。協会きょうかい内ないには「巡業じゅんぎょう部ぶ」が設もうけられ、巡業じゅんぎょう部長ぶちょうは協会きょうかい理事りじをもって充あてる^[5]。巡業じゅんぎょう部ぶ所属しょぞくの年寄としよりは勧進元かんじんもととの折衝せっしょうや会場かいじょう・宿舎しゅくしゃ・交通こうつう手段しゅだんの手配てはい、現地げんちに先乗さきのりしての準備じゅんび等とう様々さまざまな職務しょくむをこなす。幕内まくうち力士りきしは特段とくだんの事情じじょうがない限かぎり参加さんかが義務ぎむとなっている。怪我けがなどでの休場きゅうじょうにより幕内まくうちの参加さんか者しゃに欠員けついんができた場合ばあいは十じゅう両りょうから補充ほじゅうする^[6]。幕下まくした以下いかの力士りきしについては一部いちぶの力士りきししか参加さんかせず、具体ぐたい的てきには、関取せきとりの付つけ人びとを務つとめる力士りきし、ご当所とうしょ力士りきし、初切しょっきりや相撲すもう甚句じんくなどの芸げいができる力士りきしなどは参加さんかするが、これらに該当がいとうしない力士りきしや、未成年みせいねんの幕下まくした以下いかの力士りきしは参加さんかしない。

現行げんこう制度せいど下かでは年とし4回かい、春はる（3月がつ場所ばしょ後ご。主おもに中部ちゅうぶ~近畿きんき地方ちほう）、夏なつ（7月がつ場所ばしょ後ご。主おもに北海道ほっかいどう～東北とうほく地方ちほう）、秋あき（9月がつ場所ばしょ後ご。主おもに関東かんとう~中部ちゅうぶ地方ちほう）、冬ふゆ（11月場所ばしょ後ご。主おもに九州きゅうしゅう・沖縄おきなわ地方ちほう）に行おこなわれている。

巡業じゅんぎょうの最大さいだいの目的もくてきは、相撲すもうの普及ふきゅうに尽つきる^[7]。全国ぜんこくを回まわり、本場所ほんばしょを観戦かんせんできない地方ちほうのファンに大相撲おおずもうの魅力みりょくを伝つたえることは、公益こうえき法人ほうじんとして協会きょうかいの重要じゅうような責務せきむである。

一いち日にちの流ながれ[ソースを編集へんしゅう]

開催かいさい地ちによって異ことなるが、一いち行ぎょうは前日ぜんじつ夜よるに開催かいさい地ちに乗のり込こむ。呼出よびだしなど一部いちぶのメンバーは前日ぜんじつの朝あさから会場かいじょうに先乗さきのりして土俵どひょう作つくりを行おこない、夕方ゆうがたには土俵どひょうが完成かんせいして土俵どひょう祭さいを行おこなうのが通例つうれい。当日とうじつは午前ごぜんが稽古けいこ、午後ごごが取組とりくみを行おこない、その合間あいまに様々さまざまな出だし物もの（髪結かみゆい実演じつえん、初しょっ切きり、太鼓たいこ打うち分わけ、相撲すもう甚句じんく等ひとし）を行おこなう。

稽古けいこの充実じゅうじつは巡業じゅんぎょうの大おおきな狙ねらいであり、午前ごぜん中ちゅうの大半たいはんの時間じかんが充あてられる^[7]。巡業じゅんぎょうの稽古けいこでは所属しょぞく部屋へやでは経験けいけんできない様々さまざまなタイプの力士りきしと手合てあわせできる。特とくに若手わかて力士りきしにとっては、上位じょうい力士りきしに対たいしてどこまで己おのれの力ちからが通用つうようするのかアピールできる重要じゅうような場ばである。また横綱よこづななど上位じょうい力士りきしが有望ゆうぼう力士りきしを稽古けいこ相手あいてに指名しめいし、かわいがる場ばでもある。多おおくの力士りきしが一堂いちどうに会かいするため、稽古けいこ方式ほうしきは申さるし合あいが主流しゅりゅうである。やる気きがあれば何なん番ばんでも土俵どひょうを独占どくせんできる一方いっぽう、顔かお見みせに徹てっし一いち度ども相撲すもうを取とらずに終おえることも可能かのうであり、稽古けいこの質しつ・量りょうは各かく力士りきしの判断はんだんに委ゆだねられる。過去かこには稽古けいこ熱心ねっしんな力士りきしに親方おやかたが報奨ほうしょう金きんを出だす制度せいどがあった^[7]。

会場かいじょう内ないでは稽古けいこ時間じかんが限かぎられるため、会場かいじょう外がいで即席そくせきの土俵どひょうを作つくって稽古けいこする「山やま稽古けいこ」もかつては多おおくみられた。1995年ねんの巡業じゅんぎょう改革かいかくに伴ともない大だい規模きぼな体育館たいいくかんを会場かいじょうとして使用しようすることが定着ていちゃくすると、会場かいじょう使用しようの制約せいやく等とうから山やま稽古けいこは少すくなくなったが、地方ちほうの会場かいじょうで条件じょうけんさえ揃そろえば近年きんねんでも行おこなわれている^[8]^[9]^[10]^[11]。

取組とりくみは、本場所ほんばしょとは異ことなり、結果けっかが番付ばんづけの昇降しょうこうに関与かんよしないため、取組とりくみ編成へんせいは柔軟じゅうなんに行おこなわれる。同どう部屋へや同士どうしの対戦たいせんや、人気にんき力士りきし・ご当所とうしょ力士りきしが横綱よこづな・大関おおぜきと対戦たいせんする等ひとし、勧進元かんじんもとやファンの要望ようぼう等とうに応こたえることもある。取組とりくみの前まえには、本場所ほんばしょと同様どうよう、土俵入どひょういり、横綱よこづな土俵入どひょういりが行おこなわれる。会場かいじょうによっては「優勝ゆうしょう者しゃ」を決定けっていして表彰ひょうしょうすることもある。

巡業じゅんぎょうの歴史れきし[ソースを編集へんしゅう]

地方ちほう巡業じゅんぎょうの歴史れきしは古ふるく、文ぶん禄ろく5年ねん（1596年ねん）発行はっこうの「義ぎ残ざん後ご覚さとし」には、同年どうねんに関西かんさいの職業しょくぎょう相撲すもうの団体だんたい約やく10名めいが九州きゅうしゅう・筑後ちくご国こくへ巡業じゅんぎょうに出でかけたと記録きろくしている。

江戸えど時代じだい中期ちゅうきに入はいると、現在げんざいの大相撲おおずもうの源流げんりゅうとされる勧進かんじん相撲すもうの団体だんたいが本場所ほんばしょとは別べつに興行こうぎょうとしての相撲すもうを行おこなうようになり、現在げんざいの巡業じゅんぎょうのような形かたちで各地かくちに出でかけて行いって興行こうぎょうを打うち、生活せいかつの糧かてとしていた^[7]。現在げんざいでも巡業じゅんぎょうの主催しゅさい者しゃを勧進元かんじんもとというのは、これに由来ゆらいしている。

年間ねんかんの場所ばしょ数すうが少すくなかった時代じだいは、長期ちょうきの巡業じゅんぎょうを行おこなうこともあり、この巡業じゅんぎょうでの収入しゅうにゅうが、協会きょうかいや各かく部屋へやにとっても大おおきな位置いちを占しめていたので、明治めいじから大正たいしょう・昭和しょうわ初期しょきにかけての力士りきしの待遇たいぐう改善かいぜんの要求ようきゅうには、巡業じゅんぎょう収入しゅうにゅうの配分はいぶんの明朗めいろう化かがスローガンとして掲かかげられることが多おおかった。終戦しゅうせん直後ちょくごには食料しょくりょうを求もとめて全国ぜんこくを渡わたり歩あるいたとされる^[7]。

江戸えど時代じだいから1957年ねん（昭和しょうわ32年ねん）までは、各かく部屋へやや一門いちもん別べつに巡業じゅんぎょうを行おこない、巡業じゅんぎょう用ようの一門いちもん別べつ巡業じゅんぎょう番付ばんづけが作成さくせいされることも多おおかった。その後ご、協会きょうかいが巡業じゅんぎょうを一括いっかつ管理かんりして行おこなうようになり、一門いちもんの別べつを超こえて合同ごうどうで巡業じゅんぎょうを行おこなうようになった。開催かいさい数すうの多おおい時代じだいには、力士りきしを2班はんに分わけて同日どうじつに別々べつべつの場所ばしょで巡業じゅんぎょうを行おこなうこともあった。

地方ちほう巡業じゅんぎょうは、各地かくちの興行こうぎょうの希望きぼう者しゃ（「勧進元かんじんもと」）が協会きょうかいに巡業じゅんぎょう開催かいさいの契約けいやく金きんを支払しはらい、興行こうぎょう権けんを譲ゆずり受うける形かたちで長年ながねん行おこなわれてきた（売うり興行こうぎょう）。1995年ねん（平成へいせい7年ねん）、当時とうじの境川さかいがわ理事りじ長ちょうの下したで「巡業じゅんぎょう改革かいかく」が行おこなわれ、勧進元かんじんもと主催しゅさいから協会きょうかいの自主じしゅ興行こうぎょう（買かい興行こうぎょう）に変更へんこうされた。ところが地方ちほう巡業じゅんぎょうは改革かいかく前まえの1992年ねん（平成へいせい4年ねん）の年間ねんかん94日間にちかんをピークに減少げんしょうを続つづけ、ついに2005年ねん（平成へいせい17年ねん）には1958年ねん以降いこう最少さいしょうの15日間にちかんまでに落おち込こんだ。そのため、北きたの湖うみ理事りじ長ちょうの下したで再ふたたび勧進元かんじんもと形態けいたいに戻もどすことになった。2006年ねん（平成へいせい18年ねん）に再開さいかいされた海外かいがい巡業じゅんぎょうについても、地方ちほう巡業じゅんぎょうの増加ぞうか対策たいさくと並ならぶ巡業じゅんぎょう改革かいかくの一環いっかんとなっている。

地方ちほう巡業じゅんぎょうにおける各地かくちの相撲すもうファンとの接触せっしょくは、相撲すもうの全国ぜんこくの普及ふきゅうに力ちからを発揮はっきしている。かつては横綱よこづな大鵬たいほうのように巡業じゅんぎょうで現地げんちの有望ゆうぼうな青年せいねんを入門にゅうもんさせ、そのまま巡業じゅんぎょうに帯同たいどうさせて、帰京ききょうして初はつ土俵どひょうを踏ふませたケースも多おおくあり、夏休なつやすみ終了しゅうりょう後ごの9月がつ場所ばしょの初はつ土俵どひょう力士りきしにはそういうケースが目立めだっていた。

2011年ねん（平成へいせい23年ねん）の巡業じゅんぎょうは、大相撲おおずもう八百長やおちょう問題もんだいを受うけてすべて中止ちゅうしされた^[12]^[13]。新型しんがたコロナウイルスの感染かんせん拡大かくだいによって、2020年ねん（令れい和わ2年ねん）、2021年ねん（令れい和わ3年ねん）は巡業じゅんぎょうがすべて中止ちゅうしとなり、2022年ねん（令れい和わ4年ねん）の夏なつ巡業じゅんぎょうで3年ねんぶりに復活ふっかつした^[14]。

その他たの巡業じゅんぎょう[ソースを編集へんしゅう]

プロレスでは、日本にっぽんのプロレス興行こうぎょうを事実じじつ上じょう創設そうせつした力道山りきどうざんが大相撲おおずもう出身しゅっしんだったこともあり、力道山りきどうざんをトップに据すえた日本にっぽんプロレスでは地方ちほうを周まわり興行こうぎょうを行おこなう巡業じゅんぎょうスタイルが踏襲とうしゅうされ、以後いご多おおくの団体だんたいがそれを真似まねている（プロレス#巡業じゅんぎょうも参照さんしょう）。